説明

1,1,2,3−テトラクロロプロペン及びフッ化水素の共沸混合物様組成物

1,1,2,3−テトラクロロプロペン及びフッ化水素から実質的に構成される共沸混合物様組成物、並びにかかる共沸混合物様組成物に関係する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年10月31日出願の米国仮出願61/110,227(参照として本明細書中に包含する)の優先権の利益を主張する。
本発明は共沸混合物様組成物に関する。より詳しくは、本発明はヒドロフルオロオレフィン及びフッ化水素を含む共沸混合物様組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの共沸混合物は、それらを溶媒として有用にする特性を有する。例えば、共沸混合物は処理及び使用中の沸点ドリフトを回避する一定の沸点を有する。更に、共沸混合物を溶媒として用いると、溶媒の組成が沸騰又は還流中に変化しないので溶媒の特性が一定に保持される。溶媒として用いる共沸混合物はまた、蒸留によって都合良く除去することができる。
【0003】
しかしながら、商業的に有用な新しい環境を破壊しない非分留性混合物を特定することは、共沸混合物の形成が容易に予測できないという事実のために困難である。したがって、産業界においては、新規な共沸混合物及び共沸混合物様混合物が継続的に探し求められている。本発明は、とりわけこれらのニーズを満足する。
【発明の概要】
【0004】
1,1,2,3−テトラクロロプロペン(TCP)及びフッ化水素(HF)から実質的に構成されるヘテロ共沸混合物様組成物が見出された。この共沸混合物様組成物は、金属から表面酸化を除去するなどの種々の用途における溶媒として有用である。更に、この共沸混合物様組成物は、HFO−1234yfのような特定のヒドロフルオロオレフィンの合成における中間体として有用である。
【0005】
したがって、1,1,2,3−テトラクロロプロペン及びフッ化水素から実質的に構成される共沸混合物様組成物が提供される。
本発明の他の形態においては、フッ化水素を1,1,2,3−テトラクロロプロペンと約0℃〜約60℃の温度及び約7psia〜約58psiaの圧力においてブレンドして、約1〜約95重量%のフッ化水素及び約5〜約99重量%の1,1,2,3−テトラクロロプロペンから実質的に構成される共沸混合物様混合物を製造することを含む、共沸性又は共沸混合物様組成物を形成する方法が提供される。
【0006】
本発明の更に他の形態においては、1,1,2,3−テトラクロロプロペン及びフッ化水素から実質的に構成される共沸混合物様組成物を含む溶媒が提供される。
本発明の他の形態においては、1,1,2,3−テトラクロロプロペン及びフッ化水素から実質的に構成される共沸混合物様組成物を含む噴霧可能な組成物が提供される。
【0007】
本発明の他の形態においては、金属基材の酸化表面を、ここで記載する新規な共沸混合物様組成物を含む溶媒と、所定量の金属酸化物をかかる表面から除去するのに有効な条件下で接触させることを含む、基材から表面酸化を除去する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、実施例2において形成した混合物の、0、25、及び60℃において測定した蒸気圧のプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、共沸混合物様組成物を形成するのに有効な量のフッ化水素(HF)及び1,1,2,3−テトラクロロプロペン(TCP)を含む組成物、並びにかかる共沸混合物様組成物に関係する方法を提供する。幾つかの好ましい態様においては、これらの共沸混合物様組成物はフッ化水素とTCPのみの組合せから実質的に構成される二元共沸混合物である。
【0010】
ここで用いる「共沸混合物様」という用語は、厳密に共沸性であるか及び/又は概して共沸混合物のように挙動する組成物を指す。共沸混合物は、液体の組成と蒸気の組成が規定の圧力及び温度において同等である2つ以上の成分の系である。実際には、これは、共沸混合物の成分が一定の沸点又は実質的に一定の沸点を有し、概して相変化中に熱力学的に分離することができないことを意味する。共沸混合物の沸騰又は蒸発によって形成される蒸気の組成は、元の液体の組成と同一か又は実質的に同一である。したがって、共沸混合物様組成物の液相及び気相中の成分の濃度は、組成物が沸騰又は他の形態で蒸発するにつれて、あったとしてもごく僅かしか変化しない。これに対して、非共沸混合物を沸騰又は蒸発させると、液相中の成分の濃度がかなりの程度変化する。
【0011】
