説明

(R)−及び(S)−3−アミノ−1−ブタノールのエナンチオマー混合物の分離

本発明は場合によって酸素原子が保護された(R)-及び(S)-3-アミノ-1-ブタノールのエナンチオマー混合物を分離する方法、及び、場合によって酸素原子上に保護基を有する本質的にエナンチオマー的に純粋な(R)-3-アミノ-1-ブタノールを調製する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、場合によって酸素原子が保護された(R)-及び(S)-3-アミノ-1-ブタノールのエナンチオマー混合物の分離方法、及び、場合によって酸素原子上に保護基を有する、本質的にエナンチオマー的に純粋な(R)-3-アミノ-1-ブタノールを調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性化合物は特に医薬産業の分野で非常に重要であるが、多くの場合1つの光学活性異性体のみが治療的に活性である。従って、活性成分のエナンチオ選択的な合成のための反応物としての光学活性化合物の需要が絶えず増加している。AIDSの症状の治療薬の合成のためのこれらの重要な化合物の1つは、光学活性3-アミノ-1-ブタノール、特にその(R)-エナンチオマーである。
【0003】
酸素原子がベンジル保護されたラセミ3-アミノ-1-ブタノールを酵素触媒による選択的N-アシル化、その後の加水分解のルートを介してそのエナンチオマーへ分割する本出願人の試みは、望ましい(R)-エナンチオマーを十分なエナンチオマー純度でもたらしたが、複雑かつ多数の製造工程を経由し、全収率が十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第01/38292号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、簡潔な数工程で、かつ十分な収率で行うことができる、本質的にエナンチオマー的に純粋な(S)-、及び、特に(R)-3-アミノ-1-ブタノールを調製するためのより効率的な方法を提供することであった。より具体的には、その方法は少なくとも98%ee、好ましくは少なくとも99%ee、さらに好ましくは少なくとも99.5%ee、さらに好ましくは少なくとも99.6%ee、特に少なくとも99.8%eeのエナンチオマー純度での(R)-3-アミノ-1-ブタノールの調製を可能にするべきである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
驚くべきことに、本質的にエナンチオマー的に純粋なマンデル酸、すなわち(S)-又は(R)-マンデル酸の使用により、(R)-3-アミノ-1-ブタノール、及び、所望の場合には(S)-3-アミノ-1-ブタノール、さらに酸素原子が保護された対応する化合物を、高いエナンチオマー純度、さらに十分な収率で提供することが可能となることが見出された。
【0007】
従って、本発明は、以下の工程:
(i)式I-R及びI-S
【化1】

【0008】
(式中、R1は水素又は保護基である)の化合物のエナンチオマー混合物を(S)-又は(R)-マンデル酸及び使用されるこの(S)-又は(R)-マンデル酸と異なる酸と反応させる工程;
(ii)工程(i)で形成した式I-Rの化合物の(S)-又は(R)-マンデル酸塩を取り除き、単離する工程;
(iii)場合によって、工程(ii)で単離した式I-Rの化合物の(S)-又は(R)-マンデル酸塩を精製する工程;
(iv)式I-Rの化合物をその(S)-又は(R)-マンデル酸塩から遊離させ、所望の場合には、式I-R(式中、R1は水素ではない)の化合物を脱保護して(R)-3-アミノ-1-ブタノールを得る工程;
(v)所望の場合には、(濃縮された)式I-Sの化合物を遊離させ、所望の場合には、式I-S(式中、R1は水素ではない)の化合物を脱保護して(濃縮された)(S)-3-アミノ-1-ブタノールを得る工程を含む、場合によって酸素原子が保護された(R)-及び(S)-3-アミノ-1-ブタノールのエナンチオマー混合物を分離する方法を提供する。
【0009】
さらに、本発明は、以下の工程:
(i)式I-R及びI-S
【化2】

【0010】
(式中、R1は水素又は保護基である)の化合物のエナンチオマー混合物を(S)-又は(R)-マンデル酸及び使用されるこの(S)-又は(R)-マンデル酸と異なる酸と反応させる工程;
(ii)工程(i)で形成した式I-Rの化合物の(S)-又は(R)-マンデル酸塩を取り除き、単離する工程;
(iii)場合によって、工程(ii)で単離した式I-Rの化合物の(S)-又は(R)-マンデル酸塩を精製する工程;
(iv)式I-Rの化合物をその(S)-又は(R)-マンデル酸塩から遊離させ、所望の場合には、式I-R(式中、R1は水素ではない)の化合物を脱保護して(R)-3-アミノ-1-ブタノールを得る工程;
を含む、場合によって酸素原子上に保護基を有する、本質的にエナンチオマー的に純粋な(R)-3-アミノ-1-ブタノールを調製する方法も提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
「酸素原子上に保護基を有する(R)-及び(S)-3-アミノ-1-ブタノール」の語句は、R1がHではない化合物I-R及びI-Sをそれぞれ示す。
【0012】
本発明において、「C1-C3-アルキル」は1〜3個の炭素原子を有するアルキル基、すなわち、メチル、エチル、プロピル又はイソプロピルを示す。
【0013】
「C1-C4-アルキル」は1〜4個の炭素原子を有するアルキル基、すなわち、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル又はtert-ブチルを示す。
【0014】
「C1-C3-アルコキシ」は酸素原子を介して結合するC1-C3-アルキル基を示す。その例は、メトキシ、エトキシ、プロポキシ及びイソプロポキシである。
【0015】
「C1-C3-アルコキシ-C1-C3-アルキル」は、1個の水素原子がC1-C3-アルコキシ基により置換されているC1-C3-アルキル基を示す。その例はメトキシメチル、1-及び2-メトキシエチル、1-、2-及び3-メトキシプロピル、1-及び2-メトキシプロパ-2-イル、エトキシメチル、1-及び2-エトキシエチル、1-、2-及び3-エトキシプロピル、1-及び2-エトキシプロパ-2-イル、プロポキシメチル、1-及び2-プロポキシエチル、1-、2-及び3-プロポキシプロピル、1-及び2-プロポキシプロパ-2-イル等である。
【0016】
以下の本発明による方法、反応物、反応条件及び生成物の好ましい形態に関する言及は、単独で、又は、特に、互いに組み合わせて適用される。
【0017】
言及は重複する場合本発明による両方の方法に適用される。
【0018】
本発明において、本質的にエナンチオマー的に純粋な化合物、特に本質的にエナンチオマー的に純粋な(R)-3-アミノ-1-ブタノールは、それらが少なくとも95%ee、好ましくは少なくとも96%ee、さらに好ましくは少なくとも98%ee、さらに好ましくは少なくとも99%ee、さらに特に好ましくは少なくとも99.5%ee、特に少なくとも99.6%ee、特に少なくとも99.8%eeのエナンチオマー純度で存在することを意味すると理解されるべきである。
