説明

魚肉の劣化防止方法

【課題】魚肉の質を維持しつつ、しかも手間や時間がかからない、魚肉の劣化防止方法を提供する。
【解決手段】魚10を締め処理する第1ステップと、該締め処理をした魚の尻鰭11の後端部における表皮に、エアガン20の先端で孔11aをあける第2ステップと、該表皮にあけた孔から魚の体内に、エアガンで一酸化炭素ガスを注入する第3ステップと、を含む魚肉の劣化防止方法を構成する。これにより、魚10が暴れることがなく、魚肉の質を維持できると共に、包丁等により魚10を切る必要がないので、作業効率が良く、手間や時間がかからないで、魚肉の劣化を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚の魚肉に一酸化炭素ガスを作用させることにより、該魚肉の劣化を防止するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、魚(特に鰤,ハマチ,カンパチ等の赤身魚肉の中型魚)の魚肉は、ミオグロビンやヘモグロビンなどの赤色色素を多く含み、これらが酸化してオキシミオグロビンからメトミオグロビンが生成すると、魚肉が褐色に変化(メト化)して商品価値が下がることから、該魚肉に一酸化炭素ガスを作用させることによりメト化を防止する、魚肉の劣化防止方法が知られている。
【0003】
この方法としては、特許文献1に示すように、生魚を収容した容器内の空間又は水中に一酸化炭素ガスを拡散させることにより、該生魚の鰓から一酸化炭素ガスを吸収させる方法(第1の方法)が知られている。また特許文献2に示すように、魚の表皮と魚肉との間の表皮下層に針を挿入し、該針を介して表皮下層に一酸化炭素ガスを注入する方法(第2の方法)や、魚の延髄(脊動脈)に針を挿入し、該針を介して延髄に一酸化炭素ガスを注入する方法(第3の方法)も知られている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−129627号公報(請求項1,図1)
【特許文献2】特開2004−081048号公報(請求項6,請求項7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の第1の方法では、一酸化炭素を吸収した魚が、中毒を起こして暴れもがくので、打ち身ができて鬱血し、また苦悶死するので、魚肉の質が悪くなるという問題がある。また上記の第2の方法では、魚の表皮と魚肉との間の表皮下層に針を挿入するので、表皮と魚肉とが剥がれて、魚肉の質が悪くなるという問題がある。さらに上記の第3の方法では、延髄が露出するまで包丁等により魚の頭部を切らなければならないので、手間と時間がかかると共に、一酸化炭素ガスの浸透がまばらになるので、魚肉の質にばらつきが出るという問題がある。
【0006】
本発明は、このような背景のもとになされたものであり、その目的は、魚肉の質を維持しつつ、しかも手間や時間がかからない、魚肉の劣化防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために、次のような手段を採る。なお後述する発明を実施するための最良の形態の説明及び図面で使用した符号を参考のために括弧書きで付記するが、本発明の構成要素は該付記したものには限定されない。
【0008】
まず請求項1に係る発明は、図3に示すように、魚(10)を締め処理する第1ステップと、該締め処理をした魚の尻鰭(11)の後端部における表皮に(エアガン20の先端で)孔(11a)をあける第2ステップと、該表皮にあけた孔から前記魚の体内に(エアガン20で)一酸化炭素ガスを注入する第3ステップと、を含むことを特徴とする魚肉の劣化防止方法である。
【0009】
また請求項2に係る発明は、図4に示すように、魚(10)を締め処理する第1ステップと、該締め処理をした魚の鰓(12)を開き、該鰓の奥にある膜(13)に(エアガン20の先端で)孔(13a)をあける第2ステップと、該膜にあけた孔から前記魚の体内に(エアガン20で)一酸化炭素ガスを注入する第3ステップと、を含むことを特徴とする魚肉の劣化防止方法である。
【0010】
また請求項3に係る発明は、図5に示すように、魚(10)を締め処理する第1ステップと、該締め処理をした魚の肛門(14)から該魚の体内に(エアガン20で)一酸化炭素ガスを注入する第2ステップと、を含むことを特徴とする魚肉の劣化防止方法である。
【0011】
