説明

2−オキソイミダゾリジン誘導体の製造方法

【課題】アンジオテンシン変換酵素阻害剤として有用なイミダプリル又はその塩の工業的に有利な製造方法を提供する。
【解決手段】下式に示すとおり、臭化リチウム又は塩化リチウムの存在下、化合物(I)と化合物(II)を反応させて化合物(III)とし、ついで接触還元して化合物(IV)(イミダプリル)を得る。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬分野で有用な2−オキソイミダゾリジン誘導体の製造方法に関し、さらに詳しくは、(−) (4S)−1−メチル−3−{(2S)−2−[N−((1S)−1−エトキシカルボニル−3−フェニルプロピル)アミノ]プロピオニル}−2−オキソイミダゾリジン−4−カルボン酸(一般的名称:イミダプリル)及びその合成中間体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イミダプリルの塩酸塩は、アンジオテンシン変換酵素阻害剤として高血圧症等の治療に用いられている。
従来、イミダプリルの製造方法として、例えば下記の方法が知られている。
【化8】

【特許文献1】特公昭60−58233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題はアンジオテンシン変換酵素阻害剤として有用なイミダプリル又はその塩の工業的に有利な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、課題解決のため、まず前記従来技術の各工程について追試した。その反応条件の改良を試み、鋭意検討した結果、前記の全工程(3工程)を2工程にできることを見出し、本発明を完成した。
【0005】
すなわち本発明は、
(1)(4S)−1−メチル−3−ベンジルオキシカルボニル−2−オキソイミダゾリジン−4−カルボン酸ベンジルエステル[式(I)]
【化9】

とN−[(1S)−1−(エトキシカルボニル)−3−フェニルプロピル]−L−アラニンのN−カルボキシ無水物[式(II)]
【化10】


とを、臭化リチウム又は塩化リチウムの存在下、反応させて(4S)−1−メチル−3−{(2S)−2−[N−((1S)−1−エトキシカルボニル−3−フェニルプロピル)アミノ]プロピオニル}−2−オキソイミダゾリジン−4−カルボン酸ベンジルエステル[式(III)]を得、
【化11】

ついで接触還元することを特徴とする(4S)−1−メチル−3−{(2S)−2−[N−((1S)−1−エトキシカルボニル−3−フェニルプロピル)アミノ]プロピオニル}−2−オキソイミダゾリジン−4−カルボン酸[式(IV)]またはその塩の製造方法、
【化12】

【0006】
(2)(4S)−1−メチル−3−ベンジルオキシカルボニル−2−オキソイミダゾリジン−4−カルボン酸ベンジルエステル[式(I)]
【化13】

とN−[(1S)−1−(エトキシカルボニル)−3−フェニルプロピル]−L−アラニンのN−カルボキシ無水物[式(II)]
【化14】


とを、臭化リチウム又は塩化リチウムの存在下、反応させて(4S)−1−メチル−3−{(2S)−2−[N−((1S)−1−エトキシカルボニル−3−フェニルプロピル)アミノ]プロピオニル}−2−オキソイミダゾリジン−4−カルボン酸ベンジルエステル[式(III)]を得る方法
【化15】

