説明

高電圧分離機能を有する変圧器

【課題】 第一回路と出力回路との間の高レベルな電圧分離を実現しつつ、交流電流信号に直流電流バイアスを供給する。
【解決手段】 高電圧分離変圧器100は、第一回路109から出力回路114に交流電流信号を転送するための複数のバランコア107及び108と、第一回路109と出力回路114との間の高レベルな電圧分離を実現しつつ、交流電流信号に直流電流バイアスを供給する、コッククロフト−ワルトン乗算回路のような高電圧生成器101とを利用する。多重バランコア変圧器が、各個々の変圧器間の電圧上昇を軽減するために使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧分離機能を有する変圧器に関する。
【背景技術】
【0002】
電気的変圧器において、非常に低い電圧の一次側回路を非常に高い電圧の二次側回路から絶縁することは、その2つの回路間の電圧差により、困難なことである。いくつかの高電圧分離変圧器についての他の問題としては、繊細な電気的構成物に障害を起こしかねない、ある振幅及び周波数を有する重大な電磁波の生成にある。例えば、いくつかの携帯型の蛍光X線(XRF)分光計は、高電圧分離変圧器を必要としており、それによりX線管の熱陰極のための大きな負のDC電圧のところに小さなAC信号を供給している。これらの変圧器からの電磁波は、XRF分光計のX線検出器により受信されたX線信号に対して障害を起こし得る。
【0003】
変圧器の最適な動作は、とりわけ変圧器の共振周波数において行われる。トロイダル型のコアを有する変圧器を使用したXRF分析装置においては、コアの共振周波数において発せられた電磁波は、X線検出器の動作に重大な障害を起こすかもしれない。加えて、トロイダル変圧器の形状により、高レベルで電磁波障害(EMI)が生じる可能性がある。検出器の電磁波障害を緩和するために、シールドと回路設計による方法がしばしば採用されるが、特に比較的小さな携帯型XRF分光計に利用できる狭い空間におけて、回路設計とシールドによりその障害を排除することは困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
強磁性材料でできたトロイダル型のコアは、高電圧分離変圧器に使用され得る。例えば、携帯型XRF分光計においては、変圧器の一次側巻線は、比較的低い電圧、典型的には約10ボルトrmsAC、を有している。二次側巻線も、一次側巻線と比較して、約50,000の非常に大きな負のバイアス電圧を有している。このバイアス電圧は、二次側巻線にバイアス電圧を印加するために使用される高電圧電源により主に生成される。そのような大きな電圧差を有した回路を効果的に絶縁することは大変困難である。
【0005】
トロイダル型のコアを有した高電圧分離変圧器には、厳格な設計及び製造要求がある。一次側及び二次側巻線の2つの大きく異なる電圧を分離するために、変圧器コア、配線、又は配線とコアの双方に典型的には熱い絶縁部材が宛がわれる。一次側及び二次側巻線の間の電流漏れを避けるために、保全性を維持し、亀裂が発生しないような絶縁が施される。絶縁部材の大部分が、コア上にある場合には、コアの加熱及び冷却により生じた熱膨張により、絶縁部材に亀裂が生じる可能性がある。これらの温度の変動の間の絶縁部材の亀裂の原因の一つとしては、絶縁部材の熱膨張係数(CTE)に対するコアのCTEの不整合ということがある。これを整合させることは、困難な設計上の挑戦である。亀裂が生じない絶縁部材を採用することは、困難な製造上の挑戦である。絶縁不良のない、より厚い絶縁部材を製造することは、より薄い絶縁部材の製造よりもより困難である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
高電圧分離機能を有する変圧器回路が開示される。その変圧器回路は、低電圧レベルの交流電流信号を搬送するように構成された第一回路を備えている。第一回路は、バランコアの少なくとも2つの孔を通して輪に形成され、変圧器回路の一次側巻線として動作する。出力回路は、バランコアの少なくとも2つの孔を通して輪に形成され、変圧器回路の二次側巻線として動作する。出力回路は、高電圧直流電流信号源に電気的に接続され、第一回路及び出力回路の間を高レベルで電圧分離しつつ、直流電流バイアスを交流電流信号に与えている。電圧がより緩やかに増加するようにするため、1つ以上のバランコアが直列で使用できる。
【0007】
