説明

(メタ)アクリル酸エステルの製造法

【課題】エーテル基を有するアルコールを重合させるおそれがある過酸化物の含有量を効率よく低減し、該エーテル基を有するアルコールを用いて高純度の(メタ)アクリル酸エステルを収率よく製造しうる方法を提供すること。
【解決手段】エーテル基を有するアルコールを触媒および酸化防止剤の存在下で50〜150℃に加熱し、過酸化物を分解させた後、該エーテル基を有するアルコールを(メタ)アクリル酸エステルを製造する際の原料として用いることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル酸エステルの製造法に関する。さらに詳しくは、例えば、塗料、接着剤、粘着剤、合成樹脂、繊維などの原料、紫外線などの光線で硬化する硬化性樹脂の反応性希釈剤などとして好適に使用しうる(メタ)アクリル酸エステルの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
環状エーテル基含有アルコールやポリエーテル基含有アルコールなどのエーテル基を有するアルコールは、化学的に不安定であり、例えば、空気中で容易に酸化され、過酸化物が生じる。したがって、エーテル基を有するアルコールには、通常、不純物として過酸化物が含まれており、この過酸化物が含まれているエーテル基を有するアルコールと、不飽和カルボン酸とを反応させた場合、この過酸化物が重合開始剤として作用するため、生成したエステルが重合するおそれがある。
【0003】
そこで、近年、エーテル基を有するアルコールを用いて(メタ)アクリル酸エステルを製造する際の重合防止方法が検討されている。その例として、不飽和カルボン酸と環状アルコールとをエステル化反応させる際に環状アルコールに有機スルホン酸を加えて加熱処理した後、不飽和カルボン酸を加えてエステル化反応を行う方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この方法によれば、酸触媒と重合禁止剤の存在下で、環状アルコールを空気を吹き込みながらエステル化反応させたときに生成する過酸化物量を低減させることができる。しかし、環状アルコールの代わりにエーテル基を有するアルコールを用いた場合には、過酸化物が多量に生成し、生成した過酸化物が重合開始剤として作用することにより、エーテル基を有するアルコールが重合するおそれがある。
【0005】
【特許文献1】特開昭58−213733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、エーテル基を有するアルコールを重合させるおそれがある過酸化物の含有量を効率よく低減し、該エーテル基を有するアルコールを用いて高純度の(メタ)アクリル酸エステルを収率よく製造しうる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、エーテル基を有するアルコールを触媒および酸化防止剤の存在下で50〜150℃に加熱し、過酸化物を分解させた後、該エーテル基を有するアルコールを(メタ)アクリル酸エステルを製造する際の原料として用いることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの製造法に関する。
【0008】
本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」および/または「メタクリル酸」を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造法によれば、エーテル基を有するアルコールを重合させるおそれがある過酸化物の含有量を効率よく低減することができ、該エーテル基を有するアルコールを用いて高純度の(メタ)アクリル酸エステルを収率よく製造することができるという効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、エーテル基を有するアルコールを触媒および酸化防止剤の存在下で50〜150℃に加熱する点に、1つの大きな特徴がある。本発明では、このようにエーテル基を有するアルコールを触媒および酸化防止剤が共存している状態で加熱するので、両者共存による相乗効果として、エーテル基を有するアルコールに含まれている過酸化物の含有量を短時間で低減させることができるという優れた効果が発現される。
【0011】
さらに、その相乗効果に付随して、過酸化物の含有量が低減されたエーテル基を有するアルコールとアクリル酸またはアクリル酸メチルとを反応させる際に生成する過酸化物の量を効果的に抑制することができるという優れた効果も発現される。
【0012】
本明細書において、エーテル基を有するアルコールは、アルコール性水酸基およびエーテル基を有するアルコールである。エーテル基を有するアルコールは、直鎖状または環状のものであってもよく、分岐鎖を有していてもよい。
【0013】
エーテル基を有するアルコールの代表例としては、アルキレンオキシドの開環重合体、アルコールやフェノールなどにアルキレンオキシドを付加させることによって得られたエーテル基を有するアルコールなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0014】
