説明

1または複数の物理パラメータの監視方法及び同監視方法を用いた燃料電池

本発明は、燃料電池のような、物理システム(1)の作用に関連する基本的な物理パラメータ(Θ10)の監視方法に特に関する。本発明の監視方法は、基本的な物理パラメータ(Θ10)と結びついた、複数の物理パラメータ(Θ、Θ、Θ)を表す測定値(Tc、Tr、Ta)の集合を得るための計測作業と、測定値の分散を表す分散の量を作ることを含む解析作業と、分散の量の値を、動的物理システムの正常な作用に対して定義された閾値と比較することを含む検査作業と、分散の量が閾値を超える場合には、異常であると判断することを含む診断作業と、異常である場合に、測定値のうちで、分散の量の値に最も大きく寄与するものを識別して排除することを浄化作業とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的に、動的システムの制御技術に関する。
【0002】
より正確には、本発明の主要な観点によれば、動的物理システムの少なくとも1つの作用を特に表す、少なくとも1つの基本的な物理パラメータの監視方法に関し、この監視方法は、計測作業を含む。
【背景技術】
【0003】
多くの動的物理システムは、その内部状態を完全に知ることに基づいて、有効、確実に制御することはできず、この内部状態は、直接測定可能な物理パラメータに基づいて再構成される。
【0004】
しかしながら、幾つかのシステムは、直接の測定が困難または不可能なパラメータの形でしか表すことができない。
【0005】
例えば、燃料電池の作動状態は、内部温度、すなわちより正確にはセルを構成する積層体の温度に極めて決定的に依存するが、この温度を直接測定することは現実的にできない。
【0006】
この結果、この温度を間接的な測定手段によって推定する必要があるのみならず、さらに、例えば不完全なセンサの使用によって生じ得るような、体系的なあらゆる測定誤差を除去する必要がある。
【0007】
故障の監視及び診断のための従来の方法は、測定及び制御装置に物理的冗長性を設けること、すなわち、センサと、アクチュエータと、計算機の数を増加することからなる。
【0008】
この従来の方法は、概念的に極めて簡単であるという利点を有するが、その反面、製造コストと、使用する装置の嵩張りの増加をもたらすという欠点を有する。
【特許文献1】US 5 661 735 A
【特許文献2】US 4 772 445 A
【特許文献3】US 2002/091499 A1
【特許文献4】US 6 594 620 B1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、不測の故障の識別を可能にしながら、体系的な物理的冗長性を設けることに代わる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本明細書の「技術分野」に先に記載した包括的な定義に適合する、本発明の少なくとも1つの物理パラメータの監視方法は、上記計測作業は、mを2を超える整数として、m個のセンサの集合によって、それぞれ測定可能なm個の、主要な上記基本的な物理パラメータと結びついた、物理パラメータを表す、対応するm個の測定値の集合を得ることを含み、上記監視方法は、さらに、その値が上記m個の上記測定値の分散を表す、分散の量を作ることを少なくとも含む解析作業と、上記分散の量の値を、上記動的物理システムの正常な作用に対して定義された閾値と比較することを含む検査作業と、上記分散の量が上記閾値を超える場合には、異常であると判断することを含む診断作業と、異常である場合に、上記m個の上記測定値のうちで、上記分散の量の値に最も大きく寄与するものを識別して排除することを少なくとも含む浄化作業を含む、ことを特徴とする。
【0011】
本発明の第1の実施の形態によれば、上記解析作業は、重み付けマトリックスと、構成要素として上記測定値を有する測定値ベクトルとの積として定義される、留数ベクトルの決定を含み、上記重み付けマトリックスは、単位に等しいノルムを有し、上記留数ベクトルの各構成要素は、上記重み付けマトリックスの、平均値がゼロである重み付け係数による重み付けによって得られた、上記測定値の対応する線形結合から構成され、上記分散の量は、上記留数ベクトルのノルムによって構成される。
【0012】
本発明の第2の実施の形態によれば、上記解析作業は、上記分散の量として、上記測定値の平均値に対する、m個の上記測定値の集合の、全体的なタイプの偏差の決定を含む。
【0013】
