説明

1,2−プロパンジオールの製造方法

1,2−プロパンジオールと、不純物であるヒドロキシプロパノンとを含む、グリセリンの水素化の粗生成物流体からヒドロキシプロパノンを除去するためのプロセスであって、このプロセスは
(a)必要とされる場合、前記粗生成物流体を凝縮するステップと、
(b)前記粗生成物流体中に存在するヒドロキシプロパノンを所望のプロパンジオールに転化させるように、不均一系触媒の存在下、適当な温度および圧力で、液相である前記粗生成物相を水素含有ガス流体と接触させるステップと
を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、グリセリンとしても知られている、1,2,3−プロパントリオールの水素化によって、1,2−プロパンジオールまたはプロパノールを製造する方法に関する。より詳細には、グリセリンの水素化の粗生成物に仕上げ(ポリッシュ)を施して、未反応ヒドロキシプロパノンおよび他の不純物を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリセリンは多量に利用可能であり、また、出発原料として油脂のような天然物をベースにしているため、ますます魅力的になっているプロセスの副生物であるので、グリセリンの供給量が増加することが予想される。油脂としては、パーム油、菜種油、牛脂などが挙げられる。
【0003】
しかしながら、グリセリンは多量に利用可能であるが、グリセリンの現在の使用は量が限られている。したがって、グリセリンを有用な材料に転化することを可能にするプロセスを提供することが望まれている。したがって、副生物としてグリセリンが生成するプロセスに、原料としてグリセリンを使用する下流プロセスを連結することには経済的利点があることが理解されるであろう。このように、グリセリン反応器を連結することができるプロセスとしては、バイオディーゼル装置、天然洗剤工場などへの供給装置のような脂肪スプリッターなどが挙げられる。
【0004】
グリセリンは、その利用可能性に見合った用途がないが、様々な用途を有する価値のある出発原料である1,2−プロパンジオールおよびプロパノールに転化することができる。この転化を行うための様々なプロセスが提案されている。
【0005】
米国特許第5,426,249号明細書には、気体流のグリセリンを脱水してアクロレインに変換するプロセスが記載されている。次いで、このアクロレインは凝縮され、水和されて3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドに変換され、次いで、このアルデヒドは液相中で水素化される。この多段プロセスによって、1,2−および1,3−プロパンジオールを同時に得ることができる。米国特許第5,214,219号明細書には、別の液相プロセスが記載されている。この方法では、液相中、銅/亜鉛触媒の存在下、約220℃の温度で水素化することによって、グリセリンを1,2−プロパンジオールおよび1,2−エタンジオールに変換している。
【0006】
米国特許第5,616,817号明細書には、グリセリンの液相水素化の別のプロセスが記載されている。このプロセスは、1,2−プロパンジオールの製造を対象としており、グリセリンの水分含有量が20重量%以下であることを必要としている。この水素化は、コバルト、銅、マンガンおよびモリブデンを含む触媒の存在下で実施される。
【0007】
上記のプロセスおよび他のプロセスは、グリセリンから望ましい生成物を得るための手段を提供するが、転化率、速度および/または経済性に関して様々な不利な点および欠点がある。したがって、気相水素化を用いるべきであることが示唆されていた。そのようなプロセスの1つが国際公開第2007/010299号パンフレットに記載されており、この公報は参照により本明細書に組み込まれる。このプロセスでは、気相中、触媒の存在下、温度が約160℃から約260℃、圧力が約10バールから約30バール、水素とグリセリンの比率が400:1から約600:1、滞留時間が約0.01秒から約2.5秒で、グリセリンを含む供給原料を水素含有気流と接触させて、水素化させる。
【0008】
気相で水素化を行うことには、先行技術の液相プロセスに優る様々な利点がある。一般に、水素化反応器中での滞留時間がより短い。滞留時間が短いと、液相反応で見られるものよりも、副生物の生成量が少なくなるので、このことは有利である。また、記載されているプロセスは、所望の生成物に対する総体的に高い選択性を維持しながら、より低い圧力で操作することを可能にする。
【0009】
水素の存在下で、グリセリンを含む供給原料材料を反応させて、プロピレングリコールを製造する別の気相プロセスが国際公開第2007/057400号パンフレットに記載されており、この公報は参照により本明細書に組み込まれる。このプロセスは、
(a)最初の気化領域に供給原料材料を含む流体を供給し、水素を含む循環ガスに前記供給原料を接触させて、供給原料の少なくとも一部を循環ガスによって、循環ガス中に気化させる工程と;
