説明

魚礁

【課題】 水生生物の生活基盤となって魚礁を核とする生態系を形成することが可能であり、水質の浄化にも寄与しうる魚礁を提供する。また、魚礁の設置や解体の負担を軽減しうる魚礁を提供する。
【解決手段】 多孔質材10を収容した籠12と、籠12の底部12bが水底から一定の距離を形成するように籠12を支持し、籠12の底部12bと水底との間に形成された空間に水の流れを形成する躯体14と、からなる魚礁1により解決する。なお、躯体14は、躯体14の一部を構成するユニット20が複数個集合して構成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水底に設置される魚礁に関し、詳細には、水生生物の生活基盤となり生態系の形成を促す魚礁に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでも人工魚礁については多くの提案がなされているが、建築廃材や鉄筋、古タイヤを利用したものが多い。例えば、間伐材を複数段に交差連結して組み立てた有底部の枠内部に捨石材を収納すると共に、魚礁を構成する間伐材及び捨石材に海藻類を着生させる魚礁が開示されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−218861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の枠内に捨石材を積み上げたタイプの魚礁は、底面に僅かな隙間が形成され、そこに小型生物が一時的に定着する可能性はあるが、堆積物が堆積しやすく、時間の経過と共にその隙間は埋まってしまう。すると、定着していた小型生物の生息が不可能となるとともに、捨石材の間の水域の水の流れが悪くなり、死水域が形成されやすい環境になってしまう。そのため、魚礁そのものが生物にとって好ましい環境とはいえなくなる。
【0004】
また、従来の魚礁は構造的に魚類や甲殻類が定着しやすいように構成されているものが多いが、水質浄化やその魚礁を核とする生態系を形成することについて考慮した魚礁はほとんどない。
【0005】
更に、一般に魚礁を構成する部材は相当の重量を有する。そのため、魚礁の設置も大型の機械を用いて行わなければならない。また、魚礁は水底に一旦設置した後は容易に解体又は移動をすることができない。そのため、魚礁の設置や解体のための負担が大きい。
【0006】
従って、本発明の目的は、魚礁が水生生物の生活基盤となって魚礁を核とする生態系を形成することが可能であり、水質の浄化にも寄与しうる魚礁を提供することである。また、本発明の他の目的は、魚礁の設置や解体の負担を軽減しうる魚礁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、多孔質材が海産無脊椎動物の繁殖基盤として有効であり、それを餌にする魚類が集まることによって魚礁を核とする生態系が形成されることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、上記の知見に基づきなされたものであり、多孔質材を収容した籠と、該籠の底部が水底から一定の距離を形成するように該籠を支持し、該籠の底部と水底との間に形成された空間に水の流れを形成する躯体と、からなる魚礁を提供するものである。
【0009】
多孔質材は微生物の定着が良好であるため、これを餌にする無脊椎動物や甲殻類が定着する。そしてこれらの無脊椎動物や甲殻類を餌にする小型魚類の集魚効果、その小型魚類を餌にする中型魚類、更には小型魚類又は中型魚類を餌にする大型魚類の集魚効果が期待できる。即ち、本発明の魚礁を出発点とする食物連鎖が形成される。換言すれば、本発明の魚礁を核とする生態系を構築することができる。
【0010】
また、多孔質材を収容した籠が浮き魚礁として機能することにより、水底と多孔質材との間に一定の空間を形成することができる。そして、その空間に水の流れを形成することができる結果、水質浄化機能をより効果的に発揮すると共に、当該空間を好む生物の定着も期待できる。
【0011】
上記発明の好ましい態様は以下の通りである。前記多孔質材は、軽石であることが好ましい。軽石は天然の多孔質材であり、多数の小孔を有しているため水質浄化機能が高い。また、微生物や無脊椎動物の定着が良好であるため、生態系の構築に好適である。
【0012】
前記籠は、着脱可能に装着されてなることが好ましい。このような構成により、多孔質材の取替えを行うことが可能となり、水の流れを常に良好な状態に保持することができる。また、取り替えられた籠は他の水域に移動され、新たな生態系の核として利用することができる。
【0013】
前記躯体は、梁部と該梁部を支持する柱部とからなることが好ましい。所定間隔で梁部と柱部が形成されることにより、各種魚類が生活するのに適した空間を形成することができる。また、梁部や柱部に海藻類を定着させたり、貝類を定着させることが可能となる。
【0014】
