説明

1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの製薬組成物及びその用途

製薬組成物は、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン又はその製薬上許容できる塩を含む。この組成物は、LTB4又はTXA2により誘起される障害を治療し、その発症を予防し又は遅延させるために使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2002年12月3日付け米国特許出願第60/430,770号の優先権を主張する。
発明の分野
本発明は、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンを含有する製薬組成物及びそのような化合物の治療法への用途に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
2,3−ベンゾジアゼピン類
ある種の2,3−ベンゾジアゼピン類は、それらの潜在的なCNS調節活性のために広く探求されてきた。トフィソパム(Tofisopam)(グランダキシン(登録商標))(構造式をその原子の番号付けと共に以下に示す。)、ギリソパム(Girisopam)及びノリソパム(Norisopam)のような化合物が、相当な抗不安活性及び抗精神病活性を有することが証明された。
【化1】

【0003】
トフィソパムは、人間において、ジアゼパム(バリウム(登録商標))及びクロルジアゼペポキシド(リブリウム(登録商標))のような広く使用されている1,4−ベンゾジアゼピン(BZ)抗不安薬の活性プロフィルと有意に異なっている活性プロフィルを有することが示された。また、1,4−ベンゾジアゼピン類は、鎮静−催眠性活性を有することに加えて、いくつかの疾病状態に治療上有用であるがそれでも潜在的に厄介な副作用のある筋弛緩性及び鎮痙性を持っている。従って、1,4−ベンゾジアゼピン類は、単独で投与されるときに安全であるが、アルコールを含めて他のCNS薬剤と併用する際には危険であり得る。
【0004】
これと対照的に、トフィソパムは、評価できる鎮静、筋弛緩又は鎮痙性を有しない非鎮静性の抗不安薬である(ホルバス他、Progress in Neurobiology、60(2000):309−342)。臨床研究では、トフィソパムは、精神運動性能を損なうよりもむしろ向上させ、エタノールとの相互作用を示さなかった(同上)。これらの観察は、トフィソパムが中枢BZ受容体と相互作用せずに末梢BZ受容体に弱く結合するだけであることを示すデータと符合する。
【0005】
トフィソパムと構造的に類似する他の2,3−ベンゾジアゼピン類が研究され、色々な活性プロフィルを有することが示された。例えば、GYKI−52466及びGYKI−53655(構造式を以下に示す。)は、AMPA(α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソオキサゾールプロピオン酸)部位で非競合的グルタメート拮抗物質として作用し、神経保護、筋弛緩及び鎮痙活性を証明した(同上)。研究された2,3−ベンゾジアゼピン類の他のグループは、化合物GYKI−52895により代表され、選択的ドーパミン取り込み阻害剤として抗鬱及び抗パーキンソン療法に使用可能な活性を示す。
【化2】

【0006】
トフィソパムは、(R)−エナンチオマーと(S)−エナンチオマーとのラセミ混合物である。これは、ベンゾジアゼピン環の5−位置に不斉炭素、即ち、4個の異なった基が結合している炭素があるためである。
【0007】
トフィソパムの分子構造及び立体配座性がNMR、CD及びX線結晶学によって決定された(ビジー他、Chirality、1:271−275(1989))。2,3−ジアゼピン環は、2個の異なった配座体として存在する。主要な配座体である(+)R及び(−)Sは準赤道結合位置に5−エチル基を有するが、少数の配座体である(−)R及び(+)Sにおいては5−エチル基は準軸結合位置にある。従って、ラセミ体トフィソパムは、4個の分子種、即ち、2個のエナンチオマーであってそれぞれが二つの立体配座で存在するものとして存在できる。旋光性の符合は、ジアゼピン環を一方の配座体から他方の配座体に反転させると逆になる。結晶形では、トフィソパムは、主要な立体配座としてのみ存在し、右旋性のトフィソパムは(R)絶対配置である(トス他、J.Heterocyclic Chem.、20:709−713(1983);ホガシ他、Bioorganic Heterocycles、H.C.ファンデルプラス、L.エトボス、M.シモンギ編、ブダペスト アムステルダム:Akademia;Kiado−Elsevier、229:233(1984))。
【0008】
一般的に、2,3−ベンゾジアゼピン類の(+)配座体と(−)配座体の結合差が、トフィソパムについて、ヒトアルブミンによる結合研究において報告された(シモンギ他、Biochem.Pharm.、32(12):1917−1920(1983))。また、トフィソパムの(+)配座体と(−)配座体は、平衡体で存在すると報告された(ジラ他、J.of Liquid Chromatograpy & Related Technologies、22(5):713−719(1999)並びにその中の参考文献)。
【0009】
トフィソパムの光学的に純粋な(R)−エナンチオマーである(R)−1−(3,4−ジメトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンが単離されて、ラセミ混合物の非鎮静性抗不安活性を持つことが示された。米国特許第6,080,736号(この全ての開示を参照することによってここに含める。)を参照されたい。
【0010】
トフィソパムの代謝
トフィソパムは、人間、ラット、犬、猿及び兎において、ホスト種に依存して、6個の主要代謝産物のうちの1個以上に代謝される。
【0011】
【表1】

トモリ他、J.of Chromatography、241(1982)、p89−99を参照。
【0012】
上記の命名化合物のうちで、化合物1、3及び5は人間における代謝産物として同定された。これらの化合物は合成され、ある種の薬理学的アッセイ法で試験された。C.伊藤、“ベンゾジアゼピン誘導体の構造−活性の関係についての行動薬理学的研究、特に、2,3−ベンゾジアゼピンの活性に関して”J.Tokyo Med.College、39:369−384(1981)。マウスにおける攻撃抑止率のアッセイ法において、化合物1及び3は0%の攻撃抑止率を示し、化合物5は28.6%の攻撃抑止率を示した。ラットにおけるムリサイド(muricide)(マウス殺し行動)のアッセイ法において、化合物3は0%のムリサイド抑止率を示したが、化合物1及び5はそれぞれ20%のムリサイド抑止率を示した。抗ノルアドレナリン効果を試験するためのアッセイ法において、化合物1は効果を示さなかったが、化合物3及び5は測定可能な活性を証明した。
また、化合物1、3、5及び6が米国特許第4,322,346号(その全ての開示を参照することによってここに含める。)に開示された。化合物3はマウスにおいてナルコーシス−増強活性を証明したと報告されている。
【0013】
ロイコトリエンB4(LTB4
ロイコトリエン類は、プロスタグランジン及びスロモボキサンと共に、アラキドン酸代謝の産物である。LTB4は、免疫複合物、食作用又は他の刺激によって活性化すると、白血球、特にマクロファージ及び単球によって産生される。LTB4は、炎症部位への好中球及びマクロファージの移動(化学走性)を刺激する潜在的な化学走性剤である。LTB4の構造式を以下に示す。
【化3】

