説明

(メタ)アクリル酸の製造方法

【課題】高い捕集率でアクリル酸を捕集し、高濃度のアクリル酸含有溶液を得る、アクリル酸の製造方法を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル酸原料と分子状酸素含有ガスとを接触気相酸化反応器に供給して(メタ)アクリル酸含有ガスを得る工程と、該ガスに含まれる(メタ)アクリル酸を捕集する工程とを含む(メタ)アクリル酸の製造方法において、該分子状酸素含有ガスに含まれる水分を除去した後に該反応器に導入することを特徴とする(メタ)アクリル酸の製造方法。本発明によれば、アクリル酸ロスを低減させ、かつ廃棄水分量を増加させて捕集効率を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捕集塔の排出ガスの一部を廃棄し残部を反応器にリサイクルする工程を含む(メタ)アクリル酸の製造方法において、該リサイクルガスのみから凝縮性物質を分離すること、および/または反応器に供給する分子状酸素含有ガスに含まれる水分を低減することで(メタ)アクリル酸捕集効率を向上させた、(メタ)アクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的なアクリル酸の製造方法は、プロピレンおよび/またはアクロレインを接触気相酸化するプロピレン酸化法が一般的である。このプロピレン酸化法によりアクリル酸を製造する場合、プロピレンの酸化工程で、水や、プロピオン酸、酢酸、マレイン酸などの酸類、アセトン、アクロレイン、フルフラール、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類などの不純物が副生する。これらの副生物を含んだガスは、一般的に捕集溶剤と接触させることにより、アクリル酸含有溶液として捕集後、蒸留などの方法で捕集溶剤を分離し、さらに軽沸点成分および高沸点成分を分離して精製される。蒸留で容易に分離できないアルデヒド類などの微量の不純物は、薬剤処理や晶析工程などによって精製される場合もある。しかしながら高度の精製には多くの工程が必要で装置や操作も煩雑となり、アクリル酸の収率が低下する一因となる。
【0003】
例えば、接触気相酸化により得られたアクリル酸を含むガスを、高沸点溶剤で捕集した後、蒸留により溶剤と粗製アクリル酸に分離した後、晶析工程によって高純度のアクリル酸を製造する方法がある(特許文献1)。しかしながら、この方法では、アクリル酸含有ガスをベンチュリーで冷却した後に捕集工程を行い、捕集工程についで低沸点化合物除去工程を行い、その後に蒸留塔で高沸点物質および中沸点物質と分離して塔中段から粗アクリル酸を得ており、工程が複雑である。
【0004】
アクリル酸製造工程において、高濃度のアクリル酸溶液を処理できればその後の精製工程の処理量を低減でき効率的である。そこで、7体積%超のプロピレン、分子状酸素、水蒸気、および残部に不活性ガスを含む反応組成物を、触媒を充填した2つの反応ゾーンを有する多数の反応管を配設する反応器に供給し、高濃度のプロピレン反応物を利用する方法がある(特許文献2)。該公報の実施例では、水捕集によって平均濃度69.5重量%のアクリル酸溶液を得ている。
【0005】
また、アクリル酸含有ガスを捕集塔に導入し、精製工程の溶剤回収塔の塔底液から排出する酢酸を含有する回収水を捕集塔の塔頂に導入してアクリル酸を捕集し、捕集塔塔底液としてアクリル酸50〜80重量%、酢酸2〜5重量%、残部が水であるアクリル酸含有溶液を調製する方法もある(特許文献3)。なお、この方法では該アクリル酸含有溶液に2種以上の共沸溶媒混合液を用いて共沸脱水し、次いで高沸点物質除去工程などを経て精製し、精製アクリル酸を得ている。
【0006】
また、接触気相酸化反応で得たアクリル酸含有ガスを水捕集する際に、共沸脱水工程から排出した回収水を捕集塔に供給し、得られたアクリル酸含有溶液を放散塔に供給して、該放散塔の塔底からアクリル酸70.9質量%、水25.6質量%、酢酸2.0質量%のアクリル酸溶液を得る方法もある(特許文献4)。この方法では該アクリル酸含有溶液を共沸脱水し、次いでこれを結晶化工程に供して精製アクリル酸を得ている。
【特許文献1】特開平9−227445号公報
【特許文献2】特開2000−103761号公報
【特許文献3】特開平5−246941号公報
【特許文献4】特開2001−199931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記文献記載の方法では、高濃度にアクリル酸を含有する水溶液を得るのに放散塔を必要とし、または有機溶媒を捕集溶剤として使用する場合にはその後に溶媒分離工程が必要となる。また、新たに接触気相酸化反応条件を調整するなど操作が複雑である。また、これらによっても十分に高濃度のアクリル酸含有溶液が得られたとはいい難い。例えば、上記文献1では、水より吸収能の低い高沸点溶剤を使用しているため、捕集工程で得られる溶液のアクリル酸濃度は高くても20質量%程度である。
【0008】
また、捕集工程から得られるアクリル酸含有溶液中のアクリル酸濃度が低ければ、その後の工程で分離されるべき不純物が多くなり、分離のための設備の大型化、必要用役量の増大が避けられない。一方、捕集工程で得られるアクリル酸含有溶液中のアクリル酸濃度を高くしようとすると、捕集工程でのアクリル酸ロスが増加するため、実際に商業的には成立しない。文献2,3および4では、捕集工程で得られる溶液のアクリル酸濃度は高くても80質量%であり、アクリル酸ロスが高いと推定される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
