説明

魚醤油の製造方法及び魚醤油

【課題】従来の魚介類を原料とした魚醤油に比べて、臭みがなく、風味豊かな魚醤油の製造方法及びこの方法で得られた魚醤油を提供する。
【解決手段】食塩水に魚卵と麹を加えて混合したもろみを発酵熟成し、熟成したもろみを絞って精製する魚醤油の製造方法で、容器に水を張り、食塩をかき混ぜながら投入し、調整された食塩水に乾燥した醤油用の乾燥麹を投入し、さらに食塩水にミンチにした魚卵を投入し、原料投入終了後、再度よく混ぜる。次いで発酵熟成させる。熟成後、ろ過する。ろ過した液を85℃で火入れし、火入れ後、オリをろ過する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚卵を原料とした魚醤油の製造方法及び魚醤油に関する。
【背景技術】
【0002】
魚醤油は魚醤と呼ばれる醤油の一種で、塩辛に近い製品である。製造方法は、塩辛類と同様で、魚介類に食塩を加えて防腐しながら自己消化酵素と微生物の作用により発酵熟成させ、分離した液状部分を加熱、ろ過したものである。魚介類としては、イワシ、ハタハタ、イカの内臓などが使用されている。魚醤油は、主として隠し味として、つゆ・たれ類、ソース類、刺身醤油、加工食品などに使用されている。
【0003】
魚醤油の製造方法については、各種の方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、甘味やこくがあり、刺激臭がなく、不揮発性アミンの少ない魚醤油を提供する方法として、秋鮭などの生の魚を粉砕してこれに醤油麹および食塩を添加し、水分調整した混合物を醗酵させ、醗酵したもろみを搾汁する魚醤油の製造方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、従来の方法によって作られる魚醤油 の独特の異臭がなく、こくのある風味を持った旨い魚醤油を製造するため、もろみ仕込み時にオキアミに食塩および麹を加えてから、さらに乳酸菌および酵母を添加し、その後、もろみを低温で発酵熟成させる魚醤油の製造法が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、魚臭成分であるアミン類やアルデヒド類を殆ど皆無の状態まで除去し、かつ魚種の味が生かされた、アミノ酸の旨味の豊富な魚醤を提供するため、魚介類を、食塩、有機酸を含有するアルコ−ル水溶液からなる浸漬液に浸漬し、しかる後浸漬液から取り出した魚介類に加熱処理を施し、得られた加熱処理済み魚介類を、魚醤油製造工程の仕込み工程に適用して魚醤油を製造する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平10−215810号公報
【特許文献2】特開平8−256727号公報
【特許文献3】特開2006−280280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
魚醤油は旨味のもとであるグルタミン酸を含むので、旨味が有り美味しいが、魚介類を使用するために液状になっても魚特有の匂いが残り、独特の臭みがある。
【0008】
そこで、本発明は、従来の魚介類を原料とした魚醤油に比べて、臭みがなく、風味豊かな魚醤油の製造方法及びこの方法で得られた魚醤油を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の魚醤油の製造方法は、食塩水に魚卵と醤油用乾燥麹を加えて混合したもろみを発酵熟成し、熟成したもろみを絞って精製する。
【0010】
具体的には、食塩水に乾燥麹、魚卵を投入して混合したもろみを発酵熟成させ、熟成後、ろ過して精製することを特徴とする。
【0011】
魚卵のうち、スケトウダラを手水塩入れした、いわゆるタラコ、あるいはタラコを原料とする辛子明太子が適している。
【0012】
食塩、魚卵、乾燥麹の配合割合は、仕込全量(水+魚卵+食塩+乾燥麹)の割合が、重量%で、水44〜47%、食塩13〜14%、魚卵20〜21%、乾燥麹19〜20%となるように配合する。
【0013】
発酵熟成は、温度25℃〜28℃で3ヶ月以上である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の魚醤油は、脂肪分が少ない魚卵を使用しているので、魚肉に多く含まれる不飽和脂肪酸の酸化による、従来の魚醤油が有する独特の臭みがなくなる。
【0015】
また、従来の魚醤油とはやや異なる風味豊かな魚醤油が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は本発明の魚醤油の製造工程を示す図である。
