魚釣リール
【課題】魚釣リールにおいて、スプールの巻き速度の広い範囲に渡って、速度検出の精度を維持することである。
【解決手段】魚釣リールの釣糸を繰り出しあるいは巻き戻すスプールに接続されて回転する減速歯車回転板26には磁石部32が設けられる。減速歯車回転板26の回転によって変化する磁石部32の磁束を検出するコイル90には、ローパスフィルタ(LPF)62とゲイン自動調整増幅器(AGCAMP)64と、CPU66と、電源部68とが接続される。AGCAMP64は、コイル90の速度検出信号の振幅に応じてゲインを変更する。CPU66は、AGCAMP64の出力信号を処理し、回転速度データとして出力する。電源部68は、コイル90によって生成された電流を取り出して、キャパシタ70を充電する。
【解決手段】魚釣リールの釣糸を繰り出しあるいは巻き戻すスプールに接続されて回転する減速歯車回転板26には磁石部32が設けられる。減速歯車回転板26の回転によって変化する磁石部32の磁束を検出するコイル90には、ローパスフィルタ(LPF)62とゲイン自動調整増幅器(AGCAMP)64と、CPU66と、電源部68とが接続される。AGCAMP64は、コイル90の速度検出信号の振幅に応じてゲインを変更する。CPU66は、AGCAMP64の出力信号を処理し、回転速度データとして出力する。電源部68は、コイル90によって生成された電流を取り出して、キャパシタ70を充電する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は魚釣リールに係り、特にスプール軸の周りに回転し、釣糸を巻き取り、あるいは巻き戻すスプールを備える魚釣リールに関する。
【背景技術】
【0002】
魚釣リールとしては、釣糸をスプールに巻き取りあるいは巻戻すための手動ハンドルを備える手動式のものと、スプールを小型モータによって駆動する電動式のものがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、魚釣用リールとして、ハンドルの手動回転運動を往復運動に変換する動力変換機構を備え、この動力変換機構を介して往復運動しないスプールに釣糸を平行に巻回する構成が開示されている。また、実施例2として、ハンドルの手動回転動作を駆動ギヤによってロータの回転運動に伝達すると共に、スプールに釣糸を平行に巻回する平行巻き装置の動力変換機構と係合し、ハンドルを回転操作した際の回転力をスプールの往復運動に変換する構成が開示されている。
【0004】
そして、特許文献2には、魚釣用スピニングリールとして、特許文献1の実施例2の構成に加え、ロータの回転速度に応じてスプール軸を往復運動させない状態に切り換えることが開示されている。具体的には、ロータの回転により発生する遠心力で作動し、ロータの回転駆動力を遮断する作動部材によって、スプール軸を往復運動させない状態に切り換えている。
【0005】
また、特許文献3には、魚釣用電動リールとして、スプールを回転駆動するスプール駆動モータと、スプール駆動モータによる複数の釣糸巻取り速度を記憶する記憶装置と、釣糸の繰出し及び巻取りで回転する回転体の回転数を検出して糸長を計測する糸長計測装置を備える構成が開示されている。ここでは、スプールの側面に埋設されたマグネットとマグネットに対向して配置されたリードスイッチによって回転速度に比例したパルスを発生するエンコーダを構成することが述べられている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−81114号公報
【特許文献2】特開2007−6786号公報
【特許文献3】特開平9−107854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
魚釣用リールにおいては、スプールを投げ方向に回転させて釣糸を漁場等に投げ込み、魚が掛かった等の魚信があると、スプールを巻き方向に回転させて釣糸を手元に戻すことが行われる。スプールを巻き方向に回転させるときは、魚の反応等に応じ、その巻き速度を調整する。したがって、スプールの巻き速度を知ることは有益であり、従来技術においては、特許文献3に述べられているように、リードスイッチを用いたエンコーダが知られている。
【0008】
特許文献3に述べられているリードスイッチは、磁石に反応して機械的接点が閉じるものであるので、スプールが回転して磁石がリードスイッチの配置されている位置を通過するたびに、機械的接点が開閉する。したがって、スプールが高速に回転すると、その開閉に伴う騒音がかなり大きく、また耳ざわりとなることがある。また、リードスイッチは機械的接点を用いるものであるので、耐久性にも限度がある。
【0009】
また、魚釣リールは、スプールを投げ方向に回転させるときはかなりの高速回転となるのに対し、スプールを巻き戻すときは魚の反応に応じるのでかなりの低速回転となる。このように、回転速度の範囲が広範囲となるため、速度検出信号も広範囲に渡って変化することがあり、一般的な信号処理では速度検出の精度を維持することが困難なことがある。
【0010】
本発明は、スプールの巻き速度の広い範囲に渡って、速度検出の精度を維持することが可能な魚釣リールを提供することである。また、他の目的は、スプールの巻き速度を検出する際の騒音を抑制することを可能とする魚釣リールを提供することである。また、他の目的は、スプールの巻き速度を検出する手段の耐久性の向上を図ることができる魚釣リールを提供することである。以下の手段は、上記目的の少なくとも1つに貢献する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る魚釣リールは、スプール軸の周りに回転するスプールと、スプールに釣糸を案内する釣糸案内部と、スプール軸または釣糸案内部を前後往復運動させる往復機構と、スプールの回転速度を検出して速度検出信号を出力する速度検出部と、速度検出信号の振幅に応じてゲインを変更して速度検出信号を処理し、回転速度データとして出力する信号処理回路と、出力された回転速度データを表示する表示部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る魚釣リールにおいて、信号処理回路は、釣糸の最大繰出速度に応じて予め設定されるスプールの最大回転速度を超える回転速度に対応する速度検出信号を除去するローパスフィルタを有することが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る魚釣リールにおいて、ローパスフィルタによって処理された信号を微分し信号変化を拡大し、信号の有無を検出する信号微分部と、ローパスフィルタによって処理された信号を積分し、積分波形の時間的変化に基づいて算出される速度検出信号のピッチを回転速度データとする信号積分部と、を有することが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る魚釣リールにおいて、速度検出部は、スプール軸と共に回転する回転板に設けられる磁石部であって、回転板の周方向に沿って、N極とS極との組が少なくとも1組設けられる磁石部と、磁石部のN極からの磁束とS極からの磁束を区別して検出し、検出された信号を速度検出信号として出力する磁気検出部と、を有することが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る魚釣リールにおいて、磁石部は、回転板の周方向に沿って、N極とS極が並ぶように配置した1つの磁石であることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る魚釣リールにおいて、磁石部は、回転板の板厚方向に、N極とS極が並ぶように配置した2つの磁石であって、回転板の板厚方向に沿って相互に離間し、かつ、N極の向く方向が回転板の板厚方向に沿って相互に逆向きである2つの磁石であることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る魚釣リールにおいて、磁気検出部は、コイルであることが好ましい。
【0018】
また、本発明に係る魚釣リールにおいて、回転板に設けられ、回転板の回転速度に応じて回転板の径方向に移動可能な磁石であって、回転板が回転することでコイルに発電電流を発生させて、回転板の径方向の位置に応じた制動力を回転板に与える制動用磁石を備えることが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る魚釣リールにおいて、コイルに接続されるコイル回路であって、信号処理回路を含む検出信号処理部と、回転する回転板の磁石部と協働して回転板に制動を与えるために、コイルに駆動電流を供給する制動駆動部と、を有することが好ましい。
【0020】
また、本発明に係る魚釣リールにおいて、制動駆動部は、検出信号処理部から出力される回転速度データに基づいて釣糸が投げられるときの初速最大値を判断する手段と、初速最大値に応じてスプールが空転しない制動力を算出し、算出された制動力に基づいて制動用の駆動電流をコイルに供給する手段と、を有することが好ましい。
【0021】
また、本発明に係る魚釣リールにおいて、検出信号処理部は、検出信号を整流し、キャパシタに蓄電する電源部を含むことが好ましい。
【0022】
また、本発明に係る魚釣リールにおいて、信号処理回路及び表示部は、電源部の電力のみによって作動することが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
上記構成により、魚釣リールは、スプールの回転速度を検出し、速度検出信号の振幅に応じてゲインを変更して速度検出信号を処理し、回転速度データとして出力してこれを表示する。したがって、例えば、スプールの回転速度が大幅に変動し、それに応じて速度検出信号の振幅が大幅に変動した場合でも、安定して速度検出信号を処理でき、広い範囲の回転速度に対し、測定精度を維持することができる。
【0024】
また、魚釣リールにおいて、信号処理回路は、釣糸の最大繰出速度に応じて予め設定されるスプールの最大回転速度を超える回転速度に対応する速度検出信号を除去するローパスフィルタを有する。スプールの最大回転速度を超える周波数帯域の信号はノイズであることが確実である。上記構成によれば、ノイズを効果的に除去できるので、安定して速度検出信号を処理でき、広い範囲の回転速度に対し、測定精度を維持することができる。
【0025】
また、魚釣リールにおいて、ローパスフィルタによって処理された信号を微分し信号変化を拡大し、信号の有無を検出する信号微分部と、ローパスフィルタによって処理された信号を積分し、積分波形の時間的変化に基づいて算出される速度検出信号のピッチを回転速度データとする信号積分部とを有する。微分信号は信号振幅を大きく取れるがノイズが乗りやすい。一方積分信号はノイズ影響を抑制できるが信号振幅を大きく取れないことがある。上記構成では、これら2つを組み合わせるので、信号有無の検出と、回転速度データとを精度よく得ることができる。
【0026】
また、魚釣リールにおいて、速度検出部は、スプール軸と共に回転する回転板に設けられる磁石部であって、回転板の周方向に沿って、N極とS極との組が少なくとも1組設けられる磁石部と、磁石部のN極からの磁束とS極からの磁束を区別して検出し、検出された信号を速度検出信号として出力する磁気検出部と、を有する。回転板の回転方向によって、磁気検出部は、N極からの磁束を検出した後にS極からの磁束を検出するか、逆にS極からの磁束を検出した後にN極からの磁束を検出するか、のいずれかとなる。上記構成では、N極からの磁束とS極からの磁束を区別して検出するので、速度検出のための信号を用いて回転板の回転方向の検出も行うことができる。
【0027】
また、魚釣リールにおいて、磁石部は、回転板の周方向に沿って、N極とS極が並ぶように配置した1つの磁石である。この簡単な構成でも速度検出のための信号を用いて回転板の回転方向の検出も行うことができる。
【0028】
また、魚釣リールにおいて、磁石部は、回転板の板厚方向に、N極とS極が並ぶように配置した2つの磁石であって、回転板の板厚方向に沿って相互に離間し、かつ、N極の向く方向が回転板の板厚方向に沿って相互に逆向きである2つの磁石である。N極とS極とが離間しているので、離間していない場合に比べ、N極からの磁束とS極からの磁束との区別をすることが容易となる。
【0029】
また、魚釣リールにおいて、磁気検出部は、コイルである。コイルに鎖交する磁束を検出することで、磁束の向き、磁束の大きさに応じた検出信号を出力できる。また、リードスイッチ等のように機械的接点を用いていないので、磁気検出部の耐久性を向上させることができる。
【0030】
また、魚釣リールにおいて、回転板に設けられ、回転板の回転速度に応じて回転板の径方向に移動可能な磁石であって、回転板が回転することでコイルに発電電流を発生させて、回転板の径方向の位置に応じた制動力を回転板に与える制動用磁石を備える。回転速度に応じ径方向の位置が変わり、それに応じて制動力を変化させることができるので、例えば、高速回転で釣糸を繰り出すときには制動力を少なくし、魚の反応に応じて低速回転で釣糸をまき戻すときに制動力を多くすること等が可能となる。
【0031】
また、魚釣リールにおいて、回転する回転板の磁石部と協働して回転板に制動を与えるために、コイルに駆動電流を供給する。例えば、釣糸に錘をつけて遠投するとき等においてスプールが空転し、これによって投げる距離が抑制されることがある。上記構成によれば、積極的に回転板に制動を与えることができるので、スプールの空回り等を抑制でき、これにより、釣糸をさらに遠くに投げることが可能になる。
【0032】
また、魚釣リールにおいて、釣糸が投げられるときの初速最大値を判断し、初速最大値に応じてスプールが空転しない制動力を算出し、算出された制動力に基づいて制動用の駆動電流をコイルに供給する。これにより効果的にスプールの空転を抑制することができる。
【0033】
また、魚釣リールにおいて、検出信号を整流し、キャパシタに蓄電する電源部を含む。これによって、魚釣リール用の電池の消耗を抑制することができる。
【0034】
また、信号処理回路及び表示部は、電源部の電力のみによって作動する。これにより、電池交換が不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に図面を用いて、本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、手動ハンドルを有する手動式魚釣リールについて説明するが、スプールの回転速度を検出することが望まれるものであれば、電動式魚釣リールであってもよい。また、以下では釣糸案内部が前後往復運動をし、スプールは前後往復運動をしないものとして説明するが、これとは逆に、スプールが前後往復運動をし、釣糸案内部は前後往復運動をしないものであってもよい。また、以下では、スプール軸から減速機を経由した釣糸案内部の軸の回転速度を検出するものとしたが、これは説明の一例であって、スプール軸の回転速度と一定の関係で対応付けられる回転軸の回転速度を検出するものとしてよい。例えば、スプール軸の回転速度、ハンドル軸の回転速度等を検出するものとしてもよい。
【0036】
図1は、魚釣リール10の正面図、図2は、魚釣リール10の断面図、図3は魚釣リール10の側面のカバーを外した様子を示す図である。魚釣リール10は、魚釣をするための釣糸8を巻き取っておくもので、魚釣の際、釣糸8を漁場に投げる等のときには、釣糸8を繰り出し、魚が掛かった等のときには、釣糸8を巻き戻す機能を有する。魚釣リール10は、図示されていない支持部を用いて、釣竿、あるいは魚釣船の舷側等に固定されて用いられる。
【0037】
魚釣リール10は、ケース12と、手動ハンドル14と、釣糸8を巻き取っておくためのスプール24と、釣糸8がスプール24に平行に巻かれるように案内する釣糸案内部38とを備える。また、利用者の釣操作のために、魚の急激な引きに対応してスプール24を空転させて釣糸8の切れを防止するドラグノブ16、手動ハンドル14とスプール24の間の動力伝達を接続あるいは遮断するクラッチレバー18が設けられる。
