説明

1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類の製造方法

【課題】 重合成モノマーや、医農薬の中間体として有用な1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類を、工業的に入手容易な化合物を原料として工業的に実施可能な手法で安価に製造する方法を提供する。
【解決手段】 ナフトキノン類にシクロペンタジエン類もしくはその2量体を反応させて付加体を合成し、次にケトン基を還元してジオールとし、最後にジオールを脱水することを特徴とする一般式(1)に示す1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類の製造することにより工業的に実施可能な方法で効率よく製造できる。


((1)中、R1〜R9はそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシ基、炭素数3以下のアルキル基またはハロゲン原子を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬中間体、電子材料や光学材料樹脂用の原料モノマーなどの合成原料として重要な化合物である1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノルボルネン骨格を有する化合物は、ノルボルネン環の開環重合や、メタセシス重合により容易に重合させて特長ある物性を有する樹脂を製造できることから産業的にも重要な化合物である。また、ノルボルネン環のオレフィンは求核的な付加反応を受けやすくエステルや、エポキシド、アルコールなどに容易に官能基変換されることから医農薬などの中間体として利用でき、有用な化合物である。このうち、特に複数の芳香環が縮環したノルボルネン類を原料として樹脂を製造すると、蛍光を発する材料となることから、発光ダイオードや有機蛍光体などの光学材料としての利用が可能であり、産業上極めて有用な化合物である。(非特許文献1参照)
一方、1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類は、芳香環を2つが縮環しかつノルボルネン環を合わせ持つと言う構造上の特徴を有しており、樹脂としたときの蛍光材などの光学材料の原料としての用途が期待されてはいたが、工業的に安価且つ簡便に製造する方法がなかったために大きなスケールで製造されることがなかった。例えば、1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類の製造法としては、下記の2つのルートが文献により公知である。
【0003】
【化2】

【0004】
【化3】

【0005】
しかしながら(2)のルートでは、テトラブロモ−o−キシレン及びノルボルナジエンを工業的に安価に多量に入手することが難しく大きなスケールで実施することはできない(非特許文献2参照)。また、(3)のルートでは、やはり原料の1−アミノ−2−カルボキシナフタレンの入手が容易でなく、また価格も高価となるため、目的の1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類を安価に工業的に製造する方法として採用することはできない。(非特許文献3参照)
【非特許文献1】Chemistry of materials, 16, 3373(2004).
【非特許文献2】Synthesis, 328(1986).
【非特許文献3】European Polymer J., 27, 27(1991).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類を製造する方法は、上記記載の(2)や(3)のような2つのルートが開示されているが、いずれのルートも工業的に製造するには問題があった。具体的には、上記(2)のルートでは、テトラブロモ−o−キシレン及びノルボルナジエンは高価であり、また工業的に多量に入手することも困難であるため、スケールを拡大して実施することはできない。また、上記(3)のルートも、やはり原料の1−アミノ−2−カルボキシナフタレンの入手が容易でなく、また価格も高価となるため、目的の1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類を安価に工業的に製造する方法として採用することはできない。
【0007】
そこで、本発明は、芳香環2つと重合性のノルボルネン環を合わせ持つ1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類を、工業的に入手容易な化合物を原料として工業的に実施可能な手法で安価に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシ−1,4−メタノアントラセン類の2つの水酸基を脱水することにより工業的に入手容易な化合物を原料として工業的に実施可能な手法で安価に下記一般式(1)に示す1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類を製造することができることが判明し本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明の第1の要旨は、1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシ−1,4−メタノアントラセン類のジオールを脱水反応させることを特徴とする一般式(1)に示す1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類の製造方法に存する。
【0010】
【化4】

