説明

黒色のポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子

【課題】予備発泡粒子同士、発泡成形体同士、または発泡成形体と他のプラスチック製品、金属製品等との間で摩擦が生じたときに、周波数の高い耳障りな摩擦音(キュッキュッ音)が発生しない、黒色のポリプロピレン樹脂発泡予備発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂発泡成形体を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、ポリエチレン系樹脂10重量部以上30重量部以下、脂肪酸アミド0.1重量部以上2重量部以下及び平均粒子径が40nm以上のカーボンブラック1重量部以上10重量部以下を含有するポリプロピレン系樹脂組成物からなる樹脂粒子を予備発泡した黒色のポリプロピレン樹脂発泡予備発泡粒子および該予備発泡粒子を成形したポリプロピレン系予備発泡粒子は、周波数の高い耳障りな摩擦音が発生しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝包装材、通函、断熱材、自動車のバンパー芯材などに用いられるポリプロピレン系樹脂型内発泡成形体の製造に好適に使用しうるポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子に関する。更に詳しくは、成形体においても高周波数である摩擦音を実質的に生じない、黒色のポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂発泡成形体は、緩衝包装材、バンパーコア材、自動車部材などに広く使われている。しかし、これらポリプロピレン系樹脂発泡成形体やポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子は、発泡成形体同士あるいは他のプラスチック製品、金属製品等との間で摩擦が生じたときに、周波数の高い耳障りな摩擦音(キュッキュッ音)が発生することがあり、特に、カーボンブラックなどの顔料で黒色に染められたポリプロピレン系発泡粒子やポリプロピレン系樹脂発泡成形体は、周波数の高い耳障りな摩擦音が大きく発生する傾向にある。
【0003】
従来、前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子や成形体の摩擦音を防止する方法として、ポリプロピレン系樹脂発泡体の表面に高級脂肪酸アミド等を付着させる方法(特許文献1)、粒状ポリオレフィン発泡体の表面に高級脂肪酸アミド等を付着させる方法(特許文献2)などが開示されている。しかしながら、これらの方法では、成形後、発泡体の表面に高級脂肪酸アミド等を塗布する工程が必要となり生産性や生産コストの面で不利となる。また型内成形時に付着させた高級脂肪酸アミドが剥がれ落ち、成形金型を汚染する問題が生じる。
【0004】
また、振動による摩擦でポリプロピレン系樹脂発泡体を傷つけることなく、また摩擦によって剥がれ落ちる粉による金型の汚染を抑制する目的で、ポリプロピレン系樹脂に脂肪酸アミド化合物を含有させる方法が開示されている(特許文献3)。この方法では、ポリプロピレン系樹脂に脂肪酸アミドを練りこむことで、樹脂の表面を滑りやすくして、ある程度は摩擦音を低減できると推測されるが、カーボンブラックなどの顔料で着色された黒色のポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子の場合、摩擦音が大きく発生するため、脂肪酸アミド化合物を含有させて表面を滑りやすくするだけでは、摩擦音の防止効果は不十分である。更に、ポリプロピレン系樹脂発泡成形体の二次加工性改善を目的に、ポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂からなる基材樹脂に、脂肪酸アミドを含有させる方法も開示されている(特許文献4)。この方法では、ポリプロピレン系樹脂に脂肪酸アミドを練りこむことで樹脂の表面を滑りやすくするうえに、ポリプロピレン系樹脂にポリエチレン系樹脂を含有することで表面が柔らかくなるので、ある程度は摩擦音を低減できるが、黒色のポリプロピレン系発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂発泡成形体の場合、摩擦音が大きく発生するため、やはり摩擦音の防止効果は不十分である。
【特許文献1】特開昭59−210954号公報
【特許文献2】特開昭61−23632号公報
【特許文献3】特開2003−49019号公報
