説明

1,1,2,2,3−ペンタフルオロシクロブタンの製造方法

【課題】 大量生産に適した安価な原料を用いて、効率良く1,1,2,2,3-ペンタフルオロシクロブタンを製造する方法を提供する。
【解決手段】下記化学式(1)


で表わされる1,4,4-トリフルオロシクロブテンを、フッ素ガス又は高原子価金属フッ化物を用いてフッ素化することを特徴とする1,1,2,2,3-ペンタフルオロシクロブタンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄剤として有用な含フッ素化合物の製造方法に関する。

【背景技術】
【0002】
含フッ素化合物は高分子材料、冷媒、洗浄剤、発泡剤、医薬、農薬等、工業的に幅広く用いられている。特に、炭素、フッ素、水素原子から構成されるハイドロフルオロカーボン(HFC)はフロン代替物質として、冷媒、発泡剤、洗浄剤等の用途が非常に期待されている。本発明で対象とする1,1,2,2,3−ペンタフルオロシクロブタンは、洗浄剤としての用途が期待されている。(特許文献1)
1,1,2,2,3−ペンタフルオロシクロブタンの製造法として、1,3,3,4,4-ペンタフルオロシクロブテンの水素添加反応とテトラフルオロエチレンとフッ化ビニルの環化反応の2つの方法が知られている。
前者の方法では、高収率で1,1,2,2,3−ペンタフルオロシクロブタンを合成できる。(非特許文献1)
【化3】

しかし、原料の1,3,3,4,4-ペンタフルオロシクロブテンの合成には、1)クロロトリフルオロエチレンの環化反応、2)還元反応、3)水素添加反応、4)脱フッ化水素反応といった多くのステップを要することが知られている。
後者の方法では、1,1,2,2,3−ペンタフルオロシクロブタンの収率や選択性の情報が得られなかったため、本発明者らが再試験を行ったところ、テトラフルオロエチレンの2量化反応が優先して進行し、フッ化ビニルをテトラフルオロエチレンの3倍量用いても1,1,2,2,3−ペンタフルオロシクロブタンの収率は10%程度と極めて低いことを確認している。(特許文献2)
【化4】

【0003】
【特許文献1】WO9505448
【特許文献2】DE2157397
【非特許文献1】Bull. Soc. Chim. Fr.,1969, 842-847.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を克服するためになされたものであって、大量生産に適した安価な原料を用いて、効率良く1,1,2,2,3−ペンタフルオロシクロブタンを製造する方法を提供する。

【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、1,4,4-トリフルオロシクロブテンとフッ素ガス又は高原子価金属フッ化物との反応により、効率良く1,1,2,2,3−ペンタフルオロシクロブタンが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
下記化学式(1)
【化5】

で表わされる1,4,4−トリフルオロシクロブテンを、フッ素ガス又は高原子価金属フッ化物を用いてフッ素化することを特徴とする下記化学式(2)
【化6】

で表わされる1,1,2,2,3−ペンタフルオロシクロブタンの製造方法である。
また、本発明の1,1,2,2,3−ペンタフルオロシクロブタンの製造方法では、高原子価金属フッ化物として3フッ化コバルト 3フッ化マンガン、4フッ化カリウムコバルトから選ばれる化合物の1種又は2種以上を用い、その使用量は1,4,4−トリフルオロシクロブテン1当量に対して0.1〜20当量であることが好ましい。

