説明

魚類由来抗体の製造方法

【課題】魚類由来抗体の製造方法、及び魚類由来抗体の力価を測定する方法の提供。
【解決手段】抗原を発現した大腸菌または酵母を魚類に経口投与する魚類由来抗体の製造方法。魚類がゼブラフィッシュである、魚類由来抗体の製造方法。抗原がGFPまたは380Rである、魚類由来抗体の製造方法。該製造方法により得られる魚類由来抗体。IgMである、魚類由来抗体。指標となる抗体の力価との比較によって、魚類由来抗体の力価を測定する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は魚類由来抗体の製造方法を提供することに関する。また、当該方法によって製造された魚類由来抗体及びその力価を測定する方法を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抗体はマウス、ラット、ウサギ、ヤギまたはウマなどの哺乳動物に抗原を投与して免疫を誘導したり、哺乳動物由来のハイブリドーマを用いたりすることによって製造されることが主であった。しかし、これらの哺乳動物を用いる抗体の製造方法においても、目的とする抗体が得られない場合や、十分な感度を有する抗体が得られない場合があり、より有効な抗体の製造方法の提供が望まれてきた。
【0003】
近年、タンパク質解析の新たなツールとして魚類が注目されている。魚類由来のタンパク質は、大腸菌やショウジョウバエ、線虫などの無脊椎動物由来のタンパク質と違い、糖鎖の付加などの修飾が同じ脊椎動物である哺乳動物と同様に行われるためである。
魚類は飼育が比較的容易であり、水温や給餌、日照時間、水質等によって産卵および採卵を制御できる。また、一度の産卵で多数の受精卵を得ることができるため、実験動物として多くの研究で用いられている。特にメダカやゼブラフィッシュのような小型魚類は、飼育スペースもコンパクトに収まることなどの物理的特性があり、飼育コストも低い等の利点もある。
【0004】
これまでに、魚類を用いて様々な研究がなされている。例えば、イリドウイルス感染症の診断を目的とする、イリドウイルス抗原液を診断用抗原とする受身凝集反応用試薬を調製し、イリドウイルス感染症の魚における血清の抗体価を調べる方法が開発されている(例えば、特許文献1参照)。また、魚類血清に脳細胞壊死ウイルスまたは当該ウイルスの外被蛋白質および標識2次抗体を反応させ、魚類血清中の抗脳細胞壊死ウイルス抗体に結合した標識量または非結合標識量を測定することによる、魚類の脳細胞壊死ウイルス感染診断法が開発されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、抗体の製造を目的として、魚類を用いるという例は知られていなかった。そこで本発明者らは、魚類を用いた新たな抗体の製造方法の提供に試みた。
【特許文献1】特許第3950500号公報
【特許文献2】特開平5−232115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は魚類由来抗体の製造方法を提供することを課題とする。また、当該方法によって製造された魚類由来抗体及びその力価を測定する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、抗原を発現した大腸菌または酵母を魚類に投与することで、魚類の免疫を誘導し、これによって魚類由来抗体が得られることを見出した。本発明の製造方法によって得られる抗体は抗原認識において十分な感度を有しており、実験試薬等として用いることができる。また、哺乳類を用いた製造方法では抗体が得られなかった場合でも、本発明の製造方法を抗体の製造方法において有用な方法の一つとして用いることができる。さらに本発明者らは、指標となる抗体の力価との比較によって、本発明の製造方法によって得られた魚類由来抗体の力価を測定する方法を見出した。この方法を用いることによって得られた魚類由来抗体を評価することができる。
【0007】
すなわち、本発明は次の(1)〜(13)に記載の魚類由来抗体の製造方法等に関する。
(1) 抗原を発現した大腸菌または酵母を魚類に投与する魚類由来抗体の製造方法。
(2) 抗原を発現した大腸菌または酵母を魚類に投与して免疫を誘導することによる魚類由来抗体の製造方法。
(3) 投与方法が経口投与である上記(1)または(2)に記載の魚類由来抗体の製造方法。
(4) 魚類がゼブラフィッシュである上記(1)〜(3)のいずれかに記載の魚類由来抗体の製造方法。
(5) 抗原がGFPまたは380Rである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の魚類由来抗体の製造方法。
