説明

(R)−3−フルオロフェニル−3,4,5−トリフルオロベンジルカルバミン酸1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イルエステルの安定な結晶性塩

本発明は、式(I)の(R)−3−フルオロフェニル−3,4,5−トリフルオロベンジルカルバミン酸1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イルエステルの安定な結晶性塩および特に、尿失禁、または尿生殖器障害を含むその他の疾患のための、その薬剤としての使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、(R)−3−フルオロフェニル−3,4,5−トリフルオロベンジルカルバミン酸1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イルエステルの安定な結晶性塩、および特に、切迫尿失禁、または尿生殖器障害を伴うその他の疾患の治療を含む医療用の、この塩の医薬処方物に関する。
【0002】
背景技術
WO0200652号公報は、下記式(I)を有する化合物I((R)−3−フルオロフェニル−3,4,5−トリフルオロベンジルカルバミン酸1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イルエステル)を開示している。
【化1】

【0003】
化合物IはWO2004000840号公報にも開示されている。他方、化合物Iは、他の化合物の合成における中間体として、WO2003053966号公報に塩酸塩として例示されている。しかしながら、先行技術から知られるこの酸付加塩は、その物理化学的安定性に乏しいという欠点を持っていた。この既知の塩の保存または処方の際には、徐々に分解するとともに不純物の量および数の増加が見られる。この問題は、光、熱、湿度または酸度などの要求の厳しい環境条件下ではさらに悪化することは明らかである。
【発明の概要】
【0004】
(R)−3−フルオロフェニル−3,4,5−トリフルオロベンジルカルバミン酸1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イルエステルの安定な結晶性形態を見出すのは特に困難であった。化合物Iの塩酸塩は吸湿性が高いという欠点があり、精製される際、最初は白色泡沫だったものが、その水分の取り込みによってすぐに粘稠なガム質になってしまう。従って、望ましい形態を有する結晶性固体を形成し、水の存在下や相対湿度の高い条件下(85%を超える)で安定であり、容易に大規模生産ができる(R)−3−フルオロフェニル−3,4,5−トリフルオロベンジルカルバミン酸1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イルエステルの塩が依然として希求されている。
【0005】
今般、上述の問題が化合物IのD−酒石酸塩によって解決できることを見出した。このD−酒石酸塩は室温、高温、高い相対湿度下、および酸性媒体中で塩酸塩よりも安定である。さらに、結晶性形態のこのD−酒石酸塩はまた、水中でも安定で、溶解度が高く、取扱いおよび加工が容易であることが判明した。
【0006】
よって、本発明の第一の態様は、化合物Iと、D−酒石酸との化学量論比が実質的に1:1であり、図1に示されるような°2θにピークを有するX線粉末回折図を特徴とする結晶性多型Iの形態である、下記構造式(II)の化合物I((R)−3−フルオロフェニル−3,4,5−トリフルオロベンジルカルバミン酸1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イルエステル)のD−酒石酸塩に関する:
【化2】

【0007】
本発明の第二の態様は、上記化合物IのD−酒石酸塩を少なくとも一種類の薬学上許容される担体または賦形剤とともに含んでなる医薬組成物に関する。
【0008】
本発明の第三の態様は、薬剤として用いるための上記化合物IのD−酒石酸塩に関する。
【0009】
本発明のさらなる態様は、尿生殖器障害を伴う疾患または症状を治療するための、特に尿失禁を治療するための、より詳細には、過活動膀胱を治療用薬剤の製造のための上記化合物IのD−酒石酸塩の使用に関する。
【0010】