アクリル酸含有溶液はアクリル酸量と溶媒量とによって決定されるため、高濃度のアクリル酸含有溶液を調製するには、溶媒量を低減すればよい。しかしながら、アクリル酸濃度が70質量%以上の塔底液を得ようとすると、捕集塔からのアクリル酸捕集液量を低減させても捕集塔塔頂からのアクリル酸ロスが増加し、容易には達成できない。本発明者らは、アクリル酸ロスを低減しつつ高濃度のアクリル酸含有溶液を調製し得る条件を検討し、本発明を完成させた。すなわち、反応器に導入する原料ガスに含まれる水分量を低減すると、捕集塔に導入される水分量を低減でき(メタ)アクリル酸ロスを低減しつつ高濃度の(メタ)アクリル酸溶液を得ることができること、および捕集塔から排出されるガスの一部を反応器にリサイクルさせる際に、系内から排出される廃棄ガス中の凝縮性物質量は変化させず、反応器を経由して再びガスとして捕集塔に導入されるリサイクルガス中の凝縮性物質を低減させることで、(メタ)アクリル酸ロスを低減しつつ高濃度の(メタ)アクリル酸溶液を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は、(メタ)アクリル酸原料の接触気相酸化反応工程と(メタ)アクリル酸の捕集工程と、該捕集工程から排出したガスの一部をリサイクルガスとして反応器に循環し、かつ該排出ガスの残部を廃ガスとして系外に廃棄する工程とを含む(メタ)アクリル酸の製造方法において、該リサイクルガスのみから凝縮性物質を低減させ、廃棄ガス中の凝縮性不純物質は低減させずに系外に廃棄し、捕集工程にて高濃度の(メタ)アクリル酸溶液を得るものである。アクリル酸ロスが低減し、すなわちアクリル酸捕集効率が向上している。また、リサイクルガスに含まれる酸分の含有量も低下するため、酸に由来する触媒の劣化を防止することができる。凝縮性物質の低減をリサイクルガスのみで行うので、凝縮性物質を低減させるための設備費、用役費を抑えることができる。
【0011】
また、本発明は、(メタ)アクリル酸原料と分子状酸素含有ガスとを接触気相酸化反応器に供給して(メタ)アクリル酸含有ガスを得る工程と、該ガスに含まれる(メタ)アクリル酸を捕集する工程とを含む(メタ)アクリル酸の製造方法において、該分子状酸素含有ガスに含まれる水分を除去した後に該反応器に導入することを特徴とする、(メタ)アクリル酸の製造方法を提供するものである。予め除湿した分子状酸素含有ガスを使用すると反応器へ導入する水分量を低減することができ、高濃度、高収率で(メタ)アクリル酸を捕集することができる。
【0012】
更に、本発明は、(メタ)アクリル酸原料を接触気相酸化する反応器、接触気相酸化によって得られた(メタ)アクリル酸を捕集する(メタ)アクリル酸の捕集塔、該捕集後に該捕集塔の塔頂から残存ガスを排出し、この排出ガスをリサイクルガスとして該反応器に循環させる配管とを含む(メタ)アクリル酸製造装置であって、該配管が排出ガスの一部を廃ガスとして系外に排出するための分岐を有し、かつ該分岐と反応器との間に該リサイクルガスに含まれる凝縮性物質の除去装置が配設される(メタ)アクリル酸製造装置、および(メタ)アクリル酸原料と分子状酸素含有ガスとを反応器に投入する投入ライン、該ラインに接続する接触気相酸化反応器、接触気相酸化によって得られた(メタ)アクリル酸を捕集する(メタ)アクリル酸の捕集塔とを含む(メタ)アクリル酸製造装置であって、該分子状酸素含有ガス投入ラインに水分除去装置が配設される、(メタ)アクリル酸製造装置を提供するものである。以下、詳細に説明する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、(メタ)アクリル酸捕集塔からの排出ガスの一部を反応器にリサイクルする際に、該リサイクルガスのみを冷却することでリサイクルガスに含まれる水分量を低減し(メタ)アクリル酸捕集率を向上させることができる。
また、リサイクルガスに含まれる酸分量を低減することで、触媒の劣化を防止できる。
【0014】
水分量の低下は、反応器に供給する空気を予め除湿することによっても達成され、これによって(メタ)アクリル酸捕集効率を向上させることができる。
【0015】
本発明によれば、高濃度の(メタ)アクリル酸含有溶液を得ることができるため、次工程以降で共沸溶媒を使用することなく含まれる水分を除去することができ、共沸脱水工程を省略でき、かつ共沸溶媒が残存することがないため、溶媒分離工程もなくして工程を簡略化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の第一は、(メタ)アクリル酸原料の接触気相酸化反応工程と(メタ)アクリル酸の捕集工程と、該捕集工程から排出したガスの一部をリサイクルガスとして反応器に循環し、かつ該排出ガスの残部を廃ガスとして系外に廃棄する工程とを含む(メタ)アクリル酸の製造方法において、(i)該リサイクルガスに含まれる凝縮性物質の濃度を、該廃ガスに含まれる凝縮性物質の濃度よりも低減させる、および/または(メタ)アクリル酸原料の接触気相酸化反応工程と(メタ)アクリル酸の捕集工程とを含む(メタ)アクリル酸の製造方法において、(ii)該分子状酸素含有ガスに含まれる水分を除去した後に該反応器に導入することを特徴とする、(メタ)アクリル酸の製造方法を提供するものである。
【0017】
高濃度の(メタ)アクリル酸含有溶液を得るには、系内に導入する水分量を低減するか系外に廃棄する水分量を増加する必要がある。従来は、捕集塔から排出されるガスを冷却することなく反応器にリサイクルしていたが、本願ではリサイクルガスを冷却して含まれる水分量を減少させることで反応器にリサイクルされる水分量を低減させ、および/または酸化ガスとして反応器に供給する空気を除湿した後に反応器に供給して捕集塔に導入される水分量を低減させ、(メタ)アクリル酸ロスを低減しつつ高濃度の(メタ)アクリル酸溶液を得る。但し、捕集塔排出ガスの全量を冷却し系外に廃棄する水分量まで低減すると、リサイクルガス中の水分量は低減しても(メタ)アクリル酸捕集率は向上せず、むしろ冷却しない場合よりも大幅に低下した。そこで本発明では、(メタ)アクリル酸捕集塔から排出されるガスの内、反応器にリサイクルする、いわゆるリサイクルガスのみから、水分のみならず酸分も凝縮させ(メタ)アクリル酸捕集率を向上させ更に、触媒の劣化を防止するものである。上記(i)リサイクルガスに含まれる凝縮性物質の濃度の低減と(ii)該空気の水分除去とはいずれを行なってもよく、また双方を行なってもよい。
【0018】
本願明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸またはメタクリル酸を示し、凝縮性物質とは、20℃、大気圧において液体である物質をいう。以下、プロピレンおよび/またはアクロレインを原料ガスとしてアクリル酸を製造する、本発明の好ましい態様の一例を図1に基づいて説明する。
