説明

1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンの製造方法

【課題】工業的規模での製造に適した1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンの製造方法を提供する。
【解決手段】3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドを塩素化剤と反応させ、3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドを得る。次いで、得られた3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドをフッ化水素と反応させて、1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンを得る。本発明によれば、1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンを安価で、高選択率かつ高収率で、容易に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬及び農薬の重要中間体である、1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬の活性の強化、副作用の軽減などを目的として特定部位にフッ素原子を導入する手法は新薬開発では多く用いられており、1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼン誘導体は特異的な薬効が期待できる医薬中間体化合物である。このようなジフルオロメチル基を持つ化合物は、抗腫瘍剤等の中間体として用いられているが、原料の入手が困難であり、反応条件が厳しく、反応制御が困難であった。
【0003】
従来のジフルオロメチル化合物の製造方法としては、非特許文献1−2ではアセトフェノンや3−オキソペンタン酸エチルエステルを四フッ化硫黄(SF4)と反応させて対応するジフルオロ体を得る製造方法が、非特許文献3−4では2,2−ジメチルプロパナールやチオカルボニルエステル類を、ジエチルアミノサルファートリフルオリド(Et2NSF3、DAST)でフッ素化して対応するジフルオロ体を得る製造方法が開示されている。また、非特許文献5では、N−フルオロサッカリンサルタムを用いて、ケトン、エステルなどのカルボニル基のα位をフッ素化(ジフルオロ化)する製造方法が開示されている。
【0004】
一方、特許文献1では、求電子フッ素化剤を用いて、カルボン酸エステルやケトン等を金属触媒存在下、塩基条件で反応させる方法が、特許文献2では、p−キシレンを塩素化し、得られたビスジクロロメチルベンゼンを金属フッ化物でフッ素化する方法が開示されている。
【非特許文献1】G.A.Boswell,Jr.,W.C.Ripka,R.M.Scribner,C.W.Tullock,Org.React.,21,1974,1.
【非特許文献2】F.A.Bloshchitsa,A.I.Burmakov,B.V.Kunshenko,L.A.Alekseeva,L.M.Yagupol‘skii,J.Org.Chem.USSR,18,1982,679.
【非特許文献3】W.J.Middleton,J.Org.Chem.,40,1975,574.
【非特許文献4】W.H.Bunnelle,B.R.McKinnis,B.A.Narayanan,J.Org.Chem.,55,1990,768.
【非特許文献5】E.Differing et al.,Tetrahedron Lett.,32,1991,1779.
【特許文献1】特開平9−110729号公報
【特許文献2】国際公開公報98/24743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1−2の方法は、SF4を用いた方法であり、非特許文献3−4の方法はDASTを用いた方法であるが、これらのフッ素化剤は高価であり、爆発性があるため、反応制御が難しく、工業的な製造にはいくぶん不向きであった。
【0006】
また、特許文献2に開示されている方法は、金属フッ化物を用いているが、大量の廃棄物が副生し、処理工程に負荷がかかり、さらに、180℃以上の高温を必要とするため、工業的な製造という点で難があった。
【0007】
これらのことから、1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンの製造に関しても、該目的物を工業的規模で、かつ製造コスト、安全性、簡便性において有利である製造方法の確立が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。この結果、工業的に入手容易な3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドを出発物質とし、安価である塩素化剤やフッ素化剤を用いて塩素化及びフッ素化を行うことにより、1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンを簡便に、高選択率かつ高収率で上記課題が解決することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、以下の[発明1]〜[発明5]に記載する、1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンの製造方法を提供する。
[発明1]
次の2工程を含む、1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンの製造方法。
第1工程:式[1]で表される3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒド
【0010】
【化5】

【0011】
を塩素化剤と反応させ、式[2]で表される3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリド
【0012】
【化6】

【0013】
を得る工程。
第2工程:第1工程で得られた3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドを、フッ化水素と反応させて、式[3]で表される1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼン
【0014】
【化7】

【0015】
を得る工程。
[発明2]
塩素化剤が、塩化チオニル(SOCl2)、又は5塩化リン(PCl5)である、発明1に記載の方法。
[発明3]
塩素化剤が、塩化チオニル(SOCl2)である、発明1に記載の方法。
[発明4]
3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドを、フッ化水素と反応させる際(第2工程)、得られた1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンと共に生成した塩化水素(HCl)を反応系外に排出しながら反応を行うことを特徴とする、発明1乃至3の何れかに記載の方法。
[発明5]
式[1]で表される3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドが、式[4]で表される5−フルオロ−1,3−ジブロモベンゼン
【0016】
【化8】

