説明

11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンの製造方法

【課題】11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンの品質、収率および分液性が改善でき、工業スケールでの作業性の効率を向上できる11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンの製造方法を提供する。
【解決手段】有機塩基の存在下で、ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11(10H)−オンとオキシ塩化リンとを反応させる工程と、上記工程で得られた11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンを含む反応混合物を、有機塩基または無機塩基を用いて洗浄処理を行う工程とを含む、11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールの有用な製造中間体である11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(III)
【0003】
【化1】

【0004】
で示される2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールは、統合失調症の治療薬として知られている。この2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールは、下記式(II)
【0005】
【化2】

【0006】
で表されるジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11(10H)−オン(以下、「ジベンゾチアゼピノン(II)」と略称する)とオキシ塩化リンとの反応によって、下記式(I)
【0007】
【化3】

【0008】
で示される11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン(以下、「クロロジベンゾチアゼピン(I)」と略称する)を得、次いでクロロジベンゾチアゼピン(I)と2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル−1−ピペラジンとを反応させることによって製造することができる。
【0009】
ジベンゾチアゼピノン(II)とオキシ塩化リンとの反応によって得られたクロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物から反応液を処理してクロロジベンゾチアゼピンを取り出す方法として、通常、水洗処理が行われる。水洗処理の具体的手法は、たとえば特開昭63−8378号公報(特許文献1)、国際公開第2006/117700号パンフレット(特許文献2)、国際公開第2007/020011号パンフレット(特許文献3)などに開示された方法が知られている。特許文献1には、第一段階でクロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物に氷水を加えて洗浄し、水層部を除去した後、第二段階でさらに水洗を行なう方法が開示されている。また特許文献2には、第一段階でクロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物に蒸留水を加えて洗浄し、水層部を除去した後、第二段階でさらに50%水酸化ナトリウム水溶液で洗浄する方法が開示されている。また特許文献3には、第一段階でクロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物に蒸留水を加えて洗浄し、水層部を除去した後、第二段階で4%炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄を行なう方法が記載されている。
【0010】
特許文献1〜3におけるクロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物の水洗処理方法は、いずれも第一段階で水のみを用いて洗浄処理(水洗処理)する方法である。これら第一段階でクロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物に、水を加えて水洗処理を行なう方法を用いた場合は、反応混合物に含まれるオキシ塩化リンなどと水との反応によってリン酸類が生成し、水洗処理液が強酸性となり、目的のクロロジベンゾチアゼピン(I)が加水分解を起して収率の低下を招く。特にオキシ塩化リンが加水分解する際に、発熱量が大きく、処理温度が高くなった場合や処理時間が長くなるほど収率の低下が著しくなるなどの問題があった。
【0011】
また、加水分解で副生するジベンゾチアゼピノン(II)などの不純物は、2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノール(III)を得る際に、そのまま含まれてしまい、2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノール(III)の品質として満足できるものではなかった。
【0012】
さらには、副生したジベンゾチアゼピノン(II)は溶媒に対する溶解度が極めて低いため、水洗処理の際に結晶が析出して有機層と水層の分離を悪化させたりして、特に工業スケールでの作業性などの面から決して満足できるものではなかった。
【特許文献1】特開昭63−8378号公報