に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、前記従来の方法における化合物(V)を経由することなく、化合物(I)に化合物(II)を反応させて化合物(III)とすることができるので、従来の方法より1工程短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、化合物(I)と化合物(II)との反応は、通常溶媒中で行われる。その溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、モノクロロベンゼン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトニトリル、あるいはそれらの混合溶媒が好適に使用できる。化合物(I)に対する化合物(II)の使用量は、1〜3倍モル使用するが、好ましくは1〜2倍モル程度である。また、この反応で使用する臭化リチウム又は塩化リチウムの使用量は、化合物(I)に対して1〜5倍モル使用するが、好ましくは1〜2倍モルである。反応温度は選択された有機溶媒の種類に依存し、厳密に限定されない。一般的に、反応温度は30〜120℃の範囲であり、好ましくは40〜100℃の範囲で行われる。
イミダプリル[化合物(IV)]の塩としては、化合物(IV)と生理学的に許容される酸、例えば塩酸塩や硫酸等の鉱酸及び酢酸やマレイン酸等の有機酸との塩が好ましく、なかでも塩酸塩が好ましい。
【実施例】
【0009】
本発明で使用する化合物(I)は、前記の特許文献1に記載の方法により、また化合物(II)は、特開昭62−48696号公報に記載の方法により製造した。
[実施例1](4S)−1−メチル−3−{(2S)−2−[N−((1S)−1−エトキシカルボニル−3−フェニルプロピル)アミノ]プロピオニル}−2−オキソイミダゾリジン−4−カルボン酸ベンジルエステル
N−[(1S)−1−(エトキシカルボニル)−3−フェニルプロピル]−L−アラニンのN−カルボキシ無水物1.14g(3.73ミリモル)のトルエン10 mlの溶液に、(4S)−1−メチル−3−ベンジルオキシカルボニル−2−オキソイミダゾリジン−4−カルボン酸ベンジルエステル0.92g(2.50ミリモル)及び臭化リチウム0.26g(3.00ミリモル)を加え、80℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、水9 mlを加え0.5時間撹拌した。有機層を水5 mlで洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン−酢酸エチル=1:1)で精製することにより、油状の(4S)−1−メチル−3−{(2S)−2−[N−((1S)−1−エトキシカルボニル−3−フェニルプロピル)アミノ]プロピオニル}−2−オキソイミダゾリジン−4−カルボン酸ベンジルエステルを1.05g(収率:84.7%)得た。
比旋光度[α]20:−59.0°(C=1.0、EtOH)
NMR(CDCl)δ(ppm):1.26(3H、t)、1.28(3H、d)、1.84−2.04(2H、m)、2.60−2.76(2H、m)、2.85(3H、s)、3.26(1H、t)、3.33(1H、dd)、3.69(1H、t)、4.08−4.21(2H、m)、4.71(1H、q)、4.80(1H、dd)、5.14(1H、d)、5.24(1H、d)、7.11−7.40(10H、m)
【0010】
[実施例2](4S)−1−メチル−3−{(2S)−2−[N−((1S)−1−エトキシカルボニル−3−フェニルプロピル)アミノ]プロピオニル}−2−オキソイミダゾリジン−4−カルボン酸ベンジルエステルのマレイン酸塩
N−[(1S)−1−(エトキシカルボニル)−3−フェニルプロピル]−L−アラニンのN−カルボキシ無水物10.76g(35.2ミリモル)のトルエン100 mlの溶液に、(4S)−1−メチル−3−ベンジルオキシカルボニル−2−オキソイミダゾリジン−4−カルボン酸ベンジルエステル10g(27.1ミリモル)及び臭化リチウム3.06g(35.2ミリモル)を加え、80℃で6時間撹拌した後、トリエチルアミン2.74g(27.1ミリモル)を加え、さらに3時間80℃で攪拌した。室温まで冷却した後、水100mlを加え0.5時間撹拌した。有機層を水50mlで洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを除去した後、ジイソプロピルエーテル200mlを加えた。この溶液に、マレイン酸2.83g(24.4ミリモル)のエタノール12mlの溶液を室温で滴下した後、終夜攪拌した。析出した結晶をろ取し、少量のジイソプロピルエーテル−エタノール(25:1)で洗浄することにより(4S)−1−メチル−3−{(2S)−2−[N−((1S)−1−エトキシカルボニル−3−フェニルプロピル)アミノ]プロピオニル}−2−オキソイミダゾリジン−4−カルボン酸ベンジルエステルのマレイン酸塩を10.10g(収率:60.9%)得た。
mp. 95−96℃
比旋光度[α]25: −50.3°(C=1.0、EtOH)
NMR(CDCl)δ(ppm):1.33(3H、t)、1.41(3H、d)、2.28(2H、dd)、2.70−2.86(2H、m)、2.88(3H、s)、3.38(1H、dd)、3.66(1H、t)、3.84(1H、t)、4.22−4.34(2H、m)、4.83(1H、dd)、5.11−5.27(3H、m)、6.30(2H、s)、7.16−7.40(10H、m)
【0011】
[実施例3](4S)−1−メチル−3−{(2S)−2−[N−((1S)−1−エトキシカルボニル−3−フェニルプロピル)アミノ]プロピオニル}−2−オキソイミダゾリジン−4−カルボン酸
(4S)−1−メチル−3−{(2S)−2−[N−((1S)−1−エトキシカルボニル−3−フェニルプロピル)アミノ]プロピオニル}−2−オキソイミダゾリジン−4−カルボン酸ベンジルエステルのマレイン酸塩9.30g(15.2ミリモル)、酢酸エチル47ml及び水93mlの混合溶液に、炭酸カリウム2.1g(15.2ミリモル)を徐々に加える。0.5時間攪拌した後、有機層を水47mlで洗浄した。硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濃縮した。残渣をテトラヒドロフラン186mlに溶解し、5%Pd−C744mg存在下で接触還元を行った。反応終了後、Pd−Cを除去し、スラリー状になるまで減圧濃縮した。ジイソプロピルエーテル93mlを加えて、室温で終夜攪拌した。結晶をろ取し、ジイソプロピルエーテルで洗浄することにより、(4S)−1−メチル−3−{(2S)−2−[N−((1S)−1−エトキシカルボニル−3−フェニルプロピル)アミノ]プロピオニル}−2−オキソイミダゾリジン−4−カルボン酸を5.82g(収率:94.5%)得た。
mp. 144−145℃
比旋光度[α]20: −71.4°(C=0.5、EtOH)
NMR(DMSO−d)δ(ppm):1.08−1.18(6H、m)、1.68−1.85(2H、m)、2.50−2.63(2H、m)、2.74(3H、s)、3.08−3.15(1H、br)、3.35(1H、dd)、3.70(1H、t)、4.02(2H、q)、4.54−4.63(2H、m)、7.11−7.28(5H、m)
【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明によれば、イミダプリル又はその塩を製造するに際し、従来の方法より1工程短縮できるので、工業的に有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(4S)−1−メチル−3−ベンジルオキシカルボニル−2−オキソイミダゾリジン−4−カルボン酸ベンジルエステル[式(I)]
【化1】

