説明

(±)−DHMEQの酵素光学分割法および(−)−DHMEQの製造方法

【課題】新たな(±)-DHMEQの光学分割法および(-)-DHMEQの製造方法を提供する。
【解決手段】(-)-DHMEQは、一般式(III)で表される化合物にBurkholderia cepacia由来のリパーゼを作用させて製造することができる。また、一般式(I)の化合物にBurkholderia cepacia由来のリパーゼを作用させた後、分別結晶法等により一般式(I)の化合物から一般式(III)の化合物を分離精製後、Burkholderia cepacia由来のリパーゼを作用させ、(±)-DHMEQを光学分割することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(±)-DHMEQの酵素光学分割法および(-)-DHMEQの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NF-κB阻害作用を示す(-)-DHMEQ(5-デヒドロキシメチルエポキシキノマイシンC:dehydroxymethylepoxyquinomicin C)は、腫瘍、転移性腫瘍、炎症性疾患、免疫疾患、アレルギー性疾患、動脈硬化、感染症疾患、リウマチ、糖尿病などのNF-κBの活性化に起因する疾患を予防又は改善するのに有用であるとされている(特許文献1参照;この文献では、前記「DHMEQ」が「DHM2EQ」と記載されている。)。
【0003】
このDHMEQの光学活性体の製造方法としては、(±)-DHMEQのフェノール性水酸基をシリル基で保護した化合物をキラルカラムにより分割して光学活性体の化合物を得た後、光学活性体の各化合物のシリル基を脱保護する方法(非特許文献1参照)、光学活性カラムを用いて(±)-DHMEQを直接光学分割する方法(特許文献1参照)などが知られている。
【0004】
しかしながら、前者の方法では、工程の長さによる収率の損失が問題となっており、後者の方法では、光学活性カラムに目的物が吸着することによる収率の損失が問題となっており、両者とも(-)-DHMEQの分離精製にコストがかかるという問題があった。
【特許文献1】国際公開第04/072056号パンフレット
【非特許文献1】Bioorg. Med. Chem. Lett. 10, 865-869, 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、新たな(±)-DHMEQの光学分割法および(-)-DHMEQの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従来、(±)-DHMEQと類縁の構造を有する第二級アルコールの鏡像体(下式(a)および(b)で表される化合物)をそれぞれ等量含む混合物(ラセミ体)に対し、酢酸ビニルの存在下で、Pseudomonas stutzeri由来の脂肪分解酵素(名糖産業、リパーゼTL)を触媒として作用させ、式(b)および下式(c)で表される化合物の分割に成功した例が報告されている(J. Org. Chem., 70, 79-91, 2005)。
【化1】

【0007】
そこで、食品用酵素として入手が容易で、しかも類縁の細菌であるBurkholderia(Pseudomonas) cepacia由来のリパーゼPS-C(Burkholderia(Pseudomonas) cepacia由来のリパーゼPSをセラミックに固定したもの;アマノエンザイム社製)を用い、(±)-DHMEQ(下式(2)で表される化合物)を酢酸ビニルで処理し、(-)-DHMEQ(下式(1)で表される化合物)だけをモノ酢酸エステル体(下式(d)で表される化合物;以下、化合物(d)と称する。)に変換しようと試みた。しかしながら、化合物(d)は全く得られず、複雑な混合物が得られるのみであった。
【化2】

【0008】
そこで、置換基を様々に変化させ、同様の実験で光学分割できるかどうか調べた。例えば、フェノール性水酸基をt-ブチルジメチルシリル(TBDMS)化した下式(e)で表される化合物(以下、化合物(e)と称する。)を調製し、上述の方法と同様に酵素反応を行ったところ、化合物(e)は、不安定でシリル基が極めて脱離しやすく、酵素反応の基質として用いることが不可能であることがわかった。
【化3】

【0009】
さらに鋭意努力の結果、(±)-DHMEQのジアシル体(下記の一般式(I)で表される化合物:式中、RおよびRはアシル基である。)を基質とし、リパーゼPS-Cを水溶液中で作用させたところ、下記の一般式(II)で表される化合物(式中、RおよびRはアシル基である。)のR以外のアシル基、すなわち、一般式(II)で表される化合物のR、並びに、下記の一般式(III)で表される化合物(式中、RおよびRはアシル基である。)のRおよびRのアシル基が水酸基に変換され、ジオール((-)-DHMEQ)とモノアシル体(下記の一般式(IV)で表される化合物:式中、Rはアシル基である。)との混合物が得られることがわかった。このことから、リパーゼPS-Cは(±)-DHMEQのジアシル体のうち、一般式(III)で表される化合物のRを選択的に加水分解すること、および、一般式(I)で表される化合物のRのアシル基が水溶液中では安定に存在できないことが明らかになった。
