麻酔用フルオロエーテル化合物の安定した医薬組成物、フルオロエーテル化合物の安定化方法、フルオロエーテル化合物の分解を防止するための安定剤の使用
本発明の目的は、酸物質による分解に対するフルオロエーテル化合物の安定化にある。本発明で提案された安定剤は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコール及び飽和環式アルコール、好ましくはメントールからなる群から選ばれ、フルオロエーテル化合物の安定した医薬組成物を製造するのに用いられる。フルオロエーテル化合物の安定化方法及びフルオロエーテルの分解を阻害するための安定剤の使用がまた記載されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸物質により引き起こる分解に対しフルオロエーテル化合物を安定させることを目的とする。
【0002】
特に、本発明は麻酔特性を有するフルオロエーテル化合物類の安定化、及び麻酔に使用するための、フルオロエーテル化合物類の安定した医薬組成物に関する。用いられる安定剤は適切な医薬化合物類から選ばれ、そして安定した医薬組成物の製造に用いられる。本発明はまた、フルオロエーテル化合物の分解(その分解は酸物質により引き起こる)を防ぐ方法、及びそのようなフルオロエーテル化合物の分解を防ぐための安定剤の使用にも関する。
【0003】
本発明に関する、麻酔特性を持つフルオロエーテル化合物はセボフルラン(sevoflurane)、デスフルラン(desflurane)、イソフルラン(isoflurane)、エンフルラン(enflurane)及びメトキシフルラン(methoxiflurane)を含む。それらのフルオロエーテル化合物のうち、本発明はセボフルランに対し特別な用途を有する。
【0004】
本発明による酸物質とは、酸性を表す物質、特に多様な条件下でセボフルランのようなフルオロエーテル化合物と接触し得る、酸性を持つ金属の不純物を意味する。
【背景技術】
【0005】
フルオロエーテル化合物類の分解は、これらの化合物に対し反応性プロファイル又は挙動を示す物質と混合される際に一般的に起こる現象である。
【0006】
分解類型の中で、フルオロエーテル化合物、セボフルラン製品の蒸発回路に一般的に用いられるCO2(二酸化炭素)吸収剤により引き起こる該化合物の分解が知られている。それらCO2吸収剤は、“ソーダ石灰”(水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる)及び“バラライム(baralime)”(水酸化カルシウム及び水酸化バリウムからなる)のように比較的強酸であり、両方の吸収剤は共にCO2の有効且つ効率的な吸収を提供するために14%から19%の水含量を有する。分解のメカニズムは、それらの塩基によりセボフルランからプロトン酸が除去されると共に、化合物A(2−(フルオロメトキシ)−1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−プロペン;ヒトで腎毒性を引き起こす可能性が提起されている)として知られているオレフィンが形成されることに関連する。文献[Royal College Of Anesthetics Newsletter - January 2000, Issue no. 50 pg. 287-289]参照。
【0007】
通常のCO2吸収剤によるそのような分解を回避するために、開放回路でのセボフルランの使用及び低溶剤揮発法の利用が、これらの麻酔剤の利用において専門家および麻酔医に薦められてきた。
【0008】
また、相当量の化合物Aの生成を伴う可能性のあるセボフルランの分解は、そのような分解を回避することのできるCO2吸収剤(例えば、登録商標AMSORB)の開発に対する直接的な動機となった。文献[J.M. Murray et al, “Amsorb - a new carbon dioxide absorbent for use in anesthetic breathing systems”- Anesthesiology 1999]参照。
【0009】
麻酔過程で製品の揮発回路にだけ関連して引き起こる蓋然性の高い、CO2吸収剤の存在下での、セボフルランの分解メカニズムの他に、第2の分解メカニズムが確認された。それは、セボフルランと接触しているルイス酸の存在に起因する。たとえこのメカニズムがラジカル−C−O−C−Fを示す任意のフルオロエーテル化合物にまで及ぶとしても、セボフルランはそのような分解に特にさらされやすいということが判った。
【0010】
図1は、WO98/32430号に提案された、ルイス酸により触媒されたセボフルラン(S)の分解メカニズムを示す。このメカニズムで、セボフルランの分解はセボフルランのパッケージとして用いられたガラス瓶の組成中に存在するルイス酸(LA)により触媒される。
【0011】
化学的に、ガラスはケイ酸塩からなり、その他に少量の酸化アルミニウムを含む。ガラスは、いったん製造された後に、その表面を不活性化する(即ち、ケイ酸に結合された遊離ヒドロキシルが露出されることを防ぐ)ための処理を必要とする。しかし、そのようなヒドロキシルの露出は、ガラス表面の消耗またはスロットの存在により起こり得る。ガラス表面の消耗などは、該物質を無菌化する間或いは任意の製造段階で起こり得る。ケイ酸に結合されたヒドロキシルは、露出される場合に、セボフルランと接触し、よってセボフルランの分解をもたらす。
【0012】
図1に示されているセボフルランの複雑な分解メカニズムは、毒性の揮発性物質の形成をもたらし、その中でフッ化水素酸、またはガラスとの反応から由来した他の化合物、SiF4(四フッ化ケイ素)は呼吸器に対し極めて腐食性物質である。
【0013】
更に図1に示されたメカニズムによれば、それが連鎖メカニズムであることが推論できる。ここで、分解生成物、特にフッ化水素酸は、図2に示されている反応を通ってガラスの完全性(G)を損ない、表面(LA)上により多くのルイス酸を露出させ、それらはセボフルランの新しい分子と反応し、分解メカニズムを再開することになる。
【0014】
現在利用可能な吸入麻酔剤の中で、セボフルランは医療関係者および彼らの患者によりよく許容されている。この麻酔剤は、1990年日本で使い始められてから、他の吸入麻酔剤に対するその質の良さ、主に快適で非刺激性の臭気及び大人及び子供での迅速な誘導及び回復に起因して幅広く使われてきた。
【0015】
この製品は、最初からガラスパッケージ(幾つかの吸入麻酔剤に対し選択可能なパッケージの一種である)の状態で市販された。ガラスの質は、その表面に結合されている触媒量のルイス酸の存在から見ると、制御が殆ど不可能であるため、セボフルランの安定化方法または安定した組成物の開発は、このようなパッケージ分野の市場で生き残るために根本的に重要な要素である。
【0016】
ルイス酸として作用する特性をもつ部類の物質はかなり広範囲である。ルイス理論によれば、酸は電子双を受容し共有結合を形成することのできる、空き軌道を持つ種類に該当する。要するに、酸は電子双の受容体であり、塩基は電子双の供与体である。文献[John B. Russel - Quimica Geral - 1982 pg.395]参照。ルイスの分類により酸として含まれ得る物質の範囲によっては、ガラスだけでなく、セボフルランと接触できるその他のパッケージ類、容器類又は物質類もセボフルランの安定性を損なう可能性を持つ。
【0017】
ルイス酸に起因して起こる分解に対する解法を提案する、セボフルランの分解について取り扱っている幾つかの文献がある。例えば、WO98/32430号は、セボフルランの分解を回避するためにルイス酸阻害剤を使用することについて開示している。この特許によれば、セボフルランの分解を回避するために水が用いられるが、その濃度はセボフルランの重量に対し150ppmから1,400ppm(即ち、0.0150%から0.1400%)であれば好ましい。多量のルイス酸を用いて行われた実験で、水によるセボフルラン分解の阻害が確認された。
【0018】
WO98/32430号は水によるセボフルラン分解の阻害を示唆しているが、実際のところ、水は、セボフルラン分解を阻害するための推奨量で用いられても有効でないことが証明された。その理由は、該溶液がHFIP(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール)を形成し、それは更に分解されアセタール(メチレングリコールビス−ヘキサフルオロイソプロピルエーテル)及びフッ化水素酸を形成するからである。
【0019】
セボフルランの分解を回避するための方法について開示している他の文献としてUS6,074,668号がある。それは、セボフルランを貯蔵するための容器を提案している。この容器は、前述したメカニズムによりセボフルランの分解を引き起こす、触媒量のルイス酸による分解を回避するためにガラス以外の物質からなる。そのような容器の材料はポリエチレンナフタレート(PEN)であり、ここで著者は、外科(手術)で発生可能な事故に起因する容器の破損及びセボフルラン分解を回避することに注目し、ガラスの代わりに上記材料をもっとも適切なものとして提案している。ポリエチレンナフタレートは、該麻酔剤に対し不浸透性を持つプラスチックのような外観の材料であり、該麻酔剤の貯蔵のためにガラスの代用品として用いられ得る。そのような部類の材料の、パッケージとしての主な短所は、高い値段と現時点ではそれをリサイクルする手段が欠けているという点にある。
【0020】
麻酔用フルオロエーテル化合物類、特にセボフルランの分解問題に対する解法が未だ論文などで殆ど提案されていないため、この化合物を安定させ、酸物質による分解を制御するのに有効な方法の開発が強く求められている。
【0021】
プラスチック材料のような、他の材料からなるパッケージを用いることを開示している他の文献によれば、例えば揮発性物質に対するその材料の浸透性のような幾つかの問題が見られた。この部類の中で選ばれ得るものとしては、US6,074,688号に記載されているような特殊プラスチックまたはポリマー材料がある。これらの材料は、値段が高いばかりか、リサイクルすることができないため、環境にやさしく、容易にリサイクルできるガラスからなるパッケージに比べて、環境を汚染させる廃棄物になる。これらの材料の他の短所としては、アセトアルデヒド移動の可能性であり、その物質は、熱によるパッケージ押出しプロセスの間に、並びにポリエチレンポリマーを含むパッケージの幾つかの分解メカニズムに起因して生成される。
【0022】
ポリエチレンナフタレート(PEN)のパッケージ中でアセトアルデヒドによるセボフルランの汚染の危険性は、SevoFlo(登録商標名)製品のEMEA(医薬品を評価するヨーロッパの機関である)モノグラフ中に既に記載されている。
【0023】
そのような不便さに加えて、これらの材料は、ルイス酸として分類され得るか、または任意の製造段階あるいは操作の際にルイス酸で汚染され得る恐れがある。ここで、ルイス酸はこれらの材料と接触している間にセボフルランの分解メカニズムを開始し得る。
【0024】
セボフルランの分解阻害剤として水を提案している文献WO98/32430号に記載されている解法によれば、水は該化合物の分解を適切に防ぐのに十分な能力を持つものではなかった。なぜならば、HFIP(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール)の形成が観察されたということは、このメカニズムが他の分解生成物、即ちフッ化水素酸の形成を防ぐのに不十分であることを示す確実な証拠になるからである。この文献により支持される証拠に加えて、Wallinなどの文献[R.F.Wallin, B.M. Regan, M.D. Napoli, I.J.Stern Anesthesia and Analgesia 1975, 54(6), 758]により報告されたセボフルランの分解、即ち水中で該化合物が速度は遅いものの相当程度の加水分解を受けるということがまた良く知られている。HFIPの形成及びセボフルラン加水分解に関する情報はまた、水がセボフルラン分解メカニズムに係っている可能性があることを示唆する。つまり、これは、水が該麻酔剤の分解に対する信頼できる阻害剤でないことを意味する。
【発明の開示】
【0025】
先行技術による全ての不便を克服するために、本発明は、セボフルランのようなフルオロエーテル化合物を含む安定した麻酔剤組成物、及びポリアルコール類及び飽和環式アルコール類からなる群から選ばれる一種以上の有効量の安定剤について開示する。本発明で安定剤として用いるのに適切なポリアルコール類としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、へキシレングリコール及び1,3−ブチレングリコールがある。本発明による適切な環式アルコール類の例としてはメントールがある。
【0026】
セボフルラン(CAS 28523−86−6)は、その化学名フルオロメチル2、2、2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチルエーテル、分子量200.06、分子式C4H3F7Oで、図1で文字Sとして示した構造式を有する。
【0027】
プロピレングリコールは化学名1,2−プロパンジオール(CAS 57−55−6)を有する。
【0028】
ポリエチレングリコール(CAS 25322−68−3)は一般式H(OCH2CH2)nOHのポリマーに該当し、ここでnは4以上である。一般的に、各々のポリエチレングリコールにはその平均分子量に相応する数字が付く。
【0029】
ヘキシレングリコールは化学名2−メチル−2,4−ペンタンジオール(CAS 107−41−5)を有する。
【0030】