【0019】
「(R)-マンデル酸」は本質的にエナンチオマー的に純粋な(R)-マンデル酸、すなわち、少なくとも95%ee、好ましくは少なくとも96%ee、さらに好ましくは少なくとも98%ee、さらに好ましくは少なくとも99%ee、さらに特に好ましくは少なくとも99.5%ee、特に少なくとも99.6%eeのエナンチオマー純度の(R)-マンデル酸を意味する。
【0020】
対応して、「(S)-マンデル酸」は本質的にエナンチオマー的に(S)-マンデル酸、すなわち、少なくとも95%ee、好ましくは少なくとも96%ee、さらに好ましくは少なくとも98%ee、さらに好ましくは少なくとも99%ee、さらに特に好ましくは少なくとも99.5%ee、特に少なくとも99.6%eeのエナンチオマー純度の(S)-マンデル酸を意味する。
【0021】
単位「%ee」はエナンチオマー過剰率に関し、従って、エナンチオマー純度(光学純度とも呼ばれる)の基準である。これは、エナンチオマー混合物中の2つのエナンチオマーのモル割合の差から計算される。例えば、95%eeはエナンチオマー混合物中の主のエナンチオマーの割合が97.5%であり、その鏡像化合物の割合が2.5%であることを意味する。
【0022】
化合物I-R及びI-Sは、それぞれ、場合によって酸素原子が保護された(「O-保護」)(R)及び(S)-3-アミノ-1-ブタノールである。
【0023】
工程(i)で使用されるエナンチオマー混合物において、化合物I-R及びI-S中のR1はいずれの場合にも同一の定義を有する。
【0024】
工程(i)で、使用されるエナンチオマー混合物は化合物I-R及びI-Sのラセミ化合物であってもよく、エナンチオマーの1つが豊富である混合物も同様に好適である。しかし、場合によってO-保護された3-アミノ-1-ブタノールの通常の合成はそのラセミ化合物をもたらすので、化合物I-R及びI-Sのラセミ化合物が、多くの場合、工程(i)で使用される。
【0025】
好適な保護基(すなわち、好適なR1(ここで、R1は水素ではない)の定義)は、例えば、C1-C4-アルキル、アリル、プロパルギル、C1-C3-アルコキシ-C1-C3-アルキル、及び、場合によって置換されたベンジル、例えば、ベンジル、メチルベンジル、例えば、2-、3-若しくは4-メチルベンジル又はメトキシベンジル、例えば、2-、3-若しくは4-メトキシベンジルである。これらの中で、好ましいのはC1-C4-アルキル(すなわち、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル若しくはtert-ブチル)及び、場合によって置換されたベンジル、例えば、ベンジル、メチルベンジル、例えば2-、3-若しくは4-メチルベンジル又はメトキシベンジル、例えば 2-、3-若しくは4-メトキシベンジルである。
【0026】
従って、R1は好ましくは水素、C1-C4-アルキル又は場合によって置換されたベンジル、例えば、ベンジル、メチルベンジル、例えば2-、3-若しくは4-メチルベンジル又はメトキシベンジル、例えば2-、3-若しくは4-メトキシベンジル、さらに好ましくは水素、C1-C4-アルキル又はベンジル、さらに好ましくは水素、tert-ブチル又はベンジルである。しかし、さらに具体的には、R1は水素である;すなわち、本発明による方法の工程(i)において、特に、(R)-及び(S)-3-アミノ-1-ブタノールのエナンチオマー混合物が使用される。
【0027】
工程(i)では、(S)-又は(R)-マンデル酸が使用される。マンデル酸のエナンチオマーは、好ましくは、化合物I-Rと、使用される反応媒体中で、工程(i)で理論的に可能な塩の最も低い溶解度積を有する塩を形成するように選択される(特に、化合物I-Rと反対のマンデル酸対掌体との塩、さらに、当然、化合物I-Sと選択されたマンデル酸対掌体との塩よりも低い溶解度積を有する)。以下で特定される好ましい溶媒の選択について、好ましいのは、化合物I-R及びI-S中のR1が水素又は場合によって置換されたベンジルである場合、(S)-マンデル酸を使用することである。一方、R1がC1-C4-アルキル、特にtert-ブチルである場合、工程(i)で(R)-マンデル酸を使用することが好ましい。
【0028】
工程(i)で使用される(S)-又は(R)-マンデル酸は、好ましくは工程(i)で使用されるエナンチオマー混合物中に存在する化合物I-Rの1molに対して、0.8〜1.5mol、さらに好ましくは0.8〜1.2mol、さらに好ましくは0.9〜1.1mol、さらに特に好ましくは1〜1.1mol、例えば1〜1.05molの量で使用される。特に、(S)-又は(R)-マンデル酸はエナンチオマー混合物中に存在する化合物I-Rの量に対して、約等モル量で使用される。「約等モル」は、例えば残部の測定の不正確さ、及び/又は反応物の純度に起因する許容誤差も「等モル」の語に含まれることを示す目的である。
【0029】
工程(i)で使用されるエナンチオマー混合物が化合物I-R及びI-Sのラセミ化合物である場合、(S)-又は(R)-マンデル酸はラセミ化合物の1molに対して、好ましくは0.4〜0.75mol、さらに好ましくは0.4〜0.6mol、さらに好ましくは0.45〜0.55mol、さらに特に好ましくは0.5〜0.55mol、例えば0.5〜0.525molの量で使用される。さらに具体的には、(S)-又は(R)-マンデル酸はラセミ化合物の1molに対して約0.5molの量で使用される。用語「約」に関し、前記の「約等モル」についての記載を変更すべきところは変更して参照する。
【0030】
工程(i)で使用される(S)-又は(R)-マンデル酸と異なる酸は、好ましくは工程(i)で使用されるエナンチオマー混合物中に存在する化合物I-Sの1molに対して0.8〜1.5mol、さらに好ましくは0.8〜1.2mol、さらに好ましくは0.9〜1.1mol、さらに特に好ましくは1〜1.1mol、例えば1〜1.05molの量で使用される。さらに具体的には、この酸はエナンチオマー混合物中に存在する化合物I-Sの量に対して約等モル量で使用される。用語「約等モル」に関し、前記の記載を参照する。酸の量に関する前記の記載は一塩基酸に基づく;第二、第三の水素原子が反応物質のアミノ基をプロトン化できる程に酸強度が十分に大きい二又は三塩基酸の場合、2又は3倍減少した量を対応して適用する。
【0031】
工程(i)で使用されるエナンチオマー混合物が化合物I-R及びI-Sのラセミ化合物である場合、(S)-又は(R)-マンデル酸と異なる酸はラセミ化合物1molに対して0.4〜0.75mol、さらに好ましくは0.4〜0.6mol、さらに好ましくは0.45〜0.55mol、さらに特に好ましくは0.5〜0.55mol、例えば0.5〜0.525molの量で使用される。さらに具体的には、この酸はラセミ化合物1molに対して約0.5molの量で使用される。用語「約」に関し、「約等モル」についての前記の記載を変更すべきところは変更して参照する。同様に、二又は三塩基酸の場合についても、前記の記載を参照する。