【化4】

【0010】
また、上述の混合物中の一般式(IV)で表される化合物は、シリカゲルの酸性によりジアシル体(一般式(II)で表される化合物)とジオール体((+)-DHMEQ:下式(f)で表される化合物)とに不均化するため、シリカゲルカラムクロマトグラフィーでの分離が困難であり、純粋な(-)-DHMEQを得ることができなかった。
【化5】

【0011】
そこで、ジオール((-)-DHMEQ)とモノアシル体(一般式(IV)で表される化合物)との混合物に対して分別結晶法を試みたところ、ジオール((-)-DHMEQ)とモノアシル体(一般式(IV)で表される化合物)とを分離できること、および、(±)-DHMEQの2つの水酸基を側鎖が長いアシル基に置換して酵素反応を行うことにより、分別結晶法で効率よく分離できることがわかった。
【0012】
以上のことから、本発明者らは、一般式(III)で表される化合物にBurkholderia cepacia由来のリパーゼを水溶液中で作用させることにより(-)-DHMEQを製造できること、および、(±)-DHMEQと酸無水物とを反応させることにより得られた一般式(I)で表される化合物にBurkholderia cepacia由来のリパーゼを水溶液中で作用させた後、分別結晶法を行うことにより、(±)-DHMEQから(-)-DHMEQを容易に効率よく分離回収できること、および、前記酸無水物としては、アシル基の側鎖が長いものが好ましいことを見出した。
【0013】
また、(±)-DHMEQと酸無水物とを反応させることによって得られた一般式(I)で表される化合物を、キラルカラムを用いたクロマトグラフィーにより分析したところ、2つのピークを示し、一方のピークが(-)-DHMEQのジアシル体(一般式(III)で表される化合物)であり、もう一方のピークが一般式(IV)で表される化合物のジアシル体(一般式(II)で表される化合物)であることを見出した。
【化6】

【0014】
このようにして、本発明者らは本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係る(-)-DHMEQの製造方法は、一般式(I)で表される化合物にBurkholderia cepacia由来のリパーゼを水溶液中で作用させる工程を含む。
【0015】
本発明に係る(-)-DHMEQの製造方法は、(±)-DHMEQと酸無水物とを反応させることにより、前記一般式(I)で表される化合物を合成する工程をさらに含んでもよい。
【0016】
本発明に係る(±)-DHMEQの酵素光学分割方法は、前記(±)-DHMEQと酸無水物とを反応させ、一般式(I)で表される化合物を合成する工程と、一般式(I)で表される化合物にBurkholderia cepacia由来のリパーゼを水溶液中で作用させて酵素反応を行う工程と、前記酵素反応により生成された反応生成物から(-)-DHMEQを分別結晶法により分離回収する工程と、を含む。
【0017】
また、本発明に係る(-)-DHMEQの製造方法は、前記(±)-DHMEQと酸無水物とを反応させ、一般式(I)で表される化合物を合成する工程と、一般式(I)で表される化合物を光学分割カラムで一般式(II)で表される化合物と一般式(III)で表される化合物に分離する工程と、一般式(III)で表される化合物にBurkholderia cepacia由来のリパーゼを水溶液中で作用させて酵素反応を行う工程と、を含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、新たな(±)-DHMEQの光学分割法および(-)-DHMEQの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いている場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0020】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0021】
==(-)-DHMEQの製造および(±)-DHMEQの光学分割==
腫瘍、転移性腫瘍、炎症性疾患、免疫疾患、アレルギー性疾患、動脈硬化、感染症疾患、リウマチ、糖尿病などのNF-κBの活性化に起因する疾患を予防又は改善するのに有用な、NF-κB阻害作用を示す(-)-DHMEQは、一般式(III)で表される化合物にBurkholderia cepacia由来のリパーゼを水溶液中で作用させることにより製造することができる。
【0022】
ここで、水溶液としては、例えば、水溶性有機溶媒(例えば、アルコール類、アセトン、アセトニトリルなど)と、水あるいは緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液など)との混合液などを用いることができる。
【0023】
