説明

麦若葉末を有効成分とする便通改善剤

【課題】便通改善剤を提供すること。
【解決手段】本発明は、麦の葉由来の水不溶成分を有効成分とする便通改善剤を提供する。好ましくは麦若葉由来の水不溶成分を有効成分とする便通改善剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便通改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の変化、食事内容の偏り、ストレスなどから便秘で悩む人が増加している。便秘は、腸内で便が長く滞留するため、腸内の有害細菌の増加、あるいは有害物質の吸収の増加を引き起こし、大腸ガンの原因にもなる。
【0003】
このような便秘を改善するために、便通改善作用を有する種々の化合物あるいは材料が提案されている。例えば、小麦フスマ、ポリデキストロースなどの食物繊維、キシロオリゴ糖、フラクトオリゴ糖などのオリゴ糖などが便通改善材料として知られている(例えば、特許文献1および2ならびに非特許文献1)。しかしながら、これらの物質でも、下痢を生じたり、十分な便通改善作用を奏するとはいえず、新規な便通改善用の材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−60487号公報
【特許文献2】特開平6−135838号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】中川邦男著、日本の健康機能性食品トクホ「特定機能性食品」、ブックマン社、第1版、56−59頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、新規な便通改善剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、麦の葉由来の水不溶成分に着目し、鋭意検討を行った。その結果、麦の葉由来の水不溶成分を摂取すると、腸からの排泄を促進する作用(すなわち腸内通過時間短縮作用)、糞便量の増加作用、および糞便中の水分量が増加する作用(糞便中の保水作用)が得られ、さらに腸内細菌叢の改善作用が得られることを見出した。さらに、麦の葉由来の水不溶成分が、他の植物(例えば、小麦フスマ)由来の水不溶成分に比べて、糞便中の保水作用に優れ、かつ腸内通過時間短縮作用にも優れることを見出して本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の便通改善剤は、水不溶成分を30質量%以上含有する麦若葉末を有効成分とする。
【0009】
本発明の便通改善用食品は、上記便通改善剤を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の麦の葉由来の水不溶成分を有効成分とする便通改善剤は、腸からの排泄を促進する作用(すなわち腸内通過時間短縮作用)、糞便量の増加作用、糞便中の水分量が増加する作用(糞便中の保水作用)を有し、さらに腸内細菌叢の改善作用を有する。これらの中でも、特に、他の植物(例えば、小麦フスマ)由来の水不溶成分に比べて、腸内通過時間短縮作用および糞便中の保水作用に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(麦の葉由来の水不溶成分の調製方法)
本発明の便通改善剤の有効成分は、麦の葉由来の水不溶成分である。この原料である麦の葉としては、大麦、小麦、えん麦、ライ麦などの麦類の葉部などが用いられる。特に麦が成熟する前、すなわち分けつ開始期から出穂開始前期(背丈が20〜40cm程度)に収穫される麦の若葉、中でも大麦若葉が好適である。この麦の葉は、通常、収穫後に水(好ましくは25℃以下の冷水)で洗浄し、泥などを洗い落とし、水気を切った後、適当な長さ(例えば、5cm〜10cm)に切断して用いられる。
【0012】
