説明

鳥インフルエンザウイルス不活化剤、鳥インフルエンザウイルス不活化剤の製造方法及び鳥インフルエンザウイルス不活化スプレー剤

【課題】GSEの鳥インフルエンザウイルスに対する不活化効果を明らかにする。
【解決手段】グレープフルーツ種子抽出液(以下、GSEと略す。)を水に溶かし、フィチン酸を加えた上で、醸造用アルコールを加えてなるウイルス不活化剤であって、鳥インフルエンザウイルスに対して不活化効果を有する。GSEが0.08W/W %、フィチン酸が0.05W/W %、醸造用アルコールが58.8W/W %、残りが水とする。ペーハー(pH)が5.8ないし6.4となるように調整される。本発明に係るウイルス不活化剤の製造方法は、GSEを水に溶かし、フィチン酸を加えて乳化し、95度の醸造用アルコールを加えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鳥インフルエンザウイルスに噴霧して用いる鳥インフルエンザウイルス不活化剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グレープフルーツ種子抽出液(grapefruit seed extract:GSE)は、天然の食品添加物であり、1976年に殺菌効果が確かめられて以来、大腸菌O157、サルモネラ、腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌など、多くのグラム陽性菌、グラム陰性菌、カビ属に対する不活化効果が明らかにされてきた。
【0003】
しかしながら、ウイルスに対する効果は十分に明かされてはいなかった。
【0004】
特許文献1には、鳥インフルエンザウイルス不活化剤が開示されている。溶媒にヨウ素とシクロデキストリンとが溶解した、鳥インフルエンザウイルス不活化剤である。
【0005】
特許文献2には、ネコカリシウイルス不活化剤が開示されている。GSEを水に溶かし、フィチン酸を加えた上で、醸造用アルコールを加えてなるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−328039号公報
【特許文献2】特許第4126068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、GSEの鳥インフルエンザウイルスに対する不活化効果を明らかにし、鳥インフルエンザウイルスの不活化に適切な鳥インフルエンザウイルス不活化剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、本発明に係る鳥インフルエンザウイルス不活化剤は、スプレーボトルに収納して、食品の製造ライン全般、調理器具、洗浄後の手や指、生ゴミ、家禽舎、飼料、家禽の排泄物に噴霧して用いる鳥インフルエンザウイルス不活化剤であって、グレープフルーツ種子抽出液(GSE)を水に溶かし、フィチン酸を加えた上で、醸造用アルコールを加えて、GSEが0.07ないし0.09W/W %、フィチン酸が0.04ないし0.06W/W %、醸造用アルコールが58ないし59.9W/W %、残りが水となるように調整され、鳥インフルエンザウイルスを噴霧後10秒以内に不活化するものである。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の鳥インフルエンザウイルス不活化剤であって、GSEが0.08W/W %、フィチン酸が0.05W/W %、醸造用アルコールが58.8W/W %、残りが水となるように調整されたものである。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2のいずれか一に記載の鳥インフルエンザウイルス不活化剤であって、ペーハー(pH)が5.8ないし6.4であるものである。
【0011】
請求項4に記載の発明は、鳥インフルエンザウイルスを噴霧後10秒以内に不活化する鳥インフルエンザウイルス不活化剤の製造方法であって、GSEを水に溶かし、フィチン酸を加えて乳化し、95度の醸造用アルコールを加えて、GSEが0.07ないし0.09W/W %、フィチン酸が0.04ないし0.06W/W %、醸造用アルコールが58ないし59.9W/W %、残りが水となるように調整することを特徴とするものである。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の鳥インフルエンザウイルス不活化剤の製造方法であって、GSEが0.08W/W %、フィチン酸が0.05W/W %、醸造用アルコールが58.8W/W %、残りが水となるように調整することを特徴とするものである。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5のいずれか一に記載の鳥インフルエンザウイルス不活化剤の製造方法であって、ペーハー(pH)が5.8ないし6.4であるように調整することを特徴とするものである。
