説明

魚肉練り製品のゲル強度増強方法及びゲル強度増強用添加物

【課題】練り製品の坐りを促進させ、ゲル強度を増強することにより、よりよい品質の魚肉練り製品を製造する方法を提供する。
【解決手段】魚肉練り製品の製造において、ゲル強度増強のためにトランスグルタミナーゼを用いる場合に、米糠成分及びジャガイモ成分を併用することを特徴とする魚肉練り製品のゲル強度増強方法である。トランスグルタミナーゼ、米糠成分及びジャガイモ成分を含有することを特徴とする魚肉練り製品用添加物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚肉練り製品の品質改善のための添加物およびそれを使用する魚肉練り製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚肉を原料とする練り製品はその弾力が重要な品質尺度の一つである。この弾力は、「足」、「ゲル形成能」などという尺度でも表現される。この独特の弾力は、塩ずりした肉糊を20〜40℃の適当な温度下に10分〜20時間程度置くことにより得られ、この過程は「坐り」と呼ばれる。この坐りによって得られた弾力が、その後の加熱工程で低下する現象が知られており、これは「戻り」と呼ばれる。品質のよい練り製品を製造するためには坐りと戻りをうまく制御することが重要であり、坐りを促進させ、戻りを抑制するための方法が工夫されている。
坐りや戻りの現象は、原料の魚種によって大きく影響され、また同じ魚種でも、鮮度、原料の処理方法、水晒し方法により影響される。例えば、漁獲直後に洋上加工されるスケトウダラのすり身は坐りが強く、戻りが弱いことから高品質なすり身の代表とされる。一方、同じスケトウダラでも比較的低鮮度で、血液や内蔵の混入がみられる陸上すり身では、坐りが弱く戻りが強くなる傾向にある。水晒しを行ってすり身として多用されているスケトウダラに対して、イトヨリ、キンメダイ、マイワシ、アジ等の魚肉は、ゲル形成能は弱いが、旨味が強いことから、風味改善の点で魅力があり、練り製品の原料として混合して使用されている。弾力の強い練り製品を生産する場合は、スケトウダラの洋上すり身の配合比率を高めることが求められる。
【0003】
これら魚種の選択だけでなく、弾力を増強する添加剤の開発も行われている。特許文献1では、魚肉に牛または豚の血漿粉末を添加することにより弾力増強の効果を挙げている。特許文献2では、魚肉にトランスグルタミナーゼ、血清、血漿または卵白を添加して品質を向上している。これらは坐りを促進させる効果、もしくは、戻りを抑制する効果を得るために開発された添加剤である。
しかし、これらの添加剤については以下のような点から利用しにくい状況となっている。鶏卵は乳幼児の食物アレルギーの原因物質として上位を占める食物であり、魚肉を主成分とする練り製品からは誤食防止の観点からも除去することが望ましい素材である。また、牛血漿は牛海綿状脳症のリスクから使用が中止されている。
トランスグルタミナーゼに関しては、放線菌由来(特許文献3など)、モルモット肝臓由来(特許文献4)、魚由来(非特許文献1など)、遺伝子組み換えのものなど(特許文献5など)が知られており、放線菌由来のトランスグルタミナーゼ製剤(味の素株式会社製(商品名:アクティバ))が市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭59−28386号
【特許文献2】特開平3−219854号
【特許文献3】特開平1−27471号
【特許文献4】特公平1−50382号
【特許文献5】特開平6−225775号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】関信夫、日本水産学会誌第5巻、125-132ページ、1990年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は練り製品の坐りを促進させ、ゲル強度を増強することにより、よりよい品質の魚肉練り製品を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するため、検討を行う中で、米糠成分及びジャガイモ成分がそれらだけでは、魚肉のゲル強度に影響を与えない場合でも、トランスグルタミナーゼと併用することにより、ゲル強度を大きく高め、また、米糠成分とジャガイモ成分は併用することで相乗効果を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、以下(1)〜(7)の魚肉練り製品のゲル強度増強方法、魚肉練り製品のゲル強度増強用添加物、及び、それら添加剤を使用して製造した魚肉練り製品を要旨とする。
