説明

15−ケトプロスタグランジンE誘導体の製造法

【課題】 15-ケトプロスタグランジンE誘導体の新規製造法であって、プロスタグランジンA類の副生が極めて少なく、穏和な条件で、工業化可能な、リン酸化合物を用いた加水分解(脱保護)反応工程を含む方法を提供する。
【解決手段】 一般式(1)


[式中A1はヒドロキシの保護基]
で表される化合物をリン酸化合物の存在下、加水分解反応を行うこと特徴とする15−ケトプロスタグランジンE誘導体の製造法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の医薬品として、あるいは医薬品の合成中間体として有用な15-ケトプロスタグランジンE誘導体の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロスタグランジンは、式:
【化1】

で示されるプロスタン酸骨格を有し、種々の薬効を発現するものが数多く存在する。
合成生産物の中には、上記の骨格になんらかの修飾を含んでいるものもある。プロスタグランジン類は、構造および五員環の置換基によっていくつかのタイプに分類される。例えば以下のものなどである。
【0003】
【化2】

【0004】
さらに、これらは13,14−二重結合を含むPG1類、5,6−および13,14−二重結合を含むPG2類、そして5,6−、13,14−、および17,18−二重結合を含むPG3類に分類される。
【0005】
プロスタグランジンE類(PGE)とは9位にオキソ、11位にヒドロキシを有するプロスタグランジンである。PGEは9位のカルボニル基の存在により11位水酸基のβ脱離が促進されるため、プロスタグランジンA(PGA)に分解しやすい。
【0006】
プロスタグランジン類の製造において水酸基の保護・脱保護工程は必須である。11位水酸基の酸加水分解による脱保護は一般的によく知られており(特開昭59−20267)、例えば(1)酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、p-トルエンスルホン酸のような有機酸の水溶液または塩酸、硫酸のような無機酸の水溶液中、好適には水と混和しうる有機溶媒、例えばメタノール又はエタノールのような低級アルコール又は1,2-ジエトキシエタン、ジオキサンもしくはテトラヒドロフランのようなエーテル類存在下、室温から75℃の温度で、または(2)メタノール又はエタノールのような無水アルコール中p-トルエンスルホン酸又はトリフルオロ酢酸のような有機酸存在下10〜45℃の温度で行われる。これまで、15-ケトプロスタグランジンE誘導体の酸加水分解による脱保護反応は、脱保護する化合物を酢酸-水-テトラヒドロフラン混合液に溶解し、40〜50℃程度に加熱することで実施していた(日本特許3183650号)。しかしながら、この方法ではPGAの副生を十分抑制することができず、目的物であるPGEの収率は好ましいものではなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、PGAの副生が極めて少なく、穏和な条件で、工業化可能な、リン酸化合物を用いた加水分解(脱保護)反応を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、一般式(1)
【化3】

[式中Aはヒドロキシの保護基;
は非置換またはハロゲン、低級アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環で置換された、二価の飽和または不飽和の低〜中級脂肪族炭化水素残基であり、脂肪族炭化水素の少なくとも1つの炭素原子は任意に酸素、窒素あるいは硫黄で置換されていてもよい;
は非置換または低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環または複素環オキシで置換された、飽和または不飽和の低〜中級脂肪族炭化水素残基;シクロ(低級)アルキル基;シクロ(低級)アルキルオキシ基;アリール基;アリールオキシ基;複素環基;複素環オキシ基;
Bは−CH−CH−、−CH=CH−または−C≡C−;
Qは−CH、−COCH、−OH、−COOHまたはそれらの官能性誘導体;
およびXは水素原子、低級アルキル基またはハロゲン原子]
で表される化合物をリン酸化合物の存在下、酸加水分解反応を行うこと特徴とする一般式(2)
【化4】

