説明

1,1,4,4−テトラアルコキシ−ブタ−2−エン誘導体の製造方法

一般式(I)[式中、基R1及びR2は互いに独立して水素、C1〜C6−アルキル、C6〜C12−アリール、例えばフェニル又はC5〜C12−シクロアルキルであるか、又はR1及びR2はこれらが結合している二重結合と一緒になって、C6〜C12−アリール基、例えばフェニル、C1〜C6−アルキルで、ハロゲンで又はアルコキシでモノ又はポリ置換されたフェニル、又はモノ又はポリ不飽和のC5〜C12−シクロアルキル基を形成し、R3、R4は互いに独立して水素、メチル、トリフルオロメチル又はニトリルを表す]で示される1,1,4,4,−テトラアルコキシ−ブタ−2−エン誘導体の製造方法であって、その際に、式II[式中、基R1、R3及びR4は、式I中と同じ意味を表す]で示される1,4−ジアルコキシ−1,3−ブタジエンを、C1〜C6−アルキルアルコールの存在で電気化学的に酸化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的酸化によってC1〜C6−アルキルアルコールの存在で、1,4−ジアルコキシ−1,3−ブタジエンから、1,1,4,4−テトラアルコキシブタ−2−エンを電気化学的に製造する方法に関する。
【0002】
1,1,4,4−テトラアルコキシ−ブタ−2−エンの多様な非電気化学的合成方法は、既に知られている。
【0003】
例えば、欧州特許出願公開(EP-A)第581 097号明細書には、2,5−ジメトキシジヒドロフランから出発して、脱水試薬の使用及び酸作用下での1,1,4,4−テトラメトキシ−ブタ−2−エンの製造が記載されている。欧州特許出願公開(EP-A)第581 097号明細書において使用される出発物質2,5−ジヒドロ−2,5−ジメトキシフランについては、電気化学的合成が既に知られている。フラン類から出発して、このアノードメトキシル化の場合に、特に臭化物が有利な酸化触媒(メディエーター)として使用される。例えば、独国特許出願公開(DE-A)第27 10 420号明細書及び独国特許出願公開(DE-A)第848 501号明細書には、支持電解質としての臭化ナトリウムもしくは臭化アンモニウムの存在でのフラン類のアノード酸化が記載されている。1,1,4,4−テトラメトキシ−ブタ−2−エンのこの二段階合成にとって不利であるのは、取り扱うのが難しいフラン、メディエーターとしての臭化物、脱水剤の使用並びに副生物1,1,2,5,5−ペンタメトキシブタンの形成である。
【0004】
フラン及び臭素から出発する合成方法は、米国特許第(US-A)第3240818号明細書に開示されている。この方法の場合にも、フランは取り扱わなければならない。臭素は、酸化剤として高価なだけでなく、必要で適切な廃棄に関して労力がかかり、かつ費用集約的でもある。
【0005】
故に、課題は、経済的であり、かつ所望の生成物を高い収率で及び良好な選択率で提供する、テトラ−1,1,4,4−アルコキシブタ−2−エン誘導体の電気化学的製造方法を提供することであった。
【0006】
それに応じて、一般式(I)
【化1】

[式中、基R1及びR2は互いに独立して水素、C1〜C6−アルキル、C6〜C12−アリール、例えばフェニル又はC5〜C12−シクロアルキルであるか、又はR1及びR2はこれらが結合している二重結合と一緒になって、C6〜C12−アリール基、例えばフェニル、C1〜C6−アルキルで、ハロゲンで又はアルコキシでモノ又はポリ置換されたフェニル、又はモノ又はポリ不飽和のC5〜C12−シクロアルキル基を形成し、R3、R4は互いに独立して水素、メチル、トリフルオロメチル又はニトリルを表す]で示される1,1,4,4,−テトラアルコキシ−ブタ−2−エン誘導体の製造方法が目下見出され、その際に、式II
【化2】