(1)魚肉練り製品の製造において、ゲル強度増強のためにトランスグルタミナーゼを用いる場合に、米糠成分及びジャガイモ成分を併用することを特徴とする魚肉練り製品のゲル強度増強方法。
(2)米糠成分が米糠由来プロテアーゼインヒビターであり、ジャガイモ成分がジャガイモ由来プロテアーゼインヒビターである(1)の方法。
(3)魚肉100gに対して、トランスグルタミナーゼをトランスグルタミナーゼ活性として7.5〜375ユニット、米糠成分をオリザシスタチンとして5〜450μg、ジャガイモ成分をトリプシン阻害活性として1000〜180000ユニット使用することを特徴とする(1)又は(2)の方法。
【0009】
(4)トランスグルタミナーゼ、米糠成分及びジャガイモ成分を含有することを特徴とする魚肉練り製品用添加物。
(5)米糠成分が米糠由来プロテアーゼインヒビターであり、ジャガイモ成分がジャガイモ由来プロテアーゼインヒビターである(4)の添加物。
(6)トランスグルタミナーゼのトランスグルタミナーゼ活性100ユニットに対して、米糠成分をオリザシスタチンとして5〜600μg、ジャガイモ成分をトリプシン阻害活性として1000〜240000ユニット配合されたものである(4)又は(5)の添加物。
(7)(4)ないし(6)いずれかの添加物を使用して製造された魚肉練り製品。
【発明の効果】
【0010】
本発明にしたがって、米糠成分及びジャガイモ成分をトランスグルタミナーゼと併用することにより、それぞれを単独で用いるよりも高い相乗効果を示し、魚肉練り製品のゲル強度増強効果を高めることができる。したがって、これら3成分を配合した本発明の添加物は、魚肉練り製品の製造において添加物として適しており、弾力ある練り製品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】添加物の濃度変化とゲル強度の関係を示す図である。
【図2】米糠抽出物とジャガイモ抽出物の添加量と魚肉タンパク質が分解されてできる遊離ペプチドの量の関係を示す図である。図中、「米ぬか」は米糠抽出物を、「馬鈴薯」はジャガイモ抽出物を添加したサンプルを意味する。
【図3】米糠抽出物とジャガイモ抽出物の混合物の添加量と魚肉タンパク質が分解されてできる遊離ペプチドの量の関係を示す図である。図中、MIXは米糠抽出物とジャガイモ抽出物の混合物を添加したサンプルを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、魚肉練り製品とは、カマボコ、ちくわ、さつま揚げ、カニカマ、魚肉ソーセージ等の、魚肉を主成分とする通常の水産練製品を指す。魚肉練り製品は魚肉に副原料、例えば澱粉、グルテン、食塩、糖類、糖アルコール、調味料、香辛料、着色料等を添加して製造される。練り製品の原料となるすり身は、原料魚から採肉、水晒し、脱水、砕肉等の工程により製造される。水晒ししない落し身も練り製品の原料として使用される。練り製品はすり身又は落し身などに副原料を添加し、擂潰、調味、成形、加熱、冷却等の工程を経て製造される。坐り工程は、通常成型後、15〜50℃、好ましくは20〜40℃の温度下に10分〜20時間、置く工程をいい、この工程により魚肉の弾力が高まる。
本発明のトランスグルタミナーゼ、米糠成分、及びジャガイモ成分を含有することを特徴とする魚肉練り製品用添加物は、これら魚肉練り製品を製造する際に、他の副原料と一緒に添加して利用することができる。特に、坐り工程を含むかまぼこやちくわに特に有効である。
【0013】
練り製品のゲル強度とは、練り製品の弾力を表す一つの指標としてよく用いられ、通常、練り製品の破断強度(W値、g)と破断までの距離(L値、cm)の積(W値×L値)で表示される。
【0014】
本発明において、トランスグルタミナーゼとは、タンパク質のグルタミン残基とリジン残基を架橋する酵素であり、その架橋機能を有するものであれば、何に由来するトランスグルタミナーゼであってもよい。トランスグルタミナーゼに関しては、放線菌由来(特許文献3など)、モルモット肝臓由来(特許文献4)、魚由来(非特許文献1など)、遺伝子組み換えのものなど(特許文献5など)が知られており、いずれも使用できる。トランスグルタミナーゼは練り肉100g あたり7.5〜375ユニット、好ましくは30〜150ユニット添加することが望ましい。例えば、市販されている味の素株式会社の商品「アクティバKS-CT(酵素含有率1.0%)」であれば、練り肉に0.05〜0.2重量%添加するのが好ましい。0.2重量%以上添加してもよいが、余分に添加しても効果の上昇が現れなくなる。また、0.05重量%以下では少なすぎて効果が顕著に見られない。