【0014】
LTB4の知られた病態生理学的応答には、潜在的な好中球化学走性活性の誘発、血管系に対する多形核白血球(PMN)の付着の促進、血管透過性の増大、PMNによるリソソーム酵素の放出の刺激が含まれる。LTB4の前炎症作用がインビボで証明されたが、ここではヒト皮膚への局所LTB4がPMN及び他の炎症性細胞の浸潤を促進させる。LTB4の皮内注射は注射部位での好中球の蓄積を誘発させる。LTB4の静脈内注射は、急であるが一過性の好中球減少症を生じさせる。キングスバリー他、J.Med.Chem.、36:3308−3320(1993)並びにその中の参考文献(これらの全ての開示を参照によってここに含める。)を参照されたい。
【0015】
更に、炎症部位での生理学的に適切なLTB4濃度の存在は、例えば、乾癬、喘息及び激しい痛風のような疾病状態と関連し、結腸粘膜においては炎症性腸疾患と関連し、患者からの髄液においては激しいリュウマチ様関節炎と、再灌流では損傷と関連した。これらの観察の全ては、LTB4が人間の炎症性疾病と連座していることを裏付けている(キングスバリー他及びグリフェス他、Proc.Natl.Acad.Sci.、Vol.92、p517−521(1995年1月)並びにその中の参考文献)。
【0016】
炎症性障害
クローン病及び潰瘍性大腸炎は、纏めて炎症性腸疾患(IBD)と称され、小腸及び結腸に影響する病因不明の慢性再発性炎症性疾病である。炎症性腸疾患(IBD)は、小腸及び大腸のいずれか又は両方を巻き添えにする可能性がある。これらの障害は、それらの病因が分からないために“特発性”炎症性腸疾患のカテゴリーに入る。
【0017】
一般的に、病理学的知見は特異的ではないが、それらはIBDの特別な形を示唆し得る。“激しい”IBDは急性の炎症を特徴とする。“慢性の”IBDは陰窩の歪み及び瘢痕の構造的変化を特徴とする。用語“陰窩”とは、小腸を取り巻く連結組織中に突き出た深い小窩をいう。陰窩膿瘍(激しいIBDは陰窩の内腔に好中球が存在することが特徴である。)は、IBDの多くの形で起こり得るが、潰瘍性大腸炎ではない。正常な条件下では、陰窩の基底における上皮は幹細胞の増殖の部位であり、分化した細胞は上向きに動き、絨毛の先端で3〜5日後に落下する。この正常な過程は、適切な腸の機能にとって必要であって、IBDによって中断される。
【0018】
潰瘍性大腸炎(UC)は、拡散性粘膜疾患として遠位有意で結腸を巻きぞえにする。直腸は実質的に常に巻きぞえにされ、結腸の更なる部分も巻きぞえにされて、連続パターンで直腸から近位に拡大していく。潰瘍性大腸炎は、最もしばしば、年齢が15〜40歳の若い人に起こる。潰瘍性大腸炎は、結腸(大腸)又は直腸の内層にのみ起こる。直腸に局在化したときは、それは“直腸炎”と呼ばれる。
【0019】
クローン病は、緩解期間(人が健康であると感じる時間)と再発期間(人が病気であると感じるとき)を有する慢性の炎症性疾患である。クローン病は、腸壁の深層に起こる炎症−潰瘍化の過程である。影響を受ける最も普通の領域は、回腸と呼ばれる小腸の下方部分及び結腸の最初の部分である。このタイプのクローン病は、回結腸炎と呼ばれる。クローン病は、時々、上部の胃腸器官の任意の部分に影響を及ぼす可能性がある。単純ヘルペスと類似するアフタ性潰瘍が普通である。また、潰瘍は食道、胃及び十二指腸にも起こる可能性がある。
【0020】
IBDのための治療法は歴史的にコルチコステロイドの投与を伴った。しかし、長期間のコルチコステロイド療法の欠点として、腸管窄孔のマスキング(又は誘発)、骨壊死及び代謝性骨疾患がある。更なる問題は、コルチコステロイド依存性の発現と関連する(ハブナウアー、New England Journal of Medicine、334(13):841−848(1996))。スルファサラジン及びメサラミンのようなアミノサリチル酸エステルが中程度の激しさの潰瘍性大腸炎及びクローン病を治療し且つ緩解を維持するのに使用された(同上、843)。アザチオプリン及びメルカプトプリンのような免疫調節薬がIBDを患った患者のための長期間治療に使用された。これらの薬剤の双方に共通した合併症には、患者のうち3〜15%の発症率で起こる膵炎、規則的なモニターを要求する骨髄抑制が含まれる。シクロスポリン及びメトトレキサートのような更に潜在的な免疫抑制薬が使用されたが、これらの薬剤の毒性がそれらの使用を難治性疾病状態の特定の状況に限定している。その他の治療方法には、抗生物質療法及び栄養療法がある。しばしばであるが、治療は、腸の外科的切除に加えて、上記の薬剤療法の併用を伴う。
【0021】
IBDにとっては治癒はない。究極的には、IBDの慢性且つ進行性が、免疫系に対する総合的な全身効果を最小限にしながら局部抗炎症性効果を最大限にする長期間治療を要求する。
【0022】
クローン病のような慢性炎症性障害は、典型的には、炎症が激しく且つ急性治療を要求する期間と期間との間に緩解期間を表わす。これは、個体が炎症性障害を発現し又は発現するであろうと予め分かる状況の一例である。
【0023】
LTB4により誘起されると思われる他の慢性炎症性状態は乾癬である。乾癬は、肘、膝又は頭皮のような損傷領域上の慢性で再発性の丘疹鱗屑性の斑であるが、皮膚のどこにも現われる可能性がある。乾癬は、何ほどかの個体で紅斑性狼瘡と共存し得る。一般に知られた治療には、ソラレンの局所投与がある。“ソラレン”とは、多くの種々の植物、特にソラレア・コリリホリアに見出される物質群である。ソラレンは、核酸と相互作用し、また研究手段としても使用される。また、乾癬は長波長紫外線により治療される。治療は乾癬症候群を治癒させないし又はその再発を防止しない。
【0024】
LTB4により誘起されると思われる他の慢性炎症性障害は、関節の自己免疫病であるリューマチ様関節炎である。リュウマチ様関節炎は、次の基準1〜7によって特徴づけられ、基準1〜4は6週間以上も存在する。(1)関節及び関節周囲の朝の硬直で、最大の改善の少なくとも1時間前まで続くもの、(2)医師により観察される3箇所以上の関節の軟質組織の膨大(関節炎)、(3)近位の脂節骨間の、中手の脂節骨間の又は手首の関節の膨大(関節炎)、(4)対称的な膨大、(5)リュウマチ様結節、即ち、単核細胞の柵及びリンパ球浸潤の外部被膜により取り囲まれた中央壊死を特徴とする肉芽種性病変。これらの病変は、特に、リュウマチ様関節炎又は他のリュウマチ様障害を患った個体の肘のような圧力点で、皮下結節として現われる。(6)リュウマチ様因子、即ち、リュウマチ様関節炎を患った個体の血清中に自己抗体の存在、そして(7)X線撮影で見られる浸食、即ち、X線で見られる関節の病変。
【0025】
リュウマチ様関節炎は、治癒が分からない慢性の障害である。リュウマチ様関節炎の治療の主な着地点は、痛み及び不快感を減少させ、変形及び関節機能の損失を防止し、生産的で活動的な生活を保持することである。従って、炎症を抑制し、機械的及び構造的な異常を補助装具によって較正し又は補償しなければならない。治療のオプションとしては、関節応力の削減、物理的及び職業的療法、薬物療法並びに外科術の介入がある。
【0026】
リュウマチ様関節炎の治療には3種の一般的な薬物群:非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)、コルチコステロイド及び緩解剤又は疾病緩和性抗リュウマチ薬(DMARD)が通常使用される。NSAID及びコルチコステロイドは短い作用発現を有するが、DMARDは臨床効果を表わすのに数週間又は数ヶ月を要しよう。DMARDには、レフルノマイド(アラバ(登録商標))、エタナーセプト(エンブレル(登録商標))、インフリキシマブ(レミカード(登録商標))、抗マラリア薬、メトトレキサート、金塩、スルファサラジン、d−ペニシラミン、シクロスポリンA、シクロホスファミド及びアザチオプリンが含まれる。軟骨の損傷及び骨浸食が最初の2年間にしばしば起こるために、リューマチ学者は現在DMARD剤の方に積極的に動いている。
【0027】
コルチコステロイドの慢性的な投与によるリュウマチ様関節炎の治療は、IBDに関して上で検討したのと同じ副作用プロフィルを伴う。また、NSAIDの慢性的な投与も副作用を生じさせる。NSAIDの最も普通の毒性は胃腸障害である。プロスタグランジンが腎血流の調節及び糸球体ろ過の維持に役割を果たすために、NSAIDはある種の患者において腎機能を損なう可能性がある。体重増加及びクッシングの出現がしばしば起こる問題であり、患者の不平の源泉である。最近の研究は、特に毎日10mg以上の薬量での低薬量プレドニソンと関連した心筋の危険性の増大及び骨粗鬆症の促進に対する関心を提起した。
【0028】
痛風は、LTB4により誘起されると思われる他の炎症性障害である。痛風は、雄(男性)で主に起こる尿酸代謝の障害を特徴とする。痛風は、関節、特に足及び手の関節の苦しい炎症と、血中の尿酸レベルの上昇及び関節周囲への尿酸塩結晶の付着から生じる関節攻撃により特徴づけられる。状態は慢性になり、変形を生じさせる可能性がある。
【0029】
痛風は、個体が炎症性障害を発現し又は発現しそうであることが予め分かる他の状況を表わすことができる。放射線療法又は化学療法を受けている患者の場合には、個体は、腫瘍塊の溶解と関連した血中尿酸レベルの劇的な上昇を経験しよう。このような大きな尿酸の増大は、関節の髄液中に尿酸塩結晶を付着させ、これにより炎症性障害の痛風を生じさせる可能性がある。このような血中尿酸レベルの上昇がありそうなことが分かるときは、LTB4拮抗物質による予防が痛風の炎症性状態を予防するように作用できる。
【0030】
放射線により誘発された胃腸の炎症は、LTB4により誘起されると思われる他の炎症性障害である。放射線は癌細胞を損傷させることにより働くが、不幸にも非疾病組織も同様に損傷させ、それに応答して典型的な炎症反応を生じさせる可能性がある。従って、治療用放射線は、一般的には、異常な増殖性組織を含有する患者の身体の限られた領域に、異常組織により吸収される線量を最高にし且つ近傍の正常組織により吸収される線量を最少限にするように適用される。しかし、異常な組織に治療用電離放射線を選択的に照射することは困難である(不可能でないとしても)。従って、異常な組織の近傍の正常組織も、治療の過程を通じて電離放射線の潜在的に障害性の線量を被爆する。更に、患者の全身を放射線に曝すことを要求するいくつかの治療は、“全身照射”又は“TBI”と呼ばれる手順である。従って、異常な増殖性細胞を破壊するにあたっての放射線療法技術の効能は、近傍の正常細胞に及ぼす関連した細胞毒性効果と必ずバランスされる。
【0031】
放射線療法の後に又はその間に、LTB4により誘起される炎症の過程が引き金になって、腸に損傷を生じさせ、GI器官の内層の細胞の脱落をもたらす可能性がある。放射線により誘発された胃腸の炎症は、個体が炎症性障害を発現し又は発現しそうであることが予め分かる他の状況を表わすことができる。放射線療法を受けている患者の場合には、胃腸器官の炎症、損傷及び脱落は、放射線療法の予期可能な副作用である。
【0032】
しかして、IBD、リュウマチ様関節炎、痛風、乾癬及び放射線により誘発された胃腸の炎症のような炎症性障害の治療に有用である新しい抗炎症剤が必要とされている。特に、慢性的に長期間にわたって治療に使用するのに適切である薬剤が必要とされている。更に、電離放射線療法のような観察可能な場合に副次的に起こるLTB4により誘起される炎症性障害の予防に有用である薬剤が必要とされている。
【0033】
トロンボキサンA2
LTB4と似たトロンボキサンA2(TXA2)は、アラキドン酸代謝経路の産物である。TXA2は、血小板凝集、血管や気管支の平滑筋細胞(SMC)の収縮、血管SMC及び内皮細胞での肥大性及びミトゲン性応答の増強を含めて、種々の示差細胞応答を誘発させる。
【0034】
TXA2は喘息の重要な誘起物質(mediator)であると思われる。何故ならば、それは気道の平滑筋の収縮を誘発させる可能性があるためであり、また、気道の反応性の増大がアレルゲン、血小板活性化因子(PAF)、LTC4、LTD4、LTB4、ブラジキニン、エンドセリン、エンドトキシン及びオゾンにより誘発された動物モデルにおいてそれが気道過剰応答性に関係したためである(J.ドン他、Expert Opin.Investig.Drugs、11(2)(2002)並びにその中の引用文献を参照。これらの全ての開示は参照することによりここに含める。)。
【0035】
また、TXA2は、脱出した髄核により誘発される根痛の病態生理学と関係した。ラットモデルでの研究で、ラットの腰椎神経根に髄核を適用することにより誘発された痛覚過敏におけるTXA2(及びLTB4)の役割が検査された。硬膜下のスペースに注射されたTXA2シンターゼ阻害剤は、硬膜下注射の3日後及び7日後のどちらも機械的痛覚過敏を減少させた。髄核の適用又は硬膜下注射に続く有害な温度刺激に対する感度に有意差はなかった。TXA2シンターゼ阻害剤の硬膜下注射は、椎間板の脱出に起因する痛い神経根障害を減少させるかもしれない。
【0036】
更に、TXA2は、線維芽細胞成長因子(FGF)刺激脈管形成のインビボでの誘起物質として関係した。T.ダニエル他、Cancer Research、59:4574−4577(1999年9月15日)(その全ての開示を参照することによりここに含める。)を参照されたい。更に、トロンボキサンシンターゼ阻害剤がマウスモデルにおいて肺癌の転移を阻止することが示され、しかして脈管形成及び腫瘍転移におけるTXA2の関わり合いを立証した。D.ニー他、Biochem.Biophys.Res.Commun.、267(1):245−251(2000)(その全ての開示を参照することによりここに含める。)を参照されたい。
【0037】
また、TXA2は、抗凝固活性を持つものと思われる。シェンク他、“HN−11 500の抗血小板凝集及び抗凝固効果、選択的トロンボキサン受容体拮抗物質”、Thromb.Res.103(2):79−91(2001年7月15日)を参照されたい。
【0038】
抗凝固剤は、慢性炎症性障害を凝固蛋白質欠損と関連させるモデル(凝固の免疫系活性化(ISAC)という。)に従う慢性的な炎症に潜在的な治療価値を有する。このモデルは、ある種の慢性炎症病と診断された個体の大多数が、臨床基準に基づいて、疾病ターゲットとして潜在的に規定され又は内皮細胞(EC)と共に抗燐脂質抗体症候群(APS)を引き起こし得ることを提案する。これらの患者は、凝固活性化マーカーの増大及び可溶性フィブリン単量体(SFM)の発生に帰する血液粘度値の増大により証明される高凝固性状態を有する。CFS/FMの過程及び関連過程は、種々の病原体(CMV、HHV6、マイコプラズマ、クラミジア・ニューモニアなど)又はいくつかのワクチンが引き金となって、EC保護蛋白質B2GPI&アネキシンVと交差反応する抗体を誘発させる病原体により誘起された免疫活性化を生じさせる可能性がある。これらの抗体は、EC表面から保護蛋白質を追い出して、毛管床においてEC表面上にホスファチジルセリン(PS)を露出させる。
【0039】
病原体は、組織因子(TF)の前血栓症発現の方を選んで高血栓性環境(トロンボモジュリン、tPA)を下方に調節するようにECのサイトカイン調節を含む炎症性応答を誘発させる。TF及びPSの露出は、EC表面に対する凝固テナーゼ及びプロトロンビナーゼ複合体の結合を可能にさせる。これは、SFM形成を導くトロンビンを発生させる。SFMは、容易に二量化し、血液粘度を増大させ、EC表面上にフィブリン(ノイド)付着物として沈澱し、局所的虚血及び病因を作り出し、微小循環における栄養及び酸素の送出を妨げる。因子XIIIを活性化させてフィブリンを塊に交差結合させるのに十分なトロンビンの突発的増加がないために血塊は形成しない。
【0040】
凝固調節蛋白質、例えば、蛋白質C、蛋白質S、因子VL、プロトロンビン遺伝子変異体、ヘパリンコーファクターII、tPA、PAI-1、Lp(a)、又は高められた因子II、X、XII、又はホマシステインの遺伝的欠損は、患者の75%以上において素因性である。この高凝固性は、即時の血栓病(100%の閉塞)を生じさせないがむしろフィブリンの付着(50〜95%)を生じさせるために、この抗燐脂質抗体の過程についての適切な名称が凝固の免疫系活性化(ISAC)症候群であろうことが示唆された。
【0041】
ISACモデルは、これらの患者の何がしかにおける低薬量抗凝固療法(ヘパリン又はワルファリン)について報告された治療上の利益についての説明を提供する。刊行された協会報による診断には、慢性疲労症候群/線維筋肉痛(CFS/FM)、不妊症(反復性胎児損失及び胎児消失症候群)、顎の骨粗鬆症、多発性硬化症(MS)、鬱病及び自閉症が含まれる。研究中の診断には、クローン病及び炎症性腸疾患(IBD)、後期ライム病、シオグレン症候群(SS)、一過性虚血発作(TIA)、注意欠乏障害(ADD)及びパーキンソン病が含まれる。ベルグ他、“抗燐脂質抗体症候群(APS)の変形としての慢性疲労症候群及び(又は)線維筋肉痛、説明モデル及び実験室診断方法”、Blood Coagulation and Fibrinolysis、10:435−438(1999)を参照されたい。
【0042】
しかして、TXA2により誘起される障害、例えば喘息、痛み、腫瘍であってそれと関連した脈管形成がTXA2により誘起されたものの治療において、また慢性的な炎症病、例えば慢性疲労症候群/線維筋肉痛、IBD、クローン病、後期ライム病及びIBDの治療において有用である新しいTXA2薬剤が必要とされる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0043】
発明が解決しようとする課題は上記した通りである。
【課題を解決するための手段】
【0044】
本発明の一具体例によれば、製薬上許容できるキャリアーと化合物1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン又はその製薬上許容できる塩を含む製薬組成物が提供される。
この化合物は、次式:
【化4】