【0017】
を、アルキルマグネシウムハライドと反応させて3−ブロモ−5−フルオロフェニルマグネシウムハライドに変換した後に、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)と反応させて得られることを特徴とする、発明1乃至4の何れかに記載の方法。
【0018】
本発明者らは、3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドを塩素化剤と反応させると、例えば、後述の実施例にあるように100%の変換率、かつ90%近い高収率で3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドが得られる(第1工程)という知見を得た。
【0019】
第1工程については、この工程の目的化合物である3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドを製造するために、例えばジクロロメチルベンゼン誘導体の従来の製造方法{パラキシレンの塩素化(塩素)による1,4−ビスジクロロメチルベンゼンの製造方法(Ind.Eng.Chem.39、302頁、1947年)など}を本基質に適用し、さらに「好適な反応条件下」で反応させることで、3−ブロモ−5−フルオロトルエンを、塩素化剤として塩素を用いることで簡便かつ良好に得られるものと考えられる(以下、スキーム1参照)。
【0020】
【化9】

【0021】
しかしながらこのルートでは、原料である3−ブロモ−5−フルオロトルエンの製造が非常に困難であることや、塩素を用いて塩素化する場合、非常に高い温度条件を必要とすることもあり、工業的な製造として採用するにはいくぶん難があった。
【0022】
また、メチル基(−CH3)をベンザル基(−CHCl2)のままで、安定的にかつ高選択的に変換することに関しては従来から難があった。例えば、特開平11−310542号公報に記載の方法では、反応系内にベンザル基を持つ化合物以外に、塩素が3つ導入されたトリクロロメチル基(−CCl3)を持つ化合物が混在し、選択性が低下することが多い。また、これらの混合物を高純度で単離精製し、効率よく得ることも難しいことから、反応制御の面や工業規模での製造の面からもいくぶん難があった。
【0023】
一方、ベンズアルデヒド化合物の塩素化においても難があった。例えば、無置換のベンズアルデヒドにおいて塩素化を試みたところ、塩素化は進行する(後述の参考例1参照)が、電子求引基が置換したベンズアルデヒド、例えば、3,5−ジフルオロベンズアルデヒドについて同様の塩素化を試みても、反応が非常に遅く、長時間反応させても得られた目的物が低収率であった(後述の参考例2参照)。
【0024】
このことから、電子求引基を有する式[1]で表される3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドについても同様に、反応が非常に遅く、対応する目的物が良好に得られないものと当初予想していた。
【0025】
ところが、本発明者らは3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドを出発原料として用い、後述する「好適な反応条件下」で塩素化することで、高選択率かつ高収率で式[2]で表される3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドを得ることとなった。
【0026】
また、第2工程についても、特に好ましい知見を得た。無置換のベンザルクロリドに対し、フッ化水素や金属フッ化物でフッ素化を試みた場合、原料の分解が進行する等、製造が非常に困難であった(後述の参考例3−6参照)。
【0027】
そこで本発明者らは、従来から知られていたSF4やDAST等の高価かつ爆発性のあるフッ素化剤を用いずに、安価で工業的に制御可能であるフッ化水素(HF)を、本発明で対象とする3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドには高選択的且つ高収率に適応できたという、驚くべき知見を得た。
【0028】
このように、非常に安価、かつ爆発性のない試薬を用いて当該出発原料に適用させることで、容易に該目的物を供給することが可能となった。1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンを工業的規模で効率良く製造する上で非常に優れた方法である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、工業的に入手が容易な3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドを原料として、1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンを安価で、高選択率かつ高収率で、容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明では式[1]で表される3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドを塩素化剤と反応させ、式[2]で表される3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドを得(第1工程)、第1工程で得られた3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドを、フッ化水素(HF)と反応させて、式[3]で表される1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンを得る(第2工程)工程によってなる。
【0031】
なお、本発明の出発原料である、式[1]で表される3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドについては、従来公知の方法でも良いが、例えば、5−フルオロ−1,3−ジブロモベンゼンを出発原料として、アルキルマグネシウムハライドを用い、グリニャール交換反応を利用して容易に製造することができる(以下、スキーム2参照)。
【0032】
【化10】

