魚肉用退色防止剤
【課題】天然由来で安全性の高い物質を有効成分とし、魚肉の退色及び/又は変色を有効かつ効果的に抑制、防止する剤及び方法を提供する。
【解決手段】米や小麦等の植物種子細胞壁に存在する抗酸化成分であるフェルラ酸とビタミンCを所定の割合で併用し、更にpH調整剤を所定量配合して得られる剤を用いることで、特に酸化反応が関与する魚肉の退色及び/又は変色(ミオグロビンの褐変、カロテノイド色素の退色・変色、油焼けなど)を効果的に抑制する。
【解決手段】米や小麦等の植物種子細胞壁に存在する抗酸化成分であるフェルラ酸とビタミンCを所定の割合で併用し、更にpH調整剤を所定量配合して得られる剤を用いることで、特に酸化反応が関与する魚肉の退色及び/又は変色(ミオグロビンの褐変、カロテノイド色素の退色・変色、油焼けなど)を効果的に抑制する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類、特に魚肉の退色及び/又は変色防止・抑制剤に関する。詳細には、食品用途で用いられる、安全性の高い天然物由来の成分を有効成分とした、魚肉の退色及び/又は変色防止・抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
魚介類の品質については、その味(風味)だけでなく色(外観)や食感(テクスチャー)など様々な点で評価されるが、そのうち色(外観)については、魚介類(特に非加熱販売される魚介類)の商品価値を大きく左右する最も重要な要因と考えられている。例えば、一般の消費者が小売店で魚介類を購入する場合、その風味や食感を確認してから商品を選択することは非常に困難であり、色(外観)がほぼ唯一の選択基準となる。
【0003】
魚介類は、その冷凍・解凍処理や加工処理、保存に伴って変色・退色現象が見られることが多い。特に魚肉は、畜肉と比較して鮮度低下が速く、また冷解凍耐性も低いため、魚肉の変色・退色は魚介類の品質維持という点で非常に大きな問題となっている。魚肉の変色・退色現象は、その起因となる物質や反応として様々なものが知られている。
【0004】
アジやマグロ類などの赤身の魚肉は、新鮮な状態では鮮赤色である。これは、色素タンパク質であるミオグロビン(オキシミオグロビン)の色であるが、常温保存や冷凍・解凍処理などにより酸化(自動酸化、メト化)され、褐色のメトミオグロビンとなる。ミオグロビンは酸素との親和性が高く、特に魚類のミオグロビンは哺乳動物の数倍も自動酸化されやすいという報告もある。
【0005】
サバ、アジ、イワシなどの脂肪含量の多い魚類の乾製品(干物)、塩蔵品、煮干などでは、加工中および貯蔵中に脂質酸化が進んで、魚肉がオレンジ色、黄色、赤褐色等に変化する油焼け現象が見られることがある。脂質(主に不飽和脂肪酸)の自動酸化により生じたカルボニル化合物とアミノ酸等のメイラード反応生成物が原因物質とされているが、着色物の化学構造は不明である。
油焼けしたものは、色調(外観)の劣化のみならず味や香りなど風味の劣化や栄養価の低下なども伴うため、非常に問題視されている。
【0006】
サケやマス(サケ類)、タイ、赤魚、ホウボウ、ホッケなどは、カロテノイド色素(アスタキサンチン、ツナキサンチン等)により魚肉や体表が着色している。これらは、特に冷蔵、冷凍保存中に徐々に退色する現象が見られ、カロテノイド色素の酸化・異性化による無色化が原因と考えられている。また、赤魚では保存中に魚体表面が黒変(変色)する現象も見受けられる。なお、酸素や光だけでなく、不飽和脂肪酸の過酸化物が退色及び/又は変色の原因となる場合もある。
【0007】
その他には、エビ、カニの黒変(メラニン生成)や、酸化反応が関与しないものとして油脂の少ない白身の魚介類(タラ、イカ、ホタテ等)のメイラード反応による褐変(非酵素的褐変)、イカ、タコの表皮色素破壊による変色なども問題となっている。
【0008】
上述のように、魚介類の変色・退色はその起因となる物質や反応は様々であるが、多くの場合は酸化反応が関与している。この酸化反応を防ぐことで、魚介類の変色・退色を防止できる可能性が高まるが、この酸化反応を防ぐ有効な方法は多くはなく、実際には酸化促進要因の除去方法(酸素との接触を避ける等)、酸化反応を阻止する方法(抗酸化剤の使用等)、及びこれらを組み合わせる方法しかない。
【0009】
魚介類と酸素との接触を避ける方法としては、魚介類を真空パックする方法などがあるが、コスト的な問題があり、かつ、魚介類の加工工程、流通工程の全てを真空状態とすることは不可能に近い。また、酸素以外の酸化促進物質については不明な点も多く、この物質のみを選択的に除去することはできない。
【0010】
よって、多くの場合は魚介類に抗酸化剤を使用することを基本技術とし、場合によって酸素との接触を避ける方法を組み合わせることがなされている。
魚介類の変色・退色抑制目的の抗酸化剤としては、市販品として実用化されているものでは、食品の抗酸化剤としてよく使用されるビタミンCが有効成分として最も多く用いられている(特許文献1)。また、ビタミンCとビタミンEを併用したもの(特許文献2)や、カテキンを含む茶抽出物(特許文献3)等が用いられているものもある。さらには、プロアントシアニジンを併用したものも提供されている(特許文献4)。
【0011】
しかし、いずれの抗酸化剤も、魚肉退色・変色抑制の効果発揮という点で十分ではなく、当業界において魚肉への添加や浸漬により充分な退色・変色抑制効果を奏する天然由来で安全な成分(剤)、及び方法の提供が強く求められているが、未だ満足できるものは提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−047396号公報
【特許文献2】特開2005−278593号公報
【特許文献3】特開2003−334035号公報
【特許文献4】特開2004−016013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、天然由来で安全性の高い物質を有効成分とし、魚肉の退色及び/又は変色を有効かつ効果的に抑制及び/又は防止する剤、及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を行い、米や小麦等の植物種子細胞壁に存在する抗酸化成分であるフェルラ酸とビタミンCを所定の割合で併用し、更にpH調整剤を所定量配合して得られる剤(フェルラ酸、ビタミンC、pH調整剤の3成分を有効成分とする剤)を用いて魚肉を浸漬、あるいは魚肉に直接添加することで、特に酸化反応が関与した魚肉の退色及び/又は変色(ミオグロビンの褐変、カロテノイド色素の退色・変色、油焼けなど)を効果的に抑制することを見出し、本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)アスコルビン酸又はアスコルビン酸ナトリウム、フェルラ酸、pH調整剤の3成分を有効成分として含有することを特徴とする魚肉の退色及び/又は変色抑制剤。
(2)アスコルビン酸又はアスコルビン酸ナトリウム、フェルラ酸、pH調整剤(特に炭酸カリウム)及び塩化ナトリウムからなることを特徴とする魚肉の退色及び/又は変色抑制剤。
(3)pH調整剤が炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、リンゴ酸ナトリウムから選ばれる1以上からなる(好ましくは炭酸カリウムのみからなる)ことを特徴とする(1)又は(2)に記載の剤。
(4)カロテノイド色素(特にアスタキサンチン、ツナキサンチン)、ミオグロビン、不飽和脂肪酸から選ばれる1以上を含有する(特に、カロテノイド色素、ミオグロビン、不飽和脂肪酸から選ばれる1以上の物質の分解、酸化、変質のいずれかが原因である)魚肉の退色及び/又は変色を抑制することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1つに記載の剤。
(5)サケ類、マグロ類、赤魚、アジ、ホッケ、サバのいずれか(少なくともひとつ)の魚肉の退色及び/又は変色を抑制することを特徴とする(4)に記載の剤。
(6)アスコルビン酸又はアスコルビン酸ナトリウムを15〜35重量%(好ましくは18〜30重量%)、フェルラ酸を0.2〜5重量%(好ましくは0.5〜3.0重量%)、pH調整剤を50〜75重量%(好ましくは55〜75重量%)で含有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1つに記載の(魚肉浸漬処理用の)剤。
(7)アスコルビン酸又はアスコルビン酸ナトリウムを0.5〜10重量%(好ましくは1〜5重量%)、フェルラ酸を0.1〜5重量%(好ましくは0.2〜3.0重量%)、pH調整剤を40〜99重量%(好ましくは50〜75重量%)で含有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1つに記載の(魚肉直接添加用の)剤。
(8)(6)に記載の剤を0.3〜1.0重量%(好ましくは0.4〜0.6重量%)含む浸漬液で、魚肉を0.5〜20時間浸漬処理することを特徴とする魚肉の退色及び/又は変色抑制方法。
(9)浸漬液のpHを10.0〜10.5とし、浸漬温度を0〜30℃(好ましくは0〜10℃)とすることを特徴とする(8)に記載の方法。
(10)(7)に記載の剤を、魚肉に直接添加する処理を行うことを特徴とする魚肉の退色及び/又は変色抑制方法。
(11)カロテノイド色素(特にアスタキサンチン、ツナキサンチン)、ミオグロビン、不飽和脂肪酸から選ばれる1以上を含有する魚肉を処理することを特徴とする(8)〜(10)のいずれか1つに記載の方法。
(12)処理する魚肉が、サケ類、マグロ類、赤魚、アジ、ホッケ、サバのいずれか(少なくともひとつ)であることを特徴とする(11)に記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フェルラ酸、ビタミンC、pH調整剤の3成分を有効成分とする剤を用いて魚肉を処理することにより、魚肉中のミオグロビンの褐変やカロテノイド色素の退色・変色、魚介類乾燥品等の油焼けなどを有効かつ効果的に抑制し、魚肉の色(外観)を当初のまま保つことができる。これにより、魚介類(特に非加熱魚介類加工品)の品質維持、向上を図ることができ、よって、魚介類の商品価値をより高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】鮭の魚肉退色抑制試験I(自社従来品との比較試験)における、各試験区の色差測定結果グラフを示す。なお、グラフは縦軸をa値(a*)、横軸をL値(L*)とし、プロットがグラフの左上に近いほど鮭の魚肉の赤色が鮮明である(退色が抑制されている)ことを示す(以下の図2〜8も同様である)。
【図2】鮭の魚肉退色抑制試験II(他社従来品との比較試験)における、各試験区の色差測定結果グラフを示す。
【図3】鮭の魚肉退色抑制試験III(各成分単独との効果比較試験)における、各試験区の色差測定結果グラフを示す。
【図4】鮭の魚肉退色抑制試験IV(2成分併用との効果比較試験)における、各試験区の色差測定結果グラフを示す。
【図5】鮭の魚肉退色抑制試験V(茶抽出物との比較試験)における、各試験区の色差測定結果グラフを示す。
【図6】鮭の魚肉退色抑制試験VI(ビタミンC量検討試験)における、各試験区の色差測定結果グラフを示す。
