説明

黒鉛材料、電池電極用炭素材料、及び電池

【課題】非水電解液二次電池の電極材料として好適な黒鉛材料及び電池電極用炭素材料、並びに充放電サイクル特性、大電流負荷特性に優れた二次電池を提供する。
【解決手段】光学異方性と光学等方性の組織の大きさ、存在割合、結晶方向の多様性を持った黒鉛材料を形成することにより、大電流負荷特性、サイクル特性を高レベルで維持しつつ、放電容量が大きく、小さい不可逆容量を有する電池電極用炭素材料とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛材料、電池電極用炭素材料、及び電池に関する。さらに詳細には、非水電解液二次電池の電極材料として好適な黒鉛材料及び電池電極用炭素材料、並びに充放電サイクル特性、大電流負荷特性に優れた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯機器等の電源としてはリチウムイオン二次電池が主に用いられている。携帯機器等はその機能が多様化し消費電力が大きくなっている。そのため、リチウムイオン二次電池には、その電池容量を増加させ、同時に充放電サイクル特性を向上させることが求められている。さらに、電動ドリル等の電動工具や、ハイブリッド自動車用等、高出力で大容量の二次電池への要求が高まっている。この分野は従来より、鉛二次電池、ニッケルカドミウム二次電池、ニッケル水素二次電池が主に使用されているが、小型軽量で高エネルギー密度のリチウムイオン二次電池への期待は高く、大電流負荷特性に優れたリチウムイオン二次電池が求められている。
【0003】
特に、バッテリー電気自動車(BEV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)等の自動車用途においては、10年間以上にわたる長期間のサイクル特性と、ハイパワーモーターを駆動させるための大電流負荷特性を主たる要求特性とし、さらに航続距離を伸ばすための高い体積エネルギー密度も要求され、モバイル用途に比して過酷なものとなっている。
【0004】
このリチウムイオン二次電池は、一般に、正極活物質にコバルト酸リチウムなどのリチウム塩が使用され、負極活物質に黒鉛などの炭素質材料が使用されている。
【0005】
黒鉛には、天然黒鉛と人造黒鉛とがある。
これらのうち天然黒鉛は安価に入手できる。しかし、天然黒鉛は鱗片状を成しているので、バインダーとともにペーストにし、それを集電体に塗布すると、天然黒鉛が一方向に配向してしまう。そのような電極で充電すると電極が一方向にのみ膨張し、電極としての性能を低下させる。天然黒鉛を造粒して球状にしたものが提案されているが、電極作製時のプレスによって球状化天然黒鉛が潰れて配向してしまう。また、天然黒鉛の表面がアクティブであるために初回充電時にガスが多量に発生し、初期効率が低く、さらに、サイクル特性も良くなかった。これらを解決するため、日本国特許第3534391号公報(米国特許第6632569号、特許文献1)等では、球状に加工した天然黒鉛の表面に、人造カーボンをコーティングする方法が提案されている。しかし、本方法で作製された材料は、モバイル用途等が要求する高容量・低電流・中サイクル特性については対応可能であるが、上記のような大型電池の大電流、超長期サイクル特性といった要求を満たすことは非常に難しい。
【0006】
一方人造黒鉛については、まず、日本国特開平4−190555号公報(特許文献2)等に記載されているメソカーボン小球体の黒鉛化品が挙げられる。これは非常にバランスの良い負極材であり、高容量、大電流の電池を作製可能であるが、大型電池に要求される、モバイル用途をはるかに超えた長期にわたるサイクル特性を達成することは困難である。
【0007】
石油、石炭ピッチ、コークス等の黒鉛化品に代表される人造黒鉛も比較的安価に入手できる。しかし、結晶性のよい針状コークスは鱗片状になり配向しやすい。この問題を解決するため、日本国特許第3361510号公報(特許文献3)等に記載された方法が成果を上げている。この方法は、人造黒鉛原料の微粉の他、天然黒鉛等の微粉も使用可能であり、モバイル用負極材としては、非常に優れた性能を発揮する。しかし、この材料も、モバイル用途等が要求する高容量・低電流・中サイクル特性については対応可能であるが、上記のような大型電池の大電流、超長期サイクル特性といった要求を満たすには至っていない。
【0008】
また、日本国特開平7−320740号公報(米国特許第5587255号、特許文献4)に記載されている、いわゆるハードカーボンや、非結晶質カーボンを用いた負極材料は、大電流に対する特性に優れ、また、サイクル特性も比較的良好である。しかし、体積エネルギー密度があまりにも低く、また、価格も非常に高価なため、一部の特殊な大型電池にしか使用されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】日本国特許第3534391号公報
【特許文献2】日本国特開平4−190555号公報
【特許文献3】日本国特許第3361510号公報
【特許文献4】日本国特開平7−320740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、大型電池が要求する、超長期サイクル特性、大電流負荷特性を維持しつつ、高エネルギー密度を併せ持った電極が作製可能なリチウムイオン二次電池用負極炭素材等に好適な黒鉛材料を提供することにある。また、本発明の目的は前記黒鉛材料を安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、黒鉛材料の粒子1つ1つの内部構造に着目した。すなわち、高エネルギー密度の重要ファクターとなる黒鉛網面が整ったドメインと、高電流負荷特性、サイクル特性に強いハードカーボンのドメインとを複合化した粒子を想定し、上記課題を解決できないか鋭意検討を行った。すなわち、上記2種のドメインの大きさ、比率、配向方向、空隙等その他組織の影響等について詳細に検討を加えた。
例えば、日本国特開2002−124255号公報や日本国特開2000−149946号公報では、モザイク組織をもつ黒鉛材料が採用されており、粒状または粉末状のメソフェーズピッチ熱処理品(戻し媒)の表面で流動させながら、原料メソフェーズピッチを加熱重合することで、流動による剪断力を受けながら固化し、モザイク組織を形成させている。しかしながら、硝酸を用いる等の架橋処理を行わない重合反応の場合には光学的異方性組織は成長を続けるので、上記のような重合方法ではモザイク組織自体が大きくなってしまう。
【0012】
本発明において、組織の構造を解析する方法として、以下に示す偏光顕微鏡観察法を用いた。
炭素関連材料の組織において、結晶が発達し黒鉛網面が整ったドメインは光学異方性を示し、結晶が未発達、もしくはハードカーボンのような結晶の乱れが大きい材料は光学等方性を示すことが、古くから知られており、これは例えば“最新の炭素材料実験技術(分析・解析偏)炭素材料学会偏(2001年),出版:サイペック株式会社,1〜8頁”等に記載されている偏光顕微鏡観察法により判別することができる。
【0013】
この観察方法を用いると、特に、複屈折体である透明な石膏や白雲母の結晶を一定の方向にガラス板に貼り付けた鋭敏色検板を介することで干渉色の鋭敏化を図ることが可能になる。すなわち、光学異方性を示すドメインについては、偏光顕微鏡像観察時、直交ニコル状態では、一定厚みの鋭敏色検板により位相遅れ530nmの紅色を示す。この系では位相の遅れがわずかに増減しても干渉色が鋭敏に変化する状態となる。すなわち、直交ニコルで全体紅色時、被検体を回転させると、等方性部分は紅色のままであるが、波長がわずかに大きくなれば紫色から青色に近づき、逆に波長が小さくなれば橙色から黄色に近づく。よって、光学異方性ドメインは、0度から45度回転させた場合、黒鉛網面の配列方向によって、黄(イエロー)、赤(マゼンタ)、青(ブルー)等に干渉色の変化を示すことからドメインの配列方向も容易に判別可能である。
【0014】
本発明者らは上記方法で種々の炭素材料について鋭意検討を重ねた結果、以下に示す特定の内部構造を有する黒鉛材料が、今までのリチウムイオン二次電池用負極の炭素材料にない、優れた高エネルギー密度、長サイクル特性、高電流負荷特性を高次元でバランスすることを見出した。また、本内部構造を有する炭素材料を、コークス用原料から製造する方法を見出し、経済性の問題についても解決する目処を得て本発明を完成した。
【0015】
本発明は、下記の黒鉛材料及びその製造方法、電池電極用炭素材料、電極用ペースト、電池並びにリチウムイオン二次電池を提供する。