【0011】
式(1)中、R1〜R9はそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシ基、炭素数3以下のアルキル基またはハロゲン原子を示す。
本発明の第2の要旨は、上記一般式(1)のうちR1〜R9が水素原子であることを特徴とする上記記載の1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセンの製造方法に存する。
本発明の第3の要旨は、脱水反応を酸化リン、ハロゲン化リン化合物及びハロゲン化硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種の脱水剤の存在下に行うことを特徴とする上記記載の1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類の製造方法に存する。
【0012】
本発明の第4の要旨は、脱水剤が、塩化チオニル、オキシ塩化リン、三塩化リン又は五酸化リンから選ばれることを特徴とする上記記載の1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類の製造方法に存する。
本発明の第5の要旨は、非プロトン性溶媒を用いることを特徴とする上記記載の1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類の製造方法に存する。
【0013】
本発明の第6の要旨は、脱水反応を行う際に用いる非プロトン性溶媒が、ニトリル基を含有する有機溶媒であることを特徴とする上記記載の1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類の製造方法に存する。
【発明の効果】
【0014】
医農薬の中間体、電子材料や光学材料樹脂の原料用モノマーとして重要な化合物である1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類を工業的に入手容易な化合物を原料とし工業的に実施可能な手法で効率よく製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定はされない。
<1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシ−1,4−メタノアントラセン類の製造>
1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシ−1,4−メタノアントラセン類は、以下の構造式で表される。
【0016】
【化5】

【0017】
(式(1)中、R1〜R9はそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシ基、炭素数3以下のアルキル基またはハロゲン原子を示す。)
中でも、R1〜R9がすべて水素原子である化合物は、原料が容易に且つ安価に入手できるので好ましい。
1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシ−1,4−メタノアントラセン類の製造は特に限定されないが、通常2段階にて行う。
【0018】
具体的には、まず第一工程は、ナフトキノン類にシクロペンタジエン類もしくはその2量体を反応させてナフトキノン類の付加体を合成する反応である。本反応は公知の方法、例えば特開平6−312950号公報に記載の方法にて合成できる。
第二工程は、上記反応で得られたナフトキノン類の付加体(ジケトン)を還元してジオールとする反応である。この際使用される環元剤としては特に制限はなく、一般にカルボニル基をヒドロキシ基に還元できるとされている試剤であれば使用可能である。 例えば、リチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH4)、ソジウムボロンハイドライド(NaBH4)、ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムハイドライド([(CH3OCH2CH2O)2AlH2]Na)等のような金属ハイドライド試剤、イソプロパノールのような有機環元試剤、等が好適に用いられる。中でも温和なヒドリド環元剤であるソジウムボロンハイドライドが扱いやすさ、反応性の点でより好ましい。反応は公知の方法、例えばJ. Org. Chem., 63, 7687(1998). に記載の方法にて合成することができる。
<1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類の製造法>
本発明の方法では、例えば上記の記載の方法により得られた1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシ−1,4−メタノアントラセン類の2つの水酸基を脱水することにより1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類を製造する。この反応は、水酸基を脱離する試剤(ここでは単に脱水剤と表記する)を用いて行うとより効率的に行うことができる。
【0019】
ここで、水酸基の脱水反応の効率を上げるために使用可能な脱水剤としては、酸化リン、ハロゲン化リン化合物、ハロゲン化硫黄化合物から少なくとも1種選ばれるものである。その中でも下記一般構造式(5)〜(8)で示されるハロゲン化リン化合物、ハロゲン化硫黄化合物を用いるのが好ましい。
【0020】
【化6】