【0032】
(S)-又は(R)-マンデル酸と異なる酸の選択はいかなる特定の要件にも依存しない。しかし、化合物I-Rと使用される(S)-又は(R)-マンデル酸との塩形成に不利な影響を与えるべきではない。この酸は、工程(i)の反応媒体中で、化合物I-Rと、使用される(S)-又は(R)-マンデル酸と化合物I-Rとの塩よりも低い溶解度積を有する酸付加塩を形成するべきではない。また、酸は酸化的に作用するべきではない。さらに、少なくとも工程(i)の反応媒体中に一部溶解するべきであり、当然、工程(i)の反応条件下で化合物I-Sのプロトン化が可能な程十分に高いpKaを有するべきである。さらに、化合物I-Sと、工程(i)の反応条件下で非常に優れた溶解度を有する塩を形成するべきである。その酸はキラルである必要はない。アキラル酸は少なくとも、本質的にエナンチオマー的に純粋な(R)-3-アミノ-1-ブタノールを調製するための本発明による方法には完全に十分であり、コストと入手可能性の点で好ましい。しかし、キラル酸は完全に好適である。例えば、工程(i)で使用される(S)-又は(R)-マンデル酸の反対のエナンチオマーを使用することができる。化合物I-R及びI-Sのラセミ化合物が工程(i)で使用される場合、例えば、工程(i)全体においてラセミマンデル酸を使用することができる。例えば、本質的にエナンチオマー的に純粋なI-Sも得るべき場合、キラル酸の使用が可能である。
【0033】
使用される酸は好ましくは一塩基酸である。
【0034】
好適なアキラル酸は、例えば無機酸、例えば塩化水素(気体)、塩酸、臭化水素酸若しくは硫酸、又は有機酸、例えば、好ましくは1〜6個の炭素原子を有する脂肪族モノカルボン酸(例えばギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、イソ吉草酸及びカプロン酸)、芳香族カルボン酸(例えば安息香酸)、スルホン酸(例えばメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸若しくはトルエンスルホン酸)である。同様に好適なのは前記の酸の混合物である。これらの中で、好ましいのは1〜3個の炭素原子を有する脂肪族モノカルボン酸、例えばギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸及びプロピオン酸並びにその混合物である。さらに具体的には、酢酸が使用される。
【0035】
工程(i)は好ましくは好適な溶媒中で行われる。好適な溶媒は、好ましくは反応物質が溶解するが、少なくとも特定の温度範囲内で、使用される(S)-又は(R)-マンデル酸と化合物I-Rの塩は不溶性であるか、又は優れた溶解性を有さず、化合物I-Sの酸付加塩が同じ温度範囲内で十分に溶解性である溶媒である。特に好適な溶媒はC1-C4-アルコール、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、イソブタノール及びtert-ブタノール並びにその混合物であることが見出されており、該アルコールは、場合によって、C1-C4アルコールと水の全重量に対して0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜10重量%、さらに好ましくは0.1〜5重量%、さらに好ましくは0.1〜1重量%、特に0.1〜0.5重量%の水を含む。
【0036】
R1がHである場合、アルコールが、C1-C4-アルコールと水の全重量に対して0.05〜10重量%、さらに好ましくは0.1〜10重量%、さらに好ましくは0.1〜5重量%、さらに特に好ましくは0.1〜1重量%、特に0.1〜0.5重量%、特に0.2〜0.5重量%の水を含むことが好ましい。
【0037】
特に好ましい溶媒はイソプロパノールであり、イソプロパノールと水の全重量に対して0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜10重量%の水、さらに好ましくは0.1〜5重量%、さらに好ましくは0.1〜1重量%、特に0.1〜0.5重量%、特に0.2〜0.5重量%の水を含んでいてもよい。
【0038】
R1がHである場合、特に好ましい溶媒はイソプロパノールであり、イソプロパノールと水の全重量に対して0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜10重量%の水、さらに好ましくは0.1〜5重量%、さらに好ましくは0.1〜1重量%、特に0.1〜0.5重量%、特に0.2〜0.5重量%の水を含む。
【0039】
R1が水素ではない場合、アルコールは本質的に無水である(すなわち、アルコールと水の全重量に対して0.05重量%未満の水を含む)ことができる。
【0040】
工程(i)は、例えば、エナンチオマー混合物を最初に好適な溶媒に入れ、(S)-又は(R)-マンデル酸と、それらと異なる酸を同時に又は連続的に、一度に、分けて又は継続的に混ぜる方法で行われる。2つの酸を連続的に加える場合、添加の順序(すなわち、(S)-又は(R)-マンデル酸を最初に、その後、それらと異なる酸を加えるか、或いは逆の場合か)は重要ではない。しかし、好ましくは2つの酸を一度に加えず、継続的に又は分けて加える。好ましくは、エナンチオマー混合物を最初に室温で入れる。しかし、酸の添加前に最初の分量を、例えば25℃〜最大で溶媒の沸点の温度まで加熱することもできるが、しかし、塩形成が発熱である場合、反応制御を複雑にし得る。従って、好ましくはエナンチオマー混合物を室温で最初に入れる。
【0041】
エナンチオマー混合物と、(S)-又は(R)-マンデル酸とそれらと異なる酸の混合により、化合物I-R及びI-Sの酸付加塩が形成する。前記の好ましい溶媒を選択する場合、化合物I-Rの(S)-又は(R)-マンデル酸塩、及び、場合によって化合物I-Sの酸付加塩は室温で不溶であるか、又は少なくとも溶解性が不十分であり、従って、その形成の過程で沈殿する。従って、望ましい化合物I-Rの(S)-又は(R)-マンデル酸塩を取り除き、沈殿物から単離しなければならない。
【0042】
