説明

魚釣用リール

【課題】釣糸等の特性に依存せず目標値の設定が可能で、締める・緩めるの双方向でドラグを自動的に調整可能な魚釣用リールを提供する。
【解決手段】モータまたは/およびハンドルを駆動源としてスプールに釣糸の巻取り方向の回転力を伝達するクラッチのすべり量を設定可能なドラグ機構を備えた魚釣用リールにおいて、前記モータとは別の前記クラッチのすべり量を増減可能に前記ドラグ機構を操作する第二モータと、前記クラッチの駆動源側の任意位置およびスプール側の任意位置の回転数をそれぞれ検出する2つの回転数センサと、これら回転数センサの検出値から前記クラッチのすべり率を演算し、且つ、このすべり率が予め任意に設定された目標値の許容範囲内に収まるように前記第二モータを制御するフィードバック回路とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、実釣時にドラグの調整を自動で行う魚釣用リールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの魚釣りリールに採用されているドラグ機構は、釣糸を巻き取るスプールと、このスプールを釣糸の巻き上げ方向に駆動するモータ等の駆動源とをクラッチを介して連結し、前記クラッチの摩擦係合力をドラグレバー等の操作子によって可変とした機構であり、主として、スプールの巻き上げ時の過負荷によって釣糸が切れたり、身切れや口切れを起こして魚をバラしてしまうのを防ぐ目的で調整される。また、多少の負荷でクラッチが滑ったのでは、魚を釣り上げるのに時間がかかり、さらには必要以上に釣糸が繰り出されて絡まったりすることもあるため、この場合は、クラッチの摩擦力を上げるようにドラグを締め込む。
【0003】
しかしながら、ドラグを魚の種類や釣り方に応じて適切に調節するのにはある程度の経験が必要とされ、まして実釣時に状況に応じてドラグを調整し直すことは熟練者であっても難しい操作である。このため、ドラグは一度設定すれば、その後変更されないのが実状であるが、そうすると、自ずと釣果に限界が生じ、特に大物を釣ることが困難となる。
【0004】
こうした背景から、実釣時の状況に応じてドラグを自動的に調整する試みが提案されている。例えば、実釣時における釣糸の張力を検出して、この検出値が目標値に収まるように電動アクチュエータによりドラグを調節するものや(特許文献1)、ドラグのすべりを検出した場合に、モータによりドラグ力を強めるもの(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平4−30868号公報
【特許文献2】特開平7−246050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の構成では、釣糸の太さや素材によって張力が異なるため、魚の種類や釣り方以外に、使用する釣糸の特性に応じて目標値を設定する手間があり、特許文献2の構成では、スプールが釣糸の繰り出し方向に1回転以上回転したときにすべりと判断するため、前記条件を満たさないときには一切ドラグ調整が行われず、しかも、ドラグを締める方向の調整しか行えないという欠点がある。
【0007】
本発明は、上述した従来の課題を解決するもので、要するにその目的とするところは、釣糸等の特性に依存せず目標値の設定が可能で、締める・緩めるの双方向でドラグを自動的に調整可能な魚釣用リールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、上述した目的を達成するために、モータまたは/およびハンドルを駆動源としてスプールに釣糸の巻取り方向の回転力を伝達するクラッチのすべり量を設定可能なドラグ機構を備えた魚釣用リールにおいて、前記モータとは別の前記クラッチのすべり量を増減可能に前記ドラグ機構を操作する第二モータと、前記クラッチの駆動源側の任意位置およびスプール側の任意位置の回転数をそれぞれ検出する2つの回転数センサと、これら回転数センサの検出値から前記クラッチのすべり率を演算し、且つ、このすべり率が予め任意に設定された目標値の許容範囲内に収まるように前記第二モータを制御するフィードバック回路とを備えるという手段を用いた。
【0009】
本発明によれば、釣糸の巻き上げ動作時に2つの回転数センサによって検出されるスプール側と駆動源側の回転数の差からクラッチのすべり率を直接演算し、これをフィードバック制御により目標値の許容範囲に収まるように調節する。このため、本発明リールでは実釣時のクラッチのすべり率が目標値の許容範囲内で維持される。クラッチのすべり率は、例えば次式(1)によって演算することができる。