【0021】
【化7】

【0022】
【化8】

【0023】
【化9】

【0024】
(式(5)〜(8)中、X1〜X3は独立に炭素数10以下のアルコキシ基またはアルキル基、ハロゲン原子を示す。)
さらには、塩化チオニル、オキシ塩化リン、三塩化リンが試剤の入手のしやすさ、取り扱いのしやすさからより好ましい。さらにはオキシ塩化リン、塩化チオニルが好ましく、さらには、オキシ塩化リンが得られる目的物の純度が良いことから特に好ましい。
【0025】
脱水剤の使用量は、基質分子内に水酸基が2つあることを考慮して、基質に対するモル比で下限が通常0.1モル等量以上、好ましくは0.5モル等量以上、さらに好ましくは1モル等量以上であり、上限が通常20モル等量以下、好ましくは10モル等量以下、さらに好ましくは5モル等量以下である。脱水剤の使用量が多すぎると目的物が着色する原因となる傾向があり、また少なすぎると収率が低下する原因となる。
【0026】
脱水剤による脱水反応は通常塩基性物質の存在下に行うことが好ましい。使用可能な塩基性物質としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩基、塩基性のイオン交換樹脂、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の有機3級アミン、ピリジンやピコリン等の芳香族アミン等の使用が可能である。中でもピリジンや、トリエチルアミンが溶媒への溶解性が良いことから好適に用いられる。
これら塩基性物質の使用量であるが、使用される脱水剤により発生する酸が全量、もしくは一部が中和される量が用いられる。具体的には、使用する脱水剤に対して、下限が通常0.5モル等量、好ましくは1モル等量以上、さらに好ましくは2モル等量以上、上限は通常20モル等量以下、好ましくは10モル等量以下、さらに好ましくは5モル等量以下用いられる。
【0027】
反応は、無溶媒で行うことも、溶媒を使用して行うことも共に可能である。特に使用する塩基性物質が反応温度で液状であれば、溶媒として塩基性物質を使用しても良い。
溶媒を使用する場合は、特に使用する溶媒に制限はないが、非プロトン性溶媒が好ましい。例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、ガンマブチロラクトンなどのエステル系溶媒、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、アセトニトリルやプロピ
オニトリルなどのアルキルニトリル系溶媒などが好適に用いられる。これら溶媒は単独で用いてもかまわないし、任意の複数の溶媒を混合して使用してもかまわない。中でも水と混和する溶媒を用いると、反応の際生成する塩基性物質の塩の溶解性が高いため反応液の均一性が保たれて反応の進行上好ましい上に、反応終了後、反応液に水を加えるだけで目的の1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類が、固体で得られるために工程付加が軽減されるという意味でも好ましい。さらには、得られる目的物の純度、収率の面でアルキルニトリル系溶媒が好ましい。
【0028】
溶媒を使用する場合、その量は溶液としたときの原料である1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシ−1,4−メタノアントラセン類の濃度重量%で、下限が通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上であり、上限は特に制限はないが、通常80重量%以下、好ましくは50重量%以下である。
これら反応試剤の仕込み方法には特に制限はないが、溶剤に基質と塩基性物質を溶解しておいてこの中に脱水剤を滴下する方法、溶剤に基質を溶解しておきこの中に塩基性物質と脱水剤を同時に滴下していく方法などが採用可能である。
【0029】
反応は、通常の攪拌装置を備えた反応器により行うのが好ましい。
採用される反応温度は、下限が通常−50℃以上、好ましくは−20℃以上、上限が通常70℃以下、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは30℃以下の範囲で実施される。
これら反応温度に反応器内を一定に保つ手法としては、通常のジャケット式の反応器に冷媒、熱媒を循環させる方法で行うことができる。
【0030】
反応時間に関しては、任意に選択されるが脱水剤の滴下時間を含めて、下限が通常10分以上、好ましくは30分以上、上限は特に限定はされないが通常20時間以下、好ましくは10時間以下である。
反応終了後に、反応液のクエンチと後処理を行う。クエンチは、水を反応系にゆっくり添加する方法、もしくは、反応液を水に注ぐ方法により行う。クエンチの際に使用する水には、必要に応じて酸、アルカリを含有していてもかまわない。その際の含むことのできる酸としては、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸などが例示される。また、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルキル金属の水酸化物、炭酸ナトリウムや、炭酸水素ナトリムなどの金属炭酸塩、ナトリムエトキシドなどのアルキル金属のアルコラート、などが使用可能である。
【0031】
反応において、アルキルニトリルなどの水と混和する非プロトン性溶媒を用いた場合、水を添加することにより目的物である1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類を粗結晶として沈殿させることができる。その際に添加する水の量は、反応に使用した溶媒重量に対して、下限が0.5倍以上、好ましくは1倍以上、さらに好ましくは2倍以上である。一方、上限は特に制限はないが処理の際の容器の容積効率を考えると50倍量以下、好ましくは20倍量以下、さらに好ましくは10倍量以下である。生成した沈殿は、ろ過により容易に分離することができる。
