説明

(4S,5R)−ハーフエステルの調製方法

9−エピキニン尿素の存在下に環状無水物をアルコールでエナンチオ選択的に開環することによって(4S,5R)−ハーフエステルを調製する方法。この方法を用いることにより、(4S,5R)−ハーフエステルが室温で高収率かつ高立体選択性で調製される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、有機化学分野に属し、9−エピキニン尿素(epiquininurea)を使用して(4S,5R)−ハーフエステルを調製する方法に関する。
【0002】
[背景技術]
一般式(I)で表される(4S,5R)−ハーフエステルは、(+)−ビオチン(ビタミンH)合成の鍵となる中間体である。現在用いられているこの化合物の調製には、光学分割法、不斉補助基法(chiral auxiliary method)、不斉触媒反応法等がある。分割法は、まず最初にゲレック(Gerecke)らによって報告され(Helv Chim Acta、1970年、第53号、p.991)、環状無水物(II)とシクロヘキサノールとのモノエステル化によってCACモノシクロヘキサノールエステルのラセミ体を調製した後、プソイドエフェドリンを用いて直接鏡像体の結晶化を実施して分割を行うことにより所望の(4S,5R)−ハーフエステル(I)を得ている。独国特許第2058234号明細書、中国特許第106365号明細書、欧州特許第92194号明細書、およびチェン・フェン・アル(Chen Fen−Er)ら(Chemical Journal of Chinese Universities、2001年、第12号、p.1141)は、それぞれ、デヒドロアビエチルアミン、置換されたキラルなジフェニルエチルアミン(diphenyl ethamine)、およびクロロマイセチンの副産物である(1S,2S)−threo−1−(p−ニトロフェニル)−1,3−プロパンジオールを光学分割剤として使用することによって一般式(I)で表される(4S,5R)−ハーフエステルを調製することを報告している。しかし、これらの分割方法は、費用がかかり、原料の供給源が不十分であり、分割効率に劣り、かつ回収が容易でないという欠点がある。
【0003】
ゲレックら(Helv Chim Acta、1970年、第53巻、p.991)は、不斉補助剤としてコレステリンを使用して環状無水物(II)からCACハーフエステルのジアステレオ異性体を形成した後、再結晶化および単離を行うことによって(4S,5R)−ハーフエステル(I)を得ることを報告している。欧州特許第92194号明細書においては、光学活性な置換されたキラルな2級アルコールおよびtert−ブチルアルコールを不斉補助剤として用いることによって(4S,5R)−ハーフエステル(I)を調製している。しかし、上述の方法に使用されている不斉補助剤は、高額であり、調製が難しく、かつ回収が容易でないという欠点がある。
【0004】
欧州特許第84892号明細書、チェン・フェン・アルら(Advanced Synthesis&Catalysis、2005年、第347巻、p.549)は、それぞれ、ブタ肝臓エステラーゼおよびポリマー−ブタ肝臓エステラーゼを触媒として用いたメソジエステルの立体選択的加水分解によって、一般式(I)で表される(4S,5R)−ハーフエステルを調製することを報告している。中国特許第1473832号明細書、中国特許第101157655号明細書には、それぞれ、キラルなアミンである(1S,2S)−1−(4−ニトロフェニル)−2−N,N−ジメチルアミノ−3−トリフェニルメトキシ−1−プロパノールおよび9−プロパルギルキニンを触媒として用いた環状無水物(II)の不斉加アルコール分解によって、一般式(I)で表される(4S,5R)−ハーフエステルを調製することが記載されている。しかし、これらの方法は、製造規模が小さく、操作が煩雑であり、かつ反応温度が過酷であるという欠点を有する。
【0005】
[発明の概要]
本発明の目的は、既存の技術の欠点を克服し、一般式(I)で表される(4S,5R)−ハーフエステルを、温和な条件下で、高収率かつ高立体選択性で調製する方法を提供することにある。
【0006】
本発明は、9−エピキニン尿素の存在下において、環状無水物(II)をアルコールでエナンチオ選択的に開環することによって、一般式(I)で表される(4S,5R)−ハーフエステルを、収率>95%、e.e.>98%で調製するものである。この合成経路を以下に示す:
【化1】



(式中、Rは、水素、C〜Cアルキル、フェニル、アルキル置換フェニル、またはアルコキシル置換フェニルであり、Arは、フェニル、アルキル置換フェニル、またはアルコキシル置換フェニル、ニトロ置換フェニル、ハロゲン化フェニル、チエニル、フリル、またはナフチルであり、Rは、C〜Cアルキル、C〜Cナフテン、C〜Cアルケニル、アラルキル、またはアラルケニルである)。
【0007】
上記不斉モノエステル化における触媒である9−エピキニン尿素は、式A:
【化2】