本発明の特徴がこのようにむしろ広く概説されたが、以下の詳細な説明により、より良く理解され、当該技術分野に対する貢献もより良く認識できるであろう。本発明の他の特徴は、添付の請求の範囲と共に、以下の発明の詳細な説明により、より明確になるであろうし、発明の実施化により把握できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、コアが2つの分割された高電圧分離変圧器を示す図である。
【図2】図2は、変圧器に使用されるバランコアを示す図である。
【図3】図3は、コアを少なくとも3つに分割された高電圧分離変圧器を示す図である。
【図4】図4は、単一のバランコアを有する高電圧分離変圧器を示す図である。
【図5】図5は、高電圧分離変圧器の中間回路上の高電圧接続点を示す図である。
【図6】図6は、コアが2つに分割された高電圧分離変圧器に接続されるコッククロフト−ワルトン乗算回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
定義:
この出願で定義されているようなバラン変圧器コア、バランコア、又はバランは、図2に描かれている一実施形態に、一般的に200で示されるような、少なくとも2つの孔を有する変圧器コアである。バランは、上面202、底面204及び側面203を有している。通常、上底面の形状は、円又は楕円であるが、四角、三角、又は他の形状でもよい。図2に示されたようなこれらの面の円又は楕円の形状の利点は、滑らかな側面203となることと、他の構成物や絶縁部材が傷ついてしまったり、コロナ応力が生じてしまうような角の少なさである。図2に描かれたバランは、上面202からそのバランを通して底面204に延びる2つの孔201を備えている。バランは、2つ以上の孔を有していてもよい。バランの長さLは、通常、孔の直径Dよりも長く、それにより孔を通過する配線を電気的にコアに接続するためのより長い距離を得ている。通常、長さLは、孔の直径の少なくとも2倍である。バランコアは、“ワイドバンドマルチ開口バランコア(Wideband Multi-Aperture Balun Cores)”という名称で、見つけることができ購入できる。
【0010】
この出願で使用されているAC及びDCは、通常の交流電流及び直流電流の意味である。EMIは、電磁障害の頭文字であり、電子回路の適正な動作に対する電磁障害という通常の定義である。
【0011】
XRFは、蛍光X線の頭文字であり、X線又はガンマ線を浴びせることにより励起された材料からのX線の発射又は蛍光発光である。XRF分光計は、サンプルにX線を浴びせるためのX線源を備えており、また、そのサンプルから発光されたX線の量及びエネルギーを定量化するために検出器を有している。XRF分光計は、材料がどのような要素により成り立っているかを分析するために使用できる。
【0012】
FEPは、フッ素化エチレンプロピレンの頭文字である。FEPは、高い絶縁耐力を有する絶縁材料の1つである。
【0013】
説明
ここでは、図面に描かれた実施形態を参照するが、その実施形態を説明するために特定の言語が使用される。しかしながら、それにより発明の範囲を限定するという意図ではない、ということが理解できるであろう。ここで描かれた発明的特徴の変更や更に変形、ここで描かれた発明の原理の追加的応用は、この開示を会得した当該技術分野の当業者が思いつくものであり、発明の範囲内にあるものと考えられるべきものである。
【0014】
繊細な電磁的構成物に障害を比較的与えない高電圧分離変圧器は、比較的容易に製造でき、信頼できるものである。かかる変圧器は、高電圧分離問題を軽減するような、多重変圧器コアに分割された変圧器を使用することにより実現できる。多重コアを使用すると、また、各コアの両端にかかる応力的DCを軽減でき、各コアで必要とされる絶縁部材の量を軽減することができる。薄い絶縁部材を伴った変圧器コアは、製造することが容易である。変圧器コアとしてバランコア又は多重バランコアを使用すると、更なる改良が実現できる。バランコアは、トロイダルコアよりもかなり広い帯域幅を有しており、それでX線検出器電子素子の感度範囲の外にまで及ぶ十分高い周波数で駆動できる。トロイダル型や多くの他の型のコアの代わりにバランコアを使用することにより、信頼できるものとなり、製造設計が容易であり、EMIもより減らすことができる。バランコアから放たれたEMIというのは、トロイダルコアから放たれたEMIよりもより指向性を有しているのであるから、シールドも容易である。
【0015】
多重変圧器設計における変圧器の一目的というのは、ある回路から他の回路にAC信号を伝達するということである。それらの回路間の大きなバイアス電圧を生成するために、高電圧生成器が使用可能である。コッククロフト−ワルトン乗算回路のようないくつかの高電圧生成器が、階段状に増加する電圧を生成できる。そのような高電圧生成器の外部の回路は、これらの電圧段差の各々に接続でき、増加する電圧についての一連の高電圧アクセスポイントを提供できる。コッククロフト−ワルトン乗算回路は、携帯型バッテリ駆動XRF分光計において、その制限された空間と制限された利用可能電力という観点から、特に価値がある。