【0032】
反応において、炭化水素系溶媒などの水と混和しない非プロトン性溶媒を用いた場合は、目的物である1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類がこれら溶媒に溶解しやすいため、水によるクエンチ後に抽出により目的物を得る。抽出の際に使用できる溶媒は、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素溶媒、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒が好適に用いられる。必要に応じてこれら複数の溶媒を混合して用いても良い。
【0033】
抽出溶媒の使用量は、クエンチに使用した水の重量に対して下限が、0.1倍以上、好ましくは0.5倍以上、さらに好ましくは1倍以上である。一方上限は、50倍量以下、好ましくは20倍量以下、さらに好ましくは10倍量以下である。
抽出は、その効率を高めるために複数回に分けて行うのが好ましい。
抽出後、抽出溶液は、必要に応じて、酸やアルカリ、水、無機塩の水溶液などで洗浄して、さらに必要に応じて有機溶媒の溶液を乾燥する。最後に溶媒を留去することにより目的物を得ることができる。
【0034】
こうして得られた1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類の純度は、典型的な場合において例えばFID検出器付ガスクロマトグラフィーによる分析での面積比で下限が、50%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上の純度を有する。また、粗収率は、通常30%以上、好ましくは、50%以上、より好ましくは60%以上である。
【0035】
目的によりさらに純度の高める必要がある場合には、得られた1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類の粗体の精製を行う。精製は一般に有機物の精製法として知られている方法であれば、任意に選択して実施することができる。例えば、蒸留、薄膜蒸留、再結晶、カラムクロマトグラム、昇華、吸着法などが好適に採用される。中でも蒸留、再結晶法、吸着法が工業的なスケールの実施では好ましい。
【0036】
再結晶を行う場合の溶媒は、得られた1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類が溶解する溶媒であれば制限なく使用可能である。中でもトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、アセトニトリルやプロピオニトリルなどのアルキルニトリル系溶媒、メタノール、エタノールなどのアルコール系溶媒などが好適に用いられる。これら溶媒は、単独で使用することも、任意の複数の溶媒を組み合わせて用いることも可能である。必要に応じて水を加えた混合溶媒としてもよい。
【0037】
精製を行って得られる1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類の純度は、典型的な場合において例えばFID検出器付ガスクロマトグラフィーによる分析での面積比で下限が、90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上の純度を有する。また収率は、反応からの一環収率で、通常10%以上、好ましくは、20%以上、より好ましくは、30%以上である。
【0038】
得られた1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類の粗体が着色している場合には、必要に応じて脱色剤と処理することで容易に着色を低減することができる。その際用いることができる脱色剤としては、例えば、活性炭、シリカ、シリカアルミナ、アルミナ、タルク、ハイドロタルサイト、セライトなどが挙げられる。中でも、活性炭とシリカが好ましい。
【0039】
これら脱色剤の使用量は、要求される目的物の着色の度合いにより自由に選択することができる。典型的な場合、1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類の粗体の重量に対して、下限が0.1重量%、好ましくは0.5重量%、さらに好ましくは1重量%である。一方過剰に使用しすぎると1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類も吸着されてしまうので上限は、通常100重量%以下、好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下である。
【0040】
脱色剤との処理は、1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類が溶解する溶媒を用いてこれら脱色剤と混合して行う。その際使用可能な溶媒としては、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、アセトニトリルやプロピオニトリルなどのアルキルニトリル系溶媒などが好適に用いられる。これら溶媒は単独で用いてもかまわないし、任意の複数の溶媒を混合して使用してもかまわない。
【0041】
溶媒の使用量は、1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類の粗体の重量に対して下限が、0.1倍以上、好ましくは0.5倍以上、さらに好ましくは1倍以上である。一方上限は、50倍量以下、好ましくは20倍量以下、さらに好ましくは10倍量以下である。
<1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類>
上記製造方法で得られた1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類は、以下に示すような構造式で表される。
【0042】
【化10】