(6) 上記(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法により得られる魚類由来抗体。
(7) IgMである上記(6)に記載の魚類由来抗体。
(8) 上記(6)または(7)に記載の魚類由来抗体を検出する方法。
(9) Ig重鎖抗体を用いる上記(8)に記載の魚類由来抗体を検出する方法。
(10) 次の1)及び2)の工程を含む上記(9)に記載の魚類由来抗体を検出する方法。
1)抗原を結合した不溶性担体と上記(6)または(7)に記載の魚類由来抗体(1次抗体)とを反応させる工程
2)上記(6)または(7)に記載の魚類由来抗体(1次抗体)とIg重鎖抗体(2次抗体)とを反応させる工程(11) さらに、Ig重鎖抗体に特異的な標識抗体(3次抗体)を反応させる工程を含む、上記(10)に記載の方法。
(12) 上記(6)または(7)に記載の魚類由来抗体の力価を測定する方法。
(13) 指標となる抗体の力価との比較により、上記(6)または(7)に記載の魚類由来抗体の力価を測定する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、魚類由来抗体の製造が可能となった。本発明の製造方法によって得られる抗体は抗原の認識において十分な感度を有しており有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の「魚類由来抗体の製造方法」とは、魚類に抗原を発現した大腸菌または酵母を投与することで免疫を誘導し、当該魚類の体内に抗体を製造させることをいう。さらに、製造された抗体を精製することも含む。
抗原を発現した大腸菌または酵母の投与は、魚類に抗体を製造させることができる方法であればいずれの方法も用いる事ができ、例えば、魚類が存在する水中に投与する方法、魚類に直接投与する方法等を用いることができる。特に魚類が存在する水中に投与する方法によって、魚類に経口投与することが特に好ましい。
【0010】
本発明の「魚類由来抗体の製造方法」に用いる魚類としては、魚類由来抗体を製造できる魚類であればいずれの魚類も用いることができ、硬骨魚類の全ても用いることができる。例えば、メダカ、ゼブラフィッシュ等が挙げられる。また血液量が多く、抗体生産量が多い魚種であるコイ、テラピア、ナマズ、サケ、マス、マダイ、ヘダイ、サバ、アジ、マグロ、ブリ、フグ等も挙げられる。
【0011】
本発明の「魚類由来抗体」とは、抗原を発現した大腸菌または酵母を魚類に投与することで得られる、魚類を由来とする抗体のことをいい、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を含む。抗原を投与した魚類の組織や血液から回収されたものをそのまま抗体とすることもできるし、これを精製したものを抗体とすることもできる。本発明の抗体には、魚類が産生し得る全ての免疫グロブリンが含まれるが、特にIgMであることが好ましい。
本発明によって得られる「魚類由来抗体」は、目的に応じて利用することができ、例えば、試験・研究用の試薬や、抗体治療用の医薬品の有効成分等として用いることもできる。また、魚類とヒトの種が大きく離れていることから、本発明の「魚類由来抗体」は、ヒトの疾病に対する治療薬として有効である可能性が高く、ガンなどの分子標的医薬品となる抗体医薬として用いることができる。
【0012】
本発明の「抗原」には、魚類由来抗体を製造することを目的とする全ての抗原を用いる事ができ、任意のペプチド、タンパク質等の物質が含まれる。
魚類由来抗体を製造することを目的とする抗原としては、例えば、緑色蛍光タンパク質GFPやイリドウイルス感染防御抗原タンパク質である380R(以下、380Rとする)等が挙げられる。
【0013】
本発明の「抗原を発現した大腸菌」または「抗原を発現した酵母」には、魚類由来抗体を製造することを目的とする抗原を発現している大腸菌または酵母が該当し、遺伝子工学的手法によって作製される形質転換体も含まれる。
これらの「抗原を発現した大腸菌」または「抗原を発現した酵母」は、目的に応じて利用することができ、例えば魚類の病気に対するワクチンとして用いることもできる。
【0014】
本発明の「魚類由来抗体を検出する方法」は、魚類由来抗体を検出する方法であればいずれの方法も用いることができる。例えば、魚類に製造させた魚類由来抗体を回収し、抗原を結合させたメンブレンや不溶性担体に1次抗体として反応させる、いわゆるウェスタンブロッティング法、Dot Blot法やELISA法等を用いることができる。この場合、この1次抗体に反応し得る「Ig重鎖抗体」を2次抗体として用いることが好ましい。また、さらにこの2次抗体に反応し得る「Ig重鎖抗体に特異的な標識抗体」を3次抗体として用いることが好ましい。