【0014】
請求項7に記載の発明は、GSEを水に溶かし、フィチン酸を加えた上で、醸造用アルコールを加えて、GSEが0.07ないし0.09W/W %、フィチン酸が0.04ないし0.06W/W %、醸造用アルコールが58ないし59.9W/W %、残りが水として調整され、鳥インフルエンザウイルスを噴霧後10秒以内に不活化する鳥インフルエンザウイルス不活化剤をスプレーボトルに収納してなる鳥インフルエンザウイルス不活化スプレー剤である。
【0015】
請求項8に記載の発明は、GSEを水に溶かし、フィチン酸を加えた上で、醸造用アルコールを加えて、GSEが0.08W/W %、フィチン酸が0.05W/W %、醸造用アルコールが58.8W/W %、残りが水として調整され、鳥インフルエンザウイルスを噴霧後10秒以内に不活化する鳥インフルエンザウイルス不活化剤をスプレーボトルに収納してなる鳥インフルエンザウイルス不活化スプレー剤である。
【発明の効果】
【0016】
鳥インフルエンザウイルスについて不活化効果がある。すなわち、10秒という短い時間で鳥インフルエンザウイルスをこわし、ウイルスのない状態を長く保つ抗菌効果を有する。
【0017】
実験に用いたウイルスはH5N3であるが、H5N3と同じA型インフルエンザウイルスであり、HAのサブタイプもH5と同じであるH5N1も性状の似たウイルスであるので、H5N1に対しても不活化効果があるものと思われる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】試験報告書第1ページ。
【図2】試験報告書第2ページ。
【図3】試験報告書第3ページ。
【図4】追加試験報告(作用時間の検討)第1ページ
【図5】追加試験報告(作用時間の検討)第2ページ
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の発明者が属する株式会社ドゥリーム・ドゥは、除菌剤として、「スーパードリームF1」という商品を開発した。以下、スーパードリームF1(「スーパードリームF1」は、株式会社ドゥリーム・ドゥの商標)を必要に応じて「SD−F1」と記載する。この「SD−F1」の大腸菌などに対する効果は当初から知られていたが、このたび、鳥インフルエンザウイルスに対する効果を調べるべく、広島大学大学院医歯薬学総合研究科ウイルス学研究室(坂口剛正教授)に試験を依頼した。そして、鳥インフルエンザウイルスに対する不活化効果の報告を得た。本発明は、その新しい知見によるものである。
【0020】
まず、SD−F1であるが、GSEを水に溶かし、フィチン酸を加えた上で、醸造用アルコールを加えてなる除菌液である。GSEが0.07ないし0.09W/W %、フィチン酸が0.04ないし0.06W/W %、醸造用アルコールが58ないし59.9W/W %、残りが水である。特に、GSEが0.08W/W %、フィチン酸が0.05W/W %、醸造用アルコールが58.8W/W %、残りが水とするように調整する。また、ペーハー(pH)が5.8ないし6.2となるように調整されることが望ましい。SD−F1の製造方法は、GSEを水に溶かし、フィチン酸を加えて乳化し、95度の醸造用アルコールを加えてなる。GSEが0.07ないし0.09W/W %、フィチン酸が0.04ないし0.06W/W %、醸造用アルコールが58ないし59.9W/W %、残りが水であるように調整する。特に、GSEが0.08W/W %、フィチン酸が0.05W/W %、醸造用アルコールが58.8W/W %、残りが水であるように調整することが望ましい。さらに、ペーハー(pH)が5.8ないし6.4であるように調整する。なお、本明細書において、W/W %は、重量パーセントを意味する。
【0021】
このSD−F1の鳥インフルエンザウイルスに対する不活化効果を知るために、H5N1株を直接調べるのが望ましいが、実験が大変難しいという事情があるため、その代替ウイルスであるH5N3株を用いた。同じA型インフルエンザウイルスであること、HAのサブタイプもH5で同じであることから性状がかなり似ており、H5N3での不活化が実証されれば、H5N1への効果も同様に期待できるからである。
