説明

(メタ)アクリル酸の精製方法

【課題】晶析槽の内壁面におけるスケーリングを抑制し、かつ、該内壁面における傷の発生を抑制可能な(メタ)アクリル酸の精製方法を提供する。
【解決手段】一槽以上の晶析槽からなる晶析装置を用いて、(メタ)アクリル酸を晶析する(メタ)アクリル酸の精製方法において、
前記晶析槽は、該晶析槽の内壁面を伝熱面とする冷却機構と、
前記晶析槽の内壁面と接触し、回転により該晶析槽の内壁面に付着した(メタ)アクリル酸結晶を掻き取りながら撹拌するスクレーパを備える撹拌翼を有する撹拌機構と、を備え、
前記スクレーパは、前記晶析槽の内壁面との接触部分の材質がナイロンからなり、
前記晶析槽内に導入された粗(メタ)アクリル酸を、前記撹拌機構及び冷却機構により撹拌しながら冷却することで、(メタ)アクリル酸を晶析する(メタ)アクリル酸の精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル酸の精製方法に関する。詳しくは粗(メタ)アクリル酸を、撹拌装置を備えた晶析槽を用いて撹拌しながら冷却し、晶析することによる(メタ)アクリル酸の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸の精製を目的に、晶析装置の晶析槽の内部で粗(メタ)アクリル酸を冷却して(メタ)アクリル酸を晶析させ、(メタ)アクリル酸の結晶を含む(メタ)アクリル酸含有液体を得ることが行われる(例えば、特許文献1)。そして、晶析槽およびその内部の冷却には、晶析槽の外周壁側に設けられたジャケットが用いられる。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、(メタ)アクリル酸結晶を発生させるために晶析槽の伝熱面となる内壁面において冷却しているので(メタ)アクリル酸結晶が内壁面上に付着しやすく、いわゆるスケーリングする傾向がある。スケーリングすると伝熱効率の低下に伴い、生産効率が低下するため、安定して効率よく運転を行うためには、スケーリングを抑制するように、内壁面上に付着した結晶を継続的に取り除く必要があり、更なる改良が望まれる。
【0004】
晶析法において晶析槽内のスケーリングを抑制する方法としては、特許文献2に開示されているように、冷却領域に生成した結晶を掻き取るためのモーター駆動回転スクレーパユニットを備えた晶析槽を用いて、晶析槽内壁面に付着した結晶を掻き取る方法がある。
【0005】
スクレーパの材質としては、通常、耐久性の観点からポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が用いられる(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3559523号公報
【特許文献2】特開平06−296803号公報
【特許文献3】国際公開第2007/088981号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のスクレーパ機構を用いて晶析槽内壁面に付着した結晶を掻き取る場合、長期間の使用に伴い内壁面に傷が発生し、内壁面の生じた傷に付着した結晶が掻き取られずに残ることにより伝熱効率が低下する場合があり、また、槽寿命が短くなる場合がある。一方、傷の発生を抑制するため、傷が付きにくいように柔らかい材質をスクレーパ材料として選択した場合、又は、スクレーパを晶析槽内壁面に押し当てる際の押し当て圧力を低くした場合には、槽内壁面の傷は見られないが、十分な掻き取りが出来ず、スケーリングの抑制効果が得られない。
【0008】
本発明においては、晶析槽の内壁面におけるスケーリングを抑制し、かつ、該内壁面における傷の発生を抑制可能な(メタ)アクリル酸の精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る(メタ)アクリル酸の精製方法は、
