説明

黒欠陥修正方法および欠陥修正装置

【課題】透明導電膜に存在する黒欠陥を、下地や周辺部位へのダメージ無く修正することが可能な黒欠陥修正方法を提供することが課題である。
【解決手段】透明基材または透明基材に形成されたカラーフィルタの表面に成膜された透明導電膜からなる透明導電性電極または透明導電性配線パターンに存在する黒欠陥の修正方法であって、黒欠陥の近傍に配置した放電電極と透明導電膜の間に高電圧を印加し、黒欠陥部に火花放電を当て、その後の洗浄によって黒欠陥を除去することを特徴とする黒欠陥修正方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネル用基板に使用されている透明導電膜および透明導電膜から形成されたパターンに存在する黒欠陥の修正技術に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、などのフラットパネルディスプレイには、透明導電膜が使用されている。例えば、液晶ディスプレイのカラーフィルタ基板においては、カラーフィルタの表面は透明導電膜によって被覆されている。カラーフィルタ基板に対抗する薄膜トランジスタ基板(以後、TFT基板と称する。)にも、画素を形成する部位に透明導電膜による画素電極が形成されている。
【0003】
この透明導電膜には、黒欠陥と白欠陥が存在する。黒欠陥とは、製造する環境から飛来する微小異物が、カラーフィルタ基板やTFT基板の表面に付着することによって発生する欠陥で、透過光を使用した顕微鏡観察を行うと黒く見えることから、黒欠陥と呼ばれている。黒欠陥の生成過程には、透明導電膜が成膜される前から微小異物が表面に付着している場合と、成膜中に付着する場合と、成膜が終了してから付着する場合と、がある。成膜が終了してから付着した微小異物は、洗浄によって容易に除去され、透明導電膜に影響は無いが、透明導電膜が成膜される前から、または成膜の途中から微小異物が付着している場合は、微小異物が膜中に取り込まれた状態になるか、または、微小異物の下の透明導電膜が周囲より薄い状態になるか、の何れかの状態になる。
【0004】
透明導電膜の黒欠陥の修正方法としては、レーザー光を黒欠陥に照射することによって、黒欠陥を構成している物質の一部または全部を爆発的に蒸発気化させて除去する方法が開示されている。(特許文献1)しかしながら、レーザーエネルギーが非常に大きい為、極く短時間の照射であっても、周辺部へのダメージを避けることが困難であるという問題を含んでいる。レーザーエネルギーを弱くすることによって周辺部へのダメージを無くすことは可能であるが、その場合は、黒欠陥を除去できない場合が出てくる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−191804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、透明基材または透明基材に形成されたカラーフィルタの表面に成膜された透明導電膜に存在する黒欠陥を、下地や周辺部へのダメージ無く修正することが可能な黒欠陥修正方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決する手段として、請求項1に記載の発明は、透明基材または透明基材に形成されたカラーフィルタのいずれかの表面に成膜された透明導電膜からなる透明導電性電極または透明導電性配線パターンに存在する黒欠陥の修正方法であって、黒欠陥の近傍に配置した放電電極と透明導電膜の間に高電圧を印加し、黒欠陥部に火花放電を当て、その後の洗浄によって黒欠陥を除去することを特徴とする黒欠陥修正方法である。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、透明基材または透明基材に形成されたカラーフィルタの表面に成膜された透明導電膜からなる透明導電性電極または透明導電性配線パターン
に存在する黒欠陥の欠陥修正装置であって、
前記透明基材を固定し、前記透明基材の任意の位置を観察可能にする移動機構を備えたステージと、