(式中、全ての記号は前記と同意義)
で示される15−ケトプロスタグランジンE誘導体の製造法に関する。
【0008】
上記式中、R、およびRにおける「不飽和」の語は、主鎖および/または側鎖の炭素原子間の結合として、少なくとも1つまたはそれ以上の2重結合および/または3重結合を孤立、分離または連続して含むことを意味する。通常の命名法に従って、連続する2つの位置間の不飽和は若い方の位置番号を表示することにより示し、連続しない2つの位置間の不飽和は両方の位置番号を表示して示す。
【0009】
「低〜中級脂肪族炭化水素」の語は、炭素数1〜14の直鎖または分枝鎖(ただし、側鎖は炭素数1〜3のものが好ましい)を有する炭化水素を意味し、好ましくはRの場合炭素数1〜10、特に6〜10の炭化水素であり、Rの場合炭素数1〜10、特に1〜8の炭化水素である。
【0010】
「ハロゲン」の語は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素を包含する。
【0011】
「低級」の語は、特にことわりのない限り炭素原子数1〜6を有する基を包含するものである。
【0012】
「低級アルキル」の語は、炭素原子数1〜6の直鎖または分枝鎖の飽和炭化水素基、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチルおよびヘキシルを含む。
【0013】
「低級アルコキシ」の語は、低級アルキルが上述と同意義である低級アルキル−O−を意味する。
【0014】
「低級アルカノイルオキシ」の語は、式RCO−O−(ここで、RCO−は上記のような低級アルキルが酸化されて生じるアシル、例えばアセチル)で示される基を意味する。
【0015】
「シクロ(低級)アルキル」の語は、炭素原子3個以上を含む上記のような低級アルキル基が閉環して生ずる環状基であり、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルを含む。
【0016】
「シクロ(低級)アルキルオキシ」の語は、シクロ(低級)アルキルが上述と同意義であるシクロ(低級)アルキル−O−を意味する。
【0017】
「アリール」の語は、非置換でも置換されていてもよい芳香族炭化水素環基を包含し、好ましくは単環性の、例えばフェニル、トリル、キシリルが例示される。置換基としては、ハロゲン、ハロゲン置換低級アルキル基(ここで、ハロゲンおよび低級アルキル基は前記の意味)が含まれる。
【0018】
「アリールオキシ」の語は、式ArO−(ここで、Arは上記のようなアリール基)で示される基を意味する。
【0019】
「複素環」としては、置換されていてもよい炭素原子および炭素原子以外に窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選ばれる1種または2種のヘテロ原子を1乃至4個、好ましくは1乃至3個含む、5乃至14員、好ましくは5乃至10員の、単環式乃至3環式、好ましくは単環式の複素環基が例示される。複素環基としては、フリル基、チエニル基、ピロリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、フラザニル基、ピラニル基、ピリジル基、ピリダジニル基、ピリミジル基、ピラジニル基、2−ピロリニル基、ピロリジニル基、2−イミダゾリニル基、イミダゾリジニル基、2−ピラゾリニル基、ピラゾリジニル基、ピペリジノ基、ピペラジニル基、モルホリノ基、インドリル基、ベンゾチエニル基、キノリル基、イソキノリル基、プリニル基、キナゾリニル基、カルバゾリル基、アクリジニル基、フェナントリジニル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズイミダゾリニル基、ベンゾチアゾリル基、フェノチアジニル基などが例示される。置換基としてはハロゲン、ハロゲン置換低級アルキル基(ここで、ハロゲンおよび低級アルキル基は前記の意味)が例示される。
【0020】
「複素環オキシ」の語は、式HcO−(ここでHcは上記のような複素環基)で示される基を意味する。
【0021】
Qの「官能性誘導体」の語は、塩(好ましくは、医薬上許容し得る塩)、エーテル、エステルおよびアミド類を含む。
【0022】
適当な「医薬上許容し得る塩」としては、慣用される非毒性塩を含み、無機塩基との塩、例えばアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩等)、アンモニウム塩、有機塩基との塩、例えばアミン塩(例えばメチルアミン塩、ジメチルアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、ベンジルアミン塩、ピペリジン塩、エチレンジアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、トリス(ヒドロキシメチルアミノ)エタン塩、モノメチル−モノエタノールアミン塩、プロカイン塩、カフェイン塩等)、塩基性アミノ酸塩(例えばアルギニン塩、リジン塩等)、テトラアルキルアンモニウム塩等が挙げられる。これらの塩類は、例えば対応する酸および塩基から常套の反応によってまたは塩交換によって製造し得る。
【0023】
エーテルの例としてはアルキルエーテル、例えば、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、イソブチルエーテル、sec-ブチルエーテル、t−ブチルエーテル、ペンチルエーテル、1−シクロプロピルエチルエーテル等の低級アルキルエーテル、オクチルエーテル、ジエチルヘキシルエーテル、ラウリルエーテル、セチルエーテル等の中級または高級アルキルエーテル、オレイルエーテル、リノレニルエーテル等の不飽和エーテル、ビニルエーテル、アリルエーテル等の低級アルケニルエーテル、エチニルエーテル、プロピニルエーテル等の低級アルキニルエーテル、ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシイソプロピルエーテルのようなヒドロキシ(低級)アルキルエーテル、メトキシメチルエーテル、1−メトキシエチルエーテル等の低級アルコキシ(低級)アルキルエーテル、および例えばフェニルエーテル、トシルエーテル、t−ブチルフェニルエーテル、サリチルエーテル、3,4−ジメトキシフェニルエーテル、ベンズアミドフェニルエーテル等の所望により置換されたアリールエーテル、ベンジルエーテル、トリチルエーテル、ベンズヒドリルエーテル等のアリール(低級)アルキルエーテルが挙げられる。
【0024】
エステルとしては、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、sec−ブチルエステル、t−ブチルエステル、ペンチルエステル、1−シクロプロピルエチルエステル等の低級アルキルエステル、ビニルエステル、アリルエステル等の低級アルケニルエステル、エチニルエステル、プロピニルエステル等の低級アルキニルエステル、ヒドロキシエチルエステルのようなヒドロキシ(低級)アルキルエステル、メトキシメチルエステル、1−メトキシエチルエステル等の低級アルコキシ(低級)アルキルエステルのような脂肪族エステルおよび例えばフェニルエステル、トリルエステル、t−ブチルフェニルエステル、サリチルエステル、3,4−ジメトキシフェニルエステル、ベンズアミドフェニルエステル等の所望により置換されたアリールエステル、ベンジルエステル、トリチルエステル、ベンズヒドリルエステル等のアリール(低級)アルキルエステルが挙げられる。
【0025】
Qのアミドとしては、式−CONR'R”で表される基を意味する。ここで、R'およびR”はそれぞれ水素原子、低級アルキル、アリール、アルキル−あるいはアリール−スルホニル、低級アルケニルおよび低級アルキニルであり、例えば、メチルアミド、エチルアミド、ジメチルアミド、ジエチルアミド等の低級アルキルアミド、アニリドおよびトルイジドのようなアリールアミド、メチルスルホニルアミド、エチルスルホニルアミドおよびトリルスルホニルアミド等のアルキル−もしくはアリール−スルホニルアミド等が挙げられる。
【0026】
好ましいQの例は、−COOH、その医薬上許容し得る塩、エステル、アミドである。
【0027】
好ましいBの例は―CH−CH−であり、いわゆる13,14−ジヒドロタイプと称される構造を有するものである。
【0028】
好ましいRは炭素数1〜10の炭化水素であり、特に好ましくは炭素数6〜10の炭化水素である。また、脂肪族炭化水素における少なくとも1つの炭素原子は任意に酸素、窒素あるいは硫黄で置換されていてもよい。
【0029】
の具体例としては、例えば、次のものが挙げられる。
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH=CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH=CH−、
−CH−C≡C−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH(CH)−CH−、
−CH−CH−CH−CH−O−CH−、
−CH−CH=CH−CH−O−CH−、
−CH−C≡C−CH−O−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH=CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH=CH−、
−CH−C≡C−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH(CH)−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH=CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH=CH−、
−CH−C≡C−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH(CH)−CH−、
など。
【0030】
好ましいRは非置換の炭素数1〜10、好ましくは1〜8の炭化水素である。
【0031】
好ましいX及びXは、少なくとも一方がハロゲンである。X及びXの両方がハロゲン、特にフッ素である化合物は、いわゆる16,16−ジフルオロタイプと称される構造を有するものであり、特に好ましい。
【0032】
は特定の反応に対してヒドロキシを不活性化し、且つその後、酸加水分解により水素原子に置換される事を目的に導入される官能基を意味し、この目的に適合する限り、特に限定されない。例えば、テトラヒドロピラニル基、メトキシメチル基、t-ブトキシメチル基、1−エトキシエチル基、1−メトキシ1−メチルエチル基、ベンジルオキシメチル基、2-メトキシエトキシメチル基、2,2,2−トリクロロエトキシメチル基、t-ブチルジメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジフェニルメチルシリル基などが挙げられる。
【0033】
本発明で用いる15−ケト−PGE誘導体において、11位のヒドロキシと15位のオキソ間のへミアセタール形成により、ケト−アセタール平衡を生ずる場合がある。
【0034】
例えば、XおよびXの両方がハロゲン、特にフッ素の場合は、互変異性体として、二環式化合物が存在することが確認されている。
【0035】
このような互変異性体が存在する場合、両異性体の存在比率は他の部分の構造または置換基の種類により変動し、場合によっては一方の異性体が圧倒的に存在することもあるが、本発明で用いる15−ケト−PGE誘導体はこれら両者を含むものとする。
【0036】
二環式化合物は下記式(III)で示される。
【化5】