本発明のさらなる態様は、尿生殖器障害を伴う疾患または症状を治療するための、特に尿失禁を治療するための、より詳細には、過活動膀胱を治療するための方法であって、それを必要とする対象に治療上有効な量の上記化合物IのD−酒石酸塩を投与することを含んでなる方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施例2で製造された化合物I多型Iの結晶性D−酒石酸塩のX線粉末回折図(XRPD)(銅Kα線を用いて取得)を示す。
【図2】図2は、実施例3で製造された化合物I多型IIの結晶性D−酒石酸塩のX線粉末回折図(XRPD)(銅Kα線を用いて取得)を示す。
【図3】図3は、実施例2で製造された化合物Iの結晶性D−酒石酸塩のDSCを示す。
【図4】図4は、実施例3で製造された化合物Iの結晶性D−酒石酸塩のDSCを示す。
【図5】図5は、実施例4で製造された化合物Iの結晶性D−酒石酸塩のDSCを示す。
【図6】図6は、実施例5で製造された化合物Iの結晶性D−酒石酸塩のDSCを示す。
【図7】図7は、実施例1で製造された化合物Iの結晶性D−酒石酸塩のDVS(動的水蒸気吸着(Dynamic Vapour Sorption))を示す。
【図8】図8は、実施例1で製造された化合物Iの結晶性D−酒石酸塩のFT−Ramanを示す。
【図9】図9は、実施例3で製造された化合物Iの結晶性D−酒石酸塩のFT−Ramanを示す。
【図10】図10は、実施例4で製造された化合物Iの結晶性D−酒石酸塩のFT−Ramanを示す。
【図11】図11は、異なる多型間でのFT−Ramanの違いを示す(図8、9、および10)。
【0012】
これらの図面のさらなる詳細は以下の実施例で明らかになる。
【発明の具体的説明】
【0013】
本発明は、化合物IのD−酒石酸塩に関する。D−酒石酸塩は、その安定性のために処方にとって最適な特性を与え、下記構造式(II)を有する:
【化3】

【0014】
医薬としてのさらなる開発のための候補として考えるために、化合物は所望の生物学的特性を持つだけでなく、医薬組成物の製造においてその使用を可能とする物理学的特性も持たなければならない。特に、この化合物は、容易に製造および処方できる安定な、好ましくは結晶性の固体を形成すべきである。
【0015】
塩形成の研究は、その化学構造を変更することなく薬剤の物理化学的特徴および得られる生物学的特徴を変更する手段を提供する。塩形成は薬剤の特性に劇的な影響を持ち得る。適切な塩の選択は、一部に、その結晶性構造の収率、割合、および量によって指定される。さらに、その塩形態の吸湿性、安定性、溶解度、および加工特性も重要な観点である。塩形態の溶解度は、薬剤として使用するためのその適性に影響を及ぼし得る。水性溶解度が低い、すなわち、10mg/ml未満の場合、in vivo投与における溶解速度は吸収過程に律速され、低いバイオアベイラビリティをもたらし得る。吸湿性も重要な特徴である。吸湿性の低い化合物ほど、より安定で容易な加工を示し得る。多様な環境で使用または販売される製品には、低い、また高い相対湿度での安定性が望まれる。
【0016】
本発明者らは、医薬処方物用の化合物Iの好適な塩を得るのが困難であることを見出した。本発明は、結晶性であり、比較的非吸湿性であり、かつ一般にその化合物の他の塩よりも良好な物理的特性を有する、本明細書に開示されたD−酒石酸塩を用いてこれらの問題を克服した。また、本発明者らは、本明細書に記載の化合物IのD−酒石酸塩の沈殿により、最終的な不純物含量が有意に減少し得ることも見出した。
【0017】
化合物Iの最も好適な塩を選択し、塩酸塩の望ましくない吸湿性を最小にするため、いくつかの酸を試験した。化合物Iの遊離塩基を温エタノールに溶かした後、温エタノール中の酸溶液を加えた。その後、この混合物を30分間攪拌および加熱した。室温まで冷却した後、蒸発により溶媒を除去した。供試した酸としては、酢酸、L−アスコルビン酸、ベンゼンスルホン酸、(RS)−10−カンファースルホン酸、(S)−10−カンファースルホン酸、クエン酸、エンボン酸、フマル酸、DL−乳酸、L−乳酸、マレイン酸、D−リンゴ酸、L−リンゴ酸、DL−リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、D−マンデル酸、L−マンデル酸、メタンスルホン酸、オロチン酸、シュウ酸、プロピオン酸、ソルビン酸、コハク酸、DL−酒石酸、L−酒石酸、およびD−酒石酸が含まれる。得られた塩に関する結果を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