(b)少なくとも一部の循環ガスおよび気化した供給原料材料を、触媒を含む最初の反応領域に供給し、水素添加と脱水が起こり得る反応条件下で操作して、大部分のグリセリンを転化する工程と;
(c)最初の反応領域から、循環ガスと、少量の未転化のグリセリンと、所望の生成物とを含む中間生成物流体を回収する工程と;
(d)前の反応領域から最後の気化領域に中間生成物流体を供給し、それを追加の供給原料材料に接触させて、前の気化領域で気化したものとほぼ同量のグリセリンを中間生成物流体によって、中間生成物流体中に気化させる工程と;
(e)工程(d)からの流体を、触媒を含む最後の反応領域に供給する工程と
を有する。
【0010】
国際公開第2005/095536号パンフレットおよび国際公開第2007/053705号パンフレットに開示されているプロセスなど、他の気相プロセスも開示されている。
【0011】
これらの気相プロセスには先行技術のプロセスに優る様々な利点があり、一部のプロセスでは高収率および高選択率で所望の生成物が得られるが、不純物からの所望の生成物の分離に伴う問題がある。したがって、気相反応では、液相反応で見られるものよりも、副生物の生成量が少なくなるが、特に医薬品グレードの製品が必要な場合には、所望の生成物から分離しなければならない不純物がなお存在する。
【0012】
ヒドロキシプロパノン(アセトールおよびヒドロキシアセトンとしても知られている)は、グリセリンを1,2−プロパンジオールへと水素化するときの中間生成物である。したがって、精製しない水素化の後、1,2−プロパンジオールを多量に含有している生成物流体は、多少の「未反応」ヒドロキシプロパノン中間生成物を含む。ヒドロキシプロパノンは蒸留によって粗生成物流体から比較的容易に分離されるが、ヒドロキシプロパノンはなお反応性であり、1,2−プロパンジオールの精製工程に必要な蒸留条件で様々な化合物を形成することがある。生成する化合物としては、これらに限定されるものではないが、2,4−ジメチル−2−メタノール−1,3−ジオキソランが挙げられる。生成したジオキソランおよび他の類似化合物は、通常の蒸留方法によって1,2−プロパンジオールから分離することは、これらの蒸留方法によって不純物が生成するので、困難であることが理解されるであろう。さらに、それらは、所望の生成物と沸点が近い。したがって、さらなる不純物を生じさせるという蒸留方法の問題が無いとしても、十分な分離を達成することはやはりできないと考えられる。
【0013】
また、蒸留中のジオキソランの生成を防ぐことが可能であるとしても、グリセリン供給原料の気相水素化中に少量のジオキソランが生成するので、この問題が克服されないことにも注目しなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、触媒によるグリセリンの気相水素化によって製造される粗1,2−プロパンジオール流体中のヒドロキシプロパノンおよびその好ましくない反応生成物の含有量が低減されるプロセスを提供することが望ましい。このプロセスによって、特に高い医薬品グレードにまで通常の蒸留方法によって精製することができる1,2−プロパンジオールを製造することができるようになる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
グリセリンの気相水素化で得られる気相水素化粗生成物流体を、不均一系触媒の存在下、適当な反応条件下で、液相水素化の間、通すと、アセトールおよびその好ましい生成物の量を実質的にゼロにまで低減させ、その結果、通常の蒸留方法を用いて、非常に高純度の1,2−プロパンジオールを得ることが可能になることが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0016】
したがって、本発明によれば、1,2−プロパンジオールと、不純物であるヒドロキシプロパノンとを含む、グリセリンの水素化の粗生成物流体からヒドロキシプロパノンを除去するためのプロセスであって、
(a)必要とされる場合、前記粗生成物流体を凝縮するステップと、
(b)前記粗生成物流体中に存在するヒドロキシプロパノンを所望のプロパンジオールに転化させるように、不均一系触媒の存在下、適当な温度および圧力で、液相である前記粗生成物相を水素含有ガス流体と接触させるステップと
を有するプロセスが提供される。
【0017】
この粗生成物流体は、通常、アクロレインを含まない。
【0018】
ヒドロキシプロパノンは、蒸留条件に曝される前に、所望の生成物に転化させるので、先行技術のプロセスでは蒸留中に生成する好ましくない生成物が生成しない。特に、所望の生成物からヒドロキシプロパノンを分離するときに生成することがあるジオキソランの生成が防止される。ジオキソランを蒸留によって系から分離することは困難である。
【0019】