【0019】
まず、図示しない除湿装置によって水分量を低減させた空気3などの分子状酸素含有ガス、プロピレンおよび/またはアクロレイン1などのアクリル酸原料、および希釈ガス5とを混合する。同工程において、アクリル酸捕集工程を経た後は、捕集塔の塔頂から排出されるリサイクルガス34も、空気、プロピレンおよび/またはアクロレインおよび希釈ガスに混合することができる。この場合、リサイクルガス34を希釈ガスとして使用することもできる。この混合ガス(以下、原料ガスとも称する。)を、接触気相酸化触媒10を充填した反応器20に供給し、接触気相酸化反応によってアクリル酸含有ガス25を得る。該ガス25を捕集塔30の塔底に供給し、該捕集塔30の塔頂からは捕集用水溶液33を供給してアクリル酸含有ガス25と捕集用水溶液33とを接触させる。本明細書において、捕集塔30の塔頂からの排出ガス32のうち、反応器に循環させる排出ガスを「リサイクルガス」と、系外に排出されるガスを「廃ガス」とする。本発明では、リサイクルガス34のみを冷却塔36に導入して新たに系内に供給する捕集用水33’と気液接触して冷却し、リサイクルガスに含まれる凝縮性物質を凝縮した後に反応器20に循環する。該凝縮液は、上記捕集用水33’と混合して捕集用水溶液33として捕集塔30に供給してもよい。このように、捕集塔塔頂温度を捕集塔に設けた冷却器37で調整し、リサイクルガスを冷却することで、捕集塔塔底より高濃度にアクリル酸を含有するアクリル酸含有溶液35が得られる。
【0020】
捕集以降の工程に制限はないが、本発明では高濃度のアクリル酸含有溶液を効率的に精製する方法として、該アクリル酸含有溶液35を第一蒸留塔40に供給し、含まれる低沸点物質を除去した後、粗アクリル酸41を得る。この粗アクリル酸41を晶析器50に供給すると製品アクリル酸60が得られる。捕集塔塔底液の組成によっては、第一蒸留塔を使用せず直接晶析器50に供給してもよい。なお、第一蒸留塔40の塔底液43に含まれる高沸点物質にはアクリル酸二量体が含まれるため、これを塔底に薄膜蒸発器73を併設した第二蒸留塔70に供給してアクリル酸二量体を濃縮し、次いで該二量体を熱分解槽75に滞留させてアクリル酸に熱分解する。このアクリル酸は第二蒸留塔70を介して第一蒸留塔40および/または捕集塔30に循環させ、製品として回収することができる。なお、低沸点物質とは、標準状態において(メタ)アクリル酸よりも沸点が低い物質をいい、高沸点物質とは、標準状態において(メタ)アクリル酸よりも沸点が高い物質をいう。
【0021】
本発明では、アクリル酸原料ガスとして、プロピレンおよび/またはアクロレインを使用できる。反応器20としては、接触気相酸化反応が行えれば特に制限されないが、反応効率に優れる点で多管式反応器を好ましく使用することができる。該反応器20に、公知の接触気相酸化触媒10を充填し、原料ガスと酸素、空気等の分子状酸素含有ガスとを接触させることにより酸化させる。原料ガスとしてプロピレンを使用する場合には、プロピレン濃度は7〜15体積%、分子状酸素はプロピレン:分子状酸素(体積比)を1:1.0〜2.0の範囲とする。分子状酸素の供給源としては空気を用いることができる。該空気が水分を含んでいる場合には、反応器に供給する前に予め除湿することが好ましい。反応器に導入する水分量、ひいては捕集塔に導入される水分量を低減させることができるからである。なお、空気に代えて酸素富化空気、純酸素を用いることもできる。また、希釈ガス5には、窒素、二酸化炭素、その他の不活性ガスがある。
【0022】
本発明では、リサイクルガスを冷却して凝縮性物質を凝縮した後に、反応器に導入してもよく、このようなリサイクルガスを使用する場合には、反応器に供給する原料ガス中の水分濃度が0〜10体積%、より好ましくは0〜7体積%、特には0〜6体積%となるように予めリサイクルガス中の水分を除去する。リサイクルガスを使用せず、分子状酸素含有ガスの水分を除去する場合は、反応器に供給する原料ガスの水分濃度が0〜5体積%、より好ましくは0〜3体積%、特に好ましくは0〜1体積%となるようにする。10体積%を超えると反応器を経て捕集塔に供給される水分によって、アクリル酸ロス率が増加する場合がある。また、全酸濃度は、0〜0.2体積%、より好ましくは0〜0.1体積%とする。全酸濃度が0.2体積%を超えると触媒の酸化による劣化を促進する場合がある。リサイクルガスには、水分や酸成分のほかに、未反応のプロピレンやアクロレイン、酸素、希釈ガス等も含まれている。原料ガス中の水分濃度や全酸濃度が上記至適範囲になるようにリサイクルガスに含まれる水分量及び原料ガスへの配合量を算出し、リサイクルガスに含まれるプロピレン濃度および酸素濃度を算出し、新たに反応器に供給するプロピレン濃度と空気量とを決定すれば、上記プロピレン、酸素、水分濃度、全酸濃度を容易に調整することができる。なお、「全酸」とは、カルボキシル基を有する化合物であり、リサイクルガス中には、アクリル酸、ギ酸、酢酸等がある。
【0023】
プロピレンを原料とする場合の接触気相酸化反応は、通常二段階で行い、二種類の接触気相酸化触媒10を使用する。一段目の触媒はプロピレンを含む原料ガスを気相酸化して主としてアクロレインを生成し得るものであり、二段目の触媒はアクロレインを含む原料ガスを気相酸化して主としてアクリル酸を生成し得るものである。一段目の触媒としては、鉄、モリブデンおよびビスマスを含有する複合酸化物を、また二段目の触媒としてはバナジウムを必須成分とする触媒を挙げることができる。
【0024】
なお、図1では、上記二段階の反応をシングルリアクターで行なう態様を示したが、異なる2つの反応器を接続したタンデムで行なってもよい。接触気相酸化反応で得られるアクリル酸含有ガス25には、アクリル酸5〜14体積%、酢酸0.1〜2.5体積%、分子状酸素0.5〜3体積%、水5〜36体積%が含まれ、その他は原料ガス中の未反応成分およびプロピオン酸、マレイン酸、アセトン、アクロレイン、フルフラール、ホルムアルデヒド、COxなどの反応副生物質である。
【0025】
