説明

2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイルクロリドと水酸基を有する数種の化合物の脱塩酸縮合による新規紫外線吸収剤の合成

【課題】2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイルクロリドを用いて、実際に使用可能な、そして在来のものより耐蒸散性の改善されたシアノアクリレ−ト系紫外線吸収剤を合成すること、同じく2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイルクロリドを用いてベンゾフェノン系とシアノアクリレ−ト系の、およびベンゾトリアゾ−ル系とシアノアクリレ−ト系の複合系とも言える紫外線吸収剤を合成すること。
【解決手段】2−シアノ−3,3−ジフェニルアクロイルクロリドとフェノ−ル類の脱塩酸縮合により2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸アリ−ルを合成し、これらの物性について調べた。さらに紫外吸収にさいして吸収に関与しない水酸基を有するベンゾフェノン系の、あるいはベンゾトリアゾ−ル系の紫外線吸収剤との脱塩酸縮合により目的の複合系とも言える新規な紫外線吸収剤を合成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明ははじめに、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイルクロリド(I)と、水酸基を有する化合物としてのフェノ−ル類の脱塩酸縮合による2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸アリ−ル(II)の合成とそれらの紫外線吸収剤としての利用に関する。詳しくは2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸フェニル(IIa)、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸p−トリル(IIb)、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸2,4−キシリル(IIc)、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸4−tert−ブチルフェニル(IId)、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸2,4−ジ−tert−ブチルフェニル(IIe)、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル(IIf)、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸4−クミルフェニル(IIg)、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸2,4−ジクミルフェニル(IIh)および4,4′−イソプロピリデンジフェノ−ルビス(2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレ−ト)(IIi)の合成とそれらの紫外線吸収剤としての利用に関する。
【0002】
つぎに、Iと水酸基を有する化合物としての2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンの脱塩酸縮合によるベンゾフェノン系とシアノアクリレ−ト系の複合系とも言える紫外線吸収剤の合成とそれの紫外線吸収剤としての利用に関する。詳しくは2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェニル(III)の合成とそれの紫外線吸収剤としての利用に関する。
【0003】
さらに,Iと水酸基を有する化合物としての4−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)レゾルシノ−ル、4−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)レゾルシノ−ル、2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチル−p−クレゾ−ル あるいは4−tert−ブチル−2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチルフェノ−ルの脱塩酸縮合によるベンゾトリアゾ−ル系とシアノアクリレ−ト系の複合系とも言える紫外線吸収剤の合成とそれらの紫外線吸収剤としての利用に関する。詳しくは2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸4−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−3−ヒドロキシフェニル(IVa)、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸4−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル−3−ヒドロキシフェニル(IVb)、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル(Va) および2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸5−tert−ブチル−3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシベンジル(Vb)の合成とそれらの紫外線吸収剤としての利用に関する。
【背景技術】
【0004】
Iとアミノ基を有する化合物の脱塩酸縮合についてはすでに報告があり、非特許文献1がこれに相当する。ここにおける研究はIと水酸基を有する化合物の脱塩酸縮合についてである。はじめに、IIに関しての背景技術について述べる。 ベンゾトリアゾ−ル系紫外線吸収剤と比較した場合に、シアノアクリレ−ト系のものは種類、生産量共に比較的少ない。しかし、塗料等に有用なものとして広く利用されている。上市されているものとして 2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸エチル(VI)と 2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸2−エチルヘキシル(VII)がある。これらは合成樹脂塗料、繊維素系塗料の耐光性向上のために用いられている。相溶性のこともあり、後者の方が前者より幾分多用されている。また、比較的複雑な構造のシアノアクリレ−ト系紫外線吸収剤として2,4,6−トリス[4−(2−シアノ−2−エトキシカルボニル−1−フェニル)ビニルアニリノ]−1,3,5−トリアジン(VIII)、ペンタエリスリト−ルテトラキス(1−シアノ−2,2−ジフェニルアクリレ−ト)(IX)および5−メトキシ−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−△1,2−シアノ酢酸エチル(X)が特許文献1、特許文献2および特許文献3として報告されている。
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【0005】
【非特許文献1】H.A.Abdel−Hamid et al.,C.A.,124,117240(1995).
