説明

2−フルオロプロピオネートの製造のための立体選択的一段階フッ素化法

本発明は、TFEDMAを使用する乳酸エステル誘導体からの2−フルオロプロピオネートの合成のための一段階法を記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キラル2−フルオロプロピオネートの立体選択的合成のための新規の方法を記載する。
【背景技術】
【0002】
キラル2−フルオロプロピオネートは、除草剤の製造についての重要な中間体である(特許文献1、特許文献2)。これらの光学活性化合物の製造について、いくつかの方法が文献に記載されている。特許文献3、特許文献4及び非特許文献1には、溶媒としてアミドを使用し光学活性2−ヒドロキシカルボン酸O−スルホナートとフッ化カリウムとを反応させることによって光学活性2−フルオロカルボン酸を製造することが記載されている。トリエチルアミン(NEt3)及びジメチルアミノピリジン(DMAP)の存在下でヒドロキシ酸とメタンスルホニルクロリドとから、キラル2−(スルホニルオキシ)カルボン酸エステルが製造された。この二段階法は多くの無駄を生じさせ、中程度の収率でしか所望の化合物を与えない。
【化1】

【0003】
別の製造方法はアミンの存在下でのフルオロスルファイトの熱分解を含む(特許文献5)。この二/三段階法は、HFなどの危険な試薬を使用し、中程度の収率でしかフルオロプロピオネートを与えない。
【化2】

【0004】
ヒドロキシプロピオネート中のヒドロキシ基は、例えばジエチルアミノ硫黄トリフルオリド(DAST;Et2N−SF3)又はDeoxofluorを使用してフッ素によって直接置換され得るが、これらの試薬は非常に高価であり、それらの有害な分解可能性のために大規模に使用することができない。
【0005】
Yarovenko又はIshikawa試薬などのFAR試薬(フルオロアルキルアミノ試薬)は、アルコール中においてフッ素によってヒドロキシル基を置換し得ることが公知である(非特許文献2;非特許文献3)。通常、キラルアルコールのフッ素化は、エナンチオマー的に純粋な化合物の商業生産のために使用されるに十分にエナンチオ選択的
ではない。
R−CF2−N(Et)2
R=CF2又はCFCl Yarovenko試薬
R=CF3−CFH Ishikawa試薬
【0006】
例えば、FARでのキラルピロリジンのフッ素化は、反転及びわずか75%ee(鏡像体過剰率)を伴って進行する:
【化3】

【0007】
アルコールのフッ素化のためのHCF2−CF2−NMe2(テトラフルオロエチルジメチルアミン又はTFEDMA)の使用が、V.Petrovによって記載された(非特許文献3;非特許文献4)。フッ素化が高いエナンチオ選択性で起こるという記載は文献にはなかった。
【0008】
Ishikawa試薬(1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピルジエチルアミン)を用いての(R)−(−)−マンデル酸エステルのフッ素化は、76%eeでエチルS−(+)−2−フルオロ−2−フェニアセテートを与えた(非特許文献5)。
【0009】
さらに、TFEDMAを用いての(S)−(+)−マンデレートなどの多くのキラル化合物のフッ素化は42〜50%の低いeeで進行することが記載されている(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO 01/068616
【特許文献2】EP 1484324
【特許文献3】DE−A 4131242
【特許文献4】EP 1 671 939
【特許文献5】FR−A 2876100
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Tetrahedron: Asymmetry 1994, 5(6), 981
【非特許文献2】J. Obsch. Khim, 1959, 29, 2159
【非特許文献3】J. Fluor. Chem. 2001, 109, 25
【非特許文献4】Advance in organic Synthesis, 2006, p.269
【非特許文献5】J.Fluorine.Chemistry, 31(1986)247-253
【非特許文献6】International Symposium on Fluorine Chemistry, Bremen 2006, Poster session, Org. 38, Petrov. et al.
【発明の概要】
【0012】
驚くべきことに、今回、TFEDMAは、反応スキーム1に従って反転及び非常に高い
ee(>95%)を伴って式(I)の乳酸エステル誘導体のエステルと反応し、式(II)のフルオロプロピオネートが得られることがわかった:
【化4】