1,3−ブチレングリコールは化学名1,3−ブタンジオール(CAS 107−78−1)を有する。
【0031】
メントールは化学名(1アルファ、2ベータ、5アルファ)−5−メチル−2−(1−メチルエチル)シクロヘキサノール(CAS 89−78−1)を有する。
【0032】
本発明の医薬組成物は、酸物質によるセボフルランのようなフルオロエーテル化合物の分解を防ぐために、安定剤にセボフルランのようなフルオロエーテル化合物を加えるか、またはセボフルランのようなフルオロエーテル化合物に有効量の安定剤を加えることにより製造され得る。本発明による酸物質は、酸性を持つ物質、具体的には酸性を持つ金属性不純物を意味し、これらは様々な条件下でセボフルランのようなフルオロエーテル化合物と接触することができる。
【0033】
本発明はまた、フルオロエーテル化合物、最も具体的にはセボフルランのような麻酔用フルオロエーテル化合物の安定化方法について開示する。このような安定化方法は該化合物の分解を防ぐためにセボフルランのようなフルオロエーテル化合物に有効量の安定剤を加えるかまたは接触させることからなる。本発明による安定化方法に用いられる適切な安定剤の例としては、ポリアルコール類及び飽和環式アルコール類がある。本発明による安定化方法、特にセボフルランの安定化方法に用いられる適切なポリアルコール類の例としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコールまたはそれらの混合物がある。本発明で用いられる適切な飽和環式アルコール類の例としては、メントールがある。
【0034】
本発明によれば、セボフルランのようなフルオロエーテル化合物は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、またはそれらの混合物からなる群から選ばれるポリアルコール、及び飽和環式アルコール(メントールを含む)のような物質を用いることにより安定化され得る。これらの物質は、HFIP,HF及びセボフルランの他の分解生成物の形成を防ぎ、酸性を持つ反応性物質からセボフルランを保護するのに極めて有効である。
【0035】
更に本発明は、ポリアルコール類及び飽和環式アルコール類のような安定剤を加えることにより酸物質の存在下で分解しなしセボフルランを含む麻酔剤組成物について開示する。本発明はまた、セボフルランの安定した麻酔剤組成物を製造する方法について開示する。
【0036】
本発明の医薬組成物は、安定剤に対し任意量(重量)のセボフルランを含む。吸入麻酔剤として用いられる場合、本発明の医薬組成物は、セボフルランを最終組成物に対し95%から99.999%までの濃度(重量百分率)で含むのが好ましい。本発明の医薬組成物に加えられた安定剤は、酸性を持つ反応性物質の存在下でセボフルランの分解を防ぐことのできる物質である。このような安定剤はポリアルコール類及び飽和環式アルコール類からなる群から選ばれる。本発明で安定剤として用いられる適切なポリアルコール類の例としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコールまたはそれらの混合物がある。本発明に用いられる適切な飽和環式アルコール類の例としてはメントールがある。
【0037】
フルオロエーテル化合物、最も具体的にはセボフルランに対する安定剤は、セボフルランに対し0.001%(重量百分率)からそれがセボフルラン中で飽和濃度(即ち、安定剤がセボフルラン中で溶解された状態を維持できる最高濃度)に至るまで用いられる。そのような飽和を達成する安定剤の量は、安定剤の種類及び温度により異なり、そしてこれらの物質中で溶解度プロファイルにより多くなることもある。これは、例えばセボフルラン中で自由に溶解可能なポリエチレングリコール400の場合である。一般的に、本発明で安定剤はセボフルランに対し0.001%から5%の濃度(重量百分率)で用いられるのが好ましい。しかし、それより高用量の安定剤も本発明の範囲に含まれるが、これは任意量の安定剤が標的物質を安定させることができるからである。
【0038】
フルオロエーテル化合物、セボフルランを安定させるのに適切なポリアルコール類の中で、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコール及び1,3−ブチレングリコールが選択され得る。これらの物質は医薬組成物中に用いるのに適切な医薬用賦形剤であり、これらの毒性学的データはよく知られている。前述したように、安定剤は、セボフルラン中で0.001%(重量百分率)から飽和濃度に至るまでの量で用いられる。プロピレングリコールの場合、セボフルラン中でその飽和濃度は約2.5%である一方、ポリエチレングリコール400の場合、セボフルラン中で自由に溶解可能である。従って、一般的に、ポリアルコール類はセボフルランの重量に対し0.001%から5.0%の量(重量百分率)で用いられるのが好ましい。
【0039】
セボフルランを安定させるのに適切な飽和環式アルコール類として、メントールが好ましい。この物質は、医薬組成物中に用いるのに適切な医薬用賦形剤であり、そしてその毒性学的データが良く知られている。前述したように、この安定剤の量はセボフルラン中で0.001%(重量百分率)から飽和濃度(即ち、約6.8%)に至るまで用いられるが、セボフルランの重量に対し0.001%から5.0%の量(重量百分率)で用いられるのが好ましい。
【0040】
本発明で用いられる安定剤は、任意の用量でセボフルランの分解を防ぐのに極めて有効であることが判った。吸入麻酔の場合に麻酔剤の純度は特に重要であるが、それは、高用量の別の物質が、麻酔剤の蒸気療法及び投与に用いる機械、例えば回路で残留物の貯蔵所またはその製品の蒸気状態を知らせる特別な機械の目盛りにおいて不可欠なものの中で好ましくない作用を引き起こし得るからである。
【0041】
それで、本発明の最も好ましい実施態様では、酸物質によるセボフルランの分解を防ぐために用いられる安定剤の量を10ppmから2,000ppm(セボフルランの重量に対し安定剤0.001%から0.200%)にする。
【0042】
強調すべき重要な因子はその濃度に対する安定剤の行動に関連する。なぜならば、最終製品中の安定剤の濃度は、媒質中で分解される濃度及び不活性化タイプに従って、最終製品の貯蔵中に減少し得るからである。安定剤は、安定させようとする物質、本発明の場合はフルオロエーテル化合物(例えば、セボフルラン)の安定性を害する物質を除去するかまたは不活性化することにより作用する。安定剤の効率は、分解に対するその親和性と直接関係があり、その親和性は安定させようとする物質の分解に対する親和性を数倍超えるべきである。
【0043】
本発明によるセボフルランの安定化方法は、HFIP及びHFの形成を完全に防ぐためにセボフルランに有効量の安定剤を加えるかまたは接触させることからなる。幾つかの工程が提案された安定化方法に適しているが、安定剤とセボフルランとの間に定量的に確立された均質な混合物を形成できる実用的な工程のほうが有利かつ好ましい。本発明で提案された安定化方法に用いられる適切な安定剤の中には、ポリアルコール類及び飽和環式アルコール類がある。本発明の安定化方法に用いられる適切なポリアルコール類の例としてはプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコールまたはこれらの混合物がある。本発明に用いられる適切な飽和環式アルコール類の例としてはメントールがある。
【0044】
一般的に、安定剤は、製造の際に任意の段階でセボフルランに加えられ得、例えば多量の該製品の輸送及び貯蔵のための産業用パッケージ中に、最終薬品を充填するのに用いられる機械の貯蔵所内に、最終医薬組成物を充填する瓶内に、またはセボフルランを操作する任意の段階で加えられ得る。
【0045】
安定剤は、製品を包装する前に、定量測定装置を通してセボフルランに加えられ、安定させようとするセボフルランの量に対し適量の添加と均質な混合物の形成を確保することを可能にすれば好ましい。
【0046】
代案として、提案されたセボフルランの安定化方法によれば、安定剤は、セボフルランを充填する前に貯蔵所に加えられる。
【0047】
安定化されていないフルオロエーテル化合物(例えば、セボフルラン)が酸物質を形成できる表面に露出されることを回避するために、本発明の安定化方法は多様な工程によりその化合物を安定剤で処理し、究極的に酸物質を除去するか又は不活性化することを提案する。本発明の別の実施例によれば、安定剤は、ガラス、プラスチック、鋼または他の材料からなる瓶のような容器をその安定剤で洗浄することにより容器と接触するようになる。安定剤の物理的特性に基いて、安定剤はセボフルランの貯蔵瓶又は貯蔵容器の内面で噴霧、気化または散布され、その内面上に膜を形成し得る。
【0048】
殆どのパッケージ材料は酸性の物質類またはそれらの混合物からなる。もし該パッケージ材料がそのような物質を含んでいなければ、該材料は操作の任意の段階で該物質と接触することができる。セボフルランの分解は、専ら触媒量の酸物質により開始される連鎖メカニズムであるため、セボフルランをそのような酸物質に露出させることはセボフルランの安定性を損なうことになり得る。従って、本発明は、酸物質によるフルオロエーテル化合物(例えば、セボフルラン)の分解を防ぐ解法を提供し、またそれはセボフルランの貯蔵用パッケージであればどんなタイプにも適している。
【0049】
触媒量の酸不純物の存在はセボフルランの安定性を損なう可能性があるため、安全性の測定には安定剤を含むものだけを用いる。こうして、別の実施態様によれば、本発明は、ガラスだけでなくプラスチック材料、鋼、樹脂類、ポリマー類、または加工、貯蔵、輸送、防腐、操作などの際に酸物質と接触するか或いは酸不純物を持つ可能性のある任意の材料からなるパッケージ中に包装されたセボフルランを安定させるのに用いられる。
【0050】
本発明は、ポリアルコール類及び飽和環式アルコール類のような物質が酸物質によるセボフルランの分解を防ぐのに重要な特性を持ち、また作用することを見出した。ここで、安定剤として水を提案した従来技術に対する本発明の優れた点は、酸物質の存在下でHFIP及びHF、及びセボフルランのその他の分解生成物の形成を防ぐことができるというところにある。
【0051】
本発明により、酸物質と接触する際にそのような有害な作用を受ける可能性のあるセボフルランのような化合物類及びそれらに類似した他のフルオロエーテル化合物類を安定させる新たな部類の物質を導入することができた。
【0052】
本明細書に記載されている実施例の中で比較実験は、フルオロエーテル化合物、セボフルランの分解を防ぐ本発明の化合物の能力を証明している。ここで、これらの化合物による防止効果は文献WO98/32430号に記載されているような、水により期待できる防止効果に比べて最も有効である。
【0053】
また実施例、好ましくはフルオロエーテル化合物、セボフルランに関する実施例に記載されている実験結果によれば、本発明が無水セボフルランの安定化に限られるものではないことが判る。
【0054】
“安定剤として水を含むセボフルラン”の試料をアルミナのような酸物質に露出させた実験結果によれば、そのような安定化が有効でないことが判った。その理由としては、フッ化物含量の増加及びHFIPの形成を伴う試料の分解が表れ、これは正に水の安定化能力が低いことを示すものであるからだ。
【0055】
本発明の安定剤を含む、ぬれた試料は分解されないが、それは正にこれらの物質の安定化能力が高いことを意味するものである。
【0056】
前述したように、水中のセボフルランは、実施例中の実験結果から明らかなように、速度は遅いものの相当程度の加水分解を受ける。本発明の化合物はそのような分解を完全に阻害できるが、それはHFIP及びフッ化物の含量が増加しないからである。
【0057】
本発明によれば、セボフルランを安定させるために提案された化合物類はまた、水含量20ppm以上のセボフルランを安定させるのにも有効である。従って、該化合物は、飽和濃度約1400ppm(0.14%)に至るまでの水含量を持つ、ぬれたセボフルラン中で用いられる場合にも有効な安定剤である。
【0058】
本発明は、セボフルラン及びそれに類似した化学的特性を持つフルオロエーテル化合物類を安定させるのにあたって非制限的な範囲を有する。即ち、本発明は、組成物に適しているだけでなく、セボフルランまたはフルオロエーテル化合物が製造または貯蔵され得るあらゆる溶液にも適している。
【0059】
本発明については、以下の非制限的な実施例により更に具体的に説明する。以下の実施例の組成物または方法が好ましい例として記載されていても、本発明の範囲を超えない幾つかの変更が可能であることは当業者にとって明らかなことである。
【0060】
以下の実施例において、ガスクロマトグラフィーによる分析は、全てセボフルラン試料10mL中にトルエン(内標準)2μLを加えて行われた。この分析は二重に行われ、得られた各々のクロマトグラムに対し各々の不純物の面積/トルエンの面積の比率を計算した。表に示された数値は二重に行われたクロマトグラフィー分析から得られた平均比率を表す。
【実施例1】
【0061】
酸物質によるセボフルランの分解
この実験は、安定剤を用いる以下の実験で用いられるストレス条件を選択するために行われた。
【0062】
酸物質によるセボフルランの分解は、例えば無水セボフルランの試料をアルミナ(Al2O3)と接触させ、60℃で22時間加熱処理した場合に観察され得る。
【0063】
