説明

高靭性マトリックス材料中の固結された高靭性被覆硬質粒子

高靭性マトリックス材料中に分散する複数の被覆粒子を含む固結材料が開示される。被覆粒子は複数のコア粒子を含み、コア粒子のそれぞれは実質的に中間層によって取り囲まれている。任意の外層が中間層上に存在することもある。マトリックスは、被覆粒子のそれぞれを含み、または実質的に含み、かつW、WC、および/またはWCと、Coとの混合物を含む少なくとも1つの第3の化合物から形成される。少なくとも1つの第3の化合物中のCoの量は、0を超えて約20重量%に及ぶこともある。固結材料を提供する方法、およびかかる固結材料を含む物品も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2009年8月4日に出願の米国特許出願番号第61/231,149号の優先権の利益を主張し、その内容は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、高靭性マトリックス中に分散した被覆粒子を含む固結材料に関する。本開示は、かかる材料を製造する方法と、かかる材料を含む物品にも関する。
【背景技術】
【0003】
高靭性被覆硬質粒子(「TCHP」またはEternAloy(登録商標))は、微粒子材料の新規ファミリーである。従来は、TCHPは、WCまたはTaCなどの比較的高い破壊靭性を有する金属化合物の薄い層(たとえば、nm)によって個々に被覆されている少なくとも1種類の超硬粒子、GeldardクラスCまたはそれより大きいセラミック粒子および/または超耐磨耗性、潤滑性、および他の特性を有する耐熱合金コア粒子を含む。従来のTCHPでは、鉄、銅またはニッケルなどの金属の外部被覆は、個々の粒子の周りに設けられている。TCHP構造内の多特性合金の組み合わせによって、焼結した同種粉末から形成される材料ではいままでは得られなかったレベルで、強靭性、耐アブレシブ磨耗性、耐薬品磨耗性、および軽量性を含むがこれらに限定されない、通常は相反する極端な性能の組み合わせが可能になっている。TCHP材料は、Tothに対する米国特許第6,372,346号に記述されており、その開示は参照によって本明細書に組み込まれる。TCHP材料を固結する方法は、米国付与前出願公開第2005/0275143号に記述されており、その開示は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0004】
結晶質の強度は、原子結合および転位構造に依存する。転位は、可動性でありうる、または固定されかつ不動性でありうる、線状原子格子の欠陥である。通常、転位は固定されかつ不動性である。複合構造を形成するために組み合わせる、2種類の原子結合した結晶質の混合物において、混合則および逆混合則によって算出される複合体の弾性率に対して、上限および下限の結合推定値がある。荷重の増加によると、粒子内の転位が流動し始める、または滑り始めるまで、材料は弾性的に変形し、永久降伏の開始に至り、有用な強度が限定されることになる。約1マイクロメートル以下の粒径で例外的に高い強度は、主にイメージ転位応力のためにかかる材料で作り出すことができる。
【0005】
一般的に、各転位の周りには円筒状の歪場が存在し、外側から周辺格子に広がる。理論的には、この各転位の周りの歪場は、歪場に対抗することによってバランスが保たれているに違いなく、さもなければ転位は、表面から移行することになる。結晶の大きさがその歪場と比較して大きい場合、結晶の表面にない限り、イメージ応力は転位の周辺で作られない。複数の結晶質の粒子がマトリックス材料で結合されている焼結材料において、イメージ応力はマトリックスの低い強度に釣り合うが、大きい結晶の場合、大部分の転位が表面近くに存在しないので、ささいな修正になる。
【0006】
サブミクロンの多結晶粒子において、歪場は、隣接した粒子に拡がりうるが、その原子格子は、いずれの隣接した粒子の歪場の原子格子と揃っていないであろう。この粒子表面の外側の平衡歪みは、転位の動きを抑制し、したがって降伏を抑制して強度を増加させる。粒径がさらに縮小すると、表面近くの転位が多くなり、次いで強度がさらに増加する。
【0007】
中間層および任意に、鉄、ニッケル、銅、またはそれらの組み合わせの外層で被覆されたコア粒子を含む従来の焼結TCHPでは、中間層の厚さは比較的薄い。正確には理解されていないが、従来の焼結TCHPでの被覆粒子に結合する中間層および任意の外層(もしあるとしたら)が十分に薄い場合、歪場は実際に外層を貫通して隣接する粒子に入ると考えられている。これは、TCHP粒子間の材料(もしあるとしたら)によって制御されない高強度が作り出される結果になりうる。言い換えれば、従来の焼結TCHPの機械的特性は、外層相の特性から独立していることがありえ、それは結晶質であり、かつ極めて薄いと思われる。
【0008】
従来の焼結TCHPでの歪場の移動は、特定の改良特性、たとえば強度をもたらすこともあるが、かかる材料で形成される物品の強靭性に悪影響を及ぼすこともある。その結果、従来の焼結TCHPから形成される物品は、極めて高い強度を示すことができるが、一部の用途の場合、不十分な破壊靭性を示しうる。
【0009】
したがって、従来の焼結TCHPが示す硬度および/または他の有益な特性を維持する、または実質的に維持するが、従来の焼結TCHPと比べて改良された破壊靭性を示す固結材料および物品の必要性が、当技術分野では存在している。本開示の固結材料およびプロセスは、たとえば、高靭性マトリックス相材料中にTCHPを分散させることによって、および/または隣接するTCHP粒子間の歪場の移動を制限するように固結物品の微細構造を制御することによってこの目標を達成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
マトリックス中に分散された被覆粒子を含む固結材料を本明細書に開示する。非限定的な一実施形態では、被覆粒子は、コア材料を含む。少なくとも1つの中間層が、コア材料上に分散されている。少なくとも1つ中間層は、コア材料と異なる材料を含み、それによってコア材料よりも高い破壊靭性を有することになる。たとえば、鉄、銅、およびニッケルのうちの少なくとも1つを含む任意の外層が、少なくとも1つ中間層上に存在することもある。固結材料のマトリックスとしては、Wおよび/またはWCを含む第1の粒子と、Coを含む第2の粒子の混合物、または第1および第2の粒子の代わりにもしくは加えて、CoとWおよび/またはWCとの合金を含むマトリックスが挙げられる。マトリックス中のCoの量は、0を超えて約20重量%以上に及んでもよい。
【0011】
マトリックス中に被覆粒子を含む焼結材料も本明細書に開示される。非限定的な一実施形態では、被覆粒子は、立方晶窒化ホウ素およびダイヤモンドから選択される少なくとも1つのコア材料を含む複数のコア粒子を含む。少なくとも1つの中間層は、複数のコア粒子のそれぞれの周辺で実質的に配置される。少なくとも1つの中間層は、少なくとも1つの第1の化合物と異なる少なくとも1つの第2の化合物を組成中に含み、かつ第2の化合物が第1の化合物よりも高い破壊靭性を有する。鉄、銅、およびニッケルのうちの少なくとも1つを含む任意の外層は、少なくとも1つの中間層上に存在してもよい。焼結材料のマトリックスは、それぞれの、もしくは実質的にそれぞれの被覆粒子を含み、かつ少なくとも1つの第3の化合物を含む。少なくとも1つの第3の化合物は、タングステンおよび/またはタングステンカーバイドの第1の粒子と、Coの第2の粒子との混合物を含みうる。あるいは、または第1および第2の粒子の混合物に加えて、少なくとも1つの第3の化合物は、タングステンおよび/またはタングステンカーバイドと、Coとの合金を含みうる。Coは、第3の化合物中、0を超えて約20重量%まで、またはそれ以上に及ぶ量で存在してもよい。
【0012】
本開示は、固結物品を提供する方法も説明する。非限定的な一実施形態では、本開示は、マトリック中に複数の被覆粒子を含む固結物品を提供する方法を説明する。この非限定的な実施形態では、コアマトリックスを含む複数のコア粒子が設けられる。被覆粒子を形成するために、少なくとも1つの中間層が、複数のコア粒子のそれぞれの上に実質的に設けられる。少なくとも1つの中間層は、コア材料と異なる材料を含み、コア材料よりも高い破壊靭性を有する。鉄、銅、およびニッケルのうちの少なくとも1つを含む任意の外層が、少なくとも1つの中間層上に存在してもよい。
【0013】
被覆粒子は、マトリックスの粒子と混合されて、混合粉末を形成する。0を超えて約20重量%まで、またはそれ以上のCoを含むマトリックスは、タングステンおよび/もしくはタングステンカーバイドの第1の粒子と、Coの第2の粒子との混合物を含みうる。あるいは、または第1および第2の粒子の混合物に加えて、マトリックスは、タングステンおよび/またはタングステンカーバイドと、Coとの合金を含みうる。混合粉末は、物品に成形され、次いでマトリックスが被覆粒子のそれぞれもしくは実質的にそれぞれを含むまたは実質的に含むように固結される。
【0014】
一部の実施形態では、本開示の固結物品は、高靭性マトリックスを含まない従来の焼結TCHPから形成される物品よりも高い強靭性を示す。たとえば、本開示のマトリックスは、従来の焼結TCHPと比べると、改良された抗折力を示すことができが、従来の焼結TCHP材料のVicker硬度または他の所望の特性を実質的に維持する、または向上させる。加えて、W、WC、WC、およびCoなどのTCHP以外の粒子材料を含むことで、大幅なコスト削減をもたらすことができ、それによって従来のTCHP材料よりも高い強度で、しかもコストを減少させて、硬質材料を提供することが可能になる。