上記麦の葉は、予め褪色や栄養成分の変質に関与する酵素を失活させる目的で、熱水処理や蒸熱処理のようなブランチング処理を施してもよい。ブランチング処理の温度および時間は、処理する麦の葉の量および熱水のpHに応じて適宜決定すればよい。なお、ブランチング処理を行った場合は、例えば、30℃以下の水、好ましくは20℃以下の水を用いて、直ちに冷却することが好ましい。冷水の温度が低いほど、麦の若葉の緑色が映えるようになり、見た目に美しい。
【0013】
上記調製された麦の葉を用いて、本発明に用いられる麦の葉由来の水不溶成分が調製される。麦の葉由来の水不溶成分としては、破砕処理して得られる麦の葉の破砕物、乾燥処理して得られる麦の葉の乾燥物、または該乾燥物をさらに粉砕処理して得られる麦の葉の乾燥粉末などの麦の葉処理物が挙げられる。好ましくは麦の葉乾燥物または麦の葉乾燥粉末である。
【0014】
上記麦の葉処理物の一種である麦の葉の破砕物は、例えば、麦の葉をマスコロイダー、スライサー、ダイサー、コミトロールなどを用いて破砕することによって得られる。
【0015】
上記麦の葉処理物の一種である麦の葉の乾燥物は、例えば、麦の葉中の水分含量が5質量%以下になるように乾燥することによって得られる。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥、高圧蒸気乾燥、電磁波乾燥、凍結乾燥などの当業者が通常用いる乾燥方法が採用される。
【0016】
上記麦の葉処理物の一種である麦の葉の乾燥粉末は、例えば、上記乾燥物を粉砕することによって得られる。目的とする粉末の大きさに応じて、粗粉砕または微粉砕が行われ得る。粒度の均一化、粉砕時間の短縮など、粉砕効率を上げる観点から、粗粉砕および微粉砕を組み合わせて行うことが好ましい。
【0017】
粗粉砕工程では、麦の葉の乾燥物をカッター、スライサー、ダイサーなどの当業者が通常用いる任意の粗粉砕機械または道具を用いて、例えば、麦の葉の長径が約20mm以下、好ましくは約0.1〜10mmとなるように破砕する。微粉砕工程では、90質量%以上が200メッシュ区分を通過するように麦の葉を微粉砕する。微粉砕は、例えば、クラッシャー、ミル、ブレンダー、石臼などの当業者が通常用いる任意の機械または道具を用いて行われる。
【0018】
このようにして得られる麦の葉処理物は、麦の葉由来の水不溶成分を豊富に含み、本発明に用いられる麦の葉由来の水不溶成分として好適に使用され得る。好ましくは麦の葉由来の水不溶成分を乾燥質量換算で30質量%以上、より好ましくは50〜90質量%含有する麦の葉処理物(特に麦若葉末)が使用される。さらに上記水不溶成分中には、不溶性食物繊維を、乾燥質量換算で40質量%以上含有することが好ましく、40〜80質量%含有することがより好ましい。
【0019】
上記麦の葉処理物は、さらに含有される水可溶成分を除去して用いることが好ましい。このような方法としては、例えば、上記麦の葉処理物に水などの溶媒を加え、固液分離により液相を除去して固相を得、これを乾燥する方法などが挙げられる。上記方法によって、水可溶成分が除去され、麦の葉由来の水不溶性成分がさらに精製される。加水は、麦若葉処理物100質量部に対して、好ましくは200〜3000質量部の水(あるいはエタノールなどの溶媒含有水溶液)を加えることによって行われる。浸漬時間は特に制限されないが、好ましくは6時間〜48時間である。固液分離は、遠心分離、濾過などの当業者が通常用いる分離方法により行われる。乾燥は、好ましくは固相の水分含量が5質量%となるように行われる。
【0020】
本発明に用いられる麦の葉由来の水不溶成分の量は、例えば、麦若葉末に水を加えて十分に接触させた後、固液分離して液相を除去し、次いで乾燥して、その乾燥重量を測定することによって算出することができる。不溶性食物繊維量は、酵素−重量法などの当業者が用いる測定方法によって得ることができる。
【0021】