[式中、Qは−CH、−COCH3、−OH、−COOHまたはその官能性誘導体;
【0037】
およびXは水素、低級アルキル、またはハロゲン;
【0038】
は非置換またはハロゲン、低級アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環で置換された、二価の飽和または不飽和の低〜中級の脂肪族炭化水素残基であり、脂肪族炭化水素における少なくとも1個の炭素原子は任意に酸素、窒素または硫黄で置換されていてもよい;
【0039】
は、非置換またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環または複素環オキシで置換された、飽和または不飽和の低〜中級脂肪族炭化水素残基;シクロ(低級)アルキル基;シクロ(低級)アルキルオキシ基;アリール基;アリールオキシ基;複素環基;複素環オキシ基;]。
【0040】
さらに本発明においては、異性体の存在の有無にかかわりなくケト型の構造式または命名法によって表わすことがあるが、これは便宜上のものであってヘミアセタール型の化合物を排除しようとするものではない。
【0041】
本発明においては、個々の互変異性体、その混合物または光学異性体、その混合物、ラセミ体、その他の立体異性体等の異性体も、同じ目的に使用することが可能である。
【0042】
以下に示す13,14−ジヒドロ−15−ケト−プロスタグランジンE(互変異性体I)においては、その互変異性体として式(互変異性体II)で表される二環式化合物と平行状態で存在し得ることが知られている(米国特許第5166174号、米国特許第5225439号、米国特許第5284858号、米国特許第5380709号、米国特許第5428062号および第5886034号(これらの文献はいずれも引用により本願明細書に含まれる)。
【化6】