(ここで、C*はキラルな炭素であり、波線によって示される結合はC*の周囲の絶対立体配座が(R)か又は(S)であり得ることを表わす。)
を有する。
【0045】
本発明の他の具体例では、LTB4により誘起された炎症性障害を治療する方法であって、そのような治療の必要時に個体に有効量の1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン又はその製薬上許容できる塩を投与することからなる、前記の治療方法が提供される。
【0046】
本発明の他の具体例では、LTB4により誘起される炎症性障害の発症を予防し又は遅延させる方法であって、そのような炎症性障害の発現の恐れがある個体に有効量の1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン又はその製薬上許容できる塩を投与することからなる、該炎症性障害の発症の予防又は遅延方法が提供される。
【0047】
本発明の他の具体例では、TXA2により誘起される障害を治療する方法であって、そのような治療の必要に応じて個体に有効量の1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン又はその製薬上許容できる塩を投与することからなる、該障害の治療方法が提供される。
【0048】
本発明の他の具体例では、TXA2により誘起される炎症性障害の発症を予防し又は遅延させるための方法であって、炎症性疾病状態の発現の恐れがある個体に有効量の1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン又はその製薬上許容できる塩を投与することからなる、該炎症性障害の発症の予防又は遅延方法が提供される。
【0049】
また、本発明は、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン、その(R)若しくは(S)−エナンチオマー又はその製薬上許容できる塩を薬剤に使用することに関する。
【0050】
本発明の他の観点によれば、上記の化合物は、(i)LTB4により誘起される炎症性障害を治療し、又はそのような障害の発症を予防し若しくは遅延させるための、(ii)TXA2により誘起される障害を治療するための、並びに(iii)TXA2により誘起される炎症性障害の発症を予防し又は遅延させるための薬剤の製造に使用される。
【0051】
本明細書で検討する組成物及び方法においては、該化合物は、ラセミ−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン、又は実質上単離された(R)若しくは(S)−エナンチオマーからなる。好ましくは、投与される化合物は、該化合物の総重量の80重量%以上を占める1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの単独エナンチオマーの形態にある。
【0052】
更に好ましくは、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの単独エナンチオマーの量は、該化合物の総重量の85重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。他の具体例では、エナンチオマー純度は95重量%以上、又は99重量%以上でさえある。一つの特別の具体例によれば、該化合物は90重量%以上の(R)−エナンチオマーからなる。
【0053】
定義
用語“炎症”及び“炎症性応答”は、損傷に対する生きている組織の防御反応をいう。応答は損傷を抑え且つ修復させるように働く。
【0054】
“LTB4により誘起される炎症性障害”又は“LTB4により誘起される障害”とは、炎症の部位でのLTB4の存在の観察により又はLTB4が障害の炎症状態の病因若しくは進行に係わっているという他の証拠によって、LTB4による誘起が障害の病因又は進行に因子として関係している炎症性応答から生じる障害を意味する。
【0055】
用語“TXA2により誘起される障害”とは、TXA2による誘起が障害の病因若しくは進行に又は機序に因子として関係していて、これにより該障害がそれを患っている生体に反対方向に影響するような障害を意味する。
【0056】
用語“脈管形成又は血管形成”とは、新しい毛細血管の発現を伴う組織の血管新生の過程を意味する。腫瘍の血管新生は、通常は、もっと迅速な増殖の前触れであり、しばしば転移の前触れである。
【0057】
用語“喘息”は、苦しい呼吸の突発性反復性発作、胸の収縮、そして気管支の痙攣性収縮に起因する咳を特徴とする、しばしばアレルギーから生じる慢性呼吸疾患をいう。
【0058】
語句“光学活性”は、物質が面偏光の面を回転させる性質をいう。光学活性である化合物は、その鏡像上で重なることはできない。ある物体のその鏡像上の非重複性の性質はキラリティと呼ばれる。
ある分子における“キラリティ”の性質は、その分子をその鏡像上で非重複性にさせる構造的特色から生じ得る。キラリティを生じさせる最も普通の構造的特色は、不斉炭素原子、即ち、4個の均等でない基が結合している炭素原子である。
【0059】
用語“エナンチオマー”は、光学活性である純粋な化合物の2個の非重複性異性体のそれぞれをいう。単独のエナンチオマーは、不斉炭素原子に結合した4個の基を並べる一連の優先規則であるカーン・インゴールド・プレログ方式に従って示される。マーチ、“Advanced Organic Chemistry、第4版、p109(1992)”を参照されたい。4個の基の優先順位が決定されたならば、分子は、最低の順位の基が観察者から離れて指示されるように配向される。次いで、他の基の下がる順位の順序が時計方向に進むならば、その分子は(R)で示され、また他の基の下がる順位が時計と逆方向に進むならば、その分子は(S)で示される。下記の例では、カーン・インゴールド・プレログの順位則はA>B>C>Dである。最低の順位の原子Dは観察者から離れて配向される。
【化5】