【特許文献2】国際公開第2006/117700号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2007/020011号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、クロロジベンゾチアゼピン(I)の品質、収率および分液性が改善でき、工業スケールでの作業性の効率を向上できるクロロジベンゾチアゼピン(I)の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、クロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物の洗浄処理を行なうに際し、当該反応混合物と水と接触させる場合に、塩基性領域から処理を行なうことでクロロジベンゾチアゼピン(I)の加水分解を防止できることを見出した。すなわち、クロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物の洗浄処理方法として、第一段階でクロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物に有機塩基を加えて洗浄処理を行う方法、あるいは無機塩基の水溶液中にクロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物を加えて洗浄処理を行う方法を用いることで解決できる。一方、ベンゾチアゼピノン(II)とオキシ塩化リンとの反応の際に、予め過剰の有機塩基を用い、上述した公知の洗浄処理を行った場合は、クロロジベンゾチアゼピン(I)の加水分解を防止できるが、反応の段階で不純物が多く生成して好ましくない。すなわち、以下のように、本発明はクロロジベンゾチアゼピン(I)を加水分解させることなく、品質の良いクロロジベンゾチアゼピン(I)を高い収率で得ることができる方法を提供する。
【0015】
本発明の11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン(クロロジベンゾチアゼピン(I))の製造方法は、有機塩基の存在下で、ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11(10H)−オン(ジベンゾチアゼピノン(II))とオキシ塩化リンとを反応させる工程と、上記工程で得られたクロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物を、有機塩基または無機塩基を用いて洗浄処理を行う工程とを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の方法において、洗浄処理は、クロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物に、有機塩基を加えて行う処理であることが好ましい。この場合、有機塩基が、脂肪族第三級アミン類、芳香族第三級アミン類および複素環式第三級アミン類から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、トリエチルアミンおよびN,N−ジメチルアニリンから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0017】
上記の場合、ジベンゾチアゼピノン(II)とオキシ塩化リンとの反応に用いる有機塩基と、クロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物の洗浄処理に用いる有機塩基との総量が、オキシ塩化リンに対して1.2〜2.0倍モルであることが好ましい。
【0018】
また、有機塩基を用いる場合、洗浄処理の温度は0〜60℃であることが好ましい。
また本発明において、洗浄処理は、無機塩基の水溶液中に、クロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物を加えて行う処理であってもよい。この場合、無機塩基は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物およびアルカリ土類金属炭酸塩から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0019】
上記の場合、無機塩基の使用量はオキシ塩化リンに対して、0.6〜3.0倍モルであることが好ましい。
【0020】
また、無機塩基を用いる場合、洗浄処理の温度は0〜60℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のクロロジベンゾチアゼピン(I)の製造方法は、クロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物の従来の水洗処理とは異なり、クロロジベンゾチアゼピン(I)の加水分解を抑制することができ、収率の向上と分液性が改善される。また、高い品質のクロロジベンゾチアゼピン(I)が得られるなど、特に工業的スケールでの経済性や作業性に優れるという効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、有機塩基の存在下で、下記式(II)
【0023】
【化4】

【0024】
で表されるジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11(10H)−オン(ジベンゾチアゼピノン(II))とオキシ塩化リンとを反応させる工程(以下、当該工程を「反応工程」と呼称する)と、上記工程で得られた、下記式(I)
【0025】
【化5】

【0026】
で表される11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン(クロロジベンゾチアゼピン(I))を含む反応混合物に、さらに有機塩基を加えて洗浄処理を行う、または、無機塩基の水溶液中に上記工程で得られたクロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物を加えて洗浄処理を行う工程(以下、当該工程を「洗浄工程」を呼称する)とを含む、クロロジベンゾチアゼピン(I)の製造方法である。このような本発明のクロロジベンゾチアゼピン(I)の製造方法によれば、クロロジベンゾチアゼピン(I)の加水分解を抑制することができ、収率の向上と分液性が改善される。また、高い品質のクロロジベンゾチアゼピン(I)が得られるなど、特に工業的スケールでの経済性や作業性に優れるという効果が奏される。
【0027】
〔1〕反応工程
反応工程におけるジベンゾチアゼピノン(II)とオキシ塩化リンとの反応の条件等については特に制限されるものではなく、上述した特許文献1〜3などに記載された公知のいずれかの方法によっても行うことができる。
【0028】