【0016】
例えば、2つの変圧器に渡ってバイアス電圧の上昇が生じた場合、全電圧上昇の半分のみが各変圧器にかかることになり、それにより各変圧器に必要な絶縁部材の厚さは、単一の変圧器の場合に必要なものよりも大幅に薄くなる。各変圧器にかかる電圧上昇は、コッククロフト−ワルトン乗算回路を使用することにより生成できる。第一変圧器の一次側巻線、すなわち第一回路は、低電圧AC信号を搬送する。第一変圧器の二次側巻線、すなわち中間回路は、一方で、第二変圧器の一次側巻線でもある。この中間回路は、高電圧生成器上の中レベル電圧点に取り付けられている。第二変圧器の二次側巻線、すなわち出力回路は、高電圧生成器上の最高電圧点に接続されている。出力回路は、高バイアス電圧のAC信号を負荷に提供する。高DCバイアスは、大きな負のバイアスでもよいし、大きな正のバイアスでもよい。一般的に、各変圧器の各中間巻線は、一巻きに制限され、HV絶縁部材の大半が、これらの巻線上に配設されている。例えば、中間巻線は、30kVを超えて絶縁でき、直径約0.1インチの厚いFEP絶縁部材を伴った配線で形成されている。
【0017】
例えば、携帯型XRF分光計において、第一回路は、約10ボルトrmsのAC信号を搬送する。そのAC信号は、中間回路に誘導され、高電圧生成器へのその接続により、第一回路と中間回路との間で、マイナス約25,000ボルトDCのDCバイアスが維持できるようになる。そしてそのAC信号は、出力回路に誘導される。高電圧生成器への分離接続により、中間回路と出力回路との間のバイアスは、約マイナス25,000ボルトで維持でき、第一回路と出力回路との間の全バイアスは、約マイナス50,000ボルトDCとなる。
【0018】
2つの変圧器コアを備えることにより、各変圧器での電圧上昇は、25,000ボルトのみとなり、それにより30,000ボルト定格の絶縁部材が使用できることとなる。2つのコアを有することにより、30,000ボルトの絶縁定格を有する配線が使用できる一方で、第一回路と出力回路との間の50,000ボルトの分離が実現でいると共に、上記例で使用される10ボルトrms信号のような小さなAC信号を、高くバイアスされた信号に印加できることとなる。より低い又はより高いAC信号が望まれるのであれば、一次側、二次側、中間、又は出力の各巻線の巻数は、変更できる。
【0019】
XRF分光計においては、熱陰極は、通常、陽極と比較して非常に大きな負のDC電位で動作する。例えば、陽極は概ね接地レベルの電圧であるのに対し、陰極は、約マイナス50,000ボルトとすることができる。この大きな負の電位により、陰極から陽極へ電子が加速される結果となる。小さなAC信号、典型的には10ボルトACrmsに満たないAC信号も、陰極に印加できる。AC信号は、陰極を加熱して電子の放射を改善するために使用される。
【0020】
より多くの変圧器を直列に連ねて使用でき、それにより元のAC信号を維持しつつ、各段の電圧の増加をよる緩やかにできるし、又は各段の電圧の増加を同じにしてより電圧増加の全体をより高くすることができる。各連続アクセスポイントの電圧が前段よりも高いような異なる高電圧生成器アクセスポイントが使用され、中間回路の各々と出力回路に接続される。各中間回路は、前段の変圧器の二次側巻線であり、また次段の変圧器の一次側巻線でもある。第一中間回路は、最も低い高電圧生成器アクセスポイントに接続される。次の中間回路は、より高い高電圧生成器アクセスポイントに接続される。各連続中間回路は、前段の中間回路よりは高い電圧を有する高電圧生成器アクセスポイントに接続され、そのようにして最終的には、出力回路が、最も高い高電圧生成器アクセスポイントに接続される。高電圧分離応用装置における一連の変圧器によれば、有益な省スペース化が図れる。高電圧生成器は、典型的にはかなり長いものである。変圧器の連なりも大抵はかなり長いものであるが、その高電圧生成器に隣接した機器内の空間に渡って便宜上延設することが可能である。
【0021】