本発明のプロセスは、通常、存在するヒドロキシプロパノンの量が実質的にゼロにまで低減された精製生成物流体を与える。すなわち、ヒドロキシプロパノンおよびジオキソラン等のヒドロキシプロパノンの反応生成物の含有量は、ガスクロマトグラフィーで測定して、典型的には約20ppm〜約60ppmである。
【0020】
本発明のプロセスによって処理される粗生成物流体は、気相水素化プロセスからの生成物流体であり、精製ステップにかけられていないものである。一態様では、グリセリンを気相で反応させるプラントからの生成物流体を、直接、本発明のプロセスに送ることができる。別の態様では、粗生成物流体を、凝縮ステップの前または後に、本発明のポリッシュステップにかける前まで貯蔵することができる。
【0021】
当業者であれば、所望の結果を得るために必要な適当な温度および圧力を選択することができる。一般に、中程度の水素圧、および低い温度が適している。約5バールg〜約45バールgの水素圧が一般的に適当である。約10バールg〜約25バールgの水素圧が好ましいことがある。約20℃〜約200℃の範囲の温度が一般的に適当であり、約50℃〜約130℃の範囲の温度が特に好ましい。
【0022】
他の条件は、適宜選択できる。一態様では、液状生成物流体は、水素と接触させられ、約0.1hr−1〜約10hr−1の範囲の液空間速度で、特に好ましくは約0.2hr−1〜約5hr−1の範囲の液空間速度で、加熱した水素化領域に通される。
【0023】
この水素ガスは、任意の適当な流量で供給されることができるが、GHSVが約100〜約250の範囲が特に好ましい。
【0024】
任意の適当な触媒を使用することができる。触媒の例としては、ニッケル、例えば球形のニッケル、カーボン上のルテニウム、ニッケル上のルテニウム、コバルトおよび銅をベースとした触媒が挙げられる。
【0025】
本発明のポリッシュプロセスからの流体は、通常の手段によって取り除かれるガスを含むことがあり、この生成物流体は、通常の蒸留方法によって、高純度、例えば、医薬品グレードの純度にまで精製することができる。生成物流体から取り除かれる水素ガスは、リサイクルすることができる。
【0026】
上記の本発明の第1の態様のプロセスにかけられる流体は、任意の適当なプロセスによってグリセリンから形成されたものであることができる。このプロセスは、液相であっても、気相であってもよい。一態様では、このプロセスは、グリセリンの水素化である。
【0027】
本発明の第2の態様によれば、グリセリンを水素化するためのプロセスであって、
(a)グリセリンを含む供給原料を、触媒の存在下、水素化して、粗生成物流体を生成するステップと、
(b)前記粗生成物流体を上記の第1の態様のプロセスにかけるステップと
を有するプロセスが提供される。
【0028】
この水素化は、好ましくは気相で起こる。
【0029】
ステップ(a)のプロセスは、任意の適当な態様であることができ、国際公開第2007/010299号、同2007/057400号、同2005/095536号または同2007/053705号パンフレットのいずれかに記載されたプロセスであることができる。これらの公報は参照により本明細書に組み込まれる。
【0030】
一態様では、ステップ(a)のプロセスが、気相中、触媒の存在下、温度が約160℃から約260℃、圧力が約10バールから約30バール、水素とグリセリンの比率が400:1から約600:1、滞留時間が約0.01秒から約2.5秒で、グリセリンを含む供給原料を水素含有ガス流体と接触させて、前記流体を水素化させるステップを含む。
【0031】
別の一態様では、ステップ(a)のプロセスが、
(i)最初の気化領域に供給原料材料を含む流体を供給し、水素を含む循環ガスに前記供給原料を接触させて、供給原料の少なくとも一部を循環ガスによって、循環ガス中に気化させるステップと;
(ii)少なくとも一部の循環ガスおよび気化した供給原料材料を、触媒を含む最初の反応領域に供給し、水素化と脱水が起こり得る反応条件下で操作して、大部分のグリセリンを転化するステップと;
(iii)最初の反応領域から、循環ガスと、少量の未転化のグリセリンと、所望の生成物とを含む中間生成物流体を回収するステップと;
(iv)前の反応領域から最後の気化領域に中間生成物流体を供給し、それを追加の供給原料材料に接触させて、前の気化領域で気化したものとほぼ同量のグリセリンを中間生成物流体によって、中間生成物流体中に気化させるステップと;
(v)ステップ(iv)からの流体を、触媒を含む最後の反応領域に供給するステップと
を含む。
【実施例】
【0032】
次に、以下の例を参照して、本発明をさらに説明する。これらの反応試験では、商業規模で必要とされるであろう圧力よりも高い圧力を用いた。
【0033】
<実施例1〜3>
反応器に触媒を充填した。国際公開第2007/010299号パンフレットに記載されたプロセスに従って製造した粗生成物流体を反応器に供給し、本発明のプロセスにかけた。条件および結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