【0060】
用語“ラセミ体”又は語句“ラセミ混合物”は、2個のエナンチオマーの50−50混合物であって、その混合物が面偏光を回転させないようなものをいう。
【0061】
用語“実質上単離された”若しくは“他のエナンチオマーを実質上含まない”又は用語“分割された”とは、式Iの光学活性化合物についていうのに使用するときは、組成が単独のエナンチオマーの80重量%以上であるように該化合物の(R)−エナンチオマー及び(S)−エナンチオマーが分離されたことを意味する。
【0062】
従って、“(S)−エナンチオマーを実質上含まない(R)−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン”とは、80重量%以上の(R)−エナンチオマーを含むと共に重量で20%未満の(S)−エナンチオマーを汚染物として含有する1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンを意味する。同様に、“(R)−エナンチオマーを実質上含まない(S)−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン”とは、80重量%以上の(S)−エナンチオマーを含むと共に重量で20%未満の(R)−エナンチオマーを汚染物として含有する1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンを意味する。
【0063】
用語“有効量”は、LTB4により誘起された炎症性障害を患っている患者に投与される薬剤の量を説明するために使用するときは、炎症性の過程を阻害させて、生理学的に適切な濃度のLTB4と関連した慢性又は急性の炎症を示す障害を患っている患者に投与したときに炎症の徴候の治療学的に有用で且つ選択的な削減をもたらすような化合物の量をいう。
【0064】
LTB4により誘起される炎症性障害の予防のために投与される薬剤の量を説明するのに使用するときの化合物の“有効量”は、LTB4により誘起される炎症性障害の恐れの増大と符合する期間の間に個体において炎症性障害の徴候の発症を予防し又は遅延させる量である。
【0065】
TXA2により誘起された痛みを患っている患者に対する治療法を説明するのに使用するときの用語“有効量”は、痛みが発生する過程を阻害させて、生理学的に適切な濃度のTXA2と関連した慢性又は急性の痛みを示す障害を患っている患者に投与に投与したときに痛みの感覚の治療学的に有用で且つ選択的な削減をもたらすような1−(3,4−ジメトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7−メトキシ−8−ヒドロキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの量をいう。
【0066】
腫瘍においてTXA2により誘起された脈管形成を患っている患者に対する治療法を説明するのに使用するときの用語“有効量”は、発達している腫瘍と関連した新しい血管が発生する過程を阻害させて、腫瘍の発達が生理学的に適切な濃度のTXA2と関連している腫瘍を患っている患者に投与したときに、腫瘍の発達の治療学的に有用で且つ選択的な減速をもたらすような1−(3,4−ジメトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7−メトキシ−8−ヒドロキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの量をいう。
【0067】
TXA2により誘起された喘息を患っている患者に対する治療法を説明するのに使用するときの用語“有効量”は、喘息を患っている患者に投与したときに喘息の徴候を改善させるような1−(3,4−ジメトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7−メトキシ−8−ヒドロキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの量をいう。
【0068】
発作又は他の大脳虚血状態を患った患者或いは発作又は他の大脳虚血状態を患う恐れが増大した患者に投与される薬剤の量を説明するのに使用するときの用語“有効量”は、そのような障害と関連したニューロン細胞死の治療学的に有用な削減又は除去をもたらすような化合物の量をいう。
【0069】
てんかんを患っている患者に投与される薬剤の量を説明するのに使用するときの用語“有効量”は、そのような障害と関連する発作の頻度、激しさ又はその両者の治療学的に有用な減少をもたらすような化合物の量をいう。
【0070】
用語“てんかん”は、自覚を失い又は失わず及び痙攣性発作を伴い又は伴わない運動、感覚又は精神的機能不全の反復性発作を特徴とする種々の神経学的障害のいずれかをいう。
【0071】
うっ血性心不全を患っている患者に投与される薬剤の量を説明するのに使用するときの用語“有効量”は、心不全の徴候、即ち、呼吸の短さ、浮腫、弱っていく心臓と関連した疲労の治療学的に有用な減少をもたらすような化合物の量をいう。
【0072】
細胞毒性化学療法、例えば、癌化学療法又は電離放射線療法と関連した骨髄抑制を患っている患者に対する治療法を説明するのに使用するときの用語“有効量”は、血液細胞の産生、特に顆粒球の産生を増大させて、それによって化学療法又は電離放射線療法を受けている個体に骨髄抑制の治療学的に有用な且つ選択的な削減を生じさせるような1−(3,4−ジメトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7−メトキシ−8−ヒドロキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの量をいう。
【0073】
細胞毒性化学療法、例えば、癌化学療法又は電離放射線療法の現在の又は次の投与に起因する骨髄抑制を発現する恐れが高い患者に対する治療法を説明するのに使用するときの用語“有効量”は、これらの治療法と関連した二次的な骨髄抑制を防止するために、血液細胞の産生、特にこのような治療法と一般に関連した顆粒球の産生の減少を防止し、減少させ又は遅延させるような1−(3,4−ジメトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7−メトキシ−8−ヒドロキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの量をいう。
【0074】
用語“個体”又は“主体”は、人間及び人間以外の動物を包含する。LTB4により誘起される炎症性障害を治療するための開示した方法に関しては、これらの用語は、その前後で別に示してなければ、このような炎症性障害に苦しめられている生体をいう。
【0075】
LTB4により誘起される炎症性障害の“発症を予防し”又は“遅延させる”開示した方法に関しては、これらの用語は、その前後で別に示してなければ、このような炎症性障害で苦しめられそうである生体についていう。このような炎症性障害を受けそうである個体の選択は、高い再発率を有することが歴史的に知られている炎症性状態、例えばIBDの存在を考慮することができる。また、このような炎症性障害の再発の見込みは、予め知られる組織の損傷、例えば外科的処置に起因するかもしれない。また、将来の炎症性障害も、初期の組織損傷の副作用から生じる可能性がある。この一例は、細胞毒性化学療法又は治療用放射線治療後の腫瘍塊の溶解に対して副次的に起こる高尿酸レベルの上昇が原因である痛風に起因する炎症である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0076】
本発明によれば、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン及びその製薬上許容できる塩類はLTB4受容体と相互作用し、しかしてLTB4により誘起される炎症性障害を治療し又は予防する方法に有用である。
このような炎症性障害には、クロン病及び潰瘍性大腸炎を含めて炎症性腸疾患、乾癬、痛風、リュウマチ様関節炎及び放射線誘発胃腸炎があるが、これらに限らない。
【0077】
更に、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン及びその製薬上許容できる塩類はTXA2受容体と相互作用し、しかしてTXA2により誘起された疾病の過程の治療方法に有用であって、このような疾病には痛み、喘息及び腫瘍の発現と関連した脈管形成、凝固の免疫系活性化並びに慢性炎症性障害が含まれるが、これらに限らない。
【0078】
有効量の1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの投与によって治療し又は予防できると思われる慢性炎症性障害には、例えば、慢性疲労症候群/線維筋肉痛、不妊、顎の骨壊死、多発性硬化症、鬱病、自閉症、クローン病、炎症性腸疾患、後期ライム病、シオグレン症候群、一過性虚血性発作、注意欠陥障害及びパーキンソン病がある。
【0079】
1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの製造
本発明で有用な1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンは、いくつかの方法のいずれか一つで製造することができる。これらの方法は、一般的には、トフィソパム及びトフィソパム類似体のような2,3−ベンゾジアゼピン類の合成に使用される合成戦略及び手順に従う。米国特許第3,736,315号及び同4,423,044号(トフィソパムの合成)並びにホーバス他、Progress in Neurobiology 60(2000):309−342及びその中の参照文献(トフィソパム及びその類似体の製造)(これらの全ての開示は参照することによってここに含める。)を参照されたい。また、先駆物質ベンゾピリリウム塩から置換2,3−ベンゾジアゼピンを製造するための反応プロトコルの三つの変法を開示するコロシ他の米国特許第4,322,346号(この全ての開示は参照することによってここに含める。)も参照されたい。2,3−ベンゾジアゼピン類を製造するための類似の合成順序が米国特許第3,736,315号(この全ての開示は参照することによってここに含める。)に開示されている。ベンゾピリリウム中間体の他の製造方法は、アリールアセトニド又はインダノン出発物質から出発する。E.V.クネツゥフ及びG.N.ドロフェンコ、Zh.Org.Khim.、6:578−581並びにM.バジュダ、Acta Chem.Acad.Sci.Hung.、40:295−307(1964)(これらの全ての開示は参照することによってここに含める。)を参照されたい。
【0080】
合成方法において、化学合成の生成物は、ラセミ−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンである。このラセミ混合物は、続いて、随意に、既知の分割方法を使用して分離されて、相当する(S)−エナンチオマーを実質的に含まない(R)−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンと、相当する(R)−エナンチオマーを実質的に含まない(S)−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンとを生成する。
【0081】
1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの分割
上で参照した合成手順を使用して、ラセミ−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの製造を実施する。このラセミ体は、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの個々の(R)−エナンチオマー及び(S)−エナンチオマーを単離するために分割さればならない。エナンチオマーの分割は、ラセミ−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンを、光学活性部分への共有結合によるか又は光学活性塩基若しくは酸による塩形成によって対のジアステレオマーに転化させることにより達成される。これらの二つの方法の何れも、第二のキラル中心を持った分子を与え、しかして対のジアステレオマーを生じさせる。このジアステレオマー対は、次いで、慣用の方法、例えば結晶化又はクロマトグラフィーにより分離される。
【0082】
ラセミ−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンは、(S)−ジベンゾイル酒石酸塩に転化することができ、これはSS立体配置とRS立体配置のジアステレオマー混合物である。対のジアステレオマー(R,S)及び(S,S)は、慣用の分離方法の使用を可能ならしめる異なった性質、例えば溶解度差を持っている。好適な溶媒からのジアステレオマー塩の分別結晶化は、このような方法の一つである。この分割は、ラセミ体トフィソパムの分割に首尾良く適用された。ハンガリー特許第178516号並びにトス他、J.Heterocyclic Chem.、20:09−713(1983)(これらの全ての開示は参照することによってここに含める。)を参照されたい。
【0083】
別法として、ラセミ−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンは、例えば、キラルなアシル化剤、例えば(S)−マンデル酸による3’−ヒドロキシ部分のアシル化を経て誘導体化することができる。生じたエステルは、第二のキラル中心を有し、従って結晶化又はクロマトグラフィーのような慣用の方法を使用して分離可能なジアステレオマー対として存在する。分離の後、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンを誘導体化したキラルな部分は除去することができる。
【0084】
ラセミ−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンは、クロマトグラフィーカラム、特に調整HPLCカラムのキラル固定相上での吸収差によって、ジアステレオマーの形成なしに、分離することができる。キラルHPLCカラムは、広範囲の分離用途に適合するように種々の充填材料と共に商業的に入手できる。ラセミ体2,3−ベンゾジアゼピン類を分割するのに好適である固定相の例には、下記のものが包含される。
(i)マクロ環状グリコペプチド、例えば、3個のポケット又は空隙を包囲する18個のキラル中心を含有するシリカ結合バンコマイシン、
(ii)キラルなα1−酸糖タンパク質、
(iii)ヒト血清アルブミン、
(iv)セロビオヒドロラーゼ(CBH)。
【0085】
キラルなα1−酸糖タンパク質は、高濃度の有機溶媒、高いpHと低いpH及び高温度に耐える球形シリカ粒子上で不動化された高安定性の蛋白質である。ヒト血清アルブミンは、弱酸や強酸、双性イオン化合物及び非プロトリシス性化合物の分割に特に好適であるが、塩基性化合物を分割するのに使用された。CBHは球形シリカ粒子上に不動化された非常に安定な酵素であり、多くの化合物類から塩基性薬剤のエナンチオマーを分離するために優先的に使用される。
【0086】
キロバイオテックV(登録商標)カラム(ASTEAC社、ホイッパニー、NJ)上で固定相としてマクロ環状グリコペプチドを使用するキラルクロマトグラフィーによるトフィソパムの分割が、米国特許第6,080,736号に開示されている。フィトス他(J.Chromatogr.、709:265(1995))が、CHIRAL−AGP(登録商標)カラム(クロムテク社、チェシア、UK)上の固定相としてキラルなα1−酸糖タンパク質を使用するキラルクロマトグラフィーによるラセミトフィソパムを分割するための他の方法を開示している。後者の方法は、(R)−エナンチオマーと(S)−エナンチオマーを分離し、またそれぞれのエナンチオマーの2個の配座体(以下に、検討する。)を分割する。これらのクロマトグラフィー方法は、一般的に、ラセミ体2,3−ベンゾジアゼピン類を個々の(R)−エナンチオマーと(S)−エナンチオマーに分離するために使用することができる。キロバイオテックV(登録商標)カラムは、上記の分離のために使用するものとして半調整サイズ(500mm×10mm)で入手できる。キロバイオテックV(登録商標)カラムの固定相は、大きい試料容量の調整クロマトグラフィーカラムを充填するためにばらで商業的に入手できる。
【0087】
また、2,3−ベンゾジアゼピン類の(R)−及び(S)−エナンチオマーは、一般的に下記するように、ベンゾジアゼピン環によって想定できる2個の安定な立体配座で存在できる。
【化6】