式(1) (Nm−Ns)/Nm
但し、Nmは駆動源の回転数、Nsはスプールの回転数
なお、スプールや駆動源に減速歯車が接続され、回転数センサが前記減速歯車の回転数を検出する場合は、この検出値を減速比で除した値をスプールや駆動源の回転数とすることができる。一方、目標値は0〜100%まで使用者が任意に設定でき、数値が大きいほどクラッチが滑りやすいことを意味する。また、目標値を中心値としてその上下に許容誤差を設けることで許容範囲が設定されるが、その数値はフィードバック回路の固有値としてプログラミング時に任意に設定することができる。
【0010】
また、本発明では、ドラグ機構はカム面が互いに凹凸係合可能な一対の斜面カムを備え、その一方にドラグレバーを設けると共に、他方の斜面カムに第二モータの回転力を付与する一方、フィードバック回路は前記ドラグレバー側の斜面カムの回転角が一定角度のとき前記第二モータの制御を行うという手段を用いる。この手段では、ドラグレバーの位置によってドラグレバーによる通常の手動調整とフィードバック回路による自動調整とを切り替えることができる。
【0011】
さらに、本発明では、2つの斜面カムは、カム面に互いの最大回転角を制限するストッパを有するという手段を用いる。この手段では、それぞれの斜面カムを限界の回転角(最大回転角)まで回転させた後は二つの斜面カムを共回りさせることができる。
【0012】
また、本発明では、フィードバック回路に優先して第二モータをクラッチのすべり量を可変に、即ち摩擦力が増加または低減する何れの方向にも駆動させる割り込みスイッチを備えるため、該割り込みスイッチを操作すればフィードバック制御がキャンセルされ、ユーザが任意に第二モータを駆動してドラグレバーによることなくドラグ調整を行うことができる。
【0013】
さらにまた、本発明では、ドラグレバーで設定された斜面カムの回転角を検出する角度センサと、この角度センサの検出値を他方の斜面カムの初期回転角として記憶するメモリを備える。この手段によれば、別途のボタン操作や棚位置検出によって、メモリから前記初期回転角を呼び出し、フィードバック回路に優先して第二モータを駆動させてユーザが当初に設定したドラグ力に自動復帰させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、駆動源側とスプール側の回転数から演算されるクラッチのすべり率を目標値と一致する方向にフィードバック制御するので、ドラグを締める方向のみならず緩める方向にもドラグを自動的に調整でき、状況に応じて緻密な制御が可能となった。また、目標値はすべり率として数値化されているので、その設定が明確であり、設定数値を記憶しておくことで、次回以降もそのすべり率(目標値)に基づいた釣りを正確に再現できる。さらに、ドラグ機構はドラグレバーおよび第二モータそれぞれによって操作される一対の斜面カムによって構成したので、手動と自動の双方でドラグを調整することができる。さらに、割り込みスイッチを設けたものにあっては、自動調整中であってもユーザの好みに応じてドラグ力を調整・変更することができる。さらにまた、ユーザがドラグレバーの操作により設定した初期のドラグ力が記憶されるので、第二モータを利用して初期ドラグ力に復帰させることも容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の魚釣用リールの内部機構を示した説明図
【図2】フィードバック回路の回路図
【図3】すべり率と目標値の関係を示すグラフ
【図4】ドラグ機構と角度センサを示す要部説明図
【図5】実施例に係る本発明リールの外観図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態を添付した図面に従って説明する。図1は、本発明に係る魚釣用リールの内部機構を示した断面図であり、1はスプール、2はスプール1を支承する両軸受型のドライブシャフト、3はスプール1の一側面に位置してドライブシャフト上に枢支され、駆動源としての動力モータMやハンドルHの動力(回転力)を前記スプール1に伝達する伝達ギア、4はスプール1の一側面と伝達ギア3の間に設けたクラッチ部である。
【0017】