このテストで用いられたセボフルランはモレキュラーシーブで予め乾燥させ、水含量を20ppmに調整した。100mL用量のタイプIIIガラス瓶2本に無水セボフルラン20mLを加え、そのうち1本の瓶にはアルミナ20mgを加え、最終的にセボフルラン1mLあたり1.0mgのAl2O3が存在するように調整した。両方の瓶はストッパー及び金属製のスクリューキャップを閉めて、60℃のストーブで22時間加熱処理した。その後、該試料は、内標準添加法(トルエン)を用いガスクロマトグラフィーにより二重に分析した。図3は、分解が観察されない、アルミナの不在下で加熱した無水セボフルラン試料のクロマトグラムを示す。ガスクロマトグラフィーによりモニターされたセボフルランの分解生成物、即ちHFIP、アセタール、2,5,7及び8は、図4に示したように、加熱後アルミナを含むセボフルランの試料で多量に存在する。
【0064】
図5は、アルミナの作用下でのセボフルランの分解図式を示すが、これは不純物が観察されまたモニターされることを意味する。
【0065】
活性化アルミナの使用量がセボフルランの分解を相当な程度に引き起こすのに十分であったため、セボフルランに対する安定剤を選択するための実験では、そのような用量を用いた。
【実施例2】
【0066】
セボフルランの安定性に対する水の影響
この実施例はセボフルランの安定性に対する水の影響に関する研究である。WO98/
32430号によれば、セボフルラン中150ppmから1400ppmの水含量によりセボフルランの安定性が確保され、従って分解性生物の形成が妨げられる。
【0067】
この実験は、モレキュラーシーブで乾燥させ水含量が20ppmになるようにしたセボフルランを用いて行われた。セボフルランの保護または分解程度は、水の存在下にアルミナと接触させた状態で、セボフルラン1mLあたりアルミナ1mgの存在下または不在下で、様々な水含量を持つセボフルラン試料から評価した。これらの試料を用意し、タイプIIIガラス瓶の中に入れ、その瓶はストッパー及びスクリュー金属製のキャップを閉めた。
【0068】
試料は、一方に対しては60℃のストーブで22時間、他方に対しては72時間それぞれ加熱することにより2つのストレス条件にさらされた。
【0069】
下記の表1は試料に対するクロマトグラフィー分析の結果を示す。
【0070】
【表1】
【0071】
水とアルミナの存在下で得られた以上の結果によれば、総不純物及びHFIPの数値はこの実験の関数としてかなり異なってくる。それらの結果は、最初600ppmの水だけを含むアルミナによりセボフルランの分解が妨げられることを示すにもかかわらず、HFIPに対して得られた数値はまた比較的に高く維持された。
【0072】
図6は、より酷いストレス条件下でセボフルランの平均分解生成物の変化を示す。水含量20ppmを含む試料より水含量100ppmを含む試料でより多くのセボフルランの分解がなされた結果から、水はWO98/32430号に記載されているような単なる安定剤でなく、酸条件下でセボフルランの分解メカニズムに関与する、セボフルランの分解を引き起こすのに重要な役割を果たし得るということを意味する。数多くの有機反応で見られるのと同様に、セボフルランの分解がより高い濃度の水により阻害されるということは明らかである。しかし、Wallinなどの文献[R. F. Wallin, B. M. Regan, M. D. Napoli, I. J. Stern Anethesia and Analgesia 1975, 54 (6), 758]に記載されているように、水中のセボフルランは、速度は遅いものの相当程度の加水分解を受ける。それは、水がセボフルランの分解を促す一部のメカニズムに関与し得る仮説を支持する証拠であり、かつ本実験で得られた結果でも観察された。
【実施例3】
【0073】
ポリアルコール類または飽和環式アルコール類の添加による、アルミナによる分解に対するセボフルランの安定化
本実験で、アルミナによるセボフルランの分解は、ポリアルコール類及び飽和環式アルコール類により妨げられる。各々の群から選ばれた物質はそれぞれプロピレングリコール及びメントールであった。
【0074】
試料は安定剤をそれぞれ0、50、200、600、1000及び1400ppm含むように用意した。これらの試料を用意するために用いられたセボフルランは、モレキュラーシーブで予め乾燥させ、水含量が20ppmになるようにした。本実験では、セボフルランを酸物質と接触させ、それらの試料を60℃で22時間加熱することによりストレス条件にさらされた後、セボフルランのクロマトグラフィ純度を比較することにより評価した。酸物質としての活性化アルミナは、セボフルラン1mLあたり1mgの恒量で用いられた。
【0075】
100mLの用量を持つタイプIIIガラス瓶の中に、一定量の安定剤(0、50、200,600、1000及び1400ppm)及びアルミナ20mgを含むセボフルラン試料20mLを入れた。それらの瓶は直ちにストッパー及びスクリュー金属製のキャップを閉めた。それらの瓶を60℃のストーブで22時間加熱処理した。ストレスにさらされた後、それらの試料を内標準添加法(トルエン)を用いるガスクロマトグラフィーにより二重に分析した。それと平行して、アルミナの不在下で一定量の安定剤(0,50,200,600,1000及び1400ppm)に対する実験を行った。
【0076】
表2は、アルミナによる分解に対しセボフルランの安定化を図るために提案された安定剤、プロピレングリコール及びメントールを用いたテストの結果を要約したものである。ここで、総不純物及び単一不純物HFIPに対する結果は、60℃で22時間のストレスにさらされた後、アルミナの存在下又は不在下で得られたものである。総不純物は各々の不純物の面積及び内標準(トルエン)の面積の間の比率の合計であり、HFIPはクロマトグラムで得られたHFIPの面積及びトルエンの面積の間の比率である。
【0077】
【表2】
【0078】
表2の結果によれば、アルミナの不在下で、異なる濃度の安定剤を含む試料に対する平均総不純物の数値は、安定剤の不在下で得られた数値にかなり近接している。アルミナの存在下で、安定剤なしのセボフルランに対し観察された高い平均総不純物量の数値は、安定剤としてプロピレングリコール又はメントールを含む試料で著しく減少する。図7は、プロピレングリコール50ppmを含むセボフルランが、60℃で22時間ストレスにさらされた後、アルミナの存在下で分解されなかったことを示し、実施例2と比較してみると、それは水より優れた安定剤であることが判る。
【実施例4】
【0079】
安定剤の濃度の関数としてセボフルランの総不純物量の変化
図8は、1mLあたり1mgのアルミナの存在下或いは不在下でプロピレングリコールの濃度の関数として、60℃で22時間のストレスにさらされた後、セボフルランの平均総不純物量を比較するバーグラフを示す。この図は、アルミナによる分解に対し50ppmの濃度、及び実験を行った全ての濃度で予め存在するプロピレングリコールによるセボフルランの有効な安定化について証明する。
【0080】
プロピレングリコールを含む試料に対する平均総不純物量はアルミナの有無により変化しなかったが、これはセボフルランの優れた安定化作用を証明するものであった。
【0081】
メントールはまた、アルミナによる分解に対するセボフルランの安定化において有効であり、その安定化効果はその濃度に依存しない(表2参照)。メントールを用いた場合のセボフルランの総不純物量は、アルミナの不在下でプロピレングリコールを含む試料で得られた数値に比べて殆ど変わらないが、メントールによる安定化が、水を用いた場合に比べて同等かまたはそれ以上有効である(表1参照)。
【実施例5】
【0082】
安定剤の濃度の関数として不純物HFIPの変化
図9は、プロピレングリコール50ppmが、260ppm(濃度)のアルミナの存在下で(ここで、該試料は、アルミナなしの試料に比べてより高いHFIP数値を示した)セボフルランの分解を完全に阻害することができなかった水の場合とは違って、セボフルランの分解及びHFIPの形成を防ぐのに十分であることを示す(表1参照)。
【0083】
水による見掛けの阻害は相対的で、不純物HFIPの数値がアルミナなしの試料に対し約10倍増加したが、これはセボフルランの分解を証明するものであった。このような現象はプロピレングリコールでは観察されなかったが、プロピレングリコールを用いた場合、HFIPの数値はアルミナの有無とは関係がなかった。
【0084】
メントールを含むセボフルランの場合に、図10はメントールの濃度が増加することにつれ不純物HFIPが減少することを示す。
【0085】
プロピレングリコールに対する総不純物及び単一不純物の結果(それぞれ実施例4及び5)によれば、アルミナによる分解に対しプロピレングリコールが十分な安定化効果を有することが判る。その効果は主に、アルミナの不在下での結果に対し、アルミナの存在下での不純物の結果が変わらないということである。
【0086】
その結果は、プロピレングリコールが水に比べてより良い安定剤であり、従って酸物質によるセボフルランの分解を完全に防ぎ、主にセボフルランの第1の分解生成物であるHFIPの形成を防ぐということを意味する。
【実施例6】
【0087】
セボフルランに加えられた様々な安定剤の効果の比較
本実験では、水、プロピレングリコール及びポリエチレングリコール(これらは全て50ppmの濃度で用いられる)によるセボフルランの安定化効果を比較する。
【0088】
表3は60℃で12時間のストレスにさらされた後、アルミナの存在下又は不在下で、安定剤として水、プロピレングリコール及びポリエチレングリコール50ppmを含むセボフルランの試料の総不純物及び単一不純物(HFIP)に対する結果を示す。
【0089】
【表3】
【0090】
図11は、表3の結果から導き出された、総不純物量における安定剤の効果を比較するバーグラフである。プロピレングリコール及びPEG400のようなポリアルコール類を用いた場合に、アルミナにより触媒されたセボフルランの分解は完全に阻害された。プロピレングリコールのように、PEG400は、260ppmの濃度ですらHFIPの形成を防ぐことができなかった水とは違って、HFIPの形成を完全に阻害した。
【0091】
図12は、表2(メントール)及び表3(水、プロピレングリコールまたはPEG400)の結果から導き出された、一定量50ppmの安定剤の関数として、セボフルランの主な分解生成物の変化を示すバーグラフである。水50ppmを含む試料で、分解と共にHFIP,アセタール、2及び5の形成が観察された。一方、プロピレングリコールまたはPEG400を含む試料では、アルミナにより触媒される分解が完全に排除される。水は、アルミナによるセボフルランの分解を完全に阻害することができず、従って全ての分析で検出された、平均総不純物の結果で多量に存在する不純物HFIP及びアセタールの量を増加させた。
【実施例7】
【0092】
アルミナによる分解に対するセボフルランの安定化。不純物、分析及びフッ化物の限界値
この実験でアルミナはセボフルラン1mL当たり1mgの最終濃度で用いられた。セボフルランの試料は、プラスチック製のストッパー及びスクリュー金属製のキャップで閉められたタイプIIIアンバーガラス瓶の中に、水260ppmまたはプロピレングリコール260ppmを含むように用意され、その後60℃で22時間のストレスにさらされた。
【0093】
表4は、ストレス後水またはプロピレングリコール260ppmを含む試料をガスクロマトグラフィーにより分析した結果を示す。プロピレングリコールを含む試料の場合、セボフルランの分解を完全に阻害することができ、プロピレングリコールを含む製品は単一不純物及び総不純物の基準を満たす。しかしながら、水260ppmは、アルミナによるセボフルランの分解を阻害することができず、水を含む製品は、ストレス後単一不純物量及び総不純物量の基準を満たさなかった。
【0094】
【表4】
【0095】
アルミナの存在下に、水260ppmを含む試料で分解の増加が観察され、その試料はクロマトグラフィー純度分析及びアッセイに関する薬局方フォーラムUSPの基準を満たせなかった。
【0096】
本実験で観察されたもう1つの重要な因子は、ストレスにさらされた試料におけるフッ化物の量である。表5は、テストに用いられた無水セボフルランに対する結果及びストレス条件にさらされた試料に対する結果を示す。
【0097】
【表5】
【0098】
表5に示したように、フッ化物の定量分析で、安定剤として水を含む試料は高い数値を記録した。ストレスにさらされたこの試料で、フッ化物の量はストレスの前に分析した源試料に比べて339倍多く、確立された最大限界値より8倍多かった。それらは、かなりの分解が起こること、並びに水がセボフルランの分解に対する阻害剤として有効でないことを意味する。その結果とは違って、ポリエチレングリコール260ppmを含むセボフルランの試料はアルミナの存在下でいかなる分解も見せなく、薬局方フォーラムvol 27 no3に定められた基準を満たす。ここで、フッ化物の含量は源試料に比べて変化が見られなかった。
【実施例8】
【0099】
ポリアルコール類による、ぬれたセボフルランの安定化
この実験では、ぬれたセボフルランの分解を阻害するにあたってポリアルコールの安定化作用について説明する。実施例7で、安定剤として水を含む場合に、セボフルランはかなり分解された。この実験は、ポリアルコール、例えばプロピレングリコールを用いぬれたセボフルランを安定させ、酸物質によるセボフルランの分解を阻害するということを証明するために行われた。
【0100】
アルミナはセボフルラン1mL当たり最終濃度1mgで用いられた。セボフルランの試料は、プラスチック製のストッパー及びスクリュー金属製のキャップで閉められたタイプIIIアンバーガラス瓶の中に、水260ppm、または水260ppm及びプロピレングリコール260ppmの混合物を含むように用意され、その後60℃で22時間のストレスにさらされた。
【0101】
この実験は、セボフルランのぬれた試料で観察された分解に対するプロピレングリコールの安定化作用を証明するために行われた。