一槽以上の晶析槽からなる晶析装置を用いて、(メタ)アクリル酸を晶析する(メタ)アクリル酸の精製方法において、
前記晶析槽は、該晶析槽の内壁面を伝熱面とする冷却機構と、
前記晶析槽の内壁面と接触し、回転により該晶析槽の内壁面に付着した(メタ)アクリル酸結晶を掻き取りながら撹拌するスクレーパを備える撹拌翼を有する撹拌機構と、を備え、
前記スクレーパは、前記晶析槽の内壁面との接触部分の材質がナイロンからなり、
前記晶析槽内に導入された粗(メタ)アクリル酸を、前記撹拌機構及び冷却機構により撹拌しながら冷却することで、(メタ)アクリル酸を晶析することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、晶析槽の内壁面におけるスケーリングが抑制され、また、該内壁面における傷の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の方法に用いる晶析装置の一例の概略図である。
【図2】本発明の方法に用いる晶析槽1及び2の一例の横断面図である。
【図3】晶析槽内壁面とスクレーパの接触部の一例を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る(メタ)アクリル酸の精製方法は、
一槽以上の晶析槽からなる晶析装置を用いて、(メタ)アクリル酸を晶析する(メタ)アクリル酸の精製方法において、
前記晶析槽は、該晶析槽の内壁面を伝熱面とする冷却機構と、
前記晶析槽の内壁面と接触し、回転により該晶析槽の内壁面に付着した(メタ)アクリル酸結晶を掻き取りながら撹拌するスクレーパを備える撹拌翼を有する撹拌機構と、を備え、
前記スクレーパは、前記晶析槽の内壁面との接触部分の材質がナイロンからなり、
前記晶析槽内に導入された粗(メタ)アクリル酸を、前記撹拌機構及び冷却機構により撹拌しながら冷却することで、(メタ)アクリル酸を晶析する。
【0013】
以下に、本発明に係る方法の実施形態について詳細を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0014】
(粗(メタ)アクリル酸)
本発明では、精製対象である原料として、粗(メタ)アクリル酸を用いる。
【0015】
ここで、粗(メタ)アクリル酸とは、粗メタクリル酸又は粗アクリル酸をいう。粗メタクリル酸は、例えば直接酸化法やACH法等の種々の方法により製造することができる。このような粗メタクリル酸の製造方法としては、例えば、イソブチレン、第3級ブチルアルコール、メタクロレイン及びイソブチルアルデヒドからなる群から選ばれるいずれかの化合物を分子状酸素で1段又は2段の反応で接触気相酸化に付する直接酸化法で得られる反応ガスを、凝縮して得た凝縮液、又は反応ガスの凝縮液に水を加えるか、反応ガスを水に吸収させて得たメタクリル酸水溶液から有機溶剤を用いてメタクリル酸を抽出し、蒸留により有機溶剤及び不揮発分を除去して粗メタクリル酸を得る方法、ACH法で副生するメタクリル酸を抽出や蒸留により分離して粗製メタクリル酸を得る方法等が挙げられる。
【0016】
また、粗アクリル酸は、例えばプロピレン及び/又はアクロレインを分子状酸素で1段又は2段の反応で接触気相酸化して粗メタクリル酸の場合と同様にして得られる。
【0017】
また、必要に応じて粗(メタ)アクリル酸に結晶析出温度を調整するための成分を添加してもよい。例えば(メタ)アクリル酸と固溶体を形成しない極性有機物質を添加することにより、結晶析出温度を低下させることができる。極性有機物質の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。この中でも、メタノールが好ましい。該極性有機物質の添加量は1〜35質量%の範囲内が好ましい。