表1に示すように、供試した酸のほとんどは油状物または吸湿性の泡沫となったが、D−酒石酸で得られた塩は、これらの条件下で非吸湿性固体結晶が得られる唯一のものであった。
【0020】
D−酒石酸はジカルボン酸であり、従って、酒石酸水素塩と酒石酸塩の双方を形成し得る。本発明は、化合物Iと、酒石酸とのモル比が約1:1である塩(すなわち、酒石酸水素塩)と化合物Iと酒石酸のモル比が約2:1である塩(すなわち、酒石酸)の双方、ならびに例えばアルカリ金属またはアンモニウムイオンとの混合塩に言及する。以下に述べる化合物IのD−酒石酸塩の結晶性多型(すなわち、形態I、II、III、およびIV)は酒石酸水素塩であり、すなわち、化合物Iと、酒石酸とのモル比は約1:1である。
【0021】
本発明の塩は結晶性であり得、1を超える多型として存在し得る。この塩の水和物ならびに無水形態もまた本発明により意図される。特に、化合物IのD−酒石酸塩の無水形態が好ましい。本発明の一つの実施形態では、この塩は実質的に無水結晶性塩である。
【0022】
D−酒石酸塩は化学量論量の酸を化合物Iの遊離塩基と接触させることによって形成され得る。あるいは、酸を過剰量、通常には、1.25当量を超えない量で用いてもよい。好ましくは、この塩基および/または酸は溶液であり、より好ましくは、双方が溶液である。
【0023】
概して、本発明の結晶性塩は、好ましくは室温または高温下、溶媒、すなわち、好適な単一溶媒または好適な溶媒混合物中のいずれかの反応体の溶液を混合するか、またはいずれかの反応体の溶液を固体形態の他の反応体に加えた後に、結晶性化合物I塩を沈殿させることによって製造され得る。本明細書において「溶媒」とは、単一の溶媒または種々の溶媒の混合物の双方を含む。例えば約0〜20%水であり得る場合、溶媒は水を含んでなり得る。本明細書において、D−酒石酸塩の製造および再結晶化に関して好適な溶媒とは、化合物Iが可溶である任意の低級アルカノール、水、またはケトン溶媒を定義し、第一級、第二級、および第三級アルコールならびに対応する炭素原子1〜6個のケトンを含む。好適な低級アルカノール溶媒としては、限定されるものではないが、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1,1−ジメチル−エタノール、およびシクロヘキサノールが挙げられる。
【0024】
一部もしくは全ての溶媒を蒸発させるか、または高温で結晶化させた後に好ましくは段階的に制御冷却することにより高収量を得ることができる。製造工程の再現性ならびに生成物の粒径分布および形態を改良するためには、沈殿温度の注意深い制御と種結晶の播種の注意深い制御を用いればよい。溶媒としてEtOHを用いることにより、特に良い収率を得た。便宜には、(R)−3−フルオロフェニル−3,4,5− トリフルオロベンジルカルバミン酸1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イルエステルと、1当量のD−酒石酸とを温EtOHに溶解する。事前に製造された結晶の少量を播種すると、結晶化を誘発する助けとなり得る。
【0025】
本発明はまた、化合物IのD−酒石酸塩の四つの結晶性多型形態(以下、それぞれIII、III、およびIVと呼ぶ)を提供する。
【0026】
本発明の医薬組成物は、その医薬組成物中の化合物IのD−酒石酸塩の総重量(またはその医薬組成物中の化合物Iの結晶性D−酒石酸塩の総重量)100%に対して約20、30、40、50、60、70、80、90、95、96、97、98、99、99.1、99.2、99.3、99.4、99.5、99.6、99.7、99.8、99.9、または100重量%の化合物IのD−酒石酸塩の形態I、II、III、またはIVを含んでなり得る。
【0027】
化合物IのD−酒石酸塩の結晶性多型形態Iは室温で安定である。形態Iは室温で物理的に安定であるが、鏡像異性体向性的に形態IIと関連し、このことは室温では形態I(低融点多型)がより安定なものであり、高温では高融点多型(形態II)がより安定なものであることを意味する。示差走査熱量測定法(DSC)によれば、形態Iは約139℃と約145℃に二重の吸熱を有する(図3参照)。