変圧器コアは、変圧器の二次側巻線に交流電流を誘導するための手段である。コアは、変圧器内の一次側巻線から二次側巻線への電気信号の効率的転送を支援する。多くの型のコアが利用でき、例えばポット型、平面型、経済的平面設計(EFD)、ER、EP、トロイダル、角板、ロッド、C、U、E、及びFの各型のようなものが当該技術分野ではよく知られている。本発明の一実施形態においては、トロイダル又は他の型のコアの代わりに2つのバランコアが、変圧器コアとして知られている。バランコアは、例えば特許文献1(米国特許第7,319,435号)に記述されており、その文献をここで援用しておく。バランコアは、トロイダル型のコアよりも高い共振周波数を有するので、駆動周波数がより高くなり、従ってより小さなバランコアが使用できることとなる。いくつかのXRF分析装置においては、トロイダル変圧器は、典型的には、それらの共振周波数である約100kHzにおいて動作する。いくつかの実験的XRF分析装置においては、バランコア変圧器は、それらの共振周波数である約100MHzもしくはそれ以上において動作する。現状では、バランコアを備えた実験的XRF分析装置は、2.5MHzで動作する。バランコアの共振周波数がより高くなれば、XRF検出器障害が大幅に少なくなる。
【0022】
バランコアを有する変圧器は、他のタイプのコアと比較して、漏れインダクタンスが小さく、結合性は良好である。例えば、トロイダル型のコアは、その共振周波数がより低いので、生成される周波数EMIはより少なくなる。この少ない周波数EMIは、バランコアのより高い共振周波数において発生する多い周波数EMIよりも、XRF検出装置に対して、より大きな逆効果を及ぼす。バランコアは、最大の帯域幅を有し、高い周波数において電力損失が低いので、バランコア変圧器は、XRF検出装置に対して有害性の少ない一周波数のEMIを発生させる範囲で動作できる。バランは、動作周波数に依存して、粉末の鉄、鋼、又はフェライトのような如何なる標準変圧器コア材料で構成することが可能である。他の材料も使用できる。コア材料は、性能に影響を与え、設計においては、熟慮すべきである。現状では、フェライトが好適なコア材料である。実際の材料は、具体的な応用形態に合うように選択されるべきであるが、本発明としては重要な問題ではない。
【0023】
図4は、一般符号400で示された高電圧分離変圧器の一実施形態を示す図である。電気回路109は、第一回路と称されるが、低い電圧の交流電流を搬送する。第一回路は、バランコア404の一方の孔に入って貫通し、他方の孔から貫通して出てくるように輪を形成しており、一次側巻線となっている。第一回路は、一回巻きとすることもできるし、多数回巻きとすることもできる。AC信号は、二次側巻線112に誘導される。二次側巻線、あるいは出力回路は、比較的高いDCバイアス電圧のAC信号を負荷114に搬送する。高電圧分離は、段ごとの設計電圧負荷に耐えるに十分な高電圧絶縁部材を備えた一回巻き二次側を使用することにより、一般的には達成できる。高電圧生成器401は、アクセスポイント402において、非常に高い電圧バイアスを提供し、接続手段403を介して出力回路112に接続可能である。この実施形態又は他の実施形態において、コネクターは、適式な絶縁定格を有する如何なる標準電気的配線でもよい。配線間又は回路間の接続には、如何なる標準的な高電圧電気的接続も利用できる。はんだ付けが好ましい。この実施形態又は他の実施形態において、出力回路は、X線管の陰極であり、又は高いDCバイアス電圧の交流電流を使用する他の回路である。
【0024】
上記実施形態、及び後に記述する実施形態における高電圧生成器は、コッククロフト−ワルトン(CW)乗算回路とすることができる。これは、交流電流又はパルス化DC電力を低電圧レベルからより高いDC電圧レベルに変換するために使用される乗算回路の1つである。それは、容量及びダイオードで構成された電圧乗算化ラダーネットワークで構成されており、高電圧を生成する。CW乗算回路は、当該技術分野ではよく知られている。図6を参照して、より詳細な記述が以下に提供される。
【0025】
図1は、高電圧分離変圧器の一実施形態を示す図であり、変圧器コアが2つに分割されており、一般符号100で示されている。電気回路109は、第一回路であるが、例えば約10ボルトの比較的低い電圧の交流電流を搬送する。この第一回路は、第一バランコア107の一方の孔に入って貫通し、他方の孔から貫通して出てくるように輪を形成しており、第一バランコア107の一次側巻線として動作する。第一回路は、一回巻きとすることもできるし、多数回巻きとすることもできる。AC信号は、第一バランコア107の二次側巻線110に誘導される。この第一バランコアの二次側巻線110は、中間回路として動作し、また第二バランコア108についての一次側巻線となる。中間回路110は、第二バランコア108の二次側巻線又は出力回路として動作する出力回路112にAC信号を誘導する。中間回路110は、第一バランコア107に一回又は複数回通して輪を形成できるが、通常は、一巻きの高電圧絶縁された配線からなる。中間回路110は、また、第二バランコア108に一回又は複数回通して輪を形成している。出力回路112は、負荷114に接続され得る。この負荷は、X線管における熱陰極とすることができる。X線管は、XRF分光計に使用できる。出力電圧に対する入力の比は、最後の二次側の巻線数に対する最初の一次側の巻線数の比を調整することにより、変更できる。これは、例えば、駆動電子系rms電圧をX線管のフィラメントが必要とする電圧に合わせようとする上で有用である。