さらに請求項4に係る発明は、図6に示すように、魚(10)を締め処理する第1ステップと、該締め処理をした魚の胸鰭(15)の付け根近傍に存在する孔(15a)から該魚の体内に(エアガン20で)一酸化炭素ガスを注入する第2ステップと、を含むことを特徴とする魚肉の劣化防止方法である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1〜4に係る魚肉の劣化防止方法によれば、魚を締め処理してから該魚の体内に一酸化炭素ガスを注入するので、魚が暴れることがなく、魚肉の質を維持できると共に、包丁等により魚を切る必要がないので、作業効率が良く、手間や時間がかからないで、魚肉の劣化を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る魚肉の劣化防止方法について、図面を参照して説明する。まず図1は、本発明による処理の対象となる魚10の一例である鰤を表す側面図である。この魚10は、頭部から尾部にかけて紡錘形を呈し、その側面には鰓12,胸鰭15等があり、その腹側には腹鰭,肛門14,尻鰭11等がある、一般的なものである。ここで尻鰭11の後端部における表皮は、該尻鰭11が動きやすいように、薄皮になっている。また鰓12を開けると、後述する図3に示す膜13がある。さらに胸鰭15の付け根近傍には、後述する図6に示す孔15aが存在する。本発明は、特に鰤,ハマチ,カンパチ等の赤身魚肉の中型魚に適するが、該赤身魚肉以外又は中型魚以外の魚10であっても良い。
【0014】
次に図2は、本発明で使用されるエアガン20の一例を表す側面図である。このエアガン20は、図示しないコンプレッサと接続されており、引き金22を引いている間、該コンプレッサより所定の圧力で供給される一酸化炭素ガスが、銃身21の先端21aから放出されるように構成されている、一般的なものである。また先端21aは、魚10の表皮や後述する膜13を突き破ることができるように、鋭利に構成されている。
【0015】
次に図3は、本発明の第1実施形態を表す図である。この第1実施形態では、まず魚10を締め処理する第1ステップが行われる。ここでは該締め処理として、図示しないが、氷を入れて水温を12℃以下にした水槽の中に、生きている魚10を入れて、該魚10が暴れなくなるまで待つ、いわゆる氷締めを行う。なお締め処理としては、生きている魚10から血を抜く、いわゆる活け締めであっても良く、また他の締め処理であっても良い。
【0016】
次に第1実施形態では、前記締め処理をした魚10の尻鰭11の後端部における表皮に孔11aをあける第2ステップと、該表皮にあけた孔11aから魚10の体内に一酸化炭素ガスを注入する第3ステップと、が行われる。具体的には、図3に示すように、まず第2ステップとして、エアガン20の鋭利な先端21aを、尻鰭11の後端部における前記薄皮の表皮に突き刺すことにより、該先端21aによって孔11aがあけられる。次に第3ステップとして、孔11aに先端21aを挿入した状態で該エアガン20の引き金を引くことにより、コンプレッサより所定の圧力で供給される一酸化炭素ガスが先端21aから放出されて、腹腔を通じて魚10の体内に一酸化炭素ガスが注入され、所定時間経過後に引き金22を戻すことにより、一酸化炭素ガスの放出が停止して、処理が終了する。これにより、従来の技術で説明した第1〜第3の方法と同様のメカニズムで、魚肉の劣化(メト化)が防止される。
【0017】
次に図4は、本発明の第2実施形態を表す図である。この第2実施形態では、前記第1実施形態と同様に、まず魚10を締め処理する第1ステップが行われ、次に前記締め処理をした魚10の鰓12を開き、該鰓12の奥にある膜13に孔13aをあける第2ステップと、該膜13にあけた孔13aから魚10の体内に一酸化炭素ガスを注入する第3ステップと、が行われる。具体的には、図4に示すように、まず第2ステップとして、魚10の鰓12を開き、エアガン20の鋭利な先端21aを、該鰓12の奥にある膜13に突き刺すことにより、該先端21aによって孔13aがあけられる。次に第3ステップとして、孔13aに先端21aを挿入した状態で該エアガン20の引き金を引くことにより、コンプレッサより所定の圧力で供給される一酸化炭素ガスが先端21aから放出されて、腹腔を通じて魚10の体内に一酸化炭素ガスが注入され、所定時間経過後に引き金22を戻すことにより、一酸化炭素ガスの放出が停止して、処理が終了する。これにより、従来の技術で説明した第1〜第3の方法と同様のメカニズムで、魚肉の劣化(メト化)が防止される。
【0018】
次に図5は、本発明の第3実施形態を表す図である。この第3実施形態では、前記第1実施形態と同様に、まず魚10を締め処理する第1ステップが行われ、次に前記締め処理をした魚10の肛門14から該魚10の体内に一酸化炭素ガスを注入する第2ステップが行われる。具体的には、図5に示すように、第2ステップとして、エアガン20の先端21aを肛門14に挿入し、肛門14に先端21aを挿入した状態で該エアガン20の引き金を引くことにより、コンプレッサより所定の圧力で供給される一酸化炭素ガスが先端21aから放出されて、消化管を通じて魚10の体内に一酸化炭素ガスが注入され、所定時間経過後に引き金22を戻すことにより、一酸化炭素ガスの放出が停止して、処理が終了する。これにより、従来の技術で説明した第1〜第3の方法と同様のメカニズムで、魚肉の劣化(メト化)が防止される。