【0028】
形態Iは以下のように、化合物Iの遊離塩基から製造することができる。化合物Iの遊離塩基と、D−酒石酸とを温エタノールに溶かす。次に、この溶液をゆっくり冷却し(例えば、3時間以上)、化合物IのD−酒石酸塩の形態Iを得る。形態Iの結晶は当技術分野で公知のいずれの方法によって回収してもよい。
【0029】
形態Iはまた、室温でEtOHを用い、形態II、形態III、もしくは形態IV、またはその混合物を含有する懸濁液を作製することにより製造してもよい。
【0030】
上述の方法によって作製された結晶はいずれも、例えば濾過などの当業者に公知の技術によって回収されてもよい。
【0031】
化合物IのD−酒石酸塩の結晶性多型形態IIは制御された温度条件下で得られ、DSCによれば、約149℃に吸熱を有する(図4参照)。
【0032】
化合物IのD−酒石酸塩の結晶性多型形態IIIは水中での平衡化により得られ、DSCによれば、約110℃に幅の広い吸熱を有する(図5参照)。
【0033】
化合物IのD−酒石酸塩の結晶性多型形態IVは温エタノール(Etanol)(60℃)中での平衡化により得られ、DSCによれば、約162℃に吸熱を有する(図6参照)。
【0034】
本明細書において、「図(1)に示されるX線粉末回折図を特徴とする化合物Iの特定の塩の結晶性形態」とは、対象とする化合物Iの塩の結晶性形態が図(1)と実質的に同等のX線粉末回折図を有すること、すなわち、実質的に、図面に示される、また、本明細書の記載のものに匹敵する条件下で、またはいずれかの匹敵する方法によって測定されるX線粉末回折図を示すことを意味する。一般に、本発明のデータは全て概数であり、例えば用いる装置およびピークの位置やピークの強度に影響を及ぼす他のパラメーターに依存する通常の測定誤差を受けると理解される。
【化4】

【0035】
0℃で4時間、(R)−3−キヌクリジノールをジクロロメタン中、カルボニルジイミダゾール(CDI)と反応させると、対応するカルバミン酸イミダゾリド(中間体2)が得られる。
【0036】
中間体1は、3,4,5−トリフルオロベンズアルデヒドと3−フルオロアニリンの間のイミン形成(ディーン・スターク系で)と、その後のエタノール中での水素化ホウ素ナトリウムによる還元とによって得られた。
【0037】
鍵となるカップリング反応は、−10℃にてヘキシルリチウムでアミン(中間体1)を脱プロトン化した後にそれを2時間攪拌しながら−10℃にてTHF中イミダゾリド(中間体2)を添加することによって行った。
【0038】
最後に、化合物IのD−酒石酸塩は、化合物Iに1当量のD−酒石酸を加えた温エタノール中での結晶化により得られた。
【0039】
本発明の一つの目的は、有効医薬成分(化合物IのD−酒石酸塩)または有効医薬成分の混合物をその他の有効医薬成分および/または薬学上許容される担体もしくは賦形剤とともに含んでなる医薬組成物である。
【0040】
このような医薬組成物は、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、多粒子、凍結乾燥形態、溶液、もしくは懸濁液、経皮的もしくは口内パッチ、エマルション、もしくはマイクロエマルション、即放性もしくは改良放出型適用(徐放性、遅延放出性またはパルス放出性適用)の形態で経口投与され得る。上記医薬組成物は直接服用により、または可溶性、分散性、口腔分散性(orodispersible)、咀嚼性、発泡性、または生体接着性投与形として経口投与され得るか、または皮膚を介して投与され得る。
【0041】
粉末および顆粒は、それらの成分の直接的混合もしくは連続的混合によるか、または乾式もしくは湿式造粒、水性または有機性により得ることができる。粉末および顆粒は、希釈剤、結合剤、崩壊剤、湿潤剤、流動促進剤、滑沢剤、可塑剤(plastificant)、吸収材または吸収剤、即放性または改良放出型ポリマー、甘味剤または香味剤、着色剤もしくは色素、または保存剤などの賦形剤を含んでよく、単回用量または多回用量医薬形として投与され(dosified)得る。
【0042】