【0043】
および/またはXのハロゲン原子が二環式環、例えば下記化合物AあるいはBなどの形成を促進すると考えられる。また、水の不存在下において、上記互変異性体化合物は、主に二環式化合物の形態で存在することが確認されている。水性媒質中で、水分子と例えば炭化水素鎖のオキソの間に水素結合が生じ、それにより二環式環の形成が妨害されると考えられる。例えば、二環式/単環式構造は、DO中では6:1の、CDOD−DO中では10:1の、CDCl中では96:4の比率で存在し得る。さらにより大きな比率から実質上全てが二環式化合物として存在する場合であっても、この二環式化合物は本発明の15−ケト−PGE誘導体の範囲内に包含される。
【0044】
上記二環式化合物の具体例としては、以下に示す化合物AおよびBがあげられる。
化合物A:
【化7】

7−[(1R、3R、6R、7R)−3−(1,1−ジフルオロペンチル)−3−ヒドロキシ−2−オキサビシクロ[4.3.0]ノナン−8−オン−7−イル]ヘプタン酸
≪ 7−[(2R、4aR、5R、7aR)−2−(1、1−ジフルオロペンチル)−2−ヒドロキシ−6−オキソオクタヒドロシクロペンタ[b]ピラン−5−イル]ヘプタン酸 ≫
【0045】
化合物B:
【化8】