【0038】
また、手動ハンドル14によって回される力をスプール24の中心軸であるスプール軸22、釣糸案内部38の回転軸である案内軸36に伝達するために、手動ハンドル14とスプール軸22との間に駆動歯車20、スプール軸22と案内軸36との間に伝達歯車23と減速歯車回転板26とがそれぞれ設けられる。また、利用者の釣操作の支援のために、釣糸8の状態等を演算して表示する演算表示部40が備えられる。
【0039】
ケース12は、魚釣リール10の各要素を支持し、全体として小型にまとまった外形を形作る筐体である。ケース12は密閉構造をとらず、釣糸8が繰り出される開口部の他、、釣糸案内部38、スプール24等も外部に対し開放された空間に配置される。また、ケース12は、手動ハンドル14及び駆動歯車20が取り付けられるハンドル軸19、スプール軸22、案内軸36の両端をそれぞれ回転自在に支持する機能を有する。これらの回転支持には、適当なボールベアリング、メタル軸受等の軸受機構が用いられる。かかるケース12としては、軽量高剛性のプラスチック材料を用いて成形したものに、軸受等を組み込んだものを用いることができる。軽量高剛性プラスチック材料としては、例えば、ポリカーボネート(PC)樹脂等を用いることができる。
【0040】
手動ハンドル14は、利用者によって操作されてハンドル軸19を回転される操作ハンドルである。手動ハンドル14は、正回転も逆回転も可能で、例えば、釣糸8を漁場に投げる場合に正回転するものとし、釣糸8を巻き戻すときに逆回転するものとできる。実際には、釣糸8を投げるときは、クラッチレバー18を操作し、手動ハンドル14とスプール24との間の動力伝達を遮断し、スプール24が自由回転できるようにすることが多いので、利用者が手動ハンドル14を操作するのは、逆回転する場合が多い。かかる手動ハンドル14は、軽量高剛性のプラスチック材料を用いて成形したものを用いることができる。
【0041】
ハンドル軸19は、手動ハンドル14と一体となって、手動ハンドル14が回転されるとき、その中心軸周りに回転する軸である。ハンドル軸19に固定して取り付けられる駆動歯車20は、スプール軸22に取り付けられるピニオン歯車と噛み合って、ハンドル軸19の回転数を減速し、トルクを増幅してスプール軸22に伝達する機能を有する。かかるハンドル軸19は、適当な剛性を有する材料の棒材を成形したものを用いることができる。例えば、金属材料棒材を加工したもの、あるいは高剛性プラスチック材を用いて所望の形状に成形したものを用いることができる。
【0042】
スプール軸22は、その一方端において駆動歯車20に噛み合うピニオン歯車を有し、他方端においては伝達歯車23に噛み合うピニオン歯車を有し、ハンドル軸19の駆動力を伝達歯車23に伝達する伝達機構の機能を有する軸である。また、スプール軸22は、釣糸8を巻き取っておくためのスプール24を固定支持し、ハンドル軸19の回転に応じてスプール24を回転させるという重要な機能も有する。かかるスプール軸22は、適当な剛性を有する材料の棒材を成形したものを用いることができる。例えば、金属材料棒材を加工したもの、あるいは高剛性プラスチック材を用いて所望の形状に成形したものを用いることができる。
【0043】
スプール24は、その名称のように、糸巻形状を有する部品で、上記のように釣糸8を巻き取っておく機能を有する。釣糸8は、このスプール24からほどかれて繰り出され、あるいは、このスプール24に巻き戻される。例えば、繰り出しのときにスプール24は正方向に回転し、巻き戻しのときにスプール24は逆方向に回転する。このように、スプール24はスプール軸22の周りの回転を正方向あるいは逆方向とすることで、釣糸8を繰り出し、あるいは巻き戻すことができる部材である。かかるスプール24は、軽量高剛性のプラスチック材料を用いて成形したものを用いることができる。
【0044】
スプール軸22の他方端のピニオン歯車に噛み合う伝達歯車23は、スプール軸22の駆動力を案内軸36に伝達するための中間的な伝達歯車である。なお、この伝達歯車23を含め、上記の駆動歯車20、次に述べる減速歯車回転板26は、高剛性プラスチックを成形し、歯車形状としたものを用いることができる。
【0045】
減速歯車回転板26は、減速歯車部28と、これより一回り大きな外形を有する円板状の回転板部30を含んで構成される部品である。減速歯車回転板26は、その中心において案内軸36の端部に取り付けられ、減速歯車部28は伝達歯車23と噛み合うように配置される。したがって、手動ハンドル14−ハンドル軸19−駆動歯車20−スプール軸22の一方端のピニオン歯車−スプール軸22の他方端のピニオン歯車−伝達歯車23−減速歯車部28−案内軸36の伝達径路によって、手動ハンドル14の回転操作による駆動力が、スプール軸22と案内軸36に伝達されることになる。
【0046】
案内軸36は、軸方向に沿って一方端から他方端に向かって進み、他方端に達すると反転して他方端から一方端に進む往復螺旋溝を有する軸である。釣糸案内部38は、案内軸36の螺旋溝に噛み合うピンと、ピンと一体化して回転止めが設けられる案内穴付板とを有し、案内軸36が回転することで、案内軸36の軸方向に沿って前後往復運動を行う部材である。つまり、案内軸36が回転するとき、その回転方向に関らず、釣糸案内部38は、案内軸36の軸方向に沿って往復移動する。釣糸8は、釣糸案内部38の案内穴付板の案内穴を通るように予め設定されるので、釣糸案内部38の前後往復運動によって、釣糸8は、回転するスプール24の軸方向に沿って移動することになる。これによって、スプール24には、その軸方向に沿って、ほぼ均一な巻き厚さで、釣糸8が巻き取られ、また、ほぼ均一な巻き厚さを保ちながら繰り出されることになる。
【0047】
図1における演算表示部40は、釣を行う利用者の利便のために釣糸8の状態を演算して表示する機能を有する部品である。演算表示部40の内部には、釣糸8の繰り出し長さ、繰り出しまたは巻き戻し速度等を演算する回路等が収納されており、その表面には、表示のリセット等を指示するための操作ボタン42と、小型液晶パネル44と、小型液晶パネル44を保護するための見切窓ガラス46が設けられる。図1の例では、−8.5mとして、釣糸8の水中での深さが表示され、また、32m/secとして釣糸8の速度が示されている。
【0048】
ここで、減速歯車回転板26が減速歯車部28の他に、回転板部30を有しているのは、この回転板部30と、演算表示部40との協働によって、スプール24の回転速度を検出するためである。図3に示されるように、回転板部30の一部は演算表示部40に設けられたくぼみ部51において重なって配置される。この重なり部分において、回転速度の検出等が行われる。
【0049】
図4は、減速歯車回転板26と重なり合う演算表示部40の断面図を示す図である。以下では図1から図3と同様の要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。演算表示部40は、底部ケース50と正面ケース52とが組み合わされて一体化したとき防水構造となる密閉箱である。後述するように、演算表示部40は充電可能な電源部を内蔵することができ、その場合には、電池交換が不要で、1つの密閉箱電子部品として、独立して動作することができる。防水性能を維持するため、底部ケース50と正面ケース52との合わせ面には、シール部材54が設けられる。また、演算表示部40の内部の全体を樹脂で充填することが好ましい。
【0050】
上記のように、演算表示部40は、防水性能を維持したまま、減速歯車回転板26と重なりあうために、底部ケース50に減速歯車回転板26の外形に対応したくぼみ部51が設けられる。そして、演算表示部40の内部において、そのくぼみ部51のところに、コイル90が配置される。また、演算表示部40の内部には、回路基板60、充電可能なキャパシタ70が配置される。
【0051】
図5は、演算表示部40の正面ケースを外した状態の平面図であり、図1においては演算表示部40が立てて配置されているので、図1の関係で述べれば正面図に相当する。また、図6は、くぼみ部51の長手方向に沿った断面図を示し、図7は、コイル90の軸方向に沿った断面図である。以下では図1から図4と同様の要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。また、以下では、図1から図4の符号を用いて説明する。
【0052】
図5において、演算表示部40の内部には、くぼみ部51に対応してコイル90が配置され、また、キャパシタ70が配置される。そして、図示されていない正面ケース52に設けられる小型液晶パネル44、見切窓ガラス46の配置位置と重なる位置に、回路基板60が配置される。回路基板60には、電子部品が搭載されるが、その詳細については後述する。
【0053】
図6、図7には、スプール24の回転速度を検出するための速度検出部の様子が示されている。速度検出は、減速歯車回転板26に取り付けられた磁石部32と、演算表示部40に設けられた磁気検出センサであるコイル90とによって行われる。
【0054】
磁石部32は、減速歯車回転板26における回転板部30の外周側に設けられた1対の磁石33,34である。この磁石部32は、回転板部30の板厚方向に、N極とS極とが並ぶように配置された2つの磁石33,34で、回転板部30の板厚方向に沿って相互に離間して配置される。そして、例えば、2つの磁石33,34のそれぞれのN極に注目すると、N極の向く方向が回転板部30の板厚方向に沿って互いに逆向きとなるように配置される。
【0055】
なお、図6に示すように、磁石部32は、回転板部30の周方向に沿って角度にして90度ごとに設けられ、合計4対の磁石33,34が設けられるものとしたが、対の数は、1以上であればこれ以外の対数であってもよい。
【0056】
また、上記では、減速歯車回転板26に磁石部32を設け、案内軸36の回転速度に基づいてスプールの回転速度を検出するものとしたが、それ以外であっても、磁石部32は、スプール24の回転速度を検出することができる回転板に設けられればよい。例えば、ハンドル軸19、スプール軸22、伝達歯車23の回転速度を検出するように、これらに磁石部が設けられた回転板部を取り付ける構造としてもよい。
【0057】
磁石部32を構成する各磁石33,34は、回転板部30にはめ込まれるが、その磁束をコイル90で検出するために、回転板部30は、少なくとも各磁石33,34の近傍は非磁性体で構成される。好ましくは、回転板部30の全体、あるいは減速歯車回転板26の全体を、上記のように、高剛性のプラスチック材料で構成することがよい。例えば、POM等の機能樹脂材料を用いることが好ましい。この場合、POM等の機能樹脂と各磁石33,34との間の接着性が必ずしも良好でないことが生じえる。そこで、図7の一部拡大図に示すように、各磁石33,34の外周に溝31を設け、一方、回転板部30のはめ込み穴の内周に円環状突起を設け、溝31と突起とのはめあいによって、各磁石33,34を回転板部30に固定することが好ましい。
【0058】
コイル90は、回転板部30の板厚方向を挟む部分が開放されている形状の鉄心92と、鉄心92に適当なボビンを介して巻回された巻線部94を含んで構成される。コイル90は、鉄心92を介して導かれた各磁石33,34の磁束を検出して電流、あるいはそれに対応する電圧として出力する機能を有する。
【0059】
その意味で、コイル90は、磁気検出部の機能を有する。また、鎖交磁束によって電流を発生するという観点からは、コイル90は発電装置として機能し、その取り出された電力に対応する分、各磁石33,34に制動力を与える電磁制動装置としても機能する。このように、コイル90に生成される信号は、磁気検出のために処理が行われる一方で、発電エネルギを取り出してキャパシタ70を充電する処理が行われる。これらの処理の詳細については、後述する。
【0060】
いずれにせよ、コイル90から出力される信号は、磁気を検出することで発生する信号であるので、磁気検出信号と呼ぶことができ、また、この信号は、回転板部30の回転速度に関連する情報を含むので、速度検出信号と呼ぶことができる。そして、この信号は、回転板部30の回転速度が高速であるほど、信号振幅が増大する。回転板部30の回転速度は、スプール24の回転速度に比例するが、スプール24の最大回転数は、例えば毎分30,000回転に及ぶことがあり、最低回転数は、毎分数回転まで落とされることがある。したがって、コイル90から出力される信号の振幅は、10,000倍もの差が生じることがある。以下の図においては、必要がない限り、このような振幅の大きな差をそのまま表示せずに、単に差があることを示すことに止めることとする。
【0061】
図8は、コイルの出力信号の様子を説明する図である。以下では、図1から図7の符号を用いて説明する。図8に示すように、磁石部32を構成する2つの磁石33,34は、回転板部30の回転によって、その磁束がコイル90の鉄心92を介して巻線部94と鎖交する。回転板部30の回転方向は、正回転と逆回転とあるので、例えば、釣糸8を繰り出す方向の回転を正回転、あるいは正転とし、釣糸8を巻き戻す方向の回転を逆回転、あるいは逆転とする。図8には、横軸に時間、縦軸に電圧をとり、コイル90の出力信号を電圧に換算した波形について、上段に正転の場合が、下段に逆転の場合が、それぞれ示されている。
【0062】
図8に示されるように、正転の場合のコイル90の出力波形は、プラス側に一旦持ち上がった後、マイナス側に大きく低下し、再びプラス側に持ち上がる波形が繰り返される。ここで、プラス側に持ち上がる電圧の大きさに比べ、マイナス側に低下する電圧の大きさの方がかなり大きくなっている。また、繰り返し波形のそれぞれは、マイナス側に低下する部分を中心に時間軸についてほぼ対称な波形となっている。なお、この繰り返し単位は、一組の磁石33,34の磁束の検出に相当する。つまり、図8では、1組の磁石33,34による波形と、次の1組の磁石33,34による波形が示されている。
【0063】
一方、逆転の場合のコイル90の出力波形は、マイナス側に一旦低下した後、プラス側に大きく持ち上がり、再びマイナス側に少し低下する波形が繰り返される。ここで、マイナス側に低下する電圧の大きさに比べ、プラス側に持ち上がる電圧の大きさの方がかなり大きくなっている。また、繰り返し波形のそれぞれは、プラス側に持ち上がる部分を中心に時間軸について非対称な波形となっている。
【0064】
このように、回転板部30の板厚方向に沿ってそれぞれ離間して、N極とS極とが並ぶように、2つの磁石33,34を配置する場合に、コイル90は、回転板部30の回転方向の正転、逆転によって異なる信号波形を出力する。換言すれば、コイル90の出力信号を用いて、回転板部30の回転方向を正転と逆転とを区別して検出することができる。
【0065】
図9と図10は、他の磁石配置を行った場合について説明する図である。以下では、図1から図8の符号を用いて説明する。図9は、磁石部32として、回転板部30の周方向に沿って、N極とS極が並ぶように配置した1つの磁石100を用いる場合のコイル90の出力信号の様子を示す図である。図10は、磁石部32として、回転板部30の板厚方向に沿って、N極とS極が並ぶように配置した1つの磁石102を用いる場合のコイル90の出力信号の様子を示す図である。各図において、横軸、縦軸の意味、上段、下段の意味は、図8の場合と同じである。
【0066】
図9に示すように、回転板部30の周方向に沿って、N極とS極が並ぶように配置した1つの磁石100を用いる場合でも、回転板部30の回転方向の正転、逆転に応じて異なる信号波形となる。すなわち、正転の場合には、信号波形がマイナス側に下降する成分の方がプラス側に持ち上がる成分よりも大きいのに対し、逆転の場合には、信号波形がプラス側に持ち上がる成分の方がマイナス側に下降する成分よりも小さい。したがって、1つの磁石100を用いて、この方法でも、コイル90の出力信号を用いて、回転板部30の回転方向を正転と逆転とを区別して検出することができる。ただし、信号波形の振幅は、図8の場合の信号波形の振幅よりも小さくなる傾向であるので、磁気検出の感度、あるいは発電能力は、図8の場合に比べ、それぞれ小さくなる。