【0102】
試料に対するフッ化物の限界値及びガスクロマトグラフィー分析の結果は表6に示した。
【0103】
【表6】
【0104】
前述した実験結果によれば、アルミナによるセボフルランの分解に対する水の保護作用は、水が260ppmの濃度で用いられた場合、不十分であった。
【0105】
本実験で、我々は酸物質により触媒された無水セボフルランの分解に対し有効な保護を提供するプロピレングリコールの有効性だけでなく、ぬれたセボフルランンに対するプロピレングリコールの有効な保護作用(その安定化作用は水と無関係であることを示す)を確認することができた。
【0106】
本発明の有効性を証明するために示したこれらの実験はただ例示的なものに過ぎず、本発明の範囲を制限するわけではない。本発明は、本明細書で言及した、麻酔剤として使用される様々なフルオロエーテル化合物に適している。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】図1は、表面に結合されたルイス酸(LA)の存在下でセボフルラン(S)が分解され、誘導体1,2,3及びアセタールが形成される図式を示す。
【図2】図2は、フッ化水素酸(HF)と完全なガラス表面(V)との反応図式を示し、ここで表面上により多くのルイス酸(LA)が露出される。
【図3】図3は、アルミナの不在下に60℃で22時間加熱処理した後の無水セボフルラン(水含量=20ppm)のクロマトグラムを示す。
【図4】図4は、セボフルラン1mLあたりアルミナ1mgの存在下に60℃で22時間加熱処理した後の無水セボフルラン(水含量=20ppm)のクロマトグラムを示す。
【図5】図5は、アルミナの存在下でのセボフルランの分解図式を示す。
【図6】図6は、試料を60℃で72時間加熱処理した後、アルミナ(セボフルラン1mLあたり1mg)による分解に関連する、セボフルランの安定化における水の効果を示す。
【図7】図7は、セボフルラン1mLあたりアルミナ1mgの存在下に60℃で22時間加熱処理した後、プロピレングリコール50ppmを含む無水セボフルランのクロマトグラムを示す。
【図8】図8は、試料を60℃で22時間加熱処理した後、アルミナ(セボフルラン1mLあたり1mg)による分解に関連する、セボフルランの安定化におけるプロピレングリコールの効果を示す。
【図9】図9は、試料を60℃で22時間加熱処理した後、アルミナ(セボフルラン1mLあたり1mg)による分解に関連する、HFIP不純物成分の安定化におけるプロピレングリコールの効果を示す。
【図10】図10は、試料を60℃で22時間加熱処理した後、アルミナ(セボフルラン1mLあたり1mg)による分解に関連する、HFIP不純物成分の安定化におけるメントールの効果を示す。
【図11】図11は、試料を60℃で22時間加熱処理した後、アルミナ(セボフルラン1mLあたり1mg)の存在下又は不在下にPEG400を50ppmまたはプロピレングリコールを50ppm含む無水セボフルラン(水含量約20ppm)の平均総不純物量を比較した結果を示す。
【図12】図12は、試料を60℃で22時間加熱処理した後、アルミナ(セボフルラン1mLあたり1mg)の存在下に水、プロピレングリコール、PEG400又はメントールを50ppm含むセボフルランの分解生成物を比較した結果を示す。ここで“ゼロ”はアルミナの不在下に60℃で22時間加熱処理した後水を50ppm含むセボフルラン試料から得られた結果に相当する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸物質により引き起こる分解に対しフルオロエーテル化合物を安定させることを目的とする。
【0002】
特に、本発明は麻酔特性を有するフルオロエーテル化合物類の安定化、及び麻酔に使用するための、フルオロエーテル化合物類の安定した医薬組成物に関する。用いられる安定剤は適切な医薬化合物類から選ばれ、そして安定した医薬組成物の製造に用いられる。本発明はまた、フルオロエーテル化合物の分解(その分解は酸物質により引き起こる)を防ぐ方法、及びそのようなフルオロエーテル化合物の分解を防ぐための安定剤の使用にも関する。
【0003】
本発明に関する、麻酔特性を持つフルオロエーテル化合物はセボフルラン(sevoflurane)、デスフルラン(desflurane)、イソフルラン(isoflurane)、エンフルラン(enflurane)及びメトキシフルラン(methoxiflurane)を含む。それらのフルオロエーテル化合物のうち、本発明はセボフルランに対し特別な用途を有する。
【0004】
本発明による酸物質とは、酸性を表す物質、特に多様な条件下でセボフルランのようなフルオロエーテル化合物と接触し得る、酸性を持つ金属の不純物を意味する。
【背景技術】
【0005】
フルオロエーテル化合物類の分解は、これらの化合物に対し反応性プロファイル又は挙動を示す物質と混合される際に一般的に起こる現象である。
【0006】
分解類型の中で、フルオロエーテル化合物、セボフルラン製品の蒸発回路に一般的に用いられるCO2(二酸化炭素)吸収剤により引き起こる該化合物の分解が知られている。それらCO2吸収剤は、“ソーダ石灰”(水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる)及び“バラライム(baralime)”(水酸化カルシウム及び水酸化バリウムからなる)のように比較的強酸であり、両方の吸収剤は共にCO2の有効且つ効率的な吸収を提供するために14%から19%の水含量を有する。分解のメカニズムは、それらの塩基によりセボフルランからプロトン酸が除去されると共に、化合物A(2−(フルオロメトキシ)−1,1,3,3,3−ペンタフルオロ−プロペン;ヒトで腎毒性を引き起こす可能性が提起されている)として知られているオレフィンが形成されることに関連する。文献[Royal College Of Anesthetics Newsletter - January 2000, Issue no. 50 pg. 287-289]参照。
【0007】
通常のCO2吸収剤によるそのような分解を回避するために、開放回路でのセボフルランの使用及び低溶剤揮発法の利用が、これらの麻酔剤の利用において専門家および麻酔医に薦められてきた。
【0008】
また、相当量の化合物Aの生成を伴う可能性のあるセボフルランの分解は、そのような分解を回避することのできるCO2吸収剤(例えば、登録商標AMSORB)の開発に対する直接的な動機となった。文献[J.M. Murray et al, “Amsorb - a new carbon dioxide absorbent for use in anesthetic breathing systems”- Anesthesiology 1999]参照。
【0009】
麻酔過程で製品の揮発回路にだけ関連して引き起こる蓋然性の高い、CO2吸収剤の存在下での、セボフルランの分解メカニズムの他に、第2の分解メカニズムが確認された。それは、セボフルランと接触しているルイス酸の存在に起因する。たとえこのメカニズムがラジカル−C−O−C−Fを示す任意のフルオロエーテル化合物にまで及ぶとしても、セボフルランはそのような分解に特にさらされやすいということが判った。
【0010】
図1は、WO98/32430号に提案された、ルイス酸により触媒されたセボフルラン(S)の分解メカニズムを示す。このメカニズムで、セボフルランの分解はセボフルランのパッケージとして用いられたガラス瓶の組成中に存在するルイス酸(LA)により触媒される。
【0011】
化学的に、ガラスはケイ酸塩からなり、その他に少量の酸化アルミニウムを含む。ガラスは、いったん製造された後に、その表面を不活性化する(即ち、ケイ酸に結合された遊離ヒドロキシルが露出されることを防ぐ)ための処理を必要とする。しかし、そのようなヒドロキシルの露出は、ガラス表面の消耗またはスロットの存在により起こり得る。ガラス表面の消耗などは、該物質を無菌化する間或いは任意の製造段階で起こり得る。ケイ酸に結合されたヒドロキシルは、露出される場合に、セボフルランと接触し、よってセボフルランの分解をもたらす。
【0012】
図1に示されているセボフルランの複雑な分解メカニズムは、毒性の揮発性物質の形成をもたらし、その中でフッ化水素酸、またはガラスとの反応から由来した他の化合物、SiF4(四フッ化ケイ素)は呼吸器に対し極めて腐食性物質である。
【0013】
更に図1に示されたメカニズムによれば、それが連鎖メカニズムであることが推論できる。ここで、分解生成物、特にフッ化水素酸は、図2に示されている反応を通ってガラスの完全性(G)を損ない、表面(LA)上により多くのルイス酸を露出させ、それらはセボフルランの新しい分子と反応し、分解メカニズムを再開することになる。
【0014】
現在利用可能な吸入麻酔剤の中で、セボフルランは医療関係者および彼らの患者によりよく許容されている。この麻酔剤は、1990年日本で使い始められてから、他の吸入麻酔剤に対するその質の良さ、主に快適で非刺激性の臭気及び大人及び子供での迅速な誘導及び回復に起因して幅広く使われてきた。
【0015】
この製品は、最初からガラスパッケージ(幾つかの吸入麻酔剤に対し選択可能なパッケージの一種である)の状態で市販された。ガラスの質は、その表面に結合されている触媒量のルイス酸の存在から見ると、制御が殆ど不可能であるため、セボフルランの安定化方法または安定した組成物の開発は、このようなパッケージ分野の市場で生き残るために根本的に重要な要素である。
【0016】
ルイス酸として作用する特性をもつ部類の物質はかなり広範囲である。ルイス理論によれば、酸は電子双を受容し共有結合を形成することのできる、空き軌道を持つ種類に該当する。要するに、酸は電子双の受容体であり、塩基は電子双の供与体である。文献[John B. Russel - Quimica Geral - 1982 pg.395]参照。ルイスの分類により酸として含まれ得る物質の範囲によっては、ガラスだけでなく、セボフルランと接触できるその他のパッケージ類、容器類又は物質類もセボフルランの安定性を損なう可能性を持つ。
【0017】
ルイス酸に起因して起こる分解に対する解法を提案する、セボフルランの分解について取り扱っている幾つかの文献がある。例えば、WO98/32430号は、セボフルランの分解を回避するためにルイス酸阻害剤を使用することについて開示している。この特許によれば、セボフルランの分解を回避するために水が用いられるが、その濃度はセボフルランの重量に対し150ppmから1,400ppm(即ち、0.0150%から0.1400%)であれば好ましい。多量のルイス酸を用いて行われた実験で、水によるセボフルラン分解の阻害が確認された。
【0018】
WO98/32430号は水によるセボフルラン分解の阻害を示唆しているが、実際のところ、水は、セボフルラン分解を阻害するための推奨量で用いられても有効でないことが証明された。その理由は、該溶液がHFIP(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール)を形成し、それは更に分解されアセタール(メチレングリコールビス−ヘキサフルオロイソプロピルエーテル)及びフッ化水素酸を形成するからである。
【0019】
セボフルランの分解を回避するための方法について開示している他の文献としてUS6,074,668号がある。それは、セボフルランを貯蔵するための容器を提案している。この容器は、前述したメカニズムによりセボフルランの分解を引き起こす、触媒量のルイス酸による分解を回避するためにガラス以外の物質からなる。そのような容器の材料はポリエチレンナフタレート(PEN)であり、ここで著者は、外科(手術)で発生可能な事故に起因する容器の破損及びセボフルラン分解を回避することに注目し、ガラスの代わりに上記材料をもっとも適切なものとして提案している。ポリエチレンナフタレートは、該麻酔剤に対し不浸透性を持つプラスチックのような外観の材料であり、該麻酔剤の貯蔵のためにガラスの代用品として用いられ得る。そのような部類の材料の、パッケージとしての主な短所は、高い値段と現時点ではそれをリサイクルする手段が欠けているという点にある。
【0020】
麻酔用フルオロエーテル化合物類、特にセボフルランの分解問題に対する解法が未だ論文などで殆ど提案されていないため、この化合物を安定させ、酸物質による分解を制御するのに有効な方法の開発が強く求められている。
【0021】
プラスチック材料のような、他の材料からなるパッケージを用いることを開示している他の文献によれば、例えば揮発性物質に対するその材料の浸透性のような幾つかの問題が見られた。この部類の中で選ばれ得るものとしては、US6,074,688号に記載されているような特殊プラスチックまたはポリマー材料がある。これらの材料は、値段が高いばかりか、リサイクルすることができないため、環境にやさしく、容易にリサイクルできるガラスからなるパッケージに比べて、環境を汚染させる廃棄物になる。これらの材料の他の短所としては、アセトアルデヒド移動の可能性であり、その物質は、熱によるパッケージ押出しプロセスの間に、並びにポリエチレンポリマーを含むパッケージの幾つかの分解メカニズムに起因して生成される。
【0022】
ポリエチレンナフタレート(PEN)のパッケージ中でアセトアルデヒドによるセボフルランの汚染の危険性は、SevoFlo(登録商標名)製品のEMEA(医薬品を評価するヨーロッパの機関である)モノグラフ中に既に記載されている。
【0023】
そのような不便さに加えて、これらの材料は、ルイス酸として分類され得るか、または任意の製造段階あるいは操作の際にルイス酸で汚染され得る恐れがある。ここで、ルイス酸はこれらの材料と接触している間にセボフルランの分解メカニズムを開始し得る。