アルキレンオキシドの開環重合体としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられるが、本発明はかかる例示のみに限定されるものではない。
【0015】
エーテル基を有するアルコールの原料として用いられるアルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールなどの炭素数1〜22の1価の脂肪族アルコール;1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオールなどの炭素数4〜12の2価の脂肪族アルコール;シクロプロパノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘキサンジメチロール、アダマンタノール、ノルボルネオールなどの炭素数3〜22の脂環式アルコールなどが挙げられるが、本発明はかかる例示のみに限定されるものではない。
【0016】
アルコールやフェノールなどにアルキレンオキシドを付加させることによって得られたエーテル基を有するアルコールとしては、例えば、前記アルコールやフェノールなどに、エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどのアルキレンオキシドを付加させることによって得られたエーテル基を有するアルコールなどが挙げられるが、本発明はかかる例示のみに限定されるものではない。
【0017】
エーテル基を有する環状のアルコールとしては、例えば、エポキシ骨格、オキセタン骨格、テトラヒドロフラン骨格、テトラヒドロピラン骨格、ジオキサン骨格、ジオキソラン骨格などの骨格を有する環状アルコールなどが挙げられるが、本発明はかかる例示のみに限定されるものではない。
【0018】
なお、エーテル基を有するアルコールのなかでも、分子中に不飽和二重結合を有するエーテル基を有するアルコールおよび分子中に不飽和二重結合を有する脂環式アルコールは、空気中に放置しておくだけで容易に酸化されるが、本発明の製造法は、これらのアルコールを用いる場合にも好適に適用することができる。
【0019】
触媒としては、エーテル基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸とを反応させる場合には、脱水エステル触媒を用いることができ、またエーテル基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸のアルキルエステルとを反応させる場合には、エステル交換触媒を用いることができる。
【0020】
脱水エステル触媒としては、例えば、硫酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸、メタンスルホン酸などが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。これらのなかでは、パラトルエンスルホン酸が好ましい。
【0021】
エステル交換触媒としては、例えば、オクチル酸錫、ジブチル錫ジラウレート、モノブチル錫オキサイド、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、塩化第一錫などの錫化合物、テトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラメトキシチタネート、テトラエトキシチタネート、テトラブトキシチタネートなどのチタン化合物、タリウム化合物、鉛化合物、クロム化合物などの遷移金属化合物;ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、リチウムメチラート、リチウムエチラートなどのアルカリ金属アルコラート;カルシウムメチラート、カルシウムエチラート、マグネシウムメチラート、マグネシウムエチラートなどのアルカリ土類金属アルコラート;アルミニウムメチラート、アルミニウムエチラートなどのアルミニウムアルコラート;水酸化リチウムなどが挙げられる。これらのなかでは、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイドなどの錫化合物、テトラメトキシチタネート、テトラエトキシチタネート、テトラブトキシチタネートなどのチタン化合物などが好ましい。
【0022】
触媒の量は、反応速度を高めるとともに、多量に用いても反応速度の大幅な向上が望めずかえって経済的でなくなることを考慮して、エーテル基を有するアルコール1モルあたり、0.001〜0.1モル、好ましくは0.01〜0.05モルであることが望ましい。
【0023】