アクリル酸捕集塔30において、アクリル酸含有ガスと捕集用水溶液との接触方法には公知の接触方法を使用することができ、例えば、泡鐘トレイ、ユニフラットトレイ、多孔板トレイ、ジェットトレイ、バブルトレイ、ベンチュリートレイを用いる十字流接触;ターボグリッドトレイ、デュアルフロートレイ、リップルトレイ、キッテルトレイ、ガーゼ型、シート型、グリット型の規則充填物、不規則充填物を用いる向流接触などが挙げられる。
【0026】
本発明で使用する捕集用水溶液33としては、アクリル酸を捕集できる水溶液であれば広く使用することができる。リサイクルガスを冷却して凝縮された凝縮液を捕集用水溶液として使用することもできる。凝縮液はアクリル酸を含んでいる場合が多いので、捕集用水溶液として再利用するのが好ましい。捕集用水溶液の温度は、0〜50℃、好ましくは10〜40℃のものを導入する。
【0027】
アクリル酸含有ガスに対する該捕集用水(リサイクルガスからの凝縮液を除いたものであり、図1に示す捕集用水33’に相当)の質量流量比は、目的とするアクリル酸濃度によって適宜選択することができ、アクリル酸含有ガスに含まれるアクリル酸の質量流量の0.1〜1.5倍、好ましくは0.1〜1.0倍、特には0.15〜0.8倍の質量流量を向流接触させてアクリル酸を捕集する。該質量流量比が0.1倍を下回るとアクリル酸捕集塔の極端な効率低下を引き起こす場合がある。その一方1.5倍を超えると、高濃度のアクリル酸含有溶液を得ることが困難となる。なお、捕集用水には、アクリル酸などの重合性物質の重合を防止するために、特開2001−348360号公報、2001−348358号公報、2001−348359号公報等に記載されるN−オキシル化合物、フェノール化合物、酢酸マンガン等のマンガン塩、ジブチルチオカルバミン酸銅などのジアルキルジチオカルバミン酸銅塩、ニトロソ化合物、アミン化合物およびフェノチアジンからなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有させてもよい。
【0028】
アクリル酸捕集塔は、常圧以上で操作するのが一般的である。本発明では、塔頂圧力(ゲージ圧)としては、0〜0.4MPa、好ましくは0〜0.1MPa、特には0〜0.03MPaである。0MPa(ゲージ圧)より低いと減圧装置が必要となり設備費、用役費がかかる一方、0.4MPa(ゲージ圧)より高いと塔頂から低沸点物質を排出させるために捕集塔の温度をかなり上げる必要が生じ捕集効率が低下する場合がある。また、塔頂温度としては、一般には30〜85℃、特には40〜80℃であることが好ましい。本発明では、このような捕集条件によって、アクリル酸:70〜98質量%、水:1〜29質量%、およびその他の不純物(酢酸、マレイン酸、プロピオン酸などの酸類およびフルフラール、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類など):1〜10質量%のアクリル酸含有溶液35が得られる。
【0029】
本発明では、捕集塔30の塔頂から排出されるガスの一部を反応器20にリサイクルし、残りを廃棄する際に、該リサイクルガスに含まれる凝縮性物質の濃度を、該廃ガスに含まれる凝縮性物質の濃度よりも低くすることを特徴とする。凝縮性物質には水やアクリル酸、酢酸があり、これらの濃度を低減することで反応器、ひいては捕集塔に循環するこれらの量を低減させ、アクリル酸の捕集効率を向上させるためである。したがって、捕集塔から排出されるガスがリサイクルガスと廃棄ガスに分岐させる前に昇圧、昇温、燃焼などいかなる操作を行ってもかまわない。凝縮性物質の濃度を低減させるには、例えば該リサイクルガスのみを冷却して水やアクリル酸などの凝縮性物質を凝縮し、水分量およびアクリル酸量を低下させればよい。排出ガスを冷却する場合には、リサイクルガスのみを冷却するものでなければならない。リサイクルガスと廃棄ガスとの凝縮性物質の濃度差を発生させることができないからである。すなわち、後記する実施例に示すように、捕集塔排出ガスの全量を冷却してリサイクルガスに含まれる凝縮性物質の濃度を低下させても、リサイクルガスを全く冷却しない場合よりもアクリル酸ロス率が増加する。この理由については明確でないが、排出ガスの温度が高い方が含まれる水分量は多いため、廃棄ガスまで冷却すると、水分の効率的な系外への排出が妨げられることが一因と考えられる。いずれにしても、排出ガスの全量を冷却して捕集塔内で再使用すると結果的に捕集用水溶液による捕集効率が低下する。このため、捕集塔から排出されるガス中のアクリル酸濃度が経時的に増加し、廃ガスとして系外に抜き出されるアクリル酸量が増加して、アクリル酸ロス率が増加する。従って、捕集塔の塔頂から排出ガスをリサイクルガスとして反応器に循環させる配管の一部が廃ガスを廃棄するための分岐を有する場合には、該分岐と反応器との間に冷却器を設け、ここでリサイクルガスのみ冷却することが好ましい。
【0030】
リサイクルガスの冷却方法に制限はなく、リサイクルガスに含まれる凝縮性物質を凝縮できる装置であればよい。例えば、多管式熱交換器、フィンチューブ式熱交換器、空冷式熱交換器、二重管式熱交換器、コイル式熱交換器、直接接触式熱交換器、プレート式熱交換器などを使用できる。しかし、凝縮液はアクリル酸等の重合性物質を含んでいる場合が多いので、図1に示すように冷却塔36と冷却器39を組み合わせた冷却方法が重合防止剤を容易に供給することができるので好ましい。
【0031】
リサイクルガスの冷却温度に制限はないが、反応器に供給する原料ガス全量中の水分濃度を0〜10体積%、より好ましくは0〜7体積%、特には0〜6体積%となるように、より好ましくは更に全酸濃度が0〜0.2体積%、より好ましくは0〜0.1体積%になるように冷却により凝縮する。分子状酸素含有ガスとして空気を使用すると、該空気には水分が含まれている。空気の配合量と原料ガスの上記好ましい水分濃度および配合量から、リサイクルガスを冷却した後の水分量を求め、該水分濃度になるように冷却する。本発明では、廃ガスの温度よりも該リサイクルガスの温度を1〜50℃、より好ましくは2〜40℃、特に好ましくは3〜30℃低い温度に冷却する。
【0032】