本発明の第2の観点によれば、本発明は、アノードと、カソードと、冷却回路とを含む燃料電池に関し、上記燃料電池は、それぞれ第1と、第2と、第3の温度測定値を発生し、それぞれ上記カソードと、上記冷却回路と、上記アノードに設けられた第1と、第2と、第3の温度センサを含み、上記燃料電池は、上記燃料電池の内部温度を推定するために、上記第1と、上記第2と、上記第3の温度測定値に対して、上述の実施の形態のいずれか1つ方法を実行するのに適した、データ処理回路をさらに含むことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のその他の特徴及び利点は、本発明の方法を適用する燃料電池を示す略図である唯一の添付図面を参照して、参考として、非限定的に行う以下の説明によって明らかとなるであろう。
【0015】
先に述べたように、本発明は、動的物理システムの作用に結びついた基本的な1または複数の物理パラメータの監視方法に特に関し、これらのパラメータは、このシステムの機能を表し、従って誤って用いられたときにシステムに影響を及ぼしやすい。
【0016】
本発明の方法を、燃料電池の内部温度Θ10の監視に適用する場合について説明する。この内部温度Θ10は、燃料電池1によって構成される動的システムの基本的な物理パラメータを構成する。
【0017】
このような燃料電池は、周知のように、セルの積層体10と、圧縮空気41を供給されるカソード11と、改質装置43から水素を供給されるアノード13と、冷却回路12を含む。
【0018】
燃料電池の内部温度Θ10、すなわちセルの積層体10の温度を直接測定することに代えて、本発明は、3つのセンサ21〜23を用いて、それぞれ物理パラメータである3つの温度Θ、Θ、Θを表す、対応する3つの測定値Tc、Tr、Taを得ることを提案する。3つの温度Θ、Θ、Θは、それぞれ、カソード11へ供給されるガスと、冷却回路12の出口の液体と、アノード13へ供給されるガスの温度である。
【0019】
このように提案するのは、それらの物理的近さと、それらの接続と、それら相互間の流量の交換とを考慮すると、積層体10と、カソード11と、冷却回路12と、アノード13は、必然的に互いに関連付けされた、それぞれの温度Θ10、Θ、Θ、Θを有するからである。
【0020】
本発明の燃料電池は、温度の測定値Tc、Tr、Taを受け、出力として燃料電池1の内部温度Θ10の推定値を表す量T10を発生するのに適した、データ処理回路3を有する。
【0021】
量T10は、温度の測定値Tc、Tr、Taが充分な信頼度を有するなら、測定値Tc、Tr、Taの線形結合、または適当なあらゆるその他の関数によって構成可能である。
【0022】
本発明の重要な部分は、この信頼度を適正に評価し、測定値Tc、Tr、Taの間のあらゆる疑わしい測定値を排除することからなる。
【0023】
このため、本発明の物理パラメータの監視方法は、先ず第1に、データ処理回路3の中に、その値が様々な、温度の測定値Tc、Tr、Taの分散を表す、分散の量を計算することからなる解析作業を含む。
【0024】
以下に説明する第1の実施の形態においてはSと記し、同じく以下に説明する第2の実施の形態においてはσと記す分散の量は、3つの測定値Tc、Tr、Taが互いに近接しないほど、明らかに高い値を持つ。
【0025】
次いで、本発明の物理パラメータの監視方法は、分散の量の値Sまたはσを、Sseuilまたはσseuilと記す、対応する閾値と比較することからなる検査作業を含む。この閾値は、燃料電池1を構成する動的システムの正常な動作に対して定義される。
【0026】
次いで、本発明の物理パラメータの監視方法は、閾値Sseuilまたはσseuilを、対応する分散の量Sまたはσが超えた場合には、異常であると決定することからなる診断作業を含む。
【0027】
最後に、本発明の物理パラメータの監視方法は異常である場合に実行され、分散の量の値Sまたはσに最も強く寄与する測定値Tc、Tr、Taを特定し、それを排除することからなる浄化作業を含む。
【0028】
この場合、データ処理回路3は、排除された測定値Tc、TrまたはTaをもはや考慮に入れないように、温度Θ10の標準推定アルゴリズムを変更する。
【0029】
本発明の第1の実施の形態においては、n個の変数を測定するためにm個のセンサを使用するとして(ここにmは、nの倍数の整数である。):
− 時間tに依存し、構成要素として上記の測定値Tc、Tr、Taを有する測定値ベクトルy;
− 時間tに依存する、状態変数x;
− 時間tに依存する、故障ベクトルf(未知であるが、故障がないときにはゼロに等しい);
− 計装ベクトルC;
を定義する。
【0030】
時間tに対する依存性の明示の有無にかかわらず、これらの量は、関係式:
【0031】
【数1】