(式中、Rは、水素、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、またはC〜Cアルキニルであり、Rは、水素、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキニル、C〜Cナフテン、アリール、または上述の任意の基の置換された誘導体であり、Rは、−Hまたは−ORであり、Rは、C〜Cアルキル、C〜Cナフテン、C〜Cアルケニル、C〜Cアシル、ベンジル、ベンゾイル、シンナミル、または上述の任意の基の置換された誘導体であり、Zは、O、S、またはSeである)で表される構造を有する。これは、室温での反応および一般式(I)で表される(4S,5R)−ハーフエステルを高収率かつ高立体選択性で調製することを可能にするものである。それに加えて、上記不斉触媒は、合成が簡便であり、原料が広く入手可能であり、かつ定量的に回収することが可能であり、このことは生産の工業化に必要である。
【0008】
使用されるアルコールは、不斉モノエステル化に用いられる、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、シクロヘキサノール、アリルアルコール、ベンジルアルコール、シンアミルアルコール等の、C〜Cアルカノール、C〜Cナフテン系アルコール(naphthenic alcohol)、C〜Cエノール、アラルキルアルコール、アレノール(arenol)、または上述の任意のアルコールの置換された誘導体である。これらのアルコールは安価かつ容易に入手可能である。ここで使用される有機溶媒としては、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、四塩化炭素等)、脂肪族炭化水素(例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、アセトニトリル、酢酸エチル等)、アレーン(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン等);各種ハロアレーン(例えば、クロロベンゼン等)、またはエーテル(例えば、ジエチルエーテル、MTBE、THF、または1,4−ジオキサン等)が挙げられる。これらの溶媒は、広く入手可能であり、安価であり、かつ回収が容易である。環状無水物(II)/アルコール/不斉触媒のモル比が1:1〜10:0.01〜2.2とした場合に反応を円滑に完結させることができる。反応を完結させるためには、反応温度を−15℃〜50℃、反応時間を4〜80時間に制御する。
【0009】
本発明において好ましい不斉触媒は、Rとしてビニル、Rとして−OR、Rとしてメチル、ZとしてS原子を有する9−エピキニン尿素(A)である。この触媒の利点は、合成が簡便であり、原料の供給源が幅広く、かつ回収が容易なことにある。
【0010】
本発明において使用されるアルコールは、低価格かつ広く入手可能なメタノールである。
【0011】
本発明における環状無水物(II)/アルコール/不斉触媒のモル比は、好ましくは1:3〜10:0.01〜1.1である。
【0012】
本発明における好ましい反応温度は、0〜25℃である。
【0013】
本発明における好ましい反応時間は、10〜36時間である。
【0014】
本発明における好ましい有機溶媒は、環境に優しく、広く入手可能であり、かつ低価格なMTBEである。
【0015】
本発明は、反応条件が温和であり、操作が容易であり、かつ原料が安価で容易に入手可能である。その上、生成物が高収率かつ高立体選択性で得られ、触媒は定量的に回収して再使用することができる。したがって、この触媒はコストが低く、生産を工業化するのに適している。
【0016】
[実施例]
以下の実施例により本発明の内容をより十分に説明することができる。しかし、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【0017】
[実施例1]
乾燥したフラスコにcis−1,3−ジベンジルイミダゾリン−2−オン−2H−フラン[3,4−d]イミダゾール−2,4,6−トリオン(33.6g、0.10mol)、触媒A(R:−CH=CH、R:−OR、R:CH、Z:S)(65.34g、0.11mol)、MTBE(4L)を装入し、無水メタノール(40.4mL、1mol)を25℃で滴下した後、24時間連続撹拌する。反応終了後、2M塩酸(400mL)を残留物に加えて10分間撹拌し、静置した後、有機層を分離して無水硫酸ナトリウムで乾燥する。これを濾過し、濾液から減圧下で溶媒を回収し、白色の粉末結晶I(R:−H、Ar:−Ph、R:−CH、36g、98%)(m.p.149〜150℃、[α]22=+2.74°(c0.20、CHCl))を得る。
IR(KBr):ν=2979,2384,2281,1742,1463,1229,1169,767cm−1
H NMR(CDCl):δ=3.54(s,1H,OCH),4.00〜4.04(m,2H,C6a−H,C3a−H),4.16〜4.80(dddd,4H,2CH),7.19〜7.53(m,10H,2ArH)ppm
EI−MS:(m/z,%)=368(M,37),323(46),309(59),265(44),154(8),136(18),91(100)
【0018】
触媒回収:分離した塩酸の水層を20%NaOH溶液でpH14に調節する。分離した白色固体を濾過して乾燥し、触媒を定量的に回収する。
【0019】
[実施例2]
乾燥したフラスコにcis−1,3−ジベンジルイミダゾリン−2−オン−2H−フラン[3,4−d]イミダゾール−2,4,6−トリオン(33.6g、0.10mol)、触媒A(R:−CH=CH、R:−OR、R:CH、Z:S)(5.94g、0.01mol)、1,4−ジオキサン(8L)を装入し、プロパルギルアルコール(58.2mL、1mol)を25℃で滴下した後、24時間連続撹拌する。反応終了後、2M塩酸(40mL)を残留物に加えて10分間撹拌し、静置した後、有機層を分離して無水硫酸ナトリウムで乾燥する。これを濾過し、濾液から減圧下で溶媒を回収し、白色の粉末結晶I(R:−H、Ar:−Ph、R:プロパルギル、37.2g、95%)(m.p.132.7〜135.8℃、[α]25=+14.3°(c1.0,CHCl))を得る。
【0020】
[実施例3]
乾燥したフラスコにcis−1,3−ジベンジルイミダゾリン−2−オン−2H−フラン[3,4−d]イミダゾール−2,4,6−トリオン(33.6g、0.10mol)、触媒A(R:−CH=CH、R:−OR、R:CH、Z:S)(65.34g、0.11mol)、1,4−ジオキサン(4L)を装入し、無水メタノール(40.4mL、1.0mol)を25℃で滴下した後、24時間連続撹拌する。反応終了後、2M塩酸(400mL)を残留物に加えて10分間撹拌し、静置した後、有機層を分離して無水硫酸ナトリウムで乾燥する。これを濾過して、濾液から減圧下で溶媒を回収し、白色の粉末結晶I(R:−H、Ar:−Ph、R:−CH、35.2g、96%)(m.p.148〜150℃、[α]22=+2.70°(c0.20,CHCl))を得る。
【0021】
[実施例4]
乾燥したフラスコにcis−1,3−ジベンジルイミダゾリン−2−オン−2H−フラン[3,4−d]イミダゾール−2,4,6−トリオン(33.6g、0.10mol)、触媒A(R:−CHCH、R:−OR、R:CH、Z:S)(65.34g、0.11mol)、THF(4L)を装入し、無水メタノール(40.4mL、1.0mol)を25℃で滴下した後、24時間連続撹拌する。反応終了後、2M塩酸(400mL)を残留物に加えて10分間撹拌し、静置した後、有機層を分離して無水硫酸ナトリウムで乾燥する。これを濾過して、濾液から減圧下で溶媒を回収し、白色の粉末結晶I(R:−H、Ar:−Ph、R:−CH、35g、95%)(m.p.147〜150℃,[α]22=+2.70°(c0.20,CHCl))を得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(4S,5R)−ハーフエステル(I)
【化1】