【0015】
本開示の固結物品は、異方特性を示すこともある。たとえば、本明細書に開示する物品が、一軸ホットプレスなどの特定の方向性によるプレスによって固結される場合、プレス方向と平行方向での固結物品の機械的特性は、プレス方向と垂直方向での物品の機械的特性と異なることがある。一部の実施形態では、本開示の固結物品は、一軸ホットプレスによって作製され、かつプレス方向と平行方向に沿った抗折力よりも、プレス方向と垂直方向に沿ってより高い抗折力を示す。
【0016】
本開示のさらなる目的および利点は、以下の説明に一部記述され、および説明から一部明白であり、または本開示を実施することで確認されうる。本開示の目的および利点は、添付する特許請求の範囲で特に指摘される要素および組み合わせによって認識され、かつ達成されことになる。
【0017】
前述の概要および後述の詳細な説明は、例示的かつ説明的であるだけであり、添付する特許請求の範囲を限定することを目的としないと理解されるべきである。
【0018】
本明細書に組み込まれ、かつその一部を構成する添付の図面は、説明と共に本開示の非限定的な実施形態のいくつかを示し、本開示の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本開示の固結材料についての一実施形態の概略断面図である。
【図2】一軸ホットプレスによって従来のアルミナ(Al)TCHP粒子を固結することによって作製した物品の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】50重量%アルミナ(Al)TCHP粒子と、50重量%再生等級のWC−Co粒子との混合物を一軸ホットプレスで固結することによって作製した物品の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図4】25重量%アルミナ(Al)TCHP粒子と、75重量%再生等級のWC−Co粒子との混合物を一軸ホットプレスで固結することによって作製した物品の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図5】25重量%アルミナ(Al)TCHP粒子と、75重量%再生等級のWC−Co粒子との混合物を一軸ホットプレスで固結することによって作製した物品の破面を示す高倍率走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図6】25重量%アルミナ(Al)TCHP粒子と、75重量%一次等級のWC−Co粒子との混合物を一軸ホットプレスで固結することによって作製した物品の破面を示す高倍率走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図7】25重量%アルミナ(Al)TCHP粒子と、75重量%再生等級のWC−Co粒子との混合物を一軸ホットプレスで固結することによって作製した物品の破面におけるTCHP粒子を貫通するおよびTCHP粒子周辺の亀裂偏向を示す高倍率走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図8】25重量%アルミナ(Al)TCHP粒子と、75重量%一次等級のWC−Co粒子との混合物を一軸ホットプレスで固結することによって作製した物品の破面におけるTCHP粒子を貫通するおよびTCHP粒子周辺の亀裂偏向を示す高倍率走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示の一態様は、高靭性マトリックス材料中に分散した高靭性被覆硬質粒子(「TCHP」)から構成される固結材料に関する。
【0021】
本明細書で用いる場合、用語「固結材料」とは、固体物品または実質的に固体の物品を作製するために、成形および/または圧縮のプロセス、任意に熱処理プロセスとの組み合わせで処理された材料を意味する。本開示の一部の実施形態では、任意の熱処理プロセスは、たとえば、焼結および/またはクラッディングを含む。任意の熱処理プロセスは、圧縮プロセスと組み合わせて、または圧縮プロセスに続いて行われてもよい。
【0022】
一部の実施形態では、固結材料は、多段階プロセスによって作製される。たとえば、材料の成分は、圧縮、テープ成形、スラリー成形、または他の類似のプロセスによってまず成形され、次いで熱処理(たとえば焼結および/またはクラッディング)されて固体物品もしくは実質的に固体の物品を形成してもよい。一部の実施形態では、成形および熱処理のプロセスは、たとえば熱間等方圧加圧、ホットプレス、電子ビームラピッドプロトタイピング、押出および/またはローリングによって実質的に同時に行われる。
【0023】
本開示の使用に適したTCHP粒子は、たとえば、少なくとも1つの中間層で個々に被覆される複数のコア粒子を含む粉末の形で提供されることがある。たとえば、鉄、銅、およびニッケルのうちの少なくとも1つを含む任意の外層は、少なくとも1つの中間層上に存在しうる。コア粒子および層材料は、それらの物理的特性をTCHP粒子全体に付与するように意図される。
【0024】
一部の実施形態では、コア粒子は、式Mの金属材料から選択される少なくとも1つの第1の化合物を含み、ここでMはチタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロミウム、モリブデン、タングステン、アルミニウム、マグネシウム、およびシリコンのうちの少なくとも1つを表し、Xは窒素、炭素、ホウ素、酸素、および硫黄のうちの少なくとも1つを表し、aおよびbは0を超えて、14を含む最高14までの数である。かかる金属材料に加えて、少なくとも1つの第1の化合物は、立方晶窒化ホウ素(cBN)、六方晶窒化ホウ素(hBN)、およびダイヤモンドなどの非金属材料から選択されることもある。本明細書で用いる場合、用語「化合物」とは、2つの要素から形成される材料に限定されることなく、したがって炭素のダイヤモンド形状を呼ぶこともできる。
【0025】
当業者は、結晶質では、単位格子中の個々の原子が近隣の単位格子と共有されることもあることを理解する。したがって、式Mでは、下付き文字「a」および「b」は、0を超えて14に及ぶ整数または非整数から選択されることもある。一部の実施形態では、下付き文字「a」および「b」は、0を超えて14に及ぶ整数から選択される。
【0026】
本開示の一部の実施形態では、コア粒子は、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素、および/または少なくとも1つの副次成分と化合された少なくとも1つの主要成分を含む少なくとも1つの第1の化合物から選択される少なくとも1つのコア材料を含むこともある。少なくとも1つの主要成分は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロミウム、モリブデン、タングステン、アルミニウム、マグネシウム、およびシリコンから選択され、少なくとも1つの副次成分が窒素、炭素、ホウ素、硫黄および酸素から選択される。
【0027】
一般に、コア粒子材料(第1の化合物)は硬く(すなわち、材料は、比較的高いVicker硬度を示す)、かつ大部分の環境およびワークピースに対する耐摩耗性および耐薬品性などいくつかの他の有用な特性を示すことができる。しかし、これらの材料は、破壊靭性(進展する亀裂を抑える能力)が限定されていることが多い。
【0028】
もちろん、他の金属化合物および非金属化合物は、本開示によるコア粒子として用いられてもよい。たとえば、本開示の一部の実施形態では、少なくとも1つの第1の化合物は、少なくとも1つの化学量論化合物から実質的になる。さらに、TCHP粒体の個々のコア粒子は、たとえば、異なる第1の化合物材料から形成されてもよい。同様に、個々のコア粒子は、第1の化合物材料の混合物から形成されてもよい。いずれにせよ、一般的な目的は、種々のコア粒子材料の特性をそこから形成される物品に付与することである。
【0029】
本明細書に開示するTCHPのコアのために適切に用いられうる第1の化合物材料の例としては、AlB、Al、AlN、Al、AlMgB14、BC、立方晶窒化ホウ素(cBN)、六方晶窒化ホウ素(hBN)、CrB、Cr、Cr、ダイヤモンド、HfB、HfC、HfN、Hf(C,N)、MoB、Mo、MoC、MoS、MoSi、NbB、NbC、NbN、Nb(C,N)、SiB、SiB、SiC、Si、SiAlCB、TaB、TaC、TaN、Ta(C,N)、TiB、TiC、TiN、Ti(C,N)、VB、VC、VN、V(C,N)、WB、WB、W、WC、WC、WS、ZrB、ZrC、ZrN、Zr(C,N)、ZrOおよびそれらの混合物ならびに合金が挙げられるが、これらに限定されない。特に、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素、Al、BC、HfB、MoS、SiC、Si、TiC、Ti(C,N)、WS、およびそれらの混合物ならびに合金から実質的になる第1の化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