【0033】
なお、ここで用いるアルキルマグネシウムハライドとしては、式[5]
RMgX [5]
(式中、Rはアルキル基を表し、Xはハロゲン(塩素、臭素、またはヨウ素)を表す)で表される。Rで示されるアルキル基としては、直鎖状でも分岐状でもよく、たとえば炭素数1〜8のアルキル基が挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。Xで示されるハロゲン原子としては、好ましくは塩素原子、臭素原子である。
【0034】
この方法においては、まず、5−フルオロ−1,3−ジブロモベンゼンとアルキルマグネシウムハライドとを適当な溶媒中、好ましくは不活性ガス雰囲気下で反応させて3−ブロモ−5−フルオロフェニルマグネシウムハライドを得る。続いてN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)と反応させることにより、3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドを良好に得ることができる。
【0035】
まず、第1工程について詳細に説明する。第1工程は、式[1]で表される3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドを塩素化剤と反応させ、式[2]で表される3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドを得る工程である。
【0036】
本工程で用いられる塩素化剤は、塩化チオニル(SOCl2)、又は5塩化リン(PCl5)が用いられる。これらはいずれも塩素化剤として有用であるが、この中でも、塩化チオニルが特に好ましい。
【0037】
また、上記塩素化剤以外にも、(クロロメチレン)ジメチルイミニウムクロリド(Vilsmeier試薬)も使用することができる。なお、(クロロメチレン)ジメチルイミニウムクロリドは、N,N−ジメチルホルムアミド及び塩化チオニルから調製することもでき、市販されているものを使用しても良い。
【0038】
塩素化剤の使用量は、式[1]で表される3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒド1モルに対して、通常1モル以上であり、好ましくは1モル〜20モル、更に好ましくは、1モル〜10モルである。
【0039】
反応温度は通常、25℃〜150℃程度で行い、40〜125℃が好ましく、50〜100℃がより好ましい。反応温度が25℃より低いと反応が非常に遅く、反応温度が150℃よりも高い温度では式[2]で表される3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドの他に、別の部位に塩素原子が置換した異性体等の副生が多くなり、選択率が低下することがあるので好ましくない。
【0040】
なお、反応温度が25℃程度でも反応は進行するが、前述の好ましい反応温度と比べると反応が遅いため、25℃で行うメリットは特に大きくない。
【0041】
反応時間としては、特に制限はないが、通常は24時間以内の範囲で行えばよく、各種反応剤および反応条件等により異なるため、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、NMR等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質が殆ど消失した時点を終点とするのが好ましい。
【0042】
本工程に用いられる反応器は、常圧もしくは加圧下で反応を行うことができる。加圧下で反応を行う場合、圧力に耐えるものであれば材質に特に制限はなく、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングした反応器、もしくはガラス容器を使用することができる。ステンレス鋼、鉄などが内壁となっている反応容器の場合も反応自体は進行するが、金属が塩素化剤により腐食を引き起こしたりすることがあるので、前述の反応容器を用いることが好ましい。
【0043】
一方、反応が進行するのに伴い、二酸化硫黄(SO2)ガスが発生するが、反応領域から排出させ、水、アルカリ性水溶液などでトラップすることができる。
【0044】
また、本工程は、溶媒の存在下で行うこともできる。溶媒を用いる場合、使用される溶媒としては原料および生成物を溶解することができ、塩素化反応で不活性な溶媒であり、さらに生成物と充分な沸点差を有することが好ましく、例えば、四塩化炭素、クロロホルム、テトラクロロエタン、モノクロロベンゼン、o−、m−、p−ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、モノブロモベンゼン、ジブロモベンゼン、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−ジクロロベンゾトリフルオリド、3,4,5−トリクロロベンゾトリフルオリドまたはビストリフルオロメチルベンゼン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒などが挙げられる。
【0045】
反応溶媒の使用量としては、特に制限はないが、式[1]で表される3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒド1モルに対して0.1L(リットル)以上を使用すればよく、通常は0.1〜20Lが好ましく、特に0.1〜10Lがより好ましい。
【0046】
しかし、反応原料の3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドは液体であり、また、生成物の3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドも反応条件下において液体であり、かつ塩素化剤を十分に溶解させることで溶媒の役割を兼ねることから、敢えて別途溶媒を使用する必要はなく、その方が工業的にも負荷がかからず、経済的にも好ましい。
【0047】
なお、本工程で特に好適な塩素化剤である塩化チオニルを用いる場合、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等の非プロトン性極性溶媒を触媒として添加することにより反応が良好に進行する場合がある。
【0048】
その際、かかる触媒の使用量は、特に制限はないが、式[1]で表される3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒド1モルに対して、通常1モル未満であり、好ましくは0.5モル未満、更に好ましくは、0.3モル未満である。
【0049】
なお、本工程で特に好適な塩素化剤である塩化チオニルを用いる場合、「好適な反応条件下」で塩素化することで、高選択率かつ高収率で式[2]で表される3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドを得ることとなった。
【0050】
好適な反応条件を以下、述べる。
【0051】
式[1]で表される3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドに対し、塩素化剤として塩化チオニルが特に好適であり、該3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒド1モルに対し、塩素化剤の使用量として、1モル〜10モル、N,N−ジメチルホルムアミドの使用量として、0.3モル未満、反応温度として50〜100℃、常圧にて24時間以内で反応させることで、該目的物を高選択率かつ高収率で得ることができる。
【0052】
本工程で得られた3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドを、この時点で精製することも可能ではあるが、この第1工程の時点で精製操作をせずに、第1工程で得られた混合物のまま、後述する次の第2工程における出発原料として使用することもできる。例えば、第1工程後、得られた3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドを、精製をせずにそのまま第2工程(フッ素化)の原料として使用することは、生産性という観点からも好ましい態様の一つである。