【発明の効果】
【0006】
本発明のプロセスによる1,1,2,2,3−ペンタフルオロシクロブタン製造方法の長所は、従来法より容易に合成可能な原料を用いることにより反応ステップ数を低減し、さらに効率良く目的物を製造できることである。すなわち、本発明の原料となる1,4,4-トリフルオロシクロブテンは、クロロトリフルオロエチレンと塩化ビニルの[2+2]環化反応により得られる1,2-ジクロロ-2,3,3-トリフルオロシクロブタンの還元反応により容易に得ることができる。さらに、この原料を本発明のプロセスで反応させることにより、効率よく1,1,2,2,3−ペンタフルオロシクロブタンを製造することが可能である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で使用することができる高原子価金属フッ化物としては、3フッ化コバルト、2フッ化銀から選ばれる化合物などを挙げることができるが、本発明者らが実施した結果、特に3フッ化コバルト、3フッ化マンガン、4フッ化カリウムコバルトが好適であり、これらの1種又は2種以上を用いることが望ましい。その使用量は通常、1,4,4-トリフルオロシクロブテン1当量に対して0.05〜100当量、好ましくは、0.1〜20当量である。
反応温度は、使用する高原子価金属フッ化物の種類により異なるが、あまり低すぎる場合は反応速度が遅くなり、あまり高すぎる場合は1,1,2,2,3−ペンタフルオロシクロブタンの選択性が低下するため、通常0℃〜500℃、好ましくは30℃〜300℃、更に好ましくは50℃〜200℃の範囲とするのが良い。
【0008】
反応時間は、反応温度等により異なるが、通常0.01〜500時間、好ましくは0.1〜50時間の範囲である。
本反応は、溶媒を使用することなく実施することができるが、溶媒を用いて実施することも可能である。しかし、高原子価金属フッ化物は溶媒中の炭素−水素結合の水素をフッ素化する能力があるため、反応生成物の精製、高原子価金属フッ化物の使用量の増加等を考慮すると溶媒を使用しない方が好ましい。
また、本発明の反応はバッチ式に限らず、フロー式でも行うことができる。
【実施例1】
【0009】
内容量50mlのステンレス製圧力反応容器を乾燥させた後、反応容器に3フッ化マンガン1.12gを秤量した。反応容器を液体窒素で冷やしながら系内を脱気した後、真空ラインを用いて1,4,4-トリフルオロシクロブテン108mgを導入した。反応器を100℃に保ち24時間攪拌した。反応により得られた粗生成物を真空ラインにより精製し、1H-NMR、19F-NMRで分析した結果、目的とする1,1,2,2,3-ペンタフルオロシクロブタン69mg(収率47%)を得ることができた。
【実施例2】
【0010】
実施例1と同様に、3フッ化マンガンと1,4,4-トリフルオロシクロブテンの反応を100℃、72時間行った。実施例1と同様に分析を行った結果、目的とする1,1,2,2,3-ペンタフルオロシクロブタン102mg(収率70%)を得ることができた。
【実施例3】
【0011】
3フッ化マンガンの代わりに3フッ化コバルト1.16gを用い、実施例1と同様に1,4,4-トリフルオロシクロブテンとの反応を100℃、24時間行った。実施例1と同様に分析を行った結果、目的とする1,1,2,2,3-ペンタフルオロシクロブタン64mg(収率44%)を得ることができた。
【実施例4】
【0012】
実施例3と同様に3フッ化コバルトと1,4,4-トリフルオロシクロブテンの反応を100℃、3時間行った。実施例1と同様に分析を行った結果、目的とする1,1,2,2,3-ペンタフルオロシクロブタン99mg(収率68%)を得ることができた。
【実施例5】
【0013】
3フッ化マンガンの代わりに2フッ化銀1.46gを用い、実施例1と同様に1,4,4-トリフルオロシクロブテンとの反応を150℃、1時間行った。実施例1と同様に分析を行った結果、目的とする1,1,2,2,3-ペンタフルオロシクロブタン19mg(収率13%)を得ることができた。
【実施例6】
【0014】
3フッ化マンガンの代わりに4フッ化カリウムコバルト1.74gを用い、実施例1と同様に1,4,4-トリフルオロシクロブテンとの反応を200℃、24時間行った。実施例1と同様に分析を行った結果、目的とする1,1,2,2,3-ペンタフルオロシクロブタン37mg(収率25%)を得ることができた。
【実施例7】
【0015】
実施例6と同様に4フッ化カリウムコバルトと1,4,4-トリフルオロシクロブテンの反応を200℃、144時間行った。実施例1と同様に分析を行った結果、目的とする1,1,2,2,3-ペンタフルオロシクロブタン64mg(収44%)を得ることができた。
【実施例8】
【0016】
内容量50mlのステンレス製圧力反応器を乾燥させた後、反応容器を液体窒素で冷やしながら系内を脱気した後、真空ラインを用いて1,4,4-トリフルオロシクロブテン108mgを導入し、さらにフッ素ガス1mmolを導入した。反応器は-120℃のエタノールスラッシュに入れ、撹拌を行い、約15時間かけて室温まで昇温した。実施例1と同様に分析を行った結果、目的とする1,1,2,2,3-ペンタフルオロシクロブタン35mg(収率24%)を得ることができた。
【0017】
本発明の反応式は、次式で示され、1,4,4-トリフルオロシクロブテン1をフッ素化して目的生成物の1,1,2,2,3-ペンタフルオロシクロブタン2を得る。
【化7】

【0018】
比較例1
3フッ化マンガンの代わりに4フッ化セリウム2.16gを用い、実施例1と同様に1,4,4-トリフルオロシクロブテンとの反応を200℃、1時間行った。実施例1と同様に分析を行った結果、1,4,4-トリフルオロシクロブテン 113mg(90%)を回収したものの、目的とする1,1,2,2,3-ペンタフルオロシクロブタンを得ることは出来なかった。
【0019】
1,1,2,2,3-ペンタフルオロシクロブタンの製造の具体例の全てを、実施例、比較例を含めて表1に示す。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明によれば、前記化学式(1)で表される1,4,4-トリフルオロシクロブテンと高原子価金属フッ化物を反応させることを特徴とする前記化学式(2)で表される1,1,2,2,3-ペンタフルオロシクロブタンを効率よく得ることができ、洗浄剤として有用な含フッ素化合物を安価に提供することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)
【化1】

で表わされる1,4,4−トリフルオロシクロブテンを、フッ素ガス又は高原子価金属フッ化物を用いてフッ素化することを特徴とする下記化学式(2)
【化2】

で表わされる1,1,2,2,3−ペンタフルオロシクロブタンの製造方法。

【請求項2】
高原子価金属フッ化物が3フッ化コバルト、3フッ化マンガン、4フッ化カリウムコバルトから選ばれる化合物の1種又は2種以上であり、その使用量が1,4,4−トリフルオロシクロブテン1当量に対して0.1〜20当量である請求項1に記載した1,1,2,2,3−ペンタフルオロシクロブタンの製造方法。

【公開番号】特開2007−106726(P2007−106726A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−301505(P2005−301505)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】