(-)-DHMEQの製造は、一般式(I)で表される化合物に含まれる一般式(III)で表される化合物をクロマトグラフィー(例えば、光学分割カラム(キラルカラム)を用いたクロマトグラフィーなど)により分離精製した後に、一般式(III)で表される化合物にBurkholderia cepacia由来のリパーゼを水溶液中で作用させることにより行ってもよいが、一般式(I)で表される化合物を光学分割カラムで一般式(II)で表される化合物と一般式(III)で表される化合物に分離するより、一般式(I)で表される化合物にBurkholderia cepacia由来のリパーゼを水溶液中で作用させることにより得られる(-)-DHMEQと一般式(IV)で表される化合物に分離する方が容易であることから、一般式(I)で表される化合物にBurkholderia cepacia由来のリパーゼを水溶液中で作用させることにより行うことが好ましい。
【0024】
なお、一般式(I)で表される化合物にBurkholderia cepacia由来のリパーゼを水溶液中で作用させた場合には、酵素反応溶液から酵素をろ別した反応生成物((-)-DHMEQと一般式(IV)で表される化合物とを含む混合物)に対して分別結晶法を1または複数回行うことにより、反応生成物中の一般式(IV)で表される化合物を溶媒に溶解させ、固体物として(-)-DHMEQを容易に効率よく分離回収することができる。
【0025】
ここで、一般式(I)で表される化合物のRおよびRは、直鎖状または分枝状のアシル基であればどのようなものでもよく、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ヘキサノイル基などを挙げることができるが、一般式(I)で表される化合物にリパーゼを水溶液中で作用させることにより生成されるモノアセチル体(一般式(IV)で表される化合物)を、分別結晶法で用いる溶媒(好ましくは、低極性で脂溶性が高い溶媒)に溶解することで(-)-DHMEQを容易に効率よく分離回収できることから、ヘキサノイル基などの側鎖が長いアシル基であることが好ましい。
【0026】
なお、一般式(I)で表される化合物のRとRのアシル基は、異なるものであっても構わないが、(±)-DHMEQと酸無水物とを単に反応させることにより容易に製造できることから同一であることが好ましい。前記酸無水物としては、例えば、酢酸無水物、プロピオン酸無水物、ヘキサン酸無水物などを用いることができるが、上述の理由から、ヘキサノイル基などのアシル基の側鎖が長いものが好ましい。また、(±)-DHMEQは、国際公開第04/072056号パンフレットに記載の方法により製造することができる。
【0027】
上述の分別結晶法の溶媒としては、(-)-DHMEQが溶解されにくく、一般式(IV)で表される化合物が溶解されるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、酢酸エチル、ジイソプロピルエーテルなどの溶媒を用いることができるが、一般式(IV)で表される化合物のみを溶解して、(-)-DHMEQを容易に分離回収することができることから、低極性で脂溶性が高いジイソプロピルエーテルなどの溶媒を用いることが好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を用いてより詳細に説明するが、本実施例は本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0029】
なお、本実施例において、核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR)はGX-400核磁気共鳴装置(日本電子製)を用いて測定した。なお、各反応は特に記載のない限り、アルゴン中で反応を行った。
【0030】
[実施例1]
(1−1)(±)-2-アセトキシ-3-(2’-アセトキシ)ベンゾイルアミノ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-エン-5-オン(ジアセチル体)の調製
(±)-DHMEQ (図1中の化合物(2), 78.8 mg, 0.302 mmol)に無水酢酸 (7 ml)を添加し、80 ℃で3時間30分攪拌した。攪拌後、氷を加えてさらに室温で1時間攪拌した。混合物を酢酸エチル(5 ml)で3回抽出した後、有機相を炭酸水素ナトリウム飽和水溶液、飽和食塩水の順で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水した後に、有機溶媒を減圧除去することにより、粗生成物 (106.8 mg) を油状物質として得た。粗生成物をヘキサン‐酢酸エチルで再結晶し、ジアセチル体 (図1中の化合物(3), 76.9 mg, 0.223 mmol, mp 135.5-137.5 ℃)を収率73.8%で得た。
1H NMR (270 MHz, CDCl3): δ = 2.27 (s, 3H), 2.32 (s, 3H), 3.51 (dd, J = 2.0, 3.9 Hz, 1H), 3.92 (dd, J = 2.9, 3.9 Hz, 1H), 5.85 (dd, J = 1.5, 2.9 Hz, 1H), 7.05 (dd, J = 1.5, 2.0 Hz, 1H), 7.12 (dd, J = 1.0, 7.8 Hz, 1H), 7.37 (ddd, J = 1.0, 7.8, 7.8 Hz, 1H), 7.56 (ddd, J = 1.5, 7.8, 7.8 Hz, 1H), 7.69 (dd, J = 1.5, 7.8 Hz, 1H), 7.98 (brs, 1H).