【0053】
後処理方法については特に制限はなく、反応終了後の反応物の処理は、通常の有機合成の処理法(再結晶、蒸留またはカラムクロマトグラフィー等)に基づいて行えばよい。通常の手段に付して、式[2]で表される3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドを得ることができる。
【0054】
ここで、好適な塩素化剤である塩化チオニルを用いた場合の、後処理方法について述べる。
【0055】
ここでは、後述の実施例に示すように、式[1]で表される3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドに塩化チオニルを反応させた後、氷水中に反応液を添加後、有機溶媒で抽出する。二層分離して有機物層を水又は飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムにて乾燥後、濾過し、この溶液を減圧蒸留することにより、目的物である3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドを得ることができる。
【0056】
また、式[1]で表される3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドに塩化チオニルを反応させた後、その反応終了液を直接蒸留して、過剰に使用した塩化チオニルを除去することでも目的物を得ることができる。また必要に応じて、活性炭処理、再結晶、蒸留またはカラムクロマトグラフィー等により、高い化学純度に精製することができる。
【0057】
次に、第2工程について説明する。第2工程は、第1工程で得られた3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドを、フッ化水素(HF)と反応させて、式[3]で表される1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンを得る工程である。
【0058】
反応容器としては、モネル、ハステロイ、ニッケルまたはこれらの金属やポリ四フッ化エチレン、パーフルオロポリエーテル樹脂などのフッ素樹脂でライニングされた耐圧反応容器中で攪拌機を使用して行われ、バッチ式反応、連続式反応または半連続式反応の形式が採られる。
【0059】
フッ素化反応で慣用される金属ハロゲン化物、例えば、五塩化アンチモン、四塩化スズなどを触媒として使用することもできるが、無触媒でもよい。
【0060】
無触媒の場合、反応温度は通常20〜180℃であり、好ましくは40〜140℃で、より好ましくは60〜120℃である。20℃未満では反応が遅く、180℃を超えるとタール化が起こり、1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンの収率、純度を低下させるので好ましくない。
【0061】
本工程におけるフッ素化反応は可逆的であり、反応の進行は平衡に依存するので副生する塩化水素の割合が増加するとフッ素化が進まなくなるので、フッ化水素を反応させる際、得られた1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンと共に生成した塩化水素(HCl)を反応系外に排出しながら反応を行うことが好ましい。実際には、反応圧力を調整しながら系内の塩化水素を系外に排気させる。反応圧力は通常0.1MPa〜4.5MPaで、好ましくは0.2MPa〜2.3MPa、より好ましくは0.4MPa〜1.6MPaで調整できる。
【0062】
フッ化水素量は、3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリド1モルに対し通常は8〜30モル、好ましくは10〜25モルを、さらに好ましくは15〜23モルを使用する。8モル未満だと収率が低下するので好ましくなく、また30モルを超えて用いると、反応性の上では問題ないが、フッ化水素の量が増えることにより生産性を悪くするなどの工業的な問題が生じるので好ましくない。
【0063】
反応時間としては、特に制限はないが、通常は24時間以内の範囲で行えばよく、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、NMR等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質が殆ど消失した時点を終点とするのが好ましい。
【0064】
本工程では、不活性な溶媒を使用することもできる。溶媒としては、例えば、ヘキサン、トルエン、キシレン、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオリド、ビストリフルオロメチルベンゼン、1,4−ビストリフルオロメチルベンゼンなどが挙げられる。しかし、本工程の原料、生成物ともに液体であり、溶媒が存在しなくても反応は円滑に進行するため、溶媒を用いるメリットは大きくない。
【0065】
反応で得られた1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンは通常の方法で処理される。すなわち、未反応のフッ化水素を分離除去した後、水で洗浄を行い、塩化カルシウムでフッ化水素、水分を系内から除去する。水又はアルカリ性水溶液(炭酸ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液など)での洗浄を行い、フッ化水素を系内から除去する。その後、乾燥剤等で水分を除去することもできる。
【0066】
1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンの精製操作としては蒸留が特に好ましい。
【0067】
蒸留を行う場合には、常圧(0.1MPa)でも良いが、減圧条件にすることが好ましい。通常、前記の後処理によってフッ化水素を除去したものを用いる。この場合、蒸留塔の材質には制限はなく、ガラス製のもの、ステンレス製のもの、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングしたもの等を、用いることができる。蒸留塔中には、充填剤を詰めることもできる。蒸留は、減圧条件下で行うと、比較的低い温度で達成できるため、簡便であり、好ましい。この蒸留に要求される蒸留搭の段数に制限はないが、5〜100段が好ましく、さらに好ましくは10〜50段である。
【0068】
本蒸留操作によって、無色透明の1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンが高純度で得られる。
【0069】
なお、本工程は、1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンを製造する工程であるが、目的物以外に、フッ素原子が一部導入された1−ブロモ−3−フルオロ−5−クロロフルオロメチルベンゼンや、本工程の原料である3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリド、そして第1工程の原料である3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドが不純物として随伴することがある(後述の実施例参照)。
【0070】
しかしながら、これらの不純物を含む1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンを、本工程において蒸留操作を行うことにより、容易に分離できることから、前工程における精製操作に手間をかけずに容易に該目的物を高純度かつ高収率で供給することが可能である。該目的物を工業的規模で製造する上で非常に優れた方法である。
【0071】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されない。ここで、組成分析値の「%」とは、反応混合物を直接ガスクロマトグラフィー(GC。特に記述のない場合、検出器はFID)によって測定して得られた組成の「面積%」を表す。