<実施例4〜5>
反応器に触媒を充填した。国際公開第2007/010299号パンフレットに記載されたプロセスに従って製造した粗生成物流体を反応器に供給し、本発明のプロセスにかけた。条件および結果を表2に示す。
【0036】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,2−プロパンジオールと、不純物であるヒドロキシプロパノンとを含む、グリセリンの水素化の粗生成物流体からヒドロキシプロパノンを除去するためのプロセスであって、
(a)必要とされる場合、前記粗生成物流体を凝縮するステップと、
(b)前記粗生成物流体中に存在するヒドロキシプロパノンを所望のプロパンジオールに転化させるように、不均一系触媒の存在下、適当な温度および圧力で、液相である前記粗生成物相を水素含有ガス流体と接触させるステップと
を有するプロセス。
【請求項2】
前記粗生成物流体が、前記グリセリンの気相水素化で得られるものである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記水素含有ガスの圧力が、約5バールg〜約45バールgである、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記凝縮した粗生成物を前記水素含有ガスと接触させる温度が、約20℃〜約200℃である、請求項1〜3のいずれかに記載のプロセス。
【請求項5】
前記凝縮した粗生成物を前記水素含有ガスと接触させる温度が、約50℃〜約130℃である、請求項1〜3のいずれかに記載のプロセス。
【請求項6】
前記液状生成物流体が、水素に曝され、約0.1hr−1〜約10hr−1の範囲の液空間速度で、加熱した水素化領域に通される、請求項1〜5のいずれかに記載のプロセス。
【請求項7】
前記液状生成物流体が、水素に曝され、約0.2hr−1〜約5hr−1の範囲の液空間速度で、加熱した水素化領域に通される、請求項1〜5のいずれかに記載のプロセス。
【請求項8】
前記水素含有ガスが、GHSVが約100〜約250の範囲の流量で供給される、請求項1〜7のいずれかに記載のプロセス。
【請求項9】
前記触媒が、ニッケル、ニッケル球、カーボン上のルテニウム、ニッケル上のルテニウム、コバルトおよび銅をベースとした触媒から選択される、請求項1〜8のいずれかに記載のプロセス。
【請求項10】
グリセリンを水素化するためのプロセスであって、
(a)グリセリンを含む供給原料を、触媒の存在下、水素化して、粗生成物流体を生成するステップと、
(b)前記粗生成物流体を請求項1〜9のいずれかに記載のプロセスにかけるステップと
を有するプロセス。
【請求項11】
前記グリセリンを含む供給原料が、気相で水素化される、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記ステップ(a)のプロセスが、気相中、触媒の存在下、温度が約160℃から約260℃、圧力が約10バールから約30バール、水素とグリセリンの比率が400:1から約600:1、滞留時間が約0.01秒から約2.5秒で、グリセリンを含む供給原料を水素含有ガス流体と接触させて、前記流体を水素化させるステップを含む、請求項10に記載のプロセス。
【請求項13】
前記ステップ(a)のプロセスが、
(i)最初の気化領域に供給原料材料を含む流体を供給し、水素を含む循環ガスに前記供給原料を接触させて、供給原料の少なくとも一部を循環ガスによって、循環ガス中に気化させるステップと;
(ii)少なくとも一部の循環ガスおよび気化した供給原料材料を、触媒を含む最初の反応領域に供給し、水素化と脱水が起こり得る反応条件下で操作して、大部分のグリセリンを転化するステップと;
(iii)最初の反応領域から、循環ガスと、少量の未転化のグリセリンと、所望の生成物とを含む中間生成物流体を回収するステップと;
(iv)前の反応領域から最後の気化領域に中間生成物流体を供給し、それを追加の供給原料材料に接触させて、前の気化領域で気化したものとほぼ同量のグリセリンを中間生成物流体によって、中間生成物流体中に気化させるステップと;
(v)ステップ(iv)からの流体を、触媒を含む最後の反応領域に供給するステップと
を含む、請求項10に記載のプロセス。

【公表番号】特表2011−506419(P2011−506419A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−537521(P2010−537521)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【国際出願番号】PCT/GB2008/051143
【国際公開番号】WO2009/074821
【国際公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(503136668)デイビー プロセス テクノロジー リミテッド (8)
【Fターム(参考)】