本明細書で用いる場合、「から選ばれる」、または、「から選択される」とは、個々の成分の選択または2つの(または複数の)成分の組み合わせをいう。たとえば、式M中のXは、窒素、炭素、ホウ素、酸素、および硫黄のうちのただ1つを含むこともあり、またはこれらの成分のいずれかもしくはすべての化合物を含むこともある。
【0031】
強靭性の増加は、通常、粒径の減少からもたらされることが知られている。本開示の一部の実施形態では、コア粒子の平均的な大きさは、約0.1μmから約100μmに及ぶ。たとえば、コア粒子の平均的径は、約100nmから約100μmまで、たとえば約100nmから約2μm、またはさらに約0.1μmから約1μmに及ぶこともある。もちろん、他のコア粒径を用いてもよく、かつコア粒径を上述の範囲内で変えてもよい。
【0032】
少なくとも1つの中間層は、コア粒子の外面全体に、または一部の外面に塗布されてもよい。本開示の一部の実施形態では、少なくとも1つの中間層は、実質的にそれぞれのコア粒子の外面に塗布される。少なくとも1つの中間層は、たとえば、コア粒子の少なくとも1つの第1の化合物と組成において異なる少なくとも1つの第2の化合物から形成されることもある。一部の実施形態では、少なくとも1つの第2の化合物は、コア粒子の少なくとも1つの第1の化合物よりも高い相対的な破壊靭性を有する材料から形成される。少なくとも1つの第2の化合物は、少なくとも1つの第1の化合物および/またはマトリックス材料(後述する)と結合する能力があってもよい。
【0033】
本開示の一部の実施形態では、少なくとも1つの第2の化合物は、BC、W、WC、WC、SiC、Si、TiB、Ti(C,N)のうちの少なくとも1つを単独で、もしくは別の成分または材料との組み合わせで含む。たとえば、少なくとも1つの第2の化合物は、W、WCおよび/またはWCから、任意にCoとの組み合わせから実質的になることもある。一部の実施形態では、少なくとも1つの第2の化合物は、W、WC、および/またはWCから実質的になり、約20重量%未満のCo、たとえば約15重量%のCo、またはさらに約10重量%でのCoと組み合わせから実質的になる。もちろん、少なくとも1つの中間層は、上述を超えて、または未満のCoを含むこともある。さらに、少なくとも1つの中間層のCoの量は、上述した範囲内で逐次変えてもよい。
【0034】
以下で考察されるように、比較的強靭で強い複数または単一の中間層と、硬質コアとの組み合わせは、それから形成される、例外的な機械的特性を有する粉末および固結材料をもたらす。一部の実施形態では、被覆粒子は、約100μm未満、たとえば約50μm未満、約2μm未満、もしくはさらに約1μm未満でも含む平均粒径を有する。
【0035】
被覆粒子の粒径および少なくとも1つの中間層の体積も、所望の用途に適合するよう制御されてもよい。たとえば、粒径および中間層体積を制御して、上述した範囲内で目標とするCo−WCの比率を得ることが可能である。
【0036】
粒子の異なる部分における組成物の選択は、マクロレベルでの候補材料の既知の特徴に関する公的に入手可能な情報に基づくことができる。たとえば、拡散摩耗(ワークピース材料への工具材料の溶解)は、作動温度での生成における標準自由エネルギーを考慮することによって種々の材料を想定することができることが知られている。WC、TiC、TiN、およびAlの順に、負エネルギー形成が徐々に増加している。したがって、標準的なWC切削工具と比較すると、TiNが拡散摩耗の著しい減少をもたらすことが分かる。
【0037】
さらに、ワークピース材料と工具材料が比較的高温で接触しているとき、ワークピース材料への工具材料の溶解が問題になりうる。したがって、1000〜1100℃に及ぶ温度で、種々の工具材料が鉄(典型的なワークピース)へ溶解する速度は、商業的に重要であり、かつ材料間で大きく異なる。工具面にTiNがかなり存在すると、鉄へのWCの溶解が確実に著しく低下することを、比較が示している。たとえば、500℃での相対的な溶解割合は以下の通りである:
WC: 5.410
TiC: 1.0
Tin: 1.810−3
Al: 8.9*10−11
【0038】
これは、鉄に対するWC工具の摩耗挙動、たとえばWC被覆がTiNコアと結合するときの改良点を説明すると考えられている。具体的には、TiNコアが曝されていると、WCよりも低い鉄への拡散摩耗速度を示すと考えられている。WC粒子連続被覆も、強力なシェルの形成および高い機械的特性の達成にとって好ましい(たとえば、ヤング率は、TiNの250GPaと比較すると、696GPaである)と考えられている。TiNコアは(Vicker硬度値がWCの場合のHV=2350と比較すると、HV=2400を有し、滑りの摩擦係数がWCの場合のμ=0.200の値と比較すると、μ=0.125の値を有する)鉄に対する摩擦摩耗を減少させることになり;コアは、その研削および研磨が終わると、工具の表面に曝されることになる。
【0039】
それぞれが適合し、コア粒子上に中間層を含む材料と異なる限り、コア粒子を複数の異なる金属または非金属の化合物にすることも可能である。中間層の一部を取り除くことによってコア粒子が曝される場合、固結材料を含む物品の特性は、コア粒子の特性、固結材料中の特性の濃度、および特性の組み合わせによって主に決定される。
【0040】
たとえば、固結材料を切削インサートに形成することが望ましい場合、固結材料をEDM(放電加工)によって研磨するか、または成形させて、コア粒子を曝させることができる。本開示の非限定的実施形態では、コア粒子がTiNであり、および中間層がWCであって、TiNの摩擦係数、その硬度、および耐摩耗性はそれらの特性を切削インサートに付与するが、インサートの全体強度およびその耐亀裂進展性は、TiNコア粒子を取り囲むWC層によって向上する。とりわけ、TiNは磨り減る被覆ではないので、インサートの摩耗によってかかるインサートの特性の減少はもたらされないであろう。むしろ、インサートが摩耗するにつれてその表面を再生することは、インサート材料の不可欠な部分である。
【0041】
本開示の一部の実施形態では、コアは、cBNおよび/またはダイヤモンドから実質的になる。しかし、これらの実施形態は、cBNおよび/またはダイヤモンドのコア粒子の可能性を実現するためには、特定の径を有する粒子と、特定の厚みを有する中間層とを用いることが必要になることがある。たとえば、コア粒子は、有用な工学特性を有する固結材料をもたらすように調整された組成物と厚みを有する別の化合物の支持中間層に相対して固結材料に組み込まれる必要があることもある。この点において、それぞれのコア粒子は、たとえば、W、WC、および/またはWC、任意にCoとの組み合わせから実質的になる少なくとも1つの中間層で被覆されることもある。たとえば、少なくとも1つの中間層は、0から約20重量%のCo、たとえば0を超えて約15重量%のCo、たとえば約5から約12重量%のCoとの組み合わせでのW、WC、および/またはWCから実質的になることもある。
【0042】
TCHP粒子は、いずれの形状、たとえば、塊状、正方形、長方形、楕円体、球形、薄片、ウイスカ、プレートレットの形状であってもよく、または粒子は不規則な形状であってもよい。本開示の一部の実施形態では、TCHP粒子は、実質的に球形である。本開示のさらに別の実施形態では、TCHP粒子は、不規則に成形される。たとえば、TCHP粒子の形状は、特定の用途、たとえば伸線(実質的に球形形状)および金属切削/成形(不規則な形状/ギザギザの形状)に合うように選択されてもよい。
【0043】
本開示による個々のTCHP粒子は、中間層を取り囲む、または実質的に取り囲む材料の任意の外層も含むこともある。この任意の外層は、たとえば、銅、鉄、ニッケル、およびそれらの混合物、合金、およびその金属間化合物などの金属を含むこともある。
【0044】
本明細書に記述する固結材料は、それぞれのTCHP粒子を取り囲む、または実質的に取り囲むマトリックスも含む。マトリックスは、少なくとも1つの第3の化合物から形成され、それによって、一部の実施形態では、コア粒子と比べると相対的に高い破壊靭性を有する。たとえば、マトリックスは、第1および第2の粒子の混合物を含むこともあり、第1の粒子が、タングステンおよびタングステンカーバイド(たとえばWCおよび/またはWC)のうちの少なくとも1つを含み、ならびに第2の粒子がCoを含む。あるいは、または第1および第2の粒子の混合物に加えて、マトリックスは、タングステンおよびタングステンカーバイドのうちの少なくとも1つと、Coとの合金を含むこともある。それとは関係なく、少なくとも1つの第3の化合物中のCoの量は、たとえば、0を超えて約20重量%またはそれ以上のCo、たとえば約5から約20重量%、約8から約15重量%、またはさらに約10から約12重量%に及ぶこともある。もちろん、少なくとも1つの第3の化合物のCoの量は、特定の用途に合うように選択されてもよく、かつ上述した範囲内で逐次変えてもよい。さらに、少なくとも1つの第3の化合物のCoの総量は、20重量%より高くてもよい。
【0045】
一部の実施形態では、少なくとも1つの第3の化合物(マトリックス)のCoの量は、少なくとも1つの第2の化合物(中間層)中のCoの量より多い。たとえば、少なくとも1つの第2の化合物は、0を超えて約5重量%までのCoを含むこともあり、および少なくとも1つの第3の化合物は、約10から約15重量%のCoを含むこともある。同様に、マトリックスが中間層よりも多いCoを含有する場合、中間層およびバインダーに対する前述の範囲内の任意の他の量のCoを使用してもよい。Co含有量を増加した理由から、少なくとも1つの第3の化合物(マトリックス)は、少なくとも1つの第2の化合物(中間層)と比べて、より高い強靭特性を示すこともある。