【実施例1】
【0072】
[第1工程]3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドの製造
ジムロート冷却管を備えた1000mlにフラスコに3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒド:203.0g(1.0mol)およびDMF:7.3g(0.1mol)を仕込み攪拌しながら内温を20℃以下に冷却し、この中に塩化チオニル:833.0g(7.0mol)を滴下した。滴下後は60℃に昇温し14時間反応を行った。この時の反応液(反応液を一部採取し水洗浄後の有機相)の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドが97.7%であった。この他に、原料の3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドが1.3%であった。
【0073】
反応後は反応液を氷水中に添加後、有機物層を二層分離した。この反応液を水洗浄、炭酸水素ナトリウム水溶液洗浄、さらに水洗浄した。洗浄後の反応液に硫酸マグネシウムを加え、攪拌後濾過をした。濾液で得られた反応液の重量は239.9gであった。
【0074】
得られたフッ素化反応液はヘリパックを充填した20cmの蒸留塔で蒸留精製した。
この蒸留によって純度98.9%の目的物(3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリド)が218.6g得られた。塩素化工程(第1工程)における収率は84.7%であった。
[第2工程]1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンの製造
攪拌機、圧力調整弁を備えた冷却還流管、熱電対、圧力計、サンプリング管を備えた金属製500mLオートクレーブに、第1工程で得られた3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリド:129.0g(0.50mol)及び無水フッ化水素202.1g(10.10mol)を仕込み密閉とし、撹拌しながら内温を80℃に昇温し、反応を開始した。内圧が0.7MPaになるように圧力調整弁を調整し、反応の進行と共に発生する塩化水素を圧力調整弁から系外へ放出しながら4時間反応を行った。この時の反応液(有機相)の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンが77.9%であった。この他に、未完全フッ素化体である1−ブロモ−3−フルオロ−5−クロロフルオロメチルベンゼンが6.1%、原料の3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドが13.8%、そして3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドが1.2%であった。
【0075】
反応終了後、回収した反応液を、水洗浄、炭酸水素ナトリウム水溶液洗浄、さらに水洗浄した。洗浄後の反応液に硫酸マグネシウムを加え、攪拌後濾過をした。濾液で得られた反応液の重量は99.8gであった。
【0076】
得られたフッ素化反応液はDixonパッキンを充填した20cmの蒸留塔で蒸留精製した。
【0077】
この蒸留によって純度99.8%の目的物(1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼン)が68.8g得られた。フッ素化工程(第2工程)における収率は61.2%であった。
【実施例2】
【0078】
[第1工程]3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドの製造
ジムロート冷却管を備えた1000mlにフラスコに3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒド:203.0g(1.0mol)およびDMF:7.3g(0.1mol)を仕込み攪拌しながら内温を20℃以下に冷却し、この中に塩化チオニル:833.0g(7.0mol)を滴下した。滴下後は還流温度(72〜79℃)に昇温し3時間反応を行った。この時の反応液(反応液を一部採取し水洗浄後の有機相)の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドが98.2%であった。この他に、原料の3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドが0.6%であった。
【0079】
反応後は反応液を氷水中に添加後、有機物層を二層分離した。この反応液を水洗浄、炭酸水素ナトリウム水溶液洗浄、さらに水洗浄した。洗浄後の反応液に硫酸マグネシウムを加え、攪拌後濾過をした。濾液で得られた反応液の重量は246.5gであった。
【0080】
得られたフッ素化反応液はヘリパックを充填した20cmの蒸留塔で蒸留精製した。
この蒸留によって純度98.4%の目的物(3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリド)が233.2g得られた。塩素化工程(第1工程)における収率は90.4%であった。
[第2工程]1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンの製造
攪拌機、圧力調整弁を備えた冷却還流管、熱電対、圧力計、サンプリング管を備えた金属製500mLオートクレーブに、第1工程で得られた3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリド:129.0g(0.50mol)及び無水フッ化水素203.1g(10.16mol)を仕込み密閉とし、撹拌しながら内温を100℃に昇温し、反応を開始した。内圧が1.1MPaになるように圧力調整弁を調整し、反応の進行と共に発生する塩化水素を圧力調整弁から系外へ放出しながら4時間反応を行った。この時の反応液(有機相)の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンが91.6%であった。この他に、未完全フッ素化体である1−ブロモ−3−フルオロ−5−クロロフルオロメチルベンゼンが3.5%、原料の3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドが3.2%、そして3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドが0.9%であった。
【0081】
反応終了後、回収した反応液を、水洗浄、炭酸水素ナトリウム水溶液洗浄、さらに水洗浄した。洗浄後の反応液に硫酸マグネシウムを加え、攪拌後濾過をした。濾液で得られた反応液の重量は100.1gであった。
【0082】
得られたフッ素化反応液はDixonパッキンを充填した20cmの蒸留塔で蒸留精製した。
【0083】
この蒸留によって純度99.6%の目的物(1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロベンゼン)が81.8g得られた。フッ素化工程(第2工程)における収率は72.7%であった。
【実施例3】
【0084】
[第1工程]3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドの製造
ジムロート冷却管を備えた500mlにフラスコに3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒド:203.0g(1.0mol)およびDMF:7.3g(0.1mol)を仕込み攪拌しながら内温を20℃以下に冷却し、この中に塩化チオニル:357.0g(3.0mol)を滴下した。滴下後は還流温度(73〜82℃)に昇温し3時間反応を行った。この時の反応液(反応液を一部採取し水洗浄後の有機相)の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドが97.9%であった。この他に、原料の3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドが0.8%であった。