前記の好ましい溶媒の選択について、化合物I-Rの(S)-又は(R)-マンデル酸塩は、好ましくはそれを沈殿させ、沈殿物を単離することにより、取り除かれ、単離される。前記のように、化合物I-R及びI-Sの酸付加塩は、一般に、前記の好ましい溶媒に室温で(すなわち、工程(i)の好ましい温度で)不溶であるか、又は溶解性が不十分であるので、好ましくは30℃〜最大で混合物の沸点まで、さらに好ましくは50℃〜最大で混合物の沸点まで、特に最大で混合物の沸点までの温度に加熱することにより、最初に溶液にする。その後、溶液を冷却する。異なる溶解度積を有する異なる酸付加塩が、同時ではなく連続的に沈殿するように冷却を急激に行ってはいけない。冷却の過程で、使用される溶媒中で最も低い溶解度積を有する酸付加塩が最初に沈殿する。これは、一般に、少なくとも前記の好ましい使用される(S)-又は(R)-マンデル酸と異なる酸及び前記の好ましい溶媒が選択される場合、化合物I-Rの(S)-又は(R)-マンデル酸塩である。その後、これは混合物から単離される。単離は公知の方法、例えば、濾過、沈殿又は遠心分離によって達成することができる。それにも関わらず、化合物I-Sの酸付加塩が最初に沈殿する場合、それを十分に完全に単離し、その後、化合物I-Rの(S)-又は(R)-マンデル酸塩が沈殿するまで溶液をさらに冷却し、その後、単離する。前記の好ましい溶媒S及び前記の好ましい酸が選択される場合、当然、好ましい溶媒中の、化合物I-Sとのその酸付加塩の溶解度積が、化合物I-Rの(S)-又は(R)-マンデル酸塩の溶解度積よりも高くなるように選択されるが、化合物I-Rの(S)-又は(R)-マンデル酸塩が最初に沈殿する。
【0043】
好ましい実施形態において、工程(ii)で単離された化合物I-Rの(S)-又は(R)-マンデル酸塩は、その後、一度以上、例えば一度、二度又は三度精製される。
【0044】
精製は好ましくは一度又は繰り返して、例えば一度、二度又は三度の再結晶により達成される。再結晶に好適な溶媒は前記C1-C4-アルコール及びその混合物、並びにその水との混合物、例えばアルコールと水の全重量に対して0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%、さらに好ましくは1〜5重量%、特に1〜3重量%の水との混合物である。同様に再結晶に好ましいアルコールはイソプロパノール及びその水との混合物、例えば、イソプロパノールと水の全重量に対して0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%、さらに好ましくは1〜5重量%、特に1〜3重量%の水との混合物である。再結晶を二度以上行う場合、異なる溶媒又は溶媒混合物を別の再結晶工程に使用してもよい。例えば、一度はC1-C4-アルコール中で、好ましくはイソプロパノール中で、もう一度はアルコール-水混合物、好ましくはイソプロパノールと水の全重量に対して0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%、さらに好ましくは1〜5重量%、特に1〜3重量%の水とのイソプロパノール-水混合物中で再結晶することができる。
【0045】
化合物I-Rは、工程(iv)で、好ましくは工程(ii)又は(iii)で得られた化合物I-Rの(S)-又は(R)-マンデル酸塩を好適な溶媒中で塩基と反応させることにより、その(S)-又は(R)-マンデル酸塩から遊離される。
【0046】
一般に、塩基性水溶液、例えばNaOH水溶液又はKOH水溶液がこの目的で使用され、遊離アミンは蒸留により、又は有機溶媒、例えばジエチルエーテル又はメチルtert-ブチルエーテルへの抽出により単離される。しかし、(R)-3-アミノ-1-ブタノール(R1がHである化合物I-R)については、遊離(R)-3-アミノ-1-ブタノールは、第一に完全に水と混和性であり、有機溶媒による抽出は不可能であるか、或いは非常に不完全であり、かつ、第二に、(R)-3-アミノ-1-ブタノールの沸点は水よりも高く、残りの反応生成物と不純物から相当複雑に取り除かれ得るので、この方法はあまり好適ではない。
【0047】
特に、(R)-3-アミノ-1-ブタノールのマンデル酸塩(これは好ましくは(S)-マンデル酸塩である)について、溶媒は好ましくは、一方では、反応物(すなわち(R)-3-アミノ-1-ブタノールのマンデル酸塩と塩基)がその中に少なくとも一部溶解し、他方では、遊離される(R)-3-アミノ-1-ブタノールがそこから容易に取り除くことができるように選択される。「一部溶解する」は、少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも10重量%の使用される塩と使用される塩基が溶媒に溶解することを意味する。
【0048】
溶媒は好ましくは3-アミノ-1-ブタノールよりも、少なくとも10℃高い、好ましくは少なくとも20℃高い、さらに好ましくは少なくとも50℃高い、特に少なくとも80℃高い沸点を有するように選択される。
【0049】
上記の条件を満たす溶媒は、例えば、好ましくは最大でも50℃の融点と好ましくは少なくとも180℃、さらに好ましくは少なくとも200℃の沸点を有する有機アミン(本発明において、この用語はアミノアルコールも含む)、例えば、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール並びに高級ポリエチレングリコール、ニトロベンゼン並びにジメチルスルホキシドである。好ましい溶媒は、好ましくは最大でも50℃の融点と好ましくは少なくとも180℃、さらに好ましくは少なくとも200℃の沸点を有する有機アミン、例えば、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミンである。特にトリエタノールアミンが使用される。
【0050】
好ましい塩基は前記溶媒に少なくとも一部溶解し、(R)-3-アミノ-1-ブタノールをそのマンデル酸塩から遊離させるのに十分な塩基性を有する。従って、好ましい塩基は(R)-3-アミノ-1-ブタノールよりも高いpKaを有する。さらに、遊離反応で塩基から形成した生成物(例えばメトキシドを使用する場合、メタノール)は遊離した(R)-3-アミノ-1-ブタノールから容易に取り出すことができるべきである。好ましい塩基の例はアルカリ金属C1-C4-アルコキシド、例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、カリウムプロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムイソプロポキシド、ナトリウムn-ブトキシド、カリウムn-ブトキシド、ナトリウムtert-ブトキシド及びカリウムtert-ブトキシドである。特に好ましい塩基はアルカリ金属C1-C3-アルコキシド、例えばナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、カリウムプロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド及びカリウムイソプロポキシドである。さらに極めて好ましい塩基はアルカリ金属C1-C2-アルコキシド、例えばナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド及びカリウムエトキシドである。特にナトリウムメトキシド又はナトリウムエトキシド、特にナトリウムメトキシドが使用される。
【0051】
塩基は好ましくは(R)-3-アミノ-1-ブタノールのマンデル酸塩に対して少なくとも等モル量で、さらに好ましくは(R)-3-アミノ-1-ブタノールのマンデル酸塩の1molに対して1〜2mol、さらに好ましくは1〜1.5mol、さらに特に好ましくは1〜1.3mol、特に1〜1.1molの量で使用される。