7−{(1R、6R、7R)−3−[(3S)−1,1−ジフルオロ−3−メチルペンチル]−3−ヒドロキシ−2−オキサビシクロ[4.3.0]ノナン−8−オン−7−イル}ヘプタン酸
≪7−{(4aR、5R、7aR)−2−[(3S)−1、1−ジフルオロ−3−メチルペンチル]−2−ヒドロキシ−6−オキソオクタヒドロシクロペンタ[b]ピラン−5−イル}ヘプタン酸≫
【0046】
本発明の特徴は、加水分解反応をリン酸化合物の存在下で行うことによって、反応液を加熱する必要がなく、短時間で目的物である15-ケトプロスタグランジンE誘導体(脱保護体)を高収率で得ることができ、しかも、副生物であるPGAの生成を抑制できる事である。本発明に用いられるリン酸化合物としては、十酸化四リンP10が加水分解を受けて生ずる種々のオキソ酸であり、例えば、リン酸、または強リン酸(オルトリン酸、二リン酸(ピロリン酸)、三リン酸,四リン酸またはこれらの混合物)が挙げられるが、特にリン酸が好ましい。
【0047】
リン酸の使用量は85%リン酸の場合、式(1)の化合物1gに対して0.5〜1.5ml程度が好ましい。反応溶媒は、水と有機溶媒の混合液を用いる。使用する有機溶媒としては、式(1)の化合物を溶解し、水と混和する溶媒であれば良く、例えばアセトニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類が好ましく、アセトニトリルが特に好ましい。
【0048】
水と有機溶媒の混合比率は、式(1)の化合物1gに対し水が0.5〜1.5ml程度、式(1)の化合物1gに対して有機溶媒が1〜15ml程度の比率が好ましく、8〜12mlがより好ましい。
【0049】
反応温度は0〜35℃程度、特に好ましくは10〜30℃程度である。
【0050】
反応時間は1〜6時間程度、特に好ましくは2〜4時間程度である。
【0051】
以下、本発明を実施例及び試験例により、さらに詳細に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0052】
実施例1
【化9】

【0053】
ベンジル7-[(1R,2R,3R)-2-(4,4-ジフルオロ-3-オキソオクチル)-5-オキソ-3-(2-テトラヒドロピラニルオキシ)シクロペンチル]ヘプタネート(1) (70.49g, 124.8mmol)のアセトニトリル(705ml)溶液に水(70.5ml)、85%リン酸(70.5ml)を加え、約20℃で3時間攪拌した。10%食塩水(705ml)を加え、酢酸エチル(276ml)で3回抽出した。有機層を合わせ、10%食塩水(360ml)、飽和重曹水(360ml)、飽和食塩水(360ml)で順次洗浄した。無水硫酸マグネシウム(51g)で乾燥し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(富士シリシアBW-300 2100g, 酢酸エチル:ヘキサン=1:4)で精製した。不純物を含む分画をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(富士シリシアBW-300 1000g, 酢酸エチル:ヘキサン=1:4)で再度精製し、ベンジル 7-[(2R,4aR,5R,7aR)-2-(1,1-ジフルオロペンチル)-2-ヒドロキシ-6-オキソオクタヒドロシクロペンタ[b]ピラン-5-イル]ヘプタネート(2) (52.64g, 109.5mmol, 収率87.8%)を得た。
【0054】
比較例1(酢酸による従来法)
【化10】

【0055】
ベンジル7-[(1R,2R,3R)-2-(4,4-ジフルオロ-3-オキソオクチル)-5-オキソ-3-(2-テトラヒドロピラニルオキシ)シクロペンチル]ヘプタネート(1) (39.84g, 70.54mmol)のテトラヒドロフラン(40ml)溶液に酢酸(260ml)、水(140ml)を加えた。混合液を約40℃で4時間撹拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(富士シリシアBW-300 1600g, 酢酸エチル:ヘキサン=1:3)で精製した。不純物を含む分画をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(富士シリシアFL-60D 1600g, 酢酸エチル:ヘキサン=1:4)で再度精製した。さらに、不純物を含む分画を集め、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(富士シリシアFL-60D 1000g, IPA:ヘキサン=8:100), (富士シリシアFL-60D 1000g, IPA:ヘキサン=7.5:100→3:40), (富士シリシアFL-60D 1600g, IPA:ヘキサン=3:40)で精製を繰り返した。不純物を含まない分画を統合、減圧濃縮し、ベンジル 7-[(2R,4aR,5R,7aR)-2-(1,1-ジフルオロペンチル)-2-ヒドロキシ-6-オキソオクタヒドロシクロペンタ[b]ピラン-5-イル]ヘプタネート(2) (25.68g, 53.44mmol, 収率75.8%)を得た。
【0056】
実施例2
【化11】