【0046】
一部の実施形態では、本開示の強材料は、上述の少なくとも1つの第1の化合物を含むコアを有する焼結TCHP粒子を含む。これらの実施形態では、少なくとも1つの中間層は実質的に各コア上に存在し、W、WC、および/またはWC、任意にCoとの組み合わせで含む、もしくはこれらから実質的になる。さらに、マトリックスの少なくとも1つの第3の材料のマトリックスは、TCHP粒子を含有する、または実質的に含有し、かつW、WC、および/もしくはWCと、0を超えて約20重量%までのCoとの混合物を含む、または混合物から実質的になる。たとえば、少なくとも1つの第2の化合物は、WCまたはWCと、5〜10重量%のCoとの化合物から実質的になってもよく、および少なくとも1つの第3の化合物は、WCおよび/またはWCと、10重量%を超えるCo、たとえば10を超えて約20重量%のCo、もしくはさらに約15から約20重量%のCoとの化合物から実質的になっていてもよい。
【0047】
タングステンまたはタングステンカーバイド原料のいずれの等級でも、少なくとも1つの第3の化合物(マトリックス)に用いてもよい。たとえば、「再生」等級および/または「一次」等級のタングステンカーバイドを少なくとも1つの第3の化合物に用いてもよい。本開示の一部の実施形態では、少なくとも1つの第3の化合物は、一次等級タングステンカーバイドを含む。
【0048】
粒成長抑制剤などの添加物を、マトリックスを形成する少なくとも1つの第3の化合物に加えてもよい。かかる粒成長抑制剤の例としては、バナジウム(たとえばVC)、ニオブ、タンタル、チタン、クロミウム(たとえばCr)、およびそれらの混合物のカーバイド類が挙げられるが、これらに限定されない。もちろん、当技術分野で知られている他の粒成長抑制剤または添加物は、少なくとも1つの第3化合物に加えられてもよい。粒成長抑制剤は、所望の用途に適する量で、少なくとも1つの第3の化合物に加えられることもある。たとえば、粒成長抑制剤は、0を超えて約2重量%まで、たとえば0.1から約2重量%まで、約0.2から約1重量%まで、またはさらに0.2から約0.4重量%に及ぶ量で少なくとも1つの第3の化合物中に存在してもよい。もちろん、粒成長抑制剤はおおよそで加えられてもよく、かつその量は、上述した範囲内で逐次変えてもよい。
【0049】
少なくとも1つの第3の化合物は、たとえば、TiC、TaC、NbC、HfCおよびそれらの混合物などの他のカーバイド類が含まれることもある。かかるカーバイド類は、たとえば、0を超えて約12重量%まで、またはそれ以上の任意の所望の量で加えられてもよい。一部の実施形態では、少なくとも1つの「他の」カーバイドは、約1から約12重量%まで、たとえば約2から約8重量%まで、またはさらに約4から約6重量%に及ぶ量で、第3の化合物中に存在する。もちろん、第3の化合物は、「他の」カーバイドをおおよそで含有することもあり、かつ「他の」カーバイドの量は、上述した範囲内で逐次変えてもよい。
【0050】
一部の実施形態では、第3の化合物は、WCと、約10〜12重量%のCoとの合金を含み、合金が、約0.2から約0.3重量%までのVC、および約0.4から約0.6重量%までのCrを含む。
【0051】
一部の実施形態では、構成材料が合理的な焼結条件に応じ、それによって緻密焼結材料の形成がもたらされるとき、マトリックスはTCHPを接合するように機能する。たとえば、TCHPが焼結によって固結されるとき、マトリックスは少なくとも部分的に焼結接合し(それ自体によって、またはバインダー材料によって)、もたらされる固結物品中に各TCHP粒子を含有する、または実質的に含有することができる。かかる焼結は、格子間隙によって分離されている複数のTCHPを含み、格子間隙がマトリックスおよび/またはバインダーで満たされている、または実質的に満たされている微細構造を有する焼結材料をもたらすことができる。固結材料がクラッディングを含むプロセスによって作製される、他の非限定的実施形態では、マトリックスはTCHP粒子を基質に結合するために機能することがある。
【0052】
本明細書に開示する固結物品は、たとえば、図1に概略的に示した微細構造を示す。図のように、被覆粒子(18)は、タングステンおよび/またはタングステンカーバイド、任意にコバルトと組み合わせられる高靭性中間層(14)で被覆されている硬質コア粒子(10)を含む。任意の外層(図示せず)は、中間層上に存在してもよい。0を超えて約20重量%までのコバルトとの組み合わせでのタングステンカーバイドなどの第3の化合物を含むマトリックス(16)は、被覆粒子(18)間の格子間隙にもたらされる。被覆粒子(18)は、半完成品または完成品へと固結され、その検鏡用薄切片は、一般に、数字(20)で指定される。
【0053】
固結物品の微細構造は、中間層(14)と、任意に外層(もしあるとしたら)との強く相互結合されている単位材料のフレームワークであり、それぞれは、それ自体の硬質コア粒子(10)を含有し、支持する。被覆粒子(18)は、マトリックス(16)にも保持されて、仕上げ研削または研磨など研磨加工または摩耗加工の用途で用いられる場合、外面(22)の切断面に曝される。
【0054】
一部の実施形態では、固結材料のマトリックスは、材料中にTCHPの大部分を含む、または実質的に含む。固結材料中のマトリックスの量および分布は、不均一、実質的に均一、および/または均一でありうる。さらに、マトリックスは、TCHPの周囲に連続している、または実質的に連続していることもある。
【0055】
一部の実施形態では、マトリックスは固結材料中の隣接したTCHP間の粒子間距離を増加させるよう機能する。本明細書で用いる場合、用語「粒子間距離」とは、固結材料中の隣接したTCHPの中心部間の距離をいう。たとえば、本開示による固結材料中の球状TCHP間の粒子間距離は、材料中の隣接した球状TCHP粒子の中心間の距離に相関する。
【0056】
本開示の目的で、マトリックスを加えていない場合、固結したTCHP間の粒子間距離は「基本粒子間距離」と呼ぶ。一般に、マトリックスを加えていない場合、たとえば、焼結および/またはクラッディングによって、完全密度または実質的に完全密度まで固結されたTCHPは、個々のTCHPの平均粒径にほぼ等しい基本粒子間距離を示す。たとえば、マトリックスを加えていない場合、約1μmの径を有する球状TCHPが完全密度まで焼結されると、もたらされる物品中の隣接したTCHP間の基本粒子間距離は、ほぼ2μmになると予想される。もちろん、他の基本粒子間距離が可能であり、用いてもよい。
【0057】
従来の焼結TCHPと対照的に、本開示の固結材料は、基本粒子間距離の20倍とほぼ同じ程度、またはそれ以上の、個々のTCHP間の粒子間距離を示すこともある。たとえば、隣接したTCHP粒子間の粒子間距離は、基本粒子間距離の約2倍から15倍、たとえば基本粒子間距離の約4倍から約15倍、またはさらに基本粒子間距離の約4倍から約8倍に及ぶこともある。
【0058】
隣接したTCHP間の粒子間距離は、たとえば、マトリックスの少なくとも1つの第3の化合物と比べてTCHPの量を制御することによって調節されうる。たとえば、マトリックスの重量に対して、TCHPは約0から約50重量%に及ぶ量で存在してもよい。本開示の一部の実施形態では、TCHPの量は、マトリックスの重量に対して、約1から約25重量%、たとえば約5から約20重量%、または約15から約20重量%に及ぶ。もちろん、より高いまたはより低い量のTCHPを用いてもよく、かつTCHPの量は、上述した範囲内で逐次変えることもできる。他の用語では、TCHP対マトリックスの割合(TCHP:マトリックス)は、約95:5から約5:95、またはそれらの間のいずれか他の割合、たとえば約20:80もしくは約50:50に及ぶこともある。
【0059】
上述したように、従来の焼結TCHPでは被覆粒子を結合する中間層および外層の厚みは薄いために、個々の粒子と関連した歪場はバインダーを通過して、隣接する粒子に達すと考えられている。この移動は、特定の改良特性をもたらすこともあるが、かかる材料で形成される物品の強靭性に悪影響を及ぼすこともある。
【0060】
一部の実施形態では、本開示の固結材料は、個々のTCHPを分離するために、高靭性マトリックス(上述した)を用いることで、歪場の移動問題を対処する。高靭性マトリックスおよび/または粒子間距離を増やすことで、固結材料中の隣接した粒子間の歪場の移動を限定し、それによって強靭性を向上させると考えられる。このように、任意に粒子間距離を増加させることと組み合わせて、高靭性マトリックスを使用することで、本開示の固結材料は、従来の焼結TCHPと比べて、向上した強靭特性を示すことが可能になる。
【0061】
本開示の固結材料は、従来の焼結TCHPでこれまでに観察されていない複数の特性の組み合わせを示すこともある。たとえば、本開示の固結材料は、従来の焼結TCHPの硬度と比べて、向上した破壊靭性(たとえば、抗折力によって評価される)の組み合わせを示すこともあるが、同時に従来の焼結TCHPの硬度(たとえば、Vicker硬度によって評価される)を実質的に維持する。その結果、本開示の固結材料は、従来の焼結硬粒子(たとえば従来のTCHP)と比べて、向上した強靭特性を示すこともあるが、優れた硬度特性を維持する。
【0062】