【図7】鮭の魚肉退色抑制試験VII(フェルラ酸量検討試験)における、各試験区の色差測定結果グラフを示す。
【図8】鮭の魚肉退色抑制試験VIII(pH検討試験)における、各試験区の色差測定結果グラフを示す。
【図9】アジ干物の魚肉退色抑制試験における、各試験区の色差測定結果グラフを示す。なお、グラフは縦軸をa値(a*)、横軸をL値(L*)とし、プロットがグラフの左上に近いほどアジ干物の赤色が強い(退色が抑制されている)ことを示す。
【図10】アジ干物の魚肉退色抑制試験における、各試験区の色差測定結果グラフを示す。なお、グラフは縦軸をb値(b*)とした各試験区(1〜3)の棒グラフであり、b値が低いほどアジ干物の黄色が弱い(酸化が抑制されている)ことを示す。
【図11】マグロミンチの褐変抑制試験Iにおける、各試験区の色差測定結果グラフを示す。縦軸をa値(a*)、横軸をL値(L*)とし、プロットがグラフの右上に近いほどマグロの褐変が抑制されていることを示す(以下の図12も同様である)。
【図12】マグロミンチの褐変抑制試験IIにおける、各試験区の色差測定結果グラフを示す。
【図13】ホッケの魚肉退色抑制試験における、各試験区の色差測定結果グラフを示す。なお、グラフは縦軸をa値(a*)、横軸をL値(L*)とし、プロットがグラフの左上に近いほどホッケ魚肉の赤色が強い(退色が抑制されている)ことを示す。
【図14】サバの油焼け抑制試験における、各試験区の過酸化物価(POV)測定結果グラフを示す。
【図15】サバの油焼け抑制試験における、各試験区のTBARS(Thiobarbituric Acid Reactive Substances)測定結果グラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明においては、フェルラ酸とビタミンCを魚肉の退色、変色抑制剤の有効成分とする。フェルラ酸は、主に米、小麦等の植物種子細胞壁に含まれるケイ皮酸誘導体であり、食経験が豊富であり安全性の高い天然由来成分である。その抗酸化作用や紫外線防御作用も知られており、主に化粧品に使用されているが、食品中のクロロフィル成分分解を抑制する目的など食品用途でも用いられている。ビタミンCは、アスコルビン酸及びアスコルビン酸ナトリウム(いずれもL体及び/又はD体)の総称であり、その抗酸化作用を利用する目的から多くの食品に用いられている安全性の高い成分である。しかし、ビタミンCの抗酸化作用は、起因物質や反応の種類によっては効果が充分に発揮されない場合があることもよく知られている。
本発明では、魚肉の退色・変色抑制効果を充分に発揮させるために、このフェルラ酸とビタミンCを併用することが特徴である。
【0019】
さらに、本発明においては、フェルラ酸とビタミンCの効果を充分に引き出し、かつ、魚肉の退色・変色をより効果的に抑制するため、pHをアルカリ側に調整する目的でpH調整剤も併用する。pH調整剤としては、特に限定はされないが、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、リンゴ酸ナトリウムから選ばれる1以上を使用することが好ましく、特に炭酸カリウムを用いるのが好ましい。
【0020】
そして、本発明においては、上記3成分(フェルラ酸、ビタミンC、pH調整剤)を所定の配合比で併用することが好ましい。具体的には、魚肉を製剤含有浸漬液で浸漬処理する場合には、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸ナトリウムを15〜35重量%(好ましくは18〜30重量%、更に好ましくは20〜25重量%)、フェルラ酸を0.2〜5重量%(好ましくは0.5〜3.0重量%、更に好ましくは1〜2重量%)、pH調整剤を50〜75重量%(好ましくは55〜75重量%、更に好ましくは60〜75重量%)で含有する構成とし、魚肉に製剤を直接添加する場合には、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸ナトリウムを0.5〜10重量%(好ましくは1〜5重量%、更に好ましくは1〜3重量%)、フェルラ酸を0.1〜5重量%(好ましくは0.2〜3.0重量%、更に好ましくは0.5〜2重量%)、pH調整剤を40〜99重量%(好ましくは50〜75重量%、更に好ましくは55〜70重量%)で含有する構成とする。特にpH調整剤については、浸漬液で使用する場合、魚肉の浸漬液を調整した際にpHが10.0〜10.5の範囲となるような種類、配合割合の構成とする必要がある。
【0021】
本発明では、上記3成分(フェルラ酸、ビタミンC、pH調整剤)を所定の配合比で併用し製剤化するのが好ましいが、製剤化に際しては、これら3成分のみで製剤としても良いし、場合によっては3成分以外に助剤を使用しても良い。助剤としては、食品として使用実績のある安全性の高いものであれば特に限定はされないが、塩化ナトリウム(精製塩など)やデキストリン等が好ましいものとして例示される。
【0022】
本発明の退色・変色抑制剤による魚肉の処理方法としては、本発明の退色・変色抑制剤を0.3〜1.0重量%(好ましくは0.4〜0.6重量%)含む浸漬液で、魚肉を0.5〜20時間浸漬処理することが好適である。この浸漬液には、調味などの目的で食塩(精製塩)等の調味料が適宜含まれてよい。浸漬液の温度は、0〜30℃(好ましくは0〜10℃の低温、更に好ましくは0〜5℃の冷蔵温度)とすることが好ましい。また、浸漬液のpHは、浸漬液を調製したときに浸漬液pHが10.0〜10.5の範囲となるように、上述のとおり製剤使用量又は製剤中のpH調整剤の種類、配合割合を設計する。
なお、魚肉をミンチに加工するなど、浸漬処理が適切でない場合については、魚肉中に直接、本発明の退色・変色抑制剤を添加する処理を行ってもよい。添加方法としては、インジェクターなどによるインジェクション、魚肉ミンチ時に同時添加する方法などが例示される。添加量は、魚肉に対して0.3〜2.0重量%(さらには0.5〜1.5重量%)程度が好ましい。
【0023】
本発明において処理する魚肉は、食用として加工されているものであれば特に限定されないが、その退色や変色が問題となるカロテノイド色素(アスタキサンチンやツナキサンチン)、ミオグロビン、不飽和脂肪酸から選ばれる1以上を含有する魚肉の処理が非常に有効である。具体的には、サケ類、マグロ類、赤魚、アジ、ホッケ、サバなどが挙げられ、他にもカツオ、タイ、ホウボウ、イワシ、サンマなどが例示される。
【0024】
本発明において、サケ類とは、切り身などの食用として処理されているシロザケ、ベニザケ、ギンザケ、タイセイヨウサケ、カラフトマス、サクラマス、ヒメマス、マスノスケ、ニジマスを総称したものである。また、マグロ類とは、切り身などの食用として処理されているクロマグロ(本マグロ)、ビンナガマグロ、キハダマグロ、メバチマグロ、ミナミマグロを総称したものである。更に、赤魚とは、現在食用とされているメヌケ(アラスカメヌケ)、タイセイヨウアカウオ、アコウダイ、キチジを総称したものである。
【0025】
本発明により、魚介類の冷凍・解凍処理や加工処理における魚肉中のミオグロビンの褐変やカロテノイド色素の退色・変色、魚介類乾燥品等の油焼けなどを有効かつ効果的に抑制し、魚肉の色(外観)を当初(処理直後)の状態のまま保つことができる。これにより、魚介類の品質維持、向上を図ることができ、よって、魚介類の商品価値をより高めることが可能となる。特に、切り身やフィーレ、たたきのような非加熱品については、その退色、変色が起こりやすく問題となっていたが、本発明はこのような非加熱の魚介類(加工品)においても効果が充分に得られる点が特徴である。
【0026】
以下に本発明の実施例について述べる。
【実施例1】
【0027】
(鮭の退色抑制試験I)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤と、自社従来品等との鮭の退色抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0028】
鮭として、シロザケフィーレ(冷凍品、約500g)を使用した。まず、鮭を4℃で18時間かけて解凍した。別に、食塩10%及び各試験区の製剤0.5%を溶解した4℃の浸漬液を準備し、上記の解凍した鮭を20時間浸漬した(浸漬中は浸漬液温度を3〜5℃の範囲に維持した)。浸漬終了後、鮭を取り出して軽く水切りし、4℃で8日間保存した。
なお、各試験区の製剤の配合、及び、浸漬液のpHを表1に示した。
【0029】
【表1】
【0030】
4℃8日間保存後の鮭フィーレの色調を、分光測色計(コニカミノルタ社製、CM−3500d)によりL値(L*、明度)、a値(a*、赤色系)、b値(b*、青色系)として測定した。なお、分光測色計の測定条件としては、測定モードは反射率測定、測定径は30mm、正反射光の処理の設定はSCE、UV条件は100%Fullで行った。測定結果は、縦軸をa値、横軸をL値としてグラフ化した。このグラフにおいては、プロットがグラフの左上に近いほど明度が低く且つ赤色が強く、つまり鮭の魚肉の赤色が鮮明である(退色が抑制されている)ことを示す。
なお、訓練された検査員による目視検査もあわせて実施した。
【0031】
結果としては、自社従来品であるビタミンCと茶抽出物、pH調整剤の併用品(試験区1(オリエンタル酵母工業社製、SK−I)及び試験区2(オリエンタル酵母工業社製、S−KC))と比較して、本発明品(試験区5)は有意に鮭の赤色の退色が抑制されていた(図1)。さらに、フェルラ酸を含まないビタミンCとpH調整剤のみの試作品製剤(試験区4)と比較しても有意に鮭の赤色の退色が抑制されていた(図1)。なお、pH調整剤のみの製剤(試験区3)では、鮭の退色抑制効果はほとんど発揮されなかった(図1)。目視検査の結果も、分光測色計の測定結果と同様であった。
この結果から、本発明品はビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用により相乗効果が発揮され、従来品よりも有意に魚肉の退色を抑制することが明らかとなった。
【実施例2】
【0032】
(鮭の退色抑制試験II)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤と、他社従来品等との鮭の退色抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0033】
表2に示した各試験区の製剤について、原料魚肉、魚肉処理方法、色調測定方法は実施例1と同様の方法で行った(なお、鮭の保存期間は7日間で色調測定を行った)。
【0034】
【表2】
【0035】
結果としては、本発明品(試験区3)は、自社従来品(試験区1、S−KC)だけでなく、他社従来品(試験区4(エアウォーター炭酸社製、ミナクロールSB−12S))、試験区5(千代田商工社製、キープレッドNo.8))と比較しても有意に鮭の赤色の退色が抑制されていた(図2)。さらに、フェルラ酸を含まないビタミンCとpH調整剤のみの試作品製剤(試験区2)と比較しても有意に鮭の赤色の退色が抑制されていた(図2)。目視検査の結果も、分光測色計の測定結果と同様であった。
