説明

(N−ヘテロシクリル)アリールエーテルの調製

【課題】(N−ヘテロシクリル)アリールエーテルの調製法の提供。
【解決手段】[R2−O]−ARYL−Nで示される化合物を、少なくとも1種の遷移金属触媒、少なくとも1種の有機極性溶媒、および水素の存在下で反応させることにより、任意選択的に置換される(N−ヘテロシクリル)アリールエーテル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意選択的に置換される(N−ヘテロシクリル)アリールエーテルの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の(N−ヘテロシクリル)アリールエーテルは、医薬および農薬を合成するための中間体としてすでに重要であり、例えば、感染性疾患、統合失調症、抑鬱症、神経変性疾患などに対する活性成分の本質的構造要素であるとともに、殺有害生物剤の中間体の本質的構造要素でもある。
【0003】
(N−ヘテロシクリル)アリールエーテルの種々の調製方法は公知である。
【0004】
したがって、たとえば、国際公開第2005/092832号パンフレットには、N−boc−4−ヒドロキシピペリジノールから開始する複雑な三段階合成による(N−ヘテロシクリル)アリールエーテルの調製、特にアリールピペリジニルエーテルの調製が記載されている。国際公開第97/23216号パンフレットにも同様の記載がある。
【0005】
これに代わる選択肢として、欧州特許出願公開第1947098A1号明細書では、N−ベンジル−4−ヒドロキシピペリジノールから開始して保護基の導入および4−トリフルオロメチル−フルオロベンゼンとの反応により合成が行われるが、経済的実現可能性に関してかなりの欠点を有する。
【0006】
国際公開第2002/072621号パンフレットには、N−boc−4−ヒドロキシピペリジノールから開始するジエチルアゾカルボキシレート(DEAD)を用いたMitsunobu反応による(N−ヘテロシクリル)アリールエーテルの調製が記載されている。この経路は、とくに工業規模では、使用されるDEADの爆発性が原因で実現が困難である。
【0007】
公知の方法は、非経済的であるか、生態学的に許容できないか、または安全面で問題があるかのいずれかの欠点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2005/092832号パンフレット
【特許文献2】国際公開第97/23216号パンフレット
【特許文献3】欧州特許出願公開第1947098A1号明細書
【特許文献4】国際公開第2002/072621号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、従来の方法の欠点を有しておらずかつ(N−ヘテロシクリル)アリールエーテルを良好な収率で費用効果的に工業規模で製造する方法を提供することが目的であった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
驚くべきことに、遷移金属触媒および特別な溶媒、特にカルボン酸を用いた本発明に係る方法により、先行技術の欠点を克服しかつ(N−ヘテロシクリル)アリールエーテルを良好な収率で調製しうることを見いだした。
【0011】
したがって、本発明は、式(I)
[R−O]−CYCLYL−N−R (I)
で示される化合物の調製方法を提供する。この方法は、式(II)
[R−O]−ARYL−N (II)
で示される化合物を、
少なくとも1種の遷移金属触媒、
少なくとも1種の有機極性溶媒、
および水素、
の存在下で反応させることを特徴とする。ただし、
式中、CYCLYL−Nは、環炭素原子を介して[R−O]基の酸素原子に結合された、2個までの窒素原子を有する任意選択的に置換される5〜8員の環状の飽和もしくは部分不飽和の非芳香族のN−ヘテロ環式基であり、かつARYL−Nは、芳香族基の環炭素原子を介して[R−O]基の酸素原子に結合された、2個までの窒素原子を有する任意選択的に置換されるN−ヘテロ環式の5〜8員の芳香族基であり、
は、任意選択的に置換されるC〜C20−アリールであり、かつ
