説明

(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法

【課題】(メタ)アクリル酸系重合体を経済的に効率良く提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル酸系重合体を製造する際に、反応溶液中および滴下溶液中の溶存酸素濃度を20ppm以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、反応溶液中および滴下溶液中の溶存酸素濃度が20ppm以下の条件下で(メタ)アクリル酸系単量体を重合することを特徴とする(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法としては、反応溶液中の溶存酸素濃度を規定して重合する方法が知られている。
【0003】
しかしながら上記従来の方法は、溶液を滴下する場合、滴下溶液中の溶存酸素濃度は考慮されておらず、滴下溶液中の溶存酸素由来の酸素ラジカルによる分子量の低下といった悪影響を及ぼす。特に、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造においては、酸素ラジカルによるビニルエーテル基への付加やエーテル酸素に隣接する炭素上の水素引き抜きが起こり、ゲル状重合体が生成する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記のごとき状況に鑑みてなされたものであり、(メタ)アクリル酸系重合体を経済的に効率良く提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者らは、(メタ)アクリル酸系重合体を経済的に効率良く製造する方法を提供するため、鋭意検討を重ねた結果、反応溶液中のみならず滴下溶液中の溶存酸素濃度を20ppm以下とすることによって、(メタ)アクリル酸系重合体を経済的に効率良く製造できることを見い出した。
【0006】
本発明にかかる(メタ)アクリル酸系単量体としては、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸6−ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−[2−(2−ビニロキシエトキシ)エトキシ]エチル、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノビニルエーテル等のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の芳香族基含有(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸クロライド、(メタ)アクリル酸ブロマイド、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸テトラフルオロエチル等のハロゲン含有(メタ)アクリル酸エステル類;グリシジル(メタ)アクリレート、α−メチルグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート類;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の窒素原子含有(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸無水物;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム、(メタ)アクリル酸マグネシウム、(メタ)アクリル酸カルシウム等の(メタ)アクリル酸およびその塩;等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸系単量体は単独でも2種類以上を組み合わせてもよい。
【0007】
これらのうち(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸6−ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−[2−(2−ビニロキシエトキシ)エトキシ]エチル、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノビニルエーテル等のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類が好ましく、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルが特に好ましい。
【0008】
本発明にかかる(メタ)アクリル酸系重合体の重合度は、数平均分子量が、下限値は、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上、特に好ましくは3,000以上であり、上限値は、好ましくは20,000,000以下、より好ましくは10,000,000以下、特に好ましくは5,000,000以下である。
【0009】
本発明にかかる(メタ)アクリル酸系重合体は、(メタ)アクリル酸系単量体以外の重合性単量体に由来する構造単位を含んでいてもよい。具体的には、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、無水マレイン酸等の酸性官能基含有重合性単量体類;ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のビニル化合物類;ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等の珪素含有重合性単量体類;(メタ)アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、t−ブチルアクリルアミド、ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、N−フェニルマレイミド等の窒素原子含有重合性単量体類;等の単量体に由来する構造単位が挙げられる。これらの構造単位は、単独でも2種類以上を組み合わせてもよい。
【0010】
(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法において、溶媒を使用する必要はないが、反応を阻害しないものであれば使用してもよい。好ましい溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;イソプロピルアルコール、n−ブタノール等の脂肪族アルコール系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;等の有機溶媒や水が挙げられる。
【0011】
上記有機溶媒や水の使用量は、重合性単量体の総重量が(溶媒+重合性単量体)の総和に対して、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上であり、好ましくは90重量%以下、より好ましくは80重量%以下になるように添加すればよい。
【0012】
(メタ)アクリル酸系重合体の製造に用いられるラジカル重合開始剤としては、具体的には、2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2.2’−アゾビス−2−メチルプロピオン酸メチル、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、2,2’アゾビス−2−メチルバレロニトリル、1,1’−アゾビス−1−シクロヘプタンニトリル、1,1’−アゾビス−1−フェニルエタン、フェニルアゾトリフェニルメタン等のアゾ系開始剤類;過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化tert−ブチル、過酸化プロピオニル、過酸化ラウロイル、過酢酸tert−ブチル、過安息香酸tert−ブチル、tert−ブチルヒドロペルオキシド、tert−ブチルペルオキシピバレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の過酸化物系開始剤類;等が挙げられる。これらのうち、アゾ系開始剤類が特に好ましい。