【0026】
中間レベル電圧アクセスポイント105及び高レベル電圧アクセスポイント106を有した高電圧生成器101が、高いDC電圧バイアスを提供している。中間レベル電圧アクセスポイント105は、配線103を介して、任意の回路分離手段102に接続可能である。
【0027】
回路分離手段102は、高電圧生成器の高電圧アクセスポイント106と、中間回路110との間の回路に使用される。回路分離手段は、抵抗、金属酸化物バリスター、又はスパークギャップもしくは他の同様の素子である。回路分離手段は、変圧器ネットワーク内の無線周波数信号を、高電圧生成器から分離する。回路分離手段は、また、高電圧生成器と中間回路の間の電流経路を形成することなく、中間回路のためのバイアス電圧参照信号を生成する。
【0028】
回路分離手段102は、配線104を介して、中間回路110に接続できる。しかしながら、高電圧分離変圧器は、回路分離手段102なしでも機能する。回路分離手段102は、この実施形態及び後述の他の実施形態においては、任意である。回路分離手段102が使用されないときは、配線103は、配線104に接続される。つまり、配線103及び104は1本の連続配線となる。回路分離手段102があってもなくても、中間レベルアクセスポイント105は、アクセスポイント106の電圧の概ね半分の電圧を、中間回路110に供給する。高レベル電圧アクセスポイント106は、配線111、抵抗R及び配線113を介して、出力回路に接続される。抵抗Rは通常使用されるが、この抵抗がなくても回路は機能できる。アクセスポイント106は、出力回路112に対して非常に高い電圧バイアスを供給する。
【0029】
図3は、高電圧分離変圧器を示す図であり、変圧器コアが少なくとも3つに分割されており、一般符号300で示されている。電気回路109は、第一回路であるが、比較的低い電圧の交流電流を搬送する。この第一回路は、第一バランコア107の一方の孔に入って貫通し、他方の孔から貫通して出てくるように輪を形成しており、第一バランコア107の一次側巻線である。第一回路は、一回巻きとすることもできるし、多数回巻きとすることもできる。AC信号は、第一バランコア107の二次側巻線110に誘導される。この第一バランコアの二次側巻線110は、中間回路であり、また第二バランコア209についての一次側巻線でもある。中間回路110は、第二バランコア309についての二次側巻線である第二中間回路302にAC信号を誘導する。第二中間回路302は、第三バランコア310の一次側巻線であり、回路303にAC信号を誘導する。回路303は、出力回路又は他の中間回路である。更なるバランコアと、連続したバランコアの各対の間で輪を形成する中間回路とをもって、これと同様の構成が連続することが可能である。最後のバランコアを励起する回路が、出力回路である。
【0030】
いくつのバランコアが使用されるべきかの決定においては、隣接回路間のより小さな電圧差という得られる利益と、より長い変圧器及び全体の電力損失への可能性のある挑戦との間のバランスと考えることができる。より多くのバランコアを使用して、隣接回路間の電圧差をより小さくすると、配線上に使用されるべき絶縁部材を減らすことができる。しかしながら、より多くのバランコアの連なりは、より多くの空間を必要とする。また、各連続バランコアについて、第一及び第二巻線の間に電力損失が生じる。少ない絶縁部材という得られる利益を、バランコアの連なりがより長くなり、各バランコアに電力損失が生じるという欠点に対して重要視できる。
【0031】
通常は1つだけの中間回路を2つのバランコアに接続するが、それ以上でもよい。各回路はいずれも、第一回路109に対する出力回路でのAC信号の所望の振幅に応じて、バランコアに一回巻きとすることもできるし、多数回巻きとすることもできる。
【0032】