ここで用いる「ヘテロ共沸混合物」及び「不均一共沸混合物」という用語は、2つの液相と共に気相を含む共沸混合物様の組成物を意味する。
共沸混合物様組成物の成分に関してここで用いる「実質的に構成される」という用語は、組成物が、示されている成分を共沸混合物様の比で含み、更なる成分が新しい共沸混合物様の系を形成しないならば更なる成分を含んでいてもよいことを意味する。例えば、2種類の化合物から実質的に構成される共沸混合物様混合物は、二元共沸混合物を形成し、更なる成分が混合物を非共沸性にせず、化合物のいずれか又は両方と共沸混合物を形成しない(例えば3元共沸混合物を形成しない)ならば1以上の更なる成分を含んでいてもよいものである。
【0012】
ここで用いる「有効量」という用語は、他の成分と組み合わせることによって本発明の共沸混合物様組成物を形成するそれぞれの成分の量を指す。
ここで用いる「分配形態」という用語は、それを一定の領域の上又は一定の体積に展開、分散、及び/又は拡散させた際の流体の物理的形態を指す。分配形態の例としては、エアロゾル及びスプレーが挙げられる。
【0013】
幾つかの好ましい態様においては、共沸混合物様組成物は、約1〜約95重量%のHF及び約5〜約99重量%のTCP、より好ましくは約5重量%〜約95重量%のHF及び約5重量%〜約95重量%のTCP、最も好ましくは約55重量%〜約95重量%のHF及び約5重量%〜約45重量%のTCPを含む。
【0014】
本発明の組成物は、好ましくは約7psia〜約58psiaの圧力において約0℃〜約60℃の沸点を有する。例えば、好ましい共沸混合物様組成物は、約95±2重量%のHF及び約9±2重量%のTCPから実質的に構成され、約23℃の標準沸点を有する。
【0015】
本発明の共沸混合物様組成物は、有効量のTCPをHFと配合することによって製造することができる。2以上の成分を配合して組成物を形成するための当該技術において公知の任意の広範囲の方法を、本発明方法において用いるように適合させることができる。例えば、TCPとHFを、バッチ又は連続反応及び/又はプロセスの一部として、或いは2以上のかかる工程の組み合わせによって、手動及び/又は機械によって混合、ブレンド、又は他の形態で配合することができる。ここでの開示を考慮すれば、当業者であれば過度の実験を行うことなく本発明による共沸混合物様組成物を容易に製造することができるであろう。
【0016】
本発明の他の態様においては、ここで記載する共沸混合物様組成物を、溶媒、特に洗浄溶媒として用いることができる。幾つかの態様においては、溶媒を金属基材の酸化表面と接触させて、酸化表面の少なくとも一部を除去又は減少させる。かかる溶媒は、浸漬、噴霧、ワイピングなどのような当該技術において公知の任意の手段によって目的の基材に適用することができる。
【0017】
幾つかの好ましい態様においては、ここで記載する新規な共沸混合物様組成物を含む噴霧可能な組成物が提供される。幾つかの態様においては、噴霧可能な組成物はエアロゾルである。幾つかの態様においては、噴霧可能な組成物は、不活性成分、共溶媒、噴射剤、共噴射剤などのような他の成分を更に含む。
【0018】
幾つかの態様においては、ここで記載する新規な共沸混合物様組成物は、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)のような特定のヒドロフルオロオレフィンの合成から誘導される有用な中間体である。例えば、TCP及びHFをHFO−1234yfの合成反応中の反応器中に導入すると、これらの成分の少なくとも一部が共沸混合物を形成し、これをその後に関連する反応生成物流から回収することができる。
【0019】
幾つかの態様においては、有効量のTCP及びHFをブレンドしてTCP及びHFから実質的に構成される共沸混合物様混合物を形成することを含む、ヒドロクロロプロパンの沸点を低下させる方法が提供される。TCPの沸点を低下させることは、TCPを気相フッ素化反応における反応物質として用いる場合に有利である。より詳しくは、沸点を低下させることによって化合物の気化を促進させ、したがって化合物の分解を抑止し、またフッ素化プロセスに必要なエネルギー量が減少する。
【0020】
したがって、(a)TCP及びHFから実質的に構成される共沸混合物様組成物を準備し;(b)TCPの少なくとも一部を気相中においてフッ素化剤と反応させて、少なくとも1種類のフッ素化有機化合物、好ましくはヒドロフルオロオレフィン、より好ましくはテトラフルオロプロペン、更により好ましくは2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを製造する;ことを含む有機化合物のフッ素化方法も提供される。