の調製方法であって、環状無水物(II)
【化2】



(Rは、水素、C〜Cアルキル、フェニル、p−トリル、p−メトキシフェニル、3,4−ジメチルフェニル、3,4−ジメトキシフェニル、3,4,5−トリメチルフェニル、3,4,5−トリメトキシフェニル、p−クロロフェニルであり、Arは、フェニル、p−メトキシフェニル、3,4−ジメチルフェニル、3,4−ジメトキシフェニル、3,4,5−トリメチルフェニル、3,4,5−トリメトキシフェニル、p−クロロフェニル、チエニルフェニル、フリル、またはナフチルであり、Rは、C〜Cアルキル、C〜Cナフテン、C〜Cアルケニル、アラルキル、またはアラルケニルである)のエナンチオ選択的な開環反応を、A
【化3】



(式中、Rは、水素、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、またはC〜Cアルキニルであり、Rは、水素、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、C〜Cアルキニル、C〜Cナフテン、アリール、または上述の任意の基の置換された誘導体であり、Rは、−Hまたは−ORであり、Rは、C〜Cアルキル、C〜Cナフテン、C〜Cアルケニル、C〜Cアシル、ベンジル、ベンゾイル、シンナミル、または上述の任意の基の置換された誘導体であり、Zは、O、S、またはSeである)で表される構造を有する9−エピキニン尿素の存在下において実施することによって、(4S,5R)−ハーフエステル(I)を調製することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記開環反応が、アルコールの存在下に実施されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルコールが、C〜Cアルカノール、C〜Cナフテン系アルコール、C〜Cエノール、アラルキルアルコール、アレノール、または上述の任意のアルコールの置換された誘導体、好ましくは、メタノール、アリルアルコール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、またはシンナミルアルコールであることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応が、環状無水物(II)/アルコール/不斉触媒のモル比が1:1〜10:0.01〜2.2で実施されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記反応が、−15℃〜50℃の温度で実施されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記反応が、4〜80時間の反応時間で実施されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記反応が、有機溶媒中、室温の常圧、加圧、または減圧下で実施されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記有機溶媒が、ハロゲン化炭化水素、脂肪族炭化水素、アレーン、またはエーテルのうちの1種または数種であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記有機溶媒が、ジエチルエーテル、MTBE、THF、および/または1,4−ジオキサンであることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
環状無水物(II)/アルコール/不斉触媒のモル比が1:3〜10:0.01〜1.1であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
反応温度が0℃〜25℃であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
反応時間が10〜72時間であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
が、エチル、ビニルであり、Rが、ナフテン、アリール、およびこれらの誘導体であり、Rが、−ORであり、Rが、メチルであり、Zが、S原子であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2011−523654(P2011−523654A)
【公表日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511956(P2011−511956)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【国際出願番号】PCT/CN2009/000627
【国際公開番号】WO2009/146607
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【出願人】(509025670)フダン ユニバーシティー (5)
【Fターム(参考)】