[1]光学異方性組織と光学等方性組織と空隙とで構成された黒鉛粒子からなり、下記(1)および(2)の条件を満足することを特徴とする黒鉛材料:
(1)黒鉛材料からなる成形体断面において、一辺が100μmの正方形領域を任意に10箇所選んだとき、該領域中に現れる黒鉛粒子の断面において、光学異方性組織の面積の合計(x)、光学等方性組織の面積の合計(y)及び空隙の面積の合計(z)が以下の関係を満足する;
x:y:z=50〜97:3〜50:0〜10、かつx+y+z=100、
(2)任意の100粒子の断面における光学異方性組織ドメインのうち、長辺部の長さの最大値をLmax、レーザー回折法により測定した体積基準の平均粒子径(D50)をLaveとした場合、Lmax/Lave≦0.5である。
[2]黒鉛材料からなる成形体断面において、一辺が100μmの正方形領域を任意に10箇所選んだとき、該領域中に現れる黒鉛粒子の断面が、以下の条件を満足する前記1に記載の黒鉛材料:
0.75≦Db(99.5)/Da(100)≦0.995
(上記式中、Da(n1)は、光学異方性組織ドメインの面積を小さい順に積算していった際、その積算値の合計が、光学異方性組織ドメインの面積(μm2)の合計(A)のn1%に達した際の最大ドメインの面積値(μm2)を表わし、Db(n2)は、光学異方性組織ドメインを面積の小さい順に配列させた際、その個数の合計が、光学異方性組織ドメインの個数の合計(B)のn2%に達した際の最大ドメインの面積値(μm2)を表わす。)。
[3]黒鉛材料からなる成形体断面において、一辺が100μmの正方形領域を任意に10箇所選んだとき、該領域中に現れる黒鉛粒子の断面に対して、クロスニコル状態での鋭敏色検板を通過させた偏光顕微鏡像において、光学異方性組織ドメインの黒鉛網面の向きを示す干渉色であるマゼンタ、ブルーおよびイエローの各色の面積の合計値のうち、最も小さいものの面積合計値Cminが、前記黒鉛粒子の断面積合計に対して12〜32%である前記1または2に記載の黒鉛材料。
[4]黒鉛材料からなる成形体断面において、一辺が100μmの正方形領域を任意に10箇所選んだとき、該領域中に現れる黒鉛粒子の断面が、以下の条件を満足する前記1〜3のいずれかに記載の黒鉛材料。
0.6μm2≦Da(30)≦10μm2
(上記式中、Da(n1)は、前記2の記載と同じ意味を表わす。)。
[5]黒鉛材料からなる成形体断面において、一辺が100μmの正方形領域を任意に10箇所選んだとき、該領域中に現れる黒鉛粒子の断面が、以下の(1)〜(3)の条件をすべて満足する前記1〜4のいずれかに記載の黒鉛材料:
(1)0.5μm2≦Da(10)≦5μm2
(2)0.6μm2≦Da(50)≦50μm2
(3)0.7μm2≦Da(90)≦400μm2
(上記式中、Da(n1)は、前記2の記載と同じ意味を表わす。)。
[6]前記1〜5のいずれかに記載の黒鉛粒子の表面が他の炭素材料で被覆された粒子からなる黒鉛材料。
[7]繊維径2〜1000nmの炭素繊維の一部が前記黒鉛粒子の表面に接着している前記6に記載の黒鉛材料。
[8]前記1〜7のいずれかに記載の黒鉛材料を含む電池電極用炭素材料。
[9]前記1〜7のいずれかに記載の黒鉛材料100質量部と、0.3370nm以下の平均面間隔(d002)を有する球状の天然黒鉛または人造黒鉛0.01〜200質量部とを含む前記8に記載の電池電極用炭素材料。
[10]前記1〜7のいずれかに記載の黒鉛材料100質量部と、0.3370nm以下の平均面間隔(d002)を有しアスペクト比が2〜100の天然黒鉛または人造黒鉛0.01〜120質量部とを含む前記8に記載の電池電極用炭素材料。
[11]前記8〜10のいずれかに記載の電池電極用炭素材料とバインダーとを含む電極用ペースト。
[12]前記11に記載の電極用ペーストの成形体からなる電極。
[13]前記12に記載の電極を構成要素として含む電池。
[14]前記12に記載の電極を構成要素として含むリチウムイオン二次電池。
[15]前記1〜5のいずれかに記載の黒鉛材料の製造方法であって、アスファルテン分と樹脂分の組成の合計が30質量%〜80質量%、硫黄分が0.3質量%〜6質量%の原油蒸留残渣を、コークスドラム前の加熱炉ヒーター出口温度を550℃〜580℃に制御したディレードコーキングを行ない、得られた炭素原料を粉砕し、2000〜3300℃の温度で黒鉛化処理することを特徴とする黒鉛材料の製造方法。
[16]前記黒鉛化処理のための温度が2500〜3300℃である前記15に記載の黒鉛材料の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の黒鉛材料を電池電極用炭素材料として用いると高容量、高クーロン効率、高サイクル特性を維持したまま、高エネルギー密度の電池電極を得ることができる。
また、本発明の黒鉛材料は経済性、量産性に優れ、安全性の改善された方法により製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1の黒鉛材料の偏光顕微鏡像
【図2】実施例3の黒鉛材料の偏光顕微鏡像
【図3】比較例2の黒鉛材料の偏光顕微鏡像
【図4】比較例4の黒鉛材料の偏光顕微鏡像
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
[偏向顕微鏡観察試料作製]
本発明における「黒鉛材料からなる成形体断面」は以下のようにして調製する。
内容積30cm3のプラスチック製サンプル容器の底に両面テープを貼り、その上にスパチュラ2杯ほど(2g程度)の観察用サンプルを乗せる。冷間埋込樹脂(商品名:冷間埋込樹脂#105,製造会社:ジャパンコンポジット(株),販売会社:丸本ストルアス(株))に硬化剤(商品名:硬化剤(M剤),製造会社:日本油脂(株),販売会社:丸本ストルアス(株))を加え、30秒練る。得られた混合物(5ml程度)を前記サンプル容器に高さ約1cmになるまでゆっくりと流し入れ、1日静置して凝固させる。次に凝固したサンプルを取り出し、両面テープを剥がす。そして、研磨板回転式の研磨機を用いて、測定する面を研磨する。
研磨は、回転面に研磨面を押し付けるように行う。研磨板の回転は1000rpmで行う。研磨板の番手は、#500、#1000、#2000の順に行い、最後はアルミナ(商品名:バイカロックス タイプ0.3CR,粒子径0.3μm,製造会社:バイコウスキー,販売会社:バイコウスキージャパン)を用いて鏡面研磨する。
研磨したサンプルをプレパラート上に粘土で固定し、偏光顕微鏡(OLYMPAS社製、BX51)を用いて観察を行う。
【0019】
[偏光顕微鏡像解析方法]
偏光顕微鏡で観察した画像は、OLYMPUS製CAMEDIA C−5050 ZOOMデジタルカメラをアタッチメントで偏光顕微鏡に接続し、撮影する。撮影モードはHQ2560×1280とし、シャッタータイムは1.6秒で行う。撮影データは、bmp形式で株式会社ニレコ製画像解析装置LUZEX APを用いて読み込んだ。色データの表示形式は、IHPカラーとする(Iは輝度、Hは色相、Pは純度を示す。)。画像は2560×1920画素で取込む。
選択した倍率の画像を、観察角度0度と45度においてそれぞれ同じ地点から正方形の領域(100μm四方)を切り抜き、その範囲内の全粒子について以下の解析を行い、平均を求めた。解析に用いている倍率は、対物レンズ×50、1画素=0.05μmで行う。粒子内の領域について、ブルー・イエロー・マゼンタ・ブラック・ピュアマゼンタについて色の抽出を行い、それぞれの面積比をカウントする。光学異方性ドメインは結晶子の向きにより色が変化するが、真正面を向いている確率はきわめて低いため、マゼンタを示しても、波長はピュアマゼンタとは若干異なることがほとんどである。一方、光学等方性ドメインは常にピュアマゼンタの波長を示す。そこで本発明では、ピュアマゼンタはすべて光学等方性領域と認定する。
色の抽出については、LUZEX APのコマンドを使用し、各色の抽出幅は、IHPのデータを以下の表1のように設定して行う。また、ノイズ除去のため、ロジカルフィルタのELIMINATE1のW−1コマンドを用い、1ドット以下の領域を除去する。カウントについては、ピクセル数を用い、画像の総和ピクセル数と、該当色ピクセル数を算出する。
【0020】
【表1】

【0021】
光学異方性組織としては、0度、45度、90度回転させた際に色が変化した部分の面積比を表2に示したように算出する。
【0022】
【表2】

粒子面積(%)=B1+Y1+M1+K1+PM1
光学等方性面積比(%)=PM1
空隙面積比(%) =K1
光学異方性面積比(%)=100−(光学等方性面積比)−(空隙面積比)