冷却によって凝縮された凝縮液は、捕集塔に戻してもよく、戻さずに系外に取り出してもよい。両者でアクリル酸ロス率はあまり変化しないが、捕集塔に戻すと廃液処理が不要なため有利である。また、冷却後のリサイクルガスは、冷却時の温度を維持したまま反応器に供給してもよいが、冷却器から反応器に至る配管内でのアクリル酸の付着などを防止する目的で加温してもよい。なお、本発明において、リサイクルガス中の凝縮性物質の低減方法は、リサイクルガスの冷却に限られるものではない。
【0033】
本発明では、アクリル酸濃度が70〜95質量%と極めて高濃度の捕集塔塔底液を得ることができるため、その後の精製工程を簡便に行なうことができる。このような高濃度のアクリル酸含有溶液の精製方法に制限はないが、含まれる水などの低沸点物質を除去した後に、晶析により精製する方法が例示できる。例えば、アクリル酸含有溶液35を第一蒸留塔40に供給し、実質的に水を含まない粗アクリル酸を塔底流および/または塔側流として分離する。
【0034】
第一蒸留塔40は、アクリル酸が分離できれば特に限定はされないが、充填塔、棚段塔(トレイ塔)等を用いることができる。
【0035】
第一蒸留塔40は、水や酢酸などの低沸点物質を分離する条件で蒸留する。この際、共沸溶媒を使用する必要はない。捕集工程で高濃度のアクリル酸含有溶液を調製できるため、共沸溶媒を使用しなくても含まれる水や酢酸などの低沸点物質を第一蒸留塔40の塔頂留出液として効率的に分離できるからである。また、共沸溶媒を使用しないために、油水分離することなく該留出液を酢酸含有水溶液として使用することができる。蒸留条件は、導入するアクリル酸含有溶液35のアクリル酸濃度や、目的とする粗アクリル酸の純度などによって適宜選択することができ、塔頂圧力(絶対圧)は20〜400hPa、好ましくは30〜300hPa、特には30〜200hPaとすることが好ましい。20hPa(絶対圧)より低いと、塔、コンデンサ、真空装置が大型化し設備費がかかり不利である。一方、400hPa(絶対圧)より高いと蒸留塔40内の温度が高くなり重合の危険性が増し不利である。また、塔頂温度は、一般には30〜70℃、特には40〜60℃である。一方、塔底温度は、一般には70〜120℃、特には80〜110℃である。このような蒸留条件によって、実質的に水を含まず、酢酸の含有量が0〜1.0質量%の粗アクリル酸が、蒸留塔の塔側流として得られる。
【0036】
本発明では、粗アクリル酸の精製工程として、図1の第一蒸留塔40に示す蒸留塔のほかに、特開2000−290221号公報、2001−226320号公報、2001−348360号公報、2001−348358号公報等に開示される、共沸脱水処理、該脱水工程の後に低沸点物質分離工程、高沸点物質分離工程、その他の精製工程等によって精製してもよい。しかしながら、本発明では、高濃度のアクリル酸含有溶液を調製し、これを精製することで共沸溶媒を使用せずに、水や酢酸などの低沸点物質を除去することができ、このため溶媒回収塔や溶媒と回収水とを分離するための油水分離器などの設置を回避できる点に特徴がある。なお、アクリル酸の精製工程としては蒸留精製に限られず、更に、放散、晶析、抽出、吸収、分縮を適宜組み合わせてアクリル酸を精製してもよい。
【0037】
本発明では粗アクリル酸41を晶析器50に供給し、精製アクリル酸60を得る。晶析は、液相および気相から結晶を析出させる操作である。このような態様は、特開2001−199931号公報に記載の方法に準じて行なうことができる。
【0038】
第二蒸留塔70の塔底液は粘度が高いため、塔底側に薄膜蒸発器73を併設した蒸留塔70を使用することが好ましい。第二蒸留塔70は、理論段数1〜5段にて、10〜150hPa(絶対圧)の減圧下で、塔底温度120℃以下で蒸留するのが好ましい。なお、第一蒸留塔40の塔底液に含まれる高沸点物質には、アクリル酸二量体、マレイン酸、重合防止剤などがある。
【0039】
本発明では、第二蒸留塔70の塔頂からアクリル酸を留出させて晶析器50、第一蒸留塔40および捕集塔30のいずれかにその一部を供給してもよい。
【0040】
一方、上記薄膜蒸発器73の缶液を熱分解槽75に供給する。該熱分解槽75は、アクリル酸二量体を120〜220℃の範囲の温度で分解し、滞留時間(熱分解槽容量/廃油量)は熱分解温度によって変わるが、通常20〜50時間とする。アクリル酸二量体がアクリル酸に分解された後、これを薄膜蒸発器73に循環し、第二蒸留塔の塔頂留出液を第一蒸留塔40に供給すると、アクリル酸を有効に利用することができる。本発明では、アクリル酸捕集塔30で高濃度のアクリル酸含有溶液を調製することができるが、高濃度のアクリル酸含有溶液の重合は、重合防止剤の添加によって回避することができる。一方、捕集工程や精製工程ではアクリル酸濃度に比例する重合防止剤が使用されており、本発明ではこの重合防止剤は、熱分解槽75の廃液として系外に除去され、高純度の製品アクリル酸60を製造することができる。
【0041】
なお、晶析器50から回収した残留母液は、全量を捕集塔30、第一蒸留塔40、第二蒸留塔70、薄膜蒸発器73、熱分解槽75などのいずれかに供給してもよいが、一部を廃油として系外に排出してもよい。該残留母液の全量をアクリル酸二量体分解工程に供給した場合には、低沸点物質の濃縮を避けるために、アクリル酸二量体分解工程より回収されるアクリル酸の一部を系外に排出してもよく、アクリル酸二量体分解工程に供する前にアルデヒド類およびマレイン酸を高沸点物化する為に化学的前処理を施してもよい。これによって、アクリル酸二量体分解工程より回収されるアクリル酸の不純物濃度を低減することができる。このような態様は、特開2001−199931号公報に記載の方法に準じて行なうことができる。
【0042】