当業者は、所望の特性を達成するために、コア材料(第1の化合物)、中間層(第2の化合物)、およびマトリックス(第3の化合物)の適切な組み合わせを選択する必要がある。したがって、従来のTCHP粒子よりも高い抗折力(「TRS」)を示す本開示による粒子を設けることを望む当業者は、必要な第1、第2、および第3の化合物を選択するために、適切な技術と理解を用いるであろう。
【0063】
第1(コア)、第2(中間層)、任意の外層、および第3(マトリックス)の化合物の特定の組み合わせの非限定例を、以下の表1に列挙する。
【0064】
【表1】

【0065】
本開示の別の態様は、高靭性マトリックス材料中に分散したTCHPから構成される固結材料を作製する方法に関する。
【0066】
概して、本開示による方法は、その上に少なくとも1つの中間層を有するコア粒子を含む複数のTCHPを用意することと、複数のTCHPをマトリックスの粒子と混合して混合粉末を形成することと、混合粉末を成形して物品を形成することと、物品を固結し(たとえば焼結および/またはクラッディングを含むプロセスによって)、その結果マトリックス層が前述のそれぞれの被覆粒子を含有する、または実質的に含有することとを含む。任意に、外層材料は、少なくとも1つの中間層に、たとえば、マトリックスと混合される前に、塗布されることもある。
【0067】
本明細書に記述するTCHPは、任意の適切な方法によって製造されてもよい。たとえば、TCHPは、前述の少なくとも1つの第1の化合物から形成される複数のコア粒子を用意することと、前述の少なくとも1つの第2の化合物から形成される少なくとも1つの中間層を複数のコア粒子の大部分の周りに設けることとによって製造されてもよい。
【0068】
少なくとも1つの中間層は、任意の適切な成膜方法によってコア粒子上に設けられることもある。たとえば、少なくとも1つ中間層は、化学蒸着、物理蒸着、プラズマ蒸着および/またはクラッディング、レーザー蒸着および/またはクラッディング、磁気プラズマ蒸着、電気化学蒸着、無電解蒸着、スパッタリング、固相合成、溶液化学蒸着のプロセス、およびその組み合わせから選択される少なくとも1つの方法によって、蒸着されることもある。中間層を形成する適切なプロセスのさらなる非限定例について、米国特許第6,372,346号および米国付与前出願公開第2005/0275143号に開示されたプロセスを参照し、これらは参照によって本明細書に組み込まれる。
【0069】
マトリックス材料の粒子は、前述の少なくとも1つの第3の化合物またはその前駆物質を含むこともある。たとえば、マトリックス材料の粒子は、第1の粒子および第2の粒子を含むこともあり、第1の粒子はW、WC、およびWCのうちの少なくとも1つを含み、第2の粒子はCoを含む。あるいは、または第1および第2の粒子の混合物に加えて、マトリックスは、W、WC、WCのうちの少なくとも1つと、Coとの合金を含むこともある。同様に、マトリックス粉末は、焼結、クラッディングおよび/または他の処理の直後に、W、WC、および/またはWCと、所望の量のCoとの混合物をもたらす前駆物質を含むこともある。一部の実施形態では、マトリックス中のCoの量は、0を超えて約2重量%に及ぶ。
【0070】
TCHPおよびマトリックス粒子は、既知の混合装置または方法を使用して混合されてもよい。たとえば、TCHPおよびマトリックス粒子は、ボールミル粉砕、アトライター粉砕または、機械的攪拌によって混合されてもよい。もちろん、他の混合方法を用いてもよい。
【0071】
混合粉末は、たとえば、均一(均質)に、実質的に均一、または不均一(不均質)に分布したマトリックス粒子またはTCHPを含有することもある。非限定的実施形態では、混合粉末は、均一または実質的に均一に分布したTCHPおよびマトリックス粒子から構成される。
【0072】
粒子材料を物品に成形する既知のいずれかの方法を、本開示による方法で用いてもよい。たとえば、混合粉末は、成型することによって物品に成形されることもある。さらに、混合粉末は、混合粉末を、粉末の焼結温度よりも低い温度で圧縮または成形することによって、いわゆる「生」物品に形成されることができる。たとえば、物品は、十分な外圧を粉末に加えて「生」物品を形成する冷却圧縮法(たとえば冷間等方圧加圧)によって形成されることもある。あるいは、物品は、ホットプレス(たとえば熱間等方圧加圧)によって予備成形されることもあり、ここでは、外圧が粉末に加えられる一方で粉末は焼結温度を上回る温度、下回る温度、またはほぼ同じ温度まで加熱される。本開示の混合粉末を成形する他の非限定的方法としては、粉末射出成形、可塑押出、高圧伝達媒体、およびラピッドプロトタイピングが挙げられる。
【0073】
一時的バインダーは、本明細書に記述する成形物品に生強度を加えるために、混合粉末に加えられることがある。かかる一時的バインダーの非限定的例としては、パラフィンワックス、ステアリン酸、エチレンビスステアロアミド(EBS)、可塑剤(たとえばポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールおよび/または合成樹脂)、ならびに同様の有機化合物が挙げられる。市販の一時的バインダーの一例として,Acrawaxがある。一時的バインダーは、たとえば、約2重量%の量で加えられてもよい。一時的バインダーは、焼結ステップなどの後期のステップ間に、消散してしまう。
【0074】
成形物品の形成を補助するために潤滑剤を混合粉末に加えてもよい。たとえば、不規則に成形されるTCHPに本開示の混合粉末が含まれる場合、TCHPが溶解によって丸くならないので、圧縮および成形の補助のために潤滑剤を加えてもよい。
【0075】
加えて、一部のTCHP粒子は、酸素および/または水分と接触すると、反応プロセスを受ける。したがって、高分子コーティングまたは不動酸化物コーティングなどの保護コーティングをTCHP粒子に塗布して、かかる過程が起こるのを防止してもよい。
【0076】
本開示の一部の実施形態では、成形された物品の固結は、焼結および/またはクラッディングなどの熱処理プロセスを含むプロセスによって行われる。たとえば、成形物品の固結は、焼結プレス、液相焼結、真空焼結、ホットプレス、熱間等方圧加圧(HIP)、焼結HIP、炉焼結、レーザークラッディング、プラズマクラッディング、高速酸素燃料(HVOF)焼結/クラッディング、スパークプラズマ焼結/クラッディング、ダイナミック/爆発圧縮、焼結鍛造、電子ビーム処理、および電気アークプロセス(たとえばアーク溶接))のうちの少なくとも1つを含むプロセスによって行われうる。一部の実施形態では、本明細書に記述する物品は、一軸ホットプレスなどの特定の方向性で圧力を加えるプロセスによって固結される。
【0077】
特定の実施形態では、焼結および/またはクラッディングは、少なくとも1つの中間層、マトリックス、または両方において液相を得るのに十分な時間内に、温度および/または固結圧力などの条件で起こりうる。液相は、対応する材料の実体積の最高50%から、たとえば70体積%またはさらに99.5体積%に及び存在している量であってよい。
【0078】
処理温度は、使用する方法および関与する材料に応じて、たとえば、600℃から約4000℃に及ぶことがある。本明細書で用いる場合、「処理温度」は、焼結される材料が曝露される最高温度である。一部の実施形態では、一過性処理温度は、約600℃から約1700℃、たとえば1250℃から約1700℃に及ぶこともある。非限定的一実施形態では、一過性処理温度は、約1700℃から約8000℃に及ぶこともある。
【0079】
本開示の一部の実施形態では、TCHP固結は、絶対零度圧より高い圧力で起こる。たとえば、TCHP固結は、ほぼ零絶対圧を超えて大気圧、またはそれ以上に及ぶ圧力で起こりうる。
【0080】
一般的に、「真空」焼結プロセスは、約1から250トール未満の範囲で起こり、かつ一般に「常圧」焼結と呼ばれる。この場合、大気より低い圧力を用いることは、通常、焼結プロセスの間に用いられる種々の温度範囲内での化学反応速度の制御と物理的プロセスの制御との2つの目的のためである。さらに、20MPaを上回る圧力は、圧力高密度化方法で一般的に用いられる。
【0081】
焼結および/またはクラッディングは、不活性ガスなどのガスの存在下でも起こりうる。かかるガスの非限定的な例として、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、メタン、アセチレン、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、それらの混合物、および関連化合物が挙げられる。
【0082】
「常圧」焼結とは、焼結または焼結温度での固結をいい、予備加熱の形成すなわち上述の「生」商品ではない。たとえば、冷間等方圧加圧などの代表的な圧縮プロセスは、外圧をかけて、「生」物品をもたらすが、成分粒子の焼結はもたらさないと理解されるであろう。
【0083】
本開示の別の態様は、本開示の固結された材料から製造される物品に関する。上述のように、本開示の材料は、従来の焼結TCHPと比べて向上した破壊靭性を示すことができるが、従来のTCHPの硬度および/または強度を実質的に維持する。さらに、本開示の固結材料の処理を制御することによって、等方特性、または代わりに、異方特性を示す物品を得ることが可能である。
【0084】
たとえば、異方特性は、本開示の材料を一軸ホットプレスによって固結することによって物品が作製される一部の実施形態で観察された。一軸ホットプレスでは、方向力は、固結材料の完全な密度を達成する際に補助するように導入される。これにより、この種の固結では新規の本材料の微細構造内でTCHP粒子の分布を変える駆動力を作り出す応力場にせん断成分を導入する。