【0024】
セボフルランの分解阻害剤として水を提案している文献WO98/32430号に記載されている解法によれば、水は該化合物の分解を適切に防ぐのに十分な能力を持つものではなかった。なぜならば、HFIP(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール)の形成が観察されたということは、このメカニズムが他の分解生成物、即ちフッ化水素酸の形成を防ぐのに不十分であることを示す確実な証拠になるからである。この文献により支持される証拠に加えて、Wallinなどの文献[R.F.Wallin, B.M. Regan, M.D. Napoli, I.J.Stern Anesthesia and Analgesia 1975, 54(6), 758]により報告されたセボフルランの分解、即ち水中で該化合物が速度は遅いものの相当程度の加水分解を受けるということがまた良く知られている。HFIPの形成及びセボフルラン加水分解に関する情報はまた、水がセボフルラン分解メカニズムに係っている可能性があることを示唆する。つまり、これは、水が該麻酔剤の分解に対する信頼できる阻害剤でないことを意味する。
【発明の開示】
【0025】
先行技術による全ての不便を克服するために、本発明は、セボフルランのようなフルオロエーテル化合物を含む安定した麻酔剤組成物、及びポリアルコール類及び飽和環式アルコール類からなる群から選ばれる一種以上の有効量の安定剤について開示する。本発明で安定剤として用いるのに適切なポリアルコール類としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、へキシレングリコール及び1,3−ブチレングリコールがある。本発明による適切な環式アルコール類の例としてはメントールがある。
【0026】
セボフルラン(CAS 28523−86−6)は、その化学名フルオロメチル2、2、2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチルエーテル、分子量200.06、分子式C4H3F7Oで、図1で文字Sとして示した構造式を有する。
【0027】
プロピレングリコールは化学名1,2−プロパンジオール(CAS 57−55−6)を有する。
【0028】
ポリエチレングリコール(CAS 25322−68−3)は一般式H(OCH2CH2)nOHのポリマーに該当し、ここでnは4以上である。一般的に、各々のポリエチレングリコールにはその平均分子量に相応する数字が付く。
【0029】
ヘキシレングリコールは化学名2−メチル−2,4−ペンタンジオール(CAS 107−41−5)を有する。
【0030】
1,3−ブチレングリコールは化学名1,3−ブタンジオール(CAS 107−78−1)を有する。
【0031】
メントールは化学名(1アルファ、2ベータ、5アルファ)−5−メチル−2−(1−メチルエチル)シクロヘキサノール(CAS 89−78−1)を有する。
【0032】
本発明の医薬組成物は、酸物質によるセボフルランのようなフルオロエーテル化合物の分解を防ぐために、安定剤にセボフルランのようなフルオロエーテル化合物を加えるか、またはセボフルランのようなフルオロエーテル化合物に有効量の安定剤を加えることにより製造され得る。本発明による酸物質は、酸性を持つ物質、具体的には酸性を持つ金属性不純物を意味し、これらは様々な条件下でセボフルランのようなフルオロエーテル化合物と接触することができる。
【0033】
本発明はまた、フルオロエーテル化合物、最も具体的にはセボフルランのような麻酔用フルオロエーテル化合物の安定化方法について開示する。このような安定化方法は該化合物の分解を防ぐためにセボフルランのようなフルオロエーテル化合物に有効量の安定剤を加えるかまたは接触させることからなる。本発明による安定化方法に用いられる適切な安定剤の例としては、ポリアルコール類及び飽和環式アルコール類がある。本発明による安定化方法、特にセボフルランの安定化方法に用いられる適切なポリアルコール類の例としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコールまたはそれらの混合物がある。本発明で用いられる適切な飽和環式アルコール類の例としては、メントールがある。
【0034】
本発明によれば、セボフルランのようなフルオロエーテル化合物は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、またはそれらの混合物からなる群から選ばれるポリアルコール、及び飽和環式アルコール(メントールを含む)のような物質を用いることにより安定化され得る。これらの物質は、HFIP,HF及びセボフルランの他の分解生成物の形成を防ぎ、酸性を持つ反応性物質からセボフルランを保護するのに極めて有効である。
【0035】
更に本発明は、ポリアルコール類及び飽和環式アルコール類のような安定剤を加えることにより酸物質の存在下で分解しなしセボフルランを含む麻酔剤組成物について開示する。本発明はまた、セボフルランの安定した麻酔剤組成物を製造する方法について開示する。
【0036】
本発明の医薬組成物は、安定剤に対し任意量(重量)のセボフルランを含む。吸入麻酔剤として用いられる場合、本発明の医薬組成物は、セボフルランを最終組成物に対し95%から99.999%までの濃度(重量百分率)で含むのが好ましい。本発明の医薬組成物に加えられた安定剤は、酸性を持つ反応性物質の存在下でセボフルランの分解を防ぐことのできる物質である。このような安定剤はポリアルコール類及び飽和環式アルコール類からなる群から選ばれる。本発明で安定剤として用いられる適切なポリアルコール類の例としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコールまたはそれらの混合物がある。本発明に用いられる適切な飽和環式アルコール類の例としてはメントールがある。
【0037】
フルオロエーテル化合物、最も具体的にはセボフルランに対する安定剤は、セボフルランに対し0.001%(重量百分率)からそれがセボフルラン中で飽和濃度(即ち、安定剤がセボフルラン中で溶解された状態を維持できる最高濃度)に至るまで用いられる。そのような飽和を達成する安定剤の量は、安定剤の種類及び温度により異なり、そしてこれらの物質中で溶解度プロファイルにより多くなることもある。これは、例えばセボフルラン中で自由に溶解可能なポリエチレングリコール400の場合である。一般的に、本発明で安定剤はセボフルランに対し0.001%から5%の濃度(重量百分率)で用いられるのが好ましい。しかし、それより高用量の安定剤も本発明の範囲に含まれるが、これは任意量の安定剤が標的物質を安定させることができるからである。
【0038】
フルオロエーテル化合物、セボフルランを安定させるのに適切なポリアルコール類の中で、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコール及び1,3−ブチレングリコールが選択され得る。これらの物質は医薬組成物中に用いるのに適切な医薬用賦形剤であり、これらの毒性学的データはよく知られている。前述したように、安定剤は、セボフルラン中で0.001%(重量百分率)から飽和濃度に至るまでの量で用いられる。プロピレングリコールの場合、セボフルラン中でその飽和濃度は約2.5%である一方、ポリエチレングリコール400の場合、セボフルラン中で自由に溶解可能である。従って、一般的に、ポリアルコール類はセボフルランの重量に対し0.001%から5.0%の量(重量百分率)で用いられるのが好ましい。
【0039】
セボフルランを安定させるのに適切な飽和環式アルコール類として、メントールが好ましい。この物質は、医薬組成物中に用いるのに適切な医薬用賦形剤であり、そしてその毒性学的データが良く知られている。前述したように、この安定剤の量はセボフルラン中で0.001%(重量百分率)から飽和濃度(即ち、約6.8%)に至るまで用いられるが、セボフルランの重量に対し0.001%から5.0%の量(重量百分率)で用いられるのが好ましい。
【0040】
本発明で用いられる安定剤は、任意の用量でセボフルランの分解を防ぐのに極めて有効であることが判った。吸入麻酔の場合に麻酔剤の純度は特に重要であるが、それは、高用量の別の物質が、麻酔剤の蒸気療法及び投与に用いる機械、例えば回路で残留物の貯蔵所またはその製品の蒸気状態を知らせる特別な機械の目盛りにおいて不可欠なものの中で好ましくない作用を引き起こし得るからである。
【0041】
それで、本発明の最も好ましい実施態様では、酸物質によるセボフルランの分解を防ぐために用いられる安定剤の量を10ppmから2,000ppm(セボフルランの重量に対し安定剤0.001%から0.200%)にする。
【0042】
強調すべき重要な因子はその濃度に対する安定剤の行動に関連する。なぜならば、最終製品中の安定剤の濃度は、媒質中で分解される濃度及び不活性化タイプに従って、最終製品の貯蔵中に減少し得るからである。安定剤は、安定させようとする物質、本発明の場合はフルオロエーテル化合物(例えば、セボフルラン)の安定性を害する物質を除去するかまたは不活性化することにより作用する。安定剤の効率は、分解に対するその親和性と直接関係があり、その親和性は安定させようとする物質の分解に対する親和性を数倍超えるべきである。
【0043】
本発明によるセボフルランの安定化方法は、HFIP及びHFの形成を完全に防ぐためにセボフルランに有効量の安定剤を加えるかまたは接触させることからなる。幾つかの工程が提案された安定化方法に適しているが、安定剤とセボフルランとの間に定量的に確立された均質な混合物を形成できる実用的な工程のほうが有利かつ好ましい。本発明で提案された安定化方法に用いられる適切な安定剤の中には、ポリアルコール類及び飽和環式アルコール類がある。本発明の安定化方法に用いられる適切なポリアルコール類の例としてはプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコールまたはこれらの混合物がある。本発明に用いられる適切な飽和環式アルコール類の例としてはメントールがある。
【0044】
一般的に、安定剤は、製造の際に任意の段階でセボフルランに加えられ得、例えば多量の該製品の輸送及び貯蔵のための産業用パッケージ中に、最終薬品を充填するのに用いられる機械の貯蔵所内に、最終医薬組成物を充填する瓶内に、またはセボフルランを操作する任意の段階で加えられ得る。
【0045】
安定剤は、製品を包装する前に、定量測定装置を通してセボフルランに加えられ、安定させようとするセボフルランの量に対し適量の添加と均質な混合物の形成を確保することを可能にすれば好ましい。
【0046】
代案として、提案されたセボフルランの安定化方法によれば、安定剤は、セボフルランを充填する前に貯蔵所に加えられる。
【0047】
安定化されていないフルオロエーテル化合物(例えば、セボフルラン)が酸物質を形成できる表面に露出されることを回避するために、本発明の安定化方法は多様な工程によりその化合物を安定剤で処理し、究極的に酸物質を除去するか又は不活性化することを提案する。本発明の別の実施例によれば、安定剤は、ガラス、プラスチック、鋼または他の材料からなる瓶のような容器をその安定剤で洗浄することにより容器と接触するようになる。安定剤の物理的特性に基いて、安定剤はセボフルランの貯蔵瓶又は貯蔵容器の内面で噴霧、気化または散布され、その内面上に膜を形成し得る。
【0048】
殆どのパッケージ材料は酸性の物質類またはそれらの混合物からなる。もし該パッケージ材料がそのような物質を含んでいなければ、該材料は操作の任意の段階で該物質と接触することができる。セボフルランの分解は、専ら触媒量の酸物質により開始される連鎖メカニズムであるため、セボフルランをそのような酸物質に露出させることはセボフルランの安定性を損なうことになり得る。従って、本発明は、酸物質によるフルオロエーテル化合物(例えば、セボフルラン)の分解を防ぐ解法を提供し、またそれはセボフルランの貯蔵用パッケージであればどんなタイプにも適している。
【0049】
触媒量の酸不純物の存在はセボフルランの安定性を損なう可能性があるため、安全性の測定には安定剤を含むものだけを用いる。こうして、別の実施態様によれば、本発明は、ガラスだけでなくプラスチック材料、鋼、樹脂類、ポリマー類、または加工、貯蔵、輸送、防腐、操作などの際に酸物質と接触するか或いは酸不純物を持つ可能性のある任意の材料からなるパッケージ中に包装されたセボフルランを安定させるのに用いられる。
【0050】
本発明は、ポリアルコール類及び飽和環式アルコール類のような物質が酸物質によるセボフルランの分解を防ぐのに重要な特性を持ち、また作用することを見出した。ここで、安定剤として水を提案した従来技術に対する本発明の優れた点は、酸物質の存在下でHFIP及びHF、及びセボフルランのその他の分解生成物の形成を防ぐことができるというところにある。
【0051】
本発明により、酸物質と接触する際にそのような有害な作用を受ける可能性のあるセボフルランのような化合物類及びそれらに類似した他のフルオロエーテル化合物類を安定させる新たな部類の物質を導入することができた。
【0052】
本明細書に記載されている実施例の中で比較実験は、フルオロエーテル化合物、セボフルランの分解を防ぐ本発明の化合物の能力を証明している。ここで、これらの化合物による防止効果は文献WO98/32430号に記載されているような、水により期待できる防止効果に比べて最も有効である。
【0053】
また実施例、好ましくはフルオロエーテル化合物、セボフルランに関する実施例に記載されている実験結果によれば、本発明が無水セボフルランの安定化に限られるものではないことが判る。