【0043】
(式(9)中、R1〜R9はそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシ基、炭素数3以下のアルキル基またはハロゲン原子を示す。
得られた1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類は、通常、室温下に保存することができるが、着色を防ぐ目的では、冷暗所に保存することが好ましい。
<用途>
本発明で得られる1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類は、電子部品材料や光学用途、など多方面において広く利用することができる樹脂の原料モノマーとしてや医農薬の原料として使用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
<ガスクロマトグラフィーによる純度の分析>
カラム:GLサイエンス社製 TG−1 0.25mm、30m、0.25μm
キャリアーガス:ヘリウム
検出器:FID
注入口温度:250℃
カラム槽温度:初期温度 150℃(5分保持)
昇温速度 10℃/分
最終温度 280℃(20分保持)
注入量:0.2μL
参考例1
<1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオンの合成>
窒素を流通させた100mLの反応容器にナフトキノン8.7g(55mmol)、メ
タノール20mL、酢酸20mLを仕込んだ。この中に直前にジシクロペンタジエンを加熱してクラッキングして得たシクロペンタジエン7.3g(110mmol)を内温が30℃以下になるように保ちながら40分かけて滴下した。その後、さらに室温で1.5時間攪拌した。反応液を減圧下に溶媒を留去した後、メタノール20mLを添加して再結晶を行い、茶色の目的物1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオンを9.7g(79%収率)得た。
【0045】
参考例2
<1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシ−1,4−メタノアントラセンの合成>
窒素を流通させた反応器にソジウムボロンハイドライド1.1g(NaBH4;30mmol:基質に対して1.1等量)、メタノール30mLを仕込み氷−水浴にて内温が5℃になるように冷却した。この中に、1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン−9,10−ジオン6.1g(27mmol)をメタノール100mLに溶解した溶液を内温が10℃以下になるように保ちながら30分で滴下した。 さらに5℃を保ちながら30分攪拌を継続した。 反応終了後、1N塩酸40mLを内温が10℃以下になるように保ちながらゆっくりと滴下し結晶を析出させた。得られた白色の結晶をろ過した後、ろ液を濃縮してろ過することを2度繰り返してさらに白色の結晶を得た。これらのろ過の操作により得られた結晶の総量は、6.4gであった。この粗結晶を酢酸エチル/メタノール=20mL/30mLの混合溶媒から再結晶を行い目的物である1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシ−1,4−メタノアントラセンを白色の針状晶として5.9g(収率95%、ガスクロマトグラフィーで分析した面積純度98%)を得た。
【0046】
実施例1
<1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセンの製造法(POCl3法;アセトニト
リル溶媒)>
窒素を流通させた反応器に1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシ−1,4−メタノアントラセン1.0g(4.4mmol)、アセトニトリル6mL(基質濃度;18wt%)、ピリジン1.6g(19.7mmol;基質に対して4.5等量)を仕込んで、氷−水浴にて5℃まで冷却した。 この中に、オキシ塩化リン1.0g(POCl3;6
.6mmol、基質に対して1.5等量)を反応器内の温度が10℃以下になるように保ちながら5分かけてゆっくりと滴下した。さらに内温を5℃に保ちながら3時間、温度を室温にして1時間、攪拌を継続した。反応終了後の反応液は、無色の均一溶液を呈していた。この溶液に2N NaOH水水溶液10mLをゆっくりと滴下し、さらに水を5mL添加して結晶を析出させた。得られた白色の結晶をろ過して乾燥したところ、白色の結晶536mgが得られた(ガスクロマトグラフィーで分析した面積純度91.3%、この面積純度で補正した粗収率58%)。 この粗結晶をアセトニトリル/水=2.5mL/0.3mLの混合溶媒から再結晶を行い目的物である1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセンを薄黄色の粉末としてとして375mg(収率45%、ガスクロマトグラフィーで分析した面積純度99.8%)を得た。