以上は、アクリル酸を製造する方法について説明したが、プロピレンおよび/またはアクロレインに代えて、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド、イソ酪酸およびイソブタンから選ばれる少なくとも1種の化合物を使用し、接触気相酸化反応用触媒として、特開昭62−161739号公報に記載される少なくとも、リン、モリブデン、バナジウム、鉄、銅およびアンチモンの酸化物を含むメタクリル酸製造用触媒、特開平4−90853号公報に記載される少なくともリンおよびモリブデンの酸化物を含むメタクリル酸製造用触媒、特開平5−96172号公報に記載されるリン、モリブデン、バナジウムおよび銅を含有する多成分系のメタクリル酸製造用触媒、特開平6−86932号公報に記載される、少なくともリン、モリブデン、バナジウムおよびヒ素の酸化物を含むメタクリル酸製造用触媒、特開平7−163883号公報に記載される少なくともモリブデン、リン、バナジウム、アンチモン、レニウムおよびイオウの酸化物を含むメタクリル酸製造用触媒などを使用して、メタクリル酸を製造することもできる。なお、濃度70〜95質量%のメタクリル酸含有溶液の精製方法は、上記図1に準じて行なうこともでき、従来のメタクリル酸製造方法を適用してもよい。
【0043】
本発明の第二は、(メタ)アクリル酸原料を接触気相酸化する反応器、接触気相酸化によって得られた(メタ)アクリル酸を捕集する(メタ)アクリル酸の捕集塔、該捕集後に該捕集塔の塔頂から残存ガスを排出し、この排出ガスをリサイクルガスとして該反応器に循環させる配管とを含む(メタ)アクリル酸製造装置であって、該配管が排出ガスの一部を廃ガスとして系外に排出するための分岐を有し、かつ該分岐と反応器との間に該リサイクルガスに含まれる凝縮性物質の除去装置が配設される、(メタ)アクリル酸製造装置である。
【0044】
該装置を使用すると、捕集塔から排出される排ガスの内、反応器にリサイクルするガスのみの凝縮性物質を除去または低減させることができ、リサイクルガスに含まれる水分やアクリル酸、酢酸などの含有量を低減することができる。このため、(メタ)アクリル酸捕集効率を向上させることができる。また、反応器へのリサイクルガスに含まれる酸成分を低減できるため、触媒の劣化を防止できる。
【0045】
このような凝縮性物質の除去装置としてはガスの冷却装置があり、例えば図1に示す冷却塔と冷却器の組み合わせや、上記した多管式熱交換器、フィンチューブ式熱交換器、空冷式熱交換器、二重管式熱交換器、コイル式熱交換器、直接接触式熱交換器、プレート式熱交換器などを使用できる。
【0046】
本発明の第三は、(メタ)アクリル酸原料と分子状酸素含有ガスと反応器に投入する投入ライン、該ラインに接続する接触気相酸化反応器、接触気相酸化によって得られた(メタ)アクリル酸を捕集する(メタ)アクリル酸の捕集塔とを含むメタ)アクリル酸製造装置であって、該分子状酸素含有ガス投入ラインに水分除去装置が配設される、(メタ)アクリル酸製造装置である。
【0047】
接触気相酸化反応には、分子状酸素含有ガスが使用され、該ガスとして空気が多用されているが、空気には一般に水分が含まれている。該装置を使用すると、例えば空気を反応器に供給する場合であっても、反応器に導入される前に該空気に含まれる水分を水分除去装置によって除去できる。これによって反応器に供給される水分量を低減でき、併せて捕集塔に導入されるアクリル酸含有ガス中の水分量も低減できる。この結果、上記したようにアクリル酸捕集効率を向上させ、高濃度のアクリル酸含有溶液を調製することができる。しかも、該装置によれば捕集塔塔頂から排出されるアクリル酸量が低減できる為、該排出ガスを反応器にリサイクルする場合には、反応器に循環するアクリル酸などの酸成分量も低下するため、酸による触媒劣化も防止できる。
【0048】
このような水分除去装置としては冷却減湿、吸収減湿、吸着減湿、圧縮減湿の各装置が使用できる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例により具体的に説明する。
【0050】
(触媒製造例)
特開2000−325795号公報の実施例1の記載に従ってモリブデン−ビスマス系触媒を調製した。これを触媒(I)とする。また、特開平8−206504号公報の実施例1の記載に従ってモリブデン−バナジウム系触媒を調製した。これを触媒(II)とする。
【0051】
(算出式)
実施例および比較例において、プロピレン転化率、アクロレイン収率、アクリル酸収率、リサイクル率、アクリル酸ロス率の算出は下記式に基づいた。
【0052】
【数1】

【0053】
【数2】

【0054】
【数3】

【0055】
【数4】

【0056】
【数5】

【0057】
(実施例1)
図1に示す装置を使用してアクリル酸を製造した。
【0058】
熱媒循環用ジャケットを外周に備え、内部に内径25mm、長さ7,000mmの反応管を収納し、ジャケット下部から3,500mmの位置に熱媒ジャケットを上下に2分割する厚さ75mmの穴あき管板を設けた反応器を使用した。反応器下部(第一反応ゾーン)および上部(第二反応ゾーン)はそれぞれ熱媒を循環させて温度を制御し、反応管下部から上部に向かって(1)平均径5mmのセラミックボール、(2)触媒(I)と平均径5mmのセラミックボールとを容量比70:30の割合で混合した混合物、(3)触媒(I)、(4)外径5mm、内径4.5mm、長さ6mmのステンレス製ラシヒリング、(5)触媒(II)と平均径5mmのセラミックボールとを容量比75:25の割合で混合した混合物、(6)触媒(II)の順に、各層長が250mm、700mm、2,300mm、500mm、600mm、1,900mmになるように充填した。
【0059】
該反応器の第一反応ゾーンに、プロピレン、空気(水分濃度2質量%)、および捕集塔からの排出ガスの一部(リサイクルガス)を循環させ、プロピレン:8.0体積%、O:14.4体積%、HO:5.0体積%(残りはN、プロパン、COx、アクリル酸、酢酸等)、第一反応ゾーンの空間速度が1,250hr−1(STP)となるように各流量およびリサイクルガスの冷却温度を調整し供給した。
【0060】
第二反応ゾーンの出口圧力0.15MPa(絶対圧)におけるプロピレン転化率が97±0.5モル%、アクロレイン収率が1±0.5モル%になるように、第一反応ゾーン、第二反応ゾーンそれぞれの熱媒温度を調整して、アクリル酸含有ガスを得た。
【0061】
得られたアクリル酸含有ガスを温度170℃で計算上の理論段数が23段であるアクリル酸捕集塔に導入し、捕集塔に導入するアクリル酸含有ガス中のアクリル酸量に対して200質量ppm相当であるハイドロキノンを含む水にてアクリル酸を捕集した。
【0062】