【0088】
本発明は、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの任意の及び全ての認識可能な立体配座体を使用する前記した組成物及び方法を包含する。
【0089】
本発明の組成物及び方法に使用される化合物は、製薬上許容できる塩の形を取ることができる。用語“塩”は、アルカリ金属塩を形成するように及び遊離酸若しくは遊離塩基の付加塩を形成するように普通に使用される塩類を包含する。用語“製薬上許容できる塩”は、製薬上の用途に有効性を有するようにある範囲内に毒性プロフィルを持つ塩類をいう。それでも、製薬上許容できる塩類は、本発明の実施に当たって有効性を、例えば、合成方法において又はラセミ混合物からエナンチオマーを分割する方法において有効性を有する、例えば高い結晶性のような性質を有する。好適な製薬上許容できる酸付加塩は、無機酸から又は有機酸から製造することができる。このような無機酸の例は、塩酸、臭化水素酸、沃化水素酸、硝酸、炭酸、硫酸及び燐酸である。適切な有機酸は、脂肪族、シクロ脂肪族、芳香族、芳香族脂肪族、複素環式のカルボン酸及びスルホン酸クラスの有機酸から選ぶことができ、その例はぎ酸、酢酸、プロピオン酸、こはく酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、りんご酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸、アントラニル酸、メシル酸、サリチル酸、4−ヒドロキシ安息香酸、フェニル酢酸、マンデル酸、エンボン酸(パモ酸)、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パントテン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、スルファニル酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸、ステアリン酸、アルゲン酸、β−ヒドロキシ酪酸、サリチル酸、ガラクタル酸及びガラクツロン酸である。
【0090】
ラセミ−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン又はその(R)−若しくは(S)−エナンチオマーの好適な製薬上許容できる塩基付加塩は、例えば、カルシウム、マグネシウム、カリウム及び亜鉛から作られる金属塩、又はN,N’−ジベンジルエチレンジアミン、クロルプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、メグルミン(N−メチルグルカミン)及びプロカインから作られる有機塩を包含する。これらの塩類の全ては、慣用の方法により、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンから、例えば適当な酸又は塩基を1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンと反応させることによって製造することができる。
【0091】
本発明の組成物及び方法に有用な化合物は、LTB4により誘起される炎症性障害により又はTXA2により誘起される障害により苦しめられた個体(動物及び人間を含めて哺乳動物)に投与することができる。後者の障害には、痛み、喘息、そしてTXA2により誘起された脈管形成を伴う腫瘍の発現が包含されるが、これらに限らない。
【0092】
LTB4により誘起される炎症性障害を治療し若しくは予防するため又はTXA2により誘起される障害を治療するためには、ラセミ−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン又はそのエナンチオマーの治療上の利益を得るための特定の薬量は、患者の身長、体重、年齢及び性別を含めて個々の患者の特別の環境によって決定される。また、疾病の種類と状態及び投与経路も決定的なことである。一般に、毎日約100〜1500mg/kg/日の投薬量を用いることができる。好ましくは、毎日約100〜1000mg/kg/日の投薬量を用いることができる。更に好ましくは、毎日約100〜500mg/kg/日の投薬量を用いることができる。これらよりも多く又は少ない薬量も意図される。
【0093】
予防的投与のためには、該化合物は、LTB4により誘起される炎症性障害の機会を増大させる知られる事態よりも遙かに先立って、この化合物がLTB4活性を調節する効果を発揮するのに十分な濃度で作用部位に到達できるように、投与されるべきである。特定の化合物の薬物速度は斯界で知られた手段によって決定でき、また特定の個体における化合物の組織レベルは慣用の分析により決定することができる。
【0094】
同様に、TXA2により誘起される障害が係わる予防のためには、化合物の投与のタイミングは、喘息のような再発状態に関する因子や、痛み、症状、例えば、術後の痛み又は進行性障害に原因する痛みを誘発させると合理的に予期される事態に関する因子も考慮されるべきである。
【0095】
本発明の組成物は、製薬上許容できるキャリアーと、(i)ラセミ−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン、(ii)相当する(S)−エナンチオマーを実質的に含まない(R)−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン、(iii)相当する(R)−エナンチオマーを実質的に含まない(S)−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン、又は(i)、(ii)若しくは(iii)の製薬上許容できる塩を含有する。このような処方物中の活性成分は0.1〜99.99重量%であり得る。“製薬上許容できるキャリアー”とは、処方物の他の成分と相溶性であり且つ受容者に有害ではない任意のキャリアー、希釈剤又は補助剤を意味する。
【0096】
該化合物は、治療効果を得るために、任意の経路、例えば、経腸的(例えば、経口、直腸、鼻内など)及び非経腸的投与により投与することができる。非経腸的投与には、例えば、静脈内、筋肉内、動脈内、腹腔内、膣内、嚢内(例えば、膀胱に)、皮内、局所又は皮下投与がある。また、本発明の範囲内で、薬剤の全身又は局所的な放出をその後の時点で起こさせるように、患者の身体に制御された処方物で薬剤を滴注することも意図される。抗炎症用に使用するためには、薬剤は、循環系に徐放のための又は炎症の局部に徐放のための貯蔵所に局部化させることができる。
【0097】
製薬上許容できるキャリアーは、選択された投与経路及び標準的な製薬実施に基づいて選択される。活性剤は、製薬製剤分野における標準的な実施に従う投薬形態に処方することができる。アルホンソ・ゲナロ編“レミントンの製薬科学、18版(1990)”(マークパブリッシング社、イーストン、PA)を参照されたい。好適な投薬形態は、例えば、錠剤、カプセル、溶液、非経腸用溶液、トローチ、座薬又は懸濁液からなろう。
【0098】
非経腸的投与のためには、活性剤は、好適なキャリアー又は希釈剤、例えば水、油(特に、植物油)、エタノール、塩水溶液、水性デキストロース(グルコース)及び関連糖溶液、グリセリン、又はプロピレングリコール若しくはポリエチレングリコールのようなグリコールと混合することができる。非経腸的投与のための溶液は、好ましくは、活性剤の水溶性塩を含有する。安定剤、酸化防止剤及び保存剤も添加できる。好適な酸化防止剤には、亜硫酸塩、アスコルビン酸、くえん酸及びその塩類、ナトリウムEDTAがある。好適な保存剤には、塩化ベンザルコニウム、メチル−又はプロピルパラバン、クロルブタノールがある。非経腸的投与のための組成物は、水性又は非水性の溶液、分散体、懸濁液又はエマルジョンの形を取ることができる。
【0099】
経口投与のためには、活性剤は、錠剤、カプセル、ピル、粉末、顆粒又はその他の好適な経口用投薬形態の製造のために1種以上の固体不活性成分と混合することができる。例えば、活性剤は、少なくとも1種の補助剤、例えば、充填剤、結合剤、保湿剤、崩壊剤、溶解遅延剤、吸収促進剤、湿潤剤、吸収剤又は滑剤と混合することができる。錠剤の一具体例によれば、活性剤は、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ステアリン酸マグネシウム、マンニット及びでんぷんと混合し、次いで慣用の錠剤化方法により錠剤に賦形することができる。
【0100】
また、本発明の組成物は、その中の活性成分の遅放性又は徐放性を与えるように処方することができる。一般に、徐放性製剤は、所望の期間にわたり一定の薬理学的活性を保持するのに要求される速度で活性成分を放出させることができる組成物である。このような投薬形態は、薬剤を身体に所定期間の間供給し、しかして他の徐放性でない処方物よりも長い期間にわたって薬剤レベルを治療範囲に保持させることができる。
【0101】
例えば、米国特許第5,674,533号は、潜在的な末梢鎮咳剤であるモグイステインを投与するための液状投薬形態の徐放性組成物を開示している。米国特許第5,059,595号は、器質性精神障害の治療法のため胃耐性の錠剤を使用することによって活性剤の徐放を記載している。米国特許第5,591,767号は、潜在的な鎮痛性を有する非ステロイド系抗炎症剤であるケトロラックの制御された投与のための液状の受容者経皮パッチを開示している。米国特許第5,120,548号は、膨潤性重合体からなる徐放性薬剤送出具を開示している。米国特許第5,073,543号は、ガングリオシド−リポソーム賦形剤により閉じ込められた栄養因子を含有する徐放性処方物を開示している。米国特許第5,639,476号は、疎水性アクリル重合体の水性分散体から得られた被覆を有する安定な固体状徐放性処方物を開示している。これらの特許は、参照することによってここに含める。
【0102】
生分解性ミクロ粒子を本発明の徐放性処方物に使用することができる。例えば、米国特許第5,354,566号は、活性成分を含有する徐放性粉末を開示している。米国特許第5,733,566号は、駆虫性組成物を放出させる重合体ミクロ粒子の使用を記載する。これらの特許は、参照することによってここに含める。
【0103】
活性成分の徐放は、種々の誘発因子、例えば、pH、温度、酵素、水又はその他の生理学的条件若しくは化合物によって刺激させることができる。薬剤の放出について種々の機序が存在する。例えば、一具体例では、患者に投与した後に、徐放性成分が膨潤し、活性成分を放出させるのに十分に大きい多孔質の開口を形成することができる。本発明との関係で、用語“徐放性成分”とは、製薬組成物中の活性成分(例えば、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン又はその製薬上許容できる塩)の徐放を容易にさせる化合物、例えば、重合体、重合体マトリックス、ゲル、透過膜、リポソーム及び(又は)ミクロ球体と定義される。他の具体例では、徐放性成分は生分解性であって、これは体内の水性環境、pH、温度又は酵素に露出することによって誘発される。他の具体例では、ゾル−ゲルを使用することができる。この場合に、活性成分は、室温で固体であるゾル−ゲルマトリックス中に組み入れられる。このマトリックスは、ゾル−ゲルマトリックスのゲル形成を誘発させるのに十分に高い体温を有する患者に、好ましくは哺乳動物に移植され、これによって活性成分を患者に放出させる。
【実施例】
【0104】
本発明の実施を下記の例によって例示するが、これらは本発明を制限するものではない。
【0105】
例1ラセミ−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの合成
反応式3の経路に従ってラセミ−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンを合成した。
【化7】