【特許文献1】特開平9−227533号公報
【特許文献2】PCT Int.Appl.WO9615102;C.A.,125,116313(1996).
【特許文献3】特開平10−77220号公報
【0006】
つぎに、III,IVa,IVb,VaおよびVbに関しての背景技術について述べる。 これらは1分子中に2種類の機能構造を有する紫外線吸収剤である。 過去の文献からこの複合系とも言える紫外線吸収剤の例として 2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸2−(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシ)フェノキシ−1−メチルエチル(XI)、5−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2,2′,4,4′−テトラヒドロキシベンゾフェノン(XII)、3−[3−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル]−2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシベンゾフェノン(XIII)および5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン(XIV)が特許文献4、特許文献5、特許文献6および特許文献7として報告されている。 XIはベンゾフェノン系とシアノアクリレ−ト系の、XII,XIII,XIVは何れもベンゾフェノン系とベンゾトリアゾ−ル系の複合系とも言える紫外線吸収剤である。
【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【0007】
【特許文献4】特開平8−296174号公報
【特許文献5】Brit.UK Pat.Appl.GB2232667;C.A.,114,230105(1991).
【特許文献6】Eur.Pat.Appl.EP613891;C.A.,122,267072(1995).
【特許文献7】特開2000−119261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする課題は実際に使用しうる新規なシアノアクリレ−ト系紫外線吸収剤を合成することである。すなわち、VIIIおよびIXについては合成工程が多段階で熟練を必要とすること、そして普通の塗料用溶剤には難溶であること等の理由から塗料用としては不適当であろう。 塗塗料用溶剤に易溶であると考えられるXについては、合成における原料が高価であるので経済性の観点から塗料用としては同じく不適当である。以上のことから、現在において上市されているのがVIおよびVIIであることも理解できる。塗料特に合成樹脂塗料については、種類、使用方法共に多様化している。このことに対応させるためにはVIおよびVII以外にも、実際に使用可能なシアノアクリレ−ト系紫外線吸収剤が求められているからである。
【0009】
そして、更にひとつの課題は新規な複合系とも言える紫外線吸収剤を合成することである。すなわち、過去の例がXI,XII,XIII,XIVおよびそれらの2〜3の誘導体だけではひとつの系としては絶対数としても不足であるので、Iを用いて合成した新規な例を加えるものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
VIあるいはVIIのエステル構造を構成するアルコ−ル部分はエタノ−ルあるいは2−エチル−1−ヘキサノ−ルである。この部分をフェノ−ル類に変えることを考えた。フェノ−ル類のベンゼン核に種々の置換基を持たせることにより得られるものの物性に変化の幅があるようにした。2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸と塩化チオニルから容易に得られるIとフェノ−ル類の脱塩酸縮合によりIIを合成した。得られたIIについては、相溶性、化学的安定性、光安定性、熱安定性(高温安定性)、耐蒸散性について、特に相溶性、耐蒸散性についてVIあるいはVIIと比較検討した。
【0011】
同じくIを、紫外吸収に際して吸収に関与しない水酸基を有するベンゾフェノン系の、あるいはベンゾトリアゾ−ル系の紫外線吸収剤と脱塩酸縮合させることによりIII,IVa,IVb,VaおよびVbを合成した。得られたこれらについては、相溶性、化学的安定性、光安定性、熱安定性(高温安定性)、耐蒸散性について、特に熱安定性(高温安定性)、耐蒸散性について検討した。 このさい、基本的な化合物であると考えられるものと比較検討した。すなわち、IIIは2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン(XV)と、 そしてIVa,IVb,VaおよびVbは2−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−p−クレゾ−ル(XVI)と比較検討した。
【化13】

【化14】

【発明の効果】
【0012】
IIをVIあるいはVIIと比較した場合、化学的安定性、光安定性、熱安定性(高温安定性)において大きい差異はない。このことはそれらの化学構造式からも明らかである。表1には耐蒸散性について検討されているが所期通りの結果が得られている。相溶性については判断が難しいので、IIa〜IIhの溶剤に対する溶解性で代わりとした。結果を表2に示しているが、それはこれらのエステル構造を構成するフェノ−ル類のベンゼン核にある置換基の種類により大きく変化していることが認められた。また、III,IVaおよびIVbをXVあるいはXVIと比較した場合、同じく化学構造式から化学的安定性、光安定性、熱安定性(高温安定性)において大きい差異はない。耐蒸散性についての表1の結果とあわせて得られたものはポリマ−の高温加工のさいに使用しうるものである。しかし、VaおよびVbをXVIと比較した場合、同じようになるという予想に反した結果が得られた。すなわち、耐蒸散性については改善が見られたが、VaおよびVbが高温で空気酸化され易いということが認められた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