アクリル酸捕集塔の塔頂温度は67℃、塔頂圧力は0.11MPa(絶対圧)とし、捕集水量を調整してアクリル酸濃度が90質量%の捕集塔塔底液を得た。
【0063】
捕集塔塔頂から排出されたガスはリサイクルガス以外を廃棄ガスとして系外に排出した。該リサイクルガスを冷却塔に導入して低沸点物質を冷却により分縮したのち反応器に循環させ、凝縮液は全量捕集水と混合して捕集塔に戻した。なお、冷却温度は、第一反応ゾーンのHO濃度が設定値となる温度に設定した。
【0064】
反応開始から約100時間後の安定した条件下でデータ測定を行ったところ、リサイクルガスの冷却温度は56.9℃、リサイクル率は24.2%、第一反応ゾーン入口酸濃度(第一反応ゾーン入口のアクリル酸と酢酸のモルppmの和)は150ppmであり、その時のアクリル酸収率は、86.8%、アクリル酸ロス率は2.80%であった。以下、実施例および比較例の操作の概要と結果を、表1および表2に示す。
【0065】
(実施例2)
第一反応ゾーン入口でのHO濃度を2.5体積%になるように各ガス流量およびリサイクルガスの冷却温度を調整し、捕集塔塔底液のアクリル酸濃度が90質量%になるように捕集水量を調整した以外は実施例1と同じ装置、同じ条件で操作した。
【0066】
反応開始から約100時間後の安定した条件下にてデータ測定を行ったところ、リサイクルガスの冷却温度は34.1℃、リサイクル率は24.3%、第一反応ゾーン入口酸濃度は30ppmであり、その時のアクリル酸収率は86.5%、アクリル酸ロス率は1.96%であった。
【0067】
(実施例3)
冷却の際に凝縮した凝縮液を全量廃棄し、捕集塔塔底液のアクリル酸濃度が90質量%になるように捕集水量を調整した以外は実施例1と同じ装置、同じ条件で操作した。
【0068】
反応開始から約100時間後の安定した条件下にてデータ測定を行ったところ、リサイクルガスの冷却温度は56.9℃、リサイクル率は24.2%、第一反応ゾーン入口酸濃度は100ppmであり、その時のアクリル酸収率は86.9%、アクリル酸ロス率は2.86%であった。また、凝縮液を廃棄したため、捕集塔塔底液量の9質量%に相当する量の廃水が生じた。
【0069】
(比較例1)
リサイクルガスを冷却せずに第一反応ゾーンに供給し、プロピレン、Oの各濃度をそれぞれ8体積%、14.4体積%となるように各流量を調節し、捕集塔塔底液のアクリル酸濃度が90質量%になるように捕集水量を調整した以外は実施例1と同じ装置、同じ条件で操作した。第一反応ゾーンに導入されるHO濃度は7.0体積%であった。
【0070】
反応開始から約100時間後の安定した条件下にてデータ測定を行ったところ、リサイクル率は23.7%、第一反応ゾーン入口酸濃度は1130ppmであり、その時のアクリル酸収率は86.3%、アクリル酸ロス率は3.52%であった。
【0071】
(比較例2)
冷却器の設置場所をリサイクルガスラインから捕集塔塔頂の排出ガスラインに変更し、プロピレン、O、HOの各濃度をそれぞれ8体積%、14.4体積%、5.0体積%となるように各流量および冷却温度を調節し、捕集塔塔底液のアクリル酸濃度が90質量%になるように捕集水量を調整した以外は実施例1と同じ装置、同じ条件で操作した。
【0072】
反応開始から約100時間後の安定した条件下にてデータ測定を行ったところ、塔頂排出ガスの冷却温度は57.8℃、リサイクル率は25.1%、第一反応ゾーン入口酸濃度は2420ppmであり、その時のアクリル酸収率は84.6%、アクリル酸ロス率は8.91%であった。
【0073】
(実施例4)
アクリル酸捕集塔の計算上の理論段数が10段である以外は実施例1と同じ装置を使用し、捕集塔の塔頂温度を63℃、第一反応ゾーンに導入するプロピレン、O、HOの各濃度をそれぞれ8体積%、14.4体積%、4.0体積%となるように各流量および冷却温度を調節し、捕集塔塔底液のアクリル酸濃度が75質量%になるように捕集水量を調整した以外は実施例1と同じ装置、同じ条件で操作した。
【0074】
反応開始から約100時間後の安定した条件下にてデータ測定を行ったところ、リサイクルガスの冷却温度は50.2℃、リサイクル率は25.2%、第一反応ゾーン入口酸濃度は50ppmであり、その時のアクリル酸収率は86.7%、アクリル酸ロス率は1.59%であった。
【0075】
(比較例3)
実施例4と同じ装置を使用し、リサイクルガスを冷却せずに第一反応ゾーンに供給し、プロピレン、Oの各濃度をそれぞれ8体積%、14.4体積%となるように各流量を調節し、捕集塔塔底液のアクリル酸濃度が75質量%になるように捕集水量を調整した以外は実施例1と同じ装置、同じ条件で操作した。第一反応ゾーンに導入されるHO濃度は6.2体積%であった。
【0076】
反応開始から約100時間後の安定した条件下にてデータ測定を行ったところ、リサイクル率は25.0%、第一反応ゾーン入口酸濃度は460ppmであり、その時のアクリル酸収率は86.7%、アクリル酸ロス率は1.93%であった。
【0077】
(実施例5)
原料空気ラインに除湿設備を設置し、第一反応ゾーンに投入する空気を除湿した以外は比較例1と同じ設備を使用し、リサイクルガスを冷却せずに第一反応ゾーンに供給し、プロピレン、Oの各濃度をそれぞれ8体積%、14.4体積%となるように各流量を調節し、捕集塔塔底液のアクリル酸濃度が90質量%になるように捕集水量を調整した以外は比較例1と同じ装置、同じ条件で操作した。第一反応ゾーンに導入されるHO濃度は6.5体積%であった。
【0078】
反応開始から約100時間後の安定した条件下にてデータ測定を行ったところ、リサイクル率は24.4%、第一反応ゾーン入口酸濃度は960ppmであり、その時のアクリル酸収率は86.3%、アクリル酸ロス率は2.95%であった。
【0079】
(実施例6)
原料空気ラインに除湿設備を設置し、第一反応ゾーンに投入する空気を除湿した以外は実施例2と同じ設備を使用し、リサイクルガスを実施例2と同じ34.1℃に冷却して第一反応ゾーンに供給し、プロピレン、O、HOの各濃度をそれぞれ8体積%、14.4体積%となるように各流量を調節し、捕集塔塔底液のアクリル酸濃度が90質量%になるように捕集水量を調整した以外は実施例2と同じ装置、同じ条件で操作した。第一反応ゾーンに導入されるHO濃度は1.8体積%であった。