同様にd45、d90についても算出し、d00とd45とd90の平均値をとり、当該粒子の値とする。
【0023】
[黒鉛材料]
本発明の黒鉛材料は、原則として、各粒子中に光学異方性のドメイン(結晶が発達し黒鉛網面が整ったドメイン)と光学等方性のドメイン(結晶が未発達、もしくはハードカーボンのような結晶の乱れが大きいドメイン)と空隙とで構成された黒鉛粒子からなる。ここでドメインとは、実質的につながっている光学異方性組織または光学等方性組織の最小単位組織を示す。
【0024】
本発明の好ましい実施態様では、黒鉛材料からなる成形体断面において、一辺が100μmの正方形領域を任意に10箇所選んだとき、該領域中に現れる黒鉛粒子の断面において、光学異方性組織の面積の合計(x)、光学等方性組織の面積の合計(y)及び空隙の面積の合計(z)が以下の関係を満足する。
x:y:z=50〜97:3〜50:0〜10、かつx+y+z=100
ここで、任意に選ばれた一辺が100μmの正方形領域中に現れる黒鉛粒子の断面には、粒子間の空隙は含まれず、粒子の断面部分のみである。x、yおよびzは粒子の断面部分の合計に対する各組織の割合合計であり、zで示される空隙は粒子断面に現れる空隙である(以下、空隙というときは特に断りがない限りこの空隙をいう)。
光学異方性ドメインの量は、前記ドメインがリチウムイオン等の挿入脱離に寄与するため、原則としては多いほど容量の増加につながり好ましいが、光学異方性ドメインが多すぎることにより光学等方性のドメインの面積が全体の面積の3%を下回ると、電流負荷特性、サイクル特性が極端に低下して材料のバランスを保てなくなる。
また、空隙は、それ自体充放電容量には寄与できないのでできるだけ少ないほうが好ましく、zとして好ましくは3%以下、更に好ましくは2%以下である。
具体的には、好ましくは、
x:y:z=70〜97:3〜30:0〜3、かつx+y+z=100、
さらに好ましくは、
x:y:z=90〜97:3〜10:0〜2、かつx+y+z=100
である。
【0025】
また、本発明の好ましい実施態様における黒鉛粒子を構成する黒鉛材料は、粒子が大きな光学異方性ドメインで占められていない。任意の100粒子の断面における光学異方性組織ドメインのうち、長辺部の長さの最大値をLmax、レーザー回折法により測定した体積基準の平均粒子径(D50)をLaveとした場合、Lmax/Laveが0.5以下、好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.3以下である。
Lmax/Laveがこの範囲にあることにより、光学異方性ドメインが充分小さく、また、一つ一つのドメインにおける炭素網目の向きが一方向に配向せずに任意の方向を向くことから、充放電時の結晶子の膨張収縮が分散され結果として電極の変形量は小さくなる。これにより、充放電を繰り返しても粒子同士の電気的接点を失う確率が低減され、サイクル特性は向上する。また、イオンの出入りする黒鉛のエッジが電極表面に存在する確率も高まる為、電流負荷特性も有利になる。
このLmax/Laveは、黒鉛材料からなる成形体断面において、一辺が100μmの正方形領域を任意に10箇所選んだとき、該領域中に現れる黒鉛粒子の断面において、各粒子のLmaxのうち最大のものを測定することにより算出することができる。レーザー回折法による体積基準の平均粒子径(D50)であるLaveの測定はマルバーン製マスターサイザー等のレーザー回折式粒度分布測定器を使用して測定することができる。
【0026】
なお、本発明の好ましい実施態様における黒鉛材料は黒鉛粒子の集合体であり、該黒鉛粒子は完全に均質なものではないため、本発明の黒鉛材料中には上記Lmax/Laveの条件を満たさない粒子も含まれることもあり得るが、その量は個数基準で10%未満、好ましくは5%未満である。すなわち、個数基準で90%以上の黒鉛粒子、好ましくは95%以上の黒鉛粒子が上記の条件を満足する。
【0027】
光学異方性ドメインの粒子中の大きさ(割合)については上記の通りであるが、大きさの絶対値の観点からも以下の関係を有することが好ましい。大きさの絶対値は粒子径にも影響されるため一概には言えないが、黒鉛材料からなる成形体断面において、一辺が100μmの正方形領域を任意に10箇所選んだとき、該領域中に現れる黒鉛粒子の断面において、面積が0.1μm2以上の光学異方性組織ドメインの個数のうち、面積が25μm2以下のものの個数が80%以上であることが好ましい。より好ましくは面積が15μm2以下のものの個数が80%以上であり、さらに好ましくは面積が10μm2以下のものの個数が80%以上である。前記個数は90%以上が好ましい。一つのドメインの面積が大きすぎると、充放電時の粒子の膨張収縮方向が集中しやすくサイクル特性が低下する。
光学等方性ドメインについても一概には言えないが、任意の1粒子中の断面において、面積が0.1μm2以上の光学等方性組織ドメインの個数のうち、面積が25μm2以下のものの個数が80%以上であることが好ましい。より好ましくは面積が15μm2以下のものの個数が80%以上であり、さらに好ましくは面積が10μm2以下のものの個数が80%以上である。前記個数は90%以上が好ましい。一つのドメインの面積が大きすぎると、粒子全体の性能バランスが崩れ、電流負荷特性には優れるが、放電容量が極端に低下する。
【0028】
光学異方性ドメインの大きさの分布の観点からは、以下の規定の範囲が好ましい。
具体的には、黒鉛材料からなる成形体断面において、一辺が100μmの正方形領域を任意に10箇所選んだとき、該領域中に現れる黒鉛粒子の断面において、Da(n1)を、光学異方性組織ドメインの面積を小さい順に積算していった際、その積算値の合計が、光学異方性組織ドメインの面積(μm2)の合計のn1%に達した際の最大ドメインの面積値(μm2)とした場合、以下の条件を満足することが好ましい。
0.6μm2≦Da(30)≦10μm2
さらには、以下の条件を満足することが好ましい。
0.5μm2≦Da(10)≦5μm2
0.6μm2≦Da(50)≦50μm2
0.7μm2≦Da(90)≦400μm2
各Daがこの範囲をはずれると、放電容量、電流荷特性、サイクル特性の3つのバランスを取ることが難しくなる。
【0029】
また、Db(n2)を、光学異方性組織ドメインを面積の小さい順に配列させた際、その個数の合計が、光学異方性組織ドメインの個数の合計(B)のn2%に達した際の最大ドメインの面積値(μm2)とすると、以下の条件を満足することが好ましい。
0.75≦Db(99.5)/Da(100)≦0.995
本条件を満足しない場合、比較的大きい粒子におけるドメイン面積分布のばらつきが大きくなり、放電容量・電流負荷特性・サイクル特性のバランスが悪くなる。
【0030】
さらに、Dc(n3)を、光学等方性組織ドメインの面積を小さい順に積算していった際、その積算値の合計が、光学等方性組織ドメインの面積(μm2)の合計のn3%に達した際の最大ドメインの面積値(μm2)とした場合、以下の条件を満足することが好ましい。
0.5μm2≦Dc(10)≦2μm2
0.6μm2≦Dc(50)≦10μm2
0.7μm2≦Dc(90)≦40μm2
各Dcがこの範囲をはずれると、放電容量、電流負荷特性、サイクル特性の3つのバランスを取ることが難しくなる。
【0031】
サイクル特性に大きく影響する充放電時の膨張収縮方向が集中しにくいことから、粒子中の各光学異方性ドメインにおける結晶の向き(黒鉛網面の向き)はランダムであることが好ましい。光学異方性組織の結晶の向きは、0度から45度回転した場合、ドメインの干渉色が変化することで確認できる。この場合、結晶の向きにより、ブルー、イエロー、マゼンタの干渉色を示すが、各色の面積の合計値のうち、最も小さいものの面積値が、実質的に1粒子の断面積の12%以上になることが好ましい。実質的とは、1粒子断面について、各色にかかわらず最も小さな面積値を示した色について、測定した粒子の断面積に対する比率を粒子100個について行い、その平均値を算出することを示す。さらに好ましくは20%以上である。最も好ましくは各色が32%である。各色にかかわらず最も小さいものの平均を求めることで、結晶の向いている方向のランダムさを表わすことができる。結晶が、どの方向にせよ偏っている場合は、充放電時の粒子の膨張収縮度合いの拡大につながるため、サイクル特性の低下につながりやすい。
【0032】