【0054】
“安定剤として水を含むセボフルラン”の試料をアルミナのような酸物質に露出させた実験結果によれば、そのような安定化が有効でないことが判った。その理由としては、フッ化物含量の増加及びHFIPの形成を伴う試料の分解が表れ、これは正に水の安定化能力が低いことを示すものであるからだ。
【0055】
本発明の安定剤を含む、ぬれた試料は分解されないが、それは正にこれらの物質の安定化能力が高いことを意味するものである。
【0056】
前述したように、水中のセボフルランは、実施例中の実験結果から明らかなように、速度は遅いものの相当程度の加水分解を受ける。本発明の化合物はそのような分解を完全に阻害できるが、それはHFIP及びフッ化物の含量が増加しないからである。
【0057】
本発明によれば、セボフルランを安定させるために提案された化合物類はまた、水含量20ppm以上のセボフルランを安定させるのにも有効である。従って、該化合物は、飽和濃度約1400ppm(0.14%)に至るまでの水含量を持つ、ぬれたセボフルラン中で用いられる場合にも有効な安定剤である。
【0058】
本発明は、セボフルラン及びそれに類似した化学的特性を持つフルオロエーテル化合物類を安定させるのにあたって非制限的な範囲を有する。即ち、本発明は、組成物に適しているだけでなく、セボフルランまたはフルオロエーテル化合物が製造または貯蔵され得るあらゆる溶液にも適している。
【0059】
本発明については、以下の非制限的な実施例により更に具体的に説明する。以下の実施例の組成物または方法が好ましい例として記載されていても、本発明の範囲を超えない幾つかの変更が可能であることは当業者にとって明らかなことである。
【0060】
以下の実施例において、ガスクロマトグラフィーによる分析は、全てセボフルラン試料10mL中にトルエン(内標準)2μLを加えて行われた。この分析は二重に行われ、得られた各々のクロマトグラムに対し各々の不純物の面積/トルエンの面積の比率を計算した。表に示された数値は二重に行われたクロマトグラフィー分析から得られた平均比率を表す。
【実施例1】
【0061】
酸物質によるセボフルランの分解
この実験は、安定剤を用いる以下の実験で用いられるストレス条件を選択するために行われた。
【0062】
酸物質によるセボフルランの分解は、例えば無水セボフルランの試料をアルミナ(Al2O3)と接触させ、60℃で22時間加熱処理した場合に観察され得る。
【0063】
このテストで用いられたセボフルランはモレキュラーシーブで予め乾燥させ、水含量を20ppmに調整した。100mL用量のタイプIIIガラス瓶2本に無水セボフルラン20mLを加え、そのうち1本の瓶にはアルミナ20mgを加え、最終的にセボフルラン1mLあたり1.0mgのAl2O3が存在するように調整した。両方の瓶はストッパー及び金属製のスクリューキャップを閉めて、60℃のストーブで22時間加熱処理した。その後、該試料は、内標準添加法(トルエン)を用いガスクロマトグラフィーにより二重に分析した。図3は、分解が観察されない、アルミナの不在下で加熱した無水セボフルラン試料のクロマトグラムを示す。ガスクロマトグラフィーによりモニターされたセボフルランの分解生成物、即ちHFIP、アセタール、2,5,7及び8は、図4に示したように、加熱後アルミナを含むセボフルランの試料で多量に存在する。
【0064】
図5は、アルミナの作用下でのセボフルランの分解図式を示すが、これは不純物が観察されまたモニターされることを意味する。
【0065】
活性化アルミナの使用量がセボフルランの分解を相当な程度に引き起こすのに十分であったため、セボフルランに対する安定剤を選択するための実験では、そのような用量を用いた。
【実施例2】
【0066】
セボフルランの安定性に対する水の影響
この実施例はセボフルランの安定性に対する水の影響に関する研究である。WO98/
32430号によれば、セボフルラン中150ppmから1400ppmの水含量によりセボフルランの安定性が確保され、従って分解性生物の形成が妨げられる。
【0067】
この実験は、モレキュラーシーブで乾燥させ水含量が20ppmになるようにしたセボフルランを用いて行われた。セボフルランの保護または分解程度は、水の存在下にアルミナと接触させた状態で、セボフルラン1mLあたりアルミナ1mgの存在下または不在下で、様々な水含量を持つセボフルラン試料から評価した。これらの試料を用意し、タイプIIIガラス瓶の中に入れ、その瓶はストッパー及びスクリュー金属製のキャップを閉めた。
【0068】
試料は、一方に対しては60℃のストーブで22時間、他方に対しては72時間それぞれ加熱することにより2つのストレス条件にさらされた。
【0069】
下記の表1は試料に対するクロマトグラフィー分析の結果を示す。
【0070】
【表1】
【0071】
水とアルミナの存在下で得られた以上の結果によれば、総不純物及びHFIPの数値はこの実験の関数としてかなり異なってくる。それらの結果は、最初600ppmの水だけを含むアルミナによりセボフルランの分解が妨げられることを示すにもかかわらず、HFIPに対して得られた数値はまた比較的に高く維持された。
【0072】
図6は、より酷いストレス条件下でセボフルランの平均分解生成物の変化を示す。水含量20ppmを含む試料より水含量100ppmを含む試料でより多くのセボフルランの分解がなされた結果から、水はWO98/32430号に記載されているような単なる安定剤でなく、酸条件下でセボフルランの分解メカニズムに関与する、セボフルランの分解を引き起こすのに重要な役割を果たし得るということを意味する。数多くの有機反応で見られるのと同様に、セボフルランの分解がより高い濃度の水により阻害されるということは明らかである。しかし、Wallinなどの文献[R. F. Wallin, B. M. Regan, M. D. Napoli, I. J. Stern Anethesia and Analgesia 1975, 54 (6), 758]に記載されているように、水中のセボフルランは、速度は遅いものの相当程度の加水分解を受ける。それは、水がセボフルランの分解を促す一部のメカニズムに関与し得る仮説を支持する証拠であり、かつ本実験で得られた結果でも観察された。
【実施例3】
【0073】
ポリアルコール類または飽和環式アルコール類の添加による、アルミナによる分解に対するセボフルランの安定化
本実験で、アルミナによるセボフルランの分解は、ポリアルコール類及び飽和環式アルコール類により妨げられる。各々の群から選ばれた物質はそれぞれプロピレングリコール及びメントールであった。
【0074】
試料は安定剤をそれぞれ0、50、200、600、1000及び1400ppm含むように用意した。これらの試料を用意するために用いられたセボフルランは、モレキュラーシーブで予め乾燥させ、水含量が20ppmになるようにした。本実験では、セボフルランを酸物質と接触させ、それらの試料を60℃で22時間加熱することによりストレス条件にさらされた後、セボフルランのクロマトグラフィ純度を比較することにより評価した。酸物質としての活性化アルミナは、セボフルラン1mLあたり1mgの恒量で用いられた。
【0075】
100mLの用量を持つタイプIIIガラス瓶の中に、一定量の安定剤(0、50、200,600、1000及び1400ppm)及びアルミナ20mgを含むセボフルラン試料20mLを入れた。それらの瓶は直ちにストッパー及びスクリュー金属製のキャップを閉めた。それらの瓶を60℃のストーブで22時間加熱処理した。ストレスにさらされた後、それらの試料を内標準添加法(トルエン)を用いるガスクロマトグラフィーにより二重に分析した。それと平行して、アルミナの不在下で一定量の安定剤(0,50,200,600,1000及び1400ppm)に対する実験を行った。
【0076】
表2は、アルミナによる分解に対しセボフルランの安定化を図るために提案された安定剤、プロピレングリコール及びメントールを用いたテストの結果を要約したものである。ここで、総不純物及び単一不純物HFIPに対する結果は、60℃で22時間のストレスにさらされた後、アルミナの存在下又は不在下で得られたものである。総不純物は各々の不純物の面積及び内標準(トルエン)の面積の間の比率の合計であり、HFIPはクロマトグラムで得られたHFIPの面積及びトルエンの面積の間の比率である。
【0077】
【表2】
【0078】
表2の結果によれば、アルミナの不在下で、異なる濃度の安定剤を含む試料に対する平均総不純物の数値は、安定剤の不在下で得られた数値にかなり近接している。アルミナの存在下で、安定剤なしのセボフルランに対し観察された高い平均総不純物量の数値は、安定剤としてプロピレングリコール又はメントールを含む試料で著しく減少する。図7は、プロピレングリコール50ppmを含むセボフルランが、60℃で22時間ストレスにさらされた後、アルミナの存在下で分解されなかったことを示し、実施例2と比較してみると、それは水より優れた安定剤であることが判る。
【実施例4】
【0079】
安定剤の濃度の関数としてセボフルランの総不純物量の変化
図8は、1mLあたり1mgのアルミナの存在下或いは不在下でプロピレングリコールの濃度の関数として、60℃で22時間のストレスにさらされた後、セボフルランの平均総不純物量を比較するバーグラフを示す。この図は、アルミナによる分解に対し50ppmの濃度、及び実験を行った全ての濃度で予め存在するプロピレングリコールによるセボフルランの有効な安定化について証明する。
【0080】
プロピレングリコールを含む試料に対する平均総不純物量はアルミナの有無により変化しなかったが、これはセボフルランの優れた安定化作用を証明するものであった。
【0081】
メントールはまた、アルミナによる分解に対するセボフルランの安定化において有効であり、その安定化効果はその濃度に依存しない(表2参照)。メントールを用いた場合のセボフルランの総不純物量は、アルミナの不在下でプロピレングリコールを含む試料で得られた数値に比べて殆ど変わらないが、メントールによる安定化が、水を用いた場合に比べて同等かまたはそれ以上有効である(表1参照)。
【実施例5】
【0082】
安定剤の濃度の関数として不純物HFIPの変化
図9は、プロピレングリコール50ppmが、260ppm(濃度)のアルミナの存在下で(ここで、該試料は、アルミナなしの試料に比べてより高いHFIP数値を示した)セボフルランの分解を完全に阻害することができなかった水の場合とは違って、セボフルランの分解及びHFIPの形成を防ぐのに十分であることを示す(表1参照)。
【0083】
水による見掛けの阻害は相対的で、不純物HFIPの数値がアルミナなしの試料に対し約10倍増加したが、これはセボフルランの分解を証明するものであった。このような現象はプロピレングリコールでは観察されなかったが、プロピレングリコールを用いた場合、HFIPの数値はアルミナの有無とは関係がなかった。
【0084】
メントールを含むセボフルランの場合に、図10はメントールの濃度が増加することにつれ不純物HFIPが減少することを示す。
【0085】
プロピレングリコールに対する総不純物及び単一不純物の結果(それぞれ実施例4及び5)によれば、アルミナによる分解に対しプロピレングリコールが十分な安定化効果を有することが判る。その効果は主に、アルミナの不在下での結果に対し、アルミナの存在下での不純物の結果が変わらないということである。
【0086】
その結果は、プロピレングリコールが水に比べてより良い安定剤であり、従って酸物質によるセボフルランの分解を完全に防ぎ、主にセボフルランの第1の分解生成物であるHFIPの形成を防ぐということを意味する。
【実施例6】
【0087】
セボフルランに加えられた様々な安定剤の効果の比較
本実験では、水、プロピレングリコール及びポリエチレングリコール(これらは全て50ppmの濃度で用いられる)によるセボフルランの安定化効果を比較する。
【0088】
表3は60℃で12時間のストレスにさらされた後、アルミナの存在下又は不在下で、安定剤として水、プロピレングリコール及びポリエチレングリコール50ppmを含むセボフルランの試料の総不純物及び単一不純物(HFIP)に対する結果を示す。
【0089】
【表3】
【0090】
図11は、表3の結果から導き出された、総不純物量における安定剤の効果を比較するバーグラフである。プロピレングリコール及びPEG400のようなポリアルコール類を用いた場合に、アルミナにより触媒されたセボフルランの分解は完全に阻害された。プロピレングリコールのように、PEG400は、260ppmの濃度ですらHFIPの形成を防ぐことができなかった水とは違って、HFIPの形成を完全に阻害した。
【0091】
図12は、表2(メントール)及び表3(水、プロピレングリコールまたはPEG400)の結果から導き出された、一定量50ppmの安定剤の関数として、セボフルランの主な分解生成物の変化を示すバーグラフである。水50ppmを含む試料で、分解と共にHFIP,アセタール、2及び5の形成が観察された。一方、プロピレングリコールまたはPEG400を含む試料では、アルミナにより触媒される分解が完全に排除される。水は、アルミナによるセボフルランの分解を完全に阻害することができず、従って全ての分析で検出された、平均総不純物の結果で多量に存在する不純物HFIP及びアセタールの量を増加させた。
【実施例7】
【0092】
アルミナによる分解に対するセボフルランの安定化。不純物、分析及びフッ化物の限界値
この実験でアルミナはセボフルラン1mL当たり1mgの最終濃度で用いられた。セボフルランの試料は、プラスチック製のストッパー及びスクリュー金属製のキャップで閉められたタイプIIIアンバーガラス瓶の中に、水260ppmまたはプロピレングリコール260ppmを含むように用意され、その後60℃で22時間のストレスにさらされた。