下記は本発明をさらに詳細に説明するために例として示したものであり、本発明を制限しようとするものではない。水酸基を有する化合物とin situで調製したIにトルエン中においてトリエチルアミンを加えることにより反応させた。2ケ以上の水酸基を有する化合物を用いた場合は極めて徐々にトリエチルアミンを加えた。また、得られたものについては元素分析およびIRスペクトルにより確認した。
【実施例1】
【0014】
2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸6.23g(0.025mol)と過剰の塩化チオニルからin situで合成したIにトルエン80mlを加え、さらにフェノ−ル2.45g(0.026mol)を加えた。室温でかきまぜながらこの溶液にトリエチルアミン5.1g(0.050mol)のトルエン溶液を3時間かけて滴下した。滴下後、12時間室温でかきまぜ反応させた後、1時間還流煮沸した。反応後、2〜3度温水洗した後、トルエン層を減圧濃縮して全容を約20ml以下とした。析出結晶を濾過しとり、酢酸エチルで再結晶して殆ど無色のIIa5.12gを得た。収率63%、融点188〜139℃。元素分析実験値(%)C80.99,H4.56,N4.23;C2215NOに対する計算値(%)C81.21,H4.65,N430。 IRスペクトル(KBr)2220cm−1(νC≡N),1750cm−1(νC=O)。 UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)311nm(13400)。
【実施例2】
【0015】
実施例1におけるフェノ−ル2.45g(0.026mol)の代わりにp−クレゾ−ル2.81g(0.026mol)を用い、他は実施例1と同様にしてIをp−クレゾ−ルと反応させた。同様に処理して殆ど無色のIIb6.45gを得た。 収率76%、融点107〜108℃、元素分析実験値(%)C81.20,H4.75,N4.30;C2317NOに対する計算値(%)C81.39,H5.05,N4.13。IRスペクトル(KBr)2220cm−1(νC≡N),1760cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)311nm(14000)。
【実施例3】
【0016】
実施例1におけるフェノ−ル2.45g(0.026mol)の代わりに2,4−キシレノ−ル3.18g(0.026mol)を用い、他は実施例1と同様にしてIを2,4−キシレノ−ルと反応させた。
同様に処理して微黄色のIIc5.39gを得た。収率61%、融点106〜108℃。 元素分析実験値(%)C81.44,H5.24,N3.92;C2419NOに対する計算値(%)C81.56,H5.42,N3.96。IRスペクトル(KBr)2220cm−1(νC≡N),1750cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)310nm(13500)。
【実施例4】
【0017】
実施例1におけるフェノ−ル2.45g(0.026mol)の代わりに4−tert−ブチルフェノ−ル3.91g(0.026mol)を用い、他は実施例1と同様にしてIを4−tert−ブチルフェノ−ルと反応させた。同様に処理して微黄色のIId6.39gを得た。収率67%、融点121〜122℃。元素分析実験値(%)C81.72,H5.79,N3.73;C2623NOに対する計算値(%)C81.86,H6.08,N3.67。IRスペクトル(KBr)2220cm−1(νC≡N),1760cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)310nm(13200)。
【実施例5】
【0018】
実施例1におけるフェノ−ル2.45g(0.026mol)の代わりに2,4−ジ−tert−ブチルフェノ−ル5.37g(0.026mol)を用い、他は実施例1と同様にしてIを2,4−ジ−tert−ブチルフェノ−ルと反応させた。同様に処理して殆ど無色のIIe8.24gを得た。収率75%、融点150〜151℃。元素分析実験値(%)C82.19、H7.01,N3.23;C3031NOに対する計算値(%)C82.34,H7.14,N3.20。IRスペクトル(KBr)2220cm−1(νC≡N),1760cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)313nm(13300)。
【実施例6】
【0019】
実施例1におけるフェノ−ル2.45g(0.026mol)の代わりに4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノ−ル5.37g(0.026mol)を用い、他は実施例1と同様にしてIを4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノ−ルと反応させた。同様に処理して微黄色のIIf7.29gを得た。収率67%、融点97〜99℃。元素分析実験値(%)C82.09,H6.97,N3.35;C3031NOに対する計算値(%)C82.34,H7.14,N3.20。IRスペクトル(KBr)2220cm−1(νC≡N),1750cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax) 311nm(13900)。
【実施例7】
【0020】