特許文献1には、たとえば、N,N−ジメチルアニリンなどの塩基存在下で、ジベンゾチアゼピノン(II)とオキシ塩化リンとを反応させ、次いで、得られたクロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物から過剰のオキシ塩化リンを除去した後、トルエン溶媒を加えてクロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物を得る方法が記載されている。
【0029】
また特許文献2には、たとえば、トリエチルアミンなどの有機塩基存在下、キシレン溶媒中でジベンゾチアゼピノン(II)とオキシ塩化リンとを反応させてクロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物を得る方法が記載されている。
【0030】
また、特許文献3には、N,N−ジメチルアニリンなどの有機塩基存在下、トルエン溶媒中でジベンゾチアゼピノン(II)とオキシ塩化リンとを反応させてクロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物を得る方法が記載されている。
【0031】
本発明における反応工程において、ジベンゾチアゼピノン(II)とオキシ塩化リンとの反応の際に用いる有機塩基としては、上述した公知のN,N−ジメチルアニリン、トリエチルアミンなどが挙げられ、中でも高い沸点を示し反応性の良いN,N−ジメチルアニリンが好ましい。
【0032】
また反応工程において用いられるオキシ塩化リンの使用量は、特に制限されないが、ジベンゾチアゼピノン(II)1モルに対し0.7〜1.1倍モルの範囲内であることが好ましく、0.8〜1.0倍モルの範囲内であることがより好ましい。オキシ塩化リンの使用量がジベンゾチアゼピノン(II)1モルに対し0.7倍モル未満である場合には、反応率が悪くなり収率が低下するという傾向にあるためであり、また、1.1倍モルを超える場合には、目的物や副生物などが分解したりして、不純物が増加し品質低下を招くという傾向にあるためである。
【0033】
また、反応工程に用いられる有機塩基の使用量についても特に制限されるものではないが、ジベンゾチアゼピノン(II)1モルに対し0.4〜0.7倍モルの範囲内であることが好ましく、0.5〜0.6倍モルの範囲内であることがより好ましい。有機塩基の使用量がジベンゾチアゼピノン(II)1モルに対し0.4倍モル未満である場合には、反応率の低下や反応マス中に含まれるタール分が固化する傾向にあるためである。
【0034】
〔2〕洗浄工程
(1)有機塩基を用いる場合
続く洗浄工程において有機塩基を用いる場合、クロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物に有機塩基を加えて洗浄処理を行うようにしてもよいし、また、水と有機塩基との混合液中に、クロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物を加えて洗浄処理を行うようにしてもよいが、反応マス中に含まれるタール分の流動性(排出性)の理由から、クロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物に有機塩基を加えて洗浄処理を行うことが好ましい。
【0035】
洗浄処理に用いる有機塩基は、上述した反応工程において用いる有機塩基と同じであってもよいし、また異なる有機塩基を用いるようにしてもよい。なお、当該洗浄工程で反応工程とは異なる有機塩基を用いた場合には、比較的分子量の小さい塩基を用いることができ、使用量が低減され、経済的に有利であるという利点がある。
【0036】
本発明における洗浄処理で用いる有機塩基としては、反応混合物に含まれるオキシ塩化リンなどと比較的に反応しにくいという理由からは、脂肪族第三級アミン類、芳香族第三級アミン類および複素環式第三級アミン類から選択される少なくとも1種であることが好ましい。脂肪族第三級アミン類としては、たとえば、好ましくは炭素数3〜12、より好ましくは炭素数3〜8のアルキル第三級アミン類(具体的には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンなど)などが挙げられる。芳香族第三級アミン類としては、N,N−ジメチルアニリンが挙げられる。複素環式第三級アミン類としては、ピリジン、4−(ジメチルアミノ)ピリジンなどが挙げられる。上述した中でも、反応で用いるアミン種であること、しかも比較的安価で経済的であることから、トリエチルアミンおよびN,N−ジメチルアニリンから選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられ、N,N−ジメチルアニリンが特に好ましく用いられる。なお、洗浄工程に用いられる有機塩基は、上述した中から選ばれる1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0037】
洗浄工程において有機塩基を用いる場合、その使用量は特に制限されるものではないが、ジベンゾチアゼピノン(II)とオキシ塩化リンとの反応に用いられる有機塩基(N,N−ジメチルアニリン、トリエチルアミンなど)を含む合計量が、オキシ塩化リン1モルに対し1.2〜2.0倍モルの範囲内であることが好ましく、1.3〜1.7倍モルの範囲内であることがより好ましい。有機塩基の合計量がオキシ塩化リン1モルに対し1.2倍モル未満である場合には、クロロジベンゾチアゼピン(I)が加水分解してしまう虞があり、また、2.0倍モルを超える場合には、クロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物に有機塩基を多く含み易くなってしまう傾向にある。
【0038】
有機塩基を用いた場合の洗浄処理に用いる水の量についても特に制限されないが、オキシ塩化リンの3〜7重量倍であることが好ましい。
【0039】
また有機塩基を用いた場合の洗浄処理の際の温度は、不純物の生成を防止する目的で、通常10〜70℃、好ましくは10〜50℃である。上記温度が10℃未満である場合には、反応混合物に含まれるオキシ塩化リン由来の粘稠物が固化などしてしまう虞があるためであり、また、上記温度が70℃を超える場合には、不純物の増加を招き目的物の品質が低下する傾向にあるためである。また、有機塩基を用いた場合の洗浄処理の時間は、特に制限されないが、通常0.5〜3時間程度で行なわれる。
【0040】
(2)無機塩基を用いる場合