前記ステージの位置制御を行うステージ制御装置と、
黒欠陥の位置情報と大きさに関する情報を計測、記録するビデオカメラシステムと、
放電電極の位置の微調整と高電圧を放電電極に伝達する放電電極保持装置と、
前記放電電極保持装置に保持された放電電極と、
前記放電電極保持装置に高電圧を供給する高電圧発生装置と、
前記放電電極保持装置と前記高電圧発生装置に、それぞれ、放電電極の位置の制御と、放電電極に印加する電圧の制御と、を行う為の制御信号を送る制御装置と、
を備えて構成されており、
前記ステージ制御装置と前記制御装置は、別途、欠陥検査装置によって検出された黒欠陥の位置と大きさに関する情報によって、または、前記ビデオカメラシステムが検出した黒欠陥の位置情報と大きさに関する情報によって、修正する黒欠陥の位置に放電電極を配置した後、放電電極と透明導電膜の間に高電圧を印加して火花放電を、当該黒欠陥が存在する位置に当てることができることを特徴とする欠陥修正装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、透明基材または透明基材に形成されたカラーフィルタの表面に成膜された透明導電膜からなる透明導電性電極または透明導電性配線パターンに存在する黒欠陥の修正が、下地にある透明基材やカラーフィルタにダメージを与えること無く、実施できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】カラーフィルタ表面の透明導電膜に存在する黒欠陥の概念を示す断面図
【図2】本発明の黒欠陥修正方法の概念を示す説明図
【図3】本発明の黒欠陥修正方法による修正処理直後の黒欠陥の状況を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、カラーフィルタ表面に形成された透明導電膜に存在する黒欠陥を説明する為の概念図であり、カラーフィルタ基板の一例を示す断面図を示している。図1のカラーフィルタ基板1では、透明基材7の表面にまず、ブラックマトリックス6が形成され、次いで、赤、緑、青などの色パターン2が形成される。この例では、その表面に透明導電膜5が成膜されている。
【0012】
透明導電膜5は、通常はマグネトロンスパッタ装置を用いて成膜されるが、黒欠陥となる微小異物は、マグネトロンスパッタ装置の中で透明導電膜が成膜される基板表面に成膜されるまでに付着する。また成膜中にも付着する。その原因の主なものは、マグネトロンスパッタ装置に基板を装着後、急速に真空チャンバ内を排気するが、その際に、真空チャンバの底などに落ちている微小な異物、パーティクル、などが舞い上がり、基板表面に飛来し付着するためである。またある程度成膜が進んだ段階でも、静電気によって微小異物が基板表面に付着することもある。
【0013】
このようにして、透明導電膜5に埋め込まれていない黒欠陥3や透明導電膜5に埋め込まれている黒欠陥4が形成される。透明導電膜5に埋め込まれている黒欠陥4の表面は透明導電膜5によって被覆されている。
【0014】
図2は、本発明の黒欠陥修正方法の概念を示す説明図である。同時に装置構成の概念も示している。カラーフィルタ基板1は、カラーフィルタ基板1を固定する機構を備えたステージ上に載置されているが、ステージは図2には表示していない。ステージは制御装置
12の信号によって、素早く、且つ、精密に、カラーフィルタ基板1の位置を制御できるようになっている。
【0015】
ステージに載置されたカラーフィルタ基板1の上方には、顕微鏡と一体になったビデオカメラ13が配置され、カラーフィルタ基板1の表面の透明導電膜に存在する黒欠陥を拡大した映像として捉えることができる。通常、欠陥修正装置の処理速度は、カラーフィルタの生産ラインの速度より小さく、また一定した時間内で処理できるとは限らない為、その修正処理はオフラインで実施するのが通常である。また、生産ラインの欠陥検査装置によって発見された黒欠陥の位置と大きさに関する情報が欠陥検査装置に記録されるが、その情報を本発明の欠陥修正装置で使うことができる。