【0106】
A.3,4−ジメトキシ安息香酸のエステル化で3,4−ジメトキシ安息香酸エチル([3943−77−9])の生成
200gの3,4−ジメトキシ安息香酸と35gの濃硫酸を600mLの無水エタノールに溶解してなる溶液を終夜加熱還流した。この混合物を濃縮し、残留物を水に注入した。塩化メチレンを添加し、この溶液を水、希重炭酸ナトリウム液及び水で続けて洗浄し、次いで乾燥し、濃縮させた。残留物をアセトン/ヘキサンから再結晶した。
【0107】
B.3,4−ジメトキシ安息香酸エチルに沃化エチルマグネシウムを付加させて3−(3,4−ジメトキシフェニル)ペンタン−3−オールの生成
4.8mLのヨードエタンを20mLのエーテルに溶解してなる溶液を、1.5gのマグネシウム屑を10mLのエーテルに加えてなる懸濁液に滴下した。5mLのヨードエタン溶液を添加した後に、数個の沃素粒子を添加し、この混合物を加熱してグリニャール試薬の形成を誘発させた。残ったヨードエタン溶液を次いで添加した。グリニャール試薬の形成が完了した後に、5gの3,4−ジメトキシ安息香酸エチルをエーテルに溶解してなる溶液を添加し、この混合物を室温で終夜撹拌した。飽和塩化アンモニウム液を添加して反応を停止させた。この混合物をエーテルで抽出した。一緒にしたエーテル抽出物を乾燥し、油状残留物まで濃縮した。収量は5g。
【0108】
C.3−(3,4−ジメトキシフェニル)ペンタン−3−オールからH2Oを除去して4−((1Z)−1−エチル−1−プロペニル)−1,2−ジメトキシベンゼンの生成
5gの粗製の3−(3,4−ジメトキシフェニル)ペンタン−3−オールと0.25gのp−トルエンスルホン酸を80mLのベンゼンに溶解してなる溶液を1時間加熱還流すると共に水を共沸除去した。次いで、この混合物を重炭酸ナトリウムのパッドを通してろ過し、そのろ液を濃縮した。残留物を減圧蒸留により精製した。収量は2.9g。
【0109】
D.4−((1Z)−1−エチル−1−プロペニル)−1,2−ジメトキシベンゼンにH2Oを付加させて3−(3,4−ジメトキシフェニル)ペンタン−2−オールの生成
26gの4−((1Z)−1−エチル−1−プロペニル)−1,2−ジメトキシベンゼンをテトラヒドロフランに溶解してなる溶液に、0℃で、189mLのボラン−テトラヒドロフラン錯体の1.0Mテトラヒドロフラン溶液を添加した。この混合物を0℃で3時間撹拌し、次いで35.6mLの50%過酸化水素を添加すると同時に、混合物をpH8に保持するために5M水酸化ナトリウム液を添加した。この混合物をエーテルで抽出した。一緒にしたエーテル抽出物を乾燥し、濃縮した。
【0110】
E.3−ヒドロキシ−4−メトキシベンズアルデヒドをベンジル化して4−メトキシ−3−(フェニルメトキシ)ベンズアルデヒド([6346−05−0])の生成
137gの炭酸カリウムの懸濁液を含有する500mLのアセトンに100gの3−ヒドロキシ−4−メトキシベンズアルデヒドと135gの臭化ベンジルを溶解してなる溶液を終夜加熱還流した。この混合物をろ過し、ろ液を濃縮し、残留物をトルエン/ヘキサンから再結晶した。収量は65g。
【0111】
F.3−(3,4−ジメトキシフェニル)ペンタン−2−オールと4−メトキシ−3−(フェニルメトキシ)ベンズアルデヒドとの反応で4−(4−エチル−6,7−ジメトキシ−3−メチルイソクロマニル)−1−メトキシ−2−(フェニルメトキシ)ベンゼンの生成
14gの4−メトキシ−3−(フェニルメトキシ)ベンズアルデヒドと15gの3−(3,4−ジメトキシフェニル)ペンタン−2−オールを0.3Lのジオキサンに溶解してなる溶液に塩化水素ガスを飽和させた。この混合物を3時間加熱還流し、再度塩化水素ガスを飽和させ、終夜室温に放置させた。次いで、それを水に注入し、希水酸化ナトリウム液で塩基性にし、塩化メチレンで抽出した。一緒にした塩化メチレン抽出物を乾燥し、濃縮した。
【0112】
G.4−(4−エチル−6,7−ジメトキシ−3−メチルイソクロマニル)−1−メトキシ−2−(フェニルメトキシ)ベンゼンの開環で3−(4,5−ジメトキシ−2−{[4−メトキシ−3−(フェニルメトキシ)フェニル]カルボニル}フェニル)ペンタン−2−オンの生成
30gの粗製の4−(4−エチル−6,7−ジメトキシ−3−メチルイソクロマニル)−1−メトキシ−2−(フェニルメトキシ)ベンゼンを450mLのアセトンに溶解してなる溶液に、5℃で、30gの酸化クロムを300mLの35%硫酸に溶解してなる溶液を添加した。この混合物を室温で2時間撹拌し、10%冷水酸化ナトリウム液を添加して中性にし、濃縮してアセトンを除去した。次いで、水を添加し、混合物を塩化メチレンで抽出した。一緒にした塩化メチレン抽出物を乾燥し、濃縮した。残留物をシリカゲルでのカラムクロマトグラフィーにより精製した。収量は10g。
【0113】
H.3−(4,5−ジメトキシ−2−{[4−メトキシ−3−(フェニルメトキシ)フェニル]カルボニル}フェニル)ペンタン−2−オンの脱ベンジルで3−{2−[(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)カルボニル]−4,5−ジメトキシフェニル}ペンタン−2−オンの生成
0.9gの10%パラジウム炭の懸濁液を含有する塩化メチレンに10gの3−(4,5−ジメトキシ−2−{[4−メトキシ−3−(フェニルメトキシ)フェニル]カルボニル}フェニル)ペンタン−2−オンを溶解してなる溶液を80psiで1時間水素化した。この混合物を珪藻土を通してろ過し、ろ液を濃縮させた。収量は6.5g。
【0114】
I.3−{2−[(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)カルボニル]−4,5−ジメトキシフェニル}ペンタン−2−オンをヒドラジンとの反応によって環化して1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの生成
6.5gの3−{2−[(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)カルボニル]−4,5−ジメトキシフェニル}ペンタン−2−オンと2.2mLのヒドラジンを130mlのエタノールに溶解してなる溶液を0.5時間加熱還流した。この溶液を室温まで冷却した後、HClガスを飽和させた。次いで、この混合物を約5mLの容積まで濃縮させ、濃水酸化アンモニウムで塩基性にし、塩化メチレンで抽出した。一緒にした塩化メチレン抽出物を乾燥し、濃縮し、残留物を酢酸エチル/ヘキサンから再結晶した。収量は0.97g。
【0115】
生成物である1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンをHPLC、元素分析、GC/MS、プロトンNMR及び示差走査熱量法(DSC)によって分析した。データは以下の通りである。
純度:HPLCにより99.29%(面積%);カラム:ベタシルフェニル4.6×150mm;移動相:アセトニトリル/0.01M燐酸塩緩衝液(70/30);流量:0.5mL/分;波長:254nm。
GC−MS:M/e=358;断片化のパターンは提案した構造と一致している。
DSC:温度プログラムは5℃/分で100℃から300℃まで;示されたモル純度=99.75%;158.6℃の融点。
元素分析(計算/分析):C%−68.09/68.08;H%−6.61/6.57;N%−7.53/7.35;計算された値は0.02当量の酢酸エチル及び0.09当量の残留水を含む。
NMR(DCCl3)(GE QE300で達成。)ppm:1.08(t、3H);1.99(s、3H);2.11(m、2H);2.75(m、1H);3.75(s、3H);3.93(s、3H);3.97(s、3H);6.46(bs、1H);6.72(s、1H);6.86(m、2H);7.18(d、1H);7.48(s、1H)
【0116】
例21−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの分割
ラセミ−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンのエナンチオマーを以下のようにしてキラルクロマトグラフィーにより分割する。
ラセミ−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンを、半調整(500mm×10mm)キロバイオテックVカラム(ASTEC社、ホイッパニー、NJ)に装入する。メチル・t−ブチルエーテル/アセトニトリル(90/10v/v)によるエナンチオマー混合物の溶離を40mL/分の流量で310nmでモニターする。分画サイズは10〜20mLであり、画分を分析用(150×4.6mm)キロバイオテックVカラム上で同じ溶媒組成物を使用して分析クロマトグラフィーに付する。それぞれ単離されたエナンチオマーを含有する画分を、溶離溶媒を真空下に除去することにより処理する。
【0117】
例3LTB4の結合の抑止
1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンがLTB4受容体に対する[3H]LTB4の結合を抑止させる能力を、チェン他のJ.Pharmacol.Exp.Ther.、236(1):126−132(1986)(その全ての開示は参照することによってここに含める。)のモルモット膵臓膜アッセイ法を使用して以下のようにして決定した。
反応をNaCl、MgCl2、EDTA及びバシトラシンを含有する燐酸塩緩衝液(pH7.4)中で行なった。1.0mg/mLのモルモット膵臓膜調製物及び1nMの[3H]LTB4を候補者抑止剤と共に又はそれ無しで含有する150μLの反応容量を、0〜4℃で2時間インキュベーションした。候補者抑止剤は、表1にリストした化合物及び対照例としての未標識のLTB4を含有した。ガラス繊維フィルター上での迅速真空ろ過により反応を停止させた。フィルターを冷緩衝液で洗浄し、乾燥し、シンチレーション瓶に入れた。フィルター上に捕捉された放射能を決定し、試験化合物とLTB4結合部位との何らかの相互作用を確認するために対照例の値と比較した。
以下の表1に示すように、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンは、10μMの濃度でLTB4受容体に対する[3H]LTB4の結合について64%の抑止率を表わした。
これらの結合結果は、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンがLTB4により誘起される障害を治療し及び予防するのに有用であることを示している。
【0118】
【表2】