この結果から、本発明品はビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用により相乗効果が発揮され、従来品よりも有意に魚肉の退色を抑制することが明らかとなった。
【実施例3】
【0036】
(鮭の退色抑制試験III)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤と、ビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の各成分単独との鮭の退色抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0037】
表3に示した各試験区の製剤について、原料魚肉、魚肉処理方法、色調測定方法は実施例1と同様の方法で行った(なお、鮭の保存期間は7日間で色調測定を行った)。
【0038】
【表3】
【0039】
結果としては、本発明品(試験区2)は、ビタミンC単独の製剤(試験区3、4)や、フェルラ酸単独の製剤(試験区5、6)、pH調整剤単独の製剤(試験区7)と比較して有意に鮭の赤色の退色が抑制されていた(図3)。さらに、ビタミンCやフェルラ酸の単独使用において使用量を増加させても退色抑制効果は変わらなかった(試験区4、6(図3))。各成分無添加の場合(試験区1)については、鮭の退色抑制効果は発揮されなかった(図3)。目視検査の結果も、分光測色計の測定結果と同様であった。
この結果から、本発明品はビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用により相乗効果が発揮され、各成分の単独使用よりも有意に魚肉の退色を抑制することが明らかとなった。
【実施例4】
【0040】
(鮭の退色抑制試験IV)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤(3成分併用)と、ビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤のうちの2成分併用との鮭の退色抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0041】
表4に示した各試験区の製剤について、原料魚肉、魚肉処理方法、色調測定方法は実施例1と同様の方法で行った(なお、鮭の保存期間は7日間で色調測定を行った)。
【0042】
【表4】
【0043】
結果としては、本発明品(試験区2)は、ビタミンCとフェルラ酸併用の製剤(試験区3)や、フェルラ酸とpH調整剤併用の製剤(試験区4)、フェルラ酸のみの製剤(試験区5)と比較して有意に鮭の赤色の退色が抑制されていた(図4)。各成分無添加の場合(試験区1)については、鮭の退色抑制効果は発揮されなかった(図4)。目視検査の結果も、分光測色計の測定結果と同様であった。
この結果から、本発明品はビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用により相乗効果が発揮され、2成分併用よりも有意に魚肉の退色を抑制することが明らかとなった。
【実施例5】
【0044】
(鮭の退色抑制試験V)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤と、フェルラ酸を茶抽出物に置き換えた場合との鮭の退色抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0045】
表5に示した各試験区の製剤について、原料魚肉、魚肉処理方法、色調測定方法は実施例1と同様の方法で行った(なお、鮭の保存期間は7日間で色調測定を行った)。
【0046】
【表5】
【0047】
結果としては、本発明品(試験区5)は、ビタミンC、茶抽出物、pH調整剤の3成分併用の製剤(試験区4)と比較して有意に鮭の赤色の退色が抑制されていた(図5)。また、ビタミンCとpH調整剤の併用(試験区2、3)と比較しても有意に鮭の赤色の退色が抑制され、ビタミンCとpH調整剤の併用ではビタミンC量を増加しても効果は変わらなかった(試験区3、図5)。各成分無添加の場合(試験区1)については、鮭の退色抑制効果は発揮されなかった(図5)。目視検査の結果も、分光測色計の測定結果と同様であった。
この結果から、本発明品はビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用により相乗効果が発揮され、ビタミンC、茶抽出物、pH調整剤の3成分併用よりも有意に魚肉の退色を抑制することが明らかとなった。
【実施例6】
【0048】
(鮭の退色抑制試験VI)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤において、ビタミンC量増減による鮭の退色抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0049】
表6に示した各試験区の製剤について、原料魚肉、魚肉処理方法、色調測定方法は実施例1と同様の方法で行った(なお、鮭の保存期間は7日間で色調測定を行った)。
【0050】
【表6】
【0051】
結果としては、ビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分併用の製剤(試験区5〜7)において、ビタミンCが10%以下では充分な鮭の赤色の退色抑制効果が得られなかった(図6)。また、ビタミンCとpH調整剤の併用製剤(試験区2〜4)や各成分無添加の場合(試験区1)ではいずれも充分な鮭の赤色の退色抑制効果が得られなかった(図6)。目視検査の結果も、分光測色計の測定結果と同様であった。
この結果から、本発明品のビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用において、ビタミンC量が20%以上で有意に魚肉の退色を抑制することが明らかとなった。
【実施例7】
【0052】
(鮭の退色抑制試験VII)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤において、フェルラ酸量増減による鮭の退色抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0053】
表7に示した各試験区の製剤について、原料魚肉、魚肉処理方法、色調測定方法は実施例1と同様の方法で行った(なお、鮭の保存期間は7日間で色調測定を行った)。なお、各試験区の製剤は精製塩で100%となるように調製した。
【0054】
【表7】
【0055】
結果としては、ビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分併用の製剤において、ビタミンC量が20%ではフェルラ酸量が0.5〜2%のいずれの製剤でも有意に鮭の赤色の退色が抑制されていた(試験区2〜5、図7)。また、ビタミンC量が15%でもフェルラ酸量が2.0%であれば有意に鮭の赤色の退色が抑制されていた(試験区9、図7)。なお、ビタミンC量が15%でフェルラ酸量が1.5%以下の場合(試験区6〜8)や各成分無添加の場合(試験区1)では充分な鮭の赤色の退色抑制効果が得られなかった(図7)。目視検査の結果も、分光測色計の測定結果と同様であった。
この結果から、本発明品のビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用において、ビタミンC量が20%以上であり、かつ、フェルラ酸量が0.5%以上で有意に魚肉の退色を抑制することが明らかとなった。また、ビタミンC量が15%以上であり、かつ、フェルラ酸量が2.0%以上でも有意に魚肉の退色を抑制することが明らかとなった。
【実施例8】
【0056】
(鮭の退色抑制試験VIII)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤において、浸漬液pHによる鮭の退色抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0057】
表8に示した各試験区の製剤について、原料魚肉、魚肉処理方法、色調測定方法は実施例1と同様の方法で行った(なお、鮭の保存期間は7日間で色調測定を行った)。なお、各試験区の製剤は、表8に示した浸漬液pHとなるように炭酸カリウム量を調整し、最終的に精製塩で100%となるように調製した。
【0058】
【表8】
【0059】
結果としては、ビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分併用の製剤において、浸漬液pHが10.0〜10.5の範囲で有意に鮭の赤色の退色が抑制されていた(試験区3及び4、図8)。しかし、浸漬液pHがこの範囲を外れた場合には充分な効果が得られなかった(試験区2及び5、図8)。なお、各成分無添加の場合(試験区1)では充分な鮭の赤色の退色抑制効果が得られなかった(図8)。目視検査の結果も、分光測色計の測定結果と同様であった。
この結果から、本発明品のビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用において、浸漬液pHが10.0〜10.5となるようなpH調整剤の種類、配合量で有意に魚肉の退色を抑制することが明らかとなった。
【実施例9】
【0060】
(アジ干物の退色抑制試験)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤のアジ干物に対する退色抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0061】
背開きにしたアジ(約300g)を、別に用意した食塩10%及び各試験区の製剤0.5%を溶解した4℃の浸漬液で30分間浸漬した(浸漬中は浸漬液温度を3〜5℃の範囲に維持した)。浸漬終了後、アジを取り出して表面の水気をとり、フードドライヤー(大紀産業社製)で20℃5時間乾燥処理した(このとき2時間、4時間経過時にアジを面返しした)。これをポリ袋に入れ、4℃で5日間及び7日間保存した。
なお、各試験区の製剤の配合を表9に示した。また、4℃5日間保存後及び7日間保存後のアジ魚肉の色調を、実施例1と同様の方法で測定した。
【0062】
【表9】
【0063】
結果を図9(5日間保存後)及び図10(7日間保存後)に示した。結果としては、本発明品(試験区3)は有意にアジの退色及び酸化が抑制されていた(図9、図10)が、ビタミンCとpH調整剤の併用のみ(試験区2)では充分なアジの退色・酸化抑制効果が得られなかった(図9、図10)。なお、各成分無添加の場合(試験区1)ではアジの退色・酸化抑制効果がほとんどなかった(図9、図10)。特に、アジは不飽和脂肪酸が多く、黄色く変色するほど酸化している状態を示しているが、7日間保存後において、本発明品は有意にアジ魚肉が黄色く変色するのを抑制していた(図10)。目視検査の結果も、分光測色計の測定結果と同様であった。
この結果から、本発明品はビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用により相乗効果が発揮され、アジ魚肉の退色を有意に抑制することが明らかとなった。
【実施例10】
【0064】