【0047】
実施例2
<1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセンの製造法(POCl3法;GBL溶
媒)>
反応溶媒としてアセトニトリルの代わりにガンマブチロラクトン(GBL)(基質濃度;13wt %)を用い、反応後に添加する水の量を30mLとした以外は実施例1と同様の方法で反応を行っ た。その結果、400mgの薄黄色の粗粉末が得られた(ガスクロマトグラフィーで分析した面積 純度94.4%、この面積純度で補正した粗収率45%)。
【0048】
実施例3
<1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセンの製造法(POCl3法;トルエン
溶媒)>
窒素を流通させた反応器に1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシ−1,4−メタノアントラセン2.0g(8.8mmol)、トルエン20mL(基質濃度;10wt%)、ピリジン4.2g(52.5mmol;基質に対して6等量)を仕込んで、氷−水浴にて5℃まで冷却した。 この中に、オキシ塩化リン2.7g(POCl3;17.5m
mol、基質に対して2等量)を内温が10℃以下になるように保ちながら10分かけてゆっくりと滴下した。さらに内温を5℃に保ちながら2時間、攪拌を継続した。反応途中より溶媒に不溶な白色の塊が生成するのが観察された。反応終了後、溶媒に不溶の白色の固まりも含めて反応液を飽和の重曹水50mLにあけ、トルエンで抽出した(30mLを使用し3回)。得られたトルエン溶液は、0.5N塩酸(50mLを使用し2回)、飽和重曹水(30mLを使用し2回)、水(30mLを使用し1回)、飽和食塩水(30mLを使用し1回)でそれぞれ洗浄した。得られたトルエン溶液は、硫酸マグネシウムを入れて乾燥した後、溶媒を留去して白色の結晶887mgが得られた(ガスクロマトグラフィーで分析した面積純度75.6%、この面積純度で補正した粗収率40%)。この粗結晶をメタノールから再結晶を行い目的物である1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセンを黄色の粉末としてとして392mg(収率23%、ガスクロマトグラフィーで分析した面積純度93.1%)を得た。
【0049】
実施例4
<1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセンの製造法(POCl3法;酢酸エチ
ル溶媒)>
反応溶媒としてアセトニトリルの代わりに酢酸エチル(基質濃度;16wt%)を用い、反応のスケールを1/2としたこと以外は実施例3と同様の方法で反応を行った。(実施例3と同様、反応途中より溶媒に不溶な白色の塊が生成するのが観察された。)その結果、563mgの薄黄色の粗粉末が得られた(ガスクロマトグラフィーで分析した面積純度82.7%、この面積純度で補正した粗収率55%)。このものを実施例1と同様の操作により再結晶を行い、1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセンを黄土色の粉末としてとして149mg(収率18%、ガスクロマトグラフィーで分析した面積純度98.1%)を得た。
【0050】
実施例5
<1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセンの製造法(POCl3法;エチレン
グリコールジメチルエーテル溶媒)>
反応溶媒としてアセトニトリルの代わりにエチレングリコールジメチルエーテル(基質濃度;16wt%)を用い、反応のスケールを1/2としたこと以外は実施例3と同様の方法で反応を行った。(実施例3と同様、反応途中より溶媒に不溶な白色の塊が生成するのが観察された。)その結果、429mgの薄黄色の粗粉末が得られた(ガスクロマトグラフィーで分析した面積純度80.3%、この面積純度で補正した粗収率41%)。このものを実施例1と同様の操作により再結晶を行い、1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセンを黄土色の粉末としてとして166mg(収率20%、ガスクロマトグラフィーで分析した面積純度99.7%)を得た。
【0051】
実施例6
<1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセンの製造法(トシルクロリド法)>