【0067】
回転板部30の板厚方向に沿って、N極とS極が並ぶように配置した1つの磁石102を用いる場合には、図10に示されるように、回転板部30の回転方向の正転、逆転に関らず同じ信号波形となる。したがって、回転板部30の板厚方向にN極とS極とが並ぶように配置された1つの磁石102を用いる場合には、回転板部30の回転方向をコイル90の信号波形を用いて区別することができない。勿論、この方法によって、回転板部30の回転速度を検出することはできる。
【0068】
回転板部30の板厚方向に沿って、N極とS極が並ぶように配置した1つの磁石102を用いる場合に、回転板部30の回転方向について正転、逆転を区別するには、他の方法を用いることができる。1つの方法として、図1に関連して説明したクラッチレバー18の動きを利用することができる。図11は、スプール24が正転、逆転したときのクラッチレバー18の動きを説明する図である。ここに示されるように、クラッチレバー18は、レバー回転中心19の周りに、スプール24の正転、逆転に応じて回転し、異なる位置を取る。したがって、クラッチレバー18の位置検出手段として適当なセンサを設けることで、そのセンサの出力信号からクラッチレバー18の動きが検出され、これに基づいて、スプール24あるいは回転板部30の正転、逆転を区別して検出することができる。
【0069】
上記では、磁気検出部としてコイルを用いるものとして説明したが、それ以外の磁気検出手段を用いることもできる。例えば、コイルに代えてホール素子、磁気ヘッドに用いられる磁気検出デバイス等を用いることができる。回転板部の正転、逆転を区別するには、磁気ヘッドに用いられる磁気検出デバイスを組み込んだ双極2出力型磁気センサと呼ばれる複合素子を用いることができる。かかる双極2出力型磁気センサとしては、アルプス電気社の高精度磁気センサHGDシリーズ双極2出力型を用いることができる。
【0070】
図12は、アルプス社の双極2出力型ホール素子の構成と磁気検出の様子を説明する図である。この素子は、図12(a)に示されるように2つの出力OUT1,OUT2を含む4端子素子であり、(b)に示されるように、磁力線の方向が+Hと−Hと異なることで、(c)に示されるように、+HのときはOUT1の出力を用い、−HのときはOUT2の出力を用いることで、磁力線の方向を区別しながら、磁気検出を行うことができる。
【0071】
再び図5に戻り、次に、回路基板60に配置される電子回路について説明する。以下では、図1から図12と同様の要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。また、以下では、図1から図12の符号を用いて説明する。図5に示されるように、回路基板60には、コイル90に接続されるローパスフィルタ(LPF)62とゲイン自動調整増幅器(AGCAMP)64と、CPU66と、電源部68とが搭載配置される。これらの回路の詳細を図13に示す。図13には、回路の構成要素ではないが、減速歯車回転板26に設けられる磁石部32が図示されている。
【0072】
図13は、コイル90に関連する電子回路の構成を示す図である。コイル90からは、図7で説明した巻線部94の巻き始めと巻き終わりの2端子が電源部68に接続され、巻き始めと中間タップ部の2端子がLPF62以後の回路部に接続される。中間タップ部とは、コイル90の巻線部94の巻き始めと巻き終わりの間の適当なところから引き出された端子である。LPF62以後の回路部は、コイル90によって検出された検出信号を処理してスプール24の回転速度を演算する機能を有する回路部であり、電源部68は、コイル90によって生成された電流を取り出して、キャパシタ70を充電する機能を有する回路部である。この両者は、いずれもコイル90の検出信号を処理するものであるから、検出信号処理部122と呼ぶことができる。
【0073】
LPF62は、コイル90によって検出された検出信号のノイズを除去する機能を有する低帯域濾波(ローパス)フィルタである。ここで、コイル90によって検出される検出信号の最大周波数帯域は、回転板部30の回転速度に対応する周波数であるので、それ以上の周波数帯域の信号はノイズとして除去してもよい。換言すれば、LPF62の周波数特性は、釣糸8の最大繰出速度に応じて予め設定されるスプール24の最大回転速度を超える回転速度に対応する周波数帯域の検出信号を除去するように設定される。上記の例では、スプール24の最大回転数である毎分30,000回転に対応し、30,000/60=500Hzとして、余裕を見て約10kHz以上の周波数帯域の信号をカットする特性とする。これによって、回転速度の検出に関係ない信号成分をノイズとして除去できる。LPF62によってノイズが除去された信号は、AGCAMP64に入力される。
【0074】
図14は、LPF62の作用を説明する図である。図14(a)は、回転板部30の回転速度が高速の場合で、コイル90の検出信号の振幅が大きい場合である。(b)は、回転板部30の回転速度が低速の場合である。いずれの場合も、LPF62によって、高周波成分の信号がノイズとして効果的に除去されている。
【0075】
AGCAMP64は、増幅器であるが、後述する回転数検出処理部80の出力がフィードバックされ、回転数に応じてゲインが自動調整される。上記のように、スプール24の回転数は、毎分30,000回転から毎分数回転まで、大幅に変化する。この回転数の変化範囲に応じて、コイル90の検出信号の振幅も大幅に変化し、そのままでは、以後の信号処理に影響を与える。そこで、スプール24あるいは回転板部30の回転数に応じて、増幅器のゲインを変化させる。
【0076】
その様子が図15に示される。図15の左側の図は、横軸が回転速度v、縦軸が検出信号の波形振幅をとり、回転速度と波形振幅の関係を示すものである。ここに示されるように、回転速度が高速になるほど、検出信号の波形振幅は増大する。図15の右側の図は、横軸が回転速度v、縦軸がAGCAMP64のゲインをとり、回転速度とゲインの関係を示すものである。ここに示されるように、回転速度が高速になるにつれ、AGCAMP64のゲインを低下させるように制御される。このようにすることで、コイル90の検出信号の振幅に応じてゲインを変更し、回転速度に余り影響されずに、ほぼ一定の信号振幅として、以後の信号処理を行うことができる。
【0077】
再び図13に戻り、AGCAMP64によって、信号振幅がほぼ一定化された信号は、CPU66に入力され、具体的にはまずA/D変換器72によって、アナログ信号からディジタル信号に変換される。そして、変換されたディジタル信号について、ソフトウェア処理部74によって対応する信号処理プログラムが実行される。具体的には、微分処理部76によって微分処理が、積分処理部78によって積分処理が、回転数検出処理部80によって、微分処理と積分処理の結果に基づいて回転速度検出処理、すなわち回転数検出処理が、それぞれソフトウェアを用いて実行される。
【0078】
微分処理部76は、LPF62,AGCAMP64によって処理されディジタル化された信号を微分する機能を有し、これによって、信号変化を拡大し、信号の有無を検出するものである。
【0079】
図16は、微分処理部76の作用を説明する図である。図16(a)は、回転板部30の回転速度が高速の場合で、したがってコイル90の検出信号の振幅が大きく、微分処理前の状態は、図13(a)の処理後の信号に対応する。(b)は、回転板部30の回転速度が低速の場合で、微分処理前の状態は、図14(b)の処理後の信号に対応する。なお、AGCAMP64の処理後であるので、(a)と(b)の信号振幅はあまり差がないようになっているが、両信号の相違を区別するため、ここでは、振幅差を誇張して示してある。いずれの場合も、微分処理部76の処理によって、信号振幅が大きくなり、例えば、(a)の場合でも、(b)の場合でも、共通の閾値Vthを用いて信号の有無、つまり、回転の有無を区別することが容易にできることが分かる。
【0080】
積分処理部78は、LPF62,AGCAMP64によって処理されディジタル化された信号を積分する機能を有し、これによって、積分波形の時間的変化に基づいて算出される速度検出信号のピッチを回転速度データとするものである。積分処理部78による処理は、微分処理部76による処理と平行して実行される。すなわち、微分処理部76によって処理された信号を積分処理するのではなく、A/D変換器72の出力について、それぞれ、微分処理と積分処理が平行して実行される。
【0081】
図17は、積分処理部78の作用を説明する図である。図17(a)は、回転板部30の回転速度が高速の場合で、したがってコイル90の検出信号の振幅が大きく、積分処理前の状態は、図16(a)と同様に図14(a)の処理後の信号に対応する。(b)は、回転板部30の回転速度が低速の場合で、積分処理前の状態は、図16(a)と同様に図14(b)の処理後の信号に対応する。また、ここでも、振幅差を誇張して示してある。いずれの場合も、積分処理部78の処理によって、信号が存在する部分の積分が面積波形として示され、この積分面積波形の時間軸における変化である間隔ピッチPを求めることができる。
【0082】
ピッチPは、検出信号が存在する時間間隔であるので、スプール24または回転板部30の回転速度を示すものである。このようにして、積分処理部78の処理によって得られるピッチPを回転速度データとすることができる。
【0083】
再び図13に戻り、回転数検出処理部80は、微分処理部76の処理の結果と、積分処理部78の処理の結果とに基づき、回転数、すなわち回転速度の検出処理を実行するものである。具体的には、微分処理部76の処理の結果に基づいて検出信号の有無を判断し、検出信号が有ると判断された各タイミングにおいて、積分処理部78の処理の結果を参照して積分面積波形が有るときは、これらをピッチ算出のデータとする。そして、隣接する積分面積波形の間の時間的間隔から、ピッチPを算出し、これを回転速度データとする。このように、微分処理部76による検出信号有無判断と、積分処理部78による積分面積波形の演算とを併用することで、積分面積波形の間の時間的間隔が回転速度データであることの信頼性を向上させ、ノイズ等による演算誤差を少なくすることができる。
【0084】
回転数検出処理部80から出力される回転速度データは、画像処理部82において、液晶パネルの表示に適した信号に変換される。そして画像処理部82の出力は小型液晶パネル44に供給され、図1に関連して説明したように、例えば、32m/sec等の表示が行われる。
【0085】
図13において、電源部68は、ダイオードブリッジ84と、入力側の平滑コンデンサ86と、DC/DCコンバータ88と、出力側の平滑コンデンサ87とを含み、コイル90の検出信号である発電電力を整流、平滑化し、所定の規格化された電圧として、キャパシタ70に充電電力として供給する機能を有する。
【0086】
キャパシタ70としては、電気二重層キャパシタ等を用いることができる。電源部68によって供給される電力がキャパシタ70の充電容量からみて十分な電力であって、さらに、演算表示部40における各電子部品及び小型液晶パネル44の駆動に十分な電力をキャパシタ70から供給できる場合には、電源部68によって供給される電力のみで、演算表示部40を駆動でき、電池交換を不要とすることができる。電源部68によって供給される電力では不足のときは、ニッケルカドミウム電池等の2次電池をキャパシタ70に代えて用いることもできる。この場合には2次電池の交換が必要となることに備え、2次電池交換手段が、例えば、図1で説明した演算表示部40に設けられる。
【実施例1】
【0087】
上記においては、回転速度を検出するための磁石部からの磁束をコイルにより検出し、その検出信号が発電にも用いられるので、回転エネルギがその分失われ、回転板部あるいはスプールに対し、制動力を与えることになる。この制動力の大きさは、発電電力の大きさによって定まることになるが、上記では制動力を制御していないので、実質的には、ユーザの釣糸操作に適当な制動感が与えられる程度に止まることも多い。
【0088】
回転速度を検出するための磁石部とは別に、制動制御用の磁石を別途設けることで、ユーザの釣糸操作に有効に働く制動力を積極的に発生させることができる。図18は、そのような構造の例を示す図である。以下では、図1から図17と同様の要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。また、以下では、図1から図17の符号を用いて説明する。なお、図18では、減速歯車回転板26とコイル90の周辺のみが図示されている。
【0089】
図18(a)は、減速歯車回転板26が静止状態のとき、(b)は、減速歯車回転板26が正転高速回転のとき、(c)は、減速歯車回転板26が逆転低速回転のときの様子を示す図である。ここで、減速歯車回転板26の正転とは、釣糸8が漁場に投げ込まれるときの回転方向のことを指すものとし、逆転とは、正転と反対方向の回転方向で、釣糸8が巻き戻されるときの回転方向を指すものとする。
【0090】
釣糸8が投げられるときは、通常、錘を用いるので、その投げ速度はかなりの高速となり、したがって、減速歯車回転板26は、正転で高速に回転することになる。その状態が図18(b)に対応する。一方、魚が掛かって釣糸8を巻き戻す場合は、魚の尾反応に応じて慎重に巻き戻されるので、その巻き戻し速度はかなりの低速になり、したがって、減速歯車回転板26は、逆転で低速に回転することになる。この状態が図18(c)に対応する。
【0091】
図18(a)に示されるように、減速歯車回転板26の外周側には、回転速度検出及びキャパシタ充電用発電のための磁石部32として磁石33,34が配置される。これは図6で説明したものと同じ構造であるが、そのほかに、同じ半径上に、制動用磁石部104が配置される。
【0092】
制動用磁石部104は、回転速度検出等に用いられる磁石33,34よりも磁束密度等が大きな磁気特性を有する磁石106と、磁石106を減速歯車回転板26の中心軸側、つまり内径側に押し付ける付勢力を与える付勢バネ108を含んで構成される。したがって、制動用磁石部104は、減速歯車回転板26の回転速度に応じて、減速歯車回転板26の径方向に移動可能な磁石であって、減速歯車回転板26が回転することでコイル90に発電電流を発生させる機能を有する。これにより、制動用磁石部104は、コイル90と協働し、減速歯車回転板26の径方向の位置に応じた制動力を、減速歯車回転板26に与えることができる。
【0093】
なお、磁石106の極性は、減速歯車回転板26の板厚方向に沿ってN極とS極が並ぶように配置されてもよく、あるいは減速歯車回転板26の周方向に沿ってN極とS極が並ぶように配置されてもよい。
【0094】
例えば、減速歯車回転板26が高速回転するときは、図18(b)に示されるように、磁石106が遠心力で外周側に移動し、付勢バネ108の付勢力と釣り合う位置に来る。この位置は、コイル90が磁束を検出する位置より外れることになるので、制動用磁石部104とコイル90の協働による制動力はあまり大きくはない。つまり、釣糸8を投げ込むときは、制動用磁石部104による制動作用はほとんど働かず、釣糸8を十分に遠くに投げることが可能である。
【0095】
一方、減速歯車回転板26が低速回転するときは、磁石106に働く遠心力が少ないので、図18(c)に示されるように、磁石106の位置は、図18(a)に示される静止状態における位置とほとんど変わらない。この位置は、コイル90が磁束を検出する位置の近くであるので、制動用磁石部104とコイル90の協働による制動力が大きく作用する。つまり、釣糸8を低速で巻き戻すときは、制動用磁石部104による制動作用が強く働き、釣糸8を十分な制動力の下で巻き戻すことが可能となる。