得られた麦の葉由来の水不溶成分は、必要に応じて、適宜粉砕してもよい。粉砕は、目的の大きさに応じて、上記の粗粉砕工程および微粉砕工程が単独で、あるいは組み合わせて行われ得る。微粉砕することにより麦の葉の乾燥粉末の食感がよくなる。
【0022】
さらに、粗粉砕した麦の葉を微粉砕する前に、麦の葉の香味を良好にし、効率のよい殺菌を行う点から、加熱処理を行ってもよい。加熱処理は、110℃以上で行い、例えば、高圧殺菌、加熱殺菌、加圧蒸気殺菌などが採用される。好ましくは加圧蒸気殺菌である。例えば、加圧蒸気殺菌による加熱処理の場合、粗粉砕した麦の葉は、例えば、0.5〜10kg/cmの加圧下、110〜200℃の飽和水蒸気により、2〜10秒間加熱処理される。必要に応じて、飽和蒸気による加熱時に含んだ水分をさらに乾燥させる。特に粗粉砕、加熱処理、および微粉砕の工程を順に行うことにより、さらに食感がよくなる。
【0023】
本発明に用いられる麦の葉由来の水不溶性成分は、具体的には以下のようにして得られる。まず、麦の葉1kgを60℃で乾燥した後、ハンマーミルを用いて粉末化する。次いで、この粉末に水1kgを加えて12時間振盪・攪拌し、遠心分離して上清を除去する。さらに得られる沈澱物に対して上記振盪・攪拌工程および上清を除去する工程を2〜5回繰り返す。得られた沈澱物を乾燥して約800gの水不溶成分を得ることができる。この水不溶成分には、例えば、ヘミセルロース、セルロース、リグニンなどの不溶性食物繊維が豊富に含まれている。
【0024】
本発明に用いられる麦の葉由来の水不溶成分は、優れた便通改善作用を有する。例えば、麦の葉由来の水不可溶成分を摂取することにより、水不溶成分(特に不溶性食物繊維)を高含有する植物(小麦フスマ)に比べて、腸の蠕動運動を活性化し、食品の腸内通過時間を短縮し、腸からの排泄を促進し得る。さらに、麦の葉由来の水不溶成分を摂取すると、糞便量が増加する。一般に、小麦フスマなどの他の植物由来の水不溶成分(例えば、不溶性食物繊維)を摂取すると、水分含量が少ない便になりやすく、便秘傾向にある場合は、特に排便が困難になる可能性がある。これに対して、本発明に用いられる麦の葉由来の水不溶成分は、便中の水分含量を増加させて排便に適した便の形状を形成し(保水効果)、さらに便秘傾向者にみられる腸の蠕動運動の低下を改善し得る。これらのことは、便秘傾向者にとって、単なる糞便量を増加させる排便作用だけではなく、よりスムーズな排便を可能とし得る。上記保水作用は、さらに、例えば、痔の防止などとしても特に有効である。
【0025】
(便通改善剤または便通改善剤含有食品)
本発明の便通改善剤は、上述のとおり、麦の葉由来の水不溶成分を有効成分とする。上記便通改善剤中の麦の葉由来の水不溶成分の含有量は特に制限されないが、好ましくは、乾燥質量換算で30質量%以上、より好ましくは30〜95質量%、さらに好ましくは30〜85質量%、最も好ましくは30〜60質量%である。本発明の便通改善剤はまた、さらに麦の葉由来の不溶性食物繊維を含有することが好ましい。上記麦の葉由来の不溶性食物繊維の含有量は、便通改善剤中に、好ましくは、乾燥質量換算で20質量%以上、より好ましくは20〜90質量%、さらに好ましくは20〜80質量%、最も好ましくは20〜50質量%である。上記麦の葉由来の水不溶成分中には、特に麦の葉由来の不溶性食物繊維を40質量%含有することが好ましく、40〜80質量%含有することがより好ましく、70〜80質量%含有することがさらに好ましい。本発明の食品は、このような便通改善剤を含む。すなわち、麦の葉由来の水不溶成分(または不溶性食物繊維)を有効成分とする上記便通改善剤を便通改善用食品として利用することができる。本発明の食品は、好ましくは、麦の葉由来の水不溶成分が乾燥質量換算で2質量%以上、より好ましくは3質量%以上となるように便通改善剤を含有し得、さらに麦の葉由来の不溶性食物繊維が好ましくは乾燥質量換算で1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上なるように便通改善剤を含有し得る。