酸化防止剤としては、例えば、ハイドロキノン、メトキノン(ハイドロキノンモノメチルエーテル)、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,4’−チオ−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオン酸−n−オクタデシル、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、ブチリデン(メチル−ブチルフェノール)、テトラビス〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、3,6−ジオキサオクタメチレン−ビス〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオナート〕、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンなどのフェノール系化合物;4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルなどのN−オキシル化合物;塩化第一銅などの銅化合物;フェノチアジン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどのアミノ化合物;1,4−ジヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ヒドロキシ−4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどのヒドロキシルアミンなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0024】
前記酸化防止剤の中では、メトキノンおよびフェノール系化合物が好ましく、メトキノンおよび2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールがより好ましい。
【0025】
酸化防止剤の量は、エーテル基を有するアルコールに含まれている過酸化物の含有量を効率よく低減するとともに、生成する(メタ)アクリル酸エステルに酸化防止剤が多量に残存することにより、(メタ)アクリル酸エステルの重合性が阻害されるのを抑制する観点から、エーテル基を有するアルコールの質量に対して、10〜10000ppm、好ましくは50〜1000ppmであることが望ましい。
【0026】
エーテル基を有するアルコールを触媒および酸化防止剤の存在下で加熱する際には、有機溶媒を用いることができる。
【0027】
有機溶媒としては、過酸化物を生成しがたいものが好ましい。かかる有機溶媒としては、例えば、n−ペンタン、i−ペンタン、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、n−ヘプタン、i−ヘプタン、n−オクタン、i−オクタンなどの脂肪族炭化水素化合物、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素化合物、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのなかでは、シクロヘキサンが好ましい。
【0028】
有機溶媒の量は、その種類などによって異なるので一概には決定することができないが、エステル化反応またはエステル交換反応の際に生じる水またはアルキルアルコールを系外に効率よく除去するとともに、エーテル基を有するアルコールに含まれている過酸化物を効率よく低減させる観点から、通常、エーテル基を有するアルコール100重量部あたり、5〜200重量部、好ましくは20〜100重量部であることが望ましい。
【0029】
エーテル基を有するアルコールを触媒および酸化防止剤の存在下で加熱する方法としては、例えば、エーテル基を有するアルコール、触媒、酸化防止剤および有機溶媒を混合し、得られた混合物を加熱する方法などが挙げられる。
【0030】
エーテル基を有するアルコールを触媒および酸化防止剤の存在下で加熱する際の加熱温度は、エーテル基を有するアルコールに含まれている過酸化物の分解速度を高めるとともに、エーテル基を有するアルコールの安定性を高める観点から、50〜150℃、好ましくは100〜130℃である。
【0031】
加熱は、生成する(メタ)アクリル酸エステルの重合を抑制する観点から、エーテル基を有するアルコールに含まれている過酸化物の量が20ppm以下、好ましくは10ppm以下となるまで行うことが望ましい。なお、エーテル基を有するアルコールに含まれている過酸化物の量は、後述する「実施例」に記載の「過酸化物量の測定法」で測定したときの値である。
【0032】
前記加熱の際の系内の雰囲気は、エーテル基を有するアルコールの酸化防止の観点から、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガスであることが好ましい。
【0033】
かくしてエーテル基を有するアルコールを触媒および酸化防止剤の存在下で加熱し、過酸化物を分解させた場合には、エーテル基を有するアルコールに含まれている過酸化物を効率よく除去することができる。したがって、該過酸化物が分解により除去されたエーテル基を有するアルコールを用いて高純度の(メタ)アクリル酸エステルを収率よく製造することができる。
【0034】
目的化合物である(メタ)アクリル酸エステルは、前記過酸化物を分解させた後のエーテル基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸またはそのアルキルエステルとを反応させることによって得ることができる。
【0035】
なお、原料として用いられたエーテル基を有するアルコールと、過酸化物を分解させた後のエーテル基を有するアルコールとを明確に区別するため、過酸化物を分解させた後のエーテル基を有するアルコールを以下「過酸化物分解アルコール」という。
【0036】
過酸化物分解アルコールと(メタ)アクリル酸またはそのアルキルエステルとを反応させる際には、前述のエーテル基を有するアルコールを触媒および酸化防止剤の存在下で加熱し、過酸化物を分解させることによって得られた反応混合物を用いることができる。