【0096】
図19は、コイル90の出力信号の波形を示す図で、横軸は時間、縦軸は電圧である。ここで、図19の上段は、減速歯車回転板26が正転高速回転するときで、この場合、回転速度検出のための信号波形の間に制動用の磁石106による信号波形が現れるが、その振幅の大きさは回転速度検出のための信号波形の振幅の大きさに比べ、かなり小さい。したがって、その制動作用が小さいことが示されている。これに対し、図19の下段は、減速歯車回転板26が逆転低速回転するときで、この場合、回転速度検出のための信号波形の間に現れる制動用の磁石106による信号波形の振幅の大きさは回転速度検出のための信号波形の振幅の大きさに比べ、かなり大きくなる。したがって、その制動作用が十分な大きさであることが示されている。
【実施例2】
【0097】
上記では、減速歯車回転板あるいはスプールの制動は、コイルと磁石との相互作用による発電に対応するものとして与えられている。コイルに積極的に駆動電流を供給すことにすれば、コイルと磁石との相互作用はいわゆるモータとなり、減速歯車回転板あるいはスプールに対し、電磁制動装置として機能する。このような構成によれば、駆動電流を制御することで、任意のタイミングで、任意の大きさの制動力を減速歯車回転板あるいはスプールに与えることができる。図20は、そのような構造の例を示す図である。以下では、図1から図19と同様の要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。また、以下では、図1から図19の符号を用いて説明する。なお、図20では、減速歯車回転板26とコイル90の周辺に関連する部分のみが図示されている。
【0098】
図20に示されるように、減速歯車回転板26の外周側には、回転速度検出及びキャパシタ充電用発電のための磁石部32として磁石33,34が配置される。これは図6等で説明したものと同じ構造であるが、そのほかに、同じ半径上に、制動制御用磁石110が配置される。この制動制御用磁石110は、図18の制動用磁石部104の磁石106と異なり、減速歯車回転板26に固定され、径方向に移動しない。なお、制動制御用磁石110の極性は、減速歯車回転板26の板厚方向に沿ってN極とS極が並ぶように配置されてもよく、あるいは減速歯車回転板26の周方向に沿ってN極とS極が並ぶように配置されてもよい。
【0099】
コイル90に接続される駆動回路112は、コイル90に駆動電流を供給するドライバ回路である。既に図16で説明したように、コイル90には、磁石部32の磁束を検出して回転速度を算出し、また電源部68によってキャパシタ70を充電する検出信号処理部122が接続されている。駆動回路112は、この検出信号処理部と並列にコイル90に接続配置されるが、コイル90に検出信号処理部122が接続されるときには、駆動回路112とコイル90との接続が遮断され、逆にコイル90に駆動回路112が接続されるときには、検出信号処理部122とコイル90との接続が遮断される。つまり、コイル90に対し、図16で説明した検出信号処理部122と、駆動回路112とは、切換手段によって、いずれかが接続されるように切換が行われる。
【0100】
駆動回路122は、図5で説明した回路基板60に搭載されるが、駆動回路122を制御する制動駆動部124も、回路基板60に搭載される。検出信号処理部122と制動駆動部124は、共にコイル90に接続されるものであるので、これをコイル回路120と呼ぶことができる。
【0101】
制動駆動部124は、駆動回路112を制御し、減速歯車回転板26あるいはスプール24の回転に対し制動力を与える機能を有する。以下では、その一例として、釣糸8に錘をつけて漁場に遠投するときのスプール24に対する制動制御を説明する。その制御のために、制動駆動部124は、釣糸8の遠投における最大初速がスプール24の空転を生じさせる大きさか否かを判断する最大初速判断モジュール126と、最大初速がスプール24の空転を生じさせると判断するときに、空転を抑制するための制動力を算出する制動力算出モジュール128を含んで構成される。かかる機能は、ソフトウェアで実現でき、具体的には、対応するスプール制動プログラムを実行することで実現できる。
【0102】
かかる構成の作用、特に制動駆動部124の機能について、図21と図22を用いて説明する。以下では、図1から図20の符号を用いて説明する。図21、図22は、横軸にスプール24の位置を基準として投げられた釣糸8の先端の位置である投げ距離をとり、縦軸に速度をとり、釣糸8が遠投されたときの時々刻々の釣糸8の投げ距離と釣糸8の速度の関係、及び、これに対応するスプール24の速度の関係を説明する図である。そして、図21は、制動駆動部124による制動制御が行われない場合の様子を示し、図22は、制動駆動部124による制動制御が行われた場合の様子を示す図である。
【0103】
図21において、実線は、投げ距離に対する釣糸8の速度130,140を示し、破線は投げ距離に対応するスプールの速度134,144を示す。ここでは、釣糸8の投げ距離として、錘をつけてかなり遠くに投げる遠投の場合と、適当に近くに投げる近投の場合を示している。
【0104】
近投の場合について説明すると、釣糸8の速度140は、投げ始めのすぐ後に最大初速142となり、その後は次第に速度が低下する。近投の場合最大初速もあまり高速ではないので、スプール24は空転しない。したがって、スプール24の速度144は、釣糸8の速度にほぼ追従するものとなっている。このような場合、釣糸8のもつれ等が生じない。
【0105】
錘をつけて行う遠投の場合でも、釣糸8の速度130は、投げ始めのすぐ後に最大初速132となり、その後は次第に速度が低下することは近投の場合と同様である。しかし、遠投の場合の最大初速132は、近投の場合の最大初速142に比べかなり高速となり、
釣糸8の速度130が落ちてきても、慣性を有するスプール24の速度134はあまり落ちずに、釣糸8の速度130との間に速度差136が生じる。すなわち、スプール24が空転するようになり、釣糸8がもつれ、あるいは相互に絡まることが生じる。
【0106】
以上が、制動駆動部124による制御を行わない場合である。制動駆動部124は、図21においてスプール24の速度134と釣糸8の速度130との間に生じる速度差136を抑制するように、制動駆動部124が駆動回路112を制御して、コイル90と制動制御用磁石110との間の協働作用によって、減速歯車回転板26に制動力を与え、すなわちスプール24に制動力を与える機能を有する。
【0107】
具体的には、釣糸8が投げられるとき、その最大初速を検出する。釣糸8が投げられた初期は、釣糸8の投げ速度に追従してスプール24は回転するので、スプール24の最大速度をもって、釣糸8の最大初速とすることができる。具体的には、検出信号処理部122の機能によってスプール24の回転速度を検出し、その最大値をもって、釣糸8の最大初速とする。つぎに、得られた最大初速が、スプール24の慣性から見て、空転を生じさせる閾値速度を超えるか否かが判断される。閾値速度は、スプール24の慣性、支持構造等から予め求めておくことができる。この判断は、制動駆動部124の最大初速判断モジュール126の機能によって実行される。例えば、図21において、最大初速132,142が閾値速度を超えるか否かが判断される。最大初速が閾値速度を超えないときは、制動駆動部124は、駆動回路112を駆動しない。
【0108】
最大初速が閾値速度を超えると判断されると、コイル90に対する接続が検出信号処理部122から駆動回路112へと切り換えられる。そして、スプール24が空転しない制動力が算出され、その制動力に対応する駆動電流のコイル90への供給指令が駆動回路112に与えられる。具体的には、最大初速と閾値速度との間の速度差に応じて、予め求められている駆動電流の時間変化関数を用いて、駆動回路112に駆動電流の時々刻々の指令値が与えられる。
【0109】
その様子を図22に示す。ここでは、最大初速152が閾値速度vthを超えているので、最大初速152と閾値速度vthの差に応じた駆動電流関数160が適用されて、駆動回路112からコイル90に供給される。駆動電流関数160は、例えば、最大初速を検索キーとして、予め適当なメモリに記憶しておくことができる。そして、最大初速152が与えられると、メモリから対応する駆動電流関数160を読み出すものとできる。この駆動電流関数160は、最大初速152のときに、スプール24が空転しないために、スプール24に与えるべき制動力に対応するものである。
【0110】
このように、最大初速152に対応する駆動電流関数160が駆動回路112に与えられ、これに従って、駆動電流がコイル90に供給されるので、スプール24の速度154は釣糸8の速度150に追従することになる。これにより、釣糸8のもつれ、絡み合いが防止され、結果として、釣糸8の投げ距離が、制動制御を行わない場合に比べ、飛躍的に伸びることになる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明に係る実施の形態における魚釣リールの正面図である。
【図2】本発明に係る実施の形態における魚釣リールの断面図である。
【図3】本発明に係る実施の形態における魚釣リールの側面のカバーを外した様子を示す図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、減速歯車回転板と重なり合う演算表示部の断面図を示す図である。
【図5】本発明に係る実施の形態において、演算表示部の正面ケースを外した状態の平面図である。
【図6】本発明に係る実施の形態において、演算表示部のくぼみ部の長手方向に沿った断面図である。
【図7】本発明に係る実施の形態において、演算表示部のコイルの軸方向に沿った断面図である。
【図8】本発明に係る実施の形態において、コイルの出力信号の様子を説明する図である。
【図9】本発明に係る実施の形態において、他の磁石配置を行った場合について説明する図である。
【図10】本発明に係る実施の形態において、別の磁石配置を行った場合について説明する図である。
【図11】本発明に係る実施の形態において、スプールが正転、逆転したときのクラッチレバーの動きを説明する図である。
【図12】本発明に係る実施の形態において、磁気検出部として用いることができる双極2出力型ホール素子の構成と磁気検出の様子を説明する図である。
【図13】本発明に係る実施の形態において、コイルに関連する電子回路の構成を示す図である。
【図14】本発明に係る実施の形態において、LPFの作用を説明する図である。
【図15】本発明に係る実施の形態において、AGCAMPの作用を説明する図である。
【図16】本発明に係る実施の形態において、微分処理部の作用を説明する図である。
【図17】本発明に係る実施の形態において、積分処理部の作用を説明する図である。
【図18】他の実施形態の構造を示す図である。
【図19】他の実施形態におけるコイルの出力信号の波形を示す図である。
【図20】別の実施形態の構造を示す図である。
【図21】別の実施形態について、制動制御が行われない場合の釣糸の投げ距離と釣糸の速度の関係と、これに対応するスプールの速度の関係を説明する図である。
【図22】別の実施形態について、制動制御が行われる場合を説明する図である。
【符号の説明】
【0112】
8 釣糸、10 魚釣リール、12 ケース、14 手動ハンドル、16 ドラグノブ、18 クラッチレバー、19 ハンドル軸、20 駆動歯車、22 スプール軸、23 伝達歯車、24 スプール、26 減速歯車回転板、28 減速歯車部、30 回転板部、31 溝、32 磁石部、33,34 磁石、36 案内軸、38 釣糸案内部、40 演算表示部、42 操作ボタン、44 小型液晶パネル、46 見切窓ガラス、50 底部ケース、51 くぼみ部、52 正面ケース、54 シール部材、60 回路基板、62 LPF、64 AGCAMP、66 CPU、68 電源部、70 キャパシタ、72 A/D変換器、74 ソフトウェア処理部、76 微分処理部、78 積分処理部、80 回転数検出処理部、82 画像処理部、84 ダイオードブリッジ、86,87 平滑コンデンサ、88 DC/DCコンバータ、90 コイル、92 鉄心、94 巻線部、100,102,106 磁石、104 制動用磁石部、108 付勢バネ、110 制動制御用磁石、120 コイル回路、122 駆動回路、122 検出信号処理部、124 制動駆動部、126 最大初速判断モジュール、128 制動力算出モジュール、130,140,150 釣糸の速度、132,142,152 最大初速、134,144,154 スプールの速度、136 速度差、160 駆動電流関数。
【技術分野】
【0001】
本発明は魚釣リールに係り、特にスプール軸の周りに回転し、釣糸を巻き取り、あるいは巻き戻すスプールを備える魚釣リールに関する。
【背景技術】
【0002】
魚釣リールとしては、釣糸をスプールに巻き取りあるいは巻戻すための手動ハンドルを備える手動式のものと、スプールを小型モータによって駆動する電動式のものがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、魚釣用リールとして、ハンドルの手動回転運動を往復運動に変換する動力変換機構を備え、この動力変換機構を介して往復運動しないスプールに釣糸を平行に巻回する構成が開示されている。また、実施例2として、ハンドルの手動回転動作を駆動ギヤによってロータの回転運動に伝達すると共に、スプールに釣糸を平行に巻回する平行巻き装置の動力変換機構と係合し、ハンドルを回転操作した際の回転力をスプールの往復運動に変換する構成が開示されている。
【0004】
そして、特許文献2には、魚釣用スピニングリールとして、特許文献1の実施例2の構成に加え、ロータの回転速度に応じてスプール軸を往復運動させない状態に切り換えることが開示されている。具体的には、ロータの回転により発生する遠心力で作動し、ロータの回転駆動力を遮断する作動部材によって、スプール軸を往復運動させない状態に切り換えている。
【0005】
また、特許文献3には、魚釣用電動リールとして、スプールを回転駆動するスプール駆動モータと、スプール駆動モータによる複数の釣糸巻取り速度を記憶する記憶装置と、釣糸の繰出し及び巻取りで回転する回転体の回転数を検出して糸長を計測する糸長計測装置を備える構成が開示されている。ここでは、スプールの側面に埋設されたマグネットとマグネットに対向して配置されたリードスイッチによって回転速度に比例したパルスを発生するエンコーダを構成することが述べられている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−81114号公報
【特許文献2】特開2007−6786号公報
【特許文献3】特開平9−107854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
魚釣用リールにおいては、スプールを投げ方向に回転させて釣糸を漁場等に投げ込み、魚が掛かった等の魚信があると、スプールを巻き方向に回転させて釣糸を手元に戻すことが行われる。スプールを巻き方向に回転させるときは、魚の反応等に応じ、その巻き速度を調整する。したがって、スプールの巻き速度を知ることは有益であり、従来技術においては、特許文献3に述べられているように、リードスイッチを用いたエンコーダが知られている。
【0008】
特許文献3に述べられているリードスイッチは、磁石に反応して機械的接点が閉じるものであるので、スプールが回転して磁石がリードスイッチの配置されている位置を通過するたびに、機械的接点が開閉する。したがって、スプールが高速に回転すると、その開閉に伴う騒音がかなり大きく、また耳ざわりとなることがある。また、リードスイッチは機械的接点を用いるものであるので、耐久性にも限度がある。
【0009】