【0026】
本発明の便通改善剤または便通改善剤含有食品の摂取量は、特に制限されない。上記の便通改善作用を効果的に得る点から、好ましくは、上記便通改善剤または便通改善剤含有食品中に含有される麦の葉由来の水不溶成分が成人1日当たり1g以上、より好ましくは1.3g〜95g、さらに好ましくは1.3g〜50g、特に好ましくは1.3g〜19gとなるように摂取されることが好ましい。水不溶成分を1日当たり95gより多く摂取すると、便通改善作用が強すぎるために便が軟化して、下痢を引き起こす場合がある。
【0027】
このような麦の葉由来の水不溶成分は、そのまま飲食に供することができ、あるいは、必要に応じて、種々の食品原料、医薬品原料、調味料、添加剤などと混合することにより、食品、医薬品などとすることができる。添加剤としては、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料などが挙げられる。調味料としては、例えば、糖液、糖アルコール液などが甘味の調整などに用いられる。混合され得る食品原料としては、例えば、ローヤルゼリー、プロポリス、ビタミン類(ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、葉酸、パントテン酸、ビオチン、これらの誘導体など)、ミネラル(鉄、マグネシウム、カルシウム、亜鉛などの金属を含む化合物)、セレン化合物、キチン・キトサン、レシチン、ポリフェノール(フラボノイド類、これらの誘導体など)、カロテノイド(リコピン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、ルテインなど)、キサンチン誘導体(カフェインなど)、脂肪酸、タンパク質(コラーゲン、エラスチンなど)、ムコ多糖類(ヒアルロン酸、コンドロイチン、デルマタン、ヘパラン、ヘパリン、ケタラン、これらの塩など)、アミノ糖(グルコサミン、アセチルグルコサミン、ガラクトサミン、アセチルガラクトサミン、ノイラミン酸、アセチルノイラミン酸、ヘキソサミン、それらの塩など)、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖、環状オリゴ糖など)、リン脂質(フォスファチジルコリン)、スフィンゴ脂質およびその誘導体(スフィンゴミエリン、セラミドなど)、含硫化合物(アリイン、セパエン、タウリン、グルタチオン、メチルスルホニルメタンなど)、糖アルコール、リグナン類(セサミンなど)、これらを含有する動植物抽出物、根菜類(ウコン、ショウガなど)、青汁素材として使用されるケール等のアブラナ科植物、甘藷の茎葉、アシタバ、桑葉などの緑葉などが挙げられる。なお、下痢などの不溶性食物繊維によって引き起こされる副作用を低減する点から、麦の葉由来の水不溶成分以外の成分、例えば、食品原料、医薬品原料、調味料、添加剤などには、不溶性食物繊維が含有されないことが好ましい。
【0028】
本発明の便通改善剤または便通改善剤含有食品の形態についても特に制限されない。必要に応じてハードカプセル、ソフトカプセルなどのカプセル剤、錠剤、もしくは丸剤などに、あるいは粉末状、顆粒状、茶状、ティーバッグ状、もしくは飴状などの形態に成形したり、そのまま飲料として用いたりすることができる。これらの形状または好みに応じて、そのまま食してもよく、あるいは水、湯、牛乳などに溶いて飲んでも良い。さらに飲料として、例えば、植物発酵ジュース、野菜ジュース(例えば、人参ジュース)、植物抽出物、果汁などにも利用され得、麦の葉由来の水不溶成分を含有することにより、嗜好性を良くするだけでなく、機能性または栄養価の高い飲料とすることもできる。1日当たりの摂取量を十分確保できる点から、飲料または顆粒状の形態が好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、この実施例は本発明を制限することを意図しない。