は、CYCLYL−Nの窒素原子に結合されかつ水素または−C(=O)(R)であり、かつRは、C〜C15−アルキルとくに好ましくはC〜C−アルキル、C〜C−アルキルチオ、C〜C−アルコキシ、C〜C24−アリール、C〜C26−アリールアルキル、C〜C−ハロアルキル、C〜C−ハロアルコキシ、C〜C−ハロアルキルチオ{ここで、ハロゲン=F、Cl、Br}、5〜8員の飽和ヘテロシクリル{ここで、ヘテロ=(酸素、硫黄、もしくは窒素)}、水素、またはC〜C−モノアルキルアミノもしくはC〜C16−ジアルキルアミノであり、これらは、任意選択的にさらに置換されてよく、Rは、とくに好ましくはC〜C−アルキルまたは水素である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の文脈の範囲内では、アルキルまたはアルコキシは、1〜15個(C〜C15)、好ましくは1〜12個(C〜C12)、とくに好ましくは1〜6個(C〜C)、およびよりとくに好ましくは3〜6個(C〜C)の炭素原子を有する直鎖状、環状、分枝状、もしくは非分枝状のアルキル基またはアルコキシ基である。
【0013】
例として好ましくは、アルキルは、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−、iso、s−、もしくはt−ブチル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、n−ペンチル、1−メチルブチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、ネオペンチル、1−エチルプロピル、シクロヘキシル、シクロペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−デシル、およびn−ドデシルであり、かつアルコキシは、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、t−ブトキシ、n−ペントキシ、およびn−ヘキソキシである。
【0014】
好ましくは、Rは、アルキル、アリール、アルコキシ、ハロアルキル、ハロアルキルチオ、またはハロアルキルオキシにより任意選択的に置換されるC〜C20−アリール基である{ここで、ハロゲン=F、Cl、およびBr}。
【0015】
は、とくに好ましくは、(C〜C)−アルキル、(C〜C)−アルコキシ、(C〜C)−ペルフルオロアルキル、(C〜C)−ペルクロロアルキル、(C〜C)−ペルフルオロアルコキシ、および(C〜C)−ペルクロロアルコキシにより任意選択的に一置換もしくは多置換されるC〜C20−アリール基である。
【0016】
とくに好ましい実施形態では、Rは、トリフルオロメトキシ、メトキシ、および/またはメチルにより任意選択的に一置換もしくは多置換されるC〜C20−アリール基である。よりとくに好ましい実施形態では、Rは、2−、3−、もしくは4−トリフルオロメトキシフェニル、2−、3−、もしくは4−メトキシフェニル、または2−、3−、もしくは4−フェニルメチルである。
【0017】
本発明の文脈の範囲内では、アリールは、好ましくは6〜20個の芳香族炭素原子を有する単環式、二環式、もしくは三環式の炭素環式芳香族基(C〜C20−アリール)である。
【0018】
炭素環式芳香族基は、たとえば、アルキル、アルコキシ、アリール、アリールアルキル、カルボキシル、ジアルキルアミノ、ハロゲン、ハロアルキル、ハロアルコキシ、ハロアルキルチオ、およびモノアルキルアミノのような環1個あたり5個までの同一もしくは異なる置換基により置換可能である。例として好ましくは、C〜C20−アリールは、ビフェニル、フェニル、ナフチル、フェナントレニル、アントラセニル、またはフルオレニルである。
【0019】
本発明の文脈の範囲内では、モノアルキルアミノまたはジアルキルアミノは、好ましくはいずれの場合も1〜10個、とくに好ましくは1〜6個(C〜C)の炭素原子を有する1個もしくは2個の同一もしくは異なる環状、直鎖状、もしくは分枝状のアルキル置換基を有するアミノ基である。
【0020】
例として好ましくは、モノアルキルアミノは、メチルアミノ、エチルアミノ、n−プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、t−ブチルアミノ、n−ペンチルアミノ、およびn−ヘキシルアミノであり、同様に、ジアルキルアミノは、N,N−ジメチルアミノ、N,N−ジエチルアミノ、N−エチル−N−メチルアミノ、N−メチル−N−n−プロピルアミノ、N−イソプロピル−N−n−プロピルアミノ、N−t−ブチル−N−メチルアミノ、N−エチル−N−n−ペンチルアミノ、およびN−n−ヘキシル−N−メチルアミノである。
【0021】