【特許文献4】特許第3436801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、顔料により黒色に着色されたポリプロピレン樹脂発泡予備発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂発泡成形体であって、予備発泡粒子同士、発泡成形体同士または該発泡成形体と他のプラスチック製品、金属製品等との間で摩擦が生じたときにも、周波数の高い耳障りな摩擦音(キュッキュッ音)が発生しない、ポリプロピレン樹脂発泡予備発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂発泡成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子の基材樹脂として、ポリプロピレン系樹脂に対して、ポリエチレン系樹脂及び脂肪酸アミドを含有させるとともに、黒色顔料として、平均粒子径が40nm以上のカーボンブラックを配合することで、周波数の高い耳障りな摩擦音を発生しない黒色のポリプロピレン系予備発泡粒子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の第1は、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、ポリエチレン系樹脂3重量部以上30重量部以下、脂肪酸アミド0.1重量部以上2重量部以下及び平均粒子径が40nm以上のカーボンブラック1重量部以上10重量部以下を含有するポリプロピレン系樹脂組成物からなるポリプロピレン系樹脂粒子、水、分散剤及び発泡剤を耐圧容器内に仕込み、所定の温度まで加熱し、加圧下で前記樹脂粒子に発泡剤を含浸したのち、前記耐圧容器内よりも低圧の雰囲気下に放出することによって得られることを特徴とする黒色のポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子である。
【0008】
また、本発明の第2は、前記ポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子を金型内に充填し、加熱して得られるポリプロピレン系樹脂発泡成形体である。
【0009】
前記脂肪酸アミドとしては、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドから選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る、カーボンブラックを含有した黒色のポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子及び該予備発泡粒子から得られるポリプロピレン系樹脂発泡成形体は、予備発泡粒子同士、発泡成形体同士または該発泡成形体と他のプラスチック製品、金属製品等との間で摩擦が生じたときにも、周波数の高い耳障りな摩擦音(キュッキュッ音)が発生しない。また、樹脂粒子中に脂肪酸アミドを含有しているため、型内発泡成形時に脂肪酸アミドが剥がれ落ちることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において用いるポリプロピレン系樹脂は、プロピレンモノマー単位が50重量%以上、好ましくは80重量%以上、更に好ましくは90重量%以上からなる重合体であり、チーグラー型塩化チタン系触媒、メタロセン触媒、ポストメタロセン触媒で重合された、立体規則性の高いものが好ましい。具体例としては、例えば、プロピレン単独重合体、エチレン−プロピレンランダム共重合体、プロピレン−ブテンランダム共重合体、エチレン−プロピレン−ブテンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体、無水マレイン酸―プロピレンランダム共重合体、無水マレイン酸−プロピレンブロック共重合体、プロピレン−無水マレイン酸グラフト共重合体等が挙げられ、それぞれ単独あるいは混合して用いられる。特に、エチレン−プロピレンランダム共重合体、プロピレン−ブテンランダム共重合体、エチレン−プロピレン−ブテンランダム共重合体が好適に使用し得る。また、これらのポリプロピレン系樹脂は無架橋のものが好ましいが、架橋したものも使用できる。
【0012】
本発明に使用するポリプロピレン系樹脂は、JIS K7210に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgで測定したメルトインデックス(以下、MI)が0.1g/10分以上15g/10分以下であることが好ましく、更に好ましくは2g/10分以上12g/10分以下である。MIが、0.1g/10分未満では、予備発泡粒子を製造する際の発泡力が低く、高発泡倍率の予備発泡粒子を得るのが難しくなる場合がある。また、発泡成形体としたときの予備発泡粒子間の融着強度を確保することが難しくなる場合がある。またMIが15g/10分を越えると予備発泡粒子を製造する際にセルが破泡する場合がある。
【0013】
また、前記ポリプロピレン系樹脂は、機械的強度、耐熱性に優れた発泡成形体を得るために、融点は、好ましくは130℃以上168℃以下、更に好ましくは135℃以上160℃以下、特に好ましくは140℃以上155℃以下である。融点が当該範囲内であると、成形性と機械的強度、耐熱性のバランスが取り易い傾向が強い。
【0014】