(マグロの褐変抑制試験I)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤のマグロに対する変色抑制効果を確認するため、以下の試験を行った。
【0065】
マグロとして、メバチマグロ赤身(300g)を使用し、これを粗くミンチにした後各試験区の製剤3g(対魚肉1%、試験区1を除く)、植物油脂15g(対魚肉5%、月島食品工業社製)、及び、食塩0.39gを添加、混合した。これを4℃で24時間保存して色の変化を確認した。マグロの色調は、実施例1と同様の方法で測定した。
なお、各試験区の製剤の配合、及び、マグロミンチのpHを表10に示した。
【0066】
【表10】
【0067】
結果としては、本発明品(試験区3)は有意にマグロの褐変が抑制されていた(図11)が、ビタミンCとpH調整剤の併用のみ(試験区2)では充分なマグロの褐変抑制効果が得られなかった(図11)。なお、本実施例の結果においては、鮭肉退色の場合と異なりマグロの褐変が進むことによりL値は低くなるため、グラフの右上に近いほどマグロの変色が抑制されていることになる。目視検査の結果も分光測色計の測定結果とほぼ同様であり、本発明品は24時間後もマグロの鮮赤色を維持させていたが、試験区1ではすぐに黒変し、試験区2においても24時間後では褐変が進んでいた。
この結果から、本発明品はビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用により相乗効果が発揮され、マグロ魚肉の変色(褐変)を有意に抑制することが明らかとなった。
【実施例11】
【0068】
(マグロの褐変抑制試験II)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤中の各成分の配合量がマグロ変色抑制効果に与える影響を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0069】
マグロとして、メバチマグロ赤身(300g)を使用し、これを粗くミンチにした後各試験区の製剤3g(対魚肉1%、試験区1を除く)、植物油脂15g(対魚肉5%、月島食品工業社製)、及び、食塩0.39gを添加、混合した。これを4℃で24時間保存して色の変化を確認した。マグロの色調は、実施例1と同様の方法で測定した。
なお、各試験区の製剤の配合、及び、マグロミンチのpHを表11に示した。
【0070】
【表11】
【0071】
結果としては、ビタミンCナトリウムは0.5重量%(試験区3)、pH調整剤の炭酸カリウムは40重量%(試験区4)、フェルラ酸は0.1重量%(試験区5)まで減らしても標準品(試験区2、実施例10の試験区3と同じ)とほぼ同等のマグロ変色抑制効果を発揮し、マグロの赤さが保持されることが示された(図12)。目視検査の結果も分光測色計の測定結果とほぼ同様であった。
【実施例12】
【0072】
(ホッケの退色抑制試験)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤のホッケに対する退色抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0073】
背開きにした生鮮のホッケ(約500g)を、別に用意した食塩10%及び各試験区の製剤0.5%を溶解した4℃の浸漬液で30分間浸漬した(浸漬中は浸漬液温度を3〜5℃の範囲に維持した)。浸漬終了後、ホッケを取り出して表面の水気をとり、フードドライヤー(大紀産業社製)で20℃4時間乾燥処理した(このとき2時間経過時にホッケを面返しした)。これをポリ袋に入れ、4℃で3日間保存した。
なお、各試験区の製剤の配合を表12に示した(表中の炭酸カリウム、メタリン酸ナトリウムはいずれもpH調整剤)。また、3日間保存後のホッケ魚肉の色調は実施例1と同様の方法で測定し、身の部分8箇所を測定して平均したものを測定値とした。
【0074】
【表12】
【0075】
結果としては、本発明品(試験区3)は有意にホッケ魚肉の赤色が維持され退色が抑制されていた(図13)が、ビタミンCとpH調整剤の併用のみ(試験区2)では充分なホッケの退色抑制効果が得られなかった(図13)。なお、各成分無添加の場合(試験区1)ではホッケ魚肉が白くなり退色抑制効果がほとんど得られなかった(図13)。目視検査の結果も、分光測色計の測定結果と同様であった。
この結果から、本発明品はビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用により相乗効果が発揮され、ホッケ魚肉の退色を有意に抑制することが明らかとなった。
【実施例13】
【0076】
(赤魚の変色抑制試験)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤の赤魚に対する変色抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0077】
おろし身にした赤魚(約300g)を、別に用意した食塩5%及び各試験区の製剤0.5%を溶解した4℃の浸漬液で60分間浸漬した(浸漬中は浸漬液温度を3〜5℃の範囲に維持した)。浸漬終了後、赤魚を取り出して表面の水気をとり、これをポリ袋に入れ、4℃で7日間保存した。
なお、各試験区の製剤の配合及び4℃で7日間保存後のL値測定結果を表13に示した。また、7日間保存後の赤魚体表の色調は実施例1と同様の方法で測定し、表皮の背・腹各2箇所の計4箇所を測定して平均したものを測定値とした。
【0078】
【表13】
【0079】
結果としては、本発明品(試験区3)は有意に赤魚体表の変色(黒変)が抑制されていた(表13)が、ビタミンCとpH調整剤の併用のみ(試験区2)及び各成分無添加の場合(試験区1)では表面の部分的な黒変が目立ち、充分な赤魚の変色抑制効果が得られなかった(表13)。目視検査の結果も、分光測色計の測定結果と同様であった。
この結果から、本発明品はビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用により相乗効果が発揮され、赤魚体表の変色を有意に抑制することが明らかとなった。
【実施例14】
【0080】
(サバの油焼け抑制試験)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤について、不飽和脂肪酸を非常に多く含むサバの油焼け抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0081】
生鮮サバ(100g)を使用し、これを粗くミンチにした後各試験区の製剤0.5g(対魚肉0.5%、試験区1を除く)を添加、混合した。これを4℃で7日間保存した後、各試験区の過酸化物価(POV)及びTBARS(Thiobarbituric Acid Reactive Substances、チオバルビツール酸反応性物質)を測定した。また、目視検査による色調変化確認も行った。
なお、各試験区の製剤の配合を表14に示した。また、過酸化物価の測定方法は日本油脂化学協会法に準じ、TBARSの測定方法はCayman Chemical Company製のTBARS Assay Kitを使用した。
【0082】
【表14】
【0083】
結果としては、POV測定、TBARS測定のいずれも同様の傾向を示し、無添加区(試験区1)は非常に高い値を示し、2成分添加区(試験区2)は無添加区より低い値を示したが、本発明品(3成分添加区、試験区3)より高い値を示した(図14、図15)。つまり、本発明品がいずれも一番低い値を示し酸化が抑制されていた。
目視検査の結果も同様の結果であり、無添加区では黄変化が確認されたが、2成分添加区及び本発明品ではくすんだ灰色が確認でき、特に本発明品ではサバ本来の色調が有意に保たれ油焼け抑制効果が顕著であった。
【0084】
本発明を要約すれば、以下の通りである。
【0085】
本発明は、天然由来で安全性の高い物質を有効成分とし、ミオグロビンの変色、カロテノイド色素の退色、油焼け等の魚肉の退色及び/又は変色を有効かつ効果的に抑制及び/又は防止する剤(魚肉用退色防止剤、魚肉用変色防止剤、魚肉用退色抑制剤、魚肉用変色抑制剤の少なくともひとつ)、及びその方法を提供することを目的とする。
【0086】
そして、米や小麦等の植物種子細胞壁に存在する抗酸化成分であるフェルラ酸とビタミンCを所定の割合で併用し、更にpH調整剤を所定量配合して得られる剤(フェルラ酸、ビタミンC、pH調整剤の3成分を有効成分とする剤)を用いることで、特に酸化反応が関与する魚肉の退色及び/又は変色(ミオグロビンの褐変、カロテノイド色素の退色・変色、油焼けなど)を効果的に抑制する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類、特に魚肉の退色及び/又は変色防止・抑制剤に関する。詳細には、食品用途で用いられる、安全性の高い天然物由来の成分を有効成分とした、魚肉の退色及び/又は変色防止・抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
魚介類の品質については、その味(風味)だけでなく色(外観)や食感(テクスチャー)など様々な点で評価されるが、そのうち色(外観)については、魚介類(特に非加熱販売される魚介類)の商品価値を大きく左右する最も重要な要因と考えられている。例えば、一般の消費者が小売店で魚介類を購入する場合、その風味や食感を確認してから商品を選択することは非常に困難であり、色(外観)がほぼ唯一の選択基準となる。
【0003】
魚介類は、その冷凍・解凍処理や加工処理、保存に伴って変色・退色現象が見られることが多い。特に魚肉は、畜肉と比較して鮮度低下が速く、また冷解凍耐性も低いため、魚肉の変色・退色は魚介類の品質維持という点で非常に大きな問題となっている。魚肉の変色・退色現象は、その起因となる物質や反応として様々なものが知られている。
【0004】
アジやマグロ類などの赤身の魚肉は、新鮮な状態では鮮赤色である。これは、色素タンパク質であるミオグロビン(オキシミオグロビン)の色であるが、常温保存や冷凍・解凍処理などにより酸化(自動酸化、メト化)され、褐色のメトミオグロビンとなる。ミオグロビンは酸素との親和性が高く、特に魚類のミオグロビンは哺乳動物の数倍も自動酸化されやすいという報告もある。
【0005】
サバ、アジ、イワシなどの脂肪含量の多い魚類の乾製品(干物)、塩蔵品、煮干などでは、加工中および貯蔵中に脂質酸化が進んで、魚肉がオレンジ色、黄色、赤褐色等に変化する油焼け現象が見られることがある。脂質(主に不飽和脂肪酸)の自動酸化により生じたカルボニル化合物とアミノ酸等のメイラード反応生成物が原因物質とされているが、着色物の化学構造は不明である。
油焼けしたものは、色調(外観)の劣化のみならず味や香りなど風味の劣化や栄養価の低下なども伴うため、非常に問題視されている。
【0006】
サケやマス(サケ類)、タイ、赤魚、ホウボウ、ホッケなどは、カロテノイド色素(アスタキサンチン、ツナキサンチン等)により魚肉や体表が着色している。これらは、特に冷蔵、冷凍保存中に徐々に退色する現象が見られ、カロテノイド色素の酸化・異性化による無色化が原因と考えられている。また、赤魚では保存中に魚体表面が黒変(変色)する現象も見受けられる。なお、酸素や光だけでなく、不飽和脂肪酸の過酸化物が退色及び/又は変色の原因となる場合もある。