【0085】
反応後は反応液を氷水中に添加後、有機物層を二層分離した。この反応液を水洗浄、炭酸水素ナトリウム水溶液洗浄、さらに水洗浄した。洗浄後の反応液に硫酸マグネシウムを加え、攪拌後濾過をした。濾液で得られた反応液の重量は246.6gであった。
【0086】
得られたフッ素化反応液はヘリパックを充填した20cmの蒸留塔で蒸留精製した。
この蒸留によって純度98.9%の目的物(3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリド)が227.7g得られた。塩素化工程(第1工程)における収率は88.3%であった。
[第2工程]1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンの製造
攪拌機、圧力調整弁を備えた冷却還流管、熱電対、圧力計、サンプリング管を備えた金属製500mLオートクレーブに、第1工程で得られた3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリド:129.0g(0.5mol)及び無水フッ化水素202.1g(10.1mol)を仕込み密閉とし、撹拌しながら内温を110℃に昇温し、反応を開始した。内圧が1.25MPaになるように圧力調整弁を調整し、反応の進行と共に発生する塩化水素を圧力調整弁から系外へ放出しながら4時間反応を行った。この時の反応液(有機相)の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンが97.3%であった。この他に、未完全フッ素化体である1−ブロモ−3−フルオロ−5−クロロフルオロメチルベンゼンが0.6%、原料の3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドが0.3%、そして3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドが0.9%であった。
【0087】
反応終了後、回収した反応液を、水洗浄、炭酸水素ナトリウム水溶液洗浄、さらに水洗浄した。洗浄後の反応液に硫酸マグネシウムを加え、攪拌後濾過をした。濾液で得られた反応液の重量は98.4gであった。
【0088】
得られたフッ素化反応液はDixonパッキンを充填した20cmの蒸留塔で蒸留精製した。
【0089】
この蒸留によって純度99.6%の目的物(1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼン)が86.1g得られた。フッ素化工程(第2工程)における収率は76.5%であった。
【実施例4】
【0090】
[第1工程]3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドの製造
ジムロート冷却管を備えた500mlにフラスコに3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒド:203.0g(1.0mol)およびDMF:7.3g(0.1mol)を仕込み攪拌しながら内温を20℃以下に冷却し、この中に塩化チオニル:178.5g(1.5mol)を滴下した。滴下後は還流温度(75〜85℃)に昇温し3時間反応を行った。この時の反応液(反応液を一部採取し水洗浄後の有機相)の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドが97.8%であった。この他に、原料の3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドが0.9%であった。
【0091】
反応後は反応液を氷水中に添加後、有機物層を二層分離した。この反応液を水洗浄、炭酸水素ナトリウム水溶液洗浄、さらに水洗浄した。洗浄後の反応液に硫酸マグネシウムを加え、攪拌後濾過をした。濾液で得られた反応液の重量は246.8gであった。
【0092】
得られたフッ素化反応液はヘリパックを充填した20cmの蒸留塔で蒸留精製した。
【0093】
この蒸留によって純度98.9%の目的物(3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリド)が228.8g得られた。塩素化工程(第1工程)における収率は88.7%であった。
[第2工程]1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンの製造
攪拌機、圧力調整弁を備えた冷却還流管、熱電対、圧力計、サンプリング管を備えた金属製500mLオートクレーブに、第1工程で得られた3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリド:129.0g(0.50mol)及び無水フッ化水素151.3g(7.57mol)を仕込み密閉とし、撹拌しながら内温を110℃に昇温し、反応を開始した。内圧が1.25MPaになるように圧力調整弁を調整し、反応の進行と共に発生する塩化水素を圧力調整弁から系外へ放出しながら4時間反応を行った。この時の反応液(有機相)の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼン96.9%であった。この他に、未完全フッ素化体である1−ブロモ−3−フルオロ−5−クロロフルオロメチルベンゼンが0.6%、原料の3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドが0.1%、そして3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドが0.9%であった。
【0094】
反応終了後、回収した反応液を、水洗浄、炭酸水素ナトリウム水溶液洗浄、さらに水洗浄した。洗浄後の反応液に硫酸マグネシウムを加え、攪拌後濾過をした。濾液で得られた反応液の重量は99.2gであった。
【0095】
得られたフッ素化反応液はDixonパッキンを充填した20cmの蒸留塔で蒸留精製した。
【0096】
この蒸留によって純度99.4%の目的物(1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼン)が85.0g得られた。フッ素化工程(第2工程)における収率は75.5%であった。
[参考例1]
3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドの代わりにベンズアルデヒドを20.3ml(200mmol)用い、塩化チオニル106mL(7.3eq.)滴下後、室温(20℃)で17時間攪拌した他は、実施例1の第1工程と同様の実験操作を行った(このときの反応率は100%(1H−NMR))。
【0097】
この時の反応液(有機相)の組成は1H−NMRの分析から、目的物であるベンザルクロリドが99%であった。この他に、原料のベンズアルデヒドが1%であった。
【0098】
反応後は反応液を氷水中に添加後、ジエチルエ−テルで抽出した。二層分離して有機物層を水洗浄後、硫酸マグネシウムにて乾燥後、濾過した。この溶液を減圧蒸留したところ、ベンザルクロリドを26.0g(161.4mmol)得た。この時の収率は81%であった。
[参考例2]
3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドの代わりに3,5−ジフルオロベンズアルデヒド1.1mL(10mmol)を用い、塩化チオニル5.3mL(7.3eq.)滴下後、室温(20℃)で17.5時間攪拌した他は、実施例1の第1工程と同様の実験操作を行った。
【0099】
この時の反応液の組成は、1H−NMRの分析から、目的物である3,5−ジフルオロベンザルクロリド7%であり、この他に、原料の3,5−ジフルオロベンズアルデヒドが81%、そして下記に表される化合物
【0100】
【化11】