ポリプロピレン系樹脂を黒色に染める顔料としては、カーボンブラック、酸化鉄、有機顔料などが一般的に挙げられるが、本発明の目的とする摩擦音防止効果を得るためには、平均粒子径が40nm以上のカーボンブラックを用いる必要がある。前記平均粒子径の上限は120μm程度である。粒子径が大きすぎると黒色の着色が弱くなり、色むらの原因となる。なお、前記カーボンブラックの平均粒子径は、透過型顕微鏡で観察して粒子1個の直径を測定し、10個の粒子の粒子径の平均をとった値である。また、前記カーボンブラックの添加量は、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して1重量部以上10重量部以下、より好ましくは2重量部以上8重量部以下である。前記カーボンブラックの添加量が1重量部より少ないと、ポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂発泡成形体に色むらが発生しやすくなり外観上の美麗性を損なう。カーボンブラックの添加量が10重量部を越えると、本発明の目的とする摩擦音の抑制効果が充分に発揮されない。
【0015】
本発明に用いるポリエチレン系樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)、低分子量ポリエチレンなどのポリエチレン類、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられ、これらは単独または2種類以上混合して用いることができる。これらの樹脂の中でも、低密度ポリエチレン(LDPE)が好ましく、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が更に好ましく、特に、密度が0.910g/cm3以上0.935g/cm3以下、融点が110℃以上135℃以下、JIS K7210に準拠し、温度190℃、荷重2.16kgで測定したMIが0.5g/10分以上3g/10分以下、コモノマーが1−ヘキセン、4−メチルペンテン又は1−オクテンである直鎖状低密度ポリエチレンが良好な発泡性を示し、好適に使用し得る。
【0016】
なお、本発明で、前記ポリプロピレン系樹脂及びポリエチレン系樹脂の融点(以下、「Tm」という場合がある。)とは、示差走査熱量計によって、1〜10mgのポリプロピレン系樹脂またはポリエチレン系樹脂を、40℃から220℃まで10℃/分の速度で昇温し、その後40℃まで10℃/分の速度で冷却し、再度220℃まで10℃/分の速度で昇温した時に得られるDSC曲線における吸熱曲線のピーク温度をいう。
【0017】
前記ポリエチレン系樹脂の添加量としては、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して3重量部以上30重量部以下、より好ましくは10重量部以上30重量部以下、更に好ましくは20重量部以上30重量部以下である。ポリエチレン系樹脂の添加量が3重量部より少ないと摩擦音の抑制効果が発揮されない。ポリエチレン系樹脂の添加量が30重量部を越えると、ポリプロピレン系樹脂との混練状態が悪化して予備発泡粒子の発泡倍率にばらつきが生じる場合がある。
【0018】
本発明に用いる脂肪酸アミドとしては、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドもしくはメチレンビスステアリン酸アミドス等のテアリン酸アミドからなる群より選ばれた1つ以上の脂肪酸アミド化合物であることが好ましく、これらのなかでも、特にエルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドが、ポリプロピレン系樹脂との混練性やコストの面から好ましい。前記脂肪酸アミドの添加量としては、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して0.1重量部以上2重量部以下、好ましくは0.3重量部以上1重量部以下である。脂肪酸アミドの添加量が0.1重量部より少ないと摩擦音の発生抑制効果が充分に発揮されない。また、脂肪酸アミドの添加量が2重量部を越えると、ポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子を製造する際に、耐圧容器内における樹脂粒子の分散が不安定になる傾向にあり、更にポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子の表面に分散剤が大量に残留しやすいため、型内成形の際に融着不良が起こりやすい傾向にある。
【0019】
ポリプロピレン系樹脂に対し、カーボンブラックとポリエチレン系樹脂と脂肪酸アミドを添加して基材樹脂を得る方法としては、公知の方法を用いることが出来るが、中でもポリプロピレン系樹脂とカーボンブラックとポリエチレン系樹脂と脂肪酸アミドをドライブレンドする方法が、製造の容易性の上で好ましい。
【0020】