【0037】
なお、過酸化物分解アルコールと(メタ)アクリル酸との反応は、脱水反応であり、他方、過酸化物分解アルコールと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの反応は、エステル交換反応である。
【0038】
(メタ)アクリル酸またはそのアルキルエステルの量は、反応速度を高めるとともに、未反応の過酸化物分解アルコールや(メタ)アクリル酸またはそのアルキルエステルの残存量を低減させる観点から、過酸化物分解アルコール1モルあたり、0.5〜5モル、好ましくは1.5〜3モルであることが望ましい。
【0039】
過酸化物分解アルコールと(メタ)アクリル酸またはそのアルキルエステルとを反応させる際の反応温度は、その過酸化物分解アルコールの種類などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、50〜150℃、好ましくは80〜130℃の温度範囲内で調節することができる。
【0040】
なお、過酸化物分解アルコールと(メタ)アクリル酸またはそのアルキルエステルとを反応させる際には、(メタ)アクリル酸またはそのアルキルエステルが重合するのを防止する観点から、例えば、コンプレッサーなどを用いて両者の混合物に、例えば、空気などの酸素含有ガスを吹き込むことが好ましい。酸素含有ガスの吹き込み量は、例えば、酸素含有ガスとして空気を用いる場合、(メタ)アクリル酸またはそのアルキルエステルが重合するのを防止するとともに、過酸化物分解アルコールが再び酸化されるのを抑制する観点から、過酸化物分解アルコール1モルあたり0.01〜1L/hrであることが好ましい。
【0041】
また、過酸化物分解アルコールと(メタ)アクリル酸またはそのアルキルエステルとの反応により、水またはアルキルアルコールが副生する。副生した水またはアルキルアルコールは、過酸化物分解アルコールと(メタ)アクリル酸またはそのアルキルエステルとの反応効率を高めるため、系外に除去しながら反応を行うことが好ましい。
【0042】
過酸化物分解アルコールと(メタ)アクリル酸またはそのアルキルエステルとの反応の際の系内は、常圧であってもよく、あるいは減圧下であってもよい。
【0043】
過酸化物分解アルコールと(メタ)アクリル酸またはそのアルキルエステルとの反応時間は、反応条件などによって異なるので一概には決定することができない。反応は、反応によって水またはアルキルアルコールが生成しなくなるまで行うことができる。そのときに要する反応時間は、反応条件などによって異なるが、通常、2〜20時間程度である。
【0044】
かくして、本発明の製造法によれば、エーテル基を有するアルコールに含まれている過酸化物の含有量を効率よく低減することができるので、得られた過酸化物分解アルコールを用いて高純度の(メタ)アクリル酸エステルを収率よく製造することができる。
【実施例】
【0045】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
実施例1
撹拌機つきの1L容の四つ口フラスコ内を窒素ガス置換したのち、該フラスコ内に、テトラヒドロフルフリルアルコール224.4g、メトキノン0.9g、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.3g、パラトルエンスルホン酸16.7gおよびシクロヘキサン460.0gを入れて攪拌機で混合し、得られた混合物における過酸化物量を以下の過酸化物量の測定法に基づいて調べたところ、220ppmであった。
【0047】
得られた混合物を撹拌しながら81℃まで昇温し、同温度で1時間攪拌することにより、過酸化物分解アルコールを得た。
【0048】
得られた過酸化物分解アルコールの過酸化物量を調べたところ、過酸化物量は5ppmであった。
【0049】
次に、このフラスコ内に、アクリル酸166.3gを添加し、混合した後、得られた混合物にコンプレッサーを用いて常圧下で空気を0.11L/hrの流量(アクリル酸1モルあたりの空気の量:0.05L/hr)で吹き込み、81〜90℃に昇温し、副生した水を系外に除去しながら水が生成しなくなるまでエステル化反応を行った。
【0050】
得られた反応混合物を回収し、生成したアクリル酸テトラヒドロフルフリルの収率および純度を調べたところ、収率は91%であり、純度は98.5%であった。
【0051】
なお、反応混合物をフラスコから取り出す際には、フラスコ内に重合体の付着が認められなかった。
【0052】
〔過酸化物量の測定法〕
(1)300mL容の三角フラスコ2個を用意し、各三角フラスコ内に、イソプロピルアルコール40mLと氷酢酸2mLを加える。
【0053】
(2)一方の三角フラスコ(以下、フラスコAという)内に、直示天秤を用いて過酸化物量を測定するための試料25gを精秤して加える。他方の三角フラスコ(以下、フラスコBという)は、何も添加せずにそのまま使用し、空試験用とする。
【0054】
(3)ヨウ化カリウム飽和水溶液10mLとイソプロピルアルコール40mLとを混合し、静置した後、その上澄み液10mLを、それぞれ、フラスコAおよびBに加える。
【0055】