また、魚釣リールは、スプールを投げ方向に回転させるときはかなりの高速回転となるのに対し、スプールを巻き戻すときは魚の反応に応じるのでかなりの低速回転となる。このように、回転速度の範囲が広範囲となるため、速度検出信号も広範囲に渡って変化することがあり、一般的な信号処理では速度検出の精度を維持することが困難なことがある。
【0010】
本発明は、スプールの巻き速度の広い範囲に渡って、速度検出の精度を維持することが可能な魚釣リールを提供することである。また、他の目的は、スプールの巻き速度を検出する際の騒音を抑制することを可能とする魚釣リールを提供することである。また、他の目的は、スプールの巻き速度を検出する手段の耐久性の向上を図ることができる魚釣リールを提供することである。以下の手段は、上記目的の少なくとも1つに貢献する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る魚釣リールは、スプール軸の周りに回転するスプールと、スプールに釣糸を案内する釣糸案内部と、スプール軸または釣糸案内部を前後往復運動させる往復機構と、スプールの回転速度を検出して速度検出信号を出力する速度検出部と、速度検出信号の振幅に応じてゲインを変更して速度検出信号を処理し、回転速度データとして出力する信号処理回路と、出力された回転速度データを表示する表示部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る魚釣リールにおいて、信号処理回路は、釣糸の最大繰出速度に応じて予め設定されるスプールの最大回転速度を超える回転速度に対応する速度検出信号を除去するローパスフィルタを有することが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る魚釣リールにおいて、ローパスフィルタによって処理された信号を微分し信号変化を拡大し、信号の有無を検出する信号微分部と、ローパスフィルタによって処理された信号を積分し、積分波形の時間的変化に基づいて算出される速度検出信号のピッチを回転速度データとする信号積分部と、を有することが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る魚釣リールにおいて、速度検出部は、スプール軸と共に回転する回転板に設けられる磁石部であって、回転板の周方向に沿って、N極とS極との組が少なくとも1組設けられる磁石部と、磁石部のN極からの磁束とS極からの磁束を区別して検出し、検出された信号を速度検出信号として出力する磁気検出部と、を有することが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る魚釣リールにおいて、磁石部は、回転板の周方向に沿って、N極とS極が並ぶように配置した1つの磁石であることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る魚釣リールにおいて、磁石部は、回転板の板厚方向に、N極とS極が並ぶように配置した2つの磁石であって、回転板の板厚方向に沿って相互に離間し、かつ、N極の向く方向が回転板の板厚方向に沿って相互に逆向きである2つの磁石であることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る魚釣リールにおいて、磁気検出部は、コイルであることが好ましい。
【0018】
また、本発明に係る魚釣リールにおいて、回転板に設けられ、回転板の回転速度に応じて回転板の径方向に移動可能な磁石であって、回転板が回転することでコイルに発電電流を発生させて、回転板の径方向の位置に応じた制動力を回転板に与える制動用磁石を備えることが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る魚釣リールにおいて、コイルに接続されるコイル回路であって、信号処理回路を含む検出信号処理部と、回転する回転板の磁石部と協働して回転板に制動を与えるために、コイルに駆動電流を供給する制動駆動部と、を有することが好ましい。
【0020】
また、本発明に係る魚釣リールにおいて、制動駆動部は、検出信号処理部から出力される回転速度データに基づいて釣糸が投げられるときの初速最大値を判断する手段と、初速最大値に応じてスプールが空転しない制動力を算出し、算出された制動力に基づいて制動用の駆動電流をコイルに供給する手段と、を有することが好ましい。
【0021】
また、本発明に係る魚釣リールにおいて、検出信号処理部は、検出信号を整流し、キャパシタに蓄電する電源部を含むことが好ましい。
【0022】
また、本発明に係る魚釣リールにおいて、信号処理回路及び表示部は、電源部の電力のみによって作動することが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
上記構成により、魚釣リールは、スプールの回転速度を検出し、速度検出信号の振幅に応じてゲインを変更して速度検出信号を処理し、回転速度データとして出力してこれを表示する。したがって、例えば、スプールの回転速度が大幅に変動し、それに応じて速度検出信号の振幅が大幅に変動した場合でも、安定して速度検出信号を処理でき、広い範囲の回転速度に対し、測定精度を維持することができる。
【0024】
また、魚釣リールにおいて、信号処理回路は、釣糸の最大繰出速度に応じて予め設定されるスプールの最大回転速度を超える回転速度に対応する速度検出信号を除去するローパスフィルタを有する。スプールの最大回転速度を超える周波数帯域の信号はノイズであることが確実である。上記構成によれば、ノイズを効果的に除去できるので、安定して速度検出信号を処理でき、広い範囲の回転速度に対し、測定精度を維持することができる。
【0025】
また、魚釣リールにおいて、ローパスフィルタによって処理された信号を微分し信号変化を拡大し、信号の有無を検出する信号微分部と、ローパスフィルタによって処理された信号を積分し、積分波形の時間的変化に基づいて算出される速度検出信号のピッチを回転速度データとする信号積分部とを有する。微分信号は信号振幅を大きく取れるがノイズが乗りやすい。一方積分信号はノイズ影響を抑制できるが信号振幅を大きく取れないことがある。上記構成では、これら2つを組み合わせるので、信号有無の検出と、回転速度データとを精度よく得ることができる。
【0026】
また、魚釣リールにおいて、速度検出部は、スプール軸と共に回転する回転板に設けられる磁石部であって、回転板の周方向に沿って、N極とS極との組が少なくとも1組設けられる磁石部と、磁石部のN極からの磁束とS極からの磁束を区別して検出し、検出された信号を速度検出信号として出力する磁気検出部と、を有する。回転板の回転方向によって、磁気検出部は、N極からの磁束を検出した後にS極からの磁束を検出するか、逆にS極からの磁束を検出した後にN極からの磁束を検出するか、のいずれかとなる。上記構成では、N極からの磁束とS極からの磁束を区別して検出するので、速度検出のための信号を用いて回転板の回転方向の検出も行うことができる。
【0027】
また、魚釣リールにおいて、磁石部は、回転板の周方向に沿って、N極とS極が並ぶように配置した1つの磁石である。この簡単な構成でも速度検出のための信号を用いて回転板の回転方向の検出も行うことができる。
【0028】
また、魚釣リールにおいて、磁石部は、回転板の板厚方向に、N極とS極が並ぶように配置した2つの磁石であって、回転板の板厚方向に沿って相互に離間し、かつ、N極の向く方向が回転板の板厚方向に沿って相互に逆向きである2つの磁石である。N極とS極とが離間しているので、離間していない場合に比べ、N極からの磁束とS極からの磁束との区別をすることが容易となる。
【0029】
また、魚釣リールにおいて、磁気検出部は、コイルである。コイルに鎖交する磁束を検出することで、磁束の向き、磁束の大きさに応じた検出信号を出力できる。また、リードスイッチ等のように機械的接点を用いていないので、磁気検出部の耐久性を向上させることができる。
【0030】
また、魚釣リールにおいて、回転板に設けられ、回転板の回転速度に応じて回転板の径方向に移動可能な磁石であって、回転板が回転することでコイルに発電電流を発生させて、回転板の径方向の位置に応じた制動力を回転板に与える制動用磁石を備える。回転速度に応じ径方向の位置が変わり、それに応じて制動力を変化させることができるので、例えば、高速回転で釣糸を繰り出すときには制動力を少なくし、魚の反応に応じて低速回転で釣糸をまき戻すときに制動力を多くすること等が可能となる。
【0031】
また、魚釣リールにおいて、回転する回転板の磁石部と協働して回転板に制動を与えるために、コイルに駆動電流を供給する。例えば、釣糸に錘をつけて遠投するとき等においてスプールが空転し、これによって投げる距離が抑制されることがある。上記構成によれば、積極的に回転板に制動を与えることができるので、スプールの空回り等を抑制でき、これにより、釣糸をさらに遠くに投げることが可能になる。
【0032】
また、魚釣リールにおいて、釣糸が投げられるときの初速最大値を判断し、初速最大値に応じてスプールが空転しない制動力を算出し、算出された制動力に基づいて制動用の駆動電流をコイルに供給する。これにより効果的にスプールの空転を抑制することができる。
【0033】
また、魚釣リールにおいて、検出信号を整流し、キャパシタに蓄電する電源部を含む。これによって、魚釣リール用の電池の消耗を抑制することができる。
【0034】
また、信号処理回路及び表示部は、電源部の電力のみによって作動する。これにより、電池交換が不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下に図面を用いて、本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、手動ハンドルを有する手動式魚釣リールについて説明するが、スプールの回転速度を検出することが望まれるものであれば、電動式魚釣リールであってもよい。また、以下では釣糸案内部が前後往復運動をし、スプールは前後往復運動をしないものとして説明するが、これとは逆に、スプールが前後往復運動をし、釣糸案内部は前後往復運動をしないものであってもよい。また、以下では、スプール軸から減速機を経由した釣糸案内部の軸の回転速度を検出するものとしたが、これは説明の一例であって、スプール軸の回転速度と一定の関係で対応付けられる回転軸の回転速度を検出するものとしてよい。例えば、スプール軸の回転速度、ハンドル軸の回転速度等を検出するものとしてもよい。
【0036】
図1は、魚釣リール10の正面図、図2は、魚釣リール10の断面図、図3は魚釣リール10の側面のカバーを外した様子を示す図である。魚釣リール10は、魚釣をするための釣糸8を巻き取っておくもので、魚釣の際、釣糸8を漁場に投げる等のときには、釣糸8を繰り出し、魚が掛かった等のときには、釣糸8を巻き戻す機能を有する。魚釣リール10は、図示されていない支持部を用いて、釣竿、あるいは魚釣船の舷側等に固定されて用いられる。
【0037】
魚釣リール10は、ケース12と、手動ハンドル14と、釣糸8を巻き取っておくためのスプール24と、釣糸8がスプール24に平行に巻かれるように案内する釣糸案内部38とを備える。また、利用者の釣操作のために、魚の急激な引きに対応してスプール24を空転させて釣糸8の切れを防止するドラグノブ16、手動ハンドル14とスプール24の間の動力伝達を接続あるいは遮断するクラッチレバー18が設けられる。
【0038】
また、手動ハンドル14によって回される力をスプール24の中心軸であるスプール軸22、釣糸案内部38の回転軸である案内軸36に伝達するために、手動ハンドル14とスプール軸22との間に駆動歯車20、スプール軸22と案内軸36との間に伝達歯車23と減速歯車回転板26とがそれぞれ設けられる。また、利用者の釣操作の支援のために、釣糸8の状態等を演算して表示する演算表示部40が備えられる。
【0039】
ケース12は、魚釣リール10の各要素を支持し、全体として小型にまとまった外形を形作る筐体である。ケース12は密閉構造をとらず、釣糸8が繰り出される開口部の他、、釣糸案内部38、スプール24等も外部に対し開放された空間に配置される。また、ケース12は、手動ハンドル14及び駆動歯車20が取り付けられるハンドル軸19、スプール軸22、案内軸36の両端をそれぞれ回転自在に支持する機能を有する。これらの回転支持には、適当なボールベアリング、メタル軸受等の軸受機構が用いられる。かかるケース12としては、軽量高剛性のプラスチック材料を用いて成形したものに、軸受等を組み込んだものを用いることができる。軽量高剛性プラスチック材料としては、例えば、ポリカーボネート(PC)樹脂等を用いることができる。
【0040】
手動ハンドル14は、利用者によって操作されてハンドル軸19を回転される操作ハンドルである。手動ハンドル14は、正回転も逆回転も可能で、例えば、釣糸8を漁場に投げる場合に正回転するものとし、釣糸8を巻き戻すときに逆回転するものとできる。実際には、釣糸8を投げるときは、クラッチレバー18を操作し、手動ハンドル14とスプール24との間の動力伝達を遮断し、スプール24が自由回転できるようにすることが多いので、利用者が手動ハンドル14を操作するのは、逆回転する場合が多い。かかる手動ハンドル14は、軽量高剛性のプラスチック材料を用いて成形したものを用いることができる。
【0041】
ハンドル軸19は、手動ハンドル14と一体となって、手動ハンドル14が回転されるとき、その中心軸周りに回転する軸である。ハンドル軸19に固定して取り付けられる駆動歯車20は、スプール軸22に取り付けられるピニオン歯車と噛み合って、ハンドル軸19の回転数を減速し、トルクを増幅してスプール軸22に伝達する機能を有する。かかるハンドル軸19は、適当な剛性を有する材料の棒材を成形したものを用いることができる。例えば、金属材料棒材を加工したもの、あるいは高剛性プラスチック材を用いて所望の形状に成形したものを用いることができる。
【0042】
スプール軸22は、その一方端において駆動歯車20に噛み合うピニオン歯車を有し、他方端においては伝達歯車23に噛み合うピニオン歯車を有し、ハンドル軸19の駆動力を伝達歯車23に伝達する伝達機構の機能を有する軸である。また、スプール軸22は、釣糸8を巻き取っておくためのスプール24を固定支持し、ハンドル軸19の回転に応じてスプール24を回転させるという重要な機能も有する。かかるスプール軸22は、適当な剛性を有する材料の棒材を成形したものを用いることができる。例えば、金属材料棒材を加工したもの、あるいは高剛性プラスチック材を用いて所望の形状に成形したものを用いることができる。
【0043】
スプール24は、その名称のように、糸巻形状を有する部品で、上記のように釣糸8を巻き取っておく機能を有する。釣糸8は、このスプール24からほどかれて繰り出され、あるいは、このスプール24に巻き戻される。例えば、繰り出しのときにスプール24は正方向に回転し、巻き戻しのときにスプール24は逆方向に回転する。このように、スプール24はスプール軸22の周りの回転を正方向あるいは逆方向とすることで、釣糸8を繰り出し、あるいは巻き戻すことができる部材である。かかるスプール24は、軽量高剛性のプラスチック材料を用いて成形したものを用いることができる。
【0044】
スプール軸22の他方端のピニオン歯車に噛み合う伝達歯車23は、スプール軸22の駆動力を案内軸36に伝達するための中間的な伝達歯車である。なお、この伝達歯車23を含め、上記の駆動歯車20、次に述べる減速歯車回転板26は、高剛性プラスチックを成形し、歯車形状としたものを用いることができる。
【0045】
減速歯車回転板26は、減速歯車部28と、これより一回り大きな外形を有する円板状の回転板部30を含んで構成される部品である。減速歯車回転板26は、その中心において案内軸36の端部に取り付けられ、減速歯車部28は伝達歯車23と噛み合うように配置される。したがって、手動ハンドル14−ハンドル軸19−駆動歯車20−スプール軸22の一方端のピニオン歯車−スプール軸22の他方端のピニオン歯車−伝達歯車23−減速歯車部28−案内軸36の伝達径路によって、手動ハンドル14の回転操作による駆動力が、スプール軸22と案内軸36に伝達されることになる。