次に、本発明のポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子の製造方法について述べる。予備発泡粒子の基材樹脂である、カーボンブラックとポリエチレン系樹脂と脂肪酸アミドが添加されたポリプロピレン系混合樹脂組成物は、公知の方法を用いて、例えば、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー(商標)、ロール等を用いて溶融して、1粒の重量が0.2〜10mg、好ましくは0.5〜6mgのポリプロピレン系樹脂粒子に加工されるが、押出機を用いて溶融し、ストランドカット法にて製造することが好ましい。例えば、円形ダイスからストランド状に押出されたポリプロピレン系樹脂組成物を、水、空気等で冷却し、固化させたものを切断して、所望の形状のポリプロピレン系樹脂粒子を得る。
【0021】
また、前記ポリプロピレン系樹脂粒子の製造の際にセル造核剤を添加することにより、ポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子のセル径を所望の値に調整することが出来る。セル造核剤としては、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、カオリン、酸化チタン、ベントナイト、硫酸バリウム等の無機系造核剤が一般に使用される。セル造核剤の添加量は、使用するポリプロピレン系樹脂の種類、基材樹脂の組成、セル造核剤の種類により異なり一概には規定できないが、ポリプロピレン系樹脂粒子100重量部に対して、概ね0.001重量部以上2重量部以下であることが好ましい。
【0022】
更に、ポリプロピレン系樹脂粒子の製造の際、必要により種々の添加剤を、ポリプロピレン系樹脂の特性を損なわない範囲内で添加することができる。添加剤としては、例えば、
アルキルジエタノールアミド、アルキルジエタノールアミン、ヒドロキシアルキルエタノールアミン、脂肪酸モノグリセライド、脂肪酸ジグリセライドなどのノニオン系界面活性剤からなる帯電防止剤;
IRGANOX(登録商標)1010(チバ スペシャルティ ケミカルズ)、IRGANOX(登録商標)1076(チバ スペシャルティ ケミカルズ)、IRGANOX(登録商標)1330(チバ スペシャルティ ケミカルズ)、IRGANOX(登録商標)1425WL(チバ スペシャルティ ケミカルズ)、IRGANOX(登録商標)3114(チバ スペシャルティ ケミカルズ)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤;
IRGAFOS(登録商標)168(チバ スペシャルティ ケミカルズ)、IRGAFOS(登録商標)P−EPQ(チバ スペシャルティ ケミカルズ)、IRGAFOS(登録商標)126(チバ スペシャルティ ケミカルズ)等のリン系加工安定剤;
ラクトン系加工安定剤;
ヒドロキシルアミン系加工安定剤;
IRGANOX(登録商標)MD1024(イルガノックス、チバ スペシャルティ ケミカルズ)等の金属不活性剤;
TINUVIN(チヌビン、登録商標)326(チバ スペシャルティ ケミカルズ)、TINUVIN(登録商標)327チバ スペシャルティ ケミカルズ)等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;
TINUVIN(チヌビン、登録商標)120(チバ スペシャルティ ケミカルズ登録商標)等のベンゾエート系光安定剤;
CHIMASSORB(登録商標)119(チバ スペシャルティ ケミカルズ)、CHIMASSORB(登録商標)944(チバ スペシャルティ ケミカルズ)、TINUVIN(登録商標)622(チバ スペシャルティ ケミカルズ)、TINUVIN(登録商標)770(チバ スペシャルティ ケミカルズ)等のヒンダードアミン系光安定剤;
ハロゲン系難燃剤および三酸化アンチモン等の難燃助剤;
非ハロゲン系難燃剤;
ハイドロタルサイト、ステアリン酸カルシウム等の酸中和剤;
IRGASTAB(登録商標)NA11(チバ スペシャルティ ケミカルズ)等の結晶核剤;
メラミン等のトリアジン系化合物、
などが例示される。
【0023】
本発明に使用するポリプロピレン系樹脂粒子は、JIS K7106に準拠して測定した曲げ剛性が900MPa以上1700MPa以下であることが好ましく、更には950MPa以上1600MPa以下であることがより好ましい。曲げ剛性が900MPaよりも低いと、圧縮強度が低い成形体となるため、発泡成形体の軽量化ができない。