【0030】
(実施例1:麦の葉由来の水不溶成分の調製)
不溶性食物繊維として56質量%含有する麦若葉末(株式会社東洋新薬製)5kgを用いて、以下のようにして水不溶成分(WIとする)と水可溶成分(WSとする)とにわけた。さらに、水可溶成分(WS)を、エタノール不溶成分(EIとする)とエタノール可溶成分(ESとする)とにわけた。
【0031】
まず、麦若葉末5kgに水50kgを加えて12時間攪拌した後、遠心分離により、沈澱物と上清(水可溶成分)とにわけた。この沈澱物にさらに50kgの水を加えて、上記と同様に沈澱物と上清とに分離する操作をさらに3回繰り返した。得られた沈澱物を熱風乾燥したところ、4.1kgの水不溶成分(WI)が得られた(このWIのうち、不溶性食物繊維は2.5kg)。
【0032】
他方、得られた上清を集めて、この上清に、容量で4倍量のエタノールを加えて、室温(25℃)にて一晩放置した。その後、遠心分離を行い、エタノールの沈澱物と上清とにわけた。エタノールの沈澱物および上清をそれぞれ減圧濃縮乾固して、0.31kgのエタノール不溶成分(EI)および0.67kgのエタノール可溶成分(ES)を得た。
【0033】
(実施例2:飼料の調製)
実施例1で得られたWI(水不溶成分からなり(すなわち100質量%)、不溶性食物繊維を61質量%含有する)および表1に記載の成分を表1に記載の割合で混合して飼料を得た(飼料1とする)。なお、飼料1中には、不溶性食物繊維が1.7質量%含有されている。
【0034】
(実施例3:飼料の調製)
実施例1で得られたWIとEIとESとを質量比で0.1:0.22:0.47の割合で混合した混合物(水不溶成分を22質量%含有し、不溶性食物繊維を13質量%含有する)および表1に記載の成分を表1に記載の割合で混合して飼料を得た(飼料2とする)。なお、飼料2中には、不溶性食物繊維が0.06質量%含有されている。
【0035】
(比較例1〜4)
WIの代わりに、実施例1で得られたEIまたはES若しくは小麦フスマ(水不溶成分を80質量%含有し、不溶性食物繊維を38質量%含有する)を用いたこと以外は、実施例2と同様に表1に記載の割合で混合して飼料を得た(飼料3〜5)。またWIを用いなかったこと以外は、実施例2と同様に表1に記載の割合で混合して飼料を得た(飼料6)。なお、飼料5中には、不溶性食物繊維が2.0質量%含有されている。飼料3、4、および6中には、不溶性食物繊維は含有されていない。
【0036】
【表1】

【0037】
(実施例4:便通改善作用1)
実施例2〜3および比較例1〜4で得られた飼料1〜飼料6をラットに摂取させた場合の腸内通過時間、糞便量、および糞便中の水分量を以下のようにして測定した。まず、5週齢の雄性SDラット(日本チャールズリバー株式会社)25匹に標準飼料(MF飼料、オリエンタル酵母株式会社)を与えて1週間馴化させた後、各群の体重の平均値がほぼ均一となるように、1群5匹ずつ6群にわけた。
【0038】
次いで、1群のラットに実施例2の飼料1および水を、給餌開始日を0日目として、28日間自由摂取させた。なお、対照として飼料1(WI含有飼料)の代わりに飼料6(WI非含有飼料)を自由摂取させた群を設けた。
【0039】
給餌18日目にSDラットを9時間絶食させ、その後、澱粉粕含有飼料とカルミン(リビジョンクローマ社)とを質量比で99.5:0.5の割合で混合した着色飼料を1時間自由摂取させた。その後、1時間ごとに得られる糞便のカルミン量を測定し、カルミンが検出された最初の時間と最後の時間との平均時間を腸内通過時間として算出した。結果を表2に示す。
【0040】
また、給餌26、27、および28日目にそれぞれ糞便を回収して湿重量(糞便量)を測定した。結果を表2に併せて示す。