【0018】
(粗(メタ)アクリル酸の予備冷却)
図1は、本発明に係る方法で用いる晶析装置の一例の概略図を示した図である。図1において、粗(メタ)アクリル酸は、予めクーラー3により結晶化温度付近にまで冷却する。アクリル酸の融点は約12℃、メタクリル酸の融点は約16℃であるため、結晶発生に伴うスケールの発生、閉塞等を回避するため、結晶が生成しない温度で冷却することが好ましい。具体的には、メタクリル酸に溶媒を添加した場合には、冷却温度は10〜15℃、アクリル酸に溶媒を添加した場合には、冷却温度は6〜11℃であることが、結晶化が起こらず操作しやすい点で好ましい。
【0019】
(第一晶析槽における(メタ)アクリル酸の晶析)
次に、前記冷却した粗(メタ)アクリル酸を第一晶析槽1に導入し、撹拌しながら所定の温度に冷却することで(メタ)アクリル酸の晶析を行う。
【0020】
本発明に係る方法において用いる第一晶析槽1には、第一晶析槽1内のスラリーを冷却するための冷却機構としてジャケット5を備える。ジャケット5は、第一晶析槽1を覆うように配置されており、第一晶析槽1の内壁面を伝熱面として、伝熱面を介して第一晶析槽1内に存在するスラリーと熱交換を行い、該スラリーを所望の温度に冷却することができる。具体的には、例えば「化学工学便覧 改訂第六版」丸善株式会社発行、1999年、505〜520頁に記載されている晶析槽を用いることができる。
【0021】
また、本発明に係る方法において用いる第一晶析槽1には、第一晶析槽1の内壁面と接触し、回転により第一晶析槽1の内壁面に付着した(メタ)アクリル酸結晶を掻き取りながら撹拌するスクレーパ11を備える撹拌翼6と、撹拌翼6を支持するサポート7と、サポート7と連結する回転軸を回転させる撹拌動力Mと、を有する撹拌機構を備える。
【0022】
図2に、第一晶析槽1の横断面図を示す。図1及び図2の撹拌機構は、第一晶析槽1の中心軸を中心として回転するスクレーパ11を備える撹拌翼6を第一晶析槽1の内壁面に沿って2列有する。撹拌翼6を支持するサポート7を回転することにより、第一晶析槽1内のスラリーを撹拌するだけでなく、第一晶析槽1の内壁面に接触したスクレーパ11の回転により該内壁面に付着した(メタ)アクリル酸結晶を掻き取ることができる。これにより、内壁面への結晶の付着、いわゆるスケーリングを抑制することができる。また、図1では、スクレーパ11の回転により内壁面全面を掻き取ることができるように、スクレーパ11が交互に配置されている。しかし、本発明はこれに限定されず、内壁面全面を掻き取ることのできる配置であればよい。
【0023】
本発明においては、スクレーパ11の第一晶析槽1との接触部分の材質としてナイロンを用いる。ナイロンを用いることにより、第一晶析槽1の内壁面を傷つけることなく、また、効率よく内壁面に付着した(メタ)アクリル酸結晶を掻き取ることができる。前記ナイロンは、主原料ナイロンモノマーを大気圧下で重合・成型することにより得られるモノマーキャスティングナイロンが好ましく、市販品では「MCナイロン」(商品名、日本ポリペンコ株式会社製)等を用いることができるが、これに限定されるものではない。また、スクレーパ11全体がナイロン製であってもよいし、第一晶析槽1の内壁面と接触するスクレーパ11の一部のみがナイロン製であってもよい。なお、第一晶析槽1の内壁面の材質としては、SUS304、SUS316などを用いることができるが、これらに限定されるものではなく、使用するナイロンよりも高い硬度を有する材質であればよい。
【0024】