【0046】
案内軸36は、軸方向に沿って一方端から他方端に向かって進み、他方端に達すると反転して他方端から一方端に進む往復螺旋溝を有する軸である。釣糸案内部38は、案内軸36の螺旋溝に噛み合うピンと、ピンと一体化して回転止めが設けられる案内穴付板とを有し、案内軸36が回転することで、案内軸36の軸方向に沿って前後往復運動を行う部材である。つまり、案内軸36が回転するとき、その回転方向に関らず、釣糸案内部38は、案内軸36の軸方向に沿って往復移動する。釣糸8は、釣糸案内部38の案内穴付板の案内穴を通るように予め設定されるので、釣糸案内部38の前後往復運動によって、釣糸8は、回転するスプール24の軸方向に沿って移動することになる。これによって、スプール24には、その軸方向に沿って、ほぼ均一な巻き厚さで、釣糸8が巻き取られ、また、ほぼ均一な巻き厚さを保ちながら繰り出されることになる。
【0047】
図1における演算表示部40は、釣を行う利用者の利便のために釣糸8の状態を演算して表示する機能を有する部品である。演算表示部40の内部には、釣糸8の繰り出し長さ、繰り出しまたは巻き戻し速度等を演算する回路等が収納されており、その表面には、表示のリセット等を指示するための操作ボタン42と、小型液晶パネル44と、小型液晶パネル44を保護するための見切窓ガラス46が設けられる。図1の例では、−8.5mとして、釣糸8の水中での深さが表示され、また、32m/secとして釣糸8の速度が示されている。
【0048】
ここで、減速歯車回転板26が減速歯車部28の他に、回転板部30を有しているのは、この回転板部30と、演算表示部40との協働によって、スプール24の回転速度を検出するためである。図3に示されるように、回転板部30の一部は演算表示部40に設けられたくぼみ部51において重なって配置される。この重なり部分において、回転速度の検出等が行われる。
【0049】
図4は、減速歯車回転板26と重なり合う演算表示部40の断面図を示す図である。以下では図1から図3と同様の要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。演算表示部40は、底部ケース50と正面ケース52とが組み合わされて一体化したとき防水構造となる密閉箱である。後述するように、演算表示部40は充電可能な電源部を内蔵することができ、その場合には、電池交換が不要で、1つの密閉箱電子部品として、独立して動作することができる。防水性能を維持するため、底部ケース50と正面ケース52との合わせ面には、シール部材54が設けられる。また、演算表示部40の内部の全体を樹脂で充填することが好ましい。
【0050】
上記のように、演算表示部40は、防水性能を維持したまま、減速歯車回転板26と重なりあうために、底部ケース50に減速歯車回転板26の外形に対応したくぼみ部51が設けられる。そして、演算表示部40の内部において、そのくぼみ部51のところに、コイル90が配置される。また、演算表示部40の内部には、回路基板60、充電可能なキャパシタ70が配置される。
【0051】
図5は、演算表示部40の正面ケースを外した状態の平面図であり、図1においては演算表示部40が立てて配置されているので、図1の関係で述べれば正面図に相当する。また、図6は、くぼみ部51の長手方向に沿った断面図を示し、図7は、コイル90の軸方向に沿った断面図である。以下では図1から図4と同様の要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。また、以下では、図1から図4の符号を用いて説明する。
【0052】
図5において、演算表示部40の内部には、くぼみ部51に対応してコイル90が配置され、また、キャパシタ70が配置される。そして、図示されていない正面ケース52に設けられる小型液晶パネル44、見切窓ガラス46の配置位置と重なる位置に、回路基板60が配置される。回路基板60には、電子部品が搭載されるが、その詳細については後述する。
【0053】
図6、図7には、スプール24の回転速度を検出するための速度検出部の様子が示されている。速度検出は、減速歯車回転板26に取り付けられた磁石部32と、演算表示部40に設けられた磁気検出センサであるコイル90とによって行われる。
【0054】
磁石部32は、減速歯車回転板26における回転板部30の外周側に設けられた1対の磁石33,34である。この磁石部32は、回転板部30の板厚方向に、N極とS極とが並ぶように配置された2つの磁石33,34で、回転板部30の板厚方向に沿って相互に離間して配置される。そして、例えば、2つの磁石33,34のそれぞれのN極に注目すると、N極の向く方向が回転板部30の板厚方向に沿って互いに逆向きとなるように配置される。
【0055】
なお、図6に示すように、磁石部32は、回転板部30の周方向に沿って角度にして90度ごとに設けられ、合計4対の磁石33,34が設けられるものとしたが、対の数は、1以上であればこれ以外の対数であってもよい。
【0056】
また、上記では、減速歯車回転板26に磁石部32を設け、案内軸36の回転速度に基づいてスプールの回転速度を検出するものとしたが、それ以外であっても、磁石部32は、スプール24の回転速度を検出することができる回転板に設けられればよい。例えば、ハンドル軸19、スプール軸22、伝達歯車23の回転速度を検出するように、これらに磁石部が設けられた回転板部を取り付ける構造としてもよい。
【0057】
磁石部32を構成する各磁石33,34は、回転板部30にはめ込まれるが、その磁束をコイル90で検出するために、回転板部30は、少なくとも各磁石33,34の近傍は非磁性体で構成される。好ましくは、回転板部30の全体、あるいは減速歯車回転板26の全体を、上記のように、高剛性のプラスチック材料で構成することがよい。例えば、POM等の機能樹脂材料を用いることが好ましい。この場合、POM等の機能樹脂と各磁石33,34との間の接着性が必ずしも良好でないことが生じえる。そこで、図7の一部拡大図に示すように、各磁石33,34の外周に溝31を設け、一方、回転板部30のはめ込み穴の内周に円環状突起を設け、溝31と突起とのはめあいによって、各磁石33,34を回転板部30に固定することが好ましい。
【0058】
コイル90は、回転板部30の板厚方向を挟む部分が開放されている形状の鉄心92と、鉄心92に適当なボビンを介して巻回された巻線部94を含んで構成される。コイル90は、鉄心92を介して導かれた各磁石33,34の磁束を検出して電流、あるいはそれに対応する電圧として出力する機能を有する。
【0059】
その意味で、コイル90は、磁気検出部の機能を有する。また、鎖交磁束によって電流を発生するという観点からは、コイル90は発電装置として機能し、その取り出された電力に対応する分、各磁石33,34に制動力を与える電磁制動装置としても機能する。このように、コイル90に生成される信号は、磁気検出のために処理が行われる一方で、発電エネルギを取り出してキャパシタ70を充電する処理が行われる。これらの処理の詳細については、後述する。
【0060】
いずれにせよ、コイル90から出力される信号は、磁気を検出することで発生する信号であるので、磁気検出信号と呼ぶことができ、また、この信号は、回転板部30の回転速度に関連する情報を含むので、速度検出信号と呼ぶことができる。そして、この信号は、回転板部30の回転速度が高速であるほど、信号振幅が増大する。回転板部30の回転速度は、スプール24の回転速度に比例するが、スプール24の最大回転数は、例えば毎分30,000回転に及ぶことがあり、最低回転数は、毎分数回転まで落とされることがある。したがって、コイル90から出力される信号の振幅は、10,000倍もの差が生じることがある。以下の図においては、必要がない限り、このような振幅の大きな差をそのまま表示せずに、単に差があることを示すことに止めることとする。
【0061】
図8は、コイルの出力信号の様子を説明する図である。以下では、図1から図7の符号を用いて説明する。図8に示すように、磁石部32を構成する2つの磁石33,34は、回転板部30の回転によって、その磁束がコイル90の鉄心92を介して巻線部94と鎖交する。回転板部30の回転方向は、正回転と逆回転とあるので、例えば、釣糸8を繰り出す方向の回転を正回転、あるいは正転とし、釣糸8を巻き戻す方向の回転を逆回転、あるいは逆転とする。図8には、横軸に時間、縦軸に電圧をとり、コイル90の出力信号を電圧に換算した波形について、上段に正転の場合が、下段に逆転の場合が、それぞれ示されている。
【0062】
図8に示されるように、正転の場合のコイル90の出力波形は、プラス側に一旦持ち上がった後、マイナス側に大きく低下し、再びプラス側に持ち上がる波形が繰り返される。ここで、プラス側に持ち上がる電圧の大きさに比べ、マイナス側に低下する電圧の大きさの方がかなり大きくなっている。また、繰り返し波形のそれぞれは、マイナス側に低下する部分を中心に時間軸についてほぼ対称な波形となっている。なお、この繰り返し単位は、一組の磁石33,34の磁束の検出に相当する。つまり、図8では、1組の磁石33,34による波形と、次の1組の磁石33,34による波形が示されている。
【0063】
一方、逆転の場合のコイル90の出力波形は、マイナス側に一旦低下した後、プラス側に大きく持ち上がり、再びマイナス側に少し低下する波形が繰り返される。ここで、マイナス側に低下する電圧の大きさに比べ、プラス側に持ち上がる電圧の大きさの方がかなり大きくなっている。また、繰り返し波形のそれぞれは、プラス側に持ち上がる部分を中心に時間軸について非対称な波形となっている。
【0064】
このように、回転板部30の板厚方向に沿ってそれぞれ離間して、N極とS極とが並ぶように、2つの磁石33,34を配置する場合に、コイル90は、回転板部30の回転方向の正転、逆転によって異なる信号波形を出力する。換言すれば、コイル90の出力信号を用いて、回転板部30の回転方向を正転と逆転とを区別して検出することができる。
【0065】
図9と図10は、他の磁石配置を行った場合について説明する図である。以下では、図1から図8の符号を用いて説明する。図9は、磁石部32として、回転板部30の周方向に沿って、N極とS極が並ぶように配置した1つの磁石100を用いる場合のコイル90の出力信号の様子を示す図である。図10は、磁石部32として、回転板部30の板厚方向に沿って、N極とS極が並ぶように配置した1つの磁石102を用いる場合のコイル90の出力信号の様子を示す図である。各図において、横軸、縦軸の意味、上段、下段の意味は、図8の場合と同じである。
【0066】
図9に示すように、回転板部30の周方向に沿って、N極とS極が並ぶように配置した1つの磁石100を用いる場合でも、回転板部30の回転方向の正転、逆転に応じて異なる信号波形となる。すなわち、正転の場合には、信号波形がマイナス側に下降する成分の方がプラス側に持ち上がる成分よりも大きいのに対し、逆転の場合には、信号波形がプラス側に持ち上がる成分の方がマイナス側に下降する成分よりも小さい。したがって、1つの磁石100を用いて、この方法でも、コイル90の出力信号を用いて、回転板部30の回転方向を正転と逆転とを区別して検出することができる。ただし、信号波形の振幅は、図8の場合の信号波形の振幅よりも小さくなる傾向であるので、磁気検出の感度、あるいは発電能力は、図8の場合に比べ、それぞれ小さくなる。
【0067】
回転板部30の板厚方向に沿って、N極とS極が並ぶように配置した1つの磁石102を用いる場合には、図10に示されるように、回転板部30の回転方向の正転、逆転に関らず同じ信号波形となる。したがって、回転板部30の板厚方向にN極とS極とが並ぶように配置された1つの磁石102を用いる場合には、回転板部30の回転方向をコイル90の信号波形を用いて区別することができない。勿論、この方法によって、回転板部30の回転速度を検出することはできる。
【0068】
回転板部30の板厚方向に沿って、N極とS極が並ぶように配置した1つの磁石102を用いる場合に、回転板部30の回転方向について正転、逆転を区別するには、他の方法を用いることができる。1つの方法として、図1に関連して説明したクラッチレバー18の動きを利用することができる。図11は、スプール24が正転、逆転したときのクラッチレバー18の動きを説明する図である。ここに示されるように、クラッチレバー18は、レバー回転中心19の周りに、スプール24の正転、逆転に応じて回転し、異なる位置を取る。したがって、クラッチレバー18の位置検出手段として適当なセンサを設けることで、そのセンサの出力信号からクラッチレバー18の動きが検出され、これに基づいて、スプール24あるいは回転板部30の正転、逆転を区別して検出することができる。
【0069】
上記では、磁気検出部としてコイルを用いるものとして説明したが、それ以外の磁気検出手段を用いることもできる。例えば、コイルに代えてホール素子、磁気ヘッドに用いられる磁気検出デバイス等を用いることができる。回転板部の正転、逆転を区別するには、磁気ヘッドに用いられる磁気検出デバイスを組み込んだ双極2出力型磁気センサと呼ばれる複合素子を用いることができる。かかる双極2出力型磁気センサとしては、アルプス電気社の高精度磁気センサHGDシリーズ双極2出力型を用いることができる。
【0070】
図12は、アルプス社の双極2出力型ホール素子の構成と磁気検出の様子を説明する図である。この素子は、図12(a)に示されるように2つの出力OUT1,OUT2を含む4端子素子であり、(b)に示されるように、磁力線の方向が+Hと−Hと異なることで、(c)に示されるように、+HのときはOUT1の出力を用い、−HのときはOUT2の出力を用いることで、磁力線の方向を区別しながら、磁気検出を行うことができる。
【0071】
再び図5に戻り、次に、回路基板60に配置される電子回路について説明する。以下では、図1から図12と同様の要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。また、以下では、図1から図12の符号を用いて説明する。図5に示されるように、回路基板60には、コイル90に接続されるローパスフィルタ(LPF)62とゲイン自動調整増幅器(AGCAMP)64と、CPU66と、電源部68とが搭載配置される。これらの回路の詳細を図13に示す。図13には、回路の構成要素ではないが、減速歯車回転板26に設けられる磁石部32が図示されている。
【0072】
図13は、コイル90に関連する電子回路の構成を示す図である。コイル90からは、図7で説明した巻線部94の巻き始めと巻き終わりの2端子が電源部68に接続され、巻き始めと中間タップ部の2端子がLPF62以後の回路部に接続される。中間タップ部とは、コイル90の巻線部94の巻き始めと巻き終わりの間の適当なところから引き出された端子である。LPF62以後の回路部は、コイル90によって検出された検出信号を処理してスプール24の回転速度を演算する機能を有する回路部であり、電源部68は、コイル90によって生成された電流を取り出して、キャパシタ70を充電する機能を有する回路部である。この両者は、いずれもコイル90の検出信号を処理するものであるから、検出信号処理部122と呼ぶことができる。
【0073】
LPF62は、コイル90によって検出された検出信号のノイズを除去する機能を有する低帯域濾波(ローパス)フィルタである。ここで、コイル90によって検出される検出信号の最大周波数帯域は、回転板部30の回転速度に対応する周波数であるので、それ以上の周波数帯域の信号はノイズとして除去してもよい。換言すれば、LPF62の周波数特性は、釣糸8の最大繰出速度に応じて予め設定されるスプール24の最大回転速度を超える回転速度に対応する周波数帯域の検出信号を除去するように設定される。上記の例では、スプール24の最大回転数である毎分30,000回転に対応し、30,000/60=500Hzとして、余裕を見て約10kHz以上の周波数帯域の信号をカットする特性とする。これによって、回転速度の検出に関係ない信号成分をノイズとして除去できる。LPF62によってノイズが除去された信号は、AGCAMP64に入力される。