トランスグルタミナーゼ活性はジメチルカゼインとモノダンシルカダベリンを基質として反応を行い、取り込まれたモノダンシルカダベリンの量を、蛍光強度を測定することにより求めた。基質を含む反応液(2mg/mlジメチルカゼイン、5mM塩化カルシウム、5mM ジチオスレイトール、50mM トリス塩酸緩衝液(pH7.5)、0.5mM モノダンシルカダベリン)300μlに対して100μlの酵素液を添加し37℃で反応を行い、10%トリクロロ酢酸溶液を400μl加えて反応を停止させ、蛍光強度を測定した(励起波長355nm、蛍光波長525nm)。活性の単位は1分間に1nmolのモノダンシルカダベリンが取り込まれる酵素活性を1ユニットとした。
【0015】
本発明において米糠成分とは、米糠の水溶性成分を含む抽出物である。プロテアーゼインヒビター活性を指標に精製、濃縮したものでもよい。特に、米糠に多く含まれる食物繊維は除去または低減させたものが好ましい。精製されたオリザシスタチン、特許3676296号公報に記載されている「フィチン及び/又はフィチン酸を低減あるいは除去した米糠抽出物」、「沈殿法あるいは透析法により坐り抑制成分を低減あるいは除去した米糠抽出物」等が利用できる。これらの米糠抽出物を練り肉100g あたり有効成分であるオリザシスタチン換算で5〜450μg、好ましくは9〜150μg練り肉に添加することが望ましい。実施例記載の米糠抽出物(オリザシスタチン含量150 ppm)の場合、練り肉に0.05〜2.0重量%添加するのが好ましい。2.0重量%以上添加してもよいが、余分に添加しても効果の上昇が現れず、むしろ米糠抽出物の味や色の影響が大きくなるので好ましくない。また、0.1重量%以下では効果が弱い。もっとも、多くても少なくても一定の効果がないわけではないから、目的物によって、適宜配合量を調節して用いる。
【0016】
本発明においてジャガイモ成分とは、ジャガイモの水溶性成分を含む抽出物である。ジャガイモの粉砕物をそのまま使用できる。プロテアーゼインヒビター活性を指標に精製、濃縮したものでもよい。ジャガイモ抽出物(Nonpareil社製(商品名:NP-3))などが利用できる。ジャガイモ成分をトリプシン阻害活性で練り肉100g あたり1,000〜180,000ユニット、好ましくは2,500〜45,000ユニット添加することが望ましい。Nonpareil社製NP-3の場合、練り肉に0.05〜2.0重量%添加するのが好ましい。2.0重量%以上添加してもよいが、余分に添加しても効果の上昇が現れず、むしろジャガイモ成分の味や色の影響が大きくなるので好ましくない。また、0.1重量%以下では効果が弱い。もっとも、多くても少なくても一定の効果がないわけではないから、目的物によって、適宜配合量を調節して用いる。
【0017】
トリプシン阻害活性については合成基質としてBoc-Gln-Ala-Arg-MACを使用して測定した。トリプシンインヒビター活性はトリプシン(比活性30USPユニット/mg)を20mM Tris pH7.5/0.1M NaClにて20μg/mlに希釈したもの50μlに、被検物質を各濃度に希釈したもの750μlを加え、37℃で3分間プレインキュベートした。その後、合成基質6.24mg/mlを200μl加え反応液とし、37℃で6分間インキュベートした。その後1mM pAPMSFを1.5ml加え反応を停止し、励起波長380nm、蛍光波長460nmで蛍光強度を測定した。このときの反応液1mlの酵素活性を50%阻害するのに必要な阻害活性を1ユニットと定義した。実施例で用いたNP-3のトリプシンインヒビター活性は45,000ユニット/gであった。
【0018】
プロテアーゼにはいくつかの種類があり、それらが含まれている比率は魚種により異なる。例えば、スケトウダラ、パシフィックホワイティングなどの魚種ではシステイン系のプロテアーゼが主体であり、アジ、タチウオなどの魚種ではセリン系プロテアーゼが主体である。また、ホッケ、エソなどでは両方のプロテアーゼが含まれていることが知られている。従来すり身に使われていた卵白や血漿などは両タイプのプロテアーゼインヒビターを含むが、植物由来のプロテアーゼインヒビターはシステイン系またはセリン系のプロテアーゼのいずれかにしか効果がなく、練り製品の弾力向上には両者を併用することが必要である。