【0052】
工程(iv)における手順は、好ましくは最初に酸付加塩を溶媒に入れ、場合によってそれを加熱し、それを塩基と混合することである。或いは、酸付加塩を最初に溶媒に入れ、塩基と混合し、それから場合によって加熱することもできる。加熱は好ましくは30〜100℃、さらに好ましくは50〜100℃、特に70〜90℃の温度で達成される。その後、遊離した(R)-3-アミノ-1-ブタノールを反応混合物から取りくが、これは好ましくは減圧下における(分別)蒸留により、好ましく達成される。
【0053】
さらに、この方法はR1がHではない化合物I-Rにも好適である;しかし、ここで、溶媒としての水と水溶性塩基、例えば水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを使用することもできる。R1がHではない化合物I-Rは本質的に水と非混和性であるので、例えば、同様に本質的に水と非混和性である有機溶媒への抽出、その後、有機溶媒を、例えば場合によっては減圧下における蒸留により取り除くことにより単離することができる。好適な有機溶媒は、例えば、脂肪族炭化水素、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン及びオクタン、シクロ脂肪族炭化水素、例えばシクロヘキサン及びシクロオクタン、クロロアルカン、例えばジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジ-及びトリクロロエタン、芳香族炭化水素、例えばベンゼン、トルエン及びキシレン、脂肪族エーテル、例えばジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチルイソブチルエーテル及びメチルtert-ブチルエーテル、並びにカルボン酸エステル、例えばエチルアセテート、プロピルアセテート、エチルプロピオネート及びプロピルプロピオネートである。これらの中で、好ましいのは前記の脂肪族エーテル、特にジエチルエーテルである。
【0054】
その後、化合物I-Rは、所望の場合、かつ、必要な場合、すなわちR1が水素ではない場合、(R)-3-アミノ-1-ブタノールへと脱保護される。
【0055】
この目的のために、特定の保護基について通常の脱保護反応を使用することができる。例えば、メチル保護基(R1=CH3)をHCl、HBr、HI、Si(CH3)3I又はBBr3との反応により除去することができる。高級アルキル基(R1=C2-C4-アルキル)は無水トリフルオロ酢酸又はHBrを用いて除去することができ、ベンジル保護基は水素化分解(hydrogenolytic)法により除去することができる。
【0056】
得られた(R)-3-アミノ-1-ブタノールは、最終的に、所望の場合には、さらに精製することができ、例えば、蒸留法又は抽出法により達成することができる。
【0057】
本発明の特に好ましい実施形態は、以下の工程:
(i)(R)-及び(S)-3-アミノ-1-ブタノールのエナンチオマー混合物を(S)-マンデル酸と(S)-マンデル酸と異なる酸と反応させる工程;
(ii)工程(i)で形成した(R)-3-アミノ-1-ブタノールの(S)-マンデル酸塩を取り除き、単離する工程;
(iii)場合によって、工程(ii)で単離した(R)-3-アミノ-1-ブタノールの(S)-マンデル酸塩を精製する工程;
(iv)(R)-3-アミノ-1-ブタノールをその(S)-マンデル酸塩から遊離させる工程;
(v)所望の場合には、(S)-3-アミノ-1-ブタノールを遊離させる工程、
を含む、(R)-及び(S)-3-アミノ-1-ブタノールのエナンチオマー混合物を分離する方法に関する。
【0058】
さらに、本発明の特に好ましい実施形態は、以下の工程:
(i)(R)-及び(S)-3-アミノ-1-ブタノールのエナンチオマー混合物を(S)-マンデル酸と(S)-マンデル酸と異なる酸と反応させる工程;
(ii)工程(i)で形成した(R)-3-アミノ-1-ブタノールの(S)-マンデル酸塩を取り除き、単離する工程;
(iii)場合によって、工程(ii)で単離した(R)-3-アミノ-1-ブタノールの(S)-マンデル酸塩を精製する工程;
(iv)(R)-3-アミノ-1-ブタノールをその(S)-マンデル酸塩から遊離させる工程、
を含む、本質的にエナンチオマー的に純粋な(R)-3-アミノ-1-ブタノールを調製する方法にも関する。
【0059】
(S)-マンデル酸と異なる好適かつ好ましい酸、工程(i)で使用される(S)-マンデル酸とそれらと異なる酸の量、個々の工程で使用される溶媒及び反応物(例えば塩基)、別の好適かつ好ましい反応条件並びに製造手段については前記の記載を参照する。
【0060】
本発明の具体的な実施形態は、以下の方法:
(a)(R)-及び(S)-3-アミノ-1-ブタノールのエナンチオマー混合物を、(S)-マンデル酸と酢酸と、イソプロパノールと水の全重量に対し0.1〜1重量%の水を含む、溶媒としてのイソプロパノール中で、(S)-マンデル酸をエナンチオマー混合物中に存在する(R)-3-アミノ-1-ブタノール1molに対し0.1〜1.1molの量で使用し、酢酸をエナンチオマー混合物中に存在する(S)-3-アミノ-1-ブタノール1molに対して0.1〜1.1molの量で使用して反応させる工程;
(b)工程(a)で得られた混合物を、工程(a)で形成し、沈殿した酸付加塩が溶解するまで加熱する工程;
(c)工程(b)で得られた溶液を沈殿物が形成するまで冷却する工程;
(d)工程(c)で形成した沈殿物を取り除き、単離する工程;
(e)工程(d)で単離した沈殿物を一度以上、イソプロパノール及び/又はイソプロパノールと水の全重量に対して0.1〜5重量%の水を含むイソプロパノール中で再結晶する工程;
(f)工程(e)で得られた(R)-3-アミノ-1-ブタノールの(S)-マンデル酸塩をアルカリ金属C1-C4-アルコキシド、好ましくはナトリウムメトキシド又はナトリウムエトキシド、特にナトリウムメトキシドと、最大で50℃の融点と少なくとも180℃の沸点を有する有機アミン、好ましくはジエタノールアミン、又は、特にトリエタノールアミン中で、50〜100℃の温度で反応させる工程;
(g)工程(f)で遊離した(R)-3-アミノ-1-ブタノールを蒸留して取り除く工程;
(h)場合によって、工程(g)で得られた(R)-3-アミノ-1-ブタノールをさらに精製する工程、
を含む(R)-3-アミノ-1-ブタノールを調製する方法に関する。
【0061】
工程(h)における精製は例えば、前記のように、蒸留又は抽出により達成できる。
【0062】
(S)-3-アミノ-1-ブタノールも本発明による方法により得ようとする場合、化合物I-Sの酸付加塩は工程(ii)で単離される。これは、例えば、既に前記のように、既に沈殿した化合物I-Rの(S)-又は(R)-マンデル酸塩が単離されている溶液を、化合物I-Sの酸付加塩も沈殿するまでさらに冷却することにより達成される。化合物I-Rの(S)-又は(R)-マンデル酸塩について前記のように、化合物I-Sの酸付加塩は例えば、濾過、沈殿又は遠心分離により単離でき、その後、例えば一度、又は、複数回の再結晶により、同様にさらに精製できる。化合物I-Sのその酸付加塩からの遊離及び濃縮された(S)-3-アミノ-1-ブタノールを与える可能な脱保護は、前記の(R)-3-アミノ-1-ブタノールを得る遊離及び可能な脱保護と同様にして達成することができる。