【0015】
本発明の「Ig重鎖抗体」(2次抗体)とは、免疫グロブリンのIg重鎖に結合し得る抗体のことをいう。免疫グロブリンのIg重鎖に結合できることから、任意の抗原に対して魚類体内で産生された「魚類由来抗体」のいずれにも結合し得る。
例えば、「魚類由来抗体」がIgMである場合には、IgMのIg重鎖またはその一部に特異的に結合し得る抗体であることが好ましく、特にIg重鎖の定常領域に結合する抗体であることが好ましい。さらにIg重鎖のうち、特に保存された領域に特異的に結合し得る抗体であることが好ましい。例えば本実施例において得たゼブラフィッシュsIg重鎖中のDomainIVに特異的に結合し得る抗体は、ゼブラフィッシュのみならず、少なくとも同じコイ科の魚のIgMが検出できる可能性がある。また、マダイなどの他の魚種においても、上記と同様の原理で特異的抗体を検出できる。
なお、このIg重鎖抗体は、蛍光物質等で標識したものも用いることができ、この標識により、「対象とする抗原に特異的な抗体」の産生の有無や、産生量を定量的に検出することができる。
【0016】
本発明の「Ig重鎖抗体に特異的な標識抗体」(3次抗体)とは、蛍光物質、放射性物質、酵素等の物質で標識された、Ig重鎖抗体に結合し得る抗体のことをいう。標識されていない「Ig重鎖抗体」(2次抗体)を用いる場合には、「魚類由来抗体」の産生の有無や、産生量を定量的に検出するために、この抗体を用いることが好ましい。Ig重鎖抗体に結合し得る抗体であればいずれの抗体も用いることができ、市販の抗体を用いることもできる。
本実施例では、標識物質として発色基質DAB(3,3’−Diaminobenzidine tetrahydrochloride)を結合した抗ウサギーヤギ抗体(Goat Anti Rabbit Ig’s,HRP;BIOSOURCE)を用いたが、その他の標識物質を結合した抗体を用いることができる。また、「Ig重鎖抗体」(2次抗体)の作成においてウサギ以外の動物を用いた場合には、その動物に対して抗原性を有する抗体を用いることもできる。
【0017】
本発明の「魚類由来抗体の力価を測定する方法」とは、指標となる抗体の力価との比較によって、本発明の製造方法によって得られた魚類由来抗体の力価を測定することをいう。指標となる抗体としては、同一の抗原を対象とする、力価が知られている全ての抗体を用いる事ができる。例えば、哺乳類由来の抗体を用いる事ができる。
以下、本発明の詳細を実施例等で説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
<抗原を発現した大腸菌を投与する魚類由来抗体の製造>
1.抗原を発現した大腸菌の作製
1)EGFP塩基配列のサブクローニング
プラスミドpZex−EGFP(図1、特開2007−143497参照)46.5μlとBamHI0.5μl、SacI0.5μl、10×K buffer2.5μlとを混合し、37℃で一晩インキュベートすることで制限酵素処理した。
制限酵素処理後、1.0%アガロースTAEゲルで135V、25分間電気泳動し、DNA断片をゲルから切り出した後、Wizard SV Gel and PCR Clean−Up(Promega)を用いて精製した。
精製した上記DNA断片をtemplateとして、PrimeSTARTM HS DNA Polymeraseを用いたPCRを行い、得られた増幅断片を1.0%アガロースゲル中で135V、25分間電気泳動を行った。PCR反応は、PCR反応液(PrimeSTARTM HS DNA Polymerase 0.05μl、5×PS Buffer 2μl、dNTP 1μl、Primer F(配列表配列番号1) 0.5μl、Primer R(配列表配列番号2) 0.5μL、dHO 4.95μl)を混合し、86℃ 5分を1サイクル、94℃ 10秒、50℃ 5秒 72℃ 1分を30サイクルの条件で行った。
【0019】
2)EGFP発現用プラスミドベクターの構築
上記1.1)で精製したDNA増幅断片44μlとNdeI0.5μl、XhoI0.5μl、10×H buffer5μlとを混合し、37℃で1晩インキュベートすることで制限酵素処理をした。