【0041】
飼料1の代わりに飼料2〜5を残りの4群ラット群にそれぞれ摂取させたこと以外は、上記と同様にして、腸内通過時間および糞便量を測定した。結果を表2に併せて示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2の結果から、麦の葉由来の水不溶成分(WI)を含む飼料1および飼料2を摂取した群は、腸内通過時間が短く、かつ糞便量が多いことがわかる。これらのことは、麦の葉由来の水不溶成分が腸内通過時間短縮作用および腸内の蠕動運動活性化作用を有することを示し、これらの作用によって腸からの排泄を促進する優れた便通改善効果が得られることを示す。以上のことから、麦の葉由来の水不溶成分は、蠕動運動活性化剤または便通改善剤として期待される。これらの中でも特に、麦の葉由来の水不溶成分(水不溶成分のみからなり、不溶性食物繊維を61質量%含有する)を含む飼料1は、腸内通過時間短縮化作用および腸の蠕動運動を活性化して糞便量を増加させる作用に優れており、これらの作用は、麦の葉由来の水不溶成分を含有しない飼料6(対照)が有する作用に比べて有意であった。
【0044】
これに対して、麦の葉由来の水不溶成分を含まず、水可溶成分(エタノール不溶成分:EI)のみを含む飼料3を摂取した群は、飼料が腸内を通過するのに時間がかかり、糞便量も少なかった。麦の葉由来の水不溶成分を含まず、水可溶成分(エタノール可溶成分:ES)のみを含む飼料4を摂取した群は、糞便量が少なかった。そして小麦フスマの水不溶成分(不溶性食物繊維)を大量に含む飼料(飼料5)を摂取した群は、飼料が腸内を通過するのに時間がかかった。
【0045】
(実施例5〜7:便通改善剤の調製)
実施例1で用いた麦若葉末とマルトデキストリン(松谷化学工業株式会社製)とを表3に記載の配合量で混合して便通改善剤(食品)を調製した(便通改善剤1〜3とする)。
【0046】
(実施例8:便通改善作用2)
実施例5〜7で得られた便通改善剤1〜3について、便通改善作用を以下のようにして評価した。まず、1週間あたりの排便回数が6回以下の被験者37名を10名ずつの3群および7名1群の合計4群に分けた。次いで、10名3群の被験者に、1週間(観察期間)における排便回数をカウントしてもらった。この観察期間における排便回数をAとする。観察期間終了後、3群の被験者に1包3gの便通改善剤1〜3をそれぞれ1日あたり3包の割合で3週間摂取させ、3週目の1週間(試験期間)における排便回数をカウントしてもらった。この試験期間のおける排便回数をBとする。得られた試験期間と前観察期間との排便回数の差(B−A)を求めた。結果を表3に示す。なお、残りの1群7名の被験者には、便通改善剤1〜3の代わりに、1包3gのマルトデキストリン(対照食)を摂取させたこと以外は、上記と同様にして、排便回数をカウントしてもらい、試験期間と前観察期間との排便回数の差(B−A)を求めた。結果を表3に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
表3の結果から、便通改善剤1〜3を摂取した群はいずれも対照食を摂取した群に比べて、排便回数の増加が見られ、便通改善作用が得られることがわかる。特に、便通改善剤2(1日あたり麦若葉末を4.5g摂取、WIとして3.7g摂取)または便通改善剤3(1日あたり麦若葉末を6g摂取、WIとして4.9g摂取)を摂取した群は、便通改善作用に優れていた。
【0049】
(実施例9:便通改善剤の調製)
麦の葉由来の水不溶成分を50質量%含有し、不溶性食物繊維を36質量%含有する麦若葉末(株式会社東洋新薬製)2質量部とマルトデキストリン(松谷化学工業株式会社製)1質量部とを混合して造粒し、1包当たり3gの顆粒(麦若葉末2g含有、すなわち水不溶成分を33質量%含有し、不溶性食物繊維を24質量%含有する)を調製した(顆粒1とする)。
【0050】
(実施例10:腸内細菌叢改善作用)