によって互いに結ばれる。
【0032】
他方では、
【0033】
【数2】

ここに、
【0034】
【数3】

は、次元m〜nの恒等マトリックス、
のような、重み付けマトリックスVを定義する。
【0035】
センサ21〜23のような3つのセンサの場合には、ベクトルy、C、Vは:
【0036】
【数4】

【0037】
【数5】

【0038】
【数6】

である。
【0039】
解析作業は、時間tの関数であり、重み付けマトリックスVと測定値ベクトルyの積V・yとして定義される留数ベクトルrの決定を含む。
【0040】
従って、留数ベクトルrは、次式:
【0041】
【数7】

によって与えられる。すなわち、ここでは2個である留数ベクトルrの各構成要素は、測定値Tc、Tr、Taの、重み付けマトリックスVの、平均値がゼロである重み付け係数による重み付けによって得られた、Tc、Tr、Taのような測定値の対応する線形結合によって構成される。
【0042】
この場合、分散Sの量は、留数ベクトルrのノルムによって構成される。すなわち:
【0043】
【数8】

もし、分散Sの量が、燃料電池1を構成する動的システムの正常な動作に対して定義された閾値Sseuilに相当する閾値を超えるなら、不良な測定値を排除することを可能にする浄化作業へ続く。
【0044】
このため、浄化作業は、先ず第1に、各測定値について、重み付けマトリックスの転置マトリックスVτから導かれるベクトル
【0045】
【数9】

と留数ベクトルrの積として定義され、その測定値に関する、rCathode(rカソード)、rrefroidissement(r冷却回路)、rAnode(rアノード)に相当するスカラー留数の決定を含む。この場合、この作業は:
【0046】
【数10】

に導く。
【0047】
次に、絶対値が最も大きいスカラー留数に該当する測定値を排除する浄化作業が続く。
【0048】
換言すれば、もし:
【0049】
【数11】

であれば、センサ21は、不良とみなされ、測定値Tcは排除される。
【0050】
もし:
【0051】
【数12】

であれば、センサ22は、不良とみなされ、測定値Trは排除される。
【0052】
また、もし:
【0053】
【数13】

であれば、センサ23は、不良とみなされ、測定値Taは排除される。
【0054】
本発明の第2の実施の形態においては、n個の変数を測定するためにm個のセンサを使用するとして(ここにmは、nの倍数の整数である。)、平均測定値を定義し、この場合:
【0055】
【数14】

のような平均温度/Tを定義する。(オーバー バーの代わりに/を使用する。以下同じ。)
解析作業は、分散の量として、これらの測定値の平均値/Tに対する、m個の測定値Tc、Tr、Taの集合の、全体的なタイプの偏差σ、すなわち
【0056】
【数15】

の決定を含む。
【0057】
もし、分散の量が、燃料電池1を構成する動的システムの正常な動作に対して定義された閾値に相当する閾値を超えるなら、すなわち、
【0058】
【数16】

であれば、浄化作業は、各測定値について、平均値に対する、この測定に特有なタイプの偏差、すなわち下記の特有なタイプの偏差:
【0059】
【数17】

の決定を含む。
【0060】
最後に、特有なタイプの偏差が最も大きい測定値を排除するために浄化作業が実行される。
【0061】
換言すれば、もし:
【0062】
【数18】