【0119】
例4TXA2の結合の効力検定
1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンが[3H]SQ29,548(30〜60Ci/ミリモル)の結合を抑止させる能力を、ヘッドベルグ他の“ヒト血小板におけるトロンボキサンA2受容体に対する高親和性放射性リガンドの結合としての[3H]SQ29,548の特徴付け”、J.Pharmacol.Exp.Ther.、245:786−792(1988)のヒト血小板に基づくアッセイ法を修正して決定した。TXA2は非常に不安定な分子であり、従ってTXA2受容体のための既知の親和性代理リガンドが新しい潜在的なTXA2リガンドの結合親和性の決定のための標準物質として要求される。[3H]SQ29,548は、TXA2受容体のための既知の結合親和性を持つリガンドである。[3H]SQ29,548はいくつかの刊行された研究においてTXA2リガンドとして使用されており、TXA2結合標準物質として受認されており、従ってTXA2受容体に対する新しい化合物の結合親和性を評価するのに標準物質として有用である。また、R.A.アームストロング、R.L.ジョーンズ他の“ヒト血小板上のトロンボキサン受容体に対するリガンドの結合:生物学的活性との相互関係”、Brit.Jrnl.Pharmac.、79:953−964(1983)も参照されたい(その全ての開示は参照することによってここに含める。)。
【0120】
反応を138mMのNaCl、5mMのKCl、5mMのMgCl2、5.5mMのデキストロース及び2mMのEDTAを含有する25mMのTRIS−HCl(pH7.4)からなる反応混合物中で25℃で60分間行なった。ピナン−トロンボキサン(Ki=149.0nM)を競合体として使用した。反応は、反応混合物をガラス繊維フィルターで迅速真空ろ過することにより停止させた。フィルター上に捕捉された放射能を決定し、試験化合物とトロンボキサンA2結合部位との何らかの相互作用を確認するために対照例の値と比較した。
化合物1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンは、10μMの濃度でTXA2受容体に対する[3H]SQ29,548の結合について25.95%の抑止率を示した。
これらの結合結果は、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンがTXA2により誘起される障害を治療し及び予防するのに有用であることを示している。
【0121】
例5デキストラン硫酸ナトリウム塩誘発大腸炎:炎症性腸疾患のマウスモデル
この大腸炎モデルでは、デキストラン硫酸ナトリウム塩(DSS)の5%水道水溶液の経口投与によって結腸の急性炎症を生じさせた。この大腸炎は、組織学的事象と、ヒト炎症性腸疾患について観察されるものと類似する好中球、マクロファージ及び炎症誘起物質の流入により特徴づけられた。IBDを治療するのに有用であると知られたいくつかの薬剤、例えば、コルチコステロイド及び5−ASAがこのモデルで活性を有することが示された。後記の研究が、岡安他のGastroenterology、98:694−702(1900)のプロトコルに従って行なわれた。
【0122】
60匹の試験動物(雌、生後6ヶ月のスイスウエブスターマウス、18〜30g)を6グループに分け、平均グループの体重の統計差を除くように選定した。それぞれの動物に試験化合物1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン、積極的対照例(スルファサラジン)又は消極的対照例(0.5%のカルボキシメチルセルロース(CMC)を蒸留水中に含むビヒクル)のいずれかを、開始日を0日として、毎日投与した(PO)。投薬は、ボール先端型の針を10mL/kgの薬量容積を使用して経口投与により行なった。
【0123】
1日目に開始して、5%水道水溶液として飲料水でDSS(10mL/マウス/日、5〜6日)を随意に投与することによって急性結腸炎症を誘発させた。他の流体源は研究のDSSアームにおいては動物には利用できなかった(グループ2〜6)。ろ過した水道水は他のグループ(グループ1)には随意に利用できた。4日後に、DSS処置した動物において急性疾病の徴候が体重減少、下痢及び血便を伴って起こった。組織学的変化には、陰窩の初期の縮少、次いで陰窩の分離領域、そして破壊的炎症性ろ液の不在下での粘膜筋板があった。5日後に、病理学的変化が浸食及び早期過形成性上皮の出現と合併するようになった。炎症の評点は、粘膜固有層で好中球、リンパ球及びプラスマ細胞について高いが、上皮では控えめであった。
【0124】
試験化合物、積極的対照例(スルファサラジン)及び消極的対照例(ビヒクル)を経口投与(PO)した。この期間中に与えられた試験化合物を予防的活性について評価し、また疾病状態ができた後に与えられた試験化合物を治療活性について評価した。10匹の試験動物を表2にリストした6つの投薬グループそれぞれに割り当てた。
【0125】
【表3】