【0057】
ベンジル7-{(1R,2R,3R)-2-[(6S)-4,4-ジフルオロ-6-メチル-3-オキソオクチル]-5-オキソ-3-(2-テトラヒドロピラニルオキシ)シクロペンチル}ヘプタネート(3) (62.76g, 108.4mmol)のアセトニトリル(628ml)溶液に水(62.8ml)、85%リン酸(62.8ml)を加え、約22℃で約2時間攪拌した。10%食塩水(628ml)を加え、酢酸エチル(250ml)で3回抽出した。有機層を合わせ、10%食塩水(300ml)、飽和重曹水(300ml)、飽和食塩水(300ml)で順次洗浄した。無水硫酸マグネシウム(50g)で乾燥し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(富士シリシアBW-300 1800g, 酢酸エチル:ヘキサン=1:4)で精製した。更に、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(メルクArt.9385 2000g, 2-プロパノール:ヘキサン=1:20)で精製し、ベンジル 7-{(4aR,5R,7aR)-2-[(3S)-1,1-ジフルオロ-3-メチルペンチル]-2-ヒドロキシ-6-オキソオクタヒドロシクロペンタ[b]ピラン-5-イル}ヘプタネート(4) (49.44g, 99.96mmol, 収率92.2%)を得た。
【0058】
比較例2(酢酸による従来法)
【化12】

【0059】
ベンジル7-{(1R,2R,3R)-2-[(6S)-4,4-ジフルオロ-6-メチル-3-オキソオクチル]-5-オキソ-3-(2-テトラヒドロピラニルオキシ)シクロペンチル}ヘプタネート(3) (21.42g, 37.01mmol)にテトラヒドロフラン(50ml)、酢酸(150ml)、水(50ml)を加えて溶解した。混合溶液を約50℃で2.5時間撹拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣に水(200ml)を加え、エーテル(150ml+80ml×2回)で抽出した。有機層を飽和重曹水(100ml)で2回、飽和食塩水(100ml)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(メルク Art.9385, 550g, 酢酸エチル:ヘキサン=2:7)で精製した。不純物を含む分画をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(メルク Art.9385, 210g, 酢酸エチル:ヘキサン=1:4)で再精製した。更に、不純物を含む分画をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(メルク Art.9385, 100g, 酢酸エチル:ヘキサン=1:4)で精製し、ベンジル 7-{(4aR,5R,7aR)-2-[(3S)-1,1-ジフルオロ-3-メチルペンチル]-2-ヒドロキシ-6-オキソオクタヒドロシクロペンタ[b]ピラン-5-イル}ヘプタネート(4) (14.57g, 29.46mmol, 収率79.6%)を得た。
【0060】
試験例
(試験方法)
20ml反応容器に化合物1(250mg)を秤取り、規定量の反応溶媒、水を加え、マグネティックスタータで撹拌した。規定量の酸触媒を加えて混合し、反応開始点の反応液サンプルを採取した。(試験例1:リン酸法では、常温で素早く反応が進行するため、リン酸を添加する前に反応開始点のサンプルを採取した。)反応容器をマグネティックスターラー付きの恒温水槽に浸し、反応を開始した。反応開始後、30分、60分、90分、130分、180分、240分、300分、試験例4のみ引き続き360分、420分、480分、540分時点で反応液のサンプルを採取し、直ちに液体クロマトグラフ法による組成分析を実施した。
【0061】
(分析方法)
反応液約50μLをサンプリングし、液体クロマトグラフ用アセトニトリル0.4mLを加えて、混合し、試料溶液とした。この液40μLにつき、次の条件で液体クロマトグラフ法により分析を行った。
【0062】
分析条件
カラム : YMC-Pack ODS-A A-312 S-5μm 120A 6×
150mm
カラム温度: 35℃付近の一定温度
移動相 : アセトニトリル:液体クロマトグラフ用蒸留水=75:25(v/v)
流速 : 1.0mL/min
検出器 : 示差屈折計
【0063】
各試験の結果を表1から4及び図1から4に示す。
【0064】
試験例1
(反応条件)