【0024】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子は、前記のようなポリプロピレン系樹脂を主成分とする樹脂組成物からなる樹脂粒子と、水、分散剤および発泡剤からなる水分散物とを耐圧容器内に仕込み、所定の温度まで加熱し、加圧下で前記樹脂粒子に発泡剤を含浸したのち、前記樹脂粒子と水との混合物を前記耐圧容器内よりも低圧の雰囲気下に放出して前記樹脂粒子を発泡させることで得られる。具体的には、密閉容器内に、前記樹脂粒子、発泡剤、分散剤および分散助剤を含む水系分散媒を仕込み、攪拌しながら昇温して所定温度(以下、「発泡温度」という場合がある。)として樹脂粒子に発泡剤を含浸させ、必要に応じて発泡剤を追加添加して、密閉容器内を一定圧力(以下、「発泡圧力」という場合がある。)に保持した後、密閉容器下部から内容物を、該密閉容器内圧より低圧雰囲気下に放出する方法が例示される。使用する密閉容器には特に限定はなく、予備発泡粒子製造時における容器内圧力、容器内温度に耐えられるものであればよいが、例えばオートクレーブ型の耐圧容器が挙げられる。
【0025】
前記発泡剤としては、公知のものでよく、例えば、プロパン、イソブタン、ノルマルブタン、イソペンタン、ノルマルペンタン等の脂肪族炭化水素およびそれらの混合物;空気、窒素、二酸化炭素等の無機ガスなどが挙げられる。前記発泡剤の使用量は、使用するポリプロピレン系樹脂の種類、基材樹脂の組成、発泡剤の種類、目的とする発泡倍率等により異なり、一概には規定できないが、ポリプロピレン系樹脂粒子100重量部に対して、概ね2重量部以上60重量部以下であることが好ましい。また、前記発泡剤の代わりに分散媒として用いている水を発泡剤として利用する方法を用いる場合もある。
【0026】
前記分散剤としては、例えば、塩基性第三リン酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、カオリン等の難水溶性無機化合物を使用することが好ましい。また、分散助剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ、直鎖アルキルフィンスルホン酸ソーダ等のアニオン系界面活性剤を使用することが好ましい。これらの中でも塩基性第三リン酸カルシウムと直鎖アルキルフィンスルホン酸ソーダとの併用が、良好な分散性を得る上で好ましい。これら分散剤及び分散助剤の使用量は、それらの種類や用いるポリプロピレン系樹脂の種類・量、発泡剤の種類などによって異なるが、通常、水100重量部に対して、分散剤0.1重量部以上3重量部以下、分散助剤0.0001重量部以上0.1重量部以下であることが好ましい。
【0027】
また、予備発泡粒子に付着する分散剤量を低減する目的で前記水系分散媒に酸を混合して、水系分散媒を酸性にする場合もある。
【0028】
前記のようにして密閉容器内に調製されたポリプロピレン系樹脂粒子の水系分散物は、攪拌下、所定の発泡温度まで昇温され、一定時間、通常5〜180分間、好ましくは10〜60分間、その温度で保持されるとともに、密閉容器内の圧力が上昇し、発泡剤が樹脂粒子に含浸される。この後、所定の発泡圧力になるまで発泡剤が追加供給され、一定時間、通常5〜180分間、好ましくは10〜60分間、そのままで保持される。こうして発泡温度、発泡圧力で保持されたポリプロピレン系樹脂粒子の水系分散物を、密閉容器下部に設けられたバルブを開放して低圧雰囲気下(通常は大気圧下)に放出することにより、ポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子が得られる。
【0029】
前記樹脂粒子の水系分散物を低圧雰囲気に放出する際、流量調整、倍率バラツキ低減などの目的で2〜10mmφの開口オリフィスを通して放出することもできる。また、発泡倍率を高くする目的で、上記低圧雰囲気を飽和水蒸気で満たす場合もある。
【0030】
発泡温度は、用いるポリプロピレン系樹脂の融点[Tm、(℃)]、発泡剤の種類等により異なり、一概には規定できないが、概ねTm−30(℃)〜Tm+10(℃)の範囲から決定される。また、発泡圧力は、用いるポリプロピレン系樹脂の種類、発泡剤の種類、所望の予備発泡粒子の発泡倍率等によって異なり、一概には規定できないが、概ね1〜8MPa(ゲージ圧)の範囲から決定される。
【0031】
上記のようにして得たポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子は、公知の成形方法により、ポリプロピレン系樹脂発泡成形体にすることができる。例えば、a)予備発泡粒子を無機ガスで加圧処理して予備発泡粒子内に無機ガスを含浸させ所定の予備発泡粒子内圧を付与した後、金型に充填し、水蒸気で加熱融着させる方法、b)予備発泡粒子をガス圧力で圧縮して金型に充填し、予備発泡粒子の回復力を利用して、水蒸気で加熱融着させる方法、c)特に前処理することなく、予備発泡粒子を金型に充填し、水蒸気で加熱融着させる方法、などの方法を利用することができる。前記無機ガスとしては、空気、窒素、酸素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、炭酸ガスなどが使用できる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上混合使用してもよい。これらの中でも、汎用性の高い空気、窒素が好ましい。
【実施例】
【0032】
