説明

2−エトキシイソ酪酸エチルの製造方法

【課題】高価な貴金属を用いず、反応中に水素発生や異常発熱がない、安全性に優れた2−エトキシイソ酪酸エチルの工業的な製造方法の提供。
【解決手段】式1


(Xは、ハロゲン原子を示す。)で示される1,1,1−トリハロゲノ−2−メチル−2−プロピルアルコールと式2


(式中、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、nは1又は2である。)で示される塩基とを、環状の脂肪族炭化水素類、非環状の脂肪族炭化水素類、エーテル類及び芳香族炭化水素類からなる群より選ばれた少なくとも1種の溶媒とエタノールとの混合溶媒中で反応させる製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−エトキシイソ酪酸エチルの製造方法に関する。2−エトキシイソ酪酸エチルは、例えば、化学気相蒸着法(CVD法)に使用されるβ−ジケトン系金属錯体の合成原料として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来、2−エトキシイソ酪酸エチルの製造方法としては、例えば、2−ヒドロキシイソ酪酸エチルの水酸基を水素化ナトリウムでアルコキシドに変換し、その後ヨウ化エチルを反応させる方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
また別の方法としては、例えば、2−ヒドロキシイソ酪酸エチルと酸化銀(I)とを反応させ、その後ヨウ化エチルを反応させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
更に別の方法としては、例えば、1,1,1−トリクロロ−2−メチル−2−プロピルアルコールをエタノール中、金属ナトリウムの存在下で反応させる方法が知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】韓国登録特許第10−0741673号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Canadian Journal of Chemisty,44、1591(1966)
【非特許文献2】Journal of the American Chemical Society,69(11)、2667(1947)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の非特許文献1の方法では、爆発性のある水素が発生し、更に副生成物としてエチレンが生成するため収率が下がるという問題点を有している。
また、特許文献1の方法は、高価な貴金属を使用するため工業的には好ましくない。
更に、非特許文献2の方法では、爆発性のある水素が発生し、反応液も異常な発熱があるため工業的には好ましくない。
【0006】
本発明の課題は、即ち、上記問題点を解決し、高価な貴金属を用いず、反応中に水素発生や異常発熱がない、安全性に優れた2−エトキシイソ酪酸エチルの工業的な製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、一般式(1)
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、Xは、ハロゲン原子を示す。)
で示される1,1,1−トリハロゲノ−2−メチル−2−プロピルアルコールと一般式(2)
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、nは1又は2である。)
で示される塩基とを、環状の脂肪族炭化水素類、非環状の脂肪族炭化水素類、エーテル類及び芳香族炭化水素類からなる群より選ばれた少なくとも1種の溶媒とエタノールとの混合溶媒中で反応させることを特徴とする2−エトキシイソ酪酸エチルの製造方法によって解決される。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、高価な貴金属を用いることがなく、反応中に水素発生や異常発熱がない、安価で安全性に優れた2−エトキシイソ酪酸エチルの工業的な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の反応において使用される1,1,1−トリハロゲノ−2−メチル−2−プロピルアルコールは、前記一般式(1)で示される。その一般式(1)において、Xはフッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子、好ましくは塩素原子である。
【0014】
本発明の反応において使用される塩基は、前記一般式(2)で示される。その一般式(2)において、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属としては、例えば、カルシウム、マグネシウム等が挙げられる。nは1又は2であるが、Mがアルカリ金属のときは1、Mがアルカリ土類金属のときは2である。これらの塩基の中で、好ましくはアルカリ金属のエトキシド、更に好ましくはナトリウムエトキシドである。
【0015】
前記の塩基の使用量は、Mがアルカリ金属の場合は、前記一般式(1)の1,1,1−トリハロゲノ−2−メチル−2−プロピルアルコール1モルに対して、好ましくは1〜50モル、更に好ましくは2〜10モルである。またMがアルカリ土類金属の場合は、前記一般式(1)の化合物1モルに対して、好ましくは0.5〜25モル、更に好ましくは1〜5モルである。
【0016】
本発明において使用される溶媒は、環状の脂肪族炭化水素類、非環状の脂肪族炭化水素類、エーテル類及び芳香族炭化水素類からなる群より選ばれた少なくとも1種の溶媒(以下、「溶媒A」と称することもある)とエタノールとの混合溶媒(以下、「混合溶媒」と称することもある)である。
【0017】
環状の脂肪族炭化水素類としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の炭素原子数5〜10のシクロアルカン類;シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン等の炭素原子数5〜10のシクロアルケン類等が挙げられる。
【0018】