【0022】
鳥インフルエンザウイルスは、鳥由来インフルエンザウイルスA/swan/Shimane/499/83(H5N3)を用いた。ウイルスの増殖および感染価の測定にはMDCK(+)細胞(Noma et al., Arch Virol 143:1893-1909, 1998)を用いた。被検材料はSD−F1(0.08% GSE、58.8% 醸造用アルコール、0.05% フィチン酸)および58.8% 醸造用アルコールを用い、対照としてリン酸緩衝生理食塩水(Dulbecco's phosphate-buffered saline (PBS))を用いた。
【0023】
ウイルス原液(感染鶏卵しょう尿液)をあらかじめPBSで5倍に稀釈した。稀釈ウイルス液と被検材料を等量ずつ(各35μL)混和して、室温で10分間反応させたのち、20μg/mlトリプシン添加DMEM(Dulbecco's modified Eagle's minimum essential medium)で10倍段階稀釈して反応を止め、さらに同液で10倍段階稀釈列を調整した。稀釈したウイルス液を96穴プレートの単層MDCK(+)細胞に接種し(100μL/well)、培養した。4日後以降(約6日間)にウイルスによる細胞変性(CPE)が十分に広がったところで固定・染色し、Behrens-Kaerber 法を用いて50%感染量(単位:50% tissue culture infectious dose [TCID50])を算出し、ウイルス感染価を計算した。本試験は2回行って平均値を求めた。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
表1は、SD−F1、エタノール、PBSそれぞれについて残存感染価を算出した値と、パーセンテージを記載したものである。値は実験2回の平均値である。表1をグラフにしたものを表2に示す。図1から図3までは広島大学大学院医歯薬学総合研究科ウイルス学研究室坂口剛正教授の3枚に亘る報告書である。第1ページにおける電話番号、メールアドレスは、問い合わせ殺到などの迷惑がかかるおそれがあるためにマスキングして載せてある。
【0027】
[結果と考察] SD−F1は3.3×106TCID50の鳥インフルエンザウイルスH5N3を10分以内に完全に不活化した。99.99パーセント以上、不活化し、この方法では残存ウイルスを検出できなかった(残存ウイルスは0.01%未満であり、この方法における検出限度以下であった。
一方、58.8%エタノールのみでは10分間で99.5%不活化した。
SD−F1は鳥インフルエンザウイルスの感染防止に有用であることが示唆された。
【実施例1】
【0028】
本発明に係る鳥インフルエンザウイルス不活化剤は、例えば、1トンごとに製造できる。そして、製造直後に、使いやすい容量のスプレーボトル(液体を霧状にして噴霧する霧吹きがついたボトル)に収納してさまざまな鳥インフルエンザウイルス不活化を必要とする場面で用いることができる。
【実施例2】
【0029】
上の実施形態において述べた試験結果を見るに、SD−F1の不活化効果が10分以内に得られることがわかったが、そのことの意味は、10分よりももっと短い時間で不活化がなされていることを示すものである。そこで、本発明の発明者は、改めて10秒、30秒、60秒でどうなのかを調べる追加試験を実施することを決め、上述の試験を実施した教授に依頼した。
【0030】
【表3】

【0031】
表3は、SD−F1については作用時間10秒、30秒、60秒、PBSについては作用時間60秒として、それぞれについて残存感染価を算出した値と、パーセンテージを記載したものである。エタノールについては、前の試験で10分間作用させたときの値以上の結果が望めないので、この試験では省略した。
【0032】
図4、図5はこの作用時間の検討についての試験報告書である。前回と同様に電話番号及びメールアドレスはマスキングして載せてある。
【0033】