上記に挙げられた錠剤は、粉末、顆粒、その他の錠剤もしくはトローチ剤またはそれらの任意の組合せから得ることができる。これらの錠剤は通常型、多層、発泡性、分散性、可溶性、口腔分散性、胃耐性、改良放出型、生体接着性、咀嚼性、頬側、またはマトリックス(matricial)投与形態であり得る。これらの錠剤はまた、有効医薬成分を保護するため、またはその放出を改良するために、一以上の機能的層でコーティングしてもよい。いずれかの層が有効医薬成分を単独で、または一以上の改良放出型ポリマーとともに含んでもよい。上記の錠剤は、希釈剤、結合剤、崩壊剤、湿潤剤、流動促進剤、滑沢剤、可塑剤(plastificant)、吸収材または吸収剤、即放性または改良放出型ポリマー、甘味剤または香味剤、着色剤もしくは色素、または保存剤などの賦形剤を含み得る。
【0043】
上記に挙げられたカプセル剤は、ゼラチン、HPMC、セルロース誘導体もしくは多糖誘導体、粉穀類またはそれらの組合せから製造することができ、軟カプセルであっても硬カプセルであってもよい。カプセル剤は、粉末、顆粒、多粒子医薬形、錠剤、トローチ剤、液体または半固体、またはそれらの組合せを含み得る。これらのカプセル剤は、有効医薬成分を保護するため、またはその放出を改良するために、一以上の機能的層でコーティングしてもよい。いずれの層が有効医薬成分を単独で、または一以上の改良放出型ポリマーとともに含んでもよい。上記のカプセル剤は、希釈剤、結合剤、崩壊剤、湿潤剤、流動促進剤、滑沢剤、可塑剤(plastificant)、吸収材または吸収剤、即放性または改良放出型ポリマー、甘味剤または香味剤、着色剤もしくは色素、または保存剤などの賦形剤を含み得る。
【0044】
多粒子医薬形は、単回用量または多回用量で投与され得る。これらの医薬形態は、カプセル剤、錠剤、サシェ剤またはストリップ、懸濁液、溶液、バイアル、フラスコもしくは瓶、または他のいずれかのデバイスにより投与されてもよい。このような多粒子医薬形は即放性または改良放出型適用に使用可能であり、有効医薬成分を含有する不活性なまたは活性なコアから得られる。コアは、有効医薬成分を保護するため、またはその放出を改良するために、一以上の機能的層でコーティングしてもよい。この成分は一以上の層に単独で、または一以上の改良放出型ポリマーとともに含まれてよい。保護剤または改良放出型ポリマーを含む付加的な層は、有効医薬成分を含有する層に隣り合う外側の他層に含まれてよい。このような多粒子医薬形態は、希釈剤、結合剤、崩壊剤、湿潤剤、流動促進剤、滑沢剤、可塑剤(plastificant)、吸収材または吸収剤、即放性または改良放出型ポリマー、甘味剤または香味剤、着色剤もしくは色素、または保存剤などの賦形剤を含んでいてもよい。
【0045】
溶液、懸濁液、ゲル、エマルション、マイクロエマルションおよびその他としての液体および半固体医薬形態は、可溶形態、分散形態または多粒子形態の有効成分と十分な賦形剤を配合する。それらは単回用量形態または多回用量形態で投与可能であり、即時調合製剤であり得る。それは乳化剤、溶解促進剤、分散剤、保湿剤、乳化補助剤、軟化剤、増粘剤、ビヒクル、保存剤、pH調整剤、香味剤または甘味剤などの賦形剤を含み得る。これらの成分は水性、油性または有機性の液体であり得る。
【0046】
有効医薬成分は皮膚、または口腔内に見られるものなどの粘膜を含むいずれかの好適な外表面を介して放出され得る。経皮または口内パッチはデバイス中に薬剤を配合してよく、マトリックス、接着剤またはリザーバーに含まれててもよい。処方物は湿潤剤、即放性または改良放出型ポリマー、促進剤、乳化剤、分散剤、乳化補助剤、溶解促進剤、接着剤、保湿剤、軟化剤、増粘剤、ビヒクル、保存剤またはpH調整剤を配合してもよい。これらの成分は水性、油性または有機性の半固体または液体であり得る。マトリックスは一以上の層の固体または液体であり得る。パッチ剤は一方の側に透過膜と、皮膚の適切な位置にパックを保持するためのいくつかの形態の接着剤も含み、その膜は、薬剤をパッチリザーバーの外部に皮膚を経て拡散できるように接触させる。パッチ剤の外側は不透性材料層からなり、この膜側と外側はパッチの周辺前後で結合され、これらの二層の間で医薬および担体のためのリザーバーを形成する。
【実施例】
【0047】
分析法
H−NMRおよび13C−NMRスペクトルはBruker ARX 400装置にて、それぞれ400MHおよび100.61MHで記録した。ジメチルスルホキシド(99.8%D)を溶媒として用い、テトラメチルシラン(TMS)を内部参照標準として用いた。