また、洗浄工程において無機塩基を用いる場合、クロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物に無機塩基を加えて洗浄処理を行うようにしてもよいし、また、無機塩基の水溶液中に、クロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物を加えて洗浄処理を行うようにしてもよいが、反応マス中に含まれるタール分の流動性(排出性)や目的物を高品質で得る目的から、無機塩基の水溶液中に、クロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物を加えて洗浄処理を行うことが好ましい。
【0041】
洗浄処理に用いる無機塩基としては、有機塩基と比較して安価であることなど経済的な理由から、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩類、アルカリ土類金属水酸化物およびアルカリ土類金属炭酸塩から選択される少なくとも1種であることが好ましい。アルカリ金属水酸化物としては、たとえば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。アルカリ金属炭酸塩類としては、たとえば炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属水酸化物としては、たとえば水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。上述した中でも、水に高い溶解性を示し比較的少ない水量で洗浄処理ができることから、アルカリ水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムから選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられ、アルカリ金属水酸化物である水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが特に好ましく用いられる。なお、洗浄工程に用いられる無機塩基は、上述した中から選ばれる1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0042】
洗浄工程において無機塩基を用いる場合、その使用量は特に制限されるものではないが、反応工程で用いられるオキシ塩化リン1モルに対し、0.5〜4.0倍モルの範囲内であることが好ましく、0.7〜2.0倍モルの範囲内であることがより好ましい。無機塩基の使用量がオキシ塩化リン1モルに対し0.5倍モル未満である場合には、クロロジベンゾチアゼピン(I)が加水分解してしまう虞があり、また、4.0倍モルを超える場合には、無機塩基が過剰となり、この無機塩基を除くため、さらに大量の水を用いて洗浄を行なう必要があり、好ましくない。
【0043】
無機塩基は、水溶液の形態で用いられ、無機アルカリの水に対する溶解度によって異なるが、通常、無機塩基の濃度として2〜45重量%であることが好ましい。
【0044】
無機塩基を用いた場合の洗浄処理に用いる水の量についても特に制限されないが、オキシ塩化リンの3〜7重量倍であることが好ましい。
【0045】
また無機塩基を用いた場合の洗浄処理の際の温度は、通常、0〜60℃であり、油水分離を効率よく行う観点からは、15〜40℃であることが好ましい。また、無機塩基を用いた場合の洗浄処理の時間についても、特に制限されないが、通常0.5〜3時間程度で行なわれる。
【0046】
本発明では、上述した洗浄工程で有機塩基または無機塩基を用いて洗浄処理を行った後、水層部を除いて得られるクロロジベンゾチアゼピン(I)を含む反応混合物を、さらに水、または弱アルカリ性のアルカリ金属炭酸塩類の水溶液などを用いて洗浄を行ない、クロロジベンゾチアゼピン(I)を得ることができる。
【0047】
本発明の方法により製造されたクロロジベンゾチアゼピン(I)は、統合失調症の治療薬として知られている下記式(III)
【0048】
【化6】

【0049】
で示される2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールの合成中間体として好適に用いられ得る。
【実施例】
【0050】
以下、実験例および比較実験例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
<製造例1>
(11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンの製造)
温度計、攪拌装置、還流冷却管および滴下装置を備えた反応容器中に、ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11(10H)−オン110重量部、トルエン968重量部、N,N−ジメチルアニリン37.0重量部を仕込み、オキシ塩化リン74.2重量部を攪拌下、室温で約30分かけて滴下し、次いで、110〜112℃まで加熱昇温した。その後、同温度で7時間保温して反応を終了した。その後、室温まで冷却し11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンのトルエン溶液重量1185重量部を得た。この溶液を液体クロマトグラフィーで分析したところ、ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11(10H)−オンは0.1%であった。
【0052】
<製造例2>
(11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンの製造)
温度計、攪拌装置、還流冷却管および滴下装置を備えた反応容器中に、ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11(10H)−オン20重量部、トルエン176重量部、N,N−ジメチルアニリン16.0重量部を仕込み、オキシ塩化リン13.5量部を攪拌下、室温で約30分をかけて滴下し、次いで、110〜112℃まで加熱昇温した。その後、同温度で7時間保温して反応を終了した。その後、室温まで冷却し11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンのトルエン溶液重量223重量部を得た。この溶液を液体クロマトグラフィーで分析したところ、ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11(10H)−オンは0.1%であった。