【0063】
(S)-3-アミノ-1-ブタノールを、特に高いエナンチオマー純度で得るため、工程(i)において、(S)-又は(R)-マンデル酸と異なる酸として、使用されるこのマンデル酸の鏡像体を使用することが好ましい。
【0064】
3-アミノ-1-ブタノールのラセミ化合物は市販されているか、或いは、公知の文献の方法により得ることができ、例えば、Chemical Abstracts 1949, 6199又はJ. Am. Chem. Soc. 1957, 79(14), 3839-3846に記載されている。
【0065】
(S)-及び(R)-マンデル酸は、同様に市販されている。
【0066】
O-保護された3-アミノ-1-ブタノールは、保護基を導入する通常の方法により、例えば、N-保護された3-アミノ-1-ブタノールとR1ハロゲン化物(R1はHではない)、例えば、ヨウ化メチル、tert-ブチルクロリド又はベンジルクロリドを反応させ、その後、N-保護基を除去することにより得られる。好適なN-保護基の1つの例はBocであり、O-保護基の結合の後に、例えば、酸加水分解により、容易かつ選択的に再度除去することができる。
【0067】
ベンジル保護基は、好ましくはDE-A-19956786に記載の方法により導入される。
【0068】
しかし、O-保護基の使用は本発明の分離方法に不要であり、よって好ましいのは3-アミノ-1-ブタノールのエナンチオマー混合物から、特に3-アミノ-1-ブタノールのラセミ化合物から開始することである。
【0069】
さらに、本発明は化合物I-R(式中、R1はH又は場合によって置換されたベンジル、好ましくはH又はベンジルである)の(S)-マンデル酸塩も提供する。本発明の(S)-マンデル酸塩は好ましくは少なくとも98%ee、さらに好ましくは少なくとも99%ee、さらに好ましくは少なくとも99.5%ee、さらに特に好ましくは少なくとも99.6%ee、特に少なくとも99.8%eeのエナンチオマー純度を有する。
【0070】
さらに、本発明は化合物I-S(式中、R1はC1-C4-アルキル、特にtert-butylである)の(R)-マンデル酸を提供する。本発明の(R)-マンデル酸塩は好ましくは少なくとも98%ee、さらに好ましくは少なくとも99%ee、さらに好ましくは少なくとも99.5%ee、さらに特に好ましくは少なくとも99.6%ee、特に少なくとも99.8%eeのエナンチオマー純度を有する。
【0071】
本発明による方法は、(R)-3-アミノ-1-ブタノールを、好ましくは少なくとも98%ee、さらに好ましくは少なくとも99%ee、さらに好ましくは少なくとも99.5%ee、さらに特に好ましくは少なくとも99.6%ee、特に少なくとも99.8%eeの高いエナンチオマー純度で、かつ、好ましくは少なくとも98%、さらに好ましくは少なくとも99%、特に少なくとも99.5%の化学純度で、いかなる複雑な反応物又はいかなる保護基の技術も必要としない、簡潔な少ない反応工程で、十分な全収率で提供する。所望の場合には、対応するSエナンチオマーも優れた化学的純度とエナンチオマー純度で得られる。
【0072】
エナンチオマー過剰率は通常の方法を用いて、例えば旋光度の測定により、或いはキラル相上のクロマトグラフィー、例えばキラルカラムを使用するHPLC又はガスクロマトグラフィーにより決定することができる。
【0073】
本発明を以下の限定されない例により例示する。
【実施例】
【0074】
1. 3-アミノ-1-ブタノールのラセミ化合物のエナンチオマー分離
1.1 (R)-3-アミノ-1-ブタノールの(S)-マンデル酸塩の調製
ラセミ3-アミノ-1-ブタノールの混合物(638g, 7.16mol)、イソプロパノール(4.3l)と水(8.6ml)を、攪拌しながら、連続的に(S)-マンデル酸(544g, 3.58mol)と酢酸(214.8g, 3.58mol)と混合した。反応混合物を沈殿した塩が完全に溶解するまで加熱沸騰させた。その後、混合物を攪拌しながら20℃に冷却し、その過程で沈殿物形成が42℃で始まった。沈殿した結晶を吸引濾別し、イソプロパノール(200ml)で洗浄した。空気下で乾燥した後、(R)-3-アミノ-1-ブタノールの(S)-マンデル酸塩 822g(使用したラセミ化合物に対して47.5%;ラセミ化合物中に存在する(R)-3-アミノ-1-ブタノールに対して95%)が結合アミン形態で、光学純度88.4%eeで得られた。
【0075】
得られた(R)-3-アミノ-1-ブタノールの(S)-マンデル酸塩をイソプロパノール(3l)に懸濁し、混合物を沸騰させた。得られた透明の溶液を攪拌しながら20℃に冷却した。沈殿した塩を吸引濾別し、イソプロパノール(100ml)で洗浄し、空気下で乾燥させた。これにより、(R)-3-アミノ-1-ブタノールの(S)-マンデル酸塩 590gが結合アミン形態で、光学純度98.5%eeで得られた。
【0076】
この再結晶から得られた(R)-3-アミノ-1-ブタノールの(S)-マンデル酸塩をイソプロパノール(2.4l)と水(35ml)に懸濁し、混合物を沸騰させた。得られた透明の溶液を攪拌しながら20℃に冷却した。沈殿した塩を吸引濾別し、イソプロパノール(100ml)で洗浄し、真空乾燥庫で乾燥させた。これにより、(R)-3-アミノ-1-ブタノールの(S)-マンデル酸塩 556g(全収率:使用したラセミ化合物に対して32.2%)が結合アミン形態で、光学純度99.6%eeで得られた。
【0077】
1H NMR (400 MHz, D2O) δ= 1.30 (d, J = 7 Hz, 3H); 1.75 (mc, 1H); 1.90 (mc, 1H); 3.45 (mc, 1H); 1.65-1.80 (m, 2H); 5.00 (s, 1H); 7.35-7.50 (m, 5H)
融点:133-135℃
旋光度:[α]D = 77.4°(c = 3.0 H2O中)。
【0078】
1.2 (R)-3-アミノ-1-ブタノールのその(S)-マンデル酸塩からの遊離
実施例1.1で得られた(R)-3-アミノ-1-ブタノールの(S)-マンデル酸塩(372g, 1.54mol)をトリエタノールアミン(1l)に80℃で懸濁し、スラリーをナトリウムメトキシド(277.6g, 1.54mol; メタノール中30%)と混合すると、透明の溶液が得られた。これを100℃に加熱し、真空にした。段階的に、750、500、250、100、50、最終的に20mbarの圧力を適用した。取り付けたクライゼンヘッド(復帰流なし、カラム無し)を介して、透明の留出物が50〜60℃の塔頂温度で留出し、大部分はメタノールだった。その後、圧力をさらに5mbarに低下させると、(R)-3-アミノ-1-ブタノールが塔頂温度76℃で留出した。生成物を再度水流ジェット真空ポンプで蒸留したところ、その過程で(R)-3-アミノ-1-ブタノールが93℃、26mbarで留出した。これにより、(R)-3-アミノ-1-ブタノール 125g(理論値の91%)が無色の液体として光学純度99.6%eeで得られた。