アリールアルキルは、いずれの場合も互いに独立して、上記の定義に基づくアリール基により一置換、多置換、もしくは全置換されうる上記の定義に基づく直鎖状、環状、分枝状、もしくは非分枝状のアルキル基である。アリールアルキルの一例は、ベンジルである。好ましいのは、7〜13個(C〜C13)の炭素原子を有するアリールアルキルであり、とくに好ましいのは、7〜10個(C〜C10)の炭素原子を有するアリールアルキルである。
【0022】
本発明の文脈の範囲内では、ハロゲンは、好ましくはフッ素、塩素、および臭素、とくに好ましくはフッ素および塩素である。
【0023】
本発明の文脈の範囲内では、ハロアルキルまたはハロアルコキシは、ハロゲン原子により一置換、多置換、もしくは全置換された上記の定義に基づく直鎖状、環状、分枝状、もしくは非分枝状のアルキル基またはアルコキシ基である。
【0024】
例として好ましくは、ハロアルキルは、クロロエチル、クロロプロピル、ジクロロメチル、ジフルオロメチル、フルオロメチル、フルオロエチル、フルオロプロピル、および2,2,2−トリフルオロエチルであり、かつハロアルコキシは、ジフルオロメトキシ、フルオロエトキシ、フルオロメトキシ、トリフルオロメトキシ、トリクロロメトキシ、および2,2,2−トリフルオロエトキシである。
【0025】
ハロアルキルおよびハロアルコキシには、たとえば、ペルフルオロアルキル基およびペルクロロアルキル基ならびにペルフルオロアルコキシ基およびペルクロロアルコキシ基が含まれる。とくに好ましいのは、1〜5個(C〜C)の炭素原子を有する、ペルフルオロアルキル基およびペルクロロアルキル基ならびにペルフルオロアルコキシ基およびペルクロロアルコキシ基である。よりとくに好ましいのは、トリフルオロメチル、トリクロロメチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロイソプロピル、およびノナフルオロブチルよりなる群から選択される、ペルフルオロアルコキシ基およびペルクロロアルコキシ基である。
【0026】
さらなる好ましい実施形態では、ARYL−Nは、アルコキシ、アルキル、アリール、ハロアルキル、ハロアルキルチオ、またはハロアルキルオキシ{ここで、ハロゲン=F、Cl、およびBr}により任意選択的に一置換もしくは多置換されるピリジルである。
【0027】
ARYL−Nは、とくに好ましくは、(C〜C)−アルキル、(C〜C)−アルコキシ、(C〜C)−ペルフルオロアルキル、(C〜C)−ペルクロロアルキル、(C〜C)−ペルフルオロアルコキシ、および(C〜C)−ペルクロロアルコキシにより任意選択的に一置換もしくは多置換されるピリジルである。
【0028】
本発明の文脈の範囲内では、ハロアルキルチオは、ハロゲン原子により一置換、多置換、もしくは全置換された1〜15個の炭素原子を有する、好ましくは1〜7個(C〜C)の炭素原子を有する直鎖状、環状、分枝状、もしくは非分枝状の基である。例として好ましくは、ハロアルキルチオは、クロロエチルチオ、クロロブチルチオ、クロロヘキシルチオ、クロロペンチルチオ、クロロドデシルチオ、ジクロロエチルチオ、フルオロエチルチオ、トリフルオロメチルチオ、および2,2,2−トリフルオロエチルチオである。
【0029】
なかでもとくに好ましい実施形態では、ARYL−Nは、2−、3−、もしくは4−トリフルオロメトキシピリジル、2−、3−、もしくは4−メトキシピリジル、または2−、3−、もしくは4−メチルピリジルである。
【0030】
本発明の文脈の範囲内では、N−ヘテロ環式の5〜8員の基は、好ましくは、環炭素原子を介して[R−O]基の酸素原子に結合された、2個までの窒素原子、好ましくは1個の窒素原子を有する芳香族および/もしくは非芳香族のヘテロ環の基である。例としてとくに好ましくは、次のものが挙げられてよい:アゼピニル、ピロリル、イミダゾリル、ピリジル、ピリミジニル、アゼパニル、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、およびピリダジニル。
【0031】
