説明

魚介類の養殖方法及びそれに用いる飼育水の浄化活性剤

【課題】エビ、ナマコ、タイ等の多くの魚介類の養殖に適した飼育水の浄化及び活性化、さらには優れた養殖方法の提供を目的とする。
【解決手段】ケイ酸塩鉱物の粉末又は当該粉末の焼成体に、腐植酸を混合又は含浸させたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエビ、ナマコ、魚類等の魚介類(水産資源)の養殖方法及びそれに用いる飼育水の浄化並びに活性化する浄化活性剤に関する。
【背景技術】
【0002】
魚介類の養殖には、飼育水中の排泄物や残餌等を除去し、良好な飼育環境を維持する必要があり、排泄物から発生するアンモニアの分解に硝化細菌を用いることも行われている。
また、特許文献1は魚介類の飼育段階に応じて電気分解槽の電気分解強度を調整することで、アンモニア除去及び亜硝酸の酸化を調整する技術を開示する。
しかし、エビやナマコ等の大量養殖には不充分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−254577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はエビ、ナマコ、タイ等の多くの魚介類の養殖に適した飼育水の浄化及び活性化、さらには優れた養殖方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
魚介類の養殖には、まず養殖池(飼育水槽)の浄化が必要であるが、単に浄化するだけでは不充分であり、魚介類から出る排泄物及び食べ残し餌の分解の促進と、魚介類の代謝作用促進及び免疫力向上が不可欠である。
【0006】
そこで本発明者らが誠意研究した結果、多くのミネラル成分及びイオウ成分を含むケイ酸塩鉱物と微生物生育の促進、酸化還元作用、界面活性及びキレート性等の多機能を有する腐植酸に着目し、本発明に至った。
【0007】
ここで腐植酸はフミン酸とも称され、腐植土からの抽出物である。
腐植土は動植物等が土に埋もれ、土壌中の微生物の働きによって複雑に分解・重合を繰り返して生成されたものであり、この腐植質のうちアルカリに溶け、酸に溶けない物質を腐植酸といい、アルカリに可溶、酸に可溶のフルボ酸と対比される。
従って、腐植酸は複雑な構造を持った複数の化合物の混合物であり、不定形の高分子物質である。
腐植酸は弱電解質であり、キレート性、界面活性、酸化還元性等の多機能を有する。
【0008】
本発明に係る魚介類飼育水の浄化活性剤は、ケイ酸塩鉱物の粉末又は当該粉末の焼成体に、腐植酸を混合又は含浸させたことを特徴とする。
ここで、ケイ酸塩鉱物の粉末は、イノケイ酸塩鉱物4〜20質量%,フイロケイ酸塩鉱物16〜40質量%及び残部がそれ以外のケイ酸塩鉱物からなる混合粉末であることが好ましい。
【0009】
イノケイ酸塩鉱物はケイ素原子に配位子が付いたアニオン構造が単鎖状、2本鎖状であり、ヒスイ輝石が代表例である。
このイノケイ酸塩鉱物は遷移元素が多く含まれる。
フイロケイ酸塩鉱物は層状のアニオン構造を有し、ろう石、白土、カオリナイト等が例として挙げられる。
フイロケイ酸塩鉱物は還元活性に優れる。
上記イノケイ酸塩鉱物、フイロケイ酸塩鉱物以外のその他のケイ酸塩鉱物には四面体の単体、2量体のアニオン構造を主に有するネソケイ酸塩鉱物、ソロケイ酸塩鉱物、ケイ素原子の一部がアルミニウム原子等他の原子に置換された2次元構造のテクトケイ酸塩鉱物が例として挙げられる。
その他のケイ酸塩鉱物に含まれる鉱石としては流紋岩、花崗岩が例として挙げられる。
これらのケイ酸塩鉱物は多くの種類のミネラルを有し、イオウ成分も多く含まれる。
【0010】
次にこれらのケイ酸塩鉱物と腐植酸を魚介類の養殖に用いる方法について説明する。
まず、魚介類を養殖池に放流する前にこの養殖池を浄化するには、ケイ酸塩鉱物の粉末と腐植酸を投入する。
なお、ケイ酸塩鉱物の粉末に予め腐植酸を混合し、乾燥させたものは取り扱いに便利である。
このように養殖池にケイ酸塩鉱物の粉末と腐植酸を投入すると、飼育水中の亜硝酸、硝酸等はケイ酸鉱物中のイオウ成分と反応し、脱窒素化と硫酸イオンが生じるが、この硫酸イオンはケイ酸塩鉱物中のカルシウムイオン等と反応固定化される。
ここで腐植酸はキレート剤として作用する。
【0011】
次に養殖池の良好な環境を維持するためにケイ酸塩鉱物の粉末、好ましくはイノケイ酸塩鉱物の粉末4〜20質量%、フイロケイ酸塩鉱物の粉末16〜40質量%と、それ以外に残部として流紋岩、花崗岩の粉末を混合した混合粉末を800〜1000℃にて焼成したセラミックスボールに腐植酸を含浸及び乾燥させた活性剤を投入する。