【0031】
(1−2)ジアセチル体(化合物(3))の酵素反応
化合物(3)(48.5 mg, 0.140 mmol)を、アセトン(1.2 ml)とリン酸緩衝液(0.2 M, pH 7.0, 0.6 ml)の混合液に溶解した後、Burkholderia cepacia由来のリパーゼ PS-C (アマノエンザイム, 100 mg)を添加し、室温で1日間攪拌した。攪拌後、反応溶液にアセトン(100 ml)を加え、不溶物(酵素)をろ別した。ろ液を濃縮乾固し、残渣を水に懸濁した後、超音波(200 W)で20分間処理してリン酸緩衝液由来の塩を溶解させ、ろ過した。ろ紙上の残渣としてジオール(図1中の化合物(1))とモノアセチル体(図1中の化合物(4))の混合物を得た。この混合物を酢酸エチル(5 ml)に懸濁し、超音波(200 W)で2分間処理した後、ろ過した。ろ紙上の固体物には化合物(1)のみが含まれていたが、ろ液には化合物(1)と化合物(4)との両方が含まれていた。そこで、ろ液をさらに濃縮し、再び酢酸エチル(1.5 ml)に懸濁し、超音波(200 W)で2分間処理した後、固体物と有機相に分離した。固体物および有機相はそれぞれ、純粋な化合物(1)と化合物(4)であった。以上のように酢酸エチルを用いた2回の分別結晶を経て化合物(1)(9.5 mg, 0.036 mmol, 25.7%)を得た。
【0032】
(1−3)鏡像体過剰率の決定
(1−2)の酵素反応により得られた化合物(1)を、(1−1)に記載の方法に従ってジアセチル化し、HPLC(Chiralcel OD-H, 流速 0.3 ml/min, 純EtOHにより溶出, 295 nmの吸収により検出)により分析したところ、15.2分に単一のピークを示した。また、化合物(2)をジアセチル化した化合物(3)を同様にHPLCで分析したところ、15.2分および20.4分にピークを示した。このことから、15.2分のピークが化合物(1)のジアセチル体であることが明らかとなり、(1−2)の酵素反応で得られた化合物(1)が純粋な(-)-鏡像異性体であることを確認した。
【0033】
[実施例2]
(2−1)(±)-2-プロピオニルオキシ-3-(2’-プロピオニルオキシ)ベンゾイルアミノ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-エン-5-オン(ジプロピオニル体)の調製
(±)-DHMEQ (図2中の化合物(2), 48.0 mg, 0.184 mmol)に無水プロピオン酸 (3 ml)を添加し、80℃で1時間攪拌した。攪拌後、氷を加えてさらに室温で1時間攪拌した。混合物を酢酸エチル(5 ml)で3回抽出した後、有機相を炭酸水素トリウム飽和水溶液、飽和食塩水の順で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水した後に、有機溶媒を減圧除去することにより、粗生成物を得た。粗生成物は油状であったが、無水プロピオン酸を混入していたため、bulb-to-bulb蒸留(0.4 mmHg, 浴温70 ℃)により減圧留去した。その後、無水プロピオン酸がわずかに残存している油状物質をジイソプロピルエーテルで再結晶し、ジプロピオニル体 (図2中の化合物(5), 48.0 mg, 0.129 mmol, mp 104.5-105.0 ℃)を収率70.0%で得た。
1H NMR (270 MHz, CDCl3): δ = 1.21 (t, J = 7.5 Hz, 3H), 1.25 (t, J = 7.5 Hz, 3H), 2.57 (q, J = 7.3 Hz, 2H), 2.61 (q, J = 7.3 Hz, 2H), 3.52 (dd, J = 2.0, 3.9 Hz, 1H), 3.93 (dd, J = 2.9, 3.9 Hz, 1H), 5.87 (dd, J = 1.5, 2.9 Hz, 1H), 7.04 (dd, J = 1.5, 2.0 Hz, 1H), 7.11 (dd, J = 1.0, 7.8 Hz, 1H), 7.36 (ddd, J = 1.0, 7.8, 7.8 Hz, 1H), 7.55 (ddd, J = 1.5, 7.8, 7.8 Hz, 1H), 7.67 (dd, J = 1.5, 7.8 Hz, 1H), 7.96 (brs, 1H).