米糠に含まれるプロテアーゼインヒビターはシステインプロテアーゼインヒビターがほとんどであり、ジャガイモに含まれるプロテアーゼインヒビターはセリンプロテアーゼインヒビターがほとんどである。
これらはそれぞれ単独で魚肉練り製品に使用されることがあるが、実施例に示すように併用することにより、添加量の合計が同じでも強いゲル強度増強効果を示す。
実施例記載の米糠抽出物とNonpareil社製NP-3の場合、重量比で1:10〜10:1の比率で併用するのが好ましく、特に1:3〜3:1が好ましい。実際には魚種ごとに調製するよりも、ほぼ1:1に配合した製剤を適量用いることで、どのような魚種の組み合わせにおいても用いることができる。
【0019】
本発明の添加物の添加時期に関しては、加熱前であれば特に限定されないが、通常、練り製品製造時の練り工程時に添加するのが良い。また、あらかじめ原料のすり身製造時に添加しておいてもよい。
練り製品のすり身原料としては、イトヨリ、エソ、グチ、スケトウダラ、タチウオ、ホキ、ホッケ、マアジ、ミナミダラなどのすり身を用いることができる。特にスケトウダラ下級すり身ではシステインプロテアーゼが強く、アジ、エソではセリンプロテアーゼが強いため、これらのすり身を練り製品に使用する場合は特に大きな効果が発揮される。
トランスグルタミナーゼ、システインプロテアーゼインヒビターおよびセリンプロテアーゼインヒビターが共存した状態で練り肉が加熱されると、原料に異なった種類のすり身 を使用する場合でもプロテアーゼによる魚肉タンパクの分解が抑制され、トランスグルタミナーゼによる弾力付与が最大化された練り製品を作ることができる。
【0020】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
実施例中で用いている米糠抽出物は、特許367696号に記載の方法で製造された米糠抽出物であって、具体的には、米糠を水抽出し、膜ろ過により、フィチン、フィチン酸などの低分子成分を除去し、高分子画分を濃縮し、乾燥工程を経て製造され、オリザシスタチンを150ppm含有するものである。
【実施例1】
【0021】
スケトウダラ及びエソ魚肉を原料とするカマボコに対する効果(坐り単品試験)
解凍した冷凍すり身をサイレントカッターを用いて粗擂り、塩擂り(食塩3重量%添加)を行った上で、加水(水道水15重量%添加)し練り肉を調製した。すり身はスケトウダラRA級すり身7部に対してエソすり身3部の割合で混合して用いた。塩擂り時に魚肉に対して、トランスグルタミナーゼ(味の素株式会社製、商品名:アクティバKS-CT、酵素含有率1.0%)、米糠抽出物(特許3676296号)、ジャガイモ抽出物(Nonpareil社製、商品名:NP-3)をそれぞれ表1、表2の配合にしたがって添加した。用いたトランスグルタミナーゼの活性は750ユニット/g、米糠抽出物はオリザシスタチン含量150 ppm、ジャガイモ抽出物はトリプシン阻害活性が45,000ユニット/gであった。
練り肉はポリ塩化ビニリデンフィルムに充填し、30℃で60分加熱した後90℃で40分間加熱してカマボコを調製した。本条件は坐りがよく促進される条件である。表1、表2に示す配合条件で製造したカマボコの物性を比較した。
得られたカマボコのゲル強度を測定した。ゲル強度は上記の各カマボコを厚さ2.5cmの輪切りにし、5mm径球状のプランジャーを用いて測定した破断強度(w値、g)と、破断までの距離(L値、cm)を掛け合わせたJ.S.(g・cm)で表した。
【0022】
結果を表1、2と図1に示した。トランスグルタミナーゼの存在下において、米糠抽出物、またはジャガイモ抽出物を添加することでゲル強度が向上することが確認された。また、米糠抽出物とジャガイモ抽出物を併用すると添加量の合計が同じにも関わらず、添加量0.125〜1重量%のいずれの用量においても相乗作用が認められた。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【実施例2】
【0025】