【0074】
図14は、LPF62の作用を説明する図である。図14(a)は、回転板部30の回転速度が高速の場合で、コイル90の検出信号の振幅が大きい場合である。(b)は、回転板部30の回転速度が低速の場合である。いずれの場合も、LPF62によって、高周波成分の信号がノイズとして効果的に除去されている。
【0075】
AGCAMP64は、増幅器であるが、後述する回転数検出処理部80の出力がフィードバックされ、回転数に応じてゲインが自動調整される。上記のように、スプール24の回転数は、毎分30,000回転から毎分数回転まで、大幅に変化する。この回転数の変化範囲に応じて、コイル90の検出信号の振幅も大幅に変化し、そのままでは、以後の信号処理に影響を与える。そこで、スプール24あるいは回転板部30の回転数に応じて、増幅器のゲインを変化させる。
【0076】
その様子が図15に示される。図15の左側の図は、横軸が回転速度v、縦軸が検出信号の波形振幅をとり、回転速度と波形振幅の関係を示すものである。ここに示されるように、回転速度が高速になるほど、検出信号の波形振幅は増大する。図15の右側の図は、横軸が回転速度v、縦軸がAGCAMP64のゲインをとり、回転速度とゲインの関係を示すものである。ここに示されるように、回転速度が高速になるにつれ、AGCAMP64のゲインを低下させるように制御される。このようにすることで、コイル90の検出信号の振幅に応じてゲインを変更し、回転速度に余り影響されずに、ほぼ一定の信号振幅として、以後の信号処理を行うことができる。
【0077】
再び図13に戻り、AGCAMP64によって、信号振幅がほぼ一定化された信号は、CPU66に入力され、具体的にはまずA/D変換器72によって、アナログ信号からディジタル信号に変換される。そして、変換されたディジタル信号について、ソフトウェア処理部74によって対応する信号処理プログラムが実行される。具体的には、微分処理部76によって微分処理が、積分処理部78によって積分処理が、回転数検出処理部80によって、微分処理と積分処理の結果に基づいて回転速度検出処理、すなわち回転数検出処理が、それぞれソフトウェアを用いて実行される。
【0078】
微分処理部76は、LPF62,AGCAMP64によって処理されディジタル化された信号を微分する機能を有し、これによって、信号変化を拡大し、信号の有無を検出するものである。
【0079】
図16は、微分処理部76の作用を説明する図である。図16(a)は、回転板部30の回転速度が高速の場合で、したがってコイル90の検出信号の振幅が大きく、微分処理前の状態は、図13(a)の処理後の信号に対応する。(b)は、回転板部30の回転速度が低速の場合で、微分処理前の状態は、図14(b)の処理後の信号に対応する。なお、AGCAMP64の処理後であるので、(a)と(b)の信号振幅はあまり差がないようになっているが、両信号の相違を区別するため、ここでは、振幅差を誇張して示してある。いずれの場合も、微分処理部76の処理によって、信号振幅が大きくなり、例えば、(a)の場合でも、(b)の場合でも、共通の閾値Vthを用いて信号の有無、つまり、回転の有無を区別することが容易にできることが分かる。
【0080】
積分処理部78は、LPF62,AGCAMP64によって処理されディジタル化された信号を積分する機能を有し、これによって、積分波形の時間的変化に基づいて算出される速度検出信号のピッチを回転速度データとするものである。積分処理部78による処理は、微分処理部76による処理と平行して実行される。すなわち、微分処理部76によって処理された信号を積分処理するのではなく、A/D変換器72の出力について、それぞれ、微分処理と積分処理が平行して実行される。
【0081】
図17は、積分処理部78の作用を説明する図である。図17(a)は、回転板部30の回転速度が高速の場合で、したがってコイル90の検出信号の振幅が大きく、積分処理前の状態は、図16(a)と同様に図14(a)の処理後の信号に対応する。(b)は、回転板部30の回転速度が低速の場合で、積分処理前の状態は、図16(a)と同様に図14(b)の処理後の信号に対応する。また、ここでも、振幅差を誇張して示してある。いずれの場合も、積分処理部78の処理によって、信号が存在する部分の積分が面積波形として示され、この積分面積波形の時間軸における変化である間隔ピッチPを求めることができる。
【0082】
ピッチPは、検出信号が存在する時間間隔であるので、スプール24または回転板部30の回転速度を示すものである。このようにして、積分処理部78の処理によって得られるピッチPを回転速度データとすることができる。
【0083】
再び図13に戻り、回転数検出処理部80は、微分処理部76の処理の結果と、積分処理部78の処理の結果とに基づき、回転数、すなわち回転速度の検出処理を実行するものである。具体的には、微分処理部76の処理の結果に基づいて検出信号の有無を判断し、検出信号が有ると判断された各タイミングにおいて、積分処理部78の処理の結果を参照して積分面積波形が有るときは、これらをピッチ算出のデータとする。そして、隣接する積分面積波形の間の時間的間隔から、ピッチPを算出し、これを回転速度データとする。このように、微分処理部76による検出信号有無判断と、積分処理部78による積分面積波形の演算とを併用することで、積分面積波形の間の時間的間隔が回転速度データであることの信頼性を向上させ、ノイズ等による演算誤差を少なくすることができる。
【0084】
回転数検出処理部80から出力される回転速度データは、画像処理部82において、液晶パネルの表示に適した信号に変換される。そして画像処理部82の出力は小型液晶パネル44に供給され、図1に関連して説明したように、例えば、32m/sec等の表示が行われる。
【0085】
図13において、電源部68は、ダイオードブリッジ84と、入力側の平滑コンデンサ86と、DC/DCコンバータ88と、出力側の平滑コンデンサ87とを含み、コイル90の検出信号である発電電力を整流、平滑化し、所定の規格化された電圧として、キャパシタ70に充電電力として供給する機能を有する。
【0086】
キャパシタ70としては、電気二重層キャパシタ等を用いることができる。電源部68によって供給される電力がキャパシタ70の充電容量からみて十分な電力であって、さらに、演算表示部40における各電子部品及び小型液晶パネル44の駆動に十分な電力をキャパシタ70から供給できる場合には、電源部68によって供給される電力のみで、演算表示部40を駆動でき、電池交換を不要とすることができる。電源部68によって供給される電力では不足のときは、ニッケルカドミウム電池等の2次電池をキャパシタ70に代えて用いることもできる。この場合には2次電池の交換が必要となることに備え、2次電池交換手段が、例えば、図1で説明した演算表示部40に設けられる。
【実施例1】
【0087】
上記においては、回転速度を検出するための磁石部からの磁束をコイルにより検出し、その検出信号が発電にも用いられるので、回転エネルギがその分失われ、回転板部あるいはスプールに対し、制動力を与えることになる。この制動力の大きさは、発電電力の大きさによって定まることになるが、上記では制動力を制御していないので、実質的には、ユーザの釣糸操作に適当な制動感が与えられる程度に止まることも多い。
【0088】
回転速度を検出するための磁石部とは別に、制動制御用の磁石を別途設けることで、ユーザの釣糸操作に有効に働く制動力を積極的に発生させることができる。図18は、そのような構造の例を示す図である。以下では、図1から図17と同様の要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。また、以下では、図1から図17の符号を用いて説明する。なお、図18では、減速歯車回転板26とコイル90の周辺のみが図示されている。
【0089】
図18(a)は、減速歯車回転板26が静止状態のとき、(b)は、減速歯車回転板26が正転高速回転のとき、(c)は、減速歯車回転板26が逆転低速回転のときの様子を示す図である。ここで、減速歯車回転板26の正転とは、釣糸8が漁場に投げ込まれるときの回転方向のことを指すものとし、逆転とは、正転と反対方向の回転方向で、釣糸8が巻き戻されるときの回転方向を指すものとする。
【0090】
釣糸8が投げられるときは、通常、錘を用いるので、その投げ速度はかなりの高速となり、したがって、減速歯車回転板26は、正転で高速に回転することになる。その状態が図18(b)に対応する。一方、魚が掛かって釣糸8を巻き戻す場合は、魚の尾反応に応じて慎重に巻き戻されるので、その巻き戻し速度はかなりの低速になり、したがって、減速歯車回転板26は、逆転で低速に回転することになる。この状態が図18(c)に対応する。
【0091】
図18(a)に示されるように、減速歯車回転板26の外周側には、回転速度検出及びキャパシタ充電用発電のための磁石部32として磁石33,34が配置される。これは図6で説明したものと同じ構造であるが、そのほかに、同じ半径上に、制動用磁石部104が配置される。
【0092】
制動用磁石部104は、回転速度検出等に用いられる磁石33,34よりも磁束密度等が大きな磁気特性を有する磁石106と、磁石106を減速歯車回転板26の中心軸側、つまり内径側に押し付ける付勢力を与える付勢バネ108を含んで構成される。したがって、制動用磁石部104は、減速歯車回転板26の回転速度に応じて、減速歯車回転板26の径方向に移動可能な磁石であって、減速歯車回転板26が回転することでコイル90に発電電流を発生させる機能を有する。これにより、制動用磁石部104は、コイル90と協働し、減速歯車回転板26の径方向の位置に応じた制動力を、減速歯車回転板26に与えることができる。
【0093】
なお、磁石106の極性は、減速歯車回転板26の板厚方向に沿ってN極とS極が並ぶように配置されてもよく、あるいは減速歯車回転板26の周方向に沿ってN極とS極が並ぶように配置されてもよい。
【0094】
例えば、減速歯車回転板26が高速回転するときは、図18(b)に示されるように、磁石106が遠心力で外周側に移動し、付勢バネ108の付勢力と釣り合う位置に来る。この位置は、コイル90が磁束を検出する位置より外れることになるので、制動用磁石部104とコイル90の協働による制動力はあまり大きくはない。つまり、釣糸8を投げ込むときは、制動用磁石部104による制動作用はほとんど働かず、釣糸8を十分に遠くに投げることが可能である。
【0095】
一方、減速歯車回転板26が低速回転するときは、磁石106に働く遠心力が少ないので、図18(c)に示されるように、磁石106の位置は、図18(a)に示される静止状態における位置とほとんど変わらない。この位置は、コイル90が磁束を検出する位置の近くであるので、制動用磁石部104とコイル90の協働による制動力が大きく作用する。つまり、釣糸8を低速で巻き戻すときは、制動用磁石部104による制動作用が強く働き、釣糸8を十分な制動力の下で巻き戻すことが可能となる。
【0096】
図19は、コイル90の出力信号の波形を示す図で、横軸は時間、縦軸は電圧である。ここで、図19の上段は、減速歯車回転板26が正転高速回転するときで、この場合、回転速度検出のための信号波形の間に制動用の磁石106による信号波形が現れるが、その振幅の大きさは回転速度検出のための信号波形の振幅の大きさに比べ、かなり小さい。したがって、その制動作用が小さいことが示されている。これに対し、図19の下段は、減速歯車回転板26が逆転低速回転するときで、この場合、回転速度検出のための信号波形の間に現れる制動用の磁石106による信号波形の振幅の大きさは回転速度検出のための信号波形の振幅の大きさに比べ、かなり大きくなる。したがって、その制動作用が十分な大きさであることが示されている。
【実施例2】
【0097】
上記では、減速歯車回転板あるいはスプールの制動は、コイルと磁石との相互作用による発電に対応するものとして与えられている。コイルに積極的に駆動電流を供給すことにすれば、コイルと磁石との相互作用はいわゆるモータとなり、減速歯車回転板あるいはスプールに対し、電磁制動装置として機能する。このような構成によれば、駆動電流を制御することで、任意のタイミングで、任意の大きさの制動力を減速歯車回転板あるいはスプールに与えることができる。図20は、そのような構造の例を示す図である。以下では、図1から図19と同様の要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。また、以下では、図1から図19の符号を用いて説明する。なお、図20では、減速歯車回転板26とコイル90の周辺に関連する部分のみが図示されている。
【0098】
図20に示されるように、減速歯車回転板26の外周側には、回転速度検出及びキャパシタ充電用発電のための磁石部32として磁石33,34が配置される。これは図6等で説明したものと同じ構造であるが、そのほかに、同じ半径上に、制動制御用磁石110が配置される。この制動制御用磁石110は、図18の制動用磁石部104の磁石106と異なり、減速歯車回転板26に固定され、径方向に移動しない。なお、制動制御用磁石110の極性は、減速歯車回転板26の板厚方向に沿ってN極とS極が並ぶように配置されてもよく、あるいは減速歯車回転板26の周方向に沿ってN極とS極が並ぶように配置されてもよい。
【0099】
コイル90に接続される駆動回路112は、コイル90に駆動電流を供給するドライバ回路である。既に図16で説明したように、コイル90には、磁石部32の磁束を検出して回転速度を算出し、また電源部68によってキャパシタ70を充電する検出信号処理部122が接続されている。駆動回路112は、この検出信号処理部と並列にコイル90に接続配置されるが、コイル90に検出信号処理部122が接続されるときには、駆動回路112とコイル90との接続が遮断され、逆にコイル90に駆動回路112が接続されるときには、検出信号処理部122とコイル90との接続が遮断される。つまり、コイル90に対し、図16で説明した検出信号処理部122と、駆動回路112とは、切換手段によって、いずれかが接続されるように切換が行われる。
【0100】
駆動回路122は、図5で説明した回路基板60に搭載されるが、駆動回路122を制御する制動駆動部124も、回路基板60に搭載される。検出信号処理部122と制動駆動部124は、共にコイル90に接続されるものであるので、これをコイル回路120と呼ぶことができる。
【0101】
制動駆動部124は、駆動回路112を制御し、減速歯車回転板26あるいはスプール24の回転に対し制動力を与える機能を有する。以下では、その一例として、釣糸8に錘をつけて漁場に遠投するときのスプール24に対する制動制御を説明する。その制御のために、制動駆動部124は、釣糸8の遠投における最大初速がスプール24の空転を生じさせる大きさか否かを判断する最大初速判断モジュール126と、最大初速がスプール24の空転を生じさせると判断するときに、空転を抑制するための制動力を算出する制動力算出モジュール128を含んで構成される。かかる機能は、ソフトウェアで実現でき、具体的には、対応するスプール制動プログラムを実行することで実現できる。
【0102】
かかる構成の作用、特に制動駆動部124の機能について、図21と図22を用いて説明する。以下では、図1から図20の符号を用いて説明する。図21、図22は、横軸にスプール24の位置を基準として投げられた釣糸8の先端の位置である投げ距離をとり、縦軸に速度をとり、釣糸8が遠投されたときの時々刻々の釣糸8の投げ距離と釣糸8の速度の関係、及び、これに対応するスプール24の速度の関係を説明する図である。そして、図21は、制動駆動部124による制動制御が行われない場合の様子を示し、図22は、制動駆動部124による制動制御が行われた場合の様子を示す図である。