この実施形態においてクラッチ部4は、スプール側の摩擦ディスク4aと伝達ギア側の制動ディスク4bを各2枚ずつ交互に配列して多板クラッチを構成している。なお、摩擦ディスク4aはステンレス1層、制動ディスク4bはステンレスを中間層として、その表裏にテフロン(登録商標)等の樹脂層を形成した3層とすることができるが、これに限定するものではない。そして、前記クラッチ部4において、5はスプール寄りの制動ディスク4bの外周に嵌め込まれた大径波形ワッシャ、6は伝達ギア寄りの摩擦ディスク4aの内周に嵌め込まれた小径波形ワッシャであり、これら波形ワッシャ5・6は厚み方向にうねりを有するものであり、各ディスクの初期クリアランスを設定すると共に、各ディスクを離反する弾性部材としても機能する。
【0018】
一方、スプール1の軸孔1aには、その中途に形成した内向きフランジ1bを境として、図面右側のクラッチ部側にはリターンばね7を、反対側には圧縮ばね部8を設けている。リターンばね7は、クラッチ部側を固定端として、他端が内向きフランジ1bと係止して、スプール1をクラッチ部4の開離方向に付勢している。これに対して、圧縮ばね部8は、スプール1の内向きフランジ1bを対称軸としてリターンばね7と対称関係にあり、図面右側の一端が内向きフランジ1bに係止され、当該一端はクラッチ部4の摩擦接合後に固定端となり、他端はドライブシャフト2の図面左側に設けるドラグ機構(後述)と当接して、図面右側に向かって押圧される。従って、圧縮ばね部8は、ドラグ機構の操作量(回転量)に応じた量だけ圧縮するものであり、その圧縮荷重が前記内向きフランジ1bに作用することで、前記リターンばね7の弾性力に抗して、スプール1をクラッチ部4が摩擦接合する方向に付勢するものである。このように圧縮ばね部8は、ドラグ力の範囲を決定する要素であり、本実施形態では、この圧縮ばね部8をばね定数が異なるコイルばね部9と皿ばね部10を直列に組み合わせて構成している。
【0019】
次に、11はスプール1のクラッチ部4とは反対側の他側面に設けたドラグ機構であり、ドライブシャフト2を回転軸として、回転運動をドライブシャフト2に沿った軸方向の直線運動に変換し、前記圧縮ばね部8を圧縮して、スプール1を介してクラッチ部4をその摩擦力が増加する方向に付勢するものである。特に、この実施形態では、ドラグ機構11をカム面が互いに凹凸係合する一対の斜面カム12・13の組合せから構成している。これら斜面カム12・13は互いに凹凸係合するテーパ状のカム面12a・13aを有しており、外側(図面上、左側)の斜面カム12にはドラグレバー14を一体的に設けている。このドラグレバー14を設けた斜面カム12は微調整用のドラグツマミ15によって軸移動が規制されているため、当該斜面カム12はドラグレバー14と共にドライブシャフト上を回動するが、軸移動はしない固定カムとして機能する。
【0020】
したがって、ドラグレバー14を手動で操作して外側の斜面カム12を回転させた場合はもちろん、内側の斜面カム13を後述するドラグ調整用の専用モータで回転させた場合は、互いのカム面が相手のカム面を乗り上げることによって内側(図面上、右側)の斜面カム13に図面上右側に向かう押圧力が作用して、当該斜面カム13のみがドライブシャフト上を軸移動し、クラッチ部4を摩擦力が増加する方向に付勢することになる。一方、これとは反対方向に斜面カム12・13を回転させた場合は、斜面カム13が図面上左側に軸移動して、クラッチ部4の摩擦力を低下させる。即ち、斜面カム12・13の回転量に応じた斜面カム13の軸方向の変位によって、クラッチ部4のすべり量が設定されるのであるが、何れにしても、斜面カム13にはリターンばね7や圧縮ばね部8の弾性復元力が作用するため、斜面カム12とカム面を常に接触させながら回転および軸移動する。
【0021】
なお、この実施形態では、これら一対の斜面カム12・13のカム面に互いの最大回転角を制限するストッパ12b・13bを設けている。したがって、該ストッパにより斜面カム13・14は互いに最大回転角以降の回転について共回りさせることが可能である。
【0022】
そして、16はドラグ機構11の内側の斜面カム13を正逆に回転駆動させるドラグ調整用のモータ(特許請求の範囲に記載した第二モータに相当)であり、適宜、減速ギア16a・16bを介して接続している。
【0023】
続いて、前記モータ16を制御する構成を説明すると、先ず、17はスプール1の回転数を検出する回転数センサ、18はスプール1の駆動源である動力モータMの回転数を検出する回転数センサである。これら回転数センサ17・18は、磁石とホール素子の組合せからなる磁気センサによって構成することが外乱の影響を受けにくく、電源が不要であることから簡便であるが、その他、光学センサ、超音波センサによって回転数センサ17・18を構成することも可能である。そして、本実施形態では、スプール1の回転数センサ17をスプール1の動きに応じて釣糸の巻き位置を調整するレベルワインダー(図示せず)の駆動ギア19に設ける一方、動力モータMの回転数センサ18は動力モータMと伝達ギア4との間に配される減速ギア20に設けている。