窒素を流通させた反応器に1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシ−1,4−メタノアントラセン1.0g(4.4mmol)、ピリジン6mLを仕込んで、氷−水浴にて5℃まで冷却した。 この中に、トシルクロリド2.5g(TsCl;13.1mmol、基質に対して3等量)を添加した。反応器を密栓して0℃に保たれた冷蔵庫にて50時間反応させた。反応後の反応液は黒色に着色していた。反応終了後、反応液を水25mLにあけろ過をした。さらにこの溶液をトルエンで抽出した(10mLを使用し4回)。この際多量の黒色のタール状の不溶物が水−油の相間に生成するのが観察された。得られたトルエン溶液は、水(15mLを使用し2回)、0.5N塩酸(20mLを使用し5回)、飽和重曹水(15mLを使用し1回)、飽和食塩水(15mLを使用し2回)でそれぞれ洗浄した。得られたトルエン溶液は褐色を呈していた。トルエン溶液に硫酸マグネシウムを入れて乾燥した後、溶媒を留去して黒色の結晶172mgが得られた(ガスクロマトグラフィーで分析した面積純度89.5%、この面積純度で補正した粗収率18%)。このものを実施例1と同様の操作により再結晶を行い、1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセンを薄茶色の粉末としてとして55mg(収率7%、ガスクロマトグラフィーで分析した面積純度99.9%)を得た。
【0052】
実施例 7
<1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセンの脱色>
原料の1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシ−1,4−メタノアントラセンの使用量を50g(220mmol)として実施例1と同様に反応、再結晶化を行い、黄色の結晶19.3g(収率46%、ガスクロマトグラフィーで分析した面積純度99.9%)を得た。
【0053】
このものをアセトニトリル193mLに溶解し、活性炭1.93g(10重量%)を加え、70℃の湯浴で加熱して1時間攪拌した。その後室温まで冷却し、セライトを通してろ過した。得られた溶液の溶媒アセトニトリルをロータリーエバポレーターで留去し、真空乾燥して目的物1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセンを白色の結晶として18.7g(活性炭処理による回収率;97%、ガスクロマトグラフィーで分析した面積純度〜100%)を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシ−1,4−メタノアントラセン類のジオールを脱水反応させることを特徴とする一般式(1)に示す1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類の製造方法。
【化1】

(式(1)中、R1〜R9はそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシ基、炭素数3以下のアルキル基またはハロゲン原子を示す。)
【請求項2】
上記一般式(1)のうちR1〜R9が水素原子であることを特徴とする請求項1に記載の1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセンの製造方法。
【請求項3】
脱水反応を酸化リン、ハロゲン化リン化合物及びハロゲン化硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種の脱水剤の存在下に行うことを特徴とする請求項1または2に記載の1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類の製造方法。
【請求項4】
脱水剤が、塩化チオニル、オキシ塩化リン、三塩化リン又は五酸化リンから選ばれることを特徴とする請求項3に記載の1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類の製造方法。
【請求項5】
脱水反応を行う際、非プロトン性溶媒を用いることを特徴とする請求項1から4にいずれか1項に記載の1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類の製造方法。
【請求項6】
非プロトン性溶媒が、ニトリル基を含有する有機溶媒であることを特徴とする請求項5に記載の1,4−ジヒドロ−1,4−メタノアントラセン類の製造方法。


【公開番号】特開2007−1888(P2007−1888A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181207(P2005−181207)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】