【0079】
(R)-3-アミノ-1-ブタノールの光学純度をGCを用いて測定した。この目的のために、(R)-3-アミノ-1-ブタノール(200mg)とトリエチルアミン(300mg)をジエチルエーテル(15ml)に溶解させ、トリフルオロ酢酸無水物(0.6ml)と混合した。30分間攪拌した後、塩化アンモニウム飽和溶液(5ml)を加え、混合物をさらに15分間攪拌した。その後、混合物を2相が形成するまで放置し、上部の透明の相のサンプルをGCで分析した。
【0080】
カラム:Hydrodex-TBDAc, 25 m × 0.25 mm, Macherey & Nagel
入口温度:250℃
検出器温度:250℃
注入量:0.5μl
モード:Split
分割比:100:1
キャリアガス:He
流量:0.8 ml/分(一定流量)
プログラム:
初期温度:135℃
初期時間:10分
速度:5℃/分
最終温度:170℃
最終時間:35分
保持時間:
Rエナンチオマー:17.68分(N-トリフルオロアシル化)
21.23分(N,O-bis-トリフルオロアシル化)
Sエナンチオマー:18.24分(N-トリフルオロアシル化)
20.11分(N,O-bis-トリフルオロアシル化)。
【0081】
2. 1-ベンジルオキシ-3-ブチルアミンのエナンチオマー分離
2.1 (R)-1-ベンジルオキシ-3-ブチルアミンの(S)-マンデル酸塩の調製
(S)-マンデル酸(8.5g, 56mmol)と酢酸(3.4g, 56mmol)を最初にイソプロパノール65mlに室温で入れ、攪拌しながらラセミ1-ベンジルオキシ-3-ブチルアミン(20g, 112mmol)と混合した。この過程で、約40℃に温度が上昇した。沈殿した塩が完全に溶解するまで反応混合物を沸騰させた。その後、混合物を室温で一晩放冷した。沈殿した結晶を吸引濾別し、冷却したイソプロパノール(20ml)で洗浄した。減圧下で乾燥した後、(R)-1-ベンジルオキシ-3-ブチルアミンの(S)-マンデル酸塩6.4g(使用したラセミ化合物に対して17.3%;ラセミ化合物中に存在する(R)-1-ベンジルオキシ-3-ブチルアミンに対して34.6%)が結合アミン形態で、光学純度48.4%eeで得られた。
【0082】
得られた(R)-1-ベンジルオキシ-3-ブチルアミンの(S)-マンデル酸塩をイソプロパノール中で3度(30、20、15ml)再結晶した。これにより、(R)-1-ベンジルオキシ-3-ブチルアミンの(S)-マンデル酸塩1.8gが結合アミン形態で、光学純度99%eeで得られた。
【0083】
1H NMR(400MHz, D2O) δ= 1.25 (d, J = 7 Hz, 3H); 1.75 (mc, 1H); 1.90 (mc, 1H); 3.45 (mc, 1H); 3.70 (m, 2H); 4.55 and 4.60 (AB system, JAB = 12 Hz, 2H); 5.00 (s, 1H); 7.35-7.50 (m, 10H)
融点:128-130℃。
【0084】
2.2 (R)-1-ベンジルオキシ-3-ブチルアミンのその(S)-マンデル酸塩からの遊離
実施例2.1で得られた(R)-1-ベンジルオキシ-3-ブチルアミンの(S)-マンデル酸塩を水(10ml)に入れ、50%NaOHとpH13になるまで混合した。混合物をジエチルエーテル(2×50ml)で抽出し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を油真空ポンプ(oil pump vacuum)で除去した。これにより、(R)-1-ベンジルオキシ-3-ブチルアミン0.8g(実施例2.1で使用したラセミ化合物に対して9%)が無色の油として光学純度99%eeで得られた。
【0085】
3. 1-tert-ブトキシ-3-ブチルアミンのエナンチオマー分離
3.1 (R)-1-tert-ブトキシ-3-ブチルアミンの(R)-マンデル酸塩の調製
(R)-マンデル酸(15.2g, 0.1mol)と酢酸(6.0g, 0.1mol)を最初にイソプロパノール150mlに室温で入れ、攪拌しながらラセミ1-tert-ブトキシ-3-ブチルアミン(29g, 0.2mol)と混合した。この過程で、約50℃に温度が上昇した。反応混合物を沈殿した塩が完全に溶解するまで沸騰させた。その後、混合物を室温で一晩冷却させた。沈殿した結晶を吸引濾別し、冷却したイソプロパノール(20ml)で洗浄した。減圧下で乾燥した後、(R)-1-tert-ブトキシ-3-ブチルアミンの(R)-マンデル酸塩20g(使用したラセミ化合物に対して33.7%;ラセミ化合物中に存在する(R)-1-tert-ブトキシ-3-ブチルアミンに対して67.3%)が結合アミン形態で、光学純度70%eeで得られた。
【0086】
得られた(R)-1-tert-ブトキシ-3-ブチルアミンの(R)-マンデル酸塩をイソプロパノール中で二度(それぞれ100ml)再結晶した。これにより、(R)-1-tert-ブトキシ-3-ブチルアミンの(R)-マンデル酸塩12gが結合アミン形態で、光学純度99.2%eeで得られた。
【0087】
1H NMR (400 MHz, D2O)δ= 1.25 (s, 9H); 1.35 (d, J = 7 Hz, 3H); 1.75 (mc, 1H); 1.90 (mc, 1H); 3.50 (sext, J = 7Hz, 1H); 3.65 (mc, 2H); 5.00 (s, 1H); 7.35-7.50 (m, 5H)
融点:178℃。
【0088】
3.2 (R)-1-tert-ブトキシ-3-ブチルアミンのその(R)-マンデル酸塩からの遊離
実施例3.1で得られた(R)-1-tert-ブトキシ-3-ブチルアミンの(R)-マンデル酸塩を水(50ml)に入れ、pH13になるまで50%NaOHと混合した。混合物をジエチルエーテル(2×50ml)で抽出し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を水流真空ポンプ(water jet pump vacuum)で除去した。これにより、(R)-1-tert-ブトキシ-3-ブチルアミン5.5g(実施例3.1で使用したラセミ化合物に対して19%)が無色の油として光学純度99.2%eeで得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
場合によって酸素原子が保護された(R)-及び(S)-3-アミノ-1-ブタノールのエナンチオマー混合物を分離する方法であって、以下の工程:
(i)式I-R及びI-S
【化1】

(式中、R1は水素又は保護基である)化合物のエナンチオマー混合物を(S)-又は(R)-マンデル酸及び使用されるこの(S)-又は(R)-マンデル酸と異なる酸と反応させる工程;