【0034】
(2−2)ジプロピオニル体(化合物(5))の酵素反応
化合物(5)(48.5 mg, 0.140 mmol)を、アセトン(1.2 ml)とリン酸緩衝液(0.2 M, pH 7.0, 0.6 ml)の混合液に溶解した後、リパーゼ PS-C (100 mg)を添加し、室温で1日間攪拌した。攪拌後、反応溶液にアセトン(100 ml)を加え、不溶物(酵素)をろ別した。ろ液を濃縮乾固し、残渣を水に懸濁した後、超音波(200 W)を20分間照射してリン酸緩衝液由来の塩を溶解させ、ろ過した。ろ紙上の残渣としてジオール(図2中の化合物(1))とモノプロピオニル体(図2中の化合物(6))の混合物を得た。この混合物を酢酸エチル(5 ml)に懸濁し、超音波(200 W)で2分間処理した後、ろ過した。ろ紙上の固体物には化合物(1)のみが含まれていたが、ろ液には化合物(1)と化合物(6)との両方が含まれていた。そこで、ろ液をさらに濃縮し、再び酢酸エチル(1.5 ml)に懸濁し、超音波(200 W)で2分間処理した後、固体物と有機相に分離した。固体物および有機相はそれぞれ、純粋な化合物(1)と化合物(4)であった。以上のように酢酸エチルを用いた2回の分別結晶を経て化合物(1)(3.9 mg, 0.015 mmol, 10.7%)を得た。
【0035】
[実施例3]
(3−1)(±)-2-ヘキサノイルオキシ-3-(2’-ヘキサノイルオキシ)ベンゾイルアミノ-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-エン-5-オン (ジヘキサノイル体)の調製
(3−1−1)
(±)-DHMEQ (図3中の化合物(2), 151.2 mg, 0.579 mmol)をTHF (テトラヒドロフラン;1.25 ml)に懸濁し、無水ヘキサン酸 (0.375 ml)およびDMAP (N,N-ジメチル-4-アミノピリジン;3.0 mg)を添加した。室温で20分間攪拌後、氷を加え、さらに室温で1時間攪拌した。混合物を酢酸エチル(5ml)で2回抽出した後、有機相を塩酸(0.5 M)、炭酸水素ナトリウム飽和水溶液、飽和食塩水の順で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水した後に、有機溶媒を減圧除去することにより、粗生成物として濃い黄色の油状物質(340.0 mg)を得た。この粗生成物を球状シリカゲル (関東37565-84, 17 g)を用いたカラムクロマトグラフィー(ヘキサン / 酢酸エチル = 4 / 1)により精製し、さらにヘキサン−酢酸エチルで再結晶し、ジヘキサノイル体 (図3中の化合物(7), 253.1 mg, 0.553 mmol, mp 86.5-87.5 ℃)を収率89.5 %で得た。
1H NMR (270 MHz, CDCl3): δ = 0.85 (t, J = 6.8 Hz, 3H), 0.91 (t, J = 6.8 Hz, 3H), 1.30 (m, 4H), 1.34 (m, 4H), 1.70 (m, 4H), 2.53 (t, J = 7.8 Hz, 2H), 2.56 (t, J = 7.8 Hz, 2H), 3.50 (dd, J = 2.0, 3.9 Hz, 1H), 3.91 (dd, J = 2.9, 3.9 Hz, 1H), 5.85 (dd, J = 1.5, 2.9 Hz, 1H), 7.02(dd, J = 1.5, 2.0 Hz, 1H), 7.10 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 7.35 (dd, J = 7.8, 7.8 Hz, 1H), 7.54 (ddd, J = 1.5, 7.8, 7.8 Hz, 1H), 7.67 (dd, J = 1.5, 7.8 Hz, 1H), 7.99 (brs, 1H).