高電圧生成器308は、その多重電圧アクセスポイントにより、AC信号に対して高いDC電圧バイアスを提供する。連なりにおける連続する各高電圧アクセスポイントは、図3で左から右にいくにつれて、前段のアクセスポイントよりも高い電圧となる。とりわけ、どのアクセスポイントも、前段又は次段のアクセスポイントとの電圧の差異は概ね等しくなっている。この実施形態においては、アクセスポイント304が最も低い電圧であり、305が次の最も高い電圧であり、306が次の最も高い電圧である。この実施形態に示された通り、306が最後のアクセスポイントの場合、それが最も高い電圧のアクセスポイントであろう。306が最後のアクセスポイントでない場合、次段がより高い電圧のアクセスポイントとなる。最終アクセスポイントが、典型的には、最も高い所望の電圧となる。各バランコアにおける電圧の変化が実質的に等しければ、どこの2つのアクセスポイント間の電圧の大体の差異も、最高電圧アクセスポイントの電圧を全アクセスポイントの数で割った値に等しい。あるいは、コアの連なりにおいて、1つ以上のバランコアを他のコアよりも、電圧変化を大きくすることができる。
【0033】
最終アクセスポイント以外の全ての電圧アクセスポイントは、配線103により、(上述のように)任意の回路分離手段102に接続可能である。回路分離手段102は、別の配線104により、変圧器巻線に接続することができる。図3において、回路303が出力回路であるならば、311は抵抗である。回路303が中間回路であるならば、303は、金属酸化物バリスターのような回路分離手段である。
【0034】
高電圧分離変圧器300によれば、第一回路109と出力回路306との間の高電圧分離を維持しつつ、AC信号に大きなDCバイアスをかけることができる。回路を段階化することにより、バランコア間のバイアスの変化が小さくなり、それにより、より薄い絶縁部材を使用することができる。より薄い絶縁部材が使用できれば、コストを軽減し、全回路の大きさも小さくすることができる。
【0035】
高電圧分離変圧器は、比較的製造し易い。バランコアは、いくつかの供給源から購入できる。一次側巻線と二次側巻線との間の予定の電圧差のための適正な絶縁定格を有するような配線が選択できる。
【0036】
2個バランコア分離変圧器を有する一実施形態においては、中間回路がほとんどの絶縁部材を有することができる。この中間回路は、その絶縁部材の厚さの影響から、各バランコアに対して一回のみの巻線とすることができる。フッ素化エチレンプロピレン(FEP)が、中間回路の絶縁部材として利用できる。FEPは、また、他の回路の絶縁部材としても利用できる。あるいは、他の材料も使用できる。
【0037】
図5は、中間回路501上の接続点の例を示しており、一般符号500で示されている。一実施形態においては、各中間回路503の両端の2つのバランコアの間の中間点で、各中間回路503から高電圧生成器502への接続501が形成されている。言い換えれば、距離L1は、絶縁開部からバランコアへの距離を最大にするような距離L2と概ね等しい。これは、絶縁部材の大部分が中間回路503上にあり、前段バランコア506の一次側巻線504と次段バランコア506の二次側巻線505上には絶縁部材の量が少ないような場合に、特に重要である。前段バランコア506の一次側巻線504上の絶縁部材を最少にすることにより、バランコア電圧は、そのコアの一次側巻線504の電圧に近づく。また、次段バランコア507の二次側巻線505上の絶縁部材を最少にすることにより、次段バランコア電圧は、そのコアの一次側巻線504の電圧に近づく。中間回路501の開放部分からバランコア506又は507のいずれかへ、電流が絶縁部材の表面に沿って流れてしまうのを避けるために、センチメートル単位の距離L1又はL2は、中間回路503とバランコアとの間の電位差がかけられた0.00005に概ね等しくされるべきである。例えば、中間回路503と第一バランコア506との間に25,000ボルトの電圧差があれば、接続点501と第一バランコア506の距離、すなわち距離L1は、約1.25センチメートルとすべきである。
【0038】
図6は、コッククロフト−ワルトン乗算回路に接続された高電圧分離変圧器の例を示しており、一般符号600で示されている。AC電源は、コッククロフト−ワルトン乗算回路に交流電流を提供する。容量C1乃至C12が、ダイオードD1乃至D12及びアクセスポイントA1乃至A6に沿って示されている。交流電流の振幅及び周波数や、ダイオード及び容量の大きさと種類は、特別な設計による要求の通りに選択でき、それにより高レベルな電圧分離機能を備えた変圧器回路において、AC信号に所望のDCバイアスを提供している。2つの連続する容量及び2つの連続するダイオード、例えば容量C1及びC2並びにダイオードD1及びD2は、コッククロフト−ワルトン乗算回路の一段を成している。図6では、6つのコッククロフト−ワルトン乗算回路が示されている。更なる段が追加されて電圧を更に上昇させてもよい。変圧器回路への接続は、いずれのアクセスポイントにおいても行える。