本発明の黒鉛材料は、X線回折法による(002)面の平均面間隔d002が0.3356nm〜0.3375nmであることが好ましい。また、結晶のC軸方向の厚さLcは30〜1000nmであることが好ましく、100nm以下がさらに好ましく、50nm以上100nm以下が特に好ましい。このような範囲とすることで活物質がドープされるサイトが十分に得られ、かつ結晶子のエッジ部が多すぎないので、電解液の分解がさらに抑制される。d002およびLcは、既知の方法により粉末X線回折(XRD)法を用いて測定することができる(野田稲吉、稲垣道夫,日本学術振興会,第117委員会試料,117−71−A−1(1963)、稲垣道夫他,日本学術振興会,第117委員会試料,117−121−C−5(1972)、稲垣道夫,「炭素」,1963,No.36,25−34頁参照)。
平均面間隔d002が0.3356nm〜0.3375nmにあることにより黒鉛の結晶性が高く、リチウムイオンがインターカレーション可能な空間が増す。
本発明の好ましい実施態様においては、炭素化後や黒鉛化後に粉砕を行わないので菱面体ピーク割合は5%以下、さらに好ましくは1%以下である。
このような範囲とすることで、リチウムとの層間化合物の形成がスムーズになり、これを負極材料としてリチウム二次電池に用いた場合、リチウム吸蔵・放出反応が阻害されづらく、急速充放電特性が向上する。
なお、黒鉛粉末中の菱面体晶構造のピーク割合(x)は、六方晶構造(100)面の実測ピーク強度(P1)、菱面体晶構造の(101)面の実測ピーク強度(P2)から、下記式によって求める。
x=P2/(P1+P2)
【0033】
本発明の黒鉛粒子における光学異方性部分の平均面間隔d002は、0.3354nm〜0.3370nmであることが好ましい。これより大きいと、放電容量が小さくなり、大型電池に要求されるエネルギー密度を満足することが困難になる。光学異方性部分の平均面間隔は、次のようにして算出することができる。
まず、試料表面にタングステンをスパッタにより蒸着し、透過型電子顕微鏡(TEM用)のミクロトームで薄片化する。これをTEMにて800万倍以上の倍率で拡大し、印刷もしくは印画紙に焼き付ける。この中から、黒鉛の結晶網面が鮮明に撮影されている部分についてノギスを用いて面間隔を100点測定し、TEM写真上のスケールバーを基準にしてnmに換算し、平均を求める。
【0034】
本発明の黒鉛材料の粒子のアスペクト比:最大長Dmax/最大長垂直長DNmax(Dmax:粒子画像の輪郭上の2点における最大の長さ;DNmax:最大長に平行な2本の直線で画像を挟んだとき、2直線間を垂直に結ぶ最短の長さ)は、1.00〜1.32であることが好ましい。さらに好ましくは1.00〜1.20である。粒子のアスペクト比を小さくすることで、大型電池に要求されるエネルギー密度を満たす高密度電極を作製することが可能となる。粒子のアスペクト比は、シスメックス製のFPIA3000を用い、画像解析で測定することができる。測定点数は少なくとも3000点以上、好ましくは30000点以上、さらに好ましくは50000点以上測定し、算出した平均値を使用する。
【0035】
本発明の黒鉛粒子は、レーザー回折法により測定した体積基準の粒子径分布においてD50が3〜20μmであることが好ましい。レーザー回折式粒度分布測定器は、マルバーン製マスターサイザー等が利用できる。
また、本発明の黒鉛材料には、粒径が0.5μm以下の粒子を実質的に含まないことが好ましい。0.5μm以下の粒子は、表面の活性ポイントが大きく、電池の初期効率を低下させる。0.5μm以下の粒子の含有量はレーザー回折式粒度分布測定装置により測定できる。また、D0を測定することにより実質的な最小粒径を求めることもできる。
【0036】
本発明の黒鉛材料は、ゆるめ嵩密度(0回タッピング)が0.7g/cm3以上で、かつ400回タッピングを行った際の粉体密度(タップ密度)が0.8〜1.6g/cm3であることが好ましい。更に好ましくは、0.9〜1.6g/cm3であり、最も好ましくは1.1〜〜1.6g/cm3である。
ゆるめ嵩密度は、高さ20cmから試料100gをメスシリンダーに落下させ、振動を加えずに体積と質量を測定して得られる密度である。また、タップ密度は、カンタクローム製オートタップを使用して400回タッピングした100gの粉の体積と質量を測定して得られる密度である。
これらはASTM B527およびJIS K5101−12−2に準拠した測定方法であるが、タップ密度測定におけるオートタップの落下高さは5mmとした。
ゆるめ嵩密度が0.7g/cm3以上であることにより、電極へ塗工した際の、プレス前の電極密度をより高めることが可能となる。この値により、ロールプレス一回で十分な電極密度を得ることが可能かどうかを予測できる。また、タップ密度が上記範囲内にあることによりプレス時に到達する電極密度が充分高くすることが可能となる。
【0037】
[黒鉛材料の製造方法]
本発明の黒鉛材料の製造方法は、例えば以下の方法によって得られた炭素原料を粉砕し、次いで2000℃以上の熱処理をすることにより製造することができる。
【0038】
前記炭素原料としては、例えば原油を石油精製プロセスにおいて常圧、減圧蒸留してなる残渣や、熱分解タール等にしたものが好ましく使用できる。
炭素原料の元になる原油としては、ナフテン系炭化水素を多く含むものが好ましい。パラフィン系、オレフィン系炭化水素が多くなると、コーキングの際に炭化の進行が緩やかになり、光学異方性ドメイン等が大きく発達しすぎてしまう。
【0039】
炭素原料の下記成分の割合はその後の組成、特にドメインの面積や分布、光学異方性、光学等方性組織の比率等に大きく影響を及ぼすので重要である。
上記の蒸留残渣、タール等を原料とする場合、その中に含まれるアスファルテン、樹脂分、飽和炭化水素成分の含有量が高いことが望ましい。アスファルテンは、黒褐色の脆い固体で、H/Cの小さな縮合多環構造の物質であり、ベンゼン、四塩化炭素等に可溶、ペンタン、アルコール等には不溶で分子量は1000以上と考えられる物質である。チオフェン環、ナフテン環、芳香族環等の多環化合物を主体とした硫黄化合物、ピロール環、ピリジン環を主体とする窒素化合物等を含む。また、樹脂分は、褐色樹脂状物質で、酸素、窒素分が多い化合物である。
【0040】
炭素原料の組成は、アスファルテン分と樹脂分の組成の合計が、20質量%〜60質量%、好ましくは25質量%〜40質量%であることが望ましい。アスファルテン分及び樹脂分の合計が少ないと、ディレードコーカーによるコーキング処理中に結晶発達が緩やかに進みすぎることから光学異方性ドメインが大きく発達する。光学異方性ドメインが大きく発達すると、黒鉛化処理後の負極材の特性として、放電容量は伸びるが、電流負荷特性、サイクル特性が大きく低下する。アスファルテン分と樹脂分の合計が多すぎると光学等方性組織の割合が大きくなりすぎることから、結晶の発達が抑えられてしまう。
【0041】
炭素原料におけるアスファルテン分、樹脂分とは、JPI(石油学会)で規定する「アスファルトのカラムクロマトグラフィーによる組成分析法(JPI−5S−22−83)」に基づいて含有率を測定したものを意味する。本方法は、アルミナを充填材として使用し試料油から飽和分、芳香族分、樹脂分と共にアスファルテン分を分離定量する。
【0042】
また、チオフェン環、ナフテン環、芳香族環等の多環化合物を主体とした硫黄化合物成分は0.3質量%〜6質量%が好ましく、より好ましくは0.4質量%〜6質量%である。硫黄化合物成分が少ないと、ディレードコーカーによるコーキング処理中に結晶発達が緩やかに進みすぎることから光学異方性ドメインが大きく発達する。光学異方性ドメインが大きく発達すると、黒鉛化処理後の負極材の特性として、放電容量は伸びるが、電流負荷特性、サイクル特性が大きく低下する。また、硫黄化合物成分が多すぎると、過度な硫黄分により、乱れた結晶が発達し、単位ドメイン面積は小さくなるものの、黒鉛化後の結晶性が悪くなり、放電容量が著しく下がるほか、粒子が硬くなりすぎて電極密度も上がらなくなる。
なお、本発明における硫黄化合物成分とは、JISK2541にしたがって分析された硫黄分の値である。
【0043】
また、FCC(流動接触分解装置)の残渣油(FCCボトム油)は、芳香族指数(fa)=0.8程度と適度であることから、これを添加してコーキングすることでコークスの結晶性を高めることが高結晶コークス作製プロセスでしばしば行われている。しかし、本発明においてはFCCボトム油を添加するとドメインが発達しすぎることから好ましくない。
【0044】
これら材料を、ディレードコーキングプロセスに投入する。この際、コークスドラム前の加熱炉ヒーター出口温度は通常480〜500℃に制御されているが、本炭素材料については、約10%アップの560〜570℃に上げて運転を行う。好ましくは、ドラム内圧力は通常100〜280kPa(約15psig〜40psig)に制御されているが、これを約10%アップの115〜305kPa(約17psig〜44psig)に上げて運転を行う。