【0036】
(3−1−2)
(±)-DHMEQ (化合物(2), 10.1 g, 38.7 mmol)をTHF (100 mL)に懸濁し、無水ヘキサン酸 (27 mL, 120 mmol)、及び、DMAP (237 mg, 1.94 mmol)を添加した。室温で30分間攪拌後、蒸留水(150 mL)にて希釈した。混合物を酢酸エチル (100 mL)で2回抽出した後、有機相を塩酸 (0.5 M, 150mL)、炭酸水素ナトリウム飽和水溶液 (150 mL)、飽和食塩水(150 mL)の順に洗い、無水硫酸ナトリウムにて脱水後、濾過した。濾液を減圧濃縮して濃い黄色の油状物質を得た。ジエチルエーテル(40 mL)を加え溶解した後、冷凍庫にて一夜放置して析出した結晶を濾過、ジエチルエーテル洗浄後、減圧乾燥し、白色結晶として(±)-ジヘキサノイル体(化合物(7))の一次晶を13.7 g得た。また母液から回収して二次晶を1.55 g得た。合計で14.9 g (32.6 mmol)を84%収率にて得た。
【0037】
(3−2)ジヘキサノイル体(化合物(7))の酵素反応
(3−2−1)
化合物(7)(202.2 mg, 0.442 mmol)を、アセトン(3 ml)とリン酸緩衝液(0.2 M, pH 7.0, 3 ml)の混合液に溶解した後、リパーゼ PS-C (300 mg)を添加し、室温で1日間攪拌した。攪拌後、反応混合物を減圧乾固(1.2 mmHg, 1時間)してからTHF(30 ml)を添加し、超音波(200 W)で10分間処理して反応生成物を溶解した。その後、吸引ろ過によって不溶物(酵素、および緩衝液に由来する無機塩)をろ別した。ろ液を濃縮し、残渣をジイソプロピルエーテル(30 ml)に懸濁した後、超音波で10分間処理してモノヘキサノイル体(図3中の化合物(8))を溶解し、ろ過した。ろ紙上の残渣をTHFに溶解し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(関東37565-84, 3 g, 純THFで溶出)で精製し、化合物(1)(42.0 mg, 0.161 mmol, 36.4%)を得た。
【0038】
(3−2−2)
さらに酵素反応において、リパーゼPS-Cに代えて、リパーゼPS-IM(Burkholderia(Pseudomonas) cepacia由来のリパーゼPSを珪藻土に固定したもの;アマノエンザイム社製)を用いた例を示す。
化合物(7)(5.13 g, 11.2 mmol)をアセトン(77 mL)に溶解し、水(77 mL)、アセトン/水(1 : 1, 40 mL)の順に加え撹拌した。リパーゼPS-IM (7.71 g)を添加し、室温で1日間攪拌した。攪拌後、反応混合物をエタノール共沸(100 mL x 5)し、減圧乾固してからTHF(200 mL)を添加し、超音波(200 W)で10分処理して反応生成物を溶解した。その後、吸引濾過によって酵素をろ別した。ろ液を濃縮し、残渣をジイソプロピルエーテル(100 mL)に懸濁した後、超音波で10分間処理してモノヘキサノイル体(図3中の化合物(8))を溶解し、ろ過した。ろ紙上の残渣を真空乾燥させ得られた白色固体をDMSO (12 mL)に溶解し、水(150 mL)に滴下した。析出沈澱をろ過し、ろ紙上の残渣を真空乾燥させ化合物(1) (1.04 g, 3.98 mmol, 35.5%)を得た。
このように、大量スケールでも、非常に効率よく酵素反応を行うことができた。
【0039】
(3−3)鏡像体過剰率の決定
(3−2−1)及び(3−2−2)の酵素反応により得られた化合物(1)を、実施例1(1−1)に記載の方法に従ってジアセチル化し、HPLC (Chiralcel OD-H, 流速 0.1 ml/min, 純i-PrOHにより溶出, 295 nmの吸収により検出)により分析したところ、65.3分に単一のピークを示した。また、化合物(2)をジアセチル化した化合物(3)を同様にHPLCで分析したところ、65.3分および115.5分にピークを示した。このことから、65.3分のピークが化合物(1)のジアセチル体であることが明らかとなり、(3−2−1)及び(3−2−2)の酵素反応で得られた化合物(1)が純粋な(−)-鏡像異性体であることを確認した。
【0040】