【実施例】
【0021】
本発明を以下の実施例において更に示すが、これらは例示を意図するものであり、いかなるようにも限定することは意図しない。
実施例1:
約9gの1,1,2,3−テトラクロロプロペン(TCP)を、約25℃及び約14.6psiaにおいて91gのHF中にブレンドした。不均一な共沸混合物様組成物の形成が観察された。
【0022】
実施例2:
TCP及びHFをブレンドして、異なる組成の不均一共沸混合物を形成した。混合物の蒸気圧を、約0、25、及び60℃において測定した。これらの測定の結果を表1に与える。
【0023】
【表1】

【0024】
表1におけるデータは、TCPとHFの混合物の蒸気圧が、全ての示されているブレンド割合において、TCP及びHF単独、即ち第1列及び最終列において示されているようにHFが0.0重量%でありTCPが100.0重量%である場合並びにTCPが0.0重量%でありHFが100.0重量%である場合よりも高いので、これらの混合物は共沸混合物様の特徴を示すことを示す。
【0025】
表1からのデータを図1においてグラフで示す。
実施例3:
本実施例は、気−液−液平衡(VLLE)によるTCP/HF混合物の共沸混合物様の特性を示す。
【0026】
約14.4gの1,1,2,3−テトラクロロプロペン(TCP)を15.7gのHFとブレンドして、目視観察によって23℃において不均一な混合物を形成した。53重量%TCP及び47重量%HFの第2の混合物を調製した。2つの混合物の蒸気組成物を23℃の室温においてサンプリングした。結果は、混合物1の蒸気中のHFの重量%が90.0であり、混合物2の蒸気中のHFの重量%が91.5であることを示す。したがって、23℃において約91±2重量%のHFを有する共沸混合物様組成物が形成された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,1,2,3−テトラクロロプロペン及びフッ化水素から実質的に構成される共沸混合物様混合物を含む組成物。
【請求項2】
該共沸混合物様混合物が約1〜約95重量%のフッ化水素及び約5〜約99重量%の1,1,2,3−テトラクロロプロペンから実質的に構成される、請求項28に記載の組成物。
【請求項3】
該共沸混合物様混合物が約5〜約95重量%のフッ化水素及び約5〜約95重量%の1,1,2,3−テトラクロロプロペンから実質的に構成される、請求項28に記載の組成物。
【請求項4】
該共沸混合物様混合物が約55〜約95重量%のフッ化水素及び約5〜約45重量%の1,1,2,3−テトラクロロプロペンから実質的に構成される、請求項28に記載の組成物。
【請求項5】
該共沸混合物様混合物から実質的に構成される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
不活性希釈剤、洗浄剤、噴射剤、共噴射剤、及び共溶媒から選択される少なくとも1種類の成分を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
少なくとも約50重量%の該共沸混合物様混合物を有する、請求項8に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1〜7に記載の組成物を含む噴霧可能な組成物。
【請求項9】
a.1,1,2,3−テトラクロロプロペン及びフッ化水素から実質的に構成される共沸混合物様組成物を準備し;
b.1,1,2,3−テトラクロロプロペンの少なくとも一部を気相中においてフッ素化剤と反応させて少なくとも1種類のフッ素化有機化合物を製造する;
ことを含む、有機化合物をフッ素化する方法。
【請求項10】
有効量の1,1,2,3−テトラクロロプロペン及びフッ化水素をブレンドして、1,1,2,3−テトラクロロプロペン及びフッ化水素から実質的に構成される共沸混合物様混合物を形成することを含む、ヒドロクロロプロパンの沸点を低下させる方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−507603(P2012−507603A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534732(P2011−534732)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/062454
【国際公開番号】WO2010/051327
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】