スクレーパ11と第一晶析槽1内壁面との接触状態の一例の概略図を図3に示す。スクレーパ11の先端は鋭角の形状を有し、該先端部分が第一晶析槽1内壁面と接触している。また、スクレーパ11は、バネ圧により第一晶析槽1内壁面に押し当てられている。スクレーパ11の先端の角度αは、20〜60度であることが、第一晶析槽1内壁面を傷つけず、また、効率よく内壁面に付着した(メタ)アクリル酸結晶を掻き取ることができる観点から好ましい。また、同様の理由で、スクレーパ11の第一晶析槽1内壁面との接触角度βは、20〜70度であることが好ましい。なお、図3より明らかなように、α<βの関係を満たす必要がある。
【0025】
バネ圧によりスクレーパ11を第一晶析槽1の内壁面に押し当てる際の、スクレーパ11の押し当て圧力も重要な要因である。なお、スクレーパ11の押し当て圧力(kg/m)は、バネ式秤によりスクレーパを伝熱面から離れる方向に引っ張り浮き上がった時の目盛り(kg)を測定し、スクレーパ11の掻き取り長さ(m)で除することで、単位掻き取り長さ当たりの押し当て圧力を計測することができる。押し当て圧力としては、5〜25kg/mであることが、掻き取り効率および撹拌翼6寿命の観点から好ましい。押し当て圧力が5kg/mより低いと、第一晶析槽1の内壁面に付着した(メタ)アクリル酸の結晶を十分に掻き取ることができないため、スケーリングの抑制効果が十分に得られない場合がある。また、押し当て圧力が25kg/mより高い場合には、第一晶析槽1の内壁面に傷が付く場合がある。また、撹拌翼6に大きな負荷がかかるため、スクレーパ11の寿命が短くなる場合がある。より好ましくは、スクレーパ11の押し当て圧力は、10〜20kg/mである。
【0026】
なお、図1及び図2では、撹拌機構として、スクレーパ11を備える撹拌翼6を第一晶析槽1の内壁面に沿って2列有するものを示したが、2列以上の撹拌翼6を有するものであってもよい。撹拌翼6を支持するサポート7の数も限定されない。また、図1及び図2のように、第一晶析槽1内壁面の長手方向全体に撹拌翼6が設置されていてもよいし、複数の撹拌翼6を交互に設置し、回転によりスクレーパ11で第一晶析槽1内壁面全面が掻き取られるようにしてもよい。
【0027】
粗(メタ)アクリル酸の導入は、第一晶析槽1上部に設けられた導入口4より行われる。
【0028】
第一晶析槽1内の(メタ)アクリル酸結晶のスラリー(以下、スラリーとする)の温度としては、メタクリル酸の場合、0〜10℃、アクリル酸の場合、−4〜6℃であることが晶析操作の容易さの観点から好ましい。より好ましくは、メタクリル酸の場合、3〜9℃、アクリル酸の場合、−1〜5℃である。
【0029】
本発明においては、撹拌翼6によるスラリーの撹拌速度としては、18〜36rpmであることが槽内液面の安定性および掻き取り効率の観点から好ましい。撹拌速度が18rpmより遅い場合には、第一晶析槽1の内壁面の掻取頻度が低下し、スケーリングが発生しやすい。また、スケーリングの発生により第一晶析槽1内の境膜伝熱係数が大きく取れなくなる可能性がある。一方、36rpmより速い場合には、第一晶析槽1内において渦が発生し、運転上支障が生じる場合がある。より好ましくは、22〜32rpmである。
【0030】
第一晶析槽1内のスラリーの一部は、第一晶析槽1下部に設けられた排出口8より抜き出され、第二晶析槽2に導入される。
【0031】
(第二晶析槽における(メタ)アクリル酸の晶析)
次に、第一晶析槽1から抜き出したスラリーを導入口9から第二晶析槽2に導入し、さらに該スラリーを冷却する。これにより、第一晶析槽1で生成した(メタ)アクリル酸の結晶を種晶としてさらに結晶を成長させ、晶析を促進させることができる。
【0032】
第二晶析槽2としては、前記第一晶析槽1と同様の構成を有する晶析槽を用いることができる。また、前記第一晶析槽1における晶析と同様に、所定の撹拌速度でスラリーを撹拌しながら冷却することが好ましい。
【0033】