【0085】
一部の実施形態では、この加えられた力に対して垂直な「側面」の上の機械的特性測定は、より高いTRSを示し、したがって、この力と平行なそれらの「側面」よりも大きな強度を有する。正確には理解されないが、これらの特性差異は、他の方向ではなく、一方向の強度を強化するのに役立つ処理に関連した粒子間再配列の結果であると考えられる。
これらの再配列は、一軸ホットプレスの間に加えられた力の方向性から生じると考えられる。
【0086】
すなわち、多くの既知のシステムで観察される異方性とは異なり、本開示の一部の実施形態で観察される異方性は、処理の間、異なる冶金相が作り出される結果起こるのではないと考えられる。むしろ、理論に縛られることを望むことなく、異方性が一軸ホットプレスの間に加えられた力の方向性によって導入される粒子間間隔のバリエーションが作り出される結果起こると考えられる。したがって、一軸ホットプレスは、本開示の材料からの異方特性を有する固結物品を作製することができると本明細書で具体的に開示していないが、特定の方向性で力をかけるいずれかの固結プロセスによって達成されうると予想される。
【0087】
本開示の材料の処理を制御することによる異方性を導入する能力によって、特定用途の要件の解決策を探している材料デザイナーにさらなる自由度がもたらされる。さらに、この能力によって組成物と処理を同時に制御することで、かつ従来のTCHPから形成される商品よりも潜在的に低コストで新たな特性の組み合わせを有する物品の作製が可能になる。
【0088】
本開示による固結材料は、従来の焼結TCHPが適しているいずれの用途での使用に適する。特に、本開示の材料は、物品、表面改質または部品、組立部、および機械の修理において実質的に無制限の用途がある。たとえば、本明細書に記述する材料を用いて、切削用、形成用、研磨用、測定用、成形用、石油用、採掘用、建設用の工具を形成することもできる。さらに、本開示による材料を用いて、生物医学用、軍用、電子、スポーツ用、熱管理用、および化粧品用途などの非工具部品を形成してもよい。本開示の材料は、農業、土木、製剤、製紙、石油化学、ゴム、樹脂、輸送、航空機/航空宇宙、海洋、建築、およびエネルギーの部門での広範な用途向けにも想定される。
【0089】
したがって、本開示による材料は、以下を含むがこれらに限定されない広範な多数の物品での使用に適切である:
−引抜ダイス(たとえば、伸線ダイス、合成ワイヤダイス、エナメル伸線ダイス)、押出ダイス、鍛造型、打抜および型打ちダイス、型、成形ロール、射出形金型、せん断機、ドリル、フライス盤および旋盤、のこぎり、ホブ、ブローチ、リーマー、タップならびに他のダイスなどの工作器具;
−ギア、カム、軸頚、ノズル、シール、バルブシート、ポンプインペラー、キャプスタン、滑車、ベアリングおよび摩耗面などの個々の機械部品;
−嵌めあい部品、内燃機関ロッド、ベアリング、粉末金属(P/M)プロセスにおける硬質表面ゾーン、熱処理ゾーンを有する鍛造もしくは機械加工された鋼製部品(たとえばカムシャフト、トランスミッション部品など)、およびプリンター/コピー機の部品の代替機械部品を交換するための一体型同時焼結部品;
−深井戸ドリル用ビット、採掘装置および地ならし機用の歯、ならびに製鋼所用の熱間圧延などの重工業物品;および
−メモリードライブの読み取りヘッド、特殊マグネットなどの電気機械部品。
【0090】
本開示の固結材料を用いて、たとえば、放射性(核)物質の汚染除去および/または改良で使用される装置、機械、および物品の部品を形成することもある。非限定的一実施形態では、本明細書に記述する固結材料は、核物質の汚染除去および/または改良での使用に適しているプレートに形成される。この点に関しては、マトリックス材料と混合される前に、ニッケルで被覆されるまたはメッキされる、複数のTCHPを含む固結材料が前述で挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
以下の非限定的実施例を用いることで、本開示をより完全に示すことにする。
【0092】
実施例
実施例1:代表的な粉末調製手順
以下は、小規模実験室に基づいて本開示により粉末を調製するために用いられた粉末調製手順の非限定的実施例である。
【0093】
ミリング容器を使用して、適切な比率のTCHP粉末およびWC−Coマトリックス粉末を秤量した。全体として、粉末の総重量は約800gであった。このように、25重量%TCHPと、75重量%マトリックスとを含む粉末混合物を得るために、約200gのTCHPと、600gのWC−Coマトリックス粉末とを用いた。場合によっては、WC−Coマトリックス粉末の原料は、少量(およそ2重量%)のパラフィンワックスを含有していた。
【0094】
ワックス加工粉末が好ましい場合、TCHP粒子の重量に基づいて、さらに2%のパラフィンワックスを粉末混合物に加えた。逆に、非ワックス加工粉末が好ましい場合、パラフィンワックス(原料粉末に存在する量を超えて)を混合物に加えなかった。
【0095】
ミリングボール1.5kg:粉末混合物800gの比に対応する量のWC−Coミリングボールを、ミリング容器に加えた。
【0096】
ワックス加工粉末を調製する場合、150mLの適切な溶媒(たとえばヘプタン)を粉末/ミリングボールに加えて、もたらされた溶液を混合した。溶液が流動性稠度になるまで、さらに溶媒を加えた。
【0097】
非ワックス加工粉末の場合、150mLの適切な溶媒(たとえばヘプタン)を粉末/ミリングボールに加えて、もたらされた溶液を混合した。溶液が流動性稠度になるまで、さらに溶媒を加えた。
【0098】
次いで、ミリング容器にアルゴンガスを満たして、大気曝露を最小限にして密封した。次いで、所望の速度(たとえば100RPM)で(所望時間、たとえば2時間、容器を圧延装置上に設置して、TCHP/WC−Co粉末のミルにかけた溶液を形成した。
【0099】
実施例2:代表的な乾燥手順
以下は、実施例1によって調製されたTCHP/WC−Co粉末をミルにかけた溶液の代表的な乾燥手順の非限定的実施例である。
【0100】
TCHP/WC−Co粉末のミルにかけた溶液を大型の篩を通して耐熱容器(たとえばガラス製)へ静かに注ぐ。粉末を作製するのに用いたミリング容器を、対応する溶媒(たとえばヘプタンまたはエタノール)で洗い流して、WC−Coミリングボールから残存するミルにかけた溶液を除去する。
【0101】
次いで、一定流速(たとえば約2〜3SCFH)の窒素下、約85℃の温度で、乾燥オーブン内に耐熱容器を設置した。粉末を所望の時間、たとえば少なくとも12時間、乾燥させた。
【0102】
粉末は一般的に、乾燥プロセスの間に固まった。粉末が乾燥したかどうかを決定するために、スパチュラを用いて、固まった粉末の一部を壊した。固まった粉末が壊れて微粉末になると、その粉末は十分に乾燥していると見なされる。
【0103】
ワックス加工した粉末の場合、粉末を乾燥させてから、粗い篩(たとえば、約100μの孔を有するもの)を通してプレスして、固結のための粉末を調製した。
【0104】
次いで、乾燥粉末は、後の使用のためにアルゴンを満たした容器(たとえばNalgene)容器に保存した。
【0105】
実施例3:第1の代表的な固結手順
以下は、一軸ホットプレスによって本開示の固結物品を作製するために用いた代表的な手順の非限定的実施例である。
【0106】
TCHPとWC−Coとの混合物を含む、非ワックス加工粉末だが混合粉末を、グラファイトダイセット中に設置した。混合粉末を含有するダイセットをホットプレスのマスターダイに取り付けた。ホットプレスの上端ラムを、ダイセットの上面と接触させるために下げた。次いで、ホットプレスのチェンバードアを閉めて、チェンバーを5.0×10−3トールの最低圧になるまで排気した。
【0107】
代表的な熱サイクルを行うようホットプレスをプログラムしてから、自動制御に切り替えた。次いで、混合粉末を、特定の温度、特定のラム圧力で、特定の保持時間の間プレスした。使用した標準パラメータは、約1400℃の温度、15MPaの圧力、100分間の保持時間であった。だが他のパラメータもテストし、首尾よく使用できた。通常、温度が約1350℃に一旦達すると、ラム圧力を導入した。しかしこの圧力を、別の時に導入してもよい。
【0108】
熱サイクルが完了してから、ラム圧力を開放して、プレスによって、冷却水の補助により室温まで(すなわち、この時点から熱を加えない)「自由冷却する」ことが可能になった。冷却速度は、主に冷却水温度と流速によって決定した。
【0109】
次いで、マスターダイとグラファイトダイセットをプレスから取り外し、グラファイトダイセットをマスターダイから取り外した。固結TCHP/WC−Co部品を、グラファイトダイから取り外して、特性測定および微細構造評価のために切断した。
【0110】
実施例4:一軸ホットプレスした従来のAlおよびTi(C,N)TCHP物品と、本開示による物品との比較