前記躯体は、コンクリート、鉄又はプラスチックからなることが好ましい。コンクリートや鉄を用いた場合は、魚礁が水底で移動するのを防止することができ、プラスチックを用いた場合は、浮き魚礁として水中の上層や中層に魚礁を設置することができる。
【0015】
前記躯体は、前記躯体の一部を構成するユニットが複数個集合して構成されたものであることが好ましい。このような構成により、魚礁の設置時に躯体を分割して移動することができるため設置時の負担を軽減することができる。また、魚礁を移動する必要が生じた場合でも分解が容易となる。
【0016】
前記躯体に、タイヤが装着されてなることが好ましい。このような構成により、古タイヤの有効利用を図ることができると共に、古タイヤ内の空間が魚介類にとって快適な空間となるため、魚礁に定着する生物種の増加をより促進させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の魚礁は、水生生物の生活基盤となって、魚礁を核とする生態系を形成することができる。また、水質の浄化にも寄与しうる。更に、魚礁の設置や解体の負担が少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ更に具体的に説明する。図1は、本実施形態に係る魚礁1の全体斜視図である。また、図2は、魚礁1の一部が取り除かれた状態を示す図である。
【0019】
図1及び図2に示すように、本実施形態の魚礁1は、多孔質材10を収容した籠12と、籠12の底部12bが水底から一定の距離hを形成するように籠12を支持し、12籠の底部12bと水底との間に形成された空間に水の流れを形成する躯体14と、からなる。
【0020】
多孔質材10は、表面に多数の小孔が形成された材質のものが好ましい。多孔質材10の具体例としては、例えば、軽石、多孔質のコンクリート等を挙げることができる。特に、多孔質材10として軽石を用いることにより、優れた浄水効果と、微生物や無脊椎動物の着生効果を得ることができる。
【0021】
多孔質材10の大きさは、後述する籠12の大きさや籠12に収容する多孔質材10の数に応じて適宜決定されるが、無脊椎動物や貝類が着生することができ、多孔質材10同士の隙間に甲殻類や幼魚・稚魚等の小型の生物が繁殖するのに適した隙間を形成させることを考慮すれば、ヒトの拳〜西瓜程度の大きさを有することが好ましい。
【0022】
籠12は、多孔質材10を収容し、水底との距離(図2中、「h」と表記する)を一定に保持するために、後述する躯体14に固定されるものである。籠12は多孔質材10に海水が満遍なく行き渡るように、全体が網目状に形成されていることが好ましい。また、多孔質材10の重量に耐えうる程度の剛性を有していることが好ましい。なお、多孔質材10として軽石を選択した場合は、魚礁の設置時は軽石内に空気を多く含んでいるため軽石が浮いてしまう。そのため、軽石の浮上を防止するための蓋部12aを有していることが好ましい。
【0023】
籠12は、装着手段に16よって躯体14に着脱可能に装着されている。装着手段16は、水中で容易に離脱しない手段で固定することができるものであれば特に制限はなく、例えば、ロープ、ワイヤ、ボルト・ナット等を用いることができる。そのため、仮に多孔質材10(特に軽石)が破砕してその量が減少した場合でも、多孔質材10の補充が容易に行える。なお、軽石は砕けると最後は砂になることから、環境の汚染物質となる心配はない。
【0024】
躯体14は、魚類が好むような空間を形成するという観点から、水平方向に形成された梁部14aと、垂直方向に形成され、梁部14aを支持する柱部14bとからなることが好ましい。躯体14の平面形状は略六角形で、中心部に籠12を保持する空間が形成されており、この空間に籠12が設置されている。
【0025】
躯体14の材質は、コンクリート、鉄、プラスチック等を利用することができる。躯体14の材質は魚礁1の設置場所に応じて適宜変更することができる。例えば、水底に魚礁1を設置する場合は、コンクリートや鉄等、浮力を有しない材質のものを使用することにより、水底での魚礁の移動を防止することができる。また、塩ビパイプにコンクリートを流し込んで固めたものや、コンクリート廃材や鉄廃材等を塩ビパイプに詰め込んだものを使用することもできる。
【0026】
一方、魚礁1を浮き魚礁として水中の上層や中層に設置する場合は、塩ビ等のプラスチック製のパイプを用いて、浮力を付与することができる。また、魚礁1に図示しない浮きを接続し、魚礁1に浮力を付与することもできる。ここで、「浮き魚礁」とは、水底に接地していない魚礁をいう。
【0027】
この躯体14は、魚礁1の組立てや分解を容易にするため、躯体14の一部を構成するユニット20が複数個集合したものである。
【0028】
図3は、躯体14の一部を構成するユニット20の全体形状を示す図である。ユニット20の上面及び下面は、底角が60°の二等辺台形の角柱形状の梁部14aと梁部14aを支持する柱部14bで構成されている。