【0017】
(1)食塩水調整工程
容器に水をはる。水は、食塩を添加して塩分濃度が22〜23%となる程度の量とする。
【0018】
水に食塩を投入してよくかき混ぜて所定の濃度の食塩水を調整する。食塩水濃度は、魚卵が腐敗するのを防ぐ程度の食塩を添加して調整する。
【0019】
(2)麹混合工程
食塩水調整工程で得られた食塩水に醤油用の乾燥麹を投入する。麹が食塩水に均一に混合されるように混ぜ棒で撹拌しながら投入する。麹の添加により魚醤油特有の匂いを軽減させることができる。麹は、醤油用乾燥麹が適している。
【0020】
(3)魚卵混合工程
タラコあるいは辛子明太子をすりつぶしてミンチにする。ミンチを麹混合工程で乾燥麹を投入した食塩水中に均一に混合されるように混ぜ棒で撹拌しながら投入する。
【0021】
辛子明太子は、タラコを酒、醤油、みりん及び唐辛子を含む調味液につけ込んで熟成させる通常の製法で得られたものを使用する。
【0022】
(4)発酵熟成工程
原料投入終了後、発酵熟成工程に入る前に麹が異常発酵することがあるので、再度よく混ぜる。
【0023】
発酵熟成は、温度26℃〜28℃温度管理された室で3ヶ月以上熟成させる。熟成期間中は、定期的に撹拌する。
【0024】
(5)ろ過工程
発酵熟成完了後、熟成したもろみを容器から取り出し、ろ布でろ過する。
【0025】
(6)火入れ
ろ過工程で得られたろ液を85℃で火入れして酵素の活性化を止める。火入れ後、オリ下げ剤(柿タンニン、二酸化珪素)を、1000ccにつき各1ccまで添加し撹拌して静置してオリ下げする。
【0026】
(7)オリ下げ後、オリをろ過する。
【実施例1】
【0027】
原料を次のとおり準備して、仕込全量500kgとなるようにする。
【0028】
水:235L(47.0%)
食塩:65kg(13.0%)
醤油用乾燥麹:100kg(20.0%)
タラコ:100kg(20.0%)
製造手順は次のとおりである。
【0029】
(1)容器に232.5Lの水を張り、食塩67.5kgをかき混ぜながら投入し、塩分濃度を測定しながら、濃度22.5質量%に調整する。
【0030】
(2)調整された食塩水に乾燥した醤油用の乾燥麹100kgを投入し、よく混ぜる。
【0031】
(3)さらに食塩水にミンチにした明太子100kgを投入し、よく混ぜる。
【0032】
(4)原料投入終了後、再度よく混ぜる。
【0033】
(5)約25℃で、3ヶ月発酵熟成させる。その間、毎日よくかき混ぜる。
【0034】
(6)3ヶ月発酵熟成した後、熟成したもろみをろ過する。
【0035】
(7)ろ過した液を85℃で火入れする。
【0036】
(8)火入れ後、一週間オリ下げし、オリをろ過する。
【0037】
こうして得られた魚醤油は、通常の醤油と同じ色をしており、匂いは明太子に近い匂いがして従来の魚醤油のような臭みはしなかった。また、従来の魚醤油とはやや異なる明太子風味の魚醤油であった。
【実施例2】
【0038】
原料を次のとおり準備して、仕込全量500kgとなるようにする。
【0039】
水:232.5L(46.5%)
食塩:67.5kg(13.5%)
醤油用乾燥麹:100kg(20.0%)
辛子明太子:100kg(20.0%)
以上の原料を用いて、実施例1の(1)〜(8)の手順にしたがって、魚醤油を製造した。
【0040】
本実施例の魚醤油は、通常の醤油と同じ色をしており、匂いは辛子明太子の匂いがして従来の魚醤油のような臭みはしなかった。また、辛子明太子風味の魚醤油であった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の魚醤油の製造工程を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食塩水に魚卵と麹を加えて混合したもろみを発酵熟成し、熟成したもろみを絞って精製することを特徴とする魚醤油の製造方法。
【請求項2】
食塩水に乾燥麹、魚卵を投入して混合したもろみを発酵熟成させ、熟成後、ろ過して精製することを特徴とする請求項1記載の魚醤油の製造方法。
【請求項3】
魚卵がタラコ又は辛子明太子であることを特徴とする請求項1又は2記載の魚醤油の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の魚醤油の製造方法により製造された魚醤油。

【図1】
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