C1とC2の2つの比較試料、ならびにI1、I2、I3、I4、I5、I6、およびI7の7つの本発明の試料を調製した。比較試料C1は、アルミナ(Al)のコアと、タングステンカーバイド(WC)のシェルとを含む従来のTCHP粒子を、実施例3に記述する固結方法を用いて、ホットプレスによって形成した。比較試料C2は、Ti(C,N)コアと、タングステンカーバイド(WC)のシェルとを含む従来のTCHP粒子を、実施例3に記述する固結方法を用いて、ホットプレスによって形成した。発明の試料I1〜I5は、アルミナのコアと、WC−Co添加物(マトリックス)の種々の量を有するタングステンカーバイドのシェルとを含むTCHP粒子の混合物を、実施例1および2に記述するプロセスを用いて、ホットプレスによって調製した。発明の試料I6およびI7は、Ti(C,N)のコアと、WC−Co添加物(マトリックス)の異なる量を有するタングステンカーバイドのシェルとを含むTCHP粒子の混合物を、実施例1および2に記述するプロセスを用いて、ホットプレスによって調製した。各発明の試料のためのミリングおよび乾燥プロセスは、同一であった。
【0111】
試料I1〜I3で使用したWC−Co添加物1は、10〜12%のCoを含む再生等級WC−Co粉末であって、部品番号GWC−12の下でATI Engineered Products(Alldyne)から購入した。試料I4おおびI5で使用したWC−Co添加物2は、10〜12重量%のCoを含む一次等級WC−Co粉末であって、部品番号GWC−203の下でAlldyneから購入した。試料I6およびI7で使用したWC−Co添加物3は、細粒WC(0.8μm)と、10〜12重量%のCoとを含む一次等級WC−Co粉末であって、部品番号GWC−196の下でAlldyneから購入した。
【0112】
比較および発明の試料は、実施例3による一軸ホットプレスプロセスを用いて固結した。各試料のための固結プロセスは、同一であった。固結後、試料を特性測定および微細構造分析のために切断した。原料の特性は、以下の表2に示す。固結物品の組成および特性は、以下の表3および4に示す。プレス方向に対して垂直な発明の試料の側面は、プレス方向と平行な側面よりもより高い(強力な)TRSを示すことが観察された。表3および4のデータは、「強い」方向で測定されたTRSを伝えている。
【0113】
【表2】

【0114】
【表3】

【0115】
表3に示すように、発明の試料I2は、比較試料C1よりも高いTRSを示した。加えて、発明の試料I3、I4、およびI5は比較試料C1よりも高いTRSを示したが、比較試料C1と同じか、またはより良い硬度を予想外に維持した。
【0116】
各試料の微細構造を、走査電子顕微鏡で分析した。比較試料C1の微細構造、発明の試料I2、および発明の試料I3は、それぞれ図2、3、および4に示す。図のように、比較試料中の粒子間距離は、いずれの発明の例でも粒子間距離より少なかった。さらに、試料I3(図4)の粒子間距離は、試料I2(図3)の粒子間距離を超えていた。これは、試料I2と比べると、試料I1でのWC−Coマトリックスの量が増加したことに起因する。
【0117】
試料I3およびI5の破面の微細構造の高倍率走査電子顕微鏡写真を図5から8に示す。図5および7は試料I3に対応し、図6および8は試料I5に対応する。
【0118】
図5および6に示すように、試料I3は、試料I5よりもAl粒子の破砕が少ないことを示した。さらに、両方の試料は、いくつかのAl2O3粒子がマトリックスから引き出されているエビデンスを示した。分析も、各試料の微細構造が誘導された構造上の欠陥、すなわち亀裂に対して異なって反応することもあるエビデンスを示した。
【0119】
図7に示すように、試料I3の亀裂の破面は、Al2O3粒子の周辺で完全に方向を変えていた。対照的に、図8は、試料I5において、同様の破面がAl粒子を貫通して進んでいるが、別の亀裂領域が試料I5において見出され、破面がAl粒子の周辺で進んでいることを示している。このように、コア粒子の周辺で亀裂の方向を変える傾向が、試料I5においてよりも試料I3においてより明白であると思われた。この差異は、試料I5で使用した一次等級WC−Co添加物と比べて、試料I3で使用した再生等級WC−Co添加物の化学的性質または特性に起因することもあると考えられる。
【0120】
【表4】

【0121】
表4に示すように、発明の試料I6およびI7は、C2よりも高いTRSを示したが、比較試料C2よりもより良い硬度を予想外に示した。
【0122】
実施例5:第2の代表的な固結手順
以下は、真空焼結によって本開示の固結物品を作製するために用いた代表的な方法の非限定的実施例である。
【0123】
TCHP、WC−Co粉末の混合物を含む混合ワックス加工粉末を、機械プレスのダイキャビティに設置した。粉末を軸方向に圧縮して、種々のプレス部品を形成した。次いで、これらのプレス部品を炉内に設置して、炉を密閉した。炉内の圧力を、200mトールまで減少させた。次いで、炉内の温度を440℃まで上昇させて、4時間保持した次いで、炉内の温度を1250℃まで上昇させて、さらに45分間保持した。次いで炉内の温度を焼結温度、たとえば1440℃まで上昇させて、60分間保持した。
【0124】
熱サイクルが完了してから、炉を冷却させた。炉から固結された部品を取り出し、次いで特性測定のために切断した。
【0125】
実施例6:本開示による真空焼結物品
本開示による8種の試料、試料8〜15を真空焼結によって調製した。試料8〜15は、Ti(C,N)のコアと、WC−Co添加物(マトリックス)の異なる量を有するタングステンカーバイドのシェルとを含むTCHP粒子の混合物を、実施例1および2に記述するプロセスを用いて、真空焼結によって調製した。各試料のためのミリングおよび乾燥方法は、同一であった。
【0126】
試料8〜11で使用したWC−Co添加物3は、前述と同じであり、たとえば、細粒WC(0.8μm)と、10〜12重量%のCoとを含む一次等級WC−Co粉末であって、部品番号GWC−196の下でAlldyneから購入した。試料12〜15で使用したWC−Co添加物4は、細粒WC(3μm)と、10〜12重量%のCoとを含む一次等級WC−Co粉末であって、部品番号GWC−15の下でAlldyneから購入した。
【0127】
これらの試料は、実施例5によって真空焼結プロセスを使用して固結された。各試料のための固結方法は、同一であった。固結後、試料は特性測定のために切断した。固結材料の特性は、以下の表5に示す。固結物品の組成物および特性は、以下の表6に示す。
【0128】
【表5】

【0129】
【表6】

【0130】
表6に示すように、本開示によって調製した真空焼結組成物のTRSおよび硬度特性は、特定用途の目的に合わせることができる。
【0131】
その広範な発明の概念から逸脱することなく、変更が上述の実施形態になされうることを当業者によって認識されることになる。したがって、本開示は、開示した特定の実施形態に限定されることなく、添付の特許請求の範囲によって定義されるように発明の精神および範囲内にある改変を網羅することを意図すると理解される。
【0132】
特に明記しない限り、本明細書および特許請求の範囲で用いた成分の数量、反応条件などを表すすべての数は、すべての場合、表された数の+/−5%を意味するように意図される、用語「約」によって改変されると理解されるべきである。したがって、特に明記しない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲に記載した数値パラメータは、近似値であり、本開示によって得られることを求められる所望の特性に依存して変化しうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固結材料であって、マトリックス中に被覆粒子を含み、前記被覆粒子が
コア材料と、
前記コア材料上に少なくとも1つの中間層とを含み、前記少なくとも1つの中間層が前記コア材料と異なる材料を含み、かつ前記中間層が前記コア材料よりも高い破壊靭性を有し、
前記マトリックスがWもしくはWCを含む第1の粒子と、Coを含む第2の粒子との混合物を含み、および/または前記マトリックスが、Wおよび/もしくはWCと、0を超えて約20重量%に及ぶ量で前記マトリック中に存在するCoとの合金を含む、固結材料。
【請求項2】
前記コア材料がダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素、および少なくとも1つの第1の化合物のうちの少なくとも1つを含み、前記少なくとも1つの第1の化合物が少なくとも1つの副次成分と化合された少なくとも1つの主要成分を含み、前記少なくとも1つの主要成分がチタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロミウム、モリブデン、タングステン、アルミニウム、マグネシウム、およびシリコンから選択され、および前記少なくとも1つの副次成分が窒素、炭素、ホウ素、硫黄および酸素から選択される請求項1に記載の固結材料。
【請求項3】
前記コア材料がAlB、Al、AlN、Al、AlMgB14、BC、立方晶窒化ホウ素(cBN)、六方晶窒化ホウ素(hBN)、CrB、Cr、Cr、ダイヤモンド、HfB、HfC、HfN、Hf(C,N)、MoB、Mo、MoC、MoS、MoSi、NbB、NbC、NbN、Nb(C,N)、SiB、SiB、SiC、Si、SiAlCB、TaB、TaC、TaN、Ta(C,N)、TiB、TiC、TiN、Ti(C,N)、VB、VC、VN、V(C,N)、WB、WB、W、WC、WC、WS、ZrB、ZrC、ZrN、Zr(C,N)、ZrO、およびそれらの混合物ならびに合金ののうちの少なくとも1つから実質的になる請求項1に記載の固結材料。
【請求項4】
前記コア材料上の前記少なくとも1つの中間層がW、WC、WC、Ti(C,N)、TiC、TiNのうちの少なくとも1つを含み、任意にコバルトと合金されるまたは化合される請求項1に記載の固結材料。