【0029】
なお、躯体14の形状は種々の形状に変更することができ、例えば、平面形状がドーナツ形、十字形、四角形等の立方体形状にすることも可能である。また、ユニット20の形状も、躯体の14全体形状に応じて適宜変更することが可能である。
【0030】
ユニット20の接続方法としては、図1及び図2に示すように、使用済みのタイヤ22の半径方向の一箇所を切断したものを用いて、隣接する梁部14a及び/又は柱部14bに巻きつけることによりユニット20同士を接続することができる。タイヤ22を利用することにより、タイヤ22内に形成された空間に生物が定住することができるようになる。但し、接続方法としてはこれに限定されず、例えば、ロープ、ワイヤ、ボルト・ナット等、ユニット20同士を接続することができるものを用いて接続を行うこともできる。
【0031】
図2に示すように、籠12は、水底とは接触せず、水底から一定の距離(図2中、「h」と表記する)が保たれている。これにより、籠12の底部12bと水底との間に形成された空間は水の流れが妨げられることがなく、堆積物の堆積を防止し、水の腐敗を未然に防止することができる。
【0032】
魚礁1の大きさは必要に応じて適宜設定することができるが、仮に魚礁の直径が5m以上のものを大型、3〜5m未満のものを中型、3m未満のものを小型とすると、小型の魚礁は、海釣り公園の海中や堤防や防波堤の内海側等に設置し、魚類の蝟集や、釣り場などの拡大を図ることができる。
【0033】
また、沿岸域や沖合いの浅海では、大・中型の魚礁をやや深場に設置し、岩礁や磯場の模擬的な構築物として、藻場の造成、魚類や甲殻類の産卵床、稚仔の育成の場としてこれを確保できる。
【0034】
また、回遊性の魚類(例えばボラなど)の蝟集効果があり、根付きの魚類(例えば石鯛や真鯛、他の小魚)の滞留床に供することができる。
【0035】
沿岸生物相のうち最も基礎的な付着生物は、沿岸水域に棲む生物の食物連鎖では下位に位置しているものが多い。この軽石の基盤とその周辺には、軽石への付着生物を中心とした生態系が構築される。
【0036】
魚礁1の設置は、2月〜6月の間に行うことが生物の着生の観点から好ましい。かかる時期以外の時期に魚礁1を設置しても本発明の効果を得ることはできるが、特に2月〜6月の間に魚礁1設置すると、特に軽石への生物の着生効率が向上することが判明している。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係る魚礁は、水質浄化作用に優れ、小さな生態系を構成することができるため、海水域における魚礁としての利用のみならず、淡水域における魚礁としての利用も可能である。特に、海や川に比べて水の対流が起こりにくい湖沼、沼池、河川の遊水地などの水域に利用し、水の腐敗を防止すると共に、淡水域に生息する水生生物の保護及び育成が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施形態に係る魚礁1の全体斜視図である。
【図2】魚礁1の一部が取り除かれた状態を示す図である。
【図3】躯体14の一部を構成するユニット20の全体形状を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1…魚礁、10…多孔質材、12…籠、14…躯体、16…装着手段、20…ユニット、22…タイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材を収容した籠と、
該籠の底部が水底から一定の距離を形成するように該籠を支持し、該籠の底部と水底との間に形成された空間に水の流れを形成する躯体と、
からなる魚礁。
【請求項2】
前記多孔質材が、軽石であることを特徴とする請求項1に記載の魚礁。
【請求項3】
前記籠が、着脱可能に装着されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の魚礁。
【請求項4】
前記躯体が、梁部と該梁部を支持する柱部とからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の魚礁。
【請求項5】
前記躯体が、コンクリート、鉄又はプラスチックからなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の魚礁。
【請求項6】
前記躯体が、前記躯体の一部を構成するユニットが複数個集合して構成されたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の魚礁。
【請求項7】
前記躯体に、タイヤが装着されてなる請求項1〜6のいずれか1項記載の魚礁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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