【0007】
その他には、エビ、カニの黒変(メラニン生成)や、酸化反応が関与しないものとして油脂の少ない白身の魚介類(タラ、イカ、ホタテ等)のメイラード反応による褐変(非酵素的褐変)、イカ、タコの表皮色素破壊による変色なども問題となっている。
【0008】
上述のように、魚介類の変色・退色はその起因となる物質や反応は様々であるが、多くの場合は酸化反応が関与している。この酸化反応を防ぐことで、魚介類の変色・退色を防止できる可能性が高まるが、この酸化反応を防ぐ有効な方法は多くはなく、実際には酸化促進要因の除去方法(酸素との接触を避ける等)、酸化反応を阻止する方法(抗酸化剤の使用等)、及びこれらを組み合わせる方法しかない。
【0009】
魚介類と酸素との接触を避ける方法としては、魚介類を真空パックする方法などがあるが、コスト的な問題があり、かつ、魚介類の加工工程、流通工程の全てを真空状態とすることは不可能に近い。また、酸素以外の酸化促進物質については不明な点も多く、この物質のみを選択的に除去することはできない。
【0010】
よって、多くの場合は魚介類に抗酸化剤を使用することを基本技術とし、場合によって酸素との接触を避ける方法を組み合わせることがなされている。
魚介類の変色・退色抑制目的の抗酸化剤としては、市販品として実用化されているものでは、食品の抗酸化剤としてよく使用されるビタミンCが有効成分として最も多く用いられている(特許文献1)。また、ビタミンCとビタミンEを併用したもの(特許文献2)や、カテキンを含む茶抽出物(特許文献3)等が用いられているものもある。さらには、プロアントシアニジンを併用したものも提供されている(特許文献4)。
【0011】
しかし、いずれの抗酸化剤も、魚肉退色・変色抑制の効果発揮という点で十分ではなく、当業界において魚肉への添加や浸漬により充分な退色・変色抑制効果を奏する天然由来で安全な成分(剤)、及び方法の提供が強く求められているが、未だ満足できるものは提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−047396号公報
【特許文献2】特開2005−278593号公報
【特許文献3】特開2003−334035号公報
【特許文献4】特開2004−016013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、天然由来で安全性の高い物質を有効成分とし、魚肉の退色及び/又は変色を有効かつ効果的に抑制及び/又は防止する剤、及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を行い、米や小麦等の植物種子細胞壁に存在する抗酸化成分であるフェルラ酸とビタミンCを所定の割合で併用し、更にpH調整剤を所定量配合して得られる剤(フェルラ酸、ビタミンC、pH調整剤の3成分を有効成分とする剤)を用いて魚肉を浸漬、あるいは魚肉に直接添加することで、特に酸化反応が関与した魚肉の退色及び/又は変色(ミオグロビンの褐変、カロテノイド色素の退色・変色、油焼けなど)を効果的に抑制することを見出し、本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)アスコルビン酸又はアスコルビン酸ナトリウム、フェルラ酸、pH調整剤の3成分を有効成分として含有することを特徴とする魚肉の退色及び/又は変色抑制剤。
(2)アスコルビン酸又はアスコルビン酸ナトリウム、フェルラ酸、pH調整剤(特に炭酸カリウム)及び塩化ナトリウムからなることを特徴とする魚肉の退色及び/又は変色抑制剤。
(3)pH調整剤が炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、リンゴ酸ナトリウムから選ばれる1以上からなる(好ましくは炭酸カリウムのみからなる)ことを特徴とする(1)又は(2)に記載の剤。
(4)カロテノイド色素(特にアスタキサンチン、ツナキサンチン)、ミオグロビン、不飽和脂肪酸から選ばれる1以上を含有する(特に、カロテノイド色素、ミオグロビン、不飽和脂肪酸から選ばれる1以上の物質の分解、酸化、変質のいずれかが原因である)魚肉の退色及び/又は変色を抑制することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1つに記載の剤。
(5)サケ類、マグロ類、赤魚、アジ、ホッケ、サバのいずれか(少なくともひとつ)の魚肉の退色及び/又は変色を抑制することを特徴とする(4)に記載の剤。
(6)アスコルビン酸又はアスコルビン酸ナトリウムを15〜35重量%(好ましくは18〜30重量%)、フェルラ酸を0.2〜5重量%(好ましくは0.5〜3.0重量%)、pH調整剤を50〜75重量%(好ましくは55〜75重量%)で含有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1つに記載の(魚肉浸漬処理用の)剤。
(7)アスコルビン酸又はアスコルビン酸ナトリウムを0.5〜10重量%(好ましくは1〜5重量%)、フェルラ酸を0.1〜5重量%(好ましくは0.2〜3.0重量%)、pH調整剤を40〜99重量%(好ましくは50〜75重量%)で含有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1つに記載の(魚肉直接添加用の)剤。
(8)(6)に記載の剤を0.3〜1.0重量%(好ましくは0.4〜0.6重量%)含む浸漬液で、魚肉を0.5〜20時間浸漬処理することを特徴とする魚肉の退色及び/又は変色抑制方法。
(9)浸漬液のpHを10.0〜10.5とし、浸漬温度を0〜30℃(好ましくは0〜10℃)とすることを特徴とする(8)に記載の方法。
(10)(7)に記載の剤を、魚肉に直接添加する処理を行うことを特徴とする魚肉の退色及び/又は変色抑制方法。
(11)カロテノイド色素(特にアスタキサンチン、ツナキサンチン)、ミオグロビン、不飽和脂肪酸から選ばれる1以上を含有する魚肉を処理することを特徴とする(8)〜(10)のいずれか1つに記載の方法。
(12)処理する魚肉が、サケ類、マグロ類、赤魚、アジ、ホッケ、サバのいずれか(少なくともひとつ)であることを特徴とする(11)に記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フェルラ酸、ビタミンC、pH調整剤の3成分を有効成分とする剤を用いて魚肉を処理することにより、魚肉中のミオグロビンの褐変やカロテノイド色素の退色・変色、魚介類乾燥品等の油焼けなどを有効かつ効果的に抑制し、魚肉の色(外観)を当初のまま保つことができる。これにより、魚介類(特に非加熱魚介類加工品)の品質維持、向上を図ることができ、よって、魚介類の商品価値をより高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】鮭の魚肉退色抑制試験I(自社従来品との比較試験)における、各試験区の色差測定結果グラフを示す。なお、グラフは縦軸をa値(a*)、横軸をL値(L*)とし、プロットがグラフの左上に近いほど鮭の魚肉の赤色が鮮明である(退色が抑制されている)ことを示す(以下の図2〜8も同様である)。
【図2】鮭の魚肉退色抑制試験II(他社従来品との比較試験)における、各試験区の色差測定結果グラフを示す。
【図3】鮭の魚肉退色抑制試験III(各成分単独との効果比較試験)における、各試験区の色差測定結果グラフを示す。
【図4】鮭の魚肉退色抑制試験IV(2成分併用との効果比較試験)における、各試験区の色差測定結果グラフを示す。
【図5】鮭の魚肉退色抑制試験V(茶抽出物との比較試験)における、各試験区の色差測定結果グラフを示す。
【図6】鮭の魚肉退色抑制試験VI(ビタミンC量検討試験)における、各試験区の色差測定結果グラフを示す。
【図7】鮭の魚肉退色抑制試験VII(フェルラ酸量検討試験)における、各試験区の色差測定結果グラフを示す。
【図8】鮭の魚肉退色抑制試験VIII(pH検討試験)における、各試験区の色差測定結果グラフを示す。
【図9】アジ干物の魚肉退色抑制試験における、各試験区の色差測定結果グラフを示す。なお、グラフは縦軸をa値(a*)、横軸をL値(L*)とし、プロットがグラフの左上に近いほどアジ干物の赤色が強い(退色が抑制されている)ことを示す。
【図10】アジ干物の魚肉退色抑制試験における、各試験区の色差測定結果グラフを示す。なお、グラフは縦軸をb値(b*)とした各試験区(1〜3)の棒グラフであり、b値が低いほどアジ干物の黄色が弱い(酸化が抑制されている)ことを示す。
【図11】マグロミンチの褐変抑制試験Iにおける、各試験区の色差測定結果グラフを示す。縦軸をa値(a*)、横軸をL値(L*)とし、プロットがグラフの右上に近いほどマグロの褐変が抑制されていることを示す(以下の図12も同様である)。
【図12】マグロミンチの褐変抑制試験IIにおける、各試験区の色差測定結果グラフを示す。
【図13】ホッケの魚肉退色抑制試験における、各試験区の色差測定結果グラフを示す。なお、グラフは縦軸をa値(a*)、横軸をL値(L*)とし、プロットがグラフの左上に近いほどホッケ魚肉の赤色が強い(退色が抑制されている)ことを示す。
【図14】サバの油焼け抑制試験における、各試験区の過酸化物価(POV)測定結果グラフを示す。
【図15】サバの油焼け抑制試験における、各試験区のTBARS(Thiobarbituric Acid Reactive Substances)測定結果グラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明においては、フェルラ酸とビタミンCを魚肉の退色、変色抑制剤の有効成分とする。フェルラ酸は、主に米、小麦等の植物種子細胞壁に含まれるケイ皮酸誘導体であり、食経験が豊富であり安全性の高い天然由来成分である。その抗酸化作用や紫外線防御作用も知られており、主に化粧品に使用されているが、食品中のクロロフィル成分分解を抑制する目的など食品用途でも用いられている。ビタミンCは、アスコルビン酸及びアスコルビン酸ナトリウム(いずれもL体及び/又はD体)の総称であり、その抗酸化作用を利用する目的から多くの食品に用いられている安全性の高い成分である。しかし、ビタミンCの抗酸化作用は、起因物質や反応の種類によっては効果が充分に発揮されない場合があることもよく知られている。
本発明では、魚肉の退色・変色抑制効果を充分に発揮させるために、このフェルラ酸とビタミンCを併用することが特徴である。
【0019】
さらに、本発明においては、フェルラ酸とビタミンCの効果を充分に引き出し、かつ、魚肉の退色・変色をより効果的に抑制するため、pHをアルカリ側に調整する目的でpH調整剤も併用する。pH調整剤としては、特に限定はされないが、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、リンゴ酸ナトリウムから選ばれる1以上を使用することが好ましく、特に炭酸カリウムを用いるのが好ましい。
【0020】