第二晶析槽2内のスラリーの温度としては、第一晶析槽1内のスラリー温度より低く、メタクリル酸の場合、−2〜8℃、アクリル酸の場合、−6〜4℃であることが晶析操作の容易さ及び結晶化促進の観点から好ましい。より好ましくは、メタクリル酸の場合、1〜7℃、アクリル酸の場合、−3〜3℃である。
【0034】
第二晶析槽2内のスラリーの一部は、第二晶析槽2下部に設けられた排出口10より抜き出される。
【0035】
なお、本実施形態では第一晶析槽1及び第二晶析槽2の二槽の晶析槽を用い晶析を行う例を示しているが、一槽のみ、又は三槽以上の晶析槽を直列に接続した晶析装置を用いて、(メタ)アクリル酸の晶析を行ってもよい。三槽以上の晶析槽を用いる場合には、各晶析槽内のスラリー温度は、接続された順序で低くなるように設定する。
【0036】
((メタ)アクリル酸結晶と母液の分離)
(メタ)アクリル酸結晶の成長した第二晶析槽2内のスラリーの一部を排出口10より抜き出し、(メタ)アクリル酸結晶と母液とを分離し精製塔に移送する。なお、(メタ)アクリル酸結晶と母液とを分離する方法は、固体と液体とを分離できる方法であれば特に制限はなく、例えば、ろ過法、遠心分離法等の公知の固液分離方法も用いることができる。
【0037】
(精製塔における精製)
精製塔に供給された(メタ)アクリル酸結晶は、精製塔内で精製される。前記精製塔の具体例としては、たとえば「クレハ連続結晶精製装置による有機化合物の精製」清水忠造著、ケミカルエンジニアリング発行、第27巻,第3号(1982年)、第49頁に掲載されているKCP装置等が挙げられる。分離操作の形式は回分式または連続式のいずれでもよい。
【実施例】
【0038】
〔実施例1〕
図1及び図2と同様の構成を有する晶析槽を用いて、粗メタクリル酸の精製を行った。ただし、図1の晶析槽は1段のみ用いた。該晶析槽には、熱媒体として40質量%のエチレングリコール水溶液を用いた冷却ジャケットが備えられている。また、該晶析槽の内壁面との接触部分にスクレーパを装着した撹拌翼を有する撹拌機構が備えられている。該スクレーパの材質としては、「MCナイロン」(商品名、日本ポリペンコ株式会社製)を用いた。また、該晶析槽の内壁面の材質としては、SUS304を用いた。
【0039】
粗メタクリル酸としては、第3級ブチルアルコールを分子状酸素で2段の反応で接触気相酸化に付する直接酸化法で得られる反応ガスを水に吸収させて得たメタクリル酸水溶液から有機溶剤を用いてメタクリル酸を抽出し、蒸留により有機溶剤及び不揮発分を除去して得られたものを用いた。該粗メタクリル酸にメタノールを加え、メタノール濃度が5質量%の粗メタクリル酸混合液を調製した。該粗メタクリル酸混合液を11〜13℃まで予備冷却後、前記晶析槽に1900kg/時間で連続的に供給し、冷却してメタクリル酸を晶析させた。
【0040】
メタクリル酸の晶析の際、晶析槽内部において、図3におけるα=30°の「MCナイロン」製スクレーパを装着した撹拌翼を回転数26rpmにて回転させ、β=33°にて撹拌翼のスクレーパを押し当てることで結晶を掻き取りながら晶析を実施した。このときのスクレーパの押し当て圧力は、全てのスクレーパについて10〜20kg/mとなるように調整した。また、循環する熱媒体の冷却温度は−1〜3℃に調整し、晶析槽の内部のスラリー温度を4〜7℃とした。これにより、メタクリル酸結晶を含むメタクリル酸含有液体を得た。
【0041】
固液分離装置内で、前記メタクリル酸結晶を含むメタクリル酸含有液体を、メタクリル酸結晶と、ろ液と、に分離しながら、メタクリル酸結晶を精製塔に移送し、精製した。
【0042】