【0039】
上述において参照された配置というのは、本発明の原理の応用の一例でしかないことを理解すべきである。本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、多くの変形や他の配置が考案できる。本発明は、現在最も実用的で好適な実施形態と考えられているものとの関係で、特別に詳細に、図面で示され、完全に上で記述されたが、ここで明らかにした発明の原理及び概念から逸脱することなく、多くの変形例があることは、当業者であれば、明らかであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0040】
【特許文献1】米国特許第7,319,435号明細書

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧分離機能を有する変圧器回路であって、
a)低電圧の交流電流信号を搬送するように構成された第一回路と、
b)貫通する少なくとも2つの孔を有するバランコアと、
c)前記バランコアの前記少なくとも2つの孔を通して少なくとも一巻きの輪とされるものであって、前記変圧器回路の一次側巻線として振る舞う前記第一回路と、
d)前記バランコアの前記少なくとも2つの孔を通して少なくとも一巻きの輪とされるものであって、前記変圧器回路の二次側巻線として振る舞う出力回路と、
を備え、
前記出力回路は、高電圧直流電流信号源に電気的に接続され、前記第一回路と前記出力回路との間の高レベルな電圧分離を実現しつつ、前記交流電流信号に直流電流バイアスを供給することを特徴とする高電圧分離機能を有する変圧器回路。
【請求項2】
前記高電圧直流電流信号源は、前記出力回路に接続され、前記高電圧直流電流信号を供給するように構成された高電圧生成器であることを特徴とする請求項1に記載の高電圧分離機能を有する変圧器回路。
【請求項3】
前記高電圧生成器は、コッククロフト−ワルトン乗算回路であることを特徴とする請求項2に記載の高電圧分離機能を有する変圧器回路。
【請求項4】
前記第一回路及び前記出力回路のうちの少なくとも1つを実質的に覆うように構成された絶縁部材を更に備え、前記絶縁部材は、フッ素化エチレンプロピレンであることを特徴とする請求項1に記載の高電圧分離機能を有する変圧器回路。
【請求項5】
前記出力回路に電気的に接続されるように動作可能であり、前記出力回路に対する負荷として振る舞うX線管の熱陰極を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の高電圧分離機能を有する変圧器回路。
【請求項6】
前記X線管は、蛍光X線分析装置内に使用されていることを特徴とする請求項1に記載の高電圧分離機能を有する変圧器回路。
【請求項7】
高電圧分離機能を有する変圧器回路であって、
a)低電圧の交流電流信号を搬送するように動作可能な第一回路と、
b)貫通する少なくとも2つの孔を有する第一バランコアと、
c)第一変圧器の一次側巻線として、前記第一バランコアの前記少なくとも2つの孔を通して少なくとも一巻きの輪とされる前記第一回路と、
d)前記第一変圧器の二次側巻線として、前記第一バランコアの前記少なくとも2つの孔を通して少なくとも一巻きの輪とされ、直流電流信号源の中間レベルに接続される中間回路と、
e)貫通する少なくとも2つの孔を有する第二バランコアと、
f)第二変圧器の一次側巻線として、前記第二バランコアの前記少なくとも2つの孔を通して少なくとも一巻きの輪とされる前記中間回路と、
g)前記第二変圧器の二次側巻線として、前記第二バランコアの前記少なくとも2つの孔を通して少なくとも一巻きの輪とされる出力回路と、
を備え、
前記出力回路は、高電圧直流電流信号源に電気的に接続され、前記第一回路と前記出力回路との間の高レベルな電圧分離を実現しつつ、前記交流電流信号に直流電流バイアスを供給することを特徴とする高電圧分離機能を有する変圧器回路。
【請求項8】
前記直流電流信号源は、前記中間回路に中間レベル直流電流信号を供給し、前記出力回路に高電圧直流電流信号を供給するように構成されたコッククロフト−ワルトン乗算回路であることを特徴とする請求項7に記載の高電圧分離機能を有する変圧器回路。
【請求項9】
前記コッククロフト−ワルトン乗算回路の中間レベル電圧直流電流信号は、回路分離機器を介して前記中間回路に接続されていることを特徴とする請求項8に記載の高電圧分離機能を有する変圧器回路。
【請求項10】
前記回路分離機器は、金属酸化物バリスターであることを特徴とする請求項9に記載の高電圧分離機能を有する変圧器回路。
【請求項11】