【0016】
すなわち、カラーフィルタの生産ラインの欠陥検査装置で記録された黒欠陥の情報を、本発明の欠陥修正装置に転送することによって、カラーフィルタ基板の黒欠陥の全てを確認することができるが、本発明の欠陥修正装置では、黒欠陥のうち、透明導電膜に存在する黒欠陥を識別することができる。
【0017】
透明導電膜に存在する黒欠陥であるか、カラーフィルタに存在する黒欠陥であるかどうかの判定は、カラーフィルタを形成後の欠陥検査装置の検査データと、カラーフィルタ表面に透明導電膜を成膜後の欠陥検査装置の検査データと、を比較することによって実施できる。
【0018】
透明導電膜に存在する黒欠陥である場合は、透明導電膜を成膜後の検査データには黒欠陥が存在するが、カラーフィルタを形成後の検査データには黒欠陥が存在しないことから、判定できる。
【0019】
以上のようにして、透明導電膜に黒欠陥が存在することが判定されると、本発明の黒欠陥修正装置は、制御装置12からステージの駆動機構に信号を出し、放電電極14が配置されている位置に向けて、修正する対象の黒欠陥の位置までステージを移動させる。ステージの移動は、黒欠陥の近傍までは位置精度が悪いが高速な移動機構で移動し、黒欠陥の近傍に到達すると、位置精度が高いが移動速度が遅い駆動機構に切替えて移動させる。
【0020】
ステージの移動で放電電極14の先端を修正する対象の黒欠陥の位置に配置するのであるが、黒欠陥と放電電極14の距離が最短距離では無い場合は、放電電極保持装置11に保持されている放電電極14の位置を微調整する機構を使用して、放電電極14と修正対象の黒欠陥の距離を最短距離に設定することができる。
【0021】
カラーフィルタ基板1の有効面外の透明導電膜には、高電圧発生装置10の一方の電極を接続してあり、他方の電極を放電電極14に接続してある。その状態で、数千ボルト〜数万ボルトの高電圧を両電極に供給すると、放電電極と黒欠陥を被覆している透明電極、または黒欠陥の周囲にある透明電極の間で火花放電が起こる。例えば、黒欠陥と放電電極間の距離を0.1mm〜5.0mmとして、空気の絶縁破壊電圧を超える500ボルト〜20、000ボルトを印加すると火花放電を起こすことができる。高電圧発生装置としては、圧電セラミックを用いたものやトランスを用いたもの、コンデンサとダイオードを多段に構成したコッククロフト-ウォルトン回路、その他、各種の高電圧発生回路を使用することが可能である。最も単純な圧電セラミックを使用した高電圧発生装置は、圧電セラミックに機械的な衝撃を与えることによって高電圧を発生させるものであり、最も単純で低コストである。またトランスを用いたものは、変圧比を大きくとり、一次側の回路をオン/オフすることにより、容易に二次側に高電圧を発生させることが可能である。回路的な工夫により、発生させる電圧や電流の制御性を高めることが可能である。
【0022】
図3は、本発明の欠陥修正方法による修正処理直後の黒欠陥の状況を示す断面図である。図2では透明導電膜にめり込んでいたり、透明導電膜によって埋め込まれ、被覆されていた黒欠陥が、図3では、露出している。これは、火花放電16が黒欠陥を被覆している透明導電膜に当たって、黒欠陥の表面を被覆していた透明導電膜が除去されると同時に、その周囲にあった透明導電膜も除去された状態である。その結果、透明導電膜から容易に取り去ることができる状態になった黒欠陥の様子を図示したものである。また、透明導電膜に被覆されていない、めり込んだ状態の黒欠陥においても、火花放電によって、黒欠陥の周囲の透明導電膜が消失するか、黒欠陥が透明導電膜から剥離して、容易に黒欠陥を除去できる状態になる。
【0023】
全ての黒欠陥について上記のような処理を施したあと、洗浄などのカラーフィルタ表面の清浄化処理を行うことによって、黒欠陥を除去することが可能となる。
【0024】