コークスは通常塊で生成されるため、水流で輪切りにしながら排出することが一般的である。しかし、このように原料を規定し、コーキング条件も規定した運転を行うと、通常とは異なった粒子状コークスを得ることができる。
このようにして得られた粒子状の特殊コークスは、後に黒鉛化した際の内部構造が本発明の範囲内になり、放電容量、電流負荷特性、サイクル特性のバランスが取れ、好ましい状況となる。なぜ粒子状になった炭素原料で作製した黒鉛材料がこのような特性を示すのかは必ずしも明らかではないが、このような成分の重質タールは粘性の関係から球状で存在し、この球状タールが硫黄の存在もあって、アスファルテン分の架橋反応による反応熱で急激に炭化することによるものと考えている。
このような操作により、通常得られるコークスよりも光学異方性組織に発達しやすい組織の発生が中程度に抑えられ、本発明の黒鉛材料に好適な炭素原料を得ることができる。
【0045】
得られた炭素原料は、不活性雰囲気下で300℃から1200℃まで加熱した際の加熱減量分(例えば、炭化に伴う炭化水素の揮発分)が5〜20質量%のものであることが好ましい。
この加熱減量分が5質量%未満のものでは粉砕後の粒子形状が板状になりやすい。また、粉砕面(エッジ部分)が露出しており比表面積が大きくなり副反応も多くなる。逆に20質量%を超えるものは黒鉛化後の粒子同士の結着が多くなり、収率に影響する。
【0046】
次にこの炭素原料を粉砕する。炭素原料の粉砕には公知のジェットミル、ハンマーミル、ローラーミル、ピンミル、振動ミル等が用いられる。炭素原料の粉砕はできるだけ熱履歴が低い状態で行うことが好ましい。熱履歴が低い方が、硬度が低く、粉砕が容易である上、破砕時の亀裂方向がランダムに近く、アスペクト比が小さくなりやすい。また、後の加熱プロセスで粉砕面に露出したエッジ部分が修復される確率が高まり、充放電時の副反応を低減できる効果がある。
粉砕した炭素原料はレーザー回折法により測定した体積基準の平均粒径(D50)が3〜20μmになるように分級することが好ましい。平均粒径が大きいと電極密度が上がりにくい傾向になり、逆に小さいと充放電時に副反応が起きやすくなる。なお、粒度はレーザー回折式のマスターサイザー(マルバーン製)で測定される値である。
【0047】
粉砕した炭素原料は、黒鉛化処理をする前に、非酸化性雰囲気下で500〜1200℃程度で低温焼成してもよい。この低温焼成によって次に行う黒鉛化処理でのガス発生を低減させることができ、また、嵩密度を下げられることから黒鉛化処理コストも低減することが可能となる。
【0048】
粉砕された炭素原料の黒鉛化処理は、炭素原料が酸化しにくい雰囲気で行うことが望ましい。例えば、アルゴンガス等の雰囲気で熱処理する方法、アチソン炉で熱処理する方法(非酸化黒鉛化プロセス)等が挙げれ、これらのうち非酸化黒鉛化プロセスがコストの観点から好ましい。
黒鉛化処理温度の下限は、通常2000℃、好ましくは2500℃、さらに好ましくは2900℃、もっとも好ましくは3000℃である。黒鉛化処理温度の上限は特に限定されないが、高い放電容量が得られやすいという観点から、好ましくは3300℃である。
黒鉛化処理後は、黒鉛材料を解砕または粉砕しないことが好ましい。黒鉛処理化後に解砕または粉砕すると、滑らかになった表面が傷つき、性能が低下するおそれがある。
【0049】
[複合材・混合材]
本発明の黒鉛材料は他の炭素材料で被覆して使用することができる。
例えば、本発明の黒鉛材料を構成する黒鉛粒子は、表面に光学等方性炭素によるコーティングを行うことができる。コーティングにより、充電時の入力特性を改善でき、大型電池要求特性が向上する。コーティング量は特に限定はないが、芯材100質量部に対し、0.1〜10質量部が好ましい。
コーティング方法は公知の技術が利用でき、特に制限されない。例えば、直径0.1〜1μmのコールタールピッチと黒鉛材料をホソカワミクロン製メカノフージョンを用いてメカノケミカル法により黒鉛粒子のコーティングを行い、非酸化性雰囲気下、800℃〜3300℃で加熱することにより表面に光学等方性炭素を形成する方法や、黒鉛粒子の少なくとも一部の表面に重合体を含む組成物を付着させ、非酸化性雰囲気下、800℃〜3300℃で熱処理することにより表面に光学等方性炭素を形成する方法などが挙げられる。前記重合体を含む組成物は、例えば、乾性油またはその脂肪酸及びフェノール樹脂を含む組成物を用いることができる。後者の方法は、例えば、特開2003-100293号公報や特開2005-019397号公報に記載されている。
【0050】
また、本発明の黒鉛粒子は、炭素繊維の一部が前記粒子表面に接着させることもできる。炭素繊維を黒鉛粒子表面に接着することで、電極中の炭素繊維の分散が容易となり、芯材である黒鉛粒子の特性との相乗効果で、サイクル特性と電流負荷特性が更に高まる。炭素繊維の接着量は特に限定されないが、芯材である黒鉛材料100質量部に対し0.1〜5質量部が好ましい。
接着方法は公知の方法が利用でき、特に制限されない。例えば、直径0.1〜1μmのコールタールピッチと黒鉛材料と炭素繊維をホソカワミクロン製メカノフージョンを用いてメカノケミカル法により黒鉛粒子のコーティングと同時に炭素繊維の接着を行い、非酸化性雰囲気下、800℃〜3300℃で加熱することにより行うことができる。また、黒鉛粒子の少なくとも一部の表面に重合体を含む組成物を付着させ、これに繊維状炭素を混合し、重合体を含む組成物を介して黒鉛粒子に繊維状炭素を付着させ、次いで黒鉛粒子を、非酸化性雰囲気下、800℃〜3300℃で熱処理することにより行うことができる。前記重合体を含む組成物は、例えば、乾性油またはその脂肪酸及びフェノール樹脂を含む組成物を用いることができる。後者の方法は、例えば、日本国特開2003−100293号公報や日本国特開2005−019397号公報(WO2004/109825)に記載されている。
【0051】
炭素繊維としては、例えば、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などの有機系カーボンファイバー、気相法炭素繊維などが挙げられる。これらのうち、特に、結晶性が高く、熱伝導性の高い、気相法炭素繊維が好ましい。炭素繊維を黒鉛粒子の表面に接着させる場合には、特に気相法炭素繊維が好ましい。
気相法炭素繊維は、例えば、有機化合物を原料とし、触媒としての有機遷移金属化合物をキャリアーガスとともに高温の反応炉に導入し生成し、続いて熱処理して製造される(日本国特開昭60−54998号公報、日本国特許第2778434号公報等参照)。その繊維径は2〜1000nm、好ましくは10〜500μmであり、アスペクト比は好ましくは10〜15000である。
炭素繊維の原料となる有機化合物としては、トルエン、ベンゼン、ナフタレン、エチレン、アセチレン、エタン、天然ガス、一酸化炭素等のガス及びそれらの混合物が挙げられる。中でもトルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素が好ましい。
有機遷移金属化合物は、触媒となる遷移金属を含むものである。遷移金属としては、周期律表第IVa、Va、VIa、VIIa、VIII族の金属が挙げられる。有機遷移金属化合物としてはフェロセン、ニッケロセン等の化合物が好ましい。
【0052】
炭素繊維は、気相法等で得られた長繊維を粉砕または解砕したものであってもよい。また、炭素繊維はフロック上に凝集したものであってもよい。
本発明に用いる炭素繊維は、その表面に有機化合物等に由来する熱分解物が付着していないもの、または炭素構造の結晶性が高いものが好ましい。
熱分解物が付着していない炭素繊維または炭素構造の結晶性が高い炭素繊維は、例えば、不活性ガス雰囲気下で、炭素繊維、好ましくは気相法炭素繊維を焼成(熱処理)することによって得られる。具体的には、熱分解物が付着していない炭素繊維は、約800〜1500℃でアルゴン等の不活性ガス中で熱処理することによって得られる。また、炭素構造の結晶性が高い炭素繊維は、好ましくは2000℃以上、より好ましくは2000〜3000℃でアルゴン等の不活性ガス中で熱処理することによって得られる。
【0053】
炭素繊維は分岐状繊維が含まれているものが好ましい。また繊維全体が互いに連通した中空構造を有している箇所があってもよい。そのため繊維の円筒部分を構成している炭素層が連続している。中空構造とは炭素層が円筒状に巻いている構造であって、完全な円筒でないもの、部分的な切断箇所を有するもの、積層した2層の炭素層が1層に結合したものなどを含む。また、円筒の断面は完全な円に限らず楕円や多角化のものを含む。