1000時間連続して粗メタクリル酸混合液の精製を行ったところ、晶析槽伝熱面にメタクリル酸結晶が多く付着したことにより、総括伝熱係数が低下し、伝熱面に付着したスケールを融解する作業が必要となった。しかし、粗メタクリル酸混合液の精製と、スケールの融解とを繰り返して1年間運転したところ、総括伝熱係数が低下して運転できなくなるまでの期間は安定して1000時間であり、安定してメタクリル酸結晶を含むメタクリル酸含有液体を得ることができた。1年後に開放点検を実施し、晶析槽内壁面を目視にて確認したところ、スクレーパによる傷は認められなかった。
【0043】
〔比較例1〕
「MCナイロン」製のスクレーパの代わりに、PTFE製の同じ形状のスクレーパを使用した以外は、実施例1と同様にして粗メタクリル酸混合液の精製を行った。
【0044】
総括伝熱係数が低下するまでの期間は、最初は1000時間程度で、実施例1における「MCナイロン」製スクレーパを用いた場合と同様であった。しかし、粗メタクリル酸混合液の精製と、スケールの融解とを繰り返して運転したところ、総括伝熱係数が低下するまでの期間が徐々に短くなり、1年後には総括伝熱係数が低下するまでの期間は700時間となった。これにより、運転を停止し、スケール融解を行う頻度が高くなったため、晶析メタクリル酸を含むメタクリル酸溶液の生産性が低下した。1年後に開放点検を実施し、晶析槽内壁面を目視にて確認したところ、PTFE製スクレーパによる傷が認められ、この傷にスケールが付着することにより総括伝熱係数の低下が生じたと推測した。
【0045】
【表1】

【符号の説明】
【0046】
1 第一晶析槽
2 第二晶析槽
3 クーラー
4 導入口(第一晶析槽)
5 ジャケット
6 撹拌翼
7 サポート
8 排出口(第一晶析槽)
9 導入口(第二晶析槽)
10 排出口(第二晶析槽)
11 スクレーパ
α スクレーパの先端の角度
β スクレーパの第一晶析槽内壁面との接触角度
M 撹拌動力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一槽以上の晶析槽を含む晶析装置を用いて、(メタ)アクリル酸を晶析する(メタ)アクリル酸の精製方法において、
前記晶析槽は、該晶析槽の内壁面を伝熱面とする冷却機構と、
前記晶析槽の内壁面と接触し、回転により該晶析槽の内壁面に付着した(メタ)アクリル酸結晶を掻き取りながら撹拌するスクレーパを備える撹拌翼を有する撹拌機構と、を備え、
前記スクレーパは、前記晶析槽の内壁面との接触部分の材質がナイロンからなり、
前記晶析槽内に導入された粗(メタ)アクリル酸を、前記撹拌機構及び冷却機構により撹拌しながら冷却することで、(メタ)アクリル酸を晶析する(メタ)アクリル酸の精製方法。
【請求項2】
前記スクレーパの先端部分が鋭角の形状を有し、該先端部分が前記晶析槽の内壁面と接触している請求項1に記載の(メタ)アクリル酸の精製方法。
【請求項3】
前記スクレーパが、該撹拌翼に取り付けられたバネにより前記晶析槽の内壁面に押し当てられている請求項1又は2に記載の(メタ)アクリル酸の精製方法。
【請求項4】
前記スクレーパを前記晶析槽の内壁面に押し当てる際の押し当て圧力が、5〜25kg/mである請求項3に記載の(メタ)アクリル酸の精製方法。
【請求項5】
前記撹拌機構による粗(メタ)アクリル酸の撹拌速度が、18〜36rpmである請求項1から4のいずれか1項に記載の(メタ)アクリル酸の精製方法。
【請求項6】
前記晶析槽の内壁面の材質が、SUS304又はSUS316である請求項1から5のいずれか1項に記載の(メタ)アクリル酸の精製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−11986(P2011−11986A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155019(P2009−155019)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】