(ii)工程(i)で形成した式I-Rの化合物の(S)-又は(R)-マンデル酸塩を取り除き、単離する工程;
(iii)場合によって、工程(ii)で単離した式I-Rの化合物の(S)-又は(R)-マンデル酸塩を精製する工程;
(iv)式I-Rの化合物をその(S)-又は(R)-マンデル酸塩から取り除き、所望の場合には、式I-R(式中、R1は水素ではない)の化合物を脱保護して(R)-3-アミノ-1-ブタノールを得る工程;
(v)所望の場合には、濃縮された式I-Sの化合物を取り除き、所望の場合には、式I-S(式中、R1は水素ではない)の化合物を脱保護して濃縮された(S)-3-アミノ-1-ブタノールを得る工程
を含む前記方法。
【請求項2】
場合によって、酸素原子上に保護基を有する、本質的にエナンチオマー的に純粋な(R)-3-アミノ-1-ブタノールを調製する方法であって、以下の工程:
(i)式I-R及びI-S
【化2】

(式中、R1は水素又は保護基である)の化合物のエナンチオマー混合物を(S)-又は(R)-マンデル酸及び使用されるこの(S)-又は(R)-マンデル酸と異なる酸と反応させる工程;
(ii)工程(i)で形成した式I-Rの化合物の(S)-又は(R)マンデル酸塩を取り除き、単離する工程;
(iii)場合によって、工程(ii)で単離した式I-Rの化合物の(S)-又は(R)マンデル酸塩を精製する工程;
(iv)式I-Rの化合物をその(S)-又は(R)マンデル酸塩から取り除き、所望の場合には、式I-R(式中、R1は水素ではない)の化合物を脱保護して(R)-3-アミノ-1-ブタノールを得る工程;
を含む前記方法。
【請求項3】
R1が水素、C1-C4-アルキル、ベンジル、メチルベンジル又はメトキシベンジルである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
R1が水素である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程(i)で(S)-マンデル酸を使用し、工程(ii)で化合物I-Rの(S)-マンデル酸塩を取り除き、単離し、工程(iii)で化合物I-Rの(S)-マンデル酸塩を、場合によって精製し、工程(iv)で、化合物I-Rをその(S)-マンデル酸塩から取り除く、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程(i)で、(S)-又は(R)-マンデル酸をエナンチオマー混合物中に存在する式I-Rの化合物1molに対して0.8〜1.2molの量で使用する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
(S)-又は(R)-マンデル酸をエナンチオマー混合物中に存在する式I-Rの化合物の量に対して約等モル量で使用する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
工程(i)で、使用される(S)-又は(R)-マンデル酸と異なる酸をエナンチオマー混合物中に存在する式I-Sの化合物1molに対して0.8〜1.2molの量で使用する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
使用される(S)-又は(R)-マンデル酸と異なる酸を、エナンチオマー混合物中に存在する式I-Sの化合物の量に対して約等モル量で使用する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
(S)-又は(R)-マンデル酸と異なる酸がアキラルである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
(S)-又は(R)-マンデル酸と異なる酸が酢酸である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程(i)を、溶媒としての少なくとも1種のC1-C4-アルコールの存在下で行い、該アルコールが、場合によって少なくとも1種のC1-C4-アルコールと水の全重量に対して0.1〜10重量%の水を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
R1が水素である場合において、工程(i)を、イソプロパノールと水の全重量に対して0.1〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%の水を含む、溶媒としてのイソプロパノールの存在下で行う、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
式I-Rの化合物の(S)-又は(R)-マンデル酸塩を、式I-Rの化合物の(S)-又は(R)-マンデル酸塩の沈殿と、沈殿物の単離により取り除き、単離する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
工程(ii)で単離された式I-Rの化合物の(S)-又は(R)-マンデル酸塩を、その後、工程(iii)で、再結晶によりさらに一度以上精製する、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
工程(iv)で、式I-Rの化合物をその(S)-又は(R)-マンデル酸塩から、工程(ii)又は(iii)で得られた式I-Rの化合物の(S)-又は(R)-マンデル酸塩を、3-アミノ-1-ブタノールよりも少なくとも10℃高い沸点を有する溶媒中で塩基と反応させることにより取り除く、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
塩基がアルカリ金属C1-C4-アルコキシドから選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
溶媒が、最大で50℃の融点と少なくとも180℃の沸点を有する有機アミンから選択される、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
有機アミンがジエタノールアミン及びトリエタノールアミンから選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項1又は2のいずれかに定義される化合物I-R(式中、R1はH又は、場合によって置換されたベンジルである)の(S)-マンデル酸塩。
【請求項21】
請求項1又は2のいずれかに定義される化合物I-S(式中、R1はC1-C4-アルキル、好ましくはtert-ブチルである)の(R)-マンデル酸塩。

【公表番号】特表2012−515187(P2012−515187A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545737(P2011−545737)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/050434
【国際公開番号】WO2010/081865
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】