[式中、基R1、R3及びR4は、式I中と同じ意味を表す]で示される1,4−ジアルコキシ−1,3−ブタジエンを、C1〜C6−アルキルアルコールの存在で電気化学的に酸化する。好ましくは、基R1はメチル基である。
【0007】
式I及びIIの化合物の可能な全てのジアステレオマー、エナンチオマー及びE,Z−異性体、立体異性体及びそれらの混合物は、従って、純粋なジアステレオマー、エナンチオマー及び異性体に加えて、相応する混合物であると特に理解されるべきである。
【0008】
技術水準の方法において出発物質として使用されるフランと比較して、1,4−ジアルコキシ−1,3−ブタジエンは本質的により安価である。1,4−ジアルコキシ−1,3−ブタジエンのより高い沸点に基づいて、そのうえ反応の間の冷却費用は低下され、かつより高い反応温度が可能になる。そのうえ、この出発物質の本質的なさらなる利点は、その明らかにより低い毒性である。1,4−ジメトキシ−1,3−ブタジエンはそれ自体として知られている。1,4−ジメトキシ−1,3−ブタジエンは、1,4−ブチンジオールをメチル化して1,4−ジメトキシ−2−ブチンに変換し、かつそれを転位することによって、これは例えばL. Brandsma, Synthesis of Acetylenes, Allenes and Cumulenes, Elesevier Ltd. 2004, p.204及びP.E. van Rijn他, J.R. Neth. Chem. Soc. 100, 198, 372-375に記載されているように、製造されることができる。H. Hiranuma他, J. Org. Chem. 1982, 47, 5083-5088に記載されているように、後処理後に、(59±5):(35±5):(6±3)−1,4−ジアルコキシ−1,3−ブタジエンに相当するZ,Z/Z,E/E,Eの異性体混合物が得られ、かつこの混合物は好ましくは、本発明による方法において使用される。2及び3位で置換された1,4−ジアルコキシ−1,3−ブタジエンの製造は、類似して行われる。
【0009】
電解液中で、C1〜C6−アルキルアルコールが、一般式(II)の1,4−ジアルコキシ−1,3−ブタジエン誘導体を基準として、等モルで又は1:20までの過剰量で使用され、ついで同時に一般式(I)の形成された化合物のための溶剤又は希釈剤として利用される。好ましくは、C1〜C6−アルキルアルコール及び極めて特に好ましくはメタノールが使用される。
【0010】
場合により、電解溶液に、常用の助溶剤が添加される。これは、有機化学において一般的に常用の、高い酸化電位を有する不活性溶剤である。例示的に、ジメチルホルムアミド、ジメチルカーボナート、アセトニトリル又はプロピレンカーボナートを挙げることができる。
【0011】
電解溶液中に含まれている支持電解質として、一般的に、カリウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩、鉄塩、アルカリ金属、アルカリ土類金属、テトラ(C1〜C6−アルキル)アンモニウム塩、好ましくはトリ(C1〜C6−アルキル)−メチルアンモニウム塩の群から選択される少なくとも1つの化合物が重要である。対イオンとして、硫酸塩、硫酸水素塩、アルキル硫酸塩、アリール硫酸塩、ハロゲン化物、リン酸塩、炭酸塩、アルキルリン酸塩、アルキル炭酸塩、硝酸塩、アルコラート、テトラフルオロホウ酸塩又は過塩素酸塩が考慮に値する。
【0012】
さらに、前記のアニオンから誘導される酸が支持電解質として考慮に値する。
【0013】
メチルトリブチルアンモニウムメチルスルファート(MTBS)、メチルトリエチルアンモニウムメチルスルファート又はメチル−トリ−プロピルメチルアンモニウムメチルスルファートが好ましい。
【0014】
それに加えて、支持電解質として、イオン性液体も適している。適したイオン性液体は、"Ionic Liquids in Synthesis", Peter Wasserscheid編, Tom Welton, Verlag Wiley VCH, 2003, 3.6章、p.103 - 126に記載されている。
【0015】
本発明による方法は、常用の全ての電解セルタイプ中で実施されることができる。好ましくは、非分離流動セルを用いて連続的に操作する。
【0016】
アノード室がカソード室から膜又は隔膜によって分離されている電解セルが特に適しており、かつ電極がプレートとして設けられており、かつ平行平面に配置されているバイポーラで接続された非分離のキャピラリーギャップセル又はプレートスタックセルが極めて特に適している(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, 1999 electronic release, 第6版, VCH-Verlag Weinheim, Volume Electrochemistry, Chapter 3.5. special cell designs並びにChapter 5, Organic Electrochemistry, Subchapter 5.4.3.2 Cell Design参照)。そのような電解セルは、例えば、独国特許出願公開(DE-A)第19533773号明細書にも記載されている。
【0017】
本方法が実施される電流密度は、一般的に1〜20mA/cm2、好ましくは3〜5mA/cm2である。温度は通常−20〜55℃、好ましくは20〜40℃である。一般的に常圧で操作される。より高い圧力は、出発化合物もしくは助溶剤の沸騰を回避するためにより高い温度で操作されるべきである場合に好ましくは使用される。
【0018】
アノード材料として、例えば、グラファイト系材料、貴金属、例えば白金又は金属酸化物、例えばルテニウム又は酸化クロム又はタイプRuOxTiOxの混合酸化物、金属、例えば鉛又はニッケル又はホウ素ドープされたダイヤモンドが適しており、グラファイト及び白金が好ましい。さらに、ダイヤモンド表面を有するアノードが好ましい。
【0019】
カソード材料として、例えば鉄、鋼、合金鋼、ニッケル;鉛、水銀又は貴金属、例えば白金、ホウ素ドープされたダイヤモンド並びにグラファイト又は炭素材料が考慮に値し、その際にグラファイトが好ましい。
【0020】
アノード及びカソードとしてのグラファイトの系が特に好ましい。
【0021】
反応の終了後に、電解溶液は一般的な分離法によって後処理される。このためには、電解溶液は一般的に、まず最初に8〜9のpH値にされ、引き続いて蒸留され、かつ個々の化合物は、多様な留分の形で別個に取得される。さらなる精製は、例えば、結晶化、蒸留又はクロマトグラフィーにより行われることができる。
【0022】
実施例
例1 − 1,1,4,4−テトラメトキシ−ブタ−2−エン
装置:6つのグラファイト電極を有する非分離プレートスタックセル
(直径:65mm、間隔:1mm、ギャップ5)
アノード及びカソード:グラファイト
電解液:E,E−、E,Z−及びZ,Z−1,4−ジメトキシブタジエンの混合物 47g
メチルトリブチルアンモニウムメチルスルファート(MTBS) 20g
メタノール 717g
1,4−ジメトキシ−1,3−ブタジエン2.5F/molでの電気分解
電流密度:3.4A dm-2
温度:24℃。
【0023】
示された条件下での電解の場合に、電解液を5h、250l/hの流量で熱交換器を経てセルへポンプ輸送した。
【0024】
電解の終了後に、電解排出液から蒸留によりメタノールを除去し、残留物を54〜64℃及び2mbarで蒸留した。この場合に、62%の収率に相応する1,1,4,4−テトラメトキシ−ブタ−2−エン46gが得られた。選択率は84%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