実施例9で得られた顆粒1を被験者に摂取させた場合の糞便量および糞便中の腸内細菌を以下のようにして測定した。まず、8名の被験者に、1包3gのマルトデキストリンのみで調製された顆粒2(対照品;麦若葉末非含有)を1日あたり5包の割合で1週間摂取させ、摂取期間中の排便量の湿重量(1週間の合計量)を測定した。
【0051】
さらに、摂取期間最終日の糞便を回収し、この糞便中に、腸内細菌であるビフィドバクテリウムおよびLecthinase(+)Clostridiumが検出されるかどうかを株式会社三菱化学ビーシーエルを用いて測定し、被験者8名中の検出された人数の割合を検出率(%)として算出した。
【0052】
次いで、対照品(顆粒2)摂取終了から1週間後に、被験者に、顆粒2の代わりに顆粒1を摂取させたこと以外は上記と同様にして、糞便量および腸内細菌の検出率(%)を測定した。対照品を摂取した場合および顆粒1を摂取した場合の結果を併せて表4に示す。なお、表4中の有意差の有無については、Wilcoxon符号順位検定により確認した。
【0053】
【表4】

【0054】
表4の結果から、麦若葉由来の水不溶成分を含有する顆粒1は、優れた糞便量の増加作用を有し、この作用は対照品(顆粒2)に比べて有意であることがわかる。腸内細菌については、いわゆる善玉菌といわれるビフィドバクテリウムの検出率は、顆粒1および顆粒2ともに100%であった。これに対して、いわゆる悪玉菌といわれるLecthinase(+)Clostridiumの検出率は、顆粒1を摂取した群では38%(8人中5名が検出限界以下)であり、対照品(顆粒2)を摂取した群(100%)に比べて低い値を示した。このことは、麦若葉由来の水不溶成分を含有する顆粒1が、腸内細菌叢を改善する作用を有することを示す。以上のことから、本発明の麦の葉由来の水不溶成分を有効成分とする便通改善剤は、優れた便通改善作用を有するだけでなく、腸内細菌叢改善作用をも有することから、整腸剤として利用し得ることがわかる。
【0055】
(実施例11:膨潤作用)
実施例9で用いた麦若葉末5gをメジウムビン(200mL)にいれ、次いで純水を50mL加えて撹拌した。さらに、アスピレーターを用いて気泡がなくなるまで脱気して、麦若葉末に水を浸透させた。脱気後、さらに室温にて24時間放置した。膨潤した麦若葉末の体積を測定し、麦若葉末1gあたりの体積を算出した。麦若葉末の代わりに、比較例3で用いた小麦フスマを用いたこと以外は、上記と同様にして、小麦フスマの体積を測定した。結果を表5に示す。
【0056】
【表5】

【0057】
表5の結果から、麦の葉由来の水不溶成分を含有する麦若葉末は、麦の葉以外の部位に由来する水不溶成分を含有する小麦フスマに比べて、体積が大きく、膨潤作用に優れることがわかる。このことは、本発明の麦の葉由来の水不溶成分を有効成分とする便通改善剤が、便の嵩増し剤として作用し得ることを示す。
【0058】
(実施例12:保水作用)
実施例9で用いた麦若葉末1gをポリ容器にいれ、次いで純水を50mL加えて撹拌した。さらに、アスピレーターを用いて気泡がなくなるまで脱気して、麦若葉末に水を浸透させた。このポリ容器の口を、予め純水を浸透させておいた5B濾紙で蓋をした後、これらの質量を測定した(この質量をAとする)。次に、ポリ容器の口を下に向けて、自然落下による濾過を行った。水滴が見られなくなった時点で再度ポリ容器の質量を測定した(この質量をBとする)。得られた質量Aと質量Bとの差を算出し、麦若葉末1gあたりの水分の保水量とした。麦若葉末の代わりに、比較例3で用いた小麦フスマを用いたこと以外は、上記と同様にして、小麦フスマの保水量を算出した。結果を表6に示す。
【0059】
【表6】

【0060】
表6の結果から、麦の葉由来の水不溶成分を含有する麦若葉末は、麦の葉以外の部位に由来する水不溶成分を含有する小麦フスマに比べて、優れた保水力を有することがわかる。このことは、本発明の麦の葉由来の水不溶成分を有効成分とする便通改善剤が、便の水分含量を高める保水剤として作用し得ることを示す。