【0053】
<実験例1>
温度計、攪拌装置、還流冷却管および滴下装置を備えた反応容器中に、製造例1で得た11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンのトルエン溶液161.6重量部を仕込み、攪拌下にトリエチルアミン5.8重量部を20〜30℃の範囲で約30分間をかけて滴下した。次いで、水45重量部を20〜30℃の範囲で約3時間をかけて滴下し、同温度で60分間攪拌して水層部を分液して除去した。その後、4重量%の炭酸水素ナトリウム水溶液75重量部を加えて20〜30℃の範囲で30分間攪拌し、水層部を除去して11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンのトルエン溶液152重量部を得た。この溶液を液体クロマトグラフィーで分析した。
【0054】
<実験例2>
トリエチルアミンの代わりにN,N−ジメチルアニリン7.0重量部を用いた以外は実験例1と同様の操作を行ない、11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンのトルエン溶液151重量部を得た。
【0055】
<実験例3>
トリエチルアミンの代わりに、10重量%水酸化ナトリウム水溶液45重量部を用い、この水溶液中に製造例2で得た11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンのトルエン溶液160重量部を滴下、水を用いない以外は実験例1と同様の操作を行ない、11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンのトルエン溶液153重量部を得た。
【0056】
<比較実験例1>
トリエチルアミンを用いない以外は実験例1と同様の操作を行ない、11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンのトルエン溶液153重量部を得た。
【0057】
<比較実験例2>
水滴下を40〜50℃で約2時間、同温度で1時間攪拌した以外は、比較実験例1と同様の操作を行ない、11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンのトルエン溶液152重量部を得た。
【0058】
<比較実験例3>
製造例2で得た11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンのトルエン溶液167.3重量部を用い、トリエチルアミンを用いない以外は実験例1と同様の操作を行ない、11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンのトルエン溶液153重量部を得た。
【0059】
<参考実験例1>
(2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールの製造)
温度計、攪拌装置、還流冷却管および滴下装置を備えた反応容器中に、実験例1で得た11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンのトルエン溶液を全量、1−〔2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルピペラジン18.4重量部、炭酸ナトリウム4.9重量部を仕込み、攪拌下に110〜113℃まで加熱昇温し、同温度で脱水還流しながら、約7時間保温して反応を完結させた。その後、25℃まで冷却し、水45重量部で水洗浄を行ない、2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールのトルエン溶液162重量部を得た。この溶液を液体クロマトグラフィーで分析した。
【0060】
<参考実験例2>
実験例2で得た11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンのトルエン溶液を全量を用いた以外は、参考実験例1と同様の操作を行ない、2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールのトルエン溶液161重量部を得た。
【0061】
<参考実験例3>
実験例3で得た11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンのトルエン溶液を全量を用いた以外は、参考実験例1と同様の操作を行ない、2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールのトルエン溶液161重量部を得た。
【0062】
<参考実験例4>
比較実験例1で得た11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンのトルエン溶液を全量を用いた以外は、参考実験例1と同様の操作を行ない、2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールのトルエン溶液160重量部を得た。
【0063】
<参考実験例5>
比較実験例3で得た11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンのトルエン溶液を全量を用いた以外は、参考実験例1と同様の操作を行ない、2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールのトルエン溶液162重量部を得た。
【0064】
実験例1〜3、比較実験例1〜3および参考実験例1〜5について、洗浄処理に用いた塩基の種類、11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンの反応に用いた塩基の種類、11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンの反応に用いた塩基のモル比、洗浄処理時の塩基合計モル比、洗浄処理に用いた無機塩基のモル比、水洗処理に用いた無機塩基のモル比、洗浄処理条件(温度、時間)、分液速度、11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンの収率(収率X)、純度(純度X)および2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノールの収率(収率Y)、純度(純度Y)、不純物A含有量、不純物の合計含有量を表1〜表4にまとめて示す。なお、純度および不純物含有量の測定は高速液体クロマトグラフィー(島津製作所社製:LC10A型)によって測定した。