実施例1におけるフェノ−ル2.45g(0.026mol)の代わりに4−クミルフェノ−ル5.52g(0.026mol)を用い、他は実施例1と同様にしてIを4−クミルフェノ−ルと反応させた。同様に処理して殆ど無色のIIg8.65gを得た。収率78%、融点120〜122℃、元素分析実験値(%)C83.83,H5.51,N3.26; C3125NOに対する計算値(%)C83.94,H5.68,N3.16。 IRスペクトル(KBr) 2220cm−1(νC≡N),1750cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)311nm(14300)。
【実施例8】
【0021】
実施例1におけるフェノ−ル2.45g(0.026mol)の代わりに2,4−ジクミルフェノ−ル8.60(0.026mol)を用い、他は実施例1と同様にしてIを2,4−ジクミルフェノ−ルと反応させた。同様に処理して無色のIIh11.94gを得た。収率85%、融点177〜178.5℃。元素分析実験値(%)C85.34,H6.01,N2.55;C4035NOに対する計算値(%)C85.53,H6.28,N2.49。IRスペクトル(KBr) 2220cm−1(νC≡N),1750cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)317nm(15500)。
【実施例9】
【0022】
2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸6.23g(0.025mol)と過剰の塩化チオニルからin situで合成したIにトルエン150mlを加え、さらに4,4′−イソプロピリデンジフェノ−ル2.97g(0.013mol)を加えた。室温でかきまぜながらこの溶液にトリエチルアミン5.1g(0.050mol)のトルエン溶液を3時間かけて滴下した。滴下後、12時間室温でかきまぜ反応させた後、1時間還流煮沸した。反応後、2〜3度温水洗してからトルエン層を減圧濃縮して全容を約40ml以下とした。析出結晶を濾過しとり、酢酸エチルで再結晶して灰白色のIIi4.61gを得た。収率53%、融点209〜210℃。
元素分析実験値(%)C81.58,H4.77,N4.09 ;C4734に対する計算値(%)C81.72,H4.96,N4.06。 IRスペクトル(KBr)2220cm−1(νC≡N),1750cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)300nm(29200)。
【実施例10】
【0023】
2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸6.23g(0.025mol)と過剰の塩化チオニルからin situで合成したIにトルエン140mlを加え、さらに2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン5.14g(0.024mol)を加えた。室温でかきまぜながらこの溶液にトリエチルアミン5.1g(0.050mol)のトルエン溶液を5〜6時間かけて滴下した。滴下後、12時間室温でかきまぜ反応させた後、1時間還流煮沸した。反応後、2〜3度温水洗してからトルエン層を減圧濃縮してトルエンの殆どを留去した。残留に2−プロパノ−ルを加えて析出結晶を濾過しとり、適量のメタノ−ルで洗浄してからトルエンで再結晶して微黄色のIII6.51gを得た。収率61%、融点147〜148℃。元素分析実験値(%)C77.99,H4.08,N3.42;C2919NOに対する計算値(%)C78.19,H4.30,N3.14。IRスペクトル(KBr)認められない(νO−H),2220cm−1(νC≡N),1760cm−1(エステル基のνC=O),1630cm−1(ケト基のνC=O)。 UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)275nm(23200),326nm(25100)。
【実施例11】
【0024】
2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸6.23g(0.025mol)と過剰の塩化チオニルからin situで合成したIにトルエン140mlを加え、さらに4−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)レゾルシノ−ル5.46g(0.024mol)を加えた。室温でかきまぜながらこの溶液にトリエチルアミン5.1g(0.050mol)のトルエン溶液を5〜6時間かけて滴下した。滴下後、12時間室温でかきまぜ反応させた後、1時間還流煮沸した。反応後、2〜3度温水洗してからトルエン層を減圧濃縮してトルエンの殆どを留去した。残留に2−プロパノ−ルを加えて結晶を析出させ、濾過後、適量のメタノ−ルで洗浄してからトルエンで再結晶して微黄色のIVa 5.45gを得た。収率50%、融点183〜184.5℃。元素分析実験値(%)C73.08,H3.77,N12.43;C2818に対する計算値(%)C73.35,H3.96,N12.22。IRスペクトル(KBr)認められない(νO−H), 2220cm−1(υC≡N), 1740cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)300nm(33700),335nm(46500)。
【実施例12】
【0025】