【0024】
そして、図2に示すフィードバック回路の入力側には前記二つの回転数センサ17・18が、また出力側には前記ドラグ調整用のモータ16が接続される。このフィードバック回路は、本実施形態の場合、二つの回転数センサ17・18からの検出値を駆動ギア19や減速ギア20のギア比(減速比)で除算してスプール1と動力モータMの回転数を求め、さらに、それぞれの回転数の差に基づいてクラッチ部4のすべり率を演算する。さらに、この演算したすべり率を入力値として、予めユーザが任意に設定した目標値と比較したうえで、前記演算したすべり率が前記目標値を逸脱する場合には、目標値のすべり率ととなるようにドラグ調整用のモータ16を駆動して、実際のすべり率を補正する機能を有する。
【0025】
このようなすべり率の演算は、任意のタイミングで行うことができる。具体的には、動力モータMの回転数センサ18から5パルス分の信号が入力されるごとに演算する他、タイマによって一定時間(例えば、1秒)ごとに演算することもできる。
【0026】
さらに、すべり率を調整するためのモータ16の駆動時間についても任意に設定することができる。ただし、モータ16を連続して駆動させると、すべり率が急激に変化してスプール1の巻き上げ動作がばたついたり、モータ16や釣糸の負荷も急激に増大するおそれがあるため、すべり率を段階的に調整可能な寸動運転(インチング)とすることが好ましい。また、寸動運転の間隔も、モータ16の特性等を考慮して設定することが好ましく、例えば1秒間隔とすることができるが、この間隔に限定するものではない。さらに、クラッチ部4のすべり率が目標値を上回る場合と下回る場合とでは、ドラグ機構11の操作方向が異なるため、モータ16の回転方向も逆となるが、それぞれの回転方向でモータ16の駆動時間を変えることも可能である。具体的には、すべり率が目標値を上回ることからクラッチ部4を緩める方向(摩擦力を低減してすべり量を増加させる方向)にモータ16を駆動する場合は駆動時間を0.1秒、その反対にクラッチ部4を締める方向にモータ16を駆動する場合は駆動時間を0.2秒というように、特に、クラッチ部4を緩める方向についてはモータ16の駆動時間を短くすることが好ましい。
【0027】
一方、クラッチ部4のすべり率が目標値と一致する場合は、フィードバック回路はモータ16の駆動信号を出力せず、そのすべり率を維持する。なお、目標値は、0〜100%までユーザが任意に数値を選択して設定することができる。さらに、目標値の上下に数パーセントの許容誤差を持たせることも可能である。具体的には、10%ごとに目標値を設定可能とした場合は、図3に示すように、目標値の±7.5%の範囲を許容誤差の一例とすることができる。したがって、この一例では、ユーザがすべり率の目標値を50%と設定した場合、フィードバック回路で演算されるすべり率が42.5〜57.5%の範囲に収まるときはモータ16を制御せず、そのままのすべり率で巻き上げ動作を継続する一方、前記範囲を超えた場合は、すべり率が目標値の50%となるようにモータ16を制御する。
【0028】
ここまでの構成によって、ドラグレバー14を原点位置にして巻き上げ動作を行えばドラグの自動調整ができるのであるが、この自動調整をキャンセルして、ユーザがその都度、自身の判断でドラグ調整を行いたい場合がある。その方法としては、原点位置にあるドラグレバー14をドラグ締めの方向に操作して、従来どおり、ドラグを手動調整する方法がある。即ち、この場合、ドラグレバー14はフィードバック回路のモータ制御をオフにするスイッチ機能を有する。これと同時に、ドラグレバー14は再度原点位置にすることで、設定したすべり率の目標値を呼び出し、再びドラグの自動調整モードに復帰させる機能を有する。なお、ドラグレバー14の原点位置とは、外側の斜面カム12の回転角が例えば0度となる位置を例示できるが、一定角度であれば任意の回転角を原点位置とすることができる。
【0029】