そして、本発明においては、上記3成分(フェルラ酸、ビタミンC、pH調整剤)を所定の配合比で併用することが好ましい。具体的には、魚肉を製剤含有浸漬液で浸漬処理する場合には、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸ナトリウムを15〜35重量%(好ましくは18〜30重量%、更に好ましくは20〜25重量%)、フェルラ酸を0.2〜5重量%(好ましくは0.5〜3.0重量%、更に好ましくは1〜2重量%)、pH調整剤を50〜75重量%(好ましくは55〜75重量%、更に好ましくは60〜75重量%)で含有する構成とし、魚肉に製剤を直接添加する場合には、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸ナトリウムを0.5〜10重量%(好ましくは1〜5重量%、更に好ましくは1〜3重量%)、フェルラ酸を0.1〜5重量%(好ましくは0.2〜3.0重量%、更に好ましくは0.5〜2重量%)、pH調整剤を40〜99重量%(好ましくは50〜75重量%、更に好ましくは55〜70重量%)で含有する構成とする。特にpH調整剤については、浸漬液で使用する場合、魚肉の浸漬液を調整した際にpHが10.0〜10.5の範囲となるような種類、配合割合の構成とする必要がある。
【0021】
本発明では、上記3成分(フェルラ酸、ビタミンC、pH調整剤)を所定の配合比で併用し製剤化するのが好ましいが、製剤化に際しては、これら3成分のみで製剤としても良いし、場合によっては3成分以外に助剤を使用しても良い。助剤としては、食品として使用実績のある安全性の高いものであれば特に限定はされないが、塩化ナトリウム(精製塩など)やデキストリン等が好ましいものとして例示される。
【0022】
本発明の退色・変色抑制剤による魚肉の処理方法としては、本発明の退色・変色抑制剤を0.3〜1.0重量%(好ましくは0.4〜0.6重量%)含む浸漬液で、魚肉を0.5〜20時間浸漬処理することが好適である。この浸漬液には、調味などの目的で食塩(精製塩)等の調味料が適宜含まれてよい。浸漬液の温度は、0〜30℃(好ましくは0〜10℃の低温、更に好ましくは0〜5℃の冷蔵温度)とすることが好ましい。また、浸漬液のpHは、浸漬液を調製したときに浸漬液pHが10.0〜10.5の範囲となるように、上述のとおり製剤使用量又は製剤中のpH調整剤の種類、配合割合を設計する。
なお、魚肉をミンチに加工するなど、浸漬処理が適切でない場合については、魚肉中に直接、本発明の退色・変色抑制剤を添加する処理を行ってもよい。添加方法としては、インジェクターなどによるインジェクション、魚肉ミンチ時に同時添加する方法などが例示される。添加量は、魚肉に対して0.3〜2.0重量%(さらには0.5〜1.5重量%)程度が好ましい。
【0023】
本発明において処理する魚肉は、食用として加工されているものであれば特に限定されないが、その退色や変色が問題となるカロテノイド色素(アスタキサンチンやツナキサンチン)、ミオグロビン、不飽和脂肪酸から選ばれる1以上を含有する魚肉の処理が非常に有効である。具体的には、サケ類、マグロ類、赤魚、アジ、ホッケ、サバなどが挙げられ、他にもカツオ、タイ、ホウボウ、イワシ、サンマなどが例示される。
【0024】
本発明において、サケ類とは、切り身などの食用として処理されているシロザケ、ベニザケ、ギンザケ、タイセイヨウサケ、カラフトマス、サクラマス、ヒメマス、マスノスケ、ニジマスを総称したものである。また、マグロ類とは、切り身などの食用として処理されているクロマグロ(本マグロ)、ビンナガマグロ、キハダマグロ、メバチマグロ、ミナミマグロを総称したものである。更に、赤魚とは、現在食用とされているメヌケ(アラスカメヌケ)、タイセイヨウアカウオ、アコウダイ、キチジを総称したものである。
【0025】
本発明により、魚介類の冷凍・解凍処理や加工処理における魚肉中のミオグロビンの褐変やカロテノイド色素の退色・変色、魚介類乾燥品等の油焼けなどを有効かつ効果的に抑制し、魚肉の色(外観)を当初(処理直後)の状態のまま保つことができる。これにより、魚介類の品質維持、向上を図ることができ、よって、魚介類の商品価値をより高めることが可能となる。特に、切り身やフィーレ、たたきのような非加熱品については、その退色、変色が起こりやすく問題となっていたが、本発明はこのような非加熱の魚介類(加工品)においても効果が充分に得られる点が特徴である。
【0026】
以下に本発明の実施例について述べる。
【実施例1】
【0027】
(鮭の退色抑制試験I)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤と、自社従来品等との鮭の退色抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0028】
鮭として、シロザケフィーレ(冷凍品、約500g)を使用した。まず、鮭を4℃で18時間かけて解凍した。別に、食塩10%及び各試験区の製剤0.5%を溶解した4℃の浸漬液を準備し、上記の解凍した鮭を20時間浸漬した(浸漬中は浸漬液温度を3〜5℃の範囲に維持した)。浸漬終了後、鮭を取り出して軽く水切りし、4℃で8日間保存した。
なお、各試験区の製剤の配合、及び、浸漬液のpHを表1に示した。
【0029】
【表1】
【0030】
4℃8日間保存後の鮭フィーレの色調を、分光測色計(コニカミノルタ社製、CM−3500d)によりL値(L*、明度)、a値(a*、赤色系)、b値(b*、青色系)として測定した。なお、分光測色計の測定条件としては、測定モードは反射率測定、測定径は30mm、正反射光の処理の設定はSCE、UV条件は100%Fullで行った。測定結果は、縦軸をa値、横軸をL値としてグラフ化した。このグラフにおいては、プロットがグラフの左上に近いほど明度が低く且つ赤色が強く、つまり鮭の魚肉の赤色が鮮明である(退色が抑制されている)ことを示す。
なお、訓練された検査員による目視検査もあわせて実施した。
【0031】
結果としては、自社従来品であるビタミンCと茶抽出物、pH調整剤の併用品(試験区1(オリエンタル酵母工業社製、SK−I)及び試験区2(オリエンタル酵母工業社製、S−KC))と比較して、本発明品(試験区5)は有意に鮭の赤色の退色が抑制されていた(図1)。さらに、フェルラ酸を含まないビタミンCとpH調整剤のみの試作品製剤(試験区4)と比較しても有意に鮭の赤色の退色が抑制されていた(図1)。なお、pH調整剤のみの製剤(試験区3)では、鮭の退色抑制効果はほとんど発揮されなかった(図1)。目視検査の結果も、分光測色計の測定結果と同様であった。
この結果から、本発明品はビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用により相乗効果が発揮され、従来品よりも有意に魚肉の退色を抑制することが明らかとなった。
【実施例2】
【0032】
(鮭の退色抑制試験II)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤と、他社従来品等との鮭の退色抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0033】
表2に示した各試験区の製剤について、原料魚肉、魚肉処理方法、色調測定方法は実施例1と同様の方法で行った(なお、鮭の保存期間は7日間で色調測定を行った)。
【0034】
【表2】
【0035】
結果としては、本発明品(試験区3)は、自社従来品(試験区1、S−KC)だけでなく、他社従来品(試験区4(エアウォーター炭酸社製、ミナクロールSB−12S))、試験区5(千代田商工社製、キープレッドNo.8))と比較しても有意に鮭の赤色の退色が抑制されていた(図2)。さらに、フェルラ酸を含まないビタミンCとpH調整剤のみの試作品製剤(試験区2)と比較しても有意に鮭の赤色の退色が抑制されていた(図2)。目視検査の結果も、分光測色計の測定結果と同様であった。
この結果から、本発明品はビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用により相乗効果が発揮され、従来品よりも有意に魚肉の退色を抑制することが明らかとなった。
【実施例3】
【0036】
(鮭の退色抑制試験III)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤と、ビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の各成分単独との鮭の退色抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0037】
表3に示した各試験区の製剤について、原料魚肉、魚肉処理方法、色調測定方法は実施例1と同様の方法で行った(なお、鮭の保存期間は7日間で色調測定を行った)。
【0038】
【表3】
【0039】
結果としては、本発明品(試験区2)は、ビタミンC単独の製剤(試験区3、4)や、フェルラ酸単独の製剤(試験区5、6)、pH調整剤単独の製剤(試験区7)と比較して有意に鮭の赤色の退色が抑制されていた(図3)。さらに、ビタミンCやフェルラ酸の単独使用において使用量を増加させても退色抑制効果は変わらなかった(試験区4、6(図3))。各成分無添加の場合(試験区1)については、鮭の退色抑制効果は発揮されなかった(図3)。目視検査の結果も、分光測色計の測定結果と同様であった。
この結果から、本発明品はビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用により相乗効果が発揮され、各成分の単独使用よりも有意に魚肉の退色を抑制することが明らかとなった。
【実施例4】
【0040】
(鮭の退色抑制試験IV)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤(3成分併用)と、ビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤のうちの2成分併用との鮭の退色抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0041】
表4に示した各試験区の製剤について、原料魚肉、魚肉処理方法、色調測定方法は実施例1と同様の方法で行った(なお、鮭の保存期間は7日間で色調測定を行った)。
【0042】
【表4】
【0043】
結果としては、本発明品(試験区2)は、ビタミンCとフェルラ酸併用の製剤(試験区3)や、フェルラ酸とpH調整剤併用の製剤(試験区4)、フェルラ酸のみの製剤(試験区5)と比較して有意に鮭の赤色の退色が抑制されていた(図4)。各成分無添加の場合(試験区1)については、鮭の退色抑制効果は発揮されなかった(図4)。目視検査の結果も、分光測色計の測定結果と同様であった。
この結果から、本発明品はビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用により相乗効果が発揮され、2成分併用よりも有意に魚肉の退色を抑制することが明らかとなった。
【実施例5】
【0044】
(鮭の退色抑制試験V)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤と、フェルラ酸を茶抽出物に置き換えた場合との鮭の退色抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0045】
表5に示した各試験区の製剤について、原料魚肉、魚肉処理方法、色調測定方法は実施例1と同様の方法で行った(なお、鮭の保存期間は7日間で色調測定を行った)。