であれば、センサ21は、不良とみなされ、測定値Tcは排除される。
【0063】
もし:
【0064】
【数19】

であれば、センサ22は、不良とみなされ、測定値Trは排除される。
【0065】
また、もし:
【0066】
【数20】

であれば、センサ23は、不良とみなされ、測定値Taは排除される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
動的物理システム(1)の少なくとも1つの作用を特に表す、少なくとも1つの基本的な物理パラメータ(Θ10)の監視方法であって、上記監視方法は計測作業を含む、少なくとも1つの物理パラメータの監視方法において、
上記計測作業は、mを2を超える整数として、m個のセンサ(21〜23)の集合によって、それぞれ測定可能なm個の、主要な上記基本的な物理パラメータ(Θ10)と結びついた、物理パラメータ(Θ、Θ、Θ)を表す、対応するm個の測定値(Tc、Tr、Ta)の集合を得ることを含み、
上記監視方法は、さらに、その値が上記m個の上記測定値(Tc、Tr、Ta)の分散を表す、分散の量(S、σ)を作ることを少なくとも含む解析作業と、上記分散の量(S、σ)の値を、上記動的物理システム(1)の正常な作用に対して定義された閾値(Sseuil、σseuil)と比較することを含む検査作業と、上記分散の量(S、σ)が上記閾値(Sseuil、σseuil)を超える場合には、異常であると判断することを含む診断作業と、異常である場合に、上記m個の上記測定値(Tc、Tr、Ta)のうちで、上記分散の量(S、σ)の値に最も大きく寄与するものを識別して排除することを少なくとも含む浄化作業を含む、
ことを特徴とする、少なくとも1つの物理パラメータの監視方法。
【請求項2】
上記解析作業は、重み付けマトリックス(V)と、構成要素として上記測定値(Tc、Tr、Ta)を有する測定値ベクトル(y)との積(V・y)として定義される、留数ベクトル(r)の決定を含み、上記重み付けマトリックス(V)は、単位に等しいノルム(V・Vτ)を有し、上記留数ベクトル(r)の各構成要素は、上記重み付けマトリックス(V)の、平均値がゼロである重み付け係数による重み付けによって得られた、上記測定値(Tc、Tr、Ta)の対応する線形結合から構成され、上記分散の量(S)は、上記留数ベクトル(r)のノルム(r・rτ)によって構成されることを特徴とする、請求項1に記載の、少なくとも1つの物理パラメータの監視方法。
【請求項3】
上記浄化作業は、各上記測定値について、上記留数ベクトル(r)の、上記重み付けマトリックスの転置マトリックス(Vτ)から導かれるベクトル(Vi)との積(Viτ・r)として定義され、上記測定値に相対的な、対応するスカラー留数(rCathode、rrefroidissement、rAnode)の決定を含み、上記浄化作業は、異常である場合に、その絶対値がもっとも大きい上記スカラー留数(rCathode、rrefroidissement、rAnode)に該当する上記測定値を排除することによって実行される、ことを特徴とする、請求項2に記載の、少なくとも1つの物理パラメータの監視方法。
【請求項4】
上記解析作業は、上記分散の量(σ)として、上記測定値の平均値(/T)に対する、m個の上記測定値(Tc、Tr、Ta)の集合の、全体的なタイプの偏差の決定を含むことを特徴とする、請求項1に記載の、少なくとも1つの物理パラメータの監視方法。
【請求項5】
上記浄化作業は、各上記測定値について、上記測定値の上記平均値(/T)に対する、上記測定値に特有なタイプの偏差(σCathode、σrefroidissement、σAnode)の決定を含み、異常である場合に、上記特有なタイプの上記偏差(σCathode、σrefroidissement、σAnode)が最も大きい上記測定値を排除するために上記浄化作業が実行されることを特徴とする、請求項4に記載の、少なくとも1つの物理パラメータの監視方法。
【請求項6】
アノード(13)と、カソード(11)と、冷却回路(12)とを含む燃料電池(1)において、それぞれ第1と、第2と、第3の温度測定値(Tc、Tr、Ta)を発生し、それぞれ上記カソード(11)と、上記冷却回路(12)と、上記アノード(13)に設けられた第1と、第2と、第3の温度センサ(21〜23)を含み、上記燃料電池は、上記燃料電池(1)の内部温度(Θ10)を推定するために、上記第1と、上記第2と、上記第3の温度測定値(Tc、Tr、Ta)に対して、請求項1〜5のいずれか1つに記載の、少なくとも1つの物理パラメータの監視方法を実行するのに適した、データ処理回路(3)をさらに含むことを特徴とする、燃料電池。

【公表番号】特表2008−503713(P2008−503713A)
【公表日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−516009(P2007−516009)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【国際出願番号】PCT/FR2005/050315
【国際公開番号】WO2006/005858
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(503041797)ルノー・エス・アー・エス (286)
【Fターム(参考)】