非環状の脂肪族炭化水素類としては、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭素原子数5〜10のアルカン類が挙げられる。
【0019】
エーテル類としては、例えば、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン等の非環状エーテル類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類が挙げられる。
【0020】
芳香族炭化水素類としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類等が挙げられる。
【0021】
前記溶媒Aは、置換基を有していても良く、その置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の各種異性体を含むアルキル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子が挙げられる。
【0022】
これらの溶媒Aは、単独又は二種以上を混合して使用しても良く、好ましくは環状の脂肪族炭化水素類、更に好ましくはシクロアルカン類、より好ましくはアルキル基で置換されたシクロヘキサン、特に好ましくはメチルシクロヘキサンである。
【0023】
前記溶媒Aとエタノールとの混合割合は、エタノール1mlに対して、溶媒Aが好ましくは0.1〜20ml、更に好ましくは0.5〜5mlである。
【0024】
前記混合溶媒の使用量は、一般式(1)で示される1,1,1−トリハロゲノ−2−メチル−2−プロピルアルコール1gに対して、好ましくは0.2〜40ml、更に好ましくは1〜10mlである。
【0025】
本発明の反応における反応温度は、特に制限されないが、好ましくは5℃〜100℃、更に好ましくは10℃〜80℃、より好ましくは15〜60℃である。また、反応圧力は、特に制限されないが、好ましくは常圧下である。
【0026】
本発明の反応によって得られる2−エトキシイソ酪酸エチルは、例えば、中和、抽出、分液、濾過、濃縮、蒸留、晶析、再結晶及びカラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって、単離・精製することも出来る。
【0027】
また、前記反応後の反応液は、pHを制御した後に単離・精製することも出来る。pHを制御する際に使用する酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、蓚酸、コハク酸等のカルボン酸類;リン酸、硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸類;p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等のスルホン酸類が挙げられるが、好ましくはカルボン酸類が使用される。なお、これらの酸は、単独又は二種類以上を混合して使用しても良い。
【実施例】
【0028】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0029】
実施例1(1,1,1−トリクロロ−2−メチル−2−プロピルアルコールから2−エトキシイソ酪酸エチルの合成)
撹拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積1Lのフラスコに1,1,1−トリクロロ−2−メチル−2−プロピルアルコール・0.5水和物225g(1.21モル)を加え、フラスコ内をアルゴンで置換し、メチルシクロヘキサン600mlを加えた。
次に120℃のオイルバス中で、混合液の温度を100〜105℃に保ち、共沸してくる水を留去しながら1時間撹拌し、その後、室温まで冷却した。
続いて、前記混合液を撹拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積5Lのフラスコへ移し、メチルシクロヘキサン900mlを加えた。
混合液の温度を20〜30℃に保持し、撹拌しながら20%ナトリウムメトキシドエタノール溶液1330g(3.90モル)をゆるやかに滴下した。滴下中の混合液の温度は21℃から27℃であり、滴下終了後、更に撹拌しながら4時間反応させた。反応終了後、得られた反応液に酢酸41g(0.67モル)及び水1.3Lを加えて分液し、有機層を抽出した。得られた有機層を濃縮し、続いて濃縮物を減圧蒸留(71℃、6.5kPa)して、無色液体として2−エトキシイソ酪酸エチル94gを得た(単離収率:49%)。
なお、得られた2−エトキシイソ酪酸エチルの物性値は以下の通りであった。
【0030】
H−NMR(CDCl、δ(ppm));1.21(3H、t)、1.29(3H、t)、1.42(6H、s)、3.43(2H、q)、4.20(2H、q)
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明により、高価な貴金属を用いることがなく、反応中に水素発生と異常発熱がない、安価で安全性に優れた2−エトキシイソ酪酸エチルの工業的製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Xは、ハロゲン原子を示す。)
で示される1,1,1−トリハロゲノ−2−メチル−2−プロピルアルコールと一般式(2)
【化2】

(式中、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、nは1又は2である。)
で示される塩基とを、環状の脂肪族炭化水素類、非環状の脂肪族炭化水素類、エーテル類及び芳香族炭化水素類からなる群より選ばれた少なくとも1種の溶媒とエタノールとの混合溶媒中で反応させることを特徴とする2−エトキシイソ酪酸エチルの製造方法。
【請求項2】
塩基の使用量が一般式(1)の化合物1モルに対して1〜50モルである請求項1記載の2−エトキシイソ酪酸エチルの製造方法。
【請求項3】
環状の脂肪族炭化水素類、非環状の脂肪族炭化水素類、エーテル類及び芳香族炭化水素類からなる群より選ばれた少なくとも1種の溶媒の使用量がエタノール1mlに対して0.1〜20mlである請求項1又は2のいずれかに記載の2−エトキシイソ酪酸エチルの製造方法。
【請求項4】
環状の脂肪族炭化水素類がメチルシクロヘキサンである請求項1から3のいずれか1項に記載の2−エトキシイソ酪酸エチルの製造方法。