説明

黒砂糖を用いたアルコール飲料の製造法

【課題】
蒸米と米麹と水を原料とし、固形状又は紛状の黒砂糖を仕込み時又は醪に添加し発酵させ、琥珀色で黒砂糖の風味を有したアルコール7%〜18%のアルコール飲料の製造を行うこと。さらに、黒砂糖由来のカルシウム、カリウム、マグネシウム等のミネラルが通常の清酒に比べて多く含んでいる清酒を製造する方法を提供すること。
【解決手段】
清酒の一般的な仕込配合で仕込んだ醪または仕込時に黒砂糖を添加し、適度な温度で発酵させ、カルシウム、カリウム、マグネシウム等のミネラルが通常の清酒に比べて7〜24倍多く含み、琥珀色で黒砂糖由来の適度な風味を有したアルコール7%〜18%の香味のバランスが優れているアルコール飲料を製造する方法。本発明により、黒砂糖を用いてアルコール飲料を制作する際の発酵阻害やオフフレーバーの発生、さらに、黒糖の風味が強すぎることによる「甘過ぎ」や「苦み」が出る等の問題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸米と米麹と水を原料とし、固形状又は粉状の黒砂糖を仕込み時又は醪に添加し発酵させ、琥珀色で黒砂糖の風味を有したアルコール7%〜18%のアルコール飲料の製造方法に関する。さらに、本アルコール飲料は、カルシウム、カリウム、マグネシウム等のミネラルが通常の清酒に比べて7〜24倍多く含んでいるアルコール飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
さとうきびを原料としてそのまま煮詰めた黒砂糖の形態は、レンガ状のもの、砕いたもの、粉状のものがあり、一般の白砂糖に比べ、ミネラル(カルシウム、リン、鉄、ナトリウム、カリウムなど)や、ビタミンを多く含んだ天然の総合栄養剤ともいわれる。
黒砂糖を用いたアルコール飲料としては黒糖焼酎が知られており、酒税法上、鹿児島県の奄美群島(奄美大島、喜界島、徳之島、沖伊良部島、与論島)だけに認められた乙類焼酎である。
【0003】
近年の開発例として、「梅干しの製造方法」や「黒糖酢及びその製造方法」、「黒糖を原料とした食酢の製造方法」、「酢」に黒砂糖を利用してミネラルやビタミン等の栄養素を多く含有し、付加価値を高くした発明がある。また、アルコール飲料としては、麦芽及び廃糖蜜又は黒糖を含む原料から製造した発泡酒「発酵アルコール飲料」の開発例や、アルコール濃度30%の焼酎に黒砂糖を添加して作る「果実酒用アルコール飲料」の開発例等があるが、米と麹と黒砂糖を原料として、平衡復発酵により発酵させて製造したアルコール飲料の発明例はない。このような背景の基に研究を進め本発明が行われた。
【特許文献1】特開平7−255371号公報
【特許文献2】特開2002−112760号公報
【特許文献3】特開2003−339367号公報
【特許文献4】特開2004−290002号公報
【特許文献5】特開2005−168441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
「米と米麹と水を原料に発酵させてこしたもの」が清酒の定義であり、黒砂糖を用いた場合は清酒以外のアルコール飲料となる。黒砂糖を利用して発酵させる場合、仕込配合や発酵温度、さらに、黒砂糖の使用量や添加時期によって発酵の状態が異なり、やもすれば、発酵阻害や、できたアルコール飲料にオフフレーバーが出たり、黒糖の風味が強すぎて甘すぎたり、苦みが出る等の問題を解決することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、米、米麹、黒砂糖を原料として、平衡復発酵により発酵させたアルコール飲料の開発を目的とした。清酒の仕込みを基本として黒砂糖を用いて、仕込配合と発酵温度、黒砂糖の使用量と添加時期を検討し、ミネラル含有量が高く、黒砂糖由来の濃い琥珀色で黒砂糖の風味を有したアルコール飲料の製造方法の確立を目的とした。