実施例11におけるトルエン140mlの代わりにトルエン180mlを、4−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)レゾルシノ−ル5.46g(0.024mol)の代わりに4−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)レゾルシノ−ル6.28g(0.024mol)を用い、他は実施例11と同様にしてIを4−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)レゾルシノ−ルと反応させた。反応後、2〜3度温水洗してからトルエン層を減圧濃縮してトルエンの殆どを留去した。析出結晶を濾過しとり、適量のメタノ−ルで洗浄してからトルエンで再結晶して白色のIVb 7.71gを得た。収率65%、融点176〜177℃。元素分析実験値(%)C67.98,H3.18,N11.47。C2817ClNに対する計算値(%)C68.22,H3.48,N11.37。 IRスペクトル(KBr)認められない(νO−H),2220cm−1(νC≡N),1720cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)303nm(33800),342nm(51600)。
【実施例13】
【0026】
2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸6.23g(0.025mol)と過剰の塩化チオニルからin situで合成したIにトルエン150mlを加え、 さらに2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチル−p−クレゾ−ル6.96g(0.024mol)を加えた。室温でかきまぜながらこの溶液にトリエチルアミン5.1g(0.050mol)のトルエン溶液を5〜6時間かけて滴下した。滴下後、12時間室温でかきまぜ反応させた後、1時間還流煮沸した。反応後、2〜3度温水洗してからトルエン層を減圧濃縮してトルエンの殆どを留去した。析出結晶を濾過しとり、適量のメタノ−ルで洗浄してからトルエンで再結晶して白色のVa6.61gを得た。 収率53%、融点183〜184℃。元素分析実験値(%)C68.94,H3.85,N10.90;C3021ClNに対する計算値(%)C69.16,H4.06,N10.75。 IRスペクトル(KBr)認められない(νO−H),2220cm−1(νC≡N),1740cm−1(νC=O)。 UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)308nm(37900),341nm(36100)。
【実施例14】
【0027】
実施例13におけるトルエン150mlの代わりにトルエン170mlを、2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチル−p−クレゾ−ル6.96g(0.024mol)の代わりに4−tert−ブチル−2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチルフェノ−ル7.96g(0.024mol)を用い、他は実施例13と同様にしてIを4−tert−ブチル−2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチルフェノ−ルと反応させた。反応後、2〜3度温水洗してからトルエン層を減圧濃縮してトルエンの殆どを留去した。固化した残留をn−ヘキサン−酢酸エチル(容積比3:2)を展開液とし、シリカゲルを用いるカラムクロマトグラフィ−により精製し、さらにトルエンで再結晶して白色のVb5.24gを得た。収率44%、融点191〜192℃。元素分析実験値(%)C70.09,H4.79,N10.02;C3327ClNに対する計算値(%)C70.39,H4.83,N9.95。IRスペクトル(KBr)認められない(νO−H),2220cm−1(νC≡N),1750cm−1(νC=O)。UVスペクトル(CHCl)λmax(εmax)309nm(34200),341nm(33500)。なお、Vbはトルエンによる再結晶だけで精製することは不可能であった。なお、クロマトグラフィ−には多量のシリカゲルと展開液を必要とした。
【実施例15】
【0028】
IIa〜IIi,III,IVa,IVb,VaおよびVbの100.0mgを、上部開口試験管中において加熱ブロックで200℃に5.5時間加熱し、 加熱することによるそれぞれの重量、IRスペクトルおよび色調の変化を表1に示す。なお比較のために、VI,VII,XVおよびXVIについての同様な試験結果をあわせ示す。 VIあるいはVIIについての結果はIIa〜IIiについての結果と、XVについての結果はIIIについての結果と、そしてXVIについての結果はIVa,IVb,VaおよびVbについての結果と比較するためのものである。
【表1】

【実施例16】
【0029】
アセトン−酢酸エチル(1:1重量比)混合物100gあるいはトルエン−1−ブタノ−ル(1:1重量比)混合物100gに対してのIIa〜IIhの溶解量を測定した。結果を表2に示す。なお比較のためにVIおよびXVIについての同様な試験結果をあわせ示す。なお、III,IVa,IVb,VaおよびVbについての試験はおこなっていない。これらについては塗料用溶剤に易溶であることを期待していないからである。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0030】
IIa〜IIhのλmaxをVIのそれと比較した場合に、前者のものが4〜11nm長波長部に移動している。このことは僅かではあるが特長であると言えるだろう。また、IIa〜IIhの耐蒸散性はVIあるいはVIIと比較してそれ相当に改善されていることは表1から明らかである。表2からは、IIa〜IIhの溶剤に対する溶解性に3種類の区分があることが認められた。すなわち、IIhはVIと比較してその溶解性が極端に劣っている。IIa,IIe,IIgは幾分劣っている。そしてIIb,IIc,IId,IIfはほぼ同程度である。結果として耐蒸散性では改善されており、塗料用溶剤にはVIと同程度に溶ける、すなわち期待されうるものとしてIIb,IIc,IId,IIfの4種類があげられる。すなわち、これらに産業上の利用可能性があると考えられる。また、III,IVaおよびIVbについてはポリマ−の高温加工において使用可能な紫外線吸収剤と考えられる。これらにも産業上の利用可能性がある。しかし、VaおよびVbについては空気中200℃(5.5時間)で黄褐色化するということが見出された。すなわち、XVIと比較した場合に耐蒸散性は改善されているが、熱安定性(高温安定性)は改悪されているといえる。しかし、この黄褐色化は窒素雰囲気中200℃(5.5時間)ではあまり認められなかった。また、空気中150℃(5.5時間)の加熱ではVaおよびVbになんらの変化も認められなかった。すなわち、これらは150℃以下であれば十分に使用可能である。なお、VaおよびVbの合成原料であるヒドロキシメチル基を有するベンゾトリアゾ−ル系紫外線吸収剤については特許文献8としてすでに報告されている。