【0061】
(実施例13:便通改善剤(散剤)の調製)
不溶性食物繊維を32質量%含有する麦若葉末(株式会社東洋新薬製)および表7に記載の各成分を、表7に記載の割合で混合して、1包あたり5gの散剤(麦若葉末含有散剤という)を調製した。
【0062】
(比較例5)
表7に記載の各成分を、表7に記載の割合で混合して、1包あたり5gの散剤(麦若葉末非含有散剤という)を調製した。
【0063】
【表7】

【0064】
(実施例14:便通改善作用3)
実施例13で得られた麦若葉末含有散剤、および比較例5で得られた麦若葉末非含有散剤を用いて、便通改善作用を以下のようにして評価した。まず、1週間あたりの排便回数が6回以下の被験者60名について、散剤を摂取しない期間を2週間設け(観察期間I)、この期間における一回あたりの排便量、一日あたりの排便回数、および一週間あたりの排便日数を記録した。なお、排便量については、Mサイズの鶏卵の大きさを目安に個数換算した。次いで、実施例13の麦若葉末含有散剤を、食後に1包(すなわち一日あたり合計3包)の割合で2週間摂取させ(麦若葉末含有散剤摂取期間、摂取期間I)、上記と同様に、一回あたりの排便量、一日あたりの排便回数、および一週間あたりの排便日数を記録した。さらに、2週間の観察期間(観察期間II)、比較例5の麦若葉末非含有散剤を上記麦若葉末含有散剤の場合と同様に摂取する2週間の摂取期間(摂取期間II)、および1週間の観察期間(観察期間III)を順次設け、各期間における一回あたりの排便量、一日あたりの排便回数、および一週間あたりの排便日数を記録した。結果を表8に示す。なお、表8中の有意差の有無については、Wilcoxon符号順位検定により確認した。
【0065】
【表8】

【0066】
表8の結果から、麦若葉末含有散剤を摂取することによって、有意に排便量、排便回数、および排便日数が増加することがわかる。これらの増加は、麦若葉末非含有散剤を摂取した場合に比べても有意であった。これらのことは、本発明の麦の葉由来の水不溶成分を含有する便通改善剤が、優れた便通改善効果を有することを示す。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の麦の葉由来の水不溶成分を有効成分とする便通改善剤は、腸内通過時間短縮作用、糞便量の増加作用、および糞便中の保水作用を有し、さらに腸内細菌叢の改善作用をも有する。特に、他の植物(例えば、小麦フスマ)由来の水不溶成分に比べて、腸内通過時間を顕著に短縮し、糞便量を増加させ、かつ糞便中の水分量を増加させる。したがって、水分量が少ない硬い便による排便の困難性および該困難性に伴う副作用(例えば、痔など)を回避し、スムーズな排便を可能とするため、便秘傾向者にとって特に有用である。本発明の便通改善剤は、食品、医薬品などとして利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶成分を30質量%以上含有する麦若葉末を有効成分とする、便通改善剤。
【請求項2】
請求項1に記載の便通改善剤を含む、便通改善用食品。

【公開番号】特開2010−47605(P2010−47605A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267062(P2009−267062)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【分割の表示】特願2005−298009(P2005−298009)の分割
【原出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(398028503)株式会社東洋新薬 (182)
【Fターム(参考)】