この他に、ドラグレバー14が原点位置にあっても、ユーザが随意にモータ16を制御する割り込み方法がある。そこで、この方法を実現する構成を説明すると、フィードバック回路に優先してモータ16を駆動する割り込みスイッチ(ドラグ締め・緩めボタンなど、名称は変更されることがある)をリール本体に設けておく。即ち、この割り込みスイッチを押圧すれば、自動調整中であってもユーザが任意にモータ16を駆動してドラグを調整することができる。また、この間、ドラグレバー14およびその斜面カム12は一切回動せず、モータ16を接続した斜面カム13のみによってドラグが調整される。なお、割り込みスイッチによるモータ16の駆動制御は、当該スイッチを押圧操作している間、連続してモータ16を駆動させるような制御であってもよいが、そうするとドラグ力が急激に変更され、釣糸や動力モータ等に不用意な負荷がかかる恐れがあるため、クラッチオンオフなどの動作時以外は、やはりモータ16を間欠的に駆動する寸動運転とすることが好ましい。具体的には、割り込みスイッチを押すたびに、モータ16を所定時間あるいは一定角度だけ駆動させ、この押圧操作を繰り返すことによってドラグ力を段階的に高める構成とする。
【0030】
このように、割り込みスイッチを操作した場合も、ドラグの自動調整中にユーザが任意にドラグを調整することができるのであるが、この方法ではドラグレバー14が原点位置にあるにも拘わらず自動調整モード自体がキャンセルされるため、再度、自動調整モードに復帰させる機能を持たせることが好ましい。そのための制御構成としては、例えば、当初から設けられる自動巻き上げのオンオフスイッチを押圧操作して、一旦自動巻き上げを停止させ、再び自動巻き上げのオンオフスイッチを押圧操作して自動巻き上げを再開することで、自動調整モードに復帰させるという構成を採用することができるが、別途に専用の自動調整復帰スイッチを設けることも可能である。
【0031】
続いて、ユーザがドラグレバー14を操作して設定した初期ドラグ力(以下、ストライクポジションという)に復帰するための構成を説明すると、図4に示すように、ドラグ機構11の斜面カム12・13それぞれに角度センサ21・22を設ける。この角度センサ21・22は、斜面カム12・13の外周と噛合するギア21a・22aを枢支した回転軸の一端に斜面カム12・13の回転角を検出するセンサ部21b・22bを設けたものである。さらに、ドラグレバー14を設けた一方の斜面カム12の角度センサ21によって、最初にユーザがドラグレバーを手動操作してドラグ力を設定したときの当該斜面カム12の当初回転角を検出すると共に、この検出値をメモリに記憶しておく。当該構成によって、例えば、別途のレバー設定呼び出しスイッチを押せば、前記メモリから当初回転角を呼び出し、その角度分だけ上述した斜面カム12とは反対方向に斜面カム13をモータ16の駆動により回転させることによって、ドラグ力を前記ストライクポジションに復帰させることができる。つまり、ここまでの説明で明らかなように、ストライクポジションの自動復帰は、ドラグレバー14側の斜面カム12の回転角をメモリに記憶しておき、この数値をモータ16と接続した斜面カム13の回転角に置き換えて、実際はモータ16の駆動により斜面カム13を回転させて行うもので、斜面カム13側の角度センサ22は斜面カム13が所定の回転角まで回転したか否かを検出するために使用するものである。なお、ここでは、ストライクポジションの自動復帰の契機を、専用のレバー設定呼び出しスイッチの押圧によるものとしたが、これに限定されず、例えば、仕掛けの投入を所望の棚位置(水深)で停止させる棚停止機構を採用した場合は、仕掛けが指定の棚位置に到達したことを検知して、自動的にストライクポジションに復帰させるようにしてもよい。
【実施例】
【0032】
本発明のより具体的な実施例を図5にしたがって説明する。図5は本発明リールの外観図であり、30はフィードバック回路やその他の必要な処理を行う回路を内蔵した中央処理ユニット、31・32はこの中央処理ユニット30の上面に設けた上下2段の液晶表示部、33〜38は各種スイッチであって、このスイッチ群には従来からある電源スイッチや自動巻き上げスイッチ、クラッチオンオフスイッチ、棚位置記憶スイッチの他、上述した本発明特有の割り込みスイッチ(ドラグ締め・緩めボタン)、レバー設定呼び出しスイッチが含まれる。
【0033】
次に、本発明リールの自動調整モードにかかる処理フローの一例を説明すると、先ず、電源を投入し(S1)、この場合、自動調整モードスイッチとしても機能する割り込みスイッチを長押し(例えば2秒以上、押圧)する(S2)。すると、目標値の設定画面に移行すると共に、内部処理として最初にユーザがドラグレバー14やドラグツマミ15を操作して設定したドラグ力(ストライクポジション)をメモリに記憶する。具体的には、角度センサ21で検出したドラグレバー14側の斜面カム12の回転角を他方の斜面カム13の逆回転方向の回転角としてメモリに記憶する。そして、目標値の設定画面では、前記割り込みスイッチを押すごとにすべり率を0〜90%まで10%おきにA0〜A9として切替表示する。即ち、この実施例では割り込みスイッチを押すごとに目標のすべり率が高くなるが、表示の順は逆にすべり率が低くなる方向であってもよい。つまり、ユーザは自動調整を行う場合、割り込みスイッチを必要回数押して、対象の魚や使用する釣糸、釣り方に応じて、A0〜A9から任意のすべり率を選択する(S3)。