【0093】
表4は、ストレス後水またはプロピレングリコール260ppmを含む試料をガスクロマトグラフィーにより分析した結果を示す。プロピレングリコールを含む試料の場合、セボフルランの分解を完全に阻害することができ、プロピレングリコールを含む製品は単一不純物及び総不純物の基準を満たす。しかしながら、水260ppmは、アルミナによるセボフルランの分解を阻害することができず、水を含む製品は、ストレス後単一不純物量及び総不純物量の基準を満たさなかった。
【0094】
【表4】
【0095】
アルミナの存在下に、水260ppmを含む試料で分解の増加が観察され、その試料はクロマトグラフィー純度分析及びアッセイに関する薬局方フォーラムUSPの基準を満たせなかった。
【0096】
本実験で観察されたもう1つの重要な因子は、ストレスにさらされた試料におけるフッ化物の量である。表5は、テストに用いられた無水セボフルランに対する結果及びストレス条件にさらされた試料に対する結果を示す。
【0097】
【表5】
【0098】
表5に示したように、フッ化物の定量分析で、安定剤として水を含む試料は高い数値を記録した。ストレスにさらされたこの試料で、フッ化物の量はストレスの前に分析した源試料に比べて339倍多く、確立された最大限界値より8倍多かった。それらは、かなりの分解が起こること、並びに水がセボフルランの分解に対する阻害剤として有効でないことを意味する。その結果とは違って、ポリエチレングリコール260ppmを含むセボフルランの試料はアルミナの存在下でいかなる分解も見せなく、薬局方フォーラムvol 27 no3に定められた基準を満たす。ここで、フッ化物の含量は源試料に比べて変化が見られなかった。
【実施例8】
【0099】
ポリアルコール類による、ぬれたセボフルランの安定化
この実験では、ぬれたセボフルランの分解を阻害するにあたってポリアルコールの安定化作用について説明する。実施例7で、安定剤として水を含む場合に、セボフルランはかなり分解された。この実験は、ポリアルコール、例えばプロピレングリコールを用いぬれたセボフルランを安定させ、酸物質によるセボフルランの分解を阻害するということを証明するために行われた。
【0100】
アルミナはセボフルラン1mL当たり最終濃度1mgで用いられた。セボフルランの試料は、プラスチック製のストッパー及びスクリュー金属製のキャップで閉められたタイプIIIアンバーガラス瓶の中に、水260ppm、または水260ppm及びプロピレングリコール260ppmの混合物を含むように用意され、その後60℃で22時間のストレスにさらされた。
【0101】
この実験は、セボフルランのぬれた試料で観察された分解に対するプロピレングリコールの安定化作用を証明するために行われた。
【0102】
試料に対するフッ化物の限界値及びガスクロマトグラフィー分析の結果は表6に示した。
【0103】
【表6】
【0104】
前述した実験結果によれば、アルミナによるセボフルランの分解に対する水の保護作用は、水が260ppmの濃度で用いられた場合、不十分であった。
【0105】
本実験で、我々は酸物質により触媒された無水セボフルランの分解に対し有効な保護を提供するプロピレングリコールの有効性だけでなく、ぬれたセボフルランンに対するプロピレングリコールの有効な保護作用(その安定化作用は水と無関係であることを示す)を確認することができた。
【0106】
本発明の有効性を証明するために示したこれらの実験はただ例示的なものに過ぎず、本発明の範囲を制限するわけではない。本発明は、本明細書で言及した、麻酔剤として使用される様々なフルオロエーテル化合物に適している。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】図1は、表面に結合されたルイス酸(LA)の存在下でセボフルラン(S)が分解され、誘導体1,2,3及びアセタールが形成される図式を示す。
【図2】図2は、フッ化水素酸(HF)と完全なガラス表面(V)との反応図式を示し、ここで表面上により多くのルイス酸(LA)が露出される。
【図3】図3は、アルミナの不在下に60℃で22時間加熱処理した後の無水セボフルラン(水含量=20ppm)のクロマトグラムを示す。
【図4】図4は、セボフルラン1mLあたりアルミナ1mgの存在下に60℃で22時間加熱処理した後の無水セボフルラン(水含量=20ppm)のクロマトグラムを示す。
【図5】図5は、アルミナの存在下でのセボフルランの分解図式を示す。
【図6】図6は、試料を60℃で72時間加熱処理した後、アルミナ(セボフルラン1mLあたり1mg)による分解に関連する、セボフルランの安定化における水の効果を示す。
【図7】図7は、セボフルラン1mLあたりアルミナ1mgの存在下に60℃で22時間加熱処理した後、プロピレングリコール50ppmを含む無水セボフルランのクロマトグラムを示す。
【図8】図8は、試料を60℃で22時間加熱処理した後、アルミナ(セボフルラン1mLあたり1mg)による分解に関連する、セボフルランの安定化におけるプロピレングリコールの効果を示す。
【図9】図9は、試料を60℃で22時間加熱処理した後、アルミナ(セボフルラン1mLあたり1mg)による分解に関連する、HFIP不純物成分の安定化におけるプロピレングリコールの効果を示す。
【図10】図10は、試料を60℃で22時間加熱処理した後、アルミナ(セボフルラン1mLあたり1mg)による分解に関連する、HFIP不純物成分の安定化におけるメントールの効果を示す。
【図11】図11は、試料を60℃で22時間加熱処理した後、アルミナ(セボフルラン1mLあたり1mg)の存在下又は不在下にPEG400を50ppmまたはプロピレングリコールを50ppm含む無水セボフルラン(水含量約20ppm)の平均総不純物量を比較した結果を示す。
【図12】図12は、試料を60℃で22時間加熱処理した後、アルミナ(セボフルラン1mLあたり1mg)の存在下に水、プロピレングリコール、PEG400又はメントールを50ppm含むセボフルランの分解生成物を比較した結果を示す。ここで“ゼロ”はアルミナの不在下に60℃で22時間加熱処理した後水を50ppm含むセボフルラン試料から得られた結果に相当する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セボフルラン、デスフルラン、イソフルラン、エンフルラン及びメトキシフルランからなる群から選ばれるフルオロエーテル麻酔化合物、及び最終組成物中0.001%から5%の濃度(重量百分率)で用いられる少なくとも1種の安定剤を含み、上記安定剤がプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどからなる群から選ばれるポリアルコール、又はメントールのような、アルキル置換基を有するか又は有しない脂肪族炭素環式アルコール、又はそれらの混合物であることを特徴とする安定した医薬組成物。
【請求項2】
セボフルラン、及び最終組成物中0.001%から5%の濃度(重量百分率)で用いられる少なくとも1種の安定剤を含み、上記安定剤がプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどからなる群から選ばれるポリアルコール、又はメントールのような、アルキル置換基を有するか又は有しない脂肪族炭素環式アルコール、又はそれらの混合物であることを特徴とする安定した麻酔剤組成物。
【請求項3】
前記安定剤が、最終組成物中0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられるプロピレングリコールであることを特徴とする請求項2記載の安定した麻酔剤組成物。
【請求項4】
前記安定剤が、最終組成物中0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられる、一般式H(OCH2CH2)nOH(ここでnは4以上)のポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項2記載の安定した麻酔剤組成物。
【請求項5】
前記安定剤が、ポリエチレングリコール400であることを特徴とする請求項4記載の安定した麻酔剤組成物。
【請求項6】
前記安定剤が、メントールであることを特徴とする請求項2記載の安定した麻酔剤組成物。
【請求項7】
前記メントールが、最終組成物中0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられることを特徴とする請求項6記載の安定した麻酔剤組成物。
【請求項8】
ヒト及び家畜の麻酔に使用するための請求項1記載の安定した医薬組成物。
【請求項9】
ヒト及び家畜の麻酔に使用するための請求項2記載の安定した麻酔剤組成物。
【請求項10】
セボフルラン、及び最終組成物中0.005%から0.100%の濃度(重量百分率)のプロピレングリコールを含むことを特徴とする安定した麻酔剤組成物。
を治療および研究するのに有用であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のEVASIN類、それらの類似体および誘導体の薬学組成物。
【請求項11】
セボフルラン、及び最終組成物中0.005%から0.100%の濃度(重量百分率)のポリエチレングリコール400を含むことを特徴とする安定した麻酔剤組成物。
【請求項12】
セボフルラン、及び最終組成物中0.005%から0.100%の濃度(重量百分率)のメントールを含むことを特徴とする安定した麻酔剤組成物。
【請求項13】
少なくとも1種の安定剤によるセボフルランの安定化方法であって、上記安定剤が、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどからなる群から選ばれるポリアルコール、又はメントールのような、アルキル置換基を有するか又は有しない脂肪族炭素環式アルコール、又はそれらの混合物であることを特徴とする安定化方法。
【請求項14】
前記安定剤が、最終組成物中0.001%から5%の濃度(重量百分率)で用いられることを特徴とする請求項13記載の安定化方法。
【請求項15】
前記安定剤が、プロピレングリコールであることを特徴とする前記13記載の安定化方法。
【請求項16】
前記プロピレングリコールが、セボフルランの重量に対し0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられることを特徴とする請求項15記載の安定化方法。
【請求項17】
前記安定剤が、一般式H(OCH2CH2)nOH(ここでnは4以上)のポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項13記載の安定化方法。
【請求項18】
前記安定剤が、ポリエチレングリコール400であることを特徴とする請求項17記載の安定化方法。
【請求項19】
前記ポリエチレングリコール400が、セボフルランの重量に対し0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられることを特徴とする請求項18記載の安定化方法。
【請求項20】
前記安定剤が、メントールであることを特徴とする請求項13記載の安定化方法。
【請求項21】
前記メントールが、セボフルランの重量に対し0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられることを特徴とする請求項20記載の安定化方法。
【請求項22】
安定剤を加えた後、得られた混合物を攪拌し、安定剤とセボフルランとの均質な混合物を形成させることを特徴とする請求項13記載の安定化方法。
【請求項23】
ポリアルコール、及びアルキル置換基を有するか又は有しない脂肪族炭素環式アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種の安定剤を、フルオロエーテル化合物の重量に対し0.001%から5%の濃度(重量百分率)で用いることを特徴とする無水フルオロエーテル化合物の安定化方法。
【請求項24】
前記安定剤が、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどからなる群から選ばれるポリアルコール、又はそれらの混合物であることを特徴とする請求項23記載の安定化方法。
【請求項25】
前記安定剤が、プロピレングリコールであることを特徴とする請求項24記載の安定化方法。
【請求項26】
前記プロピレングリコールが、フルオロエーテル化合物に対し0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられることを特徴とする請求項25記載の安定化方法。
【請求項27】
前記安定剤が、一般式H(OCH2CH2)nOH(ここでnは4以上)のポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項24記載の安定化方法。
【請求項28】
前記安定剤が、ポリエチレングリコール400であることを特徴とする請求項27記載の安定化方法。
【請求項29】
前記ポリエチレングリコール400が、フルオロエーテル化合物に対し0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられることを特徴とする請求項28記載の安定化方法。
【請求項30】
前記アルキル置換基を有するか又は有しない脂肪族炭素環式アルコールが、メントールであることを特徴とする請求項23記載の安定化方法。
【請求項31】
前記メントールが、フルオロエーテル化合物に対し0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられることを特徴とする請求項30記載の安定化方法。