前記第一回路、前記中間回路、及び前記出力回路のうちの少なくとも1つを実質的に覆うように構成された絶縁部材を更に備え、前記絶縁部材は、フッ素化エチレンプロピレンであることを特徴とする請求項7に記載の高電圧分離機能を有する変圧器回路。
【請求項12】
前記出力回路に接続され、前記出力回路に対する負荷として振る舞うX線管の熱陰極を更に備えることを特徴とする請求項7に記載の高電圧分離機能を有する変圧器回路。
【請求項13】
前記X線管は、蛍光X線分析装置内に使用されていることを特徴とする請求項12に記載の高電圧分離機能を有する変圧器回路。
【請求項14】
高電圧分離機能を有する変圧器回路であって、
a)第一バランコア、少なくとも1つの中間バランコア、及び最終バランコアからなる少なくとも3つの一連のバランコアであって、各バランコアが貫通する少なくとも2つの孔を有するような一連のバランコアと、
b)第一回路、少なくとも2つの中間回路、及び出力回路からなる一連の回路であって、回路の総数は、バランコアの総数に1を加えたものに等しいような一連の回路と、
c)低電圧の交流電流信号を搬送するように動作可能であり、第一変圧器の一次側巻線として、前記第一バランコアの前記少なくとも2つの孔を通して少なくとも一巻きの輪とされる前記第一回路と、
d)前記第一変圧器の二次側巻線として、前記第一バランコアの前記少なくとも2つの孔を通して少なくとも一巻きの輪とされ、二次変圧器の一次側巻線として、第二バランコアの前記少なくとも2つの孔を通して少なくとも一巻きの輪とされる第一中間回路と、を備え、
e)前記中間バランコアの各々は、前記中間バランコアの各々の前記少なくとも2つの孔を通して少なくとも一巻きの輪とされる中間回路により、次段のバランコアに接続されており、
f)前記最終バランコアは、前記最終及び中間バランコアの前記少なくとも2つの孔の各々を通して少なくとも一巻きの輪とされる中間回路により、前段の中間バランコアに接続されており、
g)前記出力回路は、前記最終バランコアの前記少なくとも2つの孔を通して少なくとも一巻きの輪とされ、
h)前記各回路のための一連の高電圧アクセスポイントを提供する手段を、更に備え、
1.高電圧アクセスポイントの数は、中間回路の数に1を加えたものに等しく、
2.最も高い高電圧アクセスポイントは、他の高電圧アクセスポイントのいずれよりも高い電圧を有しており、
3.第一高電圧アクセスポイントは、前記最も高い高電圧アクセスポイントを高電圧アクセスポイントの数で割って得られた電圧に概ね等しい電圧を有しており、
4.各連続高電圧アクセスポイントでの電圧は、前段の高電圧アクセスポイントでの電圧よりも大きく、
i)前記第一中間回路は、前記第一高電圧アクセスポイントに接続され、各次段の中間回路は、次の対応する高電圧アクセスポイントに接続され、それにより各連続中間回路での電圧は増加し、前記最も高い高電圧アクセスポイントは、前記出力回路に接続され、前記第一回路と前記出力回路との間の高レベルな電圧分離を実現しつつ、前記交流電流信号に直流電流バイアスを供給することを特徴とする高電圧分離機能を有する変圧器回路。
【請求項15】
各高電圧アクセスポイントと次段の高電圧アクセスポイントの間の電圧差は、前記最も高い高電圧アクセスポイントを高電圧アクセスポイントの数で割って得られた電圧に概ね等しいことを特徴とする請求項14に記載の高電圧分離機能を有する変圧器回路。
【請求項16】
a)前記一連の高電圧アクセスポイントを提供する手段は、コッククロフト−ワルトン乗算回路であり、
b)各中間回路は、回路分離機器を介して前記コッククロフト−ワルトン乗算回路に接続されていることを特徴とする請求項14に記載の高電圧分離機能を有する変圧器回路。
【請求項17】
前記回路分離機器は、金属酸化物バリスターであることを特徴とする請求項14に記載の高電圧分離機能を有する変圧器回路。
【請求項18】
前記第一回路、前記少なくとも1つの中間回路、及び前記出力回路のうちの少なくとも1つを実質的に覆うように構成された絶縁部材を更に備え、前記絶縁部材は、フッ素化エチレンプロピレンであることを特徴とする請求項14に記載の高電圧分離機能を有する変圧器回路。
【請求項19】
前記出力回路に対する負荷は、X線管の熱陰極であることを特徴とする請求項14に記載の高電圧分離機能を有する変圧器回路。
【請求項20】
前記X線管は、蛍光X線分析装置内に使用されていることを特徴とする請求項14に記載の高電圧分離機能を有する変圧器回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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