[結果と考察] SD−F1は2.8×106TCID50の鳥インフルエンザウイルスH5N3を10秒以内に完全に不活化した。99.99パーセント以上、不活化し、この方法では残存ウイルスを検出できなかった(残存ウイルスは0.01%未満であり、この方法における検出限度以下であった。10秒、30秒、60秒のいずれにおいても同様の残存感染価(検出限度以下)であった。このことから、SD−F1が10秒以内の作用時間で鳥インフルエンザウイルスを不活化することが証明された。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の鳥インフルエンザウイルス不活化剤を使いやすい容量のスプレーボトルに収納して、さまざまな場面で用いることができる。たとえば、製造ライン全般、フードプロセッサー等の機械器具、包丁・まな板等の調理器具、洗浄後の手や指、生ゴミ、家禽舎、飼料、家禽の排泄物への噴霧に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0035】
SD−F1 株式会社ドゥリーム・ドゥの開発した除菌液
TCID50 感染価を示す単位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプレーボトルに収納して、食品の製造ライン全般、調理器具、洗浄後の手や指、生ゴミ、家禽舎、飼料、家禽の排泄物に噴霧して用いる鳥インフルエンザウイルス不活化剤であって、
グレープフルーツ種子抽出液(以下、GSEと略す。)を水に溶かし、フィチン酸を加えた上で、醸造用アルコールを加えて、GSEが0.07ないし0.09W/W %、フィチン酸が0.04ないし0.06W/W %、醸造用アルコールが58ないし59.9W/W %、残りが水となるように調整され、鳥インフルエンザウイルスを噴霧後10秒以内に不活化する鳥インフルエンザウイルス不活化剤。
【請求項2】
請求項1に記載の鳥インフルエンザウイルス不活化剤であって、GSEが0.08W/W %、フィチン酸が0.05W/W %、醸造用アルコールが58.8W/W %、残りが水となるように調整された鳥インフルエンザウイルス不活化剤。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか一に記載の鳥インフルエンザウイルス不活化剤であって、ペーハー(pH)が5.8ないし6.4である鳥インフルエンザウイルス不活化剤。
【請求項4】
鳥インフルエンザウイルスを噴霧後10秒以内に不活化する鳥インフルエンザウイルス不活化剤の製造方法であって、
GSEを水に溶かし、フィチン酸を加えて乳化し、95度の醸造用アルコールを加えて、GSEが0.07ないし0.09W/W %、フィチン酸が0.04ないし0.06W/W %、醸造用アルコールが58ないし59.9W/W %、残りが水となるように調整することを特徴とする鳥インフルエンザウイルス不活化剤の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の鳥インフルエンザウイルス不活化剤の製造方法であって、GSEが0.08W/W %、フィチン酸が0.05W/W %、醸造用アルコールが58.8W/W %、残りが水となるように調整することを特徴とする鳥インフルエンザウイルス不活化剤の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5のいずれか一に記載の鳥インフルエンザウイルス不活化剤の製造方法であって、
ペーハー(pH)が5.8ないし6.4であるように調整することを特徴とする鳥インフルエンザウイルス不活化剤の製造方法。
【請求項7】
GSEを水に溶かし、フィチン酸を加えた上で、醸造用アルコールを加えて、GSEが0.07ないし0.09W/W %、フィチン酸が0.04ないし0.06W/W %、醸造用アルコールが58ないし59.9W/W %、残りが水として調整され、鳥インフルエンザウイルスを噴霧後10秒以内に不活化する鳥インフルエンザウイルス不活化剤をスプレーボトルに収納してなる鳥インフルエンザウイルス不活化スプレー剤。
【請求項8】
GSEを水に溶かし、フィチン酸を加えた上で、醸造用アルコールを加えて、GSEが0.08W/W %、フィチン酸が0.05W/W %、醸造用アルコールが58.8W/W %、残りが水として調整され、鳥インフルエンザウイルスを噴霧後10秒以内に不活化する鳥インフルエンザウイルス不活化剤をスプレーボトルに収納してなる鳥インフルエンザウイルス不活化スプレー剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−202632(P2010−202632A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104828(P2009−104828)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(301013088)株式会社ドゥリーム・ドゥ (2)
【Fターム(参考)】