【0101】
が12%で得られた(なお、本参考例では最終的な単離精製までは行っていない)。
[参考例3]
3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドの代わりにベンザルクロリド0.8g(5mmol)を用い、フッ化水素を過剰量用いて室温で6時間攪拌した後は、実施例1の第2工程と同様の実験操作を行った。
【0102】
しかしながら、反応後の反応液(有機相)の組成をガスクロマトグラフィーで分析したところ、構造未定の残渣が得られるだけで、目的物であるベンザルフルオリドの生成は確認できなかった(なお、本参考例では得られた残渣の後処理操作までは行っていない)。
[参考例4]
3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドの代わりにベンザルクロリド0.8g(5mmol)を用い、フッ化水素を過剰量用いて100℃で16時間攪拌した後は、実施例1の第2工程と同様の実験操作を行った。
【0103】
しかしながら、反応後の反応液(有機相)の組成をガスクロマトグラフィーで分析したところ、構造未定の残渣が得られるだけで、目的物であるベンザルフルオリドの生成は確認できなかった(なお、本参考例では得られた残渣の後処理操作までは行っていない)。
[参考例5]
3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドの代わりにベンザルクロリド0.8g(5mmol)を用い、フッ化剤としてフッ化カリウム(KF)1.74g(6eq.)、DMF(1M)を用いて100℃で17時間攪拌した。
【0104】
しかしながら、反応後の反応液(有機相)の組成を1H−NMRで分析したところ、目的物であるベンザルフルオリドが全く得られず、反応が全く進行しなかった(なお、本参考例では得られた残渣の後処理操作までは行っていない)。
[参考例6]
3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドの代わりにベンザルクロリド0.8g(5mmol)を用い、フッ化剤としてフッ化セシウム(CsF)4.56g(6eq.)、DMF(1M)を用いて100℃で17時間攪拌した。
【0105】
しかしながら、反応後の反応液(有機相)の組成を1H−NMRで分析したところ、目的物であるベンザルフルオリドが全く得られず、反応が全く進行しなかった(なお、本参考例では得られた残渣の後処理操作までは行っていない)。
【0106】
なお、実施例及び参考例を表1、表2として以下にまとめる。
【0107】
【表1】