800〜1000℃にて焼成したセラミックスボールは多孔質であり、硝化細菌等の好気性細菌が生育しやすく、腐植酸がさらにこれらの微生物の成育を促進する。
これにより、養殖池が魚介類の排泄物や残餌にて汚れるのが抑えられる。
なお、セラミックスボールを焼成する場合にバインダーとして粘土を混合粉末に対して20〜40質量%加えてもよい。
【0012】
本発明者らはさらに注目したものは、腐植酸を飼料に少量混合して与えると、魚介類の生存率が向上することが明らかになった。
また、ケイ酸塩鉱物の粉末には多くのミネラル成分が含まれていることから、餌に極く少量添加してやるとさらに魚介類の成長速度が速く、生存率も向上した。
代謝促進と免疫力の向上作用も認められた。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る浄化活性剤は、魚介類の飼育水の浄化及び良好な飼育環境を維持することができ、魚介類の生存率が向上し養殖産業に貢献できる。
また、魚介類の飼育水あるいは飼料に腐植酸を添加、さらには少量のケイ酸塩鉱物の粉末を飼料に添加することでさらに生存率が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に具体的な魚介類の養殖例について説明する。
約12,000mの養殖池でエビを養殖していた従来の実績は、約50万匹の稚エビを放流し、約5ヶ月間飼育し、成長エビとして出荷できるまでに生存する割合は平均で約66%であった。
【0015】
上記の養殖池を用いて次のような養殖実験を行った。
養殖池のヘドロ除去後に約10mの水量中にケイ酸塩鉱物の粉末5kg(300〜360メッシュ),ケイ酸塩鉱物のセラミックスボール15kgを投入し、腐植酸20リットルを散布した。
粉末は流紋岩:ヒスイ輝石:白土を10:5:10の質量割合に混合したものを用い、これに腐植酸を1〜5%含浸させた。
上記のように養殖池を調整後、約1ヶ月間経過した後に稚エビ51万匹放流した。
これと合せて上記混合粉末を用いた約直径10〜20mmのセラミックスボールに1〜5%の腐植酸を含浸乾燥させたものを600個投入した。
与える餌には質量で約500分の1の割合で腐植酸と上記ケイ酸塩鉱物の粉末を添加して与えた。
その結果、約6ヶ月間で60匹/kgの大きさまで成長し、その生存率は98%の約50万匹であった。
これにより生存率が従来の約66%から98%まで向上するのみならず、成長が速かった。
また、飼育水の水質が安定し嫌な臭いの発生もなく、エビの健康状態も良好であった。
【0016】
次にナマコの養殖実験を行った。
16mの水槽に腐植酸40リットルと上記セラミックスボール(腐植酸含浸)5kg,粉末(腐植酸含浸)4kgを投入し、幼生ナマコ約400万匹放流した。
40日経過後の時点で大きさ約6mmまでに成長し、生存数は約300万匹を超えていた。
これに対して従来は生存率約25%であり、大きさも4mm程度あることから成長が速く、生存率が向上したことが明らかになった。
なお、実験はエビとナマコで行ったが魚類等、各種水産資源に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸塩鉱物の粉末又は当該粉末の焼成体に、腐植酸を混合又は含浸させたことを特徴とする魚介類飼育水の浄化活性剤。
【請求項2】
前記ケイ酸塩鉱物の粉末は、イノケイ酸塩鉱物4〜20質量%,フイロケイ酸塩鉱物16〜40質量%及び残部がそれ以外のケイ酸塩鉱物からなる混合粉末であることを特徴とする請求項1記載の魚介類飼育水の浄化活性剤。
【請求項3】
魚介類の養殖池に請求項1又は2記載の浄化活性剤を投入することで、飼育水の浄化及び活性化を図り、飼料に腐植酸又は/及びケイ酸塩鉱物の粉末を混合して与えることを特徴とする魚介類の養殖方法。

【公開番号】特開2013−104(P2013−104A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137561(P2011−137561)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(510290256)
【出願人】(510290267)
【出願人】(510290278)株式会社三共セラミックス (2)
【Fターム(参考)】