このようにして、本発明の欠陥修正装置によって黒欠陥を除去することが可能であるが、最も特徴的なことは、このような処理を施しても、下地にあるカラーフィルタにはダメージを与えないことである。レーザーを照射して黒欠陥を除去する方法では、黒欠陥を除去すると同時に、下地にあるカラーフィルタも一緒に除去されてしまう。これは、レーザー光が黒欠陥に照射されると黒欠陥が高温になり蒸発することによって除去されるが、その際に発生する高温によって、カラーフィルタも蒸発してしまうと考えられる。しかしながら、本発明の欠陥修正方法では、下地にダメージが発生しない。
【0025】
本発明の欠陥修正方法では、放電電極14と透明導電膜の間で火花放電16が起こり、黒欠陥が絶縁体の場合は、透明導電膜の中を電流が流れ、黒欠陥そのものには放電による電流は流れない。黒欠陥を被覆している透明導電膜は、その周囲の透明導電膜より薄く電気抵抗が大きいため、この部位に周囲と同じ放電電流が流れると、周囲より多くのジュール熱が発生することになる。そのため、黒欠陥を被覆している透明導電膜は周囲の透明導電膜より瞬間的に高温になることによって、急激な膨張による膜の剥離などが起こる。
【0026】
以上、液晶ディスプレイ用のカラーフィルタ基板を例にして、本発明を説明したが、TFT基板に使用されている透明導電膜についても、更にはELなど、他のフラットパネルディスプレイで使用されている透明導電膜についても同様に、本発明が適用できる。
【符号の説明】
【0027】
1・・・カラーフィルタ基板
2・・・色パターン
3・・・透明導電膜に埋め込まれていない黒欠陥
4・・・透明導電膜に埋め込まれている黒欠陥
5・・・透明導電膜
6・・・ブラックマトリックス
7・・・透明基材
10・・・高電圧発生装置
11・・・放電電極保持装置
12・・・制御装置
13・・・ビデオカメラ
14・・・放電電極
15・・・高電圧発生装置の透明導電膜との導通電極
16・・・火花放電
20・・・透明導電膜から容易に取り去ることができる状態になった黒欠陥

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材または透明基材に形成されたカラーフィルタのいずれかの表面に成膜された透明導電膜からなる透明導電性電極または透明導電性配線パターンに存在する黒欠陥の修正方法であって、黒欠陥の近傍に配置した放電電極と透明導電膜の間に高電圧を印加し、黒欠陥部に火花放電を当て、その後の洗浄によって黒欠陥を除去することを特徴とする黒欠陥修正方法。
【請求項2】
透明基材または透明基材に形成されたカラーフィルタの表面に成膜された透明導電膜からなる透明導電性電極または透明導電性配線パターンに存在する黒欠陥の欠陥修正装置であって、
前記透明基材を固定し、前記透明基材の任意の位置を観察可能にする移動機構を備えたステージと、
前記ステージの位置制御を行うステージ制御装置と、
黒欠陥の位置情報と大きさに関する情報を計測、記録するビデオカメラシステムと、
放電電極の位置の微調整と高電圧を放電電極に伝達する放電電極保持装置と、
前記放電電極保持装置に保持された放電電極と、
前記放電電極保持装置に高電圧を供給する高電圧発生装置と、
前記放電電極保持装置と前記高電圧発生装置に、それぞれ、放電電極の位置の制御と、放電電極に印加する電圧の制御と、を行う為の制御信号を送る制御装置と、
を備えて構成されており、
前記ステージ制御装置と前記制御装置は、別途、欠陥検査装置によって検出された黒欠陥の位置と大きさに関する情報によって、または、前記ビデオカメラシステムが検出した黒欠陥の位置情報と大きさに関する情報によって、修正する黒欠陥の位置に放電電極を配置した後、放電電極と透明導電膜の間に高電圧を印加して火花放電を、当該黒欠陥が存在する位置に当てることができることを特徴とする欠陥修正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−141318(P2011−141318A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−440(P2010−440)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】