【0031】
【特許文献8】特開平7−101943号公報
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の化合物IIaのUVスペクトル
【図2】本発明の化合物IIfのUVスペクトル
【図3】本発明の化合物IIiのUVスペクトル
【図4】本発明の化合物IIIのUVスペクトル
【図5】本発明の化合物IVbのUVスペクトル
【図6】本発明の化合物VaのUVスペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイルクロリド(I)とフェノ−ル類の脱塩酸縮合による2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸アリ−ル(II)の合成
【化1】

【請求項2】
IIで示される2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸アリ−ルの紫外線吸収剤としての利用
【請求項3】
2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイルクロリド(I)と2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンの脱塩酸縮合による2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェニル(III)の合成
【化2】

【請求項4】
IIIで示される2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェニルの紫外線吸収剤としての利用
【請求項5】
2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイルクロリド(I)と4−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)レゾルシノ−ル、4−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)レゾルシノ−ル、2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチル−p−クレゾ−ルあるいは4−tert−ブチル−2−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−6−ヒドロキシメチルフェノ−ルの脱塩酸縮合による2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸4−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−3−ヒドロキシフェニル(IVa)、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸4−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−3−ヒドロキシフェニル(IVb)、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル(Va)および2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸5−tert−ブチル−3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシベンジル(Vb)の合成
【化3】

【化4】

【請求項6】
IVa,IVb,VaおよびVbで示される2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸4−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−3−ヒドロキシフェニル、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸4−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−3−ヒドロキシフェニル、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジルおよび2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸5−tert−ブチル−3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−2−ヒドロキシベンジルの紫外線吸収剤としての利用

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−184463(P2008−184463A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−50541(P2007−50541)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(301000675)シプロ化成株式会社 (33)
【Fターム(参考)】