【0080】
反応開始から約100時間後の安定した条件下にてデータ測定を行ったところ、リサイクル率は24.9%、第一反応ゾーン入口酸濃度は20ppmであり、その時のアクリル酸収率は86.4%、アクリル酸ロス率は1.70%であった。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
(結果)
(1)実施例および比較例においてリサイクル率はいずれも25体積%近傍であり、廃棄されるガス量は変動がなかった。従って、AAロス率の変動は、廃棄ガスに含まれるアクリル酸濃度に相関することが明らかである。
【0084】
(2)実施例1と比較例1とを比較すると、実施例1ではリサイクルガスを冷却して該ガスに含まれる水分量を低減させた結果、同濃度のアクリル酸含有溶液を調製するのに、AAロス率を低減させることができた。
【0085】
(3)実施例1と比較例2とでは、捕集塔塔頂温度、理論段数、捕集塔アクリル酸濃度、リサイクルガス冷却温度、反応器供給ガスの水分量が同じであり、異なるのは、リサイクルガスのみを冷却したか排出ガスの全てを冷却したかの相違のみである。上記したように、AAロス率は、捕集塔の排出ガスに含まれるアクリル酸濃度に比例するため、比較例2は反応器入口酸濃度および捕集塔排出ガスの双方において気相中のAA濃度が実施例1より高いことを意味する。捕集塔塔底液のアクリル酸濃度はいずれも90質量%であるから、比較例2は捕集用水溶液で捕集されないアクリル酸量が多い、すなわちアクリル酸捕集率が低いことを意味する。また、実施例1ではAA反応収率が86.8%であるが比較例1では84.6%に低下しており、捕集塔からの排出ガスの全量を冷却すると反応器入口酸濃度を変化させ、アクリル酸反応収率を低下させる結果となった。なお、実施例1ではリサイクルガスのみを冷却させているが、比較例2ではリサイクルガスと廃ガスの双方を冷却しており、実施例1の方が冷却に要する用役が低減されている。
【0086】
(4)実施例1よりも低温に冷却し、リサイクルガスの水分量を低減させた実施例2では、反応器に導入される水分量が更に低下し、AAロス率が更に低下した。
【0087】
(5)凝集液を捕集塔に循環させなかった実施例3では、AAロス率やAA反応率は実施例1と同等であった。
【0088】
(6)リサイクルガスを冷却し、かつ捕集塔塔底液のアクリル酸濃度を75質量%に制御した実施例4とリサイクルガスを冷却しなかった比較例3とを比べると、比較例3の方が実施例4よりもAAロス率が高くなった。この冷却によるAAロス率への影響は、塔底液のアクリル酸濃度が90質量%のリサイクルガスの冷却の有無と同じ傾向を示した。
【0089】
(7)第一反応ゾーンへ導入する水分量を低減させるために、予め除湿した空気を導入した実施例5では、除湿操作を行なわない比較例1よりもAAロス率が低下した。
【0090】
(8)リサイクルガスの冷却と除湿後の空気の導入の双方を行なった実施例6では、反応器入口酸濃度が最も低く、AAロス率が塔底液のアクリル酸濃度が90質量%のもののなかで最も低かった。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の好ましい態様の一例を示す工程図である。
【符号の説明】
【0092】
1・・・プロピレンおよび/またはアクロレイン、3・・・空気、5・・・希釈ガス、10・・・接触気相酸化触媒、20・・・反応器、25・・・アクリル酸含有カ゛ス、30・・・アクリル酸捕集塔、32・・・捕集塔塔頂排出ガス、33・・・捕集用水溶液、33’・・・捕集用水、34・・・リサイクルガス、35・・・アクリル酸含有溶液、36・・・冷却塔、37・・・熱交換器、39・・・冷却器、40・・・第一蒸留塔、41・・・粗アクリル酸、43・・・第一蒸留塔塔底液、45・・・第一蒸留塔留出液、50・・・晶析器、60・・・製品アクリル酸、70・・・第二蒸留塔、73・・・薄膜蒸発器、75・・・熱分解槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸原料と分子状酸素含有ガスとを接触気相酸化反応器に供給して(メタ)アクリル酸含有ガスを得る工程と、該ガスに含まれる(メタ)アクリル酸を捕集する工程とを含む(メタ)アクリル酸の製造方法において、
該分子状酸素含有ガスに含まれる水分を除去した後に該反応器に導入することを特徴とする(メタ)アクリル酸の製造方法。
【請求項2】
該捕集工程が捕集用溶液として水溶液を使用するものである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
該捕集塔塔底液の(メタ)アクリル酸濃度が、70〜98質量%である請求項1または2のいずれかに記載の製造方法。
【請求項4】
該反応器に供給される原料ガスの水分濃度が0〜10体積%である請求項1〜3のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項5】
該反応器に供給される原料ガスの水分濃度が0〜5体積%である請求項1〜4のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項6】
該反応器に供給される原料ガスの水分濃度が0〜1体積%である請求項1〜5のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項7】
該反応器に供給される原料ガス中の全酸分濃度が0〜0.2体積%である請求項1〜6のいずれか一つに記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−19275(P2008−19275A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262322(P2007−262322)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【分割の表示】特願2003−160767(P2003−160767)の分割
【原出願日】平成15年6月5日(2003.6.5)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】