本発明の文脈の範囲内では、5〜8員の飽和ヘテロシクリルは、好ましくは、環炭素原子、環窒素原子、環酸素原子、または環硫黄原子を介して結合された、一連のS、N、および/またはOから選ばれる3個までの同一もしくは異なるヘテロ原子を有するヘテロ環基である。好ましいのは、一連のS、N、および/またはOから選ばれる2個までの同一もしくは異なるヘテロ原子を有する5〜8員の飽和ヘテロシクリルである。例として、次のものが挙げられうる:アゼパニル、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホリニル、またはテトラヒドロフリル。好ましいのは、アゼパニル、ピロリジン−1−イル、ピロリジン−2−イル、ピロリジン−3−イル、ピロリジン−1−イル、ピペリジン−1−イル、ピペリジン−4−イル、ピペラジニル、モルホリニル、テトラヒドロフル−2−イル、またはテトラヒドロフル−3−イルである。
【0032】
たとえば好ましくは、使用される式(II)で示される化合物は、無置換型フェノキシピリジン類、4−[4−R−O]−ARYL−N、または4−[2−R−O]−ARYL−N、すなわち、特定的には4−[4−トリフルオロメトキシフェノキシ]ピリジン、4−[4−メチルフェノキシ]ピリジン、4−フェノキシピリジン、4−[4−メトキシフェノキシ]ピリジン、および/または4−[2−トリフルオロメトキシフェノキシ]ピリジンである。
【0033】
さらなるとくに好ましい実施形態では、式(I)で示される化合物は、4−[4−トリフルオロメトキシフェノキシ]ピペリジン、4−[4−メチルフェノキシ]ピペリジン、4−フェノキシピペリジン、4−[4−メトキシフェノキシ]ピペリジン、4−[2−トリフルオロメトキシフェノキシ]ピペリジン、4−[4−トリフルオロメトキシフェノキシ]−N−ピペリジニルアセトアミド、4−[4−メチルフェノキシ]−N−ピペリジニルアセトアミド、4−フェノキシ−N−ピペリジニルアセトアミド、4−[4−メトキシフェノキシ]−N−ピペリジニルアセトアミド、および/または4−[2−トリフルオロメトキシフェノキシ]−N−ピペリジニルアセトアミドである。
【0034】
本発明のさらなる好ましい実施形態では、−C(=O)(R)はアリール基である。
【0035】
本発明の範囲は、上記のおよびこれより以下の一般的にもしくは好ましい範囲内で指定された基の定義、パラメーター、および具体例をすべて、互いに任意の組合せで、すなわち、特定の範囲と好ましい範囲との組合せについても任意の組合せで、包含する。
【0036】
本発明の目的に使用しうる溶媒は、有機極性溶媒、脂肪族もしくは脂環式のケトン、エーテル、エステル、無水物、カルボン酸、アルコール、および/または水である。本発明に係る方法の好ましい一実施形態では、有機極性溶媒は、脂肪族もしくは脂環式のケトン、エーテル、無水物、エステル、および/またはモノカルボン酸、ジカルボン酸、もしくはトリカルボン酸である。
【0037】
有機極性溶媒は、とくに好ましくは、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、n−ブタン酸、t−ブタン酸、イソブタン酸、イソプロパン酸、ペンタン酸、ブタン二酸、シュウ酸、クエン酸、ピロリジン−2−カルボン酸、またはこれらの酸の混合物である。
【0038】
有機極性溶媒は、なかでもとくに好ましくは、ギ酸、酢酸、もしくはプロピオン酸、またはこれらの酸の混合物である。
【0039】
本発明のさらなる好ましい実施形態では、遷移金属触媒の遷移金属は、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、白金、またはパラジウム、およびそれらの塩、とくに好ましくは、ロジウム、ルテニウム、白金、またはパラジウム、およびそれらの塩である。
【0040】
本発明に係る方法の他の実施形態では、遷移金属は、好ましくは、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、沸石、または炭素よりなる群から選択される担体上に位置する。担体は、なかでもとくに好ましくは、活性炭または二酸化チタンである。
【0041】
遷移金属触媒が無機担持触媒である場合、Ru−二酸化チタン、Ru−二酸化ケイ素、Ru−二酸化アルミニウム、Ru−炭素、Pd−炭素、Pd−二酸化チタン、Pd−二酸化ケイ素、Pd−二酸化アルミニウム、Rh−二酸化チタン、Rh−二酸化ケイ素、Rh−炭素、Ir−炭素、Ir−二酸化チタン、Pt−炭素、Pt−二酸化チタン、Pt−酸化アルミニウム、および/またはPt−二酸化ケイ素が好ましい。なかでもとくに好ましい遷移金属触媒は、Pd−炭素、Pd−二酸化チタン、Pd−二酸化ケイ素、Pd−二酸化アルミニウム、Pt−炭素、Rh−炭素、およびRu−炭素であり、Pd−活性炭またはPt−活性炭は、なかでもとくに好ましく使用される。
【0042】