また本発明に用いる炭素繊維は、X線回折法による(002)面の平均面間隔d002が、好ましくは0.344nm以下、より好ましくは0.339nm以下、特に好ましくは0.338nm以下である。また、結晶のC軸方向の厚さ(Lc)が40nm以下のものが好ましい。
【0054】
[電池電極用炭素材料]
本発明の電池電極用炭素材料は、上記黒鉛材料を含んでなる。上記黒鉛材料を電池電極用炭素材料として用いると、高容量、高クーロン効率、高サイクル特性を維持したまま、高エネルギー密度の電池電極を得ることができる。
電池電極用炭素材料としては、例えば、リチウムイオン二次電池の負極活物質及び負極導電付与材として用いることができる。
本発明の電池電極用炭素材料は、上記黒鉛材料のみを使用することができるが、黒鉛材料100質量部に対して、d002が0.3370nm以下の球状の天然黒鉛または人造黒鉛を0.01〜200質量部、好ましくは0.01〜100質量部配合したもの、あるいはd002が0.3370nm以下で、アスペクト比が2〜100の天然黒鉛または人造黒鉛(例えば、鱗片状黒鉛)を0.01〜120質量部、好ましくは0.01〜100質量部配合したものを使用することもできる。他の黒鉛材料を混合して用いることにより、本発明の黒鉛材料の優れた特性を維持した状態で、他の黒鉛材料が有する優れた特性を加味した黒鉛材料とすることが可能である。具体的には、例えば球状人造黒鉛としてメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)を混合した場合には、MCMBが有する優れた潰れ性により、電極としたときの密度が上がり、体積エネルギー密度を向上させることができる。これらの混合は、要求される電池特性に応じて適宜、混合材料を選択し、混合量を決定することができる。
また、電池電極用炭素材料には炭素繊維を配合することもできる。炭素繊維は前述のものと同様のものが使用できる。配合量は、前記黒鉛材料100質量部に対して、0.01〜20質量部であり、好ましくは0.5〜5質量部である。
【0055】
[電極用ペースト]
本発明の電極用ペーストは、前記電池電極用炭素材料とバインダーとを含んでなる。この電極用ペーストは、前記電池電極用炭素材料とバインダーとを混練することによって得られる。混錬には、リボンミキサー、スクリュー型ニーダー、スパルタンリューザー、レディゲミキサー、プラネタリーミキサー、万能ミキサー等公知の装置が使用できる。電極用ペーストは、シート状、ペレット状等の形状に成形することができる。
【0056】
電極用ペーストに用いるバインダーとしては、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ポリマー、SBR(スチレンブタジエンラバー)等のゴム系等公知のものが挙げられる。
バインダーの使用量は、電池電極用炭素材料100質量部に対して1〜30質量部が適当であるが、特に3〜20質量部程度が好ましい。
混練する際に溶媒を用いることができる。溶媒としては、各々のバインダーに適した公知のもの、例えばフッ素系ポリマーの場合はトルエン、N−メチルピロリドン等;SBRの場合は水等;その他にジメチルホルムアミド、イソプロパノール等が挙げられる。溶媒として水を使用するバインダーの場合は、増粘剤を併用することが好ましい。溶媒の量は集電体に塗布しやすい粘度となるように調整される。
【0057】
[電極]
本発明の電極は前記電極用ペーストの成形体からなるものである。本発明の電極は例えば前記電極用ペーストを集電体上に塗布し、乾燥し、加圧成形することによって得られる。
集電体としては、例えばアルミニウム、ニッケル、銅、ステンレス等の箔、メッシュなどが挙げられる。ペーストの塗布厚は、通常50〜200μmである。塗布厚が大きくなりすぎると、規格化された電池容器に負極を収容できなくなることがある。ペーストの塗布方法は特に制限されず、例えばドクターブレードやバーコーターなどで塗布後、ロールプレス等で成形する方法等が挙げられる。
【0058】
加圧成形法としては、ロール加圧、プレス加圧等の成形法を挙げることができる。加圧成形するときの圧力は1〜3t/cm2程度が好ましい。電極の電極密度が高くなるほど体積あたりの電池容量が通常大きくなる。しかし電極密度を高くしすぎるとサイクル特性が通常低下する。本発明の電極用ペーストを用いると電極密度を高くしてもサイクル特性の低下が小さいので、高い電極密度の電極を得ることができる。本発明の電極用ペーストを用いて得られる電極の電極密度の最大値は、通常1.7〜1.9g/cm3である。このようにして得られた電極は、電池の負極、特に二次電池の負極に好適である。
【0059】
[電池、二次電池]
前記電極を構成要素(好ましくは負極)として、電池または二次電池とすることができる。
リチウムイオン二次電池を具体例に挙げて本発明の電池または二次電池を説明する。リチウムイオン二次電池は、正極と負極とが電解液または電解質の中に浸漬された構造をしたものである。負極には本発明の電極が用いられる。
リチウムイオン二次電池の正極には、正極活物質として、通常、リチウム含有遷移金属酸化物が用いられ、好ましくはTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素とリチウムとを主として含有する酸化物であって、リチウムと遷移金属元素のモル比が0.3〜2.2の化合物が用いられ、より好ましくはV、Cr、Mn、Fe、Co及びNiから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素とリチウムとを主として含有する酸化物であって、リチウムと遷移金属のモル比が0.3〜2.2の化合物が用いられる。なお、主として存在する遷移金属に対し30モル%未満の範囲でAl、Ga、In、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、P、Bなどを含有していても良い。上記の正極活物質の中で、一般式LixMO2(MはCo、Ni、Fe、Mnの少なくとも1種、0<x≦1.2)、またはLiyN24(Nは少なくともMnを含む。0<y≦2)で表わされるスピネル構造を有する材料の少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0060】
さらに、正極活物質はLiya1-a2(MはCo、Ni、Fe、Mnの少なくとも1種、DはCo、Ni、Fe、Mn、Al、Zn、Cu、Mo、Ag、W、Ga、In、Sn、Pb、Sb、Sr、B、Pの中のM以外の少なくとも1種、y=0〜1.2、a=0.5〜1)を含む材料、またはLiz(Nb1-b24(NはMn、EはCo、Ni、Fe、Mn、Al、Zn、Cu、Mo、Ag、W、Ga、In、Sn、Pb、Sb、Sr、B、Pの少なくとも1種、b=1〜0.2、z=0〜2)で表わされるスピネル構造を有する材料の少なくとも1種を用いることが特に好ましい。
【0061】
具体的には、LixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCoaNi1-a2、LixCob1-bOz、LixCobFe1-b2、LixMn24、LixMncCo2-c4、LixMncNi2-c4、LixMnc2-c4、LixMncFe2-c4(ここでx=0.02〜1.2、a=0.1〜0.9、b=0.8〜0.98、c=1.6〜1.96、z=2.01〜2.3。)が挙げられる。最も好ましいリチウム含有遷移金属酸化物としては、LixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCoaNi1-a2、LixMn24、LixCob1-bz(x=0.02〜1.2、a=0.1〜0.9、b=0.9〜0.98、z=2.01〜2.3)が挙げられる。なお、xの値は充放電開始前の値であり、充放電により増減する。
【0062】
正極活物質の平均粒子サイズは特に限定されないが、0.1〜50μmが好ましい。0.5〜30μmの粒子の体積が95%以上であることが好ましい。粒径3μm以下の粒子群の占める体積が全体積の18%以下であり、かつ15μm以上25μm以下の粒子群の占める体積が、全体積の18%以下であることが更に好ましい。比表面積は特に限定されないが、BET法で0.01〜50m2/gが好ましく、特に0.2m2/g〜1m2/gが好ましい。また正極活物質5gを蒸留水100mlに溶かした時の上澄み液のpHとしては7以上12以下が好ましい。
【0063】