【0065】
試験例2
(反応条件)

【0066】
試験例3
(反応条件)

【0067】
試験例4
(反応条件)

【0068】
表1:反応温度20℃でのリン酸による加水分解反応における反応液組成の経時的変化(試験例1)
【表1】

【0069】
表1に示すようにリン酸を酸触媒とする加水分解反応では、常温(20℃)、短時間で十分な化学転化率に到達する。PGA(脱水生成物)など副生成物や不純物の発生量も少なく反応選択性が高い。また、反応終了後の組成変化が極めて少ない。生産規模の大きい工業スケールでは製造操作、作業に時間がかかる事が多く、また、反応の終了を確認するための工程分析にも時間を要する。しかしながら本発明によれば、反応終了後の組成変化が少ないことにより、時間的ファクターが変化した場合でも、安定した収率、品質で目的物を得ることができる。
【0070】
表2:反応温度50℃での酢酸による加水分解反応における反応液組成の経時的変化(試験例2)
【表2】

【0071】
表3 反応温度55℃での酢酸による加水分解反応における反応液組成の経時的変化(試験例3)
【表3】

【0072】
表2及び3に示すように、酢酸を酸触媒とする加水分解反応に於いて、本発明(リン酸使用)と同程度の時間で十分な化学転化率を得るためには、反応温度を50−55℃にする必要がある。しかし、この反応条件ではPGAの生成速度が速く、反応時間が延長された場合は多量のPGAが発生する。工程分析中にも反応液組成が変化し、また、工業スケールでは除熱(冷却)に時間がかかるため、最適点で反応を停止させる事は非常に難しいことから、従来技術は時間的ファクターの変動が収率や品質に影響を与えやすい。
【0073】
表4:反応温度40℃での酢酸による加水分解反応における反応液組成の経時的変化(試験例4)
【表4】

【0074】
酢酸を使用する従来技術に於いて、PGAの発生速度を低下させるためには反応温度を40℃程度に保つ必要がある。しかし、表4に示すように、この反応条件では十分な化学転化率を得るために長い時間を要す。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】反応温度20℃でのリン酸を用いた加水分解反応における反応液組成の経時変化(試験例1)。
【図2】反応温度50℃での酢酸を用いた加水分解反応における反応液組成の経時変化(試験例2)。
【図3】反応温度55℃での酢酸を用いた加水分解反応における反応液組成の経時変化(試験例3)
【図4】反応温度40℃での酢酸を用いた加水分解反応における反応液組成の経時変化(試験例4)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

[式中A1はヒドロキシの保護基;
は非置換またはハロゲン、低級アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環で置換された、二価の飽和または不飽和の低〜中級脂肪族炭化水素残基であり、脂肪族炭化水素の少なくとも1つの炭素原子は任意に酸素、窒素あるいは硫黄で置換されていてもよい;
は非置換または低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環または複素環オキシで置換された、飽和または不飽和の低〜中級脂肪族炭化水素残基;シクロ(低級)アルキル基;シクロ(低級)アルキルオキシ基;アリール基;アリールオキシ基;複素環基;複素環オキシ基;
Bは−CH−CH−、−CH=CH−または−C≡C−;
Qは−CH、−COCH、−OH、−COOHまたはそれらの官能性誘導体;
1およびXは水素原子、低級アルキル基またはハロゲン原子]
で表される化合物をリン酸化合物の存在下、加水分解反応を行うこと特徴とする一般式(2)
【化2】

(式中、全ての記号は前記と同意義)
で示される15−ケトプロスタグランジンE誘導体の製造法。
【請求項2】
およびXの少なくとも一方がハロゲンである請求項1記載の製造法。
【請求項3】
およびXがともにハロゲンである請求項1記載の製造法。
【請求項4】
およびXがともにフッ素である請求項1記載の製造法。
【請求項5】
リン酸化合物がリン酸である請求項1記載の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−211011(P2007−211011A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22764(P2007−22764)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(592060271)株式会社アールテック・ウエノ (22)
【Fターム(参考)】