【0108】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の2工程を含む、1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンの製造方法。
第1工程:式[1]で表される3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒド
【化1】


を塩素化剤と反応させ、式[2]で表される3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリド
【化2】

を得る工程。
第2工程:第1工程で得られた3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドを、フッ化水素と反応させて、式[3]で表される1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼン
【化3】

を得る工程。
【請求項2】
塩素化剤が、塩化チオニル(SOCl2)、又は5塩化リン(PCl5)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
塩素化剤が、塩化チオニル(SOCl2)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
3−ブロモ−5−フルオロベンザルクロリドを、フッ化水素と反応させる際(第2工程)、得られた1−ブロモ−3−フルオロ−5−ジフルオロメチルベンゼンと共に生成した塩化水素(HCl)を反応系外に排出しながら反応を行うことを特徴とする、請求項1乃至3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
式[1]で表される3−ブロモ−5−フルオロベンズアルデヒドが、式[4]で表される5−フルオロ−1,3−ジブロモベンゼン
【化4】

を、アルキルマグネシウムハライドと反応させて3−ブロモ−5−フルオロフェニルマグネシウムハライドに変換した後に、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)と反応させて得られることを特徴とする、請求項1乃至4の何れかに記載の方法。

【公開番号】特開2009−184976(P2009−184976A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27116(P2008−27116)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】