次に、本発明のポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂発泡成形体を実施例及び比較例を挙げて、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
得られた予備発泡粒子および発泡成形体の評価は、以下の方法で行った。
<予備発泡粒子における摩擦音防止効果>
予備発泡粒子200cm3を、30×30cmのガーゼに包んで口を縛った状態で平らな台の上に置き、オートグラフを用いて上から500mm/分の速度で圧縮し、そのときの音の発生をそばで聴取した。評価基準は下記による。
◎:全く摩擦音が発生しない
○:殆ど摩擦音が発生しないが、数回圧縮すると僅かに発生する。
×:大きな摩擦音が発生する。
<発泡成形体における摩擦音防止効果>
200×200×400mmの直方体状にカットしたポリプロピレン系樹脂発泡成形体を、0.05MPaの荷重の下、50mm/秒の速度で、水平なアクリル樹脂板上を、該ポリプロピレン系樹脂発泡体のスキン面(型内成形時に金型のキャビティ内面に接触していた面)を前記アクリル樹脂板に接触させた状態で移動させ、摩擦音の発生の有無を調べた。評価基準は下記による。
◎ :全く摩擦音が発生しない。
○ :殆ど摩擦音が発生しないが、数回移動させると僅かに発生する。
× :移動させた時に大きな摩擦音が発生する。
××:0.05MPaの荷重で圧縮するだけで、大きな摩擦音が発生する。
【0034】
(実施例1)
基材樹脂として、MI=8/10分、融点146℃のランダムポリプロピレン100重量部に対し、ポリエチレン系樹脂としてMI=2/10分、融点122℃で、コモノマーが4−メチルペンテンである直鎖状低密度ポリエチレンを25重量部、脂肪酸アミドとしてエルカ酸アミドを0.6重量部、平均粒子径60nmのカーボンブラックを5重量部、更にセル造核剤としてタルク0.3重量部用い、前記ランダムポリプロピレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エルカ酸アミド、カーボンブラック及びタルクをドライブレンドした。このドライブレンドした混合物を、押出機内で溶融混練し、円形ダイよりストランド状に押出し、水冷後、カッターで切断し、一粒の重量が1.2mg/粒のポリプロピレン系樹脂粒子を得た。
【0035】
得られた樹脂粒子100重量部(50kg)、水200重量部、塩基性第三リン酸カルシウム1.0重量部、アルキルスルフォン酸ソーダ0.03重量部を、容量0.35m3の耐圧オートクレーブ中に仕込み、攪拌下、発泡剤としてイソブタンを8部添加した後、オートクレーブ内容物を昇温し、140℃の発泡温度まで加熱した。その後、イソブタンを追加圧入して2.0MPa(ゲージ圧)の発泡圧力まで昇圧し、該発泡温度、発泡圧力で30分間保持した後、オートクレーブ下部のバルブを開き、4.0mmφの開口オリフィスを通して、オートクレーブ内容物を大気圧下に放出して予備発泡粒子を得た。
【0036】
得られた予備発泡粒子に、空気加圧処理により空気を含浸させて0.08〜0.12MPa(ゲージ圧)の内圧を付与した後、320×320×60mmの金型内に充填し、0.30MPa(ゲージ圧)の成形圧力(温度:144℃)の蒸気で加熱、融着させて発泡成形体を得た。
【0037】
前記のようにして得られた予備発泡粒子および発泡成形体についての評価結果を、表1に示す。表1に示すように、摩擦音が全く発生しないポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂発泡成形体を得ることができた。
【0038】
(実施例2)
ポリプロピレン100重量部に対するポリエチレン系樹脂の添加量を5重量部とした以外は、実施例1と同様の方法で予備発泡粒子と発泡成形体を得た。評価結果を表1に示す。表1に示すように、殆ど摩擦音が発生しないポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂発泡成形体を得ることができた。
【0039】
(実施例3)
ポリプロピレン100重量部に対するエルカ酸アミドの添加量を0.3重量部とした以外は、実施例1と同様の方法で予備発泡粒子と発泡成形体を得た。得られた予備発泡粒子および発泡成形体についての評価結果を表1に示す。表1に示すように、殆ど摩擦音が発生しないポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂発泡成形体を得ることができた。
【0040】
(実施例4)
脂肪酸アミドとして、エチレンビスステアリン酸アミドをポリプロピレン100重量部に対して0.6重量部添加したこと以外は、実施例1と同様の方法で予備発泡粒子と発泡成形体を得た。得られた予備発泡粒子および発泡成形体についての評価結果を表1に示す。表1に示すように、摩擦音が全く発生しないポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂発泡成形体を得ることができた。
【0041】
(実施例5)