解凍した冷凍すり身をフードカッターを用いて粗擂りした。すり身はスケトウダラ2級すり身2部、ホキすり身3部、イトヨリすり身4部の割合で混合して用いた。塩擂り(食塩3重量%添加)時にトランスグルタミナーゼ(味の素株式会社製(商品名:アクティバKS-CT)酵素含有率1.0%)、米糠抽出物(特許3676296号)、ジャガイモ抽出物(Nonpareil社製(商品名:NP-3))をそれぞれ表3の配合で添加した。トランスグルタミナーゼ、米糠抽出物、ジャガイモ抽出物は実施例1と同じものを用いた。塩擂り後にすり身に対して20重量%の水を添加して本擂りを行った。得られた練り肉をポリ塩化ビニリデンフィルムに充填し、90℃で40分間加熱してカマボコを調製した。得られたカマボコのゲル強度を実施例1と同様の方法で測定した。
【0026】
結果を表3に示した。米糠抽出物とジャガイモ抽出物だけを添加したサンプル3では無添加のサンプル1と比較してゲル強度の増強が認められなかったが、トランスグルタミナーゼと米糠抽出物とジャガイモ抽出物の三者を併用したサンプル4では、トランスグルタミナーゼだけのサンプル2と比較して、さらにゲル強度が大きく上昇した。これより、プロテアーゼインヒビターではさほどの効果が見られないような魚種の場合でも、本発明の三者を併用することにより大きくゲル強度を増強することができることが示された。
【0027】
【表3】

【実施例3】
【0028】
練り肉中でのプロテアーゼ阻害効果
スケトウダラRA級すり身7部に対してエソすり身3部の割合で混合したすり身に4倍量の緩衝液(0.1 M NaCl, 20 mM Tris-HCl, pH 7.5)を加えてホモジナイズし、米糠抽出物またはジャガイモ抽出物を添加した。米糠抽出物、ジャガイモ抽出物は実施例1と同じものを用い、添加量はすり身に対して、それぞれ0.1、0.5、1.0重量%、あるいは、両者1:1で混合したものを0.1、0.3、0.5、1.0、1.5重量%とした。これらの溶液をカマボコの戻りを引き起こす60℃で60分間加熱した。その後、等量の15%トリクロロ酢酸を加え、蛋白質画分を除去し、等量の0.5M Na2CO3でpHを調整した後、遊離ペプチド量をLowry法で求めた。
【0029】
結果を図2、図3に示した。米糠抽出物およびジャガイモ抽出物は、濃度依存的にすり身の内在プロテアーゼによる、蛋白質の分解を抑制した。米糠抽出物およびジャガイモ抽出物を単独で添加した図2の結果と比較して、両者を共存させた場合、図3に示したように、米すり身の内在プロテアーゼによる蛋白質の分解を効率良く抑制した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
練り製品の坐りを促進させ、ゲル強度を増強することにより、よりよい品質の魚肉練り製品を製造する方法、及び、魚肉練り製品用添加物を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚肉練り製品の製造において、ゲル強度増強のためにトランスグルタミナーゼを用いる場合に、米糠成分及びジャガイモ成分を併用することを特徴とする魚肉練り製品のゲル強度増強方法。
【請求項2】
米糠成分が米糠由来プロテアーゼインヒビターであり、ジャガイモ成分がジャガイモ由来プロテアーゼインヒビターである請求項1の方法。
【請求項3】
魚肉100gに対して、トランスグルタミナーゼをトランスグルタミナーゼ活性として7.5〜375ユニット、米糠成分をオリザシスタチンとして5〜450μg、ジャガイモ成分をトリプシン阻害活性として1000〜180000ユニット使用することを特徴とする請求項1又は2の方法。
【請求項4】
トランスグルタミナーゼ、米糠成分及びジャガイモ成分を含有することを特徴とする魚肉練り製品用添加物。
【請求項5】
米糠成分が米糠由来プロテアーゼインヒビターであり、ジャガイモ成分がジャガイモ由来プロテアーゼインヒビターである請求項4の添加物。
【請求項6】
トランスグルタミナーゼのトランスグルタミナーゼ活性100ユニットに対して、米糠成分をオリザシスタチンとして5〜600μg、ジャガイモ成分をトリプシン阻害活性として1000〜240000ユニット配合されたものである請求項4又は5の添加物。
【請求項7】
請求項4ないし6いずれかの添加物を使用して製造された魚肉練り製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−101634(P2011−101634A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258550(P2009−258550)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【Fターム(参考)】