(4)フラスコAおよびBを80℃に設定した油浴で5分間加熱した後、0.01mol/Lのチオ硫酸ナトリウム水溶液を各三角フラスコにその溶液の黄色が消失するまで滴下し、その滴定量を測定する。
【0056】
(5)式:
〔過酸化物量(ppm)〕
=〔(P−Q)×0.01×F×34×1/2×1000〕÷M
〔式中、PはフラスコAにおける滴定量(mL)、QはフラスコBにおける滴定量(mL)、Fは0.01mol/lチオ硫酸ナトリウム溶液の力価、Mは試料の量(g)を示す〕
に基づいて、過酸化物量(ppm)を求める。
【0057】
実施例2
15段のオールダーショーを接続した撹拌機つきの1L容の四つ口フラスコ内を窒素ガス置換したのち、テトラヒドロフルフリルアルコール255.3g、メトキノン0.9g、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.9g、ジオクチル錫オキサイド2.5gおよびヘキサン80.0gを混合し、得られた混合物における過酸化物量を実施例1と同様にして測定したところ、220ppmであった。
【0058】
得られた混合物を撹拌しながら81℃まで昇温し、同温度で1時間攪拌することにより、過酸化物分解アルコールを得た。
【0059】
得られた過酸化物分解アルコールの過酸化物量を調べたところ、過酸化物量は8ppmであった。
【0060】
次に、このフラスコ内に、アクリル酸メチル494.0gを添加し、混合した後、得られた混合物にコンプレッサーを用いて常圧下で空気を0.11L/hrの流量(アクリル酸メチル1モルあたりの空気の量:0.05L/hr)で吹き込み、90〜100℃に昇温し、副生したメタノールを系外に除去しながら水が生成しなくなるまでエステル交換反応を行った。
【0061】
得られた反応混合物を回収し、生成したアクリル酸テトラヒドロフルフリルの収率および純度を調べたところ、収率は95%であり、純度は99.7%であった。
【0062】
なお、反応混合物をフラスコから取り出す際には、フラスコ内に重合体の付着が認められなかった。
【0063】
比較例1
15段のオールダーショーを接続した撹拌機つきの1L容の四つ口フラスコ内に、テトラヒドロフルフリルアルコール255.3g、メトキノン0.9g、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.9g、ジオクチル錫オキサイド2.5gおよびヘキサン80.0gを室温(約23℃)中で混合し、系内の過酸化物量を実施例1と同様にして測定したところ、220ppmであった。
【0064】
次に、このフラスコ内に、アクリル酸メチル494.0gを添加し、混合した後、常圧下で得られた混合物にコンプレッサーを用いて空気を0.11L/hrの流量(アクリル酸メチル1モルあたりの空気の量:0.05L/hr)で吹き込み、90〜100℃に昇温し、副生したメタノールを系外に除去しながら水が生成しなくなるまでエステル交換反応を行った。
【0065】
得られた反応混合物を回収し、生成したアクリル酸テトラヒドロフルフリルの収率および純度を調べたところ、収率は88%であり、純度は99.3%であった。
【0066】
なお、反応混合物をフラスコから取り出す際には、フラスコ内に白色の重合体の付着が認められた。
【0067】
以上の結果より、実施例1〜2によれば、エーテル基を有するアルコールを触媒および酸化防止剤の存在下で加熱することにより、過酸化物分解アルコールを調製するという操作が採られているので、エーテル基を有するアルコールに含まれている過酸化物の含有量を効率よく低減することができ、比較例1と対比して、重合体を副生することなく、高純度の(メタ)アクリル酸エステルを収率よく製造することができることがわかる。
【0068】
実験例1−1
実施例1において、テトラヒドロフルフリルアルコール、メトキノン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、パラトルエンスルホン酸およびシクロヘキサンの混合物を撹拌しながら81℃まで昇温し、同温度で攪拌したときの過酸化物量の経時変化を調べた。その結果を図1のAに示す。
【0069】
実験例1−2
実施例2において、テトラヒドロフルフリルアルコール、メトキノン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、ジオクチル錫オキサイドおよびヘキサンの混合物を撹拌しながら81℃まで昇温し、同温度で攪拌したときの過酸化物量の経時変化を調べた。その結果を図1のBに示す。
【0070】
実験例1−3
実験例1−2において、酸化防止剤(メトキノンおよび2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール)を使用しなかった以外は、実験例1−2と同様の操作を行い、過酸化物量の経時変化を調べた。その結果を図1のCに示す。
【0071】
実験例1−4
実験例1−2において、触媒(ジオクチル錫オキサイド)を使用しなかった以外は、実験例1−2と同様の操作を行い、過酸化物量の経時変化を調べた。その結果を図1のDに示す。
【0072】
図1に示された結果から、実験例1−1〜1−2では、触媒と酸化防止剤とが併用されているので、きわめて短時間でエーテル基を有するアルコールに含まれている過酸化物の含有量を低減させることができることがわかる。
【0073】