【0013】
上記ラジカル重合開始剤の使用量は、重合性単量体の総重量に対して好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上、さらに好ましくは0.05重量%以上、特に好ましくは0.1重量%以上であり、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは15重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。前記ラジカル重合開始剤の使用量が、収率の点、経済性の点で好ましい。
【0014】
また、重合させる際の反応温度は、好ましくは0℃以上、より好ましくは20℃以上、特に好ましくは40℃以上であり、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下、特に好ましくは100℃以下である。
【0015】
本発明の(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法は反応溶液中および滴下溶液中の溶存酸素濃度を20ppm以下にすることにより、分子量低下やゲル化といった問題点を回避し、安定的かつ経済的に(メタ)アクリル酸系重合体を製造する方法である。
【0016】
本発明において、反応溶液中および滴下溶液中の溶存酸素濃度は重合反応中を通して20ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、5ppm以下であることがさらに好ましく、3ppm以下であることが特に好ましい。
【0017】
反応溶液中および滴下溶液中の溶存酸素濃度を20ppm以下とする方法としては、窒素などの不活性ガスを十分にバブリングする方法、減圧と不活性ガス置換を十分に繰り返す方法、不活性ガスによる加圧と開圧を十分に繰り返す方法等が挙げられる。これらの方法は、単独で実施してもよく、組み合わせて実施してもよい。
【0018】
本発明にかかる滴下とは、反応系外にあるものを反応系中に加えることを意味し、連続的に滴下してもよく、間欠的に滴下してもよい。
【0019】
本発明にしたがって製造された(メタ)アクリル酸系重合体は、反応溶液を精製することによって得ることができる。上記精製手段としては、製造された(メタ)アクリル酸系重合体の貧溶媒に再沈殿し、ろ過後減圧乾燥させる方法、未反応の単量体や溶媒を蒸発させる方法およびGPC分取による方法等が挙げられる。これらの方法は組み合わせて実施してもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明に従えば、(メタ)アクリル酸系重合体の製造にあたり、分子量の低下やゲル化といった問題点を回避し、経済的に効率良く製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0022】
溶存酸素濃度は、溶存酸素計(セントラル科学株式会社製 UC−12−SOL型)を用いて測定した。ゲル化の有無はテトラヒドロフラン(THF)100重量部に対して、重合体0.1重量部を加えて、30℃で混合し、不溶分の有無で判断する。
【0023】
実施例1 攪拌装置、温度計、冷却装置、滴下装置および窒素ガス導入管を取付けた四つ口フラスコに2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(以下、「AIBN」と呼ぶ) 1.1g、ベンゼン 44.0gを仕込み、攪拌しながら窒素ガスを十分にバブリングした。溶存酸素計により溶存酸素濃度 が4.0ppmであることを確認し、60℃まで昇温し、温度が一定になった後、十分に窒素ガスをバブリングしたメタクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル(以下、「VEEM」と呼ぶ)4.0g、メタクリル酸メチル(以下、「MMA」と呼ぶ) 18.2g、ベンゼン22.0gの混合溶液(溶存酸素濃度 3.2ppm)を5時間かけて滴下した。その後さらに同温で3時間攪拌し重合体を得た。これをヘキサン1Lを用いて再沈殿し、ろ過後減圧乾燥することにより精製した。得られた重合体の収量は21.4gであった。得られた重合体はTHFに完全に溶解した。
【0024】
また、得られた重合体をHLC−8120型ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー株式会社製、溶離液 テトラヒドロフラン;以下「GPC」と呼ぶ)および 400MHz UNITY−PLUS型核磁気共鳴装置(バリアン社製、溶媒 重クロロホルム;以下「NMR」と呼ぶ)により分析した結果、数平均分子量(GPCより算出、ポリスチレン換算)は4800、共重合体組成比(重合体のNMRより算出)はVEEM/MMA=9.4/90.6(mol%)であった。
【0025】
実施例2 実施例1と同様の装置に、VEEM 4.0g、MMA 18.0g、AIBN0.45g、ベンゼン31.8gを仕込み、窒素ガスを十分にバブリングした。溶存酸素計で溶存酸素濃度が3.0ppmであることを確認し、60℃まで昇温し、温度が一定になった後、窒素ガスを十分にバブリングしたAIBN 1.8g、ベンゼン 34.2gの混合溶液(溶存酸素濃度 1.8ppm)を6時間かけて滴下した。その後、同温で2時間攪拌し重合体を得た。これをヘキサン1Lを用いて再沈殿し、ろ過後減圧乾燥することにより精製した。得られた重合体の収量は20.8gであった。得られた重合体はTHFに完全に溶解した。
【0026】
また、得られた重合体をGPCおよびNMRで分析した結果、数平均分子量は4500、共重合体組成比はVEEM/MMA=9.7/90.3(mol%)であった。
【0027】
実施例3 実施例1と同様の装置に、AIBN 0.50g、ベンゼン40.0gを仕込み、窒素ガスを十分にバブリングした。溶存酸素計で溶存酸素濃度が2.7ppmであることを確認し、60℃まで昇温し、温度が一定になった後、窒素ガスを十分にバブリングしたメタクリル酸ヒドロキシエチル 20.0g、ベンゼン 20.0gの混合溶液(溶存酸素濃度 1.5ppm)を5時間かけて滴下した。その後、同温で3時間攪拌し重合体を得た。これをヘキサン1Lを用いて再沈殿し、ろ過後減圧乾燥することにより精製した。得られた重合体の収量は18.8gであった。得られた重合体はTHFに完全に溶解した。
【0028】
また、得られた重合体をGPCで分析した結果、数平均分子量は12000であった。
【0029】
比較例1 滴下溶液を窒素ガスでバブリングしなかった以外は実施例1と同様の実験を行なった。この際の滴下溶液中の溶存酸素濃度は45.8ppmであった。
【0030】
滴下終了後すぐにゲル状重合体が生成した。このゲル状重合体はテトラヒドロフランおよびクロロホルムに溶解しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液を滴下することによる(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法であって、反応溶液中および滴下溶液中の溶存酸素濃度が20ppm以下の条件下で(メタ)アクリル酸系単量体を重合することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
(メタ)アクリル酸系単量体がビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含むことを特徴とする請求項1記載の(メタ)アクリル酸系重合体の製造方法。

【公開番号】特開2007−246917(P2007−246917A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−138323(P2007−138323)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【分割の表示】特願2002−30208(P2002−30208)の分割
【原出願日】平成14年2月7日(2002.2.7)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】