【0019】
次に図6は、本発明の第4実施形態を表す図である。この第4実施形態では、前記第1実施形態と同様に、まず魚10を締め処理する第1ステップが行われ、次に前記締め処理をした魚10の胸鰭15の付け根近傍に存在する孔15aから該魚10の体内に一酸化炭素ガスを注入する第2ステップが行われる。具体的には、図6に示すように、第2ステップとして、エアガン20の先端21aを孔15aに挿入し、孔15aに先端21aを挿入した状態で該エアガン20の引き金を引くことにより、コンプレッサより所定の圧力で供給される一酸化炭素ガスが先端21aから放出されて、腹腔を通じて魚10の体内に一酸化炭素ガスが注入され、所定時間経過後に引き金22を戻すことにより、一酸化炭素ガスの放出が停止して、処理が終了する。これにより、従来の技術で説明した第1〜第3の方法と同様のメカニズムで、魚肉の劣化(メト化)が防止される。
【0020】
以上に説明した第1〜第4実施形態によれば、魚10を締め処理してから該魚10の体内に一酸化炭素ガスを注入するので、魚10が暴れることがなく、魚肉の質を維持できると共に、包丁等により魚10を切る必要がないので、作業効率が良く、手間や時間がかからないで、魚肉の劣化を防止することができる。つまり、従来の技術で説明した第1〜第3の方法と同様のメカニズムで、魚肉の劣化(メト化)が防止されるが、該方法に比べて、魚肉の質や作業効率は著しく向上する。
【実施例】
【0021】
魚10として鰤を対象とする上記第1,第2実施形態において、第1ステップとして、10分間の氷締めを行った後、第3ステップとして、1800ccの一酸化炭素ガスを、0.04MPaの圧力で、3〜7秒間注入したところ、短時間の処理で、良好な身質の魚肉が得られた。
【0022】
同様に、魚10として鰤を対象とする上記第3,第4実施形態において、第1ステップとして、10分間の氷締めを行った後、第2ステップとして、1800ccの一酸化炭素ガスを、0.04MPaの圧力で、3〜7秒間注入したところ、短時間の処理で、良好な身質の魚肉が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は本発明に係る魚肉の劣化防止方法による処理の対象となる魚の一例である鰤を表す側面図である。
【図2】図2は本発明に係る魚肉の劣化防止方法で使用されるエアガンの一例を表す側面図である。
【図3】図3は本発明に係る魚肉の劣化防止方法の第1実施形態を表す図である。
【図4】図4は本発明に係る魚肉の劣化防止方法の第2実施形態を表す図である。
【図5】図5は本発明に係る魚肉の劣化防止方法の第3実施形態を表す図である。
【図6】図6は本発明に係る魚肉の劣化防止方法の第4実施形態を表す図である。
【符号の説明】
【0024】
10…魚
11…尻鰭
11a…孔
12…鰓
13…膜
13a…孔
14…肛門
15…胸鰭
15a…孔
20…エアガン
21…銃身
21a…先端
22…引き金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚を締め処理する第1ステップと、
該締め処理をした魚の尻鰭の後端部における表皮に孔をあける第2ステップと、
該表皮にあけた孔から前記魚の体内に一酸化炭素ガスを注入する第3ステップと、を含むことを特徴とする魚肉の劣化防止方法。
【請求項2】
魚を締め処理する第1ステップと、
該締め処理をした魚の鰓を開き、該鰓の奥にある膜に孔をあける第2ステップと、
該膜にあけた孔から前記魚の体内に一酸化炭素ガスを注入する第3ステップと、を含むことを特徴とする魚肉の劣化防止方法。
【請求項3】
魚を締め処理する第1ステップと、
該締め処理をした魚の肛門から該魚の体内に一酸化炭素ガスを注入する第2ステップと、を含むことを特徴とする魚肉の劣化防止方法。
【請求項4】
魚を締め処理する第1ステップと、
該締め処理をした魚の胸鰭の付け根近傍に存在する孔から該魚の体内に一酸化炭素ガスを注入する第2ステップと、を含むことを特徴とする魚肉の劣化防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−253233(P2008−253233A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102232(P2007−102232)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【出願人】(507149800)株式会社奈良 (1)
【Fターム(参考)】