【0126】
試験動物を0日〜8日まで、又は研究が終了するまで毎日秤量した。研究のDSSアームの総継続期間は、大腸炎の時間進行に応じて変えた。試験動物の状態及び便の硬さを記録した。
【0127】
研究の結論として、試験動物を安楽死させ(CO2)、正中切開を行ない、便試料を得た。試料をスライドの上に置き、潜血について試験した(クイックカルト、ラボラトリー・ディアグノスチックス社、モーガンビル、NJ)。潜血は、試料上に2滴の試薬を置き、色の変化を観察することによって決定した。色がないのを0の評点、>30秒で非常に淡い青色(+/−)を形成するものを評点1、30秒以上で青色(+)を発生するものを評点2、30秒未満で色(++)の変化を起こすものを評点3、スライド状に観察できる大きな血液のものを評点4とする評価プロトコルを使用して、潜血の存在を採点した。結腸はなだらかに伸びていて、結腸−盲腸接合部から遠位の直腸の末端までの長さは最も近くて0.1cmと測定された。疾病活性指数(DAI)を決定した。表3は、DAIの決定のための採点基準をリストする。
【0128】
【表4】

【0129】
それぞれの試験動物の評点を加算し、次いで3で割ってそれぞれの動物についてのDAI評点を得た。6つのグループについてのデータを表4、5及び6に要約する。表4は、DSSにより誘起された大腸炎の研究における試験動物についてのDAI並びに体重損失パラメーター無しのDAI(DAIWT)をリストする。
【0130】
【表5】

【0131】
表5は、DSSにより誘起された大腸炎の試験における試験動物についての結腸長さの評価についてのデータをリストする。
【0132】
【表6】

【0133】
表6は、DSSにより誘起された大腸炎の研究における試験動物についての体重変化率をリストする。
【0134】
【表7】

【0135】
上記のデータは、16mg/kgの薬量で、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンがDAI及びDAIWT評点において有意の減少をもたらしたことを示す。これよりも高い薬量は有意の減少を生じなかった。また、データは、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンが64mg/kg及び16mg/kgの薬量で結腸の短縮を有意に抑止したことを示している。大腸短縮の抑止は、64mg/kgの薬量で最大(37%)であった。
消極的対照例と比べて、減量に有意差は観察されなかった。しかし、8日目及び9日目の体重損失は共にDSS+ビヒクルのグループで観察されたものよりも少なかった。
300mg/kgで投薬されたスルファサラジンは、DAI又はDAIWT評点の統計学的な有意差を生じなかった。消極的対照例と比べて、減量に有意差は認められなかった。
【0136】
ここに引用した参考文献の全ては、参照することによりここに含めるものとする。本発明は、その精神又は必須の特質から離れることなく他の特定の形態で具体化できるであろう。従って、本発明の範囲を指示するものとして、前記した明細書の説明よりも請求の範囲が参照されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製薬上許容できるキャリアーと1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン又はその製薬上許容できる塩を含む製薬組成物。
【請求項2】
相当する(S)−エナンチオマーを実質上含まない(R)−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン又はその製薬上許容できる塩を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
組成物中の(R)−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン又はその製薬上許容できる塩の量が、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの総重量の85重量%以上である請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
組成物中の(R)−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン又はその製薬上許容できる塩の量が、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの総重量の90重量%以上である請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
組成物中の(R)−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン又はその製薬上許容できる塩の量が、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの総重量の95重量%以上である請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
組成物中の(R)−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン又はその製薬上許容できる塩の量が、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの総重量の99重量%以上である請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
相当する(R)−エナンチオマーを実質上含まない(S)−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン又はその製薬上許容できる塩を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
組成物中の(S)−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン又はその製薬上許容できる塩の量が、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの総重量の85重量%以上である請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
組成物中の(S)−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン又はその製薬上許容できる塩の量が、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの総重量の90重量%以上である請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
組成物中の(S)−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン又はその製薬上許容できる塩の量が、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの総重量の95重量%以上である請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
組成物中の(S)−1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピン又はその製薬上許容できる塩の量が、1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの総重量の99重量%以上である請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
1−(3−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4−メチル−5−エチル−7,8−ジメトキシ−5H−2,3−ベンゾジアゼピンの(R)−エナンチオマーと(S)−エナンチオマーとのラセミ混合物又はその製薬上許容できる塩を含む請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
個体においてLTB4により誘起された炎症性障害を治療する方法であって、該個体にそのような治療の必要な場合に、治療上有効な量の請求項1に記載の組成物を投与することからなる、該炎症性障害の治療方法。
【請求項14】
個体においてLTB4により誘起された炎症性障害を治療する方法であって、該個体にそのような治療の必要な場合に、治療上有効な量の請求項2に記載の組成物を投与することからなる、該炎症性障害の治療方法。
【請求項15】
個体においてLTB4により誘起された炎症性障害を治療する方法であって、該個体にそのような治療の必要な場合に、治療上有効な量の請求項7に記載の組成物を投与することからなる、該炎症性障害の治療方法。
【請求項16】
個体においてLTB4により誘起された炎症性障害を治療する方法であって、該個体にそのような治療の必要な場合に、治療上有効な量の請求項12に記載の組成物を投与することからなる、該炎症性障害の治療方法。
【請求項17】
障害が炎症性腸疾患である請求項13に記載の方法。
【請求項18】
障害が潰瘍性大腸炎である請求項13に記載の方法。
【請求項19】
障害が乾癬である請求項13に記載の方法。
【請求項20】
障害がリューマチ様関節炎である請求項13に記載の方法。
【請求項21】
障害がクローン病である請求項13に記載の方法。
【請求項22】
障害が放射線により誘起された胃腸の炎症である請求項13に記載の方法。
【請求項23】
炎症性疾病状態の発現の恐れがある個体において、LTB4により誘起された炎症性障害の発症を予防し又は遅延させる方法であって、該個体に治療上有効な量の請求項1に記載の組成物を投与することからなる、該炎症性障害の発症の予防又は遅延方法。
【請求項24】
炎症性疾病状態の発現の恐れがある個体において、LTB4により誘起された炎症性障害の発症を予防し又は遅延させる方法であって、該個体に治療上有効な量の請求項2に記載の組成物を投与することからなる、該炎症性障害の発症の予防又は遅延方法。
【請求項25】
炎症性疾病状態の発現の恐れがある個体において、LTB4により誘起された炎症性障害の発症を予防し又は遅延させる方法であって、該個体に治療上有効な量の請求項7に記載の組成物を投与することからなる、該炎症性障害の発症の予防又は遅延方法。
【請求項26】
炎症性疾病状態の発現の恐れがある個体において、LTB4により誘起された炎症性障害の発症を予防し又は遅延させる方法であって、該個体に治療上有効な量の請求項12に記載の組成物を投与することからなる、該炎症性障害の発症の予防又は遅延方法。
【請求項27】
個体においてTXA2により誘起された障害を治療する方法であって、該個体にそのような治療の必要な場合に、治療上有効な量の請求項1に記載の組成物を投与することからなる、該障害の治療方法。
【請求項28】
個体においてTXA2により誘起された障害を治療する方法であって、該個体にそのような治療の必要な場合に、治療上有効な量の請求項2に記載の組成物を投与することからなる、該障害の治療方法。
【請求項29】
個体においてTXA2により誘起された障害を治療する方法であって、該個体にそのような治療の必要な場合に、治療上有効な量の請求項7に記載の組成物を投与することからなる、該障害の治療方法。
【請求項30】
個体においてTXA2により誘起された障害を治療する方法であって、該個体にそのような治療の必要な場合に、治療上有効な量の請求項12に記載の組成物を投与することからなる、該障害の治療方法。
【請求項31】
TXA2により誘起された障害が慢性炎症性障害よりなる請求項27に記載の方法。
【請求項32】
慢性炎症性障害が慢性疲労症候群/線維筋痛、不妊、顎の骨壊死、多発性硬化症、鬱病、自閉症、クローン病、炎症性腸疾患、後期ライム病、シオグレン症候群、一過性虚血性発作、注意欠陥障害及びパーキンソン病よりなる群から選ばれる請求項31に記載の方法。
【請求項33】
トロンボキサンA2により誘起された障害が凝固の免疫系活性化を伴う請求項27に記載の方法。
【請求項34】
トロンボキサンA2により誘起された障害が痛みである請求項27に記載の方法。
【請求項35】
トロンボキサンA2により誘起された障害が喘息である請求項27に記載の方法。
【請求項36】
トロンボキサンA2により誘起された障害が、発達しつつある腫瘍と関連した脈管形成である請求項27に記載の方法。
【請求項37】
炎症性疾病状態の発現の恐れがある個体において、TXA2により誘起された炎症性障害の発症を予防し又は遅延させる方法であって、該個体に治療上有効な量の請求項1に記載の組成物を投与することからなる、該炎症性障害の発症の予防又は遅延方法。
【請求項38】
炎症性疾病状態の発現の恐れがある個体において、TXA2により誘起された炎症性障害の発症を予防し又は遅延させる方法であって、該個体に治療上有効な量の請求項2に記載の組成物を投与することからなる、該炎症性障害の発症の予防又は遅延方法。
【請求項39】
炎症性疾病状態の発現の恐れがある個体において、TXA2により誘起された炎症性障害の発症を予防し又は遅延させる方法であって、該個体に治療上有効な量の請求項7に記載の組成物を投与することからなる、該炎症性障害の発症の予防又は遅延方法。
【請求項40】
炎症性疾病状態の発現の恐れがある個体において、TXA2により誘起された炎症性障害の発症を予防し又は遅延させる方法であって、該個体に治療上有効な量の請求項12に記載の組成物を投与することからなる、該炎症性障害の発症の予防又は遅延方法。

【公表番号】特表2006−514084(P2006−514084A)
【公表日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−568017(P2004−568017)
【出願日】平成15年12月3日(2003.12.3)
【国際出願番号】PCT/US2003/038641
【国際公開番号】WO2004/069155
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(505205384)ヴェラ ファーマスーティカルズ インコーポレイテッド (7)
【Fターム(参考)】