リチウムイオン二次電池では正極と負極との間にセパレーターを設けることがある。セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルムまたはそれらを組み合わせたものなどを挙げることができる。
【0064】
本発明のリチウムイオン二次電池を構成する電解液及び電解質としては公知の有機電解液、無機固体電解質、高分子固体電解質が使用できるが、電気伝導性の観点から有機電解液が好ましい。
【0065】
有機電解液としては、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレ5グリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル等のエーテル;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルプロピオンアミド、ヘキサメチルホスホリルアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄化合物;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のジアルキルケトン;エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン、2−メトキシテトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジオキソラン等の環状エーテル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート;γ−ブチロラクトン;N−メチルピロリドン;アセトニトリル、ニトロメタン等の有機溶媒の溶液が好ましい。さらに、好ましくはエチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジオキソラン、ジエチルエーテル、ジエトキシエタン等のエーテル類、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等が挙げられ、特に好ましくはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系非水溶媒を用いることができる。これらの溶媒は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0066】
これらの溶媒の溶質(電解質)には、リチウム塩が使用される。一般的に知られているリチウム塩にはLiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCl、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiN(CF3SO22等がある。
【0067】
高分子固体電解質としては、ポリエチレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、ポリプロピレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、リン酸エステル重合体、ポリカーボネート誘導体及び該誘導体を含む重合体等が挙げられる。
なお、上記以外の電池構成上必要な部材の選択についてはなんら制約を受けるものではない。
【実施例】
【0068】
以下に本発明について代表的な例を示し、さらに具体的に説明する。なお、これらは説明のための単なる例示であって、本発明はこれらに何等制限されるものではない。
なお、実施例及び比較例の黒鉛材料粒子についての、光学異方性組織面積割合、光学等方性組織面積割合、空隙面積割合、Da(n1)、Db(n2)、Dc(n3)、Cminの割合、Lmax/Lave、X線回折法による平均面間隔(d002)、Lc、TEMによる平均面間隔(d002)、アスペクト比、平均粒子径D0およびD50、タップ密度(0回)(ゆるめ嵩密度)、タップ密度(400回)は、本明細書の「発明を実施するための形態」に詳述した方法により測定する。また、比表面積の測定、電池評価(ハイレート放電容量維持率の測定、ハイレート充放電サイクル容量維持率の測定、電極密度および体積エネルギー密度)は以下の方法により行う。
【0069】
[比表面積]
比表面積測定装置NOVA−1200(ユアサアイオニクス(株)製)を用いて、一般的な比表面積の測定方法であるBET法により測定する。
【0070】
[電池評価方法]
(1)ペースト作製:
黒鉛材料1質量部に呉羽化学社製KFポリマーL1320(ポリビニリデンフルオライド(PVDF)を12質量%含有したN−メチルピロリドン(NMP)溶液品)0.1質量部を加え、プラネタリーミキサーにて混練し、主剤原液とする。
【0071】
(2)電極作製:
主剤原液にNMPを加え、粘度を調整した後、高純度銅箔上でドクターブレードを用いて250μm厚に塗布する。これを120℃で1時間真空乾燥し、18mmφに打ち抜く。打ち抜いた電極を超鋼製プレス板で挟み、プレス圧が電極に対して約1×102〜3×102N/mm2(1×103〜3×103kg/cm2)となるようにプレスする。その後、真空乾燥器で120℃、12時間乾燥して、評価用電極とする。
【0072】
(3)電池作製:
下記のようにして3極セルを作製する。なお以下の操作は露点−80℃以下の乾燥アルゴン雰囲気下で実施する。
ポリプロピレン製のねじ込み式フタ付きのセル(内径約18mm)内において、上記(2)で作製した銅箔付き炭素電極と金属リチウム箔をセパレーター(ポリプロピレン製マイクロポーラスフィルム(セルガード2400))で挟み込んで積層する。さらにリファレンス用の金属リチウムを同様に積層する。これに電解液を加えて試験用セルとする。
【0073】
(4)電解液:
EC(エチレンカーボネート)8質量部及びDEC(ジエチルカーボネート)12質量部の混合液に、電解質としてLiPF6を1モル/リットル溶解する。
【0074】
(5)ハイレート放電容量維持率の測定試験
電流密度0.2mA/cm2(0.1C相当)および6mA/cm2(3C相当)で定電流低電圧放電試験を行う。試験は25℃に設定した恒温槽内で行う。
充電(炭素へのリチウムの挿入)はレストポテンシャルから0.002Vまで0.2mA/cm2でCC(コンスタントカレント:定電流)充電を行う。次に0.002VでCV(コンスタントボルト:定電圧)充電に切り替え、電流値が25.4μAに低下した時点で停止させる。
放電(炭素からの放出)は所定電流密度でCC放電を行い、電圧1.5Vでカットオフする。
【0075】
(6)ハイレート充放電サイクル容量維持率の測定試験:
電流密度2mA/cm2(1C相当)で定電流低電圧充放電試験を行う。
充電(炭素へのリチウムの挿入)はレストポテンシャルから0.002Vまで0.2mA/cm2でCC(コンスタントカレント:定電流)充電を行う。次に0.002VでCV(コンスタントボルト:定電圧)充電に切り替え、電流値が25.4μAに低下した時点で停止させる。
放電(炭素からの放出)は所定電流密度でCC放電を行い、電圧1.5Vでカットオフする。また、測定は、60℃に設定した恒温槽中で行い、充放電を200サイクル繰り返す。
【0076】
(7)電極密度および体積エネルギー密度の測定
主剤原液にNMPを加え、粘度を調整した後、高純度銅箔上でドクターブレードを用いて160μm厚に塗布する。これを120℃で1時間真空乾燥し、22mmφに打ち抜く。打ち抜いた電極を超鋼製プレス板で挟み、プレス圧が電極に対して約1×102〜3×102N/mm2(1×103〜3×103kg/cm2)となるようにプレスする。次に、膜厚計(SMD−565、(株)TECLOCK)を用いて電極厚さを測定する。そして活物質質量を電極の体積(=活物質厚さ×380mm2)で除算し、電極密度(g/cm3)とする。また、放電容量(0.1C)と電極密度を乗算し、体積エネルギー密度とする。
【0077】
実施例1:
ベネズエラ産原油を減圧蒸留した残渣を原料とする。本原料の性状は、比重3.4°API、アスファルテン分21質量%、樹脂分11質量%、硫黄分3.3質量%である。この原料を、ディレードコーキングプロセスに投入する。この際、コークスドラム前の加熱炉ヒーター出口温度を570℃で運転する。内部圧力は約138kPa(20psig)とする。すると、コークスは通常とは異なり、粒径約3〜8mmの粒子状に造粒された状態となる。これを水冷してコーキングドラムから排出する。これを120℃で加熱し、水分含有率0.5質量%以下まで乾燥する。この時点で、300℃から1200℃まで間のアルゴン雰囲気下中における加熱減量分は11.8質量%である。これをホソカワミクロン製バンタムミルで粉砕する。次に、日清エンジニアリング製ターボクラシファイアーTC−15Nで気流分級し、粒径が0.5μm以下の粒子を実質的に含まないD50=13.5μmの炭素材料を得る。この粉砕された炭素材料をネジ蓋つき黒鉛ルツボに充填し、アチソン炉にて3100℃で加熱処理して、黒鉛材料を得る。本サンプルについて各種物性を測定後、上記のように電極を作製し、サイクル特性等を測定する。結果を表3に示す。