pCold TF DNAベクター(TaKaRa)を同様に制限酵素処理した後、1.0%アガロースTAEゲルで135V、25分間電気泳動を行い、DNA断片をゲルから切り出した後、Wizard SV Gel and PCR Clean−Up(Promega)を用いて精製した。更にCIAP(Calf Intestine Alkaline Phosphatase)により脱リン酸化処理を行った後、再度精製した。
精製した上記断片を用いて、TaKaRa Ligation Kit(TaKaRa)によるライゲーション反応を行い、大腸菌(Escherichia coli)XLI−Blueに対して形質転換を行った。
【0020】
形質転換した大腸菌をLB/アンピシリン(最終濃度50μg/ml)を含む寒天平板培地に塗抹後、37℃で1晩インキュベートした。得られた形質転換体を用いて、Blend taq polymerase(TaKaRa)を用いてダイレクトPCR法によりコロニーPCRを行った。
ダイレクトPCR反応は、PCR反応液(Blend taq DNA Polymerase 0.05μl、10×Blend taq Buffer 1μl、dNTP 1μl、Primer F(配列表配列番号3) 0.5μl、Primer R(配列表配列番号4) 0.5μL、dHO 6.95μl)を混合し、大腸菌のシングルコロニーを懸濁した後、86℃ 5分を1サイクル、94℃ 10秒、53℃ 30秒 72℃ 1分を30サイクルの条件で行った。
コロニーPCRによりインサート配列の存在が確認されたクローンのみを5mlLB/アンピシリン(50μg/ml)を含む液体培地に接種して37℃で16時間振とう培養し、その培養液からQIAprep spin Miniprepを用いてプラスミド抽出を行った。
【0021】
3)DNAシーケンスによる遺伝子配列の確認
上記1.2)で抽出したプラスミドを用いて、PCR増幅されたインサート断片の塩基配列を決定した。DNAシーケンス反応はDTSQ Quick Start kit(Beckman)を用いてジデオキシ法で行った。また、DNAシーケンス反応には配列表配列番号3および4のプライマー(pCold TF F1プライマー、pCold TF Rプライマー)を用いて行った。
【0022】
4)大腸菌によるEGFPの発現確認
上記1.2)で構築し、上記1.3)で遺伝子配列の確認を行ったEGFPの遺伝子配列を含むプラスミドベクター1μlを大腸菌(Escherichia coli)BL21(DE3)に形質転換し、LB/アンピシリン(50μg/ml)を含む平板培地にコンラージ棒を用いて塗抹し、37℃で1晩インキュベートした。大腸菌コロニーをピックアップし、5ml LB/アンピシリン(100μg/ml)液体培地に接種して37℃で12時間振とう培養してこれを前培養とし、この一部をフリーズストックにした。
前培養液400μlを400mlのLB/アンピシリン(50μg/ml)を含む液体培地に加え、O.D.600=0.5前後になるまで37℃で振とう培養した。その後4℃で30分間インキュベートし、それぞれの400ml液体培地に対して1M IPTGを最終濃度0.4mMとなるように加えて15℃で24時間振とう培養した。
培養した大腸菌液を5μl採取し、正立型蛍光顕微鏡(NIKON)を用いて観察した。また、残りの大腸菌培養液を6,000rpmで15分間遠心分離して集菌し、集菌したペレットの重量を測定し、抗原を発現した大腸菌として用いた。
【0023】
2.魚類由来抗体の製造
1)成魚ゼブラフィッシュの選定
魚類由来抗体を免疫する魚類として、ゼブラフィッシュ(株式会社名東水圏)を用いた。ゼブラフィッシュを水温28℃、明期14時間/暗期10時間で6ヶ月〜1年間飼育した後、雌雄の区分をつけて10匹ずつ、計20匹を任意に選んだ。
【0024】
2)抗原を発現した大腸菌の経口投与
上記1.で作製した抗原を発現した大腸菌をゼブラフィッシュに曝露することで、経口投与した。即ち、上記1.の抗原を発現した大腸菌のペレットを最終濃度が500μg/mlとなるように溶かした飼育水に、ゼブラフィッシュ20匹を移して30分間放置することで曝露を行った。その後、曝露後のゼブラフィッシュは清浄な飼育水に移して飼育した。14日後、同様に曝露を行った。
【0025】
3)血清および心臓、脾臓の採取
上記2.2)により曝露を行った5日後若しくは10日後のゼブラフィッシュから血液と心臓、脾臓を採取した。
採取した血液は2300rpmで5分間遠心分離し、血ぺいを除き、血清のみを採取した。心臓と脾臓は、それぞれ1.5mlエッペンチューブに入れ、50%グリセロール−リン酸バッファー(終濃度10mM)を100μl添加してホモジェナイズした。その後1000×gで5分間遠心分離し、その上澄液を両臓器のIgM抽出溶液とした。このIgM抽出液をそれぞれCanGet Signal(TOYOBO)のsolution1で希釈した。希釈後の血清におけるタンパク濃度は50.4μg/mlで心臓のそれは147.0μg/ml、脾臓のそれは80.0μg/mlであった。