平均粒子径60nmのカーボンブラックの代わりに平均粒子径40nmのカーボンブラックを5重量部用いた以外は、実施例1と同様の方法で予備発泡粒子と発泡成形体を得た。評価結果を表1に示す。表1に示すように、殆ど摩擦音が発生しないポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂発泡成形体を得ることができた。
【0042】
(実施例6)
平均粒子径60nmのカーボンブラックの添加量を10重量部とした以外は、実施例1と同様の方法で予備発泡粒子と発泡成形体を得た。評価結果を表1に示す。表1に示すように、殆ど摩擦音が発生しないポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂発泡成形体を得ることができた。
【0043】
(比較例1)
平均粒子径60nmのカーボンブラックの代わりに、平均粒子径20nmのカーボンブラックを5重量部添加したこと以外は、実施例1と同様の方法で予備発泡粒子と発泡成形体を得た。得られた予備発泡粒子および発泡成形体についての評価結果を表1に示す。表1に示すように、得られたポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂発泡成形体は、大きな摩擦音が発生した。このことから、ポリプロピレン系樹脂にポリエチレン系樹脂と脂肪酸アミドの両方を混合しても、平均粒子径が小さいカーボンブラックを用いた場合、摩擦音防止効果がないことがわかる。
【0044】
(比較例2)
ポリエチレン系樹脂を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で予備発泡粒子と発泡成形体を得た。得られた予備発泡粒子および発泡成形体についての評価結果を表1に示す。表1に示すように、得られたポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂発泡成形体は、大きな摩擦音が発生した。このことから、顔料として平均粒子径が40nm以上のカーボンブラックを用い、更に脂肪酸アミドを混合しても、ポリエチレン系樹脂を添加しない場合、摩擦音防止効果がないことがわかる。
【0045】
(比較例3)
エルカ酸アミドを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で予備発泡粒子と発泡成形体を得た。得られた予備発泡粒子および発泡成形体についての評価結果を表1に示す。表1に示すように、得られたポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂発泡成形体は、大きな摩擦音が発生した。このことから、顔料として平均粒子径が40nm以上のカーボンブラックを用い、更にポリエチレン系樹脂を混合しても、脂肪酸アミドを添加しない場合、摩擦音防止効果がないことがわかる。
【0046】
【表1】

【0047】
以上の実施例および比較例の結果から、黒色のポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びポリプロピレン系樹脂発泡成形体の摩擦音を防止するには、顔料として平均粒子径が40nm以上のカーボンブラックを用い、更にポリエチレン系樹脂と脂肪酸アミドの両方を混合することが必要であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して、ポリエチレン系樹脂3重量部以上30重量部以下、脂肪酸アミド0.1重量部以上2重量部以下及び平均粒子径が40nm以上のカーボンブラック1重量部以上10重量部以下を含有するポリプロピレン系樹脂組成物からなるポリプロピレン系樹脂粒子、水、分散剤及び発泡剤を耐圧容器内に仕込み、所定の温度まで加熱し、加圧下で前記樹脂粒子に発泡剤を含浸したのち、前記耐圧容器内よりも低圧の雰囲気下に放出することによって得られることを特徴とする黒色のポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子。
【請求項2】
前記脂肪酸アミドとして、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドから選ばれる1種以上を用いる請求項1記載のポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリプロピレン系樹脂予備発泡粒子を金型内に充填し、加熱して得られるポリプロピレン系樹脂発泡成形体。

【公開番号】特開2008−255286(P2008−255286A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−101339(P2007−101339)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【出願人】(593227925)カネカ ベルギー ナムローゼ フェンノートシャップ (2)
【氏名又は名称原語表記】KANEKA BELGIUM N.V.
【Fターム(参考)】