【0103】
図21において、実線は、投げ距離に対する釣糸8の速度130,140を示し、破線は投げ距離に対応するスプールの速度134,144を示す。ここでは、釣糸8の投げ距離として、錘をつけてかなり遠くに投げる遠投の場合と、適当に近くに投げる近投の場合を示している。
【0104】
近投の場合について説明すると、釣糸8の速度140は、投げ始めのすぐ後に最大初速142となり、その後は次第に速度が低下する。近投の場合最大初速もあまり高速ではないので、スプール24は空転しない。したがって、スプール24の速度144は、釣糸8の速度にほぼ追従するものとなっている。このような場合、釣糸8のもつれ等が生じない。
【0105】
錘をつけて行う遠投の場合でも、釣糸8の速度130は、投げ始めのすぐ後に最大初速132となり、その後は次第に速度が低下することは近投の場合と同様である。しかし、遠投の場合の最大初速132は、近投の場合の最大初速142に比べかなり高速となり、
釣糸8の速度130が落ちてきても、慣性を有するスプール24の速度134はあまり落ちずに、釣糸8の速度130との間に速度差136が生じる。すなわち、スプール24が空転するようになり、釣糸8がもつれ、あるいは相互に絡まることが生じる。
【0106】
以上が、制動駆動部124による制御を行わない場合である。制動駆動部124は、図21においてスプール24の速度134と釣糸8の速度130との間に生じる速度差136を抑制するように、制動駆動部124が駆動回路112を制御して、コイル90と制動制御用磁石110との間の協働作用によって、減速歯車回転板26に制動力を与え、すなわちスプール24に制動力を与える機能を有する。
【0107】
具体的には、釣糸8が投げられるとき、その最大初速を検出する。釣糸8が投げられた初期は、釣糸8の投げ速度に追従してスプール24は回転するので、スプール24の最大速度をもって、釣糸8の最大初速とすることができる。具体的には、検出信号処理部122の機能によってスプール24の回転速度を検出し、その最大値をもって、釣糸8の最大初速とする。つぎに、得られた最大初速が、スプール24の慣性から見て、空転を生じさせる閾値速度を超えるか否かが判断される。閾値速度は、スプール24の慣性、支持構造等から予め求めておくことができる。この判断は、制動駆動部124の最大初速判断モジュール126の機能によって実行される。例えば、図21において、最大初速132,142が閾値速度を超えるか否かが判断される。最大初速が閾値速度を超えないときは、制動駆動部124は、駆動回路112を駆動しない。
【0108】
最大初速が閾値速度を超えると判断されると、コイル90に対する接続が検出信号処理部122から駆動回路112へと切り換えられる。そして、スプール24が空転しない制動力が算出され、その制動力に対応する駆動電流のコイル90への供給指令が駆動回路112に与えられる。具体的には、最大初速と閾値速度との間の速度差に応じて、予め求められている駆動電流の時間変化関数を用いて、駆動回路112に駆動電流の時々刻々の指令値が与えられる。
【0109】
その様子を図22に示す。ここでは、最大初速152が閾値速度vthを超えているので、最大初速152と閾値速度vthの差に応じた駆動電流関数160が適用されて、駆動回路112からコイル90に供給される。駆動電流関数160は、例えば、最大初速を検索キーとして、予め適当なメモリに記憶しておくことができる。そして、最大初速152が与えられると、メモリから対応する駆動電流関数160を読み出すものとできる。この駆動電流関数160は、最大初速152のときに、スプール24が空転しないために、スプール24に与えるべき制動力に対応するものである。
【0110】
このように、最大初速152に対応する駆動電流関数160が駆動回路112に与えられ、これに従って、駆動電流がコイル90に供給されるので、スプール24の速度154は釣糸8の速度150に追従することになる。これにより、釣糸8のもつれ、絡み合いが防止され、結果として、釣糸8の投げ距離が、制動制御を行わない場合に比べ、飛躍的に伸びることになる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明に係る実施の形態における魚釣リールの正面図である。
【図2】本発明に係る実施の形態における魚釣リールの断面図である。
【図3】本発明に係る実施の形態における魚釣リールの側面のカバーを外した様子を示す図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、減速歯車回転板と重なり合う演算表示部の断面図を示す図である。
【図5】本発明に係る実施の形態において、演算表示部の正面ケースを外した状態の平面図である。
【図6】本発明に係る実施の形態において、演算表示部のくぼみ部の長手方向に沿った断面図である。
【図7】本発明に係る実施の形態において、演算表示部のコイルの軸方向に沿った断面図である。
【図8】本発明に係る実施の形態において、コイルの出力信号の様子を説明する図である。
【図9】本発明に係る実施の形態において、他の磁石配置を行った場合について説明する図である。
【図10】本発明に係る実施の形態において、別の磁石配置を行った場合について説明する図である。
【図11】本発明に係る実施の形態において、スプールが正転、逆転したときのクラッチレバーの動きを説明する図である。
【図12】本発明に係る実施の形態において、磁気検出部として用いることができる双極2出力型ホール素子の構成と磁気検出の様子を説明する図である。
【図13】本発明に係る実施の形態において、コイルに関連する電子回路の構成を示す図である。
【図14】本発明に係る実施の形態において、LPFの作用を説明する図である。
【図15】本発明に係る実施の形態において、AGCAMPの作用を説明する図である。
【図16】本発明に係る実施の形態において、微分処理部の作用を説明する図である。
【図17】本発明に係る実施の形態において、積分処理部の作用を説明する図である。
【図18】他の実施形態の構造を示す図である。
【図19】他の実施形態におけるコイルの出力信号の波形を示す図である。
【図20】別の実施形態の構造を示す図である。
【図21】別の実施形態について、制動制御が行われない場合の釣糸の投げ距離と釣糸の速度の関係と、これに対応するスプールの速度の関係を説明する図である。
【図22】別の実施形態について、制動制御が行われる場合を説明する図である。
【符号の説明】
【0112】
8 釣糸、10 魚釣リール、12 ケース、14 手動ハンドル、16 ドラグノブ、18 クラッチレバー、19 ハンドル軸、20 駆動歯車、22 スプール軸、23 伝達歯車、24 スプール、26 減速歯車回転板、28 減速歯車部、30 回転板部、31 溝、32 磁石部、33,34 磁石、36 案内軸、38 釣糸案内部、40 演算表示部、42 操作ボタン、44 小型液晶パネル、46 見切窓ガラス、50 底部ケース、51 くぼみ部、52 正面ケース、54 シール部材、60 回路基板、62 LPF、64 AGCAMP、66 CPU、68 電源部、70 キャパシタ、72 A/D変換器、74 ソフトウェア処理部、76 微分処理部、78 積分処理部、80 回転数検出処理部、82 画像処理部、84 ダイオードブリッジ、86,87 平滑コンデンサ、88 DC/DCコンバータ、90 コイル、92 鉄心、94 巻線部、100,102,106 磁石、104 制動用磁石部、108 付勢バネ、110 制動制御用磁石、120 コイル回路、122 駆動回路、122 検出信号処理部、124 制動駆動部、126 最大初速判断モジュール、128 制動力算出モジュール、130,140,150 釣糸の速度、132,142,152 最大初速、134,144,154 スプールの速度、136 速度差、160 駆動電流関数。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプール軸の周りに回転するスプールと、
スプールに釣糸を案内する釣糸案内部と、
スプール軸または釣糸案内部を前後往復運動させる往復機構と、
スプールの回転速度を検出して速度検出信号を出力する速度検出部と、
速度検出信号の振幅に応じてゲインを変更して速度検出信号を処理し、回転速度データとして出力する信号処理回路と、
出力された回転速度データを表示する表示部と、
を備えることを特徴とする魚釣リール。
【請求項2】
請求項1に記載の魚釣リールにおいて、
信号処理回路は、
釣糸の最大繰出速度に応じて予め設定されるスプールの最大回転速度を超える回転速度に対応する速度検出信号を除去するローパスフィルタを有することを特徴とする魚釣リール。
【請求項3】
請求項2に記載の魚釣リールにおいて、
ローパスフィルタによって処理された信号を微分し信号変化を拡大し、信号の有無を検出する信号微分部と、
ローパスフィルタによって処理された信号を積分し、積分波形の時間的変化に基づいて算出される速度検出信号のピッチを回転速度データとする信号積分部と、
を有することを特徴とする魚釣リール。
【請求項4】
請求項1に記載の魚釣リールにおいて、
速度検出部は、
スプール軸と共に回転する回転板に設けられる磁石部であって、回転板の周方向に沿って、N極とS極との組が少なくとも1組設けられる磁石部と、
磁石部のN極からの磁束とS極からの磁束を区別して検出し、検出された信号を速度検出信号として出力する磁気検出部と、
を有することを特徴とする魚釣リール。
【請求項5】
請求項4に記載の魚釣リールにおいて、
磁石部は、回転板の周方向に沿って、N極とS極が並ぶように配置した1つの磁石であることを特徴とする魚釣リール。
【請求項6】
請求項4に記載の魚釣リールにおいて、
磁石部は、回転板の板厚方向に、N極とS極が並ぶように配置した2つの磁石であって、回転板の板厚方向に沿って相互に離間し、かつ、N極の向く方向が回転板の板厚方向に沿って相互に逆向きである2つの磁石であることを特徴とする魚釣リール。
【請求項7】
請求項4に記載の魚釣リールにおいて、
磁気検出部は、コイルであることを特徴とする魚釣リール。
【請求項8】
請求項7に記載の魚釣リールにおいて、
回転板に設けられ、回転板の回転速度に応じて回転板の径方向に移動可能な磁石であって、回転板が回転することでコイルに発電電流を発生させて、回転板の径方向の位置に応じた制動力を回転板に与える制動用磁石を備えることを特徴とする魚釣リール。
【請求項9】
請求項7に記載の魚釣リールにおいて、
コイルに接続されるコイル回路であって、
信号処理回路を含む検出信号処理部と、
回転する回転板の磁石部と協働して回転板に制動を与えるために、コイルに駆動電流を供給する制動駆動部と、
を有することを特徴とする魚釣リール。
【請求項10】
請求項9に記載の魚釣リールにおいて、
制動駆動部は、
検出信号処理部から出力される回転速度データに基づいて釣糸が投げられるときの初速最大値を判断する手段と、
初速最大値に応じてスプールが空転しない制動力を算出し、算出された制動力に基づいて制動用の駆動電流をコイルに供給する手段と、
を有することを特徴とする魚釣リール。
【請求項11】
請求項9に記載の魚釣リールにおいて、
検出信号処理部は、
検出信号を整流し、キャパシタに蓄電する電源部を含むことを特徴とする魚釣リール。
【請求項12】
請求項11に記載の魚釣リールにおいて、
信号処理回路及び表示部は、電源部の電力のみによって作動することを特徴とする魚釣リール。
【請求項1】
スプール軸の周りに回転するスプールと、
スプールに釣糸を案内する釣糸案内部と、
スプール軸または釣糸案内部を前後往復運動させる往復機構と、
スプールの回転速度を検出して速度検出信号を出力する速度検出部と、
速度検出信号の振幅に応じてゲインを変更して速度検出信号を処理し、回転速度データとして出力する信号処理回路と、
出力された回転速度データを表示する表示部と、
を備えることを特徴とする魚釣リール。
【請求項2】
請求項1に記載の魚釣リールにおいて、
信号処理回路は、
釣糸の最大繰出速度に応じて予め設定されるスプールの最大回転速度を超える回転速度に対応する速度検出信号を除去するローパスフィルタを有することを特徴とする魚釣リール。
【請求項3】
請求項2に記載の魚釣リールにおいて、
ローパスフィルタによって処理された信号を微分し信号変化を拡大し、信号の有無を検出する信号微分部と、
ローパスフィルタによって処理された信号を積分し、積分波形の時間的変化に基づいて算出される速度検出信号のピッチを回転速度データとする信号積分部と、
を有することを特徴とする魚釣リール。
【請求項4】
請求項1に記載の魚釣リールにおいて、
速度検出部は、
スプール軸と共に回転する回転板に設けられる磁石部であって、回転板の周方向に沿って、N極とS極との組が少なくとも1組設けられる磁石部と、
磁石部のN極からの磁束とS極からの磁束を区別して検出し、検出された信号を速度検出信号として出力する磁気検出部と、
を有することを特徴とする魚釣リール。
【請求項5】
請求項4に記載の魚釣リールにおいて、
磁石部は、回転板の周方向に沿って、N極とS極が並ぶように配置した1つの磁石であることを特徴とする魚釣リール。
【請求項6】
請求項4に記載の魚釣リールにおいて、
磁石部は、回転板の板厚方向に、N極とS極が並ぶように配置した2つの磁石であって、回転板の板厚方向に沿って相互に離間し、かつ、N極の向く方向が回転板の板厚方向に沿って相互に逆向きである2つの磁石であることを特徴とする魚釣リール。
【請求項7】
請求項4に記載の魚釣リールにおいて、
磁気検出部は、コイルであることを特徴とする魚釣リール。
【請求項8】
請求項7に記載の魚釣リールにおいて、
回転板に設けられ、回転板の回転速度に応じて回転板の径方向に移動可能な磁石であって、回転板が回転することでコイルに発電電流を発生させて、回転板の径方向の位置に応じた制動力を回転板に与える制動用磁石を備えることを特徴とする魚釣リール。
【請求項9】
請求項7に記載の魚釣リールにおいて、
コイルに接続されるコイル回路であって、
信号処理回路を含む検出信号処理部と、
回転する回転板の磁石部と協働して回転板に制動を与えるために、コイルに駆動電流を供給する制動駆動部と、
を有することを特徴とする魚釣リール。
【請求項10】
請求項9に記載の魚釣リールにおいて、
制動駆動部は、
検出信号処理部から出力される回転速度データに基づいて釣糸が投げられるときの初速最大値を判断する手段と、
初速最大値に応じてスプールが空転しない制動力を算出し、算出された制動力に基づいて制動用の駆動電流をコイルに供給する手段と、
を有することを特徴とする魚釣リール。
【請求項11】
請求項9に記載の魚釣リールにおいて、
検出信号処理部は、
検出信号を整流し、キャパシタに蓄電する電源部を含むことを特徴とする魚釣リール。
【請求項12】
請求項11に記載の魚釣リールにおいて、
信号処理回路及び表示部は、電源部の電力のみによって作動することを特徴とする魚釣リール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2009−22222(P2009−22222A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−189523(P2007−189523)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(592018179)株式会社創成電子 (10)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(592018179)株式会社創成電子 (10)
【Fターム(参考)】
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