また、偏光顕微鏡像写真を図1に示す。
【0078】
実施例2:
メキシコ産原油を常圧蒸留した残渣を原料とする。本原料の成分は、比重0.7°API、アスファルテン分15質量%、樹脂分14質量%、硫黄分5.3質量%である。この原料を、ディレードコーキングプロセスに投入する。この際、コークスドラム前の加熱炉ヒーター出口温度を560℃とし、かつドラム内圧力を約207kPa(30psig)とした状態で運転する。すると、コークスは通常とは異なり、粒径約3〜8mmの粒子状に造粒された状態となる。これを水冷してからコーキングドラムから排出する。得られたコークスは、120℃で加熱し、水分含有率0.5質量%以下まで乾燥する。この時点で、300℃から1200℃まで間のアルゴン雰囲気下中における加熱減量分は13.1質量%である。これをホソカワミクロン製バンタムミルで粉砕する。次に、日清エンジニアリング製ターボクラシファイアーTC−15Nで気流分級し、粒径が0.5μm以下の粒子を実質的に含まないD50=18.5μmの炭素材料を得る。この粉砕された炭素材料をネジ蓋つき黒鉛ルツボに充填し、アチソン炉にて3100℃で加熱処理して、黒鉛材料を得る。得られた材料について実施例1と同様に各種物性を測定後、電極を作製し、サイクル特性等を測定する。結果を表3に示す。
【0079】
実施例3:
カリフォルニア産原油を減圧蒸留した残渣を原料とする。本原料の性状は、比重3.0°API、アスファルテン分28質量%、樹脂分11質量%、硫黄分は3.5質量%である。この原料を、ディレードコーキングプロセスに投入する。この際、コークスドラム前の加熱炉ヒーター出口温度を570℃で運転する。内部圧力は約214kPa(31psig)である。すると、コークスは通常とは異なり、粒径約3〜8mmの粒子状に造粒された状態となる。これを水冷してコーキングドラムから排出する。これを120℃で加熱し、水分含有率0.5質量%以下まで乾燥する。この時点で、300℃から1200℃まで間のアルゴン雰囲気下中における加熱減量分は12.8質量%である。これをホソカワミクロン製バンタムミルで粉砕する。次に、日清エンジニアリング製ターボクラシファイアーTC−15Nで気流分級し、粒径が0.5μm以下の粒子を実質的に含まないD50=15.1μmの炭素材料を得る。この粉砕された炭素材料をネジ蓋つき黒鉛ルツボに充填し、アチソン炉にて3100℃で加熱処理して、黒鉛材料を得る。得られた材料について、実施例1と同様に各種物性を測定後、電極を作製し、サイクル特性等を測定する。結果を表3に示す。
また、偏光顕微鏡像写真を図2に示す。
【0080】
実施例4
実施例3で得られた黒鉛粉70重量部に、30重量部の大阪ガス製MCMB2528(黒鉛化温度2800℃)を加え、ヘンシェルミキサーにて2分間、チョッパー回転数2000rpmで攪拌混合する。得られた粉を、実施例1と同様に各種物性を測定後、電極を作製し、サイクル特性等を測定する。結果を表3に示す。
【0081】
実施例5
実施例3で得られた黒鉛粉93重量部に、5重量部のコールタールピッチ(平均粒子径0.5μm)を加え、さらに昭和電工製VGCFを2重量部加えて、ホソカワミクロン製メカノフュージョンにて5分間、チョッパー回転数2000rpmで攪拌混合する。得られた粉を、アルゴン雰囲気下で、1200℃で熱処理し、サンプルを得る。これを実施例1と同様に各種物性を測定後、電極を作製し、サイクル特性等を測定する。結果を表3に示す。
【0082】
比較例1:
フェノール樹脂(「ベルパール C−800」;鐘紡(株)製)を170℃で3分予備硬化後、130℃で8時間硬化させる。次に窒素雰囲気中で250℃/hの速度で1200℃まで昇温し、1200℃で1時間保持した後冷却してフェノール樹脂焼成炭を得る。得られたフェノール樹脂焼成炭について、実施例1と同様に各種物性を測定後、電極を作製し、サイクル特性等を測定する。結果を表4に示す。
【0083】
比較例2:
大阪ガス製MCMB2528(黒鉛化温度2800℃)を購入し、実施例1と同様に各種物性を測定後、電極を作製し、サイクル特性等を測定する。結果を表4に示す。
また、偏光顕微鏡像写真を図3に示す。
【0084】
比較例3:
アラビア産原油を減圧蒸留したした残渣を原料とする。本原料の性状は、比重3.4°API、アスファルテン分7質量%、樹脂分7質量%、硫黄分は6.3質量%である。この原料を、ディレードコーキングプロセスに投入する。この際、コークスドラム前の加熱炉ヒーター出口温度を570℃で運転する。すると、コークスは塊状となる。これを水流ジェットで切り出し、冷してコーキングドラムから排出する。これを120℃で加熱し、水分含有率0.5質量%以下まで乾燥する。この時点で、300℃から1200℃まで間のアルゴン雰囲気下中における加熱減量分は11.8質量%である。これをホソカワミクロン製バンタムミルで粉砕する。次に、日清エンジニアリング製ターボクラシファイアーTC−15Nで気流分級し、D50=13.1μmの炭素材料を得る。この粉砕された炭素原料をネジ蓋つき黒鉛ルツボに充填し、アチソン炉にて3100℃で加熱処理して、黒鉛材料を得る。得られた材料について実施例1と同様に各種物性を測定後、電極を作製し、サイクル特性等を測定する。結果を表4に示す。
【0085】
比較例4:
平均粒子径7μmの中国産天然黒鉛600gを奈良機械製ハイブリダイザーNHS1型に投入しローター周速度60/m/secにて3分間処理し平均粒子径15μmの球状粒子を得る。この操作を数回行い、得られた炭素材料3kgと石油系タール1kgを、(株)マツボー社製のM20型レディゲミキサー(内容積20リットル)に投入し、混練を行う。続いて、窒素雰囲気下にて700℃まで昇温して脱タール処理した後に、1300℃まで昇温して熱処理を行う。得られた熱処理物をピンミルにて解砕し、粗粒子を除く目的で分級処理を行い、電極用複層構造炭素材料を調製する。得られた材料について実施例1と同様に各種物性を測定後、電極を作製し、サイクル特性等を測定する。結果を表4に示す。
また、偏光顕微鏡像写真を図4に示す。
【0086】
【表3】

【0087】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、光学異方性と光学等方性の組織の大きさ、存在割合、結晶方向の多様性を持った黒鉛材料を形成することにより、リチウムイオン二次電池用添加剤として大電流負荷特性、サイクル特性を高レベルで維持しつつ、放電容量が大きく、不可逆容量が小さいリチウムイオン二次電池用負極材を得ることができる。また、本発明の黒鉛材料の製造方法は、経済性、量産性に優れ、今後期待される大型リチウムイオン二次電池用として優れた性能を発揮する。
本発明の電池または二次電池は、従来の鉛二次電池、ニッケルカドミウム二次電池、ニッケル水素二次電池が主に使用されていた分野、例えば、電動ドリル等の電動工具や、ハイブリッド電気自動車(HEV)、電気自動車(EV)用等への適用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学異方性組織と光学等方性組織と空隙とで構成された黒鉛粒子からなり、黒鉛材料からなる成形体断面において、一辺が100μmの正方形領域を任意に10箇所選んだとき、該領域中に現れる黒鉛粒子の断面に対して、クロスニコル状態での鋭敏色検板を通過させた偏光顕微鏡像において、光学異方性組織ドメインの黒鉛網面の向きを示す干渉色であるマゼンタ、ブルーおよびイエローの各色の面積の合計値のうち、最も小さいものの面積合計値Cminが、前記黒鉛粒子の断面積合計に対して12〜32%である黒鉛材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−184293(P2011−184293A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97829(P2011−97829)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【分割の表示】特願2011−505294(P2011−505294)の分割
【原出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】