遷移金属触媒は、たとえば巨視的な固体としてまたは粒子として、たとえばコロイド溶液の形態で使用可能である。たとえば好ましくは、遷移金属触媒は、1〜90%、とくに好ましくは20〜80%、よりとくに好ましくは40〜60%の水含有率を有する。
【0043】
使用される担持遷移金属触媒または非担持遷移金属触媒は、標準的市販品である。
【0044】
本発明に係る方法では、たとえば元素の形態で水素を反応混合物中に導入することが可能である。しかしながら、たとえば、ヒドラジン、過酸化水素、リチウムアラネート、または水素化ホウ素ナトリウムのような他の水素源から水素を原位置(in situ)で生成することも可能である。好ましくは、反応混合物の外部で水素を発生させてそれを導入する。
【0045】
式(II)で示される化合物の多くは、市販されている。式(II)で示される化合物の調製は、先行技術から公知である類似の方法に従って実施可能であり、平均的な当業者でに公知である。
【0046】
しかしながら、たとえば好ましくは、式(III)
(ARYL−N)−Y (III)
〔式中、ARYL−Nは、上記の意味を有し、かつYは、臭素、塩素、ヨウ素、または擬ハロゲンである〕
で示される化合物を、式(IV)
[R−O]Cat (IV)
〔式中、Catは、何れか所望の一荷電カチオンまたは1/n当量のn価のカチオンであり、かつRは、上記の意味を有する〕
で示される化合物と反応させるようにして、式(II)で示される化合物の調製を行うことも可能である。
【0047】
式(IV)で示される化合物の例は、ナトリウム[2−トリフルオロメトキシフェノラート、ナトリウムトリフルオロメチルフェノラート、ナトリウム4−トリフルオロメトキシフェノラート、およびカリウム4−トリフルオロメチルフェノラートである。
【0048】
本発明の文脈の範囲内では、擬ハロゲンとは、ハロゲンの化学的性質にきわめて類似した化学的性質を有する基を意味する。これらは、たとえば、スルホネートおよびハロスルホネート、たとえば、トシレート、トリフレート、メシレート、およびノナフルオロブチルスルホネートなどであり、しかしまた、チオシアネートおよびアジドである{ここで、ハロゲンは、上記の意味を有する}。
【0049】
本発明の一実施形態では、遷移金属触媒中の遷移金属の濃度は、使用される式(II)で示される化合物の質量を基準にして0.01〜10重量%である。好ましくは、濃度は1〜7重量%である。とくに好ましくは2〜5重量%である。
【0050】
使用される遷移金属触媒の量は、遷移金属の量が式(II)で示される化合物を基準にして0.0001〜95mol%、好ましくは0.001〜10mol%、とくに好ましくは0.002〜1mol%になるように選択可能である。
【0051】
たとえば好ましくは、反応混合物中の式(II)で示される化合物と有機極性溶媒との定量比は、1:2〜1:1000である。好ましくは、定量比は1:5〜1:80である。とくに好ましくは、1:10〜1:40である。
【0052】
反応温度は、好ましくは20℃〜200℃、とくに好ましくは50℃〜150℃、よりとくに好ましくは70℃〜100℃である。
【0053】
反応は、好ましくは1〜200bar、とくに好ましくは20〜80bar、よりとくに好ましくは30〜50barの圧力で行われる。
【0054】
本発明の一実施形態では、第一に、式(II)で示される化合物を有機極性溶媒に接触させ、次に、遷移金属触媒を添加する。遷移金属触媒を反応混合物に即時的に添加することもまた同様に可能である。
【0055】
好ましくは、オートクレーブ中で反応を行う。さらに、不活性条件下で行うことが好ましい。例えばアルゴンや窒素などのような不活性ガスを連続的もしくは非連続的に反応混合物中に通すことにより、不活性雰囲気化を行うことが可能である。この場合、次に、水素を注入して、たとえば一定圧力になるまで混合物を水素化する。しかしながら、より早期に反応を終了させることにより、部分水素化生成物を製造するもまた同様に可能である。
【0056】
とくに好ましい実施形態では、式(II)で示される化合物を、溶媒、特にモノカルボン酸、ジカルボン酸、またはトリカルボン酸に接触させる。その後、遷移金属触媒を添加し、オートクレーブまたは反応混合物を不活性にし、反応混合物を加熱し、そして最終段階でのみ水素を注入して一定圧力になるまで混合物を水素化する。
【0057】