さらに、(3−2−1)及び(3−2−2)の酵素反応により得られた化合物(8)をジヘキサノイル化し、HPLC (Chiralcel AS-H, 流速0.5 ml/min, ヘキサン / i-PrOH = 2 / 1により溶出, 295 nmの吸収により検出)により分析したところ、38.0分(0.2%)および49.9分(99.8%)にそれぞれピークを示した。また、化合物(2)をジヘキサノイル化した化合物(7)を同様にHPLCで分析したところ、38.0分および49.9分にピークをそれぞれ示した。さらに、(3−1)に記載の方法に従って化合物(1)をジヘキサノイル化し、同様にHPLCで分析したところ、38.0分に単一のピークを示した。これらのことから、49.9分のピークが化合物(8)であり、ピークの面積比から99.6% e.e.の(+)-鏡像異性体であることがわかった。
【0041】
[実施例4]
次に、Burkholderia cepacia由来のリパーゼ PS-Cを、豚すい臓リパーゼ(シグマ)、酵母の一種Candida antarctica由来のリパーゼであるキラザイムL-2(Novo Nordisk)、またはCandida rugosa由来のリパーゼ(名糖産業、OF)に変える他は、実施例3(3−2)に記載の方法と同様に酵素反応を行った。その結果、リパーゼPS-Cを用いた反応では約3時間で反応が完了したのに対し、その他の酵素を用いた反応では、反応が非常に遅く、2日間反応させても大部分の原料(化合物(7))がそのまま残り、モノヘキサノイル体がわずかに生じる程度であることがTLC分析により明らかになった。特に、Candida rugosa由来のリパーゼでは目的とするジオールが全く生成されないことが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施例において、(±)-DHMEQからジアセチル体を製造した後、(-)-DHMEQを製造する過程を示す図である。
【図2】本発明の一実施例において、(±)-DHMEQからジプロピオニル体を製造した後、(-)-DHMEQを製造する過程を示す図である。
【図3】本発明の一実施例において、(±)-DHMEQからジヘキサノイル体を製造した後、(-)-DHMEQを製造する過程を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で表される化合物の製造方法であって、
下記の一般式(I)で表される化合物にBurkholderia cepacia由来のリパーゼを水溶液中で作用させる工程を含むことを特徴とする製造方法。
【化1】

(式(I)中、RおよびRはアシル基である。)
【請求項2】
下式(2)で表される化合物と酸無水物とを反応させることにより、前記一般式(I)で表される化合物を合成する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【化2】

【請求項3】
下式(2)で表される化合物の酵素光学分割方法であって、
前記式(2)で表される化合物と酸無水物とを反応させ、下記の一般式(I)で表される化合物を合成する工程と、
下記の一般式(I)で表される化合物にBurkholderia cepacia由来のリパーゼを水溶液中で作用させて酵素反応を行う工程と、
前記酵素反応により生成された反応生成物から下式(1)で表される化合物を分別結晶法により分離回収する工程と、
を含むことを特徴とする酵素光学分割方法。
【化3】

(式(I)中、RおよびRはアシル基である。)
【請求項4】
下式(1)で表される化合物の製造方法であって、
前記式(2)で表される化合物と酸無水物とを反応させ、下記の一般式(I)で表される化合物を合成する工程と、
前記一般式(I)で表される化合物を光学分割カラムで下記の一般式(II)で表される化合物と下記の一般式(III)で表される化合物に分離する工程と、
前記一般式(III)で表される化合物にBurkholderia cepacia由来のリパーゼを水溶液中で作用させて酵素反応を行う工程と、
を含むことを特徴とする製造方法。
【化4】

(式(I)〜(III)中、RおよびRはアシル基である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−259494(P2008−259494A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55322(P2008−55322)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 独立行政法人 医薬基盤研究所基礎研究推進事業、産業技術力強化法の第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(305026884)株式会社シグナル・クリエーション (2)
【Fターム(参考)】