【0046】
【表5】
【0047】
結果としては、本発明品(試験区5)は、ビタミンC、茶抽出物、pH調整剤の3成分併用の製剤(試験区4)と比較して有意に鮭の赤色の退色が抑制されていた(図5)。また、ビタミンCとpH調整剤の併用(試験区2、3)と比較しても有意に鮭の赤色の退色が抑制され、ビタミンCとpH調整剤の併用ではビタミンC量を増加しても効果は変わらなかった(試験区3、図5)。各成分無添加の場合(試験区1)については、鮭の退色抑制効果は発揮されなかった(図5)。目視検査の結果も、分光測色計の測定結果と同様であった。
この結果から、本発明品はビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用により相乗効果が発揮され、ビタミンC、茶抽出物、pH調整剤の3成分併用よりも有意に魚肉の退色を抑制することが明らかとなった。
【実施例6】
【0048】
(鮭の退色抑制試験VI)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤において、ビタミンC量増減による鮭の退色抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0049】
表6に示した各試験区の製剤について、原料魚肉、魚肉処理方法、色調測定方法は実施例1と同様の方法で行った(なお、鮭の保存期間は7日間で色調測定を行った)。
【0050】
【表6】
【0051】
結果としては、ビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分併用の製剤(試験区5〜7)において、ビタミンCが10%以下では充分な鮭の赤色の退色抑制効果が得られなかった(図6)。また、ビタミンCとpH調整剤の併用製剤(試験区2〜4)や各成分無添加の場合(試験区1)ではいずれも充分な鮭の赤色の退色抑制効果が得られなかった(図6)。目視検査の結果も、分光測色計の測定結果と同様であった。
この結果から、本発明品のビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用において、ビタミンC量が20%以上で有意に魚肉の退色を抑制することが明らかとなった。
【実施例7】
【0052】
(鮭の退色抑制試験VII)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤において、フェルラ酸量増減による鮭の退色抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0053】
表7に示した各試験区の製剤について、原料魚肉、魚肉処理方法、色調測定方法は実施例1と同様の方法で行った(なお、鮭の保存期間は7日間で色調測定を行った)。なお、各試験区の製剤は精製塩で100%となるように調製した。
【0054】
【表7】
【0055】
結果としては、ビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分併用の製剤において、ビタミンC量が20%ではフェルラ酸量が0.5〜2%のいずれの製剤でも有意に鮭の赤色の退色が抑制されていた(試験区2〜5、図7)。また、ビタミンC量が15%でもフェルラ酸量が2.0%であれば有意に鮭の赤色の退色が抑制されていた(試験区9、図7)。なお、ビタミンC量が15%でフェルラ酸量が1.5%以下の場合(試験区6〜8)や各成分無添加の場合(試験区1)では充分な鮭の赤色の退色抑制効果が得られなかった(図7)。目視検査の結果も、分光測色計の測定結果と同様であった。
この結果から、本発明品のビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用において、ビタミンC量が20%以上であり、かつ、フェルラ酸量が0.5%以上で有意に魚肉の退色を抑制することが明らかとなった。また、ビタミンC量が15%以上であり、かつ、フェルラ酸量が2.0%以上でも有意に魚肉の退色を抑制することが明らかとなった。
【実施例8】
【0056】
(鮭の退色抑制試験VIII)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤において、浸漬液pHによる鮭の退色抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0057】
表8に示した各試験区の製剤について、原料魚肉、魚肉処理方法、色調測定方法は実施例1と同様の方法で行った(なお、鮭の保存期間は7日間で色調測定を行った)。なお、各試験区の製剤は、表8に示した浸漬液pHとなるように炭酸カリウム量を調整し、最終的に精製塩で100%となるように調製した。
【0058】
【表8】
【0059】
結果としては、ビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分併用の製剤において、浸漬液pHが10.0〜10.5の範囲で有意に鮭の赤色の退色が抑制されていた(試験区3及び4、図8)。しかし、浸漬液pHがこの範囲を外れた場合には充分な効果が得られなかった(試験区2及び5、図8)。なお、各成分無添加の場合(試験区1)では充分な鮭の赤色の退色抑制効果が得られなかった(図8)。目視検査の結果も、分光測色計の測定結果と同様であった。
この結果から、本発明品のビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用において、浸漬液pHが10.0〜10.5となるようなpH調整剤の種類、配合量で有意に魚肉の退色を抑制することが明らかとなった。
【実施例9】
【0060】
(アジ干物の退色抑制試験)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤のアジ干物に対する退色抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0061】
背開きにしたアジ(約300g)を、別に用意した食塩10%及び各試験区の製剤0.5%を溶解した4℃の浸漬液で30分間浸漬した(浸漬中は浸漬液温度を3〜5℃の範囲に維持した)。浸漬終了後、アジを取り出して表面の水気をとり、フードドライヤー(大紀産業社製)で20℃5時間乾燥処理した(このとき2時間、4時間経過時にアジを面返しした)。これをポリ袋に入れ、4℃で5日間及び7日間保存した。
なお、各試験区の製剤の配合を表9に示した。また、4℃5日間保存後及び7日間保存後のアジ魚肉の色調を、実施例1と同様の方法で測定した。
【0062】
【表9】
【0063】
結果を図9(5日間保存後)及び図10(7日間保存後)に示した。結果としては、本発明品(試験区3)は有意にアジの退色及び酸化が抑制されていた(図9、図10)が、ビタミンCとpH調整剤の併用のみ(試験区2)では充分なアジの退色・酸化抑制効果が得られなかった(図9、図10)。なお、各成分無添加の場合(試験区1)ではアジの退色・酸化抑制効果がほとんどなかった(図9、図10)。特に、アジは不飽和脂肪酸が多く、黄色く変色するほど酸化している状態を示しているが、7日間保存後において、本発明品は有意にアジ魚肉が黄色く変色するのを抑制していた(図10)。目視検査の結果も、分光測色計の測定結果と同様であった。
この結果から、本発明品はビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用により相乗効果が発揮され、アジ魚肉の退色を有意に抑制することが明らかとなった。
【実施例10】
【0064】
(マグロの褐変抑制試験I)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤のマグロに対する変色抑制効果を確認するため、以下の試験を行った。
【0065】
マグロとして、メバチマグロ赤身(300g)を使用し、これを粗くミンチにした後各試験区の製剤3g(対魚肉1%、試験区1を除く)、植物油脂15g(対魚肉5%、月島食品工業社製)、及び、食塩0.39gを添加、混合した。これを4℃で24時間保存して色の変化を確認した。マグロの色調は、実施例1と同様の方法で測定した。
なお、各試験区の製剤の配合、及び、マグロミンチのpHを表10に示した。
【0066】
【表10】
【0067】
結果としては、本発明品(試験区3)は有意にマグロの褐変が抑制されていた(図11)が、ビタミンCとpH調整剤の併用のみ(試験区2)では充分なマグロの褐変抑制効果が得られなかった(図11)。なお、本実施例の結果においては、鮭肉退色の場合と異なりマグロの褐変が進むことによりL値は低くなるため、グラフの右上に近いほどマグロの変色が抑制されていることになる。目視検査の結果も分光測色計の測定結果とほぼ同様であり、本発明品は24時間後もマグロの鮮赤色を維持させていたが、試験区1ではすぐに黒変し、試験区2においても24時間後では褐変が進んでいた。
この結果から、本発明品はビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用により相乗効果が発揮され、マグロ魚肉の変色(褐変)を有意に抑制することが明らかとなった。
【実施例11】
【0068】
(マグロの褐変抑制試験II)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤中の各成分の配合量がマグロ変色抑制効果に与える影響を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0069】
マグロとして、メバチマグロ赤身(300g)を使用し、これを粗くミンチにした後各試験区の製剤3g(対魚肉1%、試験区1を除く)、植物油脂15g(対魚肉5%、月島食品工業社製)、及び、食塩0.39gを添加、混合した。これを4℃で24時間保存して色の変化を確認した。マグロの色調は、実施例1と同様の方法で測定した。
なお、各試験区の製剤の配合、及び、マグロミンチのpHを表11に示した。
【0070】
【表11】
【0071】
結果としては、ビタミンCナトリウムは0.5重量%(試験区3)、pH調整剤の炭酸カリウムは40重量%(試験区4)、フェルラ酸は0.1重量%(試験区5)まで減らしても標準品(試験区2、実施例10の試験区3と同じ)とほぼ同等のマグロ変色抑制効果を発揮し、マグロの赤さが保持されることが示された(図12)。目視検査の結果も分光測色計の測定結果とほぼ同様であった。
【実施例12】
【0072】
(ホッケの退色抑制試験)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤のホッケに対する退色抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0073】
背開きにした生鮮のホッケ(約500g)を、別に用意した食塩10%及び各試験区の製剤0.5%を溶解した4℃の浸漬液で30分間浸漬した(浸漬中は浸漬液温度を3〜5℃の範囲に維持した)。浸漬終了後、ホッケを取り出して表面の水気をとり、フードドライヤー(大紀産業社製)で20℃4時間乾燥処理した(このとき2時間経過時にホッケを面返しした)。これをポリ袋に入れ、4℃で3日間保存した。