とN−[(1S)−1−(エトキシカルボニル)−3−フェニルプロピル]−L−アラニンのN−カルボキシ無水物[式(II)]
【化2】

とを、臭化リチウム又は塩化リチウムの存在下、反応させて(4S)−1−メチル−3−{(2S)−2−[N−((1S)−1−エトキシカルボニル−3−フェニルプロピル)アミノ]プロピオニル}−2−オキソイミダゾリジン−4−カルボン酸ベンジルエステル[式(III)]を得、
【化3】


ついで接触還元することを特徴とする(4S)−1−メチル−3−{(2S)−2−[N−((1S)−1−エトキシカルボニル−3−フェニルプロピル)アミノ]プロピオニル}−2−オキソイミダゾリジン−4−カルボン酸[式(IV)]またはその塩の製造方法。
【化4】

【請求項2】
(4S)−1−メチル−3−ベンジルオキシカルボニル−2−オキソイミダゾリジン−4−カルボン酸ベンジルエステル[式(I)]
【化5】


とN−[(1S)−1−(エトキシカルボニル)−3−フェニルプロピル]−L−アラニンのN−カルボキシ無水物[式(II)]
【化6】


とを、臭化リチウム又は塩化リチウムの存在下、反応させて(4S)−1−メチル−3−{(2S)−2−[N−((1S)−1−エトキシカルボニル−3−フェニルプロピル)アミノ]プロピオニル}−2−オキソイミダゾリジン−4−カルボン酸ベンジルエステル[式(III)]を得る方法。
【化7】


【公開番号】特開2006−160678(P2006−160678A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−355592(P2004−355592)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(593030071)大原薬品工業株式会社 (40)