【0048】
化合物IのD−酒石酸塩の純度は、25℃でGemini 5u C18 110A、50×4.6mmカラムを用いてHPLC/MSにより測定した。移動相は、流速1.4ml/分で、70%溶液A(トリエチルアミンを含む0.025Mオルトリン酸pH3.0〜3.1)と30%溶液B(アセトニトリル/メタノール(9:1))であった。測定時間20分。検出は200nmでUV検出器を用いて行った。化合物IのD−酒石酸塩はおよそ6.5分の保持時間を示した。
【0049】
化合物Iの鏡像体過剰率を、25℃でQuirabiotic V−2カラム、25×0.46cm Lを使用することにより測定した。移動相は、流速0.5ml/分の、水酸化アンモニウムでpH約6.5に調整したメタノール中0.1%(w/v)のトリフルオロ酢酸であり、測定時点は25分であった。検出は230nmでUV検出器を用いて行った。化合物IのD−酒石酸塩はおよそ16分の保持時間を有しており、その鏡像異性体はおよそ17分の保持時間を有していた。
【0050】
融点は示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定した。装置は種々のるつぼ(金、アルミナ、蓋無し、蓋有り、マイクロホール)、加熱速度変数およびレンジ変数を備えたPerkin Elmer DSC 7またはPerkin Elmer Pyris 1であった。
【0051】
X線粉末回折図はPhilips X’Pert PW 3040またはPhilips PW 1710にてCu kα線を用いて測定した。サンプルを2?−レンジ2−50°の反射モードで測定した。
【0052】
FT−Raman分光法はBruker RFS100装置にて記録した。Nd:YAG 1064nm励起、レーザー出力100mW、Ge検出器、64スキャン、レンジ25〜3500cm−1、解像度2cm−1
【0053】
TG−FTIR: Bruker FT−IR Spectrometer Vector 22を備えたNetzsch Thermo−Microbalance TG 209。Alるつぼ(蓋無しまたはマイクロホールを有する);N雰囲気、加熱速度10℃/分、レンジ25〜250℃。
【0054】
Dynamic Vapour Sorption (DVS)。装置はSurface Measurement Systems Ltd. DVS−1水蒸気吸着分析機であった。サンプルを微量天秤の上の石英または白金ホルダーにのせ、サンプルを相対湿度50%で平衡化した後、所定の湿度プログラムを開始した。
【0055】
比旋光度測定は、Techne製のサーモスタット槽、モデルTE−8Jを備えたSchmidt + Haensch製の偏光計、モデルPolartronic−E(シリーズ番号27586)を用いて行った。
【0056】
合成例
実施例1:(R)−3−フルオロフェニル−3,4,5−トリフルオロベンジルカルバミン酸1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イルエステル(化合物I)の合成
中間体2:(R)−イミダゾール−1−カルボン酸1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イルエステル
【化5】

0℃にて、30Lのジクロロメタン中、1.86Kgの(R)−3−キヌクリジノールの懸濁液に、2.92KgのDCIを加えた。この溶液を不活性雰囲気下で3時間攪拌した。次に、23Lの水を加え、抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧下で留去した。得られた白色固体を酢酸イソプロピル(IPAC)−ヘプタンで結晶化し、24.1Kgの標題化合物を得た。
IR(KBr,cm-1):1746
1H-NMR: 1.33-1.43 (m, 1 H); 1.47-1.57 (m, 1 H); 1.58-1.70 (m, 1 H); 1.75-1.87 (m, 1 H); 2.07-2.12 (m, 1 H); 2.56-2.90 (m, 5H); 3.18 (ddd, J=14.5, J=8, J=2, 1 H); 4.95-5.00 (m, 1 H); 7.07 (s, 1 H); 7.61 (s, 1 H); 8.29 (s, 1 H).