本発明に係る方式では、非常に短時間ですなわち非常に経済的に、高収率で、工業プロセスで、式(I)で示される化合物を調製することが可能である。それ自体公知の方式で、たとえば、公知の溶媒たとえば水酸化ナトリウム溶液やトルエンなどで抽出することにより、後処理を行うことが可能である。
【0058】
本発明に従って調製された式(I)で示される化合物は、とくに、たとえば医薬および農薬を製造するための中間体として好適である。
【0059】
以下の実施例は、これらに制限することなく本発明の例示の役割を果たす。
【実施例】
【0060】
1. 4−[4−トリフルオロメトキシフェノキシ]ピペリジンの調製
70gの4−(4−トリフルオロメトキシフェノキシ)ピリジン(0.27mol)を362gの酢酸(6.03mol)に溶解し、最初にオートクレーブ中に導入した。3.5gの水分50%の10%濃度パラジウム担持活性炭触媒(使用した4−(4−トリフルオロメトキシフェノキシ)ピリジンのグラム単位の質量を基準にして2.5重量%)を添加し、そしてオートクレーブを不活性雰囲気にした。反応混合物を90℃に加熱し、次に、水素を40barまで注入し、そして一定圧力になるまで混合物を水素化した。反応混合物を冷却し、オートクレーブを減圧し、そして反応混合物を取り出した。キーゼルグール(Celite(登録商標))を用いて触媒を濾過し、そして減圧下で溶媒を除去した。粗生成物をトルエンに溶解し、水酸化ナトリウム溶液で抽出し、相を分離させ、そして有機相を減圧下で蒸発乾固させた。
【0061】
これにより69.8%の収率で50gの4−[4−トリフルオロメトキシフェノキシ]ピペリジン(0.19mol)を得た。
【0062】
2. 4−[4−メトキシフェノキシ]−N−ピペリジニルアセトアミドの調製
20gの4−(4−メトキシフェノキシ)ピリジン(99mmol)を400gの酢酸(6.66mol)に溶解し、最初にオートクレーブ中に導入した。1.6gの水分50%の10%濃度パラジウム担持活性炭触媒(使用した4−(4−メトキシフェノキシ)ピリジンのグラム単位の質量を基準にして4重量%)を添加し、そしてオートクレーブを不活性雰囲気にした。反応混合物を90℃に加熱し、次に、水素を40barまで注入し、そして一定圧力になるまで反応混合物を水素化した。反応混合物を冷却し、オートクレーブを減圧し、そして反応混合物を取り出した。溶液を触媒から濾別し、そして溶媒を減圧下で除去した。粗生成物をトルエンに溶解し、水酸化ナトリウム溶液で抽出し、相を分離させ、そして有機相を減圧下で蒸発乾固させた。
【0063】
これにより80%の収率で19.8gの4−[4−メトキシフェノキシ]−N−ピペリジニルアセトアミド(79mmol)を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
[R−O]−CYCLYL−N−R (I)
で示される化合物を調製するための方法であって、
式(II)
[R−O]−ARYL−N (II)
で示される化合物
(式中、CYCLYL−Nは、環炭素原子を介してR−O基の酸素原子に結合された、2個までの窒素原子を有する任意選択的に置換される5〜8員の環状の飽和もしくは部分不飽和の非芳香族のN−ヘテロ環式基であり、かつARYL−Nは、芳香族基の環炭素原子を介してR−O基の酸素原子に結合された、2個までの窒素原子を有する任意選択的に置換されるN−ヘテロ環式の5〜8員の芳香族基であり、かつRは、任意選択的に置換されるC〜C20−アリールであり、かつ
は、CYCLYL−Nの窒素原子に結合されかつ水素または−C(=O)(R)であり、かつRは、C〜C15−アルキル、C〜C−アルキルチオ、C〜C−アルコキシ、C〜C24−アリール、C〜C26−アリールアルキル、C〜C−ハロアルキル、C〜C−ハロアルコキシ、C〜C−ハロアルキルチオ{ここで、ハロゲン=F、Cl、Br}、5〜8員の飽和ヘテロ環{ここで、ヘテロ=(酸素、硫黄、もしくは窒素)}、水素、またはC〜C−モノアルキルアミノもしくはC〜C16−ジアルキルアミノであり、これらは任意選択的にさらに置換されていてもよい)
を、少なくとも1種の遷移金属触媒、少なくとも1種の有機極性溶媒、および水素の存在下で反応させることを特徴とする方法。
【請求項2】