【0006】
重量%として、蒸米(白米として80%)と米麹(白米として20%)と紛状の黒砂糖を40%を基本仕込配合として、汲み水歩合(白米当たりの水の量)と黒砂糖添加時期を変えて仕込み、各成分値と官能試験から最適な酒質で上槽することにより前記の問題点を解決した。また、本発明の黒砂糖を用いてアルコール飲料を製造する場合は、(財)日本醸造協会の清酒用「きょうかい酵母」を使用すればよい。特に酒質とコスト面を考慮すると、精米歩合は70%から60%が望ましく、最高温度は12〜15℃以下の3段仕込みが適当である。
【0007】
すなわち、請求項1記載の本発明は、蒸米と米麹と水を原料とし、黒砂糖を仕込み時又は醪に添加し平衡復発酵させ、黒砂糖由来の琥珀色で黒砂糖の風味を有したアルコール7%〜18%のアルコール飲料の製造方法である。
請求項2記載の本発明は、前記黒砂糖が固形状又は紛状であることを特徴とする請求項1記載のアルコール飲料の製造方法である。
請求項3記載の本発明は、前記アルコール飲料のミネラルが清酒の7〜24倍であることを特徴とする請求項1又は2記載のアルコール飲料の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、カルシウム、カリウム、マグネシウム等のミネラルが通常の清酒に比べて7〜24倍多く含んでいて、琥珀色で黒砂糖由来の風味を有したアルコール7%〜18%の香味のバランスが優れているアルコール飲料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いる黒砂糖は、奄美大島産のさとうきびを原料とした粉状のものであり、レンガ状のもの、砕いたものでも可能である。
【0010】
黒砂糖を用いるアルコール飲料の製造は、基本的に清酒に類似した方法に従って行えば良い。酵母は、秋田流・花酵母(AK−1)を用いて、麹エキス液体培地(Be6.5)で30℃で3日間培養した培養液を使用する。原料米の精米歩合は70%から60%が望ましく、3段仕込みで醪最高温度を12〜15℃の平衡復発酵させるのが適当である。
成分値と官能から香味のバランスの良い酒質になる15〜20日に上槽すると、黒砂糖由来の琥珀色と黒砂糖由来の風味を有したアルコール7%〜18%のアルコール飲料を製造することができる。上槽後のアルコール飲料についてミネラルを定量した結果、通常の清酒に比べて7〜24倍多くなった。
【実施例】
【0011】
以下に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0012】
原料米は、精米歩合60%の白米を用いて総米1000gで、イ〜ヌの10種類の小仕込試験を行った。基本仕込配合を、白米換算にして蒸米800g、麹米200gと紛状黒砂糖400gとし、3段仕込とした。黒砂糖の添加時期は、イ、ロ、ハ、ニ、ホの5仕込は、醪7日目に200gと醪15日目に200g添加した。ヘ、ホ、チ、リ、ヌの5仕込は3段仕込みの留時に200gと醪10日目に200g添加した。また、汲水は、イとヘは1600ml、ロとトは1700ml、ハとチは1800ml、ニとリは1900ml、ホとヌは2000mlとした。酵母は、すべて秋田流・花酵母(AK−1)を用いて、酵母仕込で行った。
仕込配合を表1に示す。
【0013】
【表1】