13C-NMR: 18.9; 23.7; 24.9; 45.7; 46.6; 54.1; 75.7; 117.3; 130.1 ; 137.1 ; 147.9.
【0057】
中間体1:(3−フルオロフェニル)−(3,4,5−トリフルオロベンジル)アミン
【化6】

ディーン・スターク漏斗と還流冷却管を取り付けた300Lのリアクター内で、トルエン(63L)、3,4,5−トリフルオロベンズアルデヒド(2.1Kg)および3−フルオロアニリン(1.33Kg)を10時間還流した(112℃)。
【0058】
冷却後、得られた溶液を濃縮し、イミンを油状物として定量的収量で得た(3.2Kg)。次に、エタノール(35L)および水素化ホウ素ナトリウム(0.5Kg)を加えた。得られた懸濁液を3時間攪拌した後、42Lの水を加え、エタノールを留去し、水層をジクロロメタンで抽出した(2×40L)。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧下で留去し、2.72kgの標題化合物を黄色油状物として得た。
1H-NMR: 4.29 (s, 2H); 4.33 (br, 1 H), 6.28 (dtd, J=11 , J=2.5 ; J= 1 , 1 H), 6.40 (ddd, J=8.5 ; J=2, J=1 , 1 H), 6.46 (tdt, J=8,5 ; J=2,5, J=1 ); 7.24 (dd, J=8 ; J=7, 2H); 7.14 (tdd, J= 8 ; J=6.5, J=1).
13C-NMR: 47.1 ; 99.9 (d, J= 25.5); 104.8 (d, J= 21); 109.1 (d, J= 2); 111.0 (d, J= 10.5); 111.0 (d, J= 21.5); 149.4 (dd, J= 1 1 , J=1 ); 136.0 (tdd, J=6, J=4, J=2); 139.0 (dt, J= 248, J=5); 151.6 (ddd, J= 248, J=10, J=4); 164.3 (d, J=241).
【0059】
化合物I:(R)−3−フルオロフェニル−3,4,5−トリフルオロベンジルカルバミン酸1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イルエステル
−10℃に冷却した17LのTHF中、2.72Kgの中間体(1)の溶液に、不活性雰囲気下でゆっくり(2時間)3Kgのヘキシルリチウム(ヘキサン中33%)を加え、得られた混合物を−10℃で1時間攪拌した。次に、−10℃で、23LのTHF中、2.41Kgの中間体2をゆっくり加えた(75分)。得られた混合物を2時間攪拌し、室温まで上げた後に水を加え、溶液をメチルtertブチルエーテルで抽出した。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧下で除去し、3.6kgの標題化合物を橙色油状物として得た。
【0060】
実施例2:(R)−3−フルオロフェニル−3,4,5−トリフルオロベンジルカルバミン酸1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イルエステル(化合物I)D−酒石酸塩の合成
60℃にて、エタノール(3L)中、3Kgの(R)−3−フルオロフェニル−3,4,5−トリフルオロベンジルカルバミン酸1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イルエステル(化合物I)の溶液に、60℃に温めた30Lのエタノール中、1.1KgのD−酒石酸を加え、得られた混合物1時間攪拌した後、室温より低い温度まで冷却し、この温度で1時間維持した。沈殿を濾去し、濾過ケーキをエタノール(8L)で洗浄した。この濾過ケーキをほとんどの溶媒が無くなるまで吸引し、生成物を16時間45℃で乾燥させた。3.5kgの標題化合物を白色結晶性固体として得た。
1H-NMR: 1.45-1.49 (m, 2H) 1.65-1.75 (m, 2H)1 2.05 (m, 1 H); 2.87-3.01 (m, 3H); 3.07-3.1 1 (m, 1 H); 3.08-3.11 (d, J=14, 1 H); 3.39-3.45 (ddd, J=M, J=8, 5 J=2, 1 H); 4.00 (s, 2H); 4.83-4.89 (m, 1 H); 4.84-4.89 (d, J=16.5, 1 H); 4.93^.97 (d, J=16.5, 1 H); 7.05 (td, J=8.5 ; J=2, 1 H); 7.21 (dd, J=8 ; J=1.5, 1 H); 7.24 (dd, J=8.5 ; J=7, 2H), 7.33-7.38 (m, 2H).