が、C〜C20−アリール基、および/または任意選択的に置換される(C〜C)−アルキル、(C〜C)−アルコキシ、(C〜C)−ペルフルオロアルキル、(C〜C)−ペルクロロアルキル、(C〜C)−ペルフルオロアルコキシおよび/または(C〜C)−ペルクロロアルコキシ基であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ARYL−Nが、ピリジル、ピリミジニル、イミダゾリル、および/またはピリダジニルであり、これらが、(C〜C)−アルキル、(C〜C)−アルコキシ、(C〜C)−ペルフルオロアルキル、(C〜C)−ペルクロロアルキル、(C〜C)−ペルフルオロアルコキシおよび/または(C〜C)−ペルクロロアルコキシ基により任意選択的に置換されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記有機極性溶媒が、脂肪族もしくは脂環式のケトン、エーテル、無水物、エステルおよび/またはカルボン酸であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記有機極性溶媒が、メタン酸、エタン酸、プロパン酸、n−ブタン酸、t−ブタン酸、イソブタン酸、イソプロパン酸、ペンタン酸、ブタン二酸、シュウ酸、クエン酸および/またはピロリジン−2−カルボン酸であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記遷移金属触媒の遷移金属が、ロジウム、ルテニウム、白金および/またはパラジウムであることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記遷移金属触媒が、Ru−二酸化チタン、Ru−二酸化ケイ素、Ru−二酸化アルミニウム、Ru−炭素、Pd−炭素、Pd−活性炭、Pd−二酸化チタン、Pd−二酸化ケイ素、Pd−二酸化アルミニウム、Rh−二酸化チタン、Rh−二酸化ケイ素、Rh−炭素、Ir−炭素、Ir−二酸化チタン、Pt−炭素、Pt−二酸化チタン、Pt−酸化アルミニウムおよび/またはPt−二酸化ケイ素であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記遷移金属が、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、沸石、および/または炭素よりなる担体上に位置することを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記式(I)で示される化合物が、4−[4−トリフルオロメトキシフェノキシ]ピペリジン、4−[4−メチルフェノキシ]ピペリジン、4−フェノキシピペリジン、4−[4−メトキシフェノキシ]ピペリジン、4−[2−トリフルオロメトキシフェノキシ]ピペリジン、4−[4−トリフルオロメトキシフェノキシ]−N−ピペリジニルアセトアミド、4−[4−メチルフェノキシ]−N−ピペリジニルアセトアミド、4−フェノキシ−N−ピペリジニルアセトアミド、4−[4−メトキシフェノキシ]−N−ピペリジニルアセトアミドおよび4−[2−トリフルオロメトキシフェノキシ]−N−ピペリジニルアセトアミドであることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記水素が原位置(in situ)で生成されることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
反応温度が20℃〜200℃であることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
反応圧力が1〜200barであることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記遷移金属の量が、前記式(II)で示される化合物を基準にして0.001〜95mol%であることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記式(II)で示される化合物と前記有機極性溶媒との定量比が1:5〜1:80であることを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
医薬および農薬を生成するための中間体としての前記式(I)で示される化合物の使用。

【公開番号】特開2010−132645(P2010−132645A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−244835(P2009−244835)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【出願人】(506207853)サルティゴ・ゲーエムベーハー (35)
【Fターム(参考)】