【0065】
〔純度および不純物含有量の測定:高速液体クロマトグラフィー条件〕
・カラム:C18(5μm、4.6mm×25cm)
・検出波長:250nm
・カラム温度:40℃
・注入量:5μl
・移動相:A液=0.01容量%トリフルオロ酢酸水
B液=アセトニトリル
・移動相グラジエント:B液 25%/15min
25〜100%/30min
100%/5min
・試料調整:試料濃度 0.25%/アセトニトリル
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
なお、表1および表3中、反応工程に用いた有機塩基のモル比、洗浄処理時の有機塩基の合計モル量(有機塩基を用いた場合)、洗浄処理に用いた無機塩基のモル比(無機塩基を用いた場合)は、オキシ塩化リン1モルに対するモル倍を示す。
【0071】
また表2中、不純物Aの含有量はクロロジベンゾチアゼピン(I)に含まれるジベンゾチアゼピノン(II)の面百パーセントを示し、不純物の合計量はクロロジベンゾチアゼピン(I)に含まれる不純物の合計の面百パーセントを示す。また、表2中、分液速度は、油層部と水層部が完全分離する際の1時間当たりの水層部の高さ(メートル)を示す。
【0072】
また、表4中、式(III)の収率は、ジベンゾチアゼピノン(II)1モルに対するモルパーセントを示し、不純物Aの含有量および不純物の合計量は2−(2−〔4−(ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11−イル)−1−ピペラジニル〕エトキシ)エタノール(III)に含まれるジベンゾチアゼピノン(II)および不純物の面百パーセントを示す。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の方法によれば、クロロジベンゾチアゼピン(I)の製造において、従来の方法とは異なり、品質および収率がよく、しかも分液性が改善され、特に工業的スケールでの作業性および経済性に優れ、クロロジベンゾチアゼピン(I)の製造には極めて有利な方法を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機塩基の存在下で、ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11(10H)−オンとオキシ塩化リンとを反応させる工程と、
上記工程で得られた11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンを含む反応混合物を、有機塩基または無機塩基を用いて洗浄処理を行う工程とを含む、11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンの製造方法。
【請求項2】
洗浄処理が、11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンを含む反応混合物に、有機塩基を加えて行う処理である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有機塩基が、脂肪族第三級アミン類、芳香族第三級アミン類および複素環式第三級アミン類から選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
有機塩基がトリエチルアミンおよびN,N−ジメチルアニリンから選ばれる少なくとも1種である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピン−11(10H)−オンとオキシ塩化リンとの反応に用いる有機塩基と、11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンを含む反応混合物の洗浄処理に用いる有機塩基との総量が、オキシ塩化リンに対して1.2〜2.0倍モルである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
洗浄処理の温度が、10〜70℃である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
洗浄処理が、無機塩基の水溶液中に、11−クロロジベンゾ〔b,f〕〔1,4〕チアゼピンを含む反応混合物を加えて行う処理である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
無機塩基が、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物およびアルカリ土類金属炭酸塩から選ばれる少なくとも1種である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
無機塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムから選ばれる少なくとも1種である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
無機塩基の使用量がオキシ塩化リンに対して、0.6〜3.0倍モルである請求項1、7、8または9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
洗浄処理の温度が、0〜60℃である、請求項7〜10のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2010−53044(P2010−53044A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216626(P2008−216626)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】