一方、実験例1−3〜1−4では、触媒または酸化防止剤が使用されていないので、エーテル基を有するアルコールに含まれている過酸化物の含有量を20ppm以下とするのに、かなりの長時間を要することがわかる。
【0074】
以上のことから、エーテル基を有するアルコールに、触媒と酸化防止剤とを併用した場合には、両者併用による相乗効果として、エーテル基を有するアルコールに含まれている過酸化物の含有量を短時間で低減させることができることがわかる。
【0075】
実験例2−1
実施例1において、テトラヒドロフルフリルアルコールとアクリル酸とを反応させたときの系内の過酸化物の生成量(過酸化物量)の経時変化を調べた。その結果を図2のEに示す。
【0076】
実験例2−2
実施例2において、テトラヒドロフルフリルアルコールとアクリル酸メチルとを反応させたときの系内の過酸化物の生成量(過酸化物量)の経時変化を調べた。その結果を図2のFに示す。
【0077】
実験例2−3
実験例2−2において、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを使用しなかった以外は、実験例2−2と同様の操作を行い、テトラヒドロフルフリルアルコールとアクリル酸メチルとを反応させたときの系内の過酸化物の生成量(過酸化物量)の経時変化を調べた。その結果を図2のGに示す。
【0078】
図2に示された結果から、実験例2−1および2−2では、触媒(ジオクチル錫オキサイド)と酸化防止剤(メトキノン)とが併用されているので、過酸化物分解アルコールと、アクリル酸またはアクリル酸メチルとを反応させる際に、過酸化物の生成を効果的に抑制することができることがわかる。
【0079】
一方、実験例2−3では、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールが使用されていないので、過酸化物分解アルコールとアクリル酸メチルとを反応させる際に、過酸化物の生成を十分に抑制することができないことがわかる。
【0080】
以上の結果から、エーテル基を有するアルコールに、触媒と酸化防止剤として2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールとを併用した場合には、過酸化物分解アルコールとアクリル酸またはアクリル酸メチルとを反応させる際に過酸化物が生成するのを効果的に抑制することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の製造法によって得られた(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、塗料、接着剤、粘着剤、合成樹脂、繊維などの原料、紫外線などの活性エネルギーを有する光線で硬化しうる硬化性樹脂の反応性希釈剤などとして好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】実験例1−1〜1−4において、エーテル基を有するアルコール中の過酸化物量の経時変化を示す図である。
【図2】実験例2−1〜2−3において、エーテル基を有するアルコールとアクリル酸またはアクリル酸メチルとを反応させたときの反応系における過酸化物量の経時変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エーテル基を有するアルコールを触媒および酸化防止剤の存在下で50〜150℃に加熱し、過酸化物を分解させた後、該エーテル基を有するアルコールを(メタ)アクリル酸エステルを製造する際の原料として用いることを特徴とする(メタ)アクリル酸エステルの製造法。
【請求項2】
エーテル基を有するアルコールに含まれている過酸化物の量が20ppm以下となるまで、該エーテル基を有するアルコールを加熱する請求項1記載の製造法。
【請求項3】
過酸化物を分解させた後、エーテル基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸またはそのアルキルエステルとを反応させる請求項1または2記載の製造法。
【請求項4】
エーテル基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸またはそのアルキルエステルとを反応させる際に、酸素含有ガスをエーテル基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸またはそのアルキルエステルとの混合物に吹き込む請求項3記載の製造法。
【請求項5】
エーテル基を有するアルコール1モルあたり0.01〜1L/hrの割合で、酸素含有ガスをエーテル基を有するアルコールと(メタ)アクリル酸またはそのアルキルエステルとの混合物に吹き込む請求項4記載の製造法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−104168(P2006−104168A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−296213(P2004−296213)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(000205638)大阪有機化学工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】