【請求項32】
前記無水フルオロエーテル化合物が、セボフルランであることを特徴とする請求項23記載の安定化方法。
【請求項33】
水含量0.002%から0.14%のフルオロエーテル化合物の安定化方法であって、ポリアルコール、及びアルキル置換基を有するか又は有しない脂肪族炭素環式アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種の安定剤を上記フルオロエーテル化合物に対し0.001%から5%の濃度(重量百分率)で用いることを特徴とする安定化方法。
【請求項34】
前記安定剤が、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどからなる群から選ばれるポリアルコール、又はそれらの混合物であることを特徴とする請求項33記載の安定化方法。
【請求項35】
前記安定剤が、プロピレングリコールであることを特徴とする請求項34記載の安定化方法。
【請求項36】
前記プロピレングリコールが、フルオロエーテル化合物に対し0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられることを特徴とする請求項35記載の安定化方法。
【請求項37】
前記安定剤が、一般式H(OCH2CH2)nOH(ここでnは4以上)のポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項34記載の安定化方法。
【請求項38】
前記安定剤が、ポリエチレングリコール400であることを特徴とする請求項37記載の安定化方法。
【請求項39】
前記ポリエチレングリコール400が、フルオロエーテル化合物に対し0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられることを特徴とする請求項38記載の安定化方法。
【請求項40】
前記アルキル置換基を有するか又は有しない脂肪族炭素環式アルコールが、メントールであることを特徴とする請求項33記載の安定化方法。
【請求項41】
前記メントールが、フルオロエーテル化合物に対し0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられることを特徴とする請求項40記載の安定化方法。
【請求項42】
前記水含量0.002%から0.14%のフルオロエーテル化合物が、セボフルランであることを特徴とする請求項33記載の安定化方法。
【請求項1】
セボフルラン、デスフルラン、イソフルラン、エンフルラン及びメトキシフルランからなる群から選ばれるフルオロエーテル麻酔化合物、及び最終組成物中0.001%から5%の濃度(重量百分率)で用いられる少なくとも1種の安定剤を含み、上記安定剤がプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどからなる群から選ばれるポリアルコール、又はメントールのような、アルキル置換基を有するか又は有しない脂肪族炭素環式アルコール、又はそれらの混合物であることを特徴とする安定した医薬組成物。
【請求項2】
セボフルラン、及び最終組成物中0.001%から5%の濃度(重量百分率)で用いられる少なくとも1種の安定剤を含み、上記安定剤がプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどからなる群から選ばれるポリアルコール、又はメントールのような、アルキル置換基を有するか又は有しない脂肪族炭素環式アルコール、又はそれらの混合物であることを特徴とする安定した麻酔剤組成物。
【請求項3】
前記安定剤が、最終組成物中0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられるプロピレングリコールであることを特徴とする請求項2記載の安定した麻酔剤組成物。
【請求項4】
前記安定剤が、最終組成物中0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられる、一般式H(OCH2CH2)nOH(ここでnは4以上)のポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項2記載の安定した麻酔剤組成物。
【請求項5】
前記安定剤が、ポリエチレングリコール400であることを特徴とする請求項4記載の安定した麻酔剤組成物。
【請求項6】
前記安定剤が、メントールであることを特徴とする請求項2記載の安定した麻酔剤組成物。
【請求項7】
前記メントールが、最終組成物中0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられることを特徴とする請求項6記載の安定した麻酔剤組成物。
【請求項8】
ヒト及び家畜の麻酔に使用するための請求項1記載の安定した医薬組成物。
【請求項9】
ヒト及び家畜の麻酔に使用するための請求項2記載の安定した麻酔剤組成物。
【請求項10】
セボフルラン、及び最終組成物中0.005%から0.100%の濃度(重量百分率)のプロピレングリコールを含むことを特徴とする安定した麻酔剤組成物。
を治療および研究するのに有用であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のEVASIN類、それらの類似体および誘導体の薬学組成物。
【請求項11】
セボフルラン、及び最終組成物中0.005%から0.100%の濃度(重量百分率)のポリエチレングリコール400を含むことを特徴とする安定した麻酔剤組成物。
【請求項12】
セボフルラン、及び最終組成物中0.005%から0.100%の濃度(重量百分率)のメントールを含むことを特徴とする安定した麻酔剤組成物。
【請求項13】
少なくとも1種の安定剤によるセボフルランの安定化方法であって、上記安定剤が、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどからなる群から選ばれるポリアルコール、又はメントールのような、アルキル置換基を有するか又は有しない脂肪族炭素環式アルコール、又はそれらの混合物であることを特徴とする安定化方法。
【請求項14】
前記安定剤が、最終組成物中0.001%から5%の濃度(重量百分率)で用いられることを特徴とする請求項13記載の安定化方法。
【請求項15】
前記安定剤が、プロピレングリコールであることを特徴とする前記13記載の安定化方法。
【請求項16】
前記プロピレングリコールが、セボフルランの重量に対し0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられることを特徴とする請求項15記載の安定化方法。
【請求項17】
前記安定剤が、一般式H(OCH2CH2)nOH(ここでnは4以上)のポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項13記載の安定化方法。
【請求項18】
前記安定剤が、ポリエチレングリコール400であることを特徴とする請求項17記載の安定化方法。
【請求項19】
前記ポリエチレングリコール400が、セボフルランの重量に対し0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられることを特徴とする請求項18記載の安定化方法。
【請求項20】
前記安定剤が、メントールであることを特徴とする請求項13記載の安定化方法。
【請求項21】
前記メントールが、セボフルランの重量に対し0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられることを特徴とする請求項20記載の安定化方法。
【請求項22】
安定剤を加えた後、得られた混合物を攪拌し、安定剤とセボフルランとの均質な混合物を形成させることを特徴とする請求項13記載の安定化方法。
【請求項23】
ポリアルコール、及びアルキル置換基を有するか又は有しない脂肪族炭素環式アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種の安定剤を、フルオロエーテル化合物の重量に対し0.001%から5%の濃度(重量百分率)で用いることを特徴とする無水フルオロエーテル化合物の安定化方法。
【請求項24】
前記安定剤が、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどからなる群から選ばれるポリアルコール、又はそれらの混合物であることを特徴とする請求項23記載の安定化方法。
【請求項25】
前記安定剤が、プロピレングリコールであることを特徴とする請求項24記載の安定化方法。
【請求項26】
前記プロピレングリコールが、フルオロエーテル化合物に対し0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられることを特徴とする請求項25記載の安定化方法。
【請求項27】
前記安定剤が、一般式H(OCH2CH2)nOH(ここでnは4以上)のポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項24記載の安定化方法。
【請求項28】
前記安定剤が、ポリエチレングリコール400であることを特徴とする請求項27記載の安定化方法。
【請求項29】
前記ポリエチレングリコール400が、フルオロエーテル化合物に対し0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられることを特徴とする請求項28記載の安定化方法。
【請求項30】
前記アルキル置換基を有するか又は有しない脂肪族炭素環式アルコールが、メントールであることを特徴とする請求項23記載の安定化方法。
【請求項31】
前記メントールが、フルオロエーテル化合物に対し0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられることを特徴とする請求項30記載の安定化方法。
【請求項32】
前記無水フルオロエーテル化合物が、セボフルランであることを特徴とする請求項23記載の安定化方法。
【請求項33】
水含量0.002%から0.14%のフルオロエーテル化合物の安定化方法であって、ポリアルコール、及びアルキル置換基を有するか又は有しない脂肪族炭素環式アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種の安定剤を上記フルオロエーテル化合物に対し0.001%から5%の濃度(重量百分率)で用いることを特徴とする安定化方法。
【請求項34】
前記安定剤が、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどからなる群から選ばれるポリアルコール、又はそれらの混合物であることを特徴とする請求項33記載の安定化方法。
【請求項35】
前記安定剤が、プロピレングリコールであることを特徴とする請求項34記載の安定化方法。
【請求項36】
前記プロピレングリコールが、フルオロエーテル化合物に対し0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられることを特徴とする請求項35記載の安定化方法。
【請求項37】
前記安定剤が、一般式H(OCH2CH2)nOH(ここでnは4以上)のポリエチレングリコールであることを特徴とする請求項34記載の安定化方法。
【請求項38】
前記安定剤が、ポリエチレングリコール400であることを特徴とする請求項37記載の安定化方法。
【請求項39】
前記ポリエチレングリコール400が、フルオロエーテル化合物に対し0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられることを特徴とする請求項38記載の安定化方法。
【請求項40】
前記アルキル置換基を有するか又は有しない脂肪族炭素環式アルコールが、メントールであることを特徴とする請求項33記載の安定化方法。
【請求項41】
前記メントールが、フルオロエーテル化合物に対し0.001%から0.200%の濃度(重量百分率)で用いられることを特徴とする請求項40記載の安定化方法。
【請求項42】
前記水含量0.002%から0.14%のフルオロエーテル化合物が、セボフルランであることを特徴とする請求項33記載の安定化方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2007−505047(P2007−505047A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525578(P2006−525578)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【国際出願番号】PCT/BR2004/000156
【国際公開番号】WO2005/023175
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(506046355)クリスタリア プロデュトス キミコス ファーマシューティコス リミターダ (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【国際出願番号】PCT/BR2004/000156
【国際公開番号】WO2005/023175
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(506046355)クリスタリア プロデュトス キミコス ファーマシューティコス リミターダ (4)
【Fターム(参考)】
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