【0026】
4)EGFP濃度の測定
上記1.で作製した抗原(EGFP)を大腸菌から精製し、EGFPの蛋白質濃度を測定した。
【実施例2】
【0027】
<魚類由来抗体を検出する方法>
Dot blot法により、ゼブラフィッシュ抗GFP抗体を検出した。
1.タンパク質溶液の滴下とブロッキング
実施例1、2.4)で濃度を測定したEGFP溶液の原液(473.0μg/ml)を用い、その希釈液(236.5μg/ml、47.3μg/ml、9.5μg/ml、4.7μg/ml、1.0μg/ml)およびネガティブコントロールとして原液と同濃度のBSA溶液の7サンプルを調製した。それぞれのサンプルを1μl取り出し、CELLULOSE NITRATE(ADVANTEC)上に滴下し、室温で十分乾燥させた後、0.5%スキムミルク/PBSに浸し、1時間室温でゆっくり振とうした。
【0028】
2.抗原抗体反応
上記1.でブロッキングしたCELLULOSE NITRATE(ADVANTEC)を0.1%Tween20/PBSに浸し、5分間ゆっくり振とうしながら洗浄を行った。洗浄を5回繰り返し、1次抗体に実施例1、2.3)で調製した血清や心臓、脾臓のIgM抽出溶液を用いて抗原抗体反応を行った。次に、2次抗体として、本発明者らがIgM重鎖タンパク質溶液をウサギに免疫して作成したAnti Zebrafish Igμ−Rabbit antibody(特願2006−73125)を、3次抗体にAnti Rabbit−Goat antibody−HRP conjugates(BIOSOURCE)を用いて抗原抗体反応を行った。各抗体の洗浄には同膜を0.1%Tween20/PBSに浸し、5分間ゆっくり振とうすることで行い、各5回洗浄を繰り返した。
【0029】
3.発色反応
3次抗体が結合したCELLULOSE NITRATE(ADVANTEC)を0.1%Tween20/PBSに浸し、5分間ゆっくり振とうして洗浄した。洗浄を5回繰り返した後、DAB(DOJINDO社)を0.3%H/PBSに溶かし、それを3次抗体の結合したCELLULOSE NITRATE(ADVANTEC)に添加して発色を観察することで、シグナルを検出した。
【0030】
4.結果
Dot blot法の結果、血清、心臓および脾臓のいずれの抽出液においても抗原抗体反応が確認された。従って、抗原を発現した大腸菌を魚類に投与することで、魚類由来抗体が得られることが確認された(図2)。
【実施例3】
【0031】
<魚類由来抗体の力価の測定>
魚類由来抗体の力価をDot blot法によって測定した。
1.検量線の作図
1次抗体にAnti GFP−Rabbit IgG polyclonal antibody(最終濃度:0.5μg/ml、フナコシ)、2次抗体にAnti Rabbit−Goat antibody−HRP conjugates(BIOSOURCE)を用いて、実施例1、3.と同様の方法でDot blot法を行った。
検出したそれぞれのシグナル(図3)をScion Image ソフトウェア(Scion Corporation)を用いて数値化した(表1)。y軸に数値化した色の濃淡をx軸にGFP濃度をとり、グラフ化して近似曲線を得た(図4)。次に両軸の逆数をとり、Lineweaver−Burk plotにより抗原量を変化させた場合のそれに対する市販の抗GFP抗体の反応度を解析した。その結果、K値およびVmaxはそれぞれ8.01μg/ml、144.93であり、これを与える数式はy=0.0553x+0.0069であった(図5)。
【0032】
【表1】

【0033】
2.抗体力価の評価
実施例1、3.3)で検出したシグナルをScion Image ソフトウェア(Scion Corporation)を用いて数値化したEGFP濃度を47.3μg/mlに調製した時に得られるシグナルが検出できる限界だったので、この濃度のシグナルを用いたところ、血清、脾臓、心臓の各臓器のシグナルはそれぞれ38.22、62.95、40.62であった。
これらの値を上記1)で作図した検量線に代入し、各臓器における抗GFP抗体の力価を算出した。それぞれのタンパク質濃度を0.5μg/mlに換算して、市販の抗GFP抗体(Rabbit anti−GFP IgG polyclonal antibody、ABR)がメーカー推奨濃度の0.5μg/mlである時の抗体力価を1とすると、それぞれの抗体力価は血清が2.85×10−2、脾臓が3.85×10−2、心臓は1.06×10−2であった。