【0034】
なお、この実施例では、A9とA0の間に、目標のすべり率を設定せず、ストライクポジションのドラグ力を呼び出すAAを割り当てている。この設定AAでは、上記(S2)のステップで記憶した回転角をメモリから呼び出すと共に、モータ16を駆動して斜面カム13を回転させ、ドラグ力をストライクポジションまで移行する。そして、この設定AAでは、ユーザが割り込みスイッチを操作してモータ16を寸動運転させない限り、実釣時に継続してストライクポジションのドラグ力によって巻き上げが行われる。さらに、この実施例では、A9とA0の間にもう一つOFの表示を割り当てている。この設定OFを選択した場合は、棚停止機構など任意のドラグ力で停止させる場合を除き、ドラグの自動調整機能も、また、ストライクポジションの呼び出し機能も動作せず、専らドラグレバー14によってドラグ力を調整する釣り方となる。
【0035】
一方、A0〜A9から目標値を選択した場合、当該目標値はドラグレバー14を原点位置(斜面カム12を一定角度)に戻すことによって確定され、設定した目標値に基づいた自動調整モードに入る(S4)。そして、自動巻き上げスイッチを押すことによって(S5)、動力モータが駆動してスプールを巻き上げ方向に回転すると共に、この巻き上げ動作中に図1〜図4にしたがって説明した構成および制御によってすべり率を演算すると共に、モータ16を制御して、設定した目標値およびその許容範囲を基準としてクラッチ部4のすべり率を実際に必要な値に補正する。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明では、モータを制御してクラッチの接離を行うことができるので、釣糸の巻き上げ中に前記接離を繰り返すようにモータを制御することによって、イカ釣りなどで有効とされるシャクリ動作も可能である。
【符号の説明】
【0037】
H ハンドル
M 動力モータ
1 スプール
2 ドライブシャフト
4 クラッチ部
11 ドラグ機構
12・13 斜面カム
14 ドラグレバー
16 ドラグ調整用のモータ
17・18 回転数センサ
21・22 角度センサ
30 中央処理ユニット(フィードバック回路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータまたは/およびハンドルを駆動源としてスプールに釣糸の巻取り方向の回転力を伝達するクラッチのすべり量を設定可能なドラグ機構を備えた魚釣用リールにおいて、前記クラッチのすべり量を増減可能に前記ドラグ機構を操作する前記モータとは別の第二モータと、前記クラッチの駆動源側の任意位置およびスプール側の任意位置の回転数をそれぞれ検出する2つの回転数センサと、これら回転数センサの検出値から前記クラッチのすべり率を演算し、且つ、このすべり率が予め任意に設定された目標値の許容範囲内に収まるように前記第二モータを制御するフィードバック回路とを備えたことを特徴とする魚釣用リール。
【請求項2】
ドラグ機構はカム面が互いに凹凸係合可能な一対の斜面カムを備え、その一方にドラグレバーを設けると共に、他方の斜面カムに第二モータの回転力を付与する一方、フィードバック回路は前記ドラグレバー側の斜面カムの回転角が一定角度のとき前記第二モータの制御を行う請求項1記載の魚釣用リール。
【請求項3】
2つの斜面カムは、カム面に互いの最大回転角を制限するストッパを有する請求項2記載の魚釣用リール。
【請求項4】
フィードバック回路に優先して第二モータをクラッチのすべり量が増減する方向に駆動させる割り込みスイッチを備えた請求項1、2または3記載の魚釣用リール。
【請求項5】
ドラグレバーで設定された斜面カムの回転角を検出する角度センサと、この角度センサの検出値を他方の斜面カムの初期回転角として記憶するメモリとを備えた請求項2、3または4記載の魚釣用リール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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