【0013】
遊離体として式(I)の乳酸エステル誘導体を使用し、式中、
*は、R−又はS−立体配置の不斉炭素原子を示し、
**は、*で示される上記の炭素原子と比較して反転された立体配置を有する不斉炭素原子を示し、
1は、場合により置換されたC1−C4アルキルであり、
2は、場合により置換されたメチルである。
所望の生成物の単離は、蒸留によって非常に簡単である。主な副生成物(ジフルオロ酢酸のジメチルアミド)が商業的に価値があることは、注目に値する。
【0014】
従って、本発明の主題は、乳酸エステル誘導体とTFEDMAとの反応によるキラル2−フルオロプロピオネートのエナンチオ選択的合成のための方法である。
【0015】
本方法は、一般的に、反応スキーム1によって記載される。下記に、好ましい態様を開示する:
1は、好ましくは、C1−C4アルキルである。
2は、好ましくは、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C1−C4−アルコキシ、C1−C4−アルキルチオ、C1−C4−アルキルスルフィニル、C1−C4−アルキルスルホニル、(C1−C4−アルコキシ)−カルボニル、C1−C4−アルキルアミノ、ジ−(C1−C4−アルキル)アミノ、C3−C6−シクロアルキルアミノ又は(C1−C4−アルキル)C3−C6−シクロアルキルアミノからなる群より独立して選択された1つ又はそれ以上の置換基によって場合により置換されたメチルである。
【0016】
1は、特に好ましくは、メチル、エチル、n−プロピル又はi−プロピルである。
2は、特に好ましくは、塩素、臭素、ヨウ素及びフッ素より独立して選択された1つ又はそれ以上の置換基によって両方とも場合により置換されたメチル又はエチルである。
【0017】
1は、非常に特に好ましくは、メチル又はエチルである。
2は、非常に特に好ましくは、メチルである。
【0018】
従って、遊離体として乳酸メチルで出発して、本発明に従う方法は、反応スキーム(2)によって示され得る:
【化5】

【0019】
この特定の態様において、本発明に従う方法は、室温において、溶媒無しで又はCH2Cl2若しくはClCH2CH2Clなどの溶媒の存在下で、8〜20時間行われ、フルオロプロピオネートが収率70〜85%及び96〜97%eeで得られる(反応スキーム1)。
【0020】
本発明に従う方法は、好適な不活性希釈剤の存在下において行われ得る。希釈剤として最も特に考慮されるものは以下である:炭化水素、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシロール、石油エーテル、リグロイン;ハロゲン化炭化水素、例えば、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン又はジクロロベンゼン;ニトリル、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル;エーテル、例えば、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(DGM);エステル、例えば、酢酸エチル、酢酸アミル;酸アミド、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)。N−メチルピロリドン、ブチロニトリル、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジオキサン及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが、希釈剤として特に好ましい。
【0021】
本発明に従う方法は、比較的広い温度範囲内で行われ得る。反応は、好ましくは−10℃〜+80℃、特に0℃〜30℃の温度で行われる。温度を好適な範囲に維持するために、両方の遊離体の混合は、徐々に、例えば、滴下によって、場合により冷却しながら行われなければならない。
【0022】
本発明に従う方法は、一般的に標準圧力下で行われる。しかし、増加又は減少された圧力下で、一般的に、0.1bar〜50bar;好ましくは1bar〜10bar下で、本発明に従う方法を行うことも可能である。
【0023】
本発明に従う方法を行うために、一般的に、式(I)の乳酸エステル誘導体1モルに対してTFDMA0.75〜3モル、好ましくは0.8〜2モルを添加する。
【0024】
合成実施例1
(R)−メチル−2−フルオロプロピオネート
(S)−(−)−メチルラクテート10.4g(0.1mol)テトラフルオロエチルジ
メチルアミン21.75g(0.15mol)を徐々に滴下し、温度を30℃未満に維持した。次いで、反応混合物を室温で12時間撹拌した。次いで、それを氷上に注ぎ、ジクロロメタンを使用して生成物を抽出した。生成物をVigreux蒸留塔での蒸留によってさらに精製した。3つのフラクションを得た。
フラクション1 b.p.45〜50℃/15mbar、R−メチル−2−フルオロプロピオネート8.3g(83%)、98%含有率及び96%ee(Chirale GCによって測定)。エナンチオマーR 98%、エナンチオマーS 2%。
1H NMR:1.5(3H,dqw),3.8(3H,s),5.1(dqw,1H)ppm。
フラクション2 b.p.60〜65℃/15mbar、乳酸メチルエステル(遊離体(Educt))1g。
フラクション3 b.p.70〜80℃/15mbar、ジフルオロ酢酸ジメチルアミド11.3g。
【0025】
合成実施例2
(S)−メチル−2−フルオロプロピノエート
実施例1に従って合成することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(II)
【化1】

式中
**は、不斉炭素原子を示し、
1は、場合により置換されたC1−C4アルキルであり、
2は、場合により置換されたメチルである、
の化合物の製造方法であって、
テトラフルオロエチルジメチルアミンと、式(I)
【化2】

式中
*は、R−又はS−立体配置の不斉炭素原子を示し、
1及びR2は、上記に与えられる意味を有する、
の乳酸誘導体とを反応させ、
式(II)中の**で示される炭素原子は、式(I)中の*で示される対応する炭素原子と比較して反転された立体配置を有することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記反応を不活性希釈剤の存在下で行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式(I)の乳酸誘導体1モル当たりテトラフルオロエチルジメチルアミン0.75〜3モルを反応させることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
1及びR2が各々メチルを示すことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2010−507604(P2010−507604A)
【公表日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533697(P2009−533697)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【国際出願番号】PCT/EP2007/008944
【国際公開番号】WO2008/049531
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(302063961)バイエル・クロツプサイエンス・アクチエンゲゼルシヤフト (524)
【Fターム(参考)】