【実施例4】
【0034】
<抗原を発現した酵母を投与する魚類由来抗体の製造>
1.抗原を発現した酵母の作製
京都大学農学研究科応用生命科学専攻生体高分子化学研究室の植田充美教授に作製いただいた380R表層発現酵母と380R内部発現酵母(参考文献参照)を、抗原を発現した酵母として用いた。またコントロールとして、未発現酵母を使用した。
これらの酵母は前培養として5mlSD+W0.5%カザミノ酸培地にシングルコロニーの酵母を植菌し、24時間30℃で振倒培養した。次に本培養として500ml容の坂口フラスコに150mlのSD+W0.5%カザミノ酸培地を調製し、その中に前培養液1mlを加えて30℃で30時間振倒培養を行った後、6,000rpm20分間遠心して得られた酵母のペレット重量を測定した。
参考文献:A.Kondo.M.Ueda.Yeast cell−surface display−applications of molecular display.Appl.Microbiol. Biotechnol.(2004) 64:28−40.
【0035】
2.魚類由来抗体の製造
1)成魚ゼブラフィッシュの選定
魚類由来抗体を免疫する魚類として、ゼブラフィッシュ(株式会社名東水圏)を用いた。ゼブラフィッシュを水温27.5℃、明期14時間/暗期10時間で飼育した後、幅60cm、奥行き30cm、高さ30cmの水槽に20Lの環境水をはり、1試験区に50尾で6試験区となるように6個の水槽で飼育した。
【0036】
2)抗原を発現した酵母の経口投与
上記1.で作成した抗原を発現した酵母(380R表層発現酵母、380R内部発現酵母)およびコントロールの酵母(380R未発現酵母)を抗原として、それぞれ500μg/mlとなるように溶かした飼育水10Lを作製し、ゼブラフィッシュを移して30分間放置することで曝露を行った。曝露は100匹ごとに行い、曝露後50匹ごとを2つに無作為に振り分けて清浄な飼育水に移して飼育した。15日後、同様に曝露を行った。
【0037】
3)血液の採取
上記2.2)により曝露を行った5日後若しくは10日後のゼブラフィッシュから、380R表層発現酵母、380R内部発現酵母および380R未発現酵母の3種類の抗原における3試験区で、それぞれ50尾ごとに血液を採取した。
採取した血液はそれぞれ1.5mlチューブに入れておいた500μlの結合バッファー(20mM NaHPOと20mM NaHPOを混合してpH7.0に調整)内に流入した。1つのチューブに5尾ずつ血液を回収し、これを試験区ごとに統一することにより、1試験区5mlのゼブラフィッシュ血液溶出バッファーを得た。
【0038】
4)ゼブラフィッシュ血液中からの魚類由来抗体の精製
Hi Trap Protein A HP Columns(QIAGEN)を用いて、回収したゼブラフィッシュ血液溶液から380Rに特異的な魚類由来抗体の精製をおこなった。その後、精製液を5kDa限外ろ過フィルターAmicon Ultra(MILLIPORE)を用いて1ml〜1.5mlにまで濃縮し、15mlのリン酸バッファー(pH7.4)で懸濁した。再び5kDa限外ろ過フィルターAmicon Ultraを用いて1ml〜1.5mlにまで濃縮し、その後、タンパク質量をBio−Rad Protein Assey(Bio−Rad)を用いてBrad ford法にて測定した。
【0039】
3.魚類由来抗体の検出
プルダウンアッセイにより、ゼブラフィッシュ抗380R抗体を検出した。
1)特異的抗体の吸着
試験区ごとに、380Rタンパク質3μl(780mg/ml)とリン酸バッファー(pH7.4)500μl、Ni−NTA(QIAGEN)15μlを加え、4℃で2時間振倒混合をおこなった。その後、試験区ごとに精製液を100μlずつ加えて4℃で12時間振倒混合した。
【0040】
2)結合タンパク質の精製
上記3.1)で吸着させたサンプルを4℃で3,000rpm10分間遠心分離し、ペレット状になったビーズ(以下、ビーズペレットとする)を吸わずに上澄みを除去し、そこにリン酸バッファー(pH7.4)を1000μl加えてビーズペレットを懸濁し、4℃、4,000rpm、10分間遠心分離した。次に再びできたビーズペレットを20mMイミダゾール・リン酸バッファー(pH7.4)300μlを加えて懸濁し、4℃、4000rpm、10min遠心分離し、ビーズペレットを吸わずに上澄みを除去した。最後にでき上がったビーズペレットを500mMイミダゾール・リン酸バッファー(pH7.4)30μlで懸濁し、4℃、4000rpm、10min遠心分離して上澄みを回収し、これを380R−ゼブラフィッシュIg結合プルダウン精製液とした。