13C-NMR: 17.1 ; 20.4; 24.0; 44.5; 45.1 ; 51.6; 52.7; 69.5 ; 72.1 ; 111.8 (d, J= 19.5); 10 113.4 (d, J= 20.5); 114.1 (d, J= 22); 122.6; 130.3 (d, J= 9); 135.1 ; 137.8 (dt, J= 246, J= 16); 142.6 (d, J= 9); 150.2 (ddd, J= 246, J= 9.5, J= 3.5); 154.0; 161.9 (d, J=242); 174.7
元素分析 C25H26F4N2O8の理論値:C,53.77;H,4.69;N,5.02。測定値:C,53.63;H,4.73;N,5.01
【0061】
作製された結晶のXRPD図を図1に示す。
【0062】
比旋光度を測定した。100mLのメスフラスコで1.00gの物質をメタノールで希釈した。α(c=1、MeOH) c=g/100mL。測定された比旋光度は−35.2°であった。
【0063】
他方、数種類の溶媒を用いた場合のD−酒石酸塩の平衡溶解度を25℃で測定したところ、表2に示されている通りであることが分かった(遊離塩基として測定)。
【0064】
【表2】

【0065】
吸湿性の評価: 相対湿度93%以下の条件で著しい質量の増減は見られなかった。相対湿度97%では著しい水付加の問題が見られたが、表3に示されたように、標準的雰囲気条件に関する吸湿性の問題は予測されなかった。
【0066】
【表3】

【0067】
実施例3:化合物IのD−酒石酸塩の形態IIの製造
形態I(実施例I)をDSCにて以下のように処理した:蓋無しパン(STGF)、0.0295g、25〜143.5℃、2℃/分、130℃までスキャンダウン、15分間等温保持、25℃まで冷却。
【0068】
実施例4:化合物IのD−酒石酸塩の形態IIIの製造
0.49gの形態Iを1mLの水に懸濁させた後、10分間(溶解するまで)20℃で振盪したところ、2時間後、サンプルは粘稠となった。
【0069】
実施例5:化合物IのD−酒石酸塩の形態IVの製造
0.522gの形態Iを1mLの無水EtOHに懸濁させた後、60℃で振盪したところ、1日後に懸濁液が無くなり、容器の壁面に粘着している溶媒の上に新たな白色結晶塊が形成していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物Iと、D−酒石酸との化学量論比が実質的に1:1であり、図1に示される°2θにピークを有するX線粉末回折図を特徴とする結晶性多型Iの形態である、下記構造式の化合物I((R)−3−フルオロフェニル−3,4,5−トリフルオロベンジルカルバミン酸1−アザビシクロ[2.2.2]オクト−3−イルエステル)のD−酒石酸塩:
【化1】

【請求項2】
実質的に無水結晶性塩である、請求項1に記載の塩。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれか一項に記載の塩を少なくとも一種類の薬学上許容される担体または賦形剤とともに含んでなる、医薬組成物。
【請求項4】
薬剤として使用するための、請求項1〜2のいずれか一項に記載の塩。
【請求項5】
尿生殖器障害を伴う疾患または症状の治療用薬剤の製造のための、請求項1〜2のいずれか一項に記載の塩の使用。
【請求項6】
前記尿生殖器障害を伴う疾患が尿失禁である、請求項5に記載の塩の使用。
【請求項7】
前記尿生殖器障害を伴う疾患が過活動膀胱である、請求項5に記載の塩の使用。
【請求項8】
前記尿生殖器障害を伴う疾患または症状の治療方法であって、それを必要とする対象に対照に治療上有効な量の請求項1〜2のいずれか一項に記載の塩を投与することを含んでなる、方法。
【請求項9】
前記尿生殖器障害を伴う疾患が尿失禁である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記尿生殖器障害を伴う疾患が過活動膀胱である、請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【公表番号】特表2011−504890(P2011−504890A)
【公表日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−535281(P2010−535281)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【国際出願番号】PCT/EP2008/010012
【国際公開番号】WO2009/068253
【国際公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(501048446)ラボラトリオス・サルバト・ソシエダッド・アノニマ (8)
【氏名又は名称原語表記】LABORATORIOS SALVAT, S.A.
【Fターム(参考)】