説明

2−[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホニルメトキシ]エチルハライドの製造方法

ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスファイトと2−ハロゲノエチルクロロメチルエーテルを、塩基の存在下反応させて、2−[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホニルメトキシ]エチルハライドを製造する方法、及び、その方法を利用した2−アミノ−6−(4−メトキシフェニルチオ)−9−[2−(ホスホノメトキシ)エチル]プリン ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エステルを製造する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、2−[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホニルメトキシ]エチルハライドの製造法に関し、詳細には抗ウイルス剤として知られるホスホナートヌクレオチド類の有用な合成中間体である前記化合物の新規な合成法に関する。
【背景技術】
ホスホナートヌクレオシドの特定のエステル誘導体は抗HBV剤として有用であり高い経口吸収性を示すことが知られている(特許文献1)。これらのエステルの中でもビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エステルが有効なものの一つである。
ホスホナートヌクレオシドのビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エステルの合成には、種々の方法が考えられるが、実用的な方法の一つとして、2−[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホニルメトキシ]エチルハライドを核酸塩基と反応させる方法が報告されている(特許文献1)。この2−[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホニルメトキシ]エチルハライドはトリス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスファイトと2−クロロエチルクロロメチルエーテルを無溶媒で、高温(160℃)条件で反応