【0041】
3)380R合成タンパク質、ゼブラフィッシュIgの検出
380R−ゼブラフィッシュIg結合プルダウン精製液をCELLULOSE NITRATEにスポットし、抗His tag抗体(Amersham)および本発明者らがIgM重鎖タンパク質溶液をウサギに免疫して作成したAnti Zebrafish Igμ−Rabbit antibody(特願2006−73125)を用いてのウェスタンブロッティングをおこなった。
【0042】
4)結果
プルダウンアッセイの結果、血液中に抗原抗体反応が確認された。図6に示すように、3試験区ともHis tag融合380Rタンパク質を検出することができたが、ゼブラフィッシュ抗380R抗体は380R表層発現酵母曝露区、380R内部発現酵母曝露区では検出できたものの、380R未発現酵母曝露区では検出されなかった。従って、抗原を発現した酵母を魚類に投与することで、魚類由来抗体が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の製造方法および抗体の力価を測定する方法によって、力価が確認された魚類由来抗体を得ることが可能となった。本発明で得られる抗体は抗原認識において十分な感度を有していることから、実験試薬等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】プラスミドpZex−EGFPを示した図である(実施例1)。
【図2】ゼブラフィッシュ抗GFP抗体の製造を確認した図である(実施例2)。
【図3】Dot blot法によって検出されたGFPのシグナルを示した図である(実施例3)。
【図4】数値化したシグナルを近似曲線で示した図である(実施例3)。
【図5】数値化したシグナルからLineweaver−Burk plot解析を行った図である(実施例3)。
【図6】ゼブラフィッシュ抗380R抗体の製造を確認した図である(実施例4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原を発現した大腸菌または酵母を魚類に投与する魚類由来抗体の製造方法。
【請求項2】
抗原を発現した大腸菌または酵母を魚類に投与して免疫を誘導することによる魚類由来抗体の製造方法。
【請求項3】
投与方法が経口投与である請求項1または2に記載の魚類由来抗体の製造方法。
【請求項4】
魚類がゼブラフィッシュである請求項1〜3のいずれかに記載の魚類由来抗体の製造方法。
【請求項5】
抗原がGFPまたは380Rである請求項1〜4のいずれかに記載の魚類由来抗体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により得られる魚類由来抗体。
【請求項7】
IgMである請求項6に記載の魚類由来抗体。
【請求項8】
請求項6または7に記載の魚類由来抗体を検出する方法。
【請求項9】
Ig重鎖抗体を用いる請求項8に記載の魚類由来抗体を検出する方法。
【請求項10】
次の1)及び2)の工程を含む請求項9に記載の魚類由来抗体を検出する方法。
1)抗原を結合した不溶性担体と請求項6または7に記載の魚類由来抗体(1次抗体)とを反応させる工程
2)請求項6または7に記載の魚類由来抗体(1次抗体)とIg重鎖抗体(2次抗体)とを反応させる工程
【請求項11】
さらに、Ig重鎖抗体に特異的な標識抗体(3次抗体)を反応させる工程を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項6または7に記載の魚類由来抗体の力価を測定する方法。
【請求項13】
指標となる抗体の力価との比較により、請求項6または7に記載の魚類由来抗体の力価を測定する方法。



【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−73783(P2009−73783A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245677(P2007−245677)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第59回(平成19年度)日本生物工学会大会 講演要旨集(平成19年8月2日 社団法人日本生物工学会 発行)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】