[式中、基R1及びR2は互いに独立して水素、C1〜C6−アルキル、C6〜C12−アリール又はC5〜C12−シクロアルキルであるか、又はR1及びR2はこれらが結合している二重結合と一緒になって、C6〜C12−アリール基、C1〜C6−アルキルで、ハロゲンで又はアルコキシでモノ又はポリ置換されたフェニル、又はモノ又はポリ不飽和のC5〜C12−シクロアルキル基を形成し、R3、R4は互いに独立して水素、メチル、トリフルオロメチル又はニトリルを表す]で示される1,1,4,4,−テトラアルコキシ−ブタ−2−エン誘導体の製造方法であって、式II
【化2】

[式中、基R1、R3及びR4は、式I中と同じ意味を表す]で示される1,4−ジアルコキシ−1,3−ブタジエンを、C1〜C6−アルキルアルコールの存在で電気化学的に酸化することを特徴とする、1,1,4,4,−テトラアルコキシ−ブタ−2−エン誘導体の製造方法。
【請求項2】
脂肪族C1〜C6−アルキルアルコールがメタノールである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
一般式(II)の1,4−ジアルコキシ−1,3−ブタジエン1molあたりアルキルアルコール少なくとも1molを使用する、請求項1又は2のいずれか1項記載の方法。
【請求項4】
支持電解質としてナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、鉄塩、テトラ−(C1〜C6−アルキル)アンモニウム塩を、対イオン又はイオン性液体として硫酸塩、硫酸水素塩、アルキル硫酸塩、アリール硫酸塩、ハロゲン化物、リン酸塩、炭酸塩、アルキルリン酸塩、アルキル炭酸塩、硝酸塩、アルコラート、テトラフルオロホウ酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩又は過塩素酸塩と共に含有する電解液中で方法を実施する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
バイポーラで接続されたキャピラリーギャップセル又はプレートスタックセル中又は分離電解セル中で実施する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2009−503266(P2009−503266A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−524501(P2008−524501)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【国際出願番号】PCT/EP2006/064845
【国際公開番号】WO2007/014932
【国際公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】