【0014】
発酵温度は、3段仕込みの1段目(添え仕込み)は12℃、次の日(踊り)は13℃、2段目(仲添え)は10℃、3段目(留添え)は8℃とし、1日1℃づつ品温を上げ、最高15℃で発酵させた。
【0015】
5日毎に醪を遠心分離し、そのろ液について分析した。発酵能は、日本酒度とアルコール生成量を指標とした。日本酒度は、振動式密度計により、アルコール生成量はアルコメイトによりそれぞれ測定した。また、有機酸は、総酸度、つまり国税庁所定分析法注解に従い、遊離している有機酸の総量を中和滴定によって測定した。アミノ酸度は、国税庁所定分析法注解に従い、ホルモール法により測定した。香気成分は、国税庁所定分析法注解に従い、ガスクロマトグラフィーを用いてヘッドスペース法で測定した。また、カルシウム、カリウム、マグネシウム等のミネラルは、プラズマ発光分光分析器で測定した。官能的に香味のバランスの良い時期に醪を遠心分離し、製成酒とした。
上槽時の日本酒度とアルコール度数と酸度とアミノ酸度の分析値を表2に示す。上槽後の香気成分の測定値を表3に示す。
【0016】
【表2】

【0017】
【表3】

【0018】
黒砂糖の添加時期が各成分に与える影響を見ると、醪の遅い時期(イ〜ホ:醪7日目と醪14日目)に添加したのに比べ、早い時期(ヘ〜ヌ:留添え時と醪10日目)に添加すると、アルコールが生成する傾向があり、酸度とアミノ酸度が高くなる傾向があった。
また、汲み水の量が各成分に与える影響を見た。つまり、イ〜ホ、またはヘ〜ヌを比べると、汲み水が多くなると日本酒度が+になる傾向があり、アルコール生成量と酸度とアミノ酸度が低くなる傾向があった。
【0019】
黒砂糖の添加時期が香気成分に与える影響を見ると、醪の遅い時期(イ〜ホ:醪7日目と醪14日目)に添加したのに比べ、早い時期(ヘ〜ヌ:留添え時と醪10日目)に添加すると、EtOAc(酢酸エチル)とi―BuOH(イソブタノール)とi−AmOAc(酢酸イソアミル)とi−AmOH(イソアミルアルコール)がやや増加する傾向があった。
また、汲み水の量が香気成分に与える影響を見た。つまり、イ〜ホ、またはヘ〜ヌを比べると、汲み水が多くなるとEtOAc(酢酸エチル)とn−PuOH(ノルマルプロパノール)とi―BuOH(イソブタノール)とi−AmOAc(酢酸イソアミル)とi−AmOH(イソアミルアルコール)とEtOCap(カプロン酸エチル)の6成分すべてが減少する傾向があった。
【0020】
市販清酒と本発明である黒砂糖を用いたアルコール飲料のミネラルの定量値を表4に示す。
【0021】
【表4】

【0022】
市販清酒に比べ、黒砂糖を用いたアルコール飲料のミネラル含有量は8成分のいずれも高含有であり、ナトリウムが約4倍、マグネシウムが約20倍、カリウムが約2倍、カルシュウムが約8倍、マンガンが約40倍、リンが約4倍、鉄が約150倍、亜鉛が約70倍となった。
ミネラル総量は、普通酒に比べて黒砂糖を用いたアルコール飲料は7倍〜27倍となった。
【0023】
製成酒をパネラー6名で官能試験を行った結果を表5に示す。
【0024】
【表5】

【0025】
醪の遅い時期(イ〜ホ:醪7日目と醪14日目)に添加したものは、黒砂糖の風味が強く濃醇タイプとなり、早い時期(ヘ〜ヌ:留添時と醪10日目)に添加したものは、酸に特徴がある軽快タイプの酒質となった。
アルコールと黒砂糖の甘味と酸のバランスからみると、汲み水が少ないものは黒糖の風味が強すぎて甘味が強く、黒砂糖に由来する苦味が感じられた。一方、汲み水が多いものは黒砂糖の風味が少なく、甘味に比べてアルコールが高く、アルコールに由来する苦味や渋みが感じられた。
最終的に、濃醇タイプとしてハまたは二、軽快タイプとしてチの仕込みが黒砂糖由来の琥珀色を有し、黒砂糖の風味とアルコールと酸のバランスが良く、官能的に最も良い評価を得ることができた。
【0026】
上記実施例の黒砂糖添加量と上槽時期を変えることにより、アルコール7%〜18%のアルコール飲料を製造することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸米と米麹と水を原料とし、黒砂糖を仕込み時又は醪に添加し平衡復発酵させ、黒砂糖由来の琥珀色で黒砂糖の風味を有したアルコール14%〜17%のアルコール飲料の製造方法。
【請求項2】
前記製造方法を応用した、黒砂糖量と上槽時期を変えたアルコール7%〜18%のアルコール飲料の製造方法。
【請求項3】
前記黒砂糖が、固形状又は粉状であることを特徴とする請求項1記載のアルコール飲料の製造方法。
【請求項4】
前記アルコール飲料のミネラルが清酒の7〜24倍であることを特徴とする請求項1又は2記載のアルコール飲料の製造方法。

【公開番号】特開2007−124958(P2007−124958A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−321165(P2005−321165)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(399079933)株式会社齋彌酒造店 (2)
【Fターム(参考)】