なお、各試験区の製剤の配合を表12に示した(表中の炭酸カリウム、メタリン酸ナトリウムはいずれもpH調整剤)。また、3日間保存後のホッケ魚肉の色調は実施例1と同様の方法で測定し、身の部分8箇所を測定して平均したものを測定値とした。
【0074】
【表12】
【0075】
結果としては、本発明品(試験区3)は有意にホッケ魚肉の赤色が維持され退色が抑制されていた(図13)が、ビタミンCとpH調整剤の併用のみ(試験区2)では充分なホッケの退色抑制効果が得られなかった(図13)。なお、各成分無添加の場合(試験区1)ではホッケ魚肉が白くなり退色抑制効果がほとんど得られなかった(図13)。目視検査の結果も、分光測色計の測定結果と同様であった。
この結果から、本発明品はビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用により相乗効果が発揮され、ホッケ魚肉の退色を有意に抑制することが明らかとなった。
【実施例13】
【0076】
(赤魚の変色抑制試験)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤の赤魚に対する変色抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0077】
おろし身にした赤魚(約300g)を、別に用意した食塩5%及び各試験区の製剤0.5%を溶解した4℃の浸漬液で60分間浸漬した(浸漬中は浸漬液温度を3〜5℃の範囲に維持した)。浸漬終了後、赤魚を取り出して表面の水気をとり、これをポリ袋に入れ、4℃で7日間保存した。
なお、各試験区の製剤の配合及び4℃で7日間保存後のL値測定結果を表13に示した。また、7日間保存後の赤魚体表の色調は実施例1と同様の方法で測定し、表皮の背・腹各2箇所の計4箇所を測定して平均したものを測定値とした。
【0078】
【表13】
【0079】
結果としては、本発明品(試験区3)は有意に赤魚体表の変色(黒変)が抑制されていた(表13)が、ビタミンCとpH調整剤の併用のみ(試験区2)及び各成分無添加の場合(試験区1)では表面の部分的な黒変が目立ち、充分な赤魚の変色抑制効果が得られなかった(表13)。目視検査の結果も、分光測色計の測定結果と同様であった。
この結果から、本発明品はビタミンC、フェルラ酸、pH調整剤の3成分の併用により相乗効果が発揮され、赤魚体表の変色を有意に抑制することが明らかとなった。
【実施例14】
【0080】
(サバの油焼け抑制試験)
本発明に係る魚肉退色・変色抑制剤について、不飽和脂肪酸を非常に多く含むサバの油焼け抑制効果を比較確認するため、以下の試験を行った。
【0081】
生鮮サバ(100g)を使用し、これを粗くミンチにした後各試験区の製剤0.5g(対魚肉0.5%、試験区1を除く)を添加、混合した。これを4℃で7日間保存した後、各試験区の過酸化物価(POV)及びTBARS(Thiobarbituric Acid Reactive Substances、チオバルビツール酸反応性物質)を測定した。また、目視検査による色調変化確認も行った。
なお、各試験区の製剤の配合を表14に示した。また、過酸化物価の測定方法は日本油脂化学協会法に準じ、TBARSの測定方法はCayman Chemical Company製のTBARS Assay Kitを使用した。
【0082】
【表14】
【0083】
結果としては、POV測定、TBARS測定のいずれも同様の傾向を示し、無添加区(試験区1)は非常に高い値を示し、2成分添加区(試験区2)は無添加区より低い値を示したが、本発明品(3成分添加区、試験区3)より高い値を示した(図14、図15)。つまり、本発明品がいずれも一番低い値を示し酸化が抑制されていた。
目視検査の結果も同様の結果であり、無添加区では黄変化が確認されたが、2成分添加区及び本発明品ではくすんだ灰色が確認でき、特に本発明品ではサバ本来の色調が有意に保たれ油焼け抑制効果が顕著であった。
【0084】
本発明を要約すれば、以下の通りである。
【0085】
本発明は、天然由来で安全性の高い物質を有効成分とし、ミオグロビンの変色、カロテノイド色素の退色、油焼け等の魚肉の退色及び/又は変色を有効かつ効果的に抑制及び/又は防止する剤(魚肉用退色防止剤、魚肉用変色防止剤、魚肉用退色抑制剤、魚肉用変色抑制剤の少なくともひとつ)、及びその方法を提供することを目的とする。
【0086】
そして、米や小麦等の植物種子細胞壁に存在する抗酸化成分であるフェルラ酸とビタミンCを所定の割合で併用し、更にpH調整剤を所定量配合して得られる剤(フェルラ酸、ビタミンC、pH調整剤の3成分を有効成分とする剤)を用いることで、特に酸化反応が関与する魚肉の退色及び/又は変色(ミオグロビンの褐変、カロテノイド色素の退色・変色、油焼けなど)を効果的に抑制する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸又はアスコルビン酸ナトリウム、フェルラ酸、pH調整剤の3成分を有効成分として含有することを特徴とする魚肉の退色及び/又は変色抑制剤。
【請求項2】
アスコルビン酸又はアスコルビン酸ナトリウム、フェルラ酸、pH調整剤及び塩化ナトリウムからなることを特徴とする魚肉の退色及び/又は変色抑制剤。
【請求項3】
pH調整剤が炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、リンゴ酸ナトリウムから選ばれる1以上からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
カロテノイド色素、ミオグロビン、不飽和脂肪酸から選ばれる1以上を含有する魚肉の退色及び/又は変色を抑制することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の剤。
【請求項5】
サケ類、マグロ類、赤魚、アジ、ホッケ、サバのいずれかの魚肉の退色及び/又は変色を抑制することを特徴とする請求項4に記載の剤。
【請求項6】
アスコルビン酸又はアスコルビン酸ナトリウムを15〜35重量%、フェルラ酸を0.2〜5重量%、pH調整剤を50〜75重量%で含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の剤。
【請求項7】
アスコルビン酸又はアスコルビン酸ナトリウムを0.5〜10重量%、フェルラ酸を0.1〜5重量%、pH調整剤を40〜99重量%で含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の剤。
【請求項8】
請求項6に記載の剤を0.3〜1.0重量%含む浸漬液で、魚肉を0.5〜20時間浸漬処理することを特徴とする魚肉の退色及び/又は変色抑制方法。
【請求項9】
浸漬液のpHを10.0〜10.5とし、浸漬温度を0〜30℃とすることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項7に記載の剤を、魚肉に直接添加する処理を行うことを特徴とする魚肉の退色及び/又は変色抑制方法。
【請求項11】
カロテノイド色素、ミオグロビン、不飽和脂肪酸から選ばれる1以上を含有する魚肉を処理することを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
処理する魚肉が、サケ類、マグロ類、赤魚、アジ、ホッケ、サバのいずれかであることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項1】
アスコルビン酸又はアスコルビン酸ナトリウム、フェルラ酸、pH調整剤の3成分を有効成分として含有することを特徴とする魚肉の退色及び/又は変色抑制剤。
【請求項2】
アスコルビン酸又はアスコルビン酸ナトリウム、フェルラ酸、pH調整剤及び塩化ナトリウムからなることを特徴とする魚肉の退色及び/又は変色抑制剤。
【請求項3】
pH調整剤が炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、リンゴ酸ナトリウムから選ばれる1以上からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
カロテノイド色素、ミオグロビン、不飽和脂肪酸から選ばれる1以上を含有する魚肉の退色及び/又は変色を抑制することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の剤。
【請求項5】
サケ類、マグロ類、赤魚、アジ、ホッケ、サバのいずれかの魚肉の退色及び/又は変色を抑制することを特徴とする請求項4に記載の剤。
【請求項6】
アスコルビン酸又はアスコルビン酸ナトリウムを15〜35重量%、フェルラ酸を0.2〜5重量%、pH調整剤を50〜75重量%で含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の剤。
【請求項7】
アスコルビン酸又はアスコルビン酸ナトリウムを0.5〜10重量%、フェルラ酸を0.1〜5重量%、pH調整剤を40〜99重量%で含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の剤。
【請求項8】
請求項6に記載の剤を0.3〜1.0重量%含む浸漬液で、魚肉を0.5〜20時間浸漬処理することを特徴とする魚肉の退色及び/又は変色抑制方法。
【請求項9】
浸漬液のpHを10.0〜10.5とし、浸漬温度を0〜30℃とすることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項7に記載の剤を、魚肉に直接添加する処理を行うことを特徴とする魚肉の退色及び/又は変色抑制方法。
【請求項11】
カロテノイド色素、ミオグロビン、不飽和脂肪酸から選ばれる1以上を含有する魚肉を処理することを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
処理する魚肉が、サケ類、マグロ類、赤魚、アジ、ホッケ、サバのいずれかであることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
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【図11】
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【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−206042(P2011−206042A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153436(P2010−153436)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000103840)オリエンタル酵母工業株式会社 (60)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000103840)オリエンタル酵母工業株式会社 (60)
【Fターム(参考)】
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