【請求項5】
前記マトリックスが前記少なくとも1つの中間層よりもコバルトを多く含む請求項4に記載の固結材料。
【請求項6】
前記被覆粒子が約2μm未満の平均粒径を有する請求項1に記載の固結材料。
【請求項7】
前記マトリックスがバナジウム、ニオブ、タンタル、チタン、クロミウム、およびそれらの混合物のカーバイド類から選択される少なくとも1つの添加物をさらに含む請求項1に記載の固結材料。
【請求項8】
前記被覆粒子が0を超えて約50重量%に及ぶ量で前記マトリックスに存在する請求項1に記載の固結材料。
【請求項9】
焼結材料であって、
−マトリックス中に被覆粒子を含み、前記被覆粒子が、
−立方晶窒化ホウ素およびダイヤモンドから選択される少なくとも1つの第1の化合物から実質的になるコア材料を含む複数のコア粒子と;
−前記第1の化合物と組成において異なり、前記第1の化合物よりも高い破壊靭性を有する少なくとも1つの第2の化合物から実質的になる少なくとも1つの中間層が、前記複数のコア粒子のそれぞれの周辺に実質的に存在する前記少なくとも1つの中間層とを含み、
−前記マトリックスが、前記被覆粒子のそれぞれを、もしくは実質的にそれぞれを取り囲み、もしくは実質的に取り囲み、前記マトリックスがタングステンおよび/もしくはタングステンカーバイドを含む第1の粒子と、コバルトを含む第2の粒子との混合物を含む少なくとも1つの第3の化合物を含み、および/または前記少なくとも1つの第3の化合物がタングステンおよび/もしくはタングステンカーバイドと、コバルトとの合金の粒子を含み、コバルトが0を超えて約20重量%に及ぶ量で前記第3の化合物中に存在する、焼結材料。
【請求項10】
前記少なくとも1つの第2の化合物がタングステンカーバイドとコバルトとを含む請求項9に記載の焼結材料。
【請求項11】
固結物質を提供する方法であって、−コア材料を含む複数のコア粒子を設けることと;
−被覆粒子を形成するために、前記複数のコア粒子の実質的にそれぞれの上に少なくとも1つの中間層を設けることであって、前記少なくとも1つの中間層が前記コア材料と異なる材料を含み、かつ前記コア材料よりも高い破壊靭性を有する中間層を設けることと;
−混合粉末を形成するために、前記被覆粒子とマトリックス材料の粉末とを混合することであって、前記マトリックス材料が、タングステンおよび/もしくはタングステンカーバイドを含む第1の粒子と、コバルトを含む第2の粒子との混合物を含み、および/または前記マトリックスがタングステンおよび/もしくはタングステンカーバイドと、コバルトとの合金の粒子を含み、コバルトが0を超えて約20重量%に及ぶ量で前記マトリックス材料中に存在する前記被覆粒子とマトリックス材料の粉末とを混合することと;
−前記混合粉末を物品に成形することと;
−マトリックスの前記層が前記被覆粒子を含有するように、または実質的に含有するように前記物品を固結することとを含む方法。
【請求項12】
前記コア材料がダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素、および少なくとも1つの第1の化合物のうちの少なくとも1つを含み、
前記少なくとも1つの第1の化合物が少なくとも1つの副次成分と化合された少なくとも1つの主要成分を含み、前記少なくとも1つの主要成分がチタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロミウム、モリブデン、タングステン、アルミニウム、マグネシウム、およびシリコンから選択され、ならびに前記少なくとも1つの副次成分が窒素、炭素、ホウ素、硫黄および酸素から選択される請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記コア材料が、AlB、Al、AlN、Al、AlMgB14、BC、立方晶窒化ホウ素(cBN)、六方晶窒化ホウ素(hBN)、CrB、Cr3C、Cr、ダイヤモンド、HfB、HfC、HfN、Hf(C,N)、MoB、Mo、MoC、MoS、MoSi、NbB2、NbC、NbN、Nb(C,N)、SiB、SiB、SiC、SiN4、SiAlCB、TaB、TaC、TaN、Ta(C,N)、TiB、TiC、TiN、Ti(C,N)、VB、VC、VN、V(C,N)、WB、WB、W、WC、WC、WS、ZrB、ZrC、ZrN、Zr(C,N)、ZrO、およびそれらの混合物ならびに合金のうちの少なくとも1つから実質的になる請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記コア材料上の前記少なくとも1つの中間層がW、WC、WC、Ti(C,N)、TiC、TiNを含み、任意にコバルと合金される、または化合される請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記マトリックス材料が前記少なくとも1つの中間層よりもコバルトを多く含む請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記被覆粒子が約2μm未満の平均粒径を有する請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記物品を固結する前記ステップが焼結することを含み、焼結後、前記少なくとも1つの中間層が前記複数のコア粒子径の約3%から約200%に及ぶ厚みを有する請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記被覆粒子が0を超えて約50重量%に及ぶ量で前記マトリックス中に存在する請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つの中間層が化学蒸着、物理蒸着、プラズマ蒸着、レーザークラッディングもしくは蒸着プロセス、プラズマクラッディング、磁気プラズマ蒸着、電気化学蒸着、無電解蒸着、スパッタリング、固相合成、または溶液化学蒸着プロセスから選択される少なくとも1つの方法によって設けられる請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記物品を固結する前記ステップが、焼結プレス、液相焼結、真空焼結、粉末射出成形、可塑押出、ホットプレス、熱間等方圧加圧(HIP)、焼結HIP、炉焼結、レーザークラッディング、プラズマクラッディング、高速酸素燃料(HVOF)焼結、スパークプラズマ焼結、高圧伝達媒体、ダイナミック/爆発圧縮、焼結鍛造、ラピッドプロトタイピング、電子ビーム処理、および電気アークプロセスから選択される少なくとも1つのプロセスによって行われる焼結することおよび/またはクラッディングを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項21】
前記コア材料がダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素、および/または少なくとも1つの第1の化合物のうちの少なくとも1つを含み、前記少なくとも1つの第1の化合物が、少なくとも1つの副次成分と化合された少なくとも1つの主要成分を含み、前記少なくとも1つの主要成分がチタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロミウム、モリブデン、タングステン、アルミニウム、マグネシウム、およびシリコンから選択され、かつ前記少なくとも1つの副次成分が窒素、炭素、ホウ素、硫黄および酸素から選択され;および
前記コア材料上の前記少なくとも1つの中間層がW、WC、WCおよびTi(C,N)のうちの少なくとも1つを含む請求項1に記載の固結材料。
【請求項22】
固結材料を含む引抜ダイスであって、前記固結材料がマトリックス中に被覆粒子を含み、
前記被覆粒子が
コア材料と;
前記コア材料上に少なくとも1つの中間層とを含み、前記少なくとも1つの中間層が前記コア材料と異なる材料を含み、かつ前記コア材料よりも高い破壊靭性を有し、
前記コア材料がダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素、Al、B4C、TiB、TiC、TiN、Ti(C,N)、およびZrO、ならびにそれらの混合物および合金から実質的になり;
前記コア材料上の前記少なくとも1つの中間層がW、WC、WC、Ti(C,N)、TiC、TiNを含み、任意にコバルと合金され、または化合され;および
前記マトリックスがWまたはWCを含む第1の粒子と、Coを含む第2の粒子との混合物を含み、および/または前記マトリックスがWおよび/もしくはWCと、0を超えて約20重量%に及ぶ量で前記マトリック中に存在するCoとの合金を含む引抜ダイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−501149(P2013−501149A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523696(P2012−523696)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【国際出願番号】PCT/US2010/044241
【国際公開番号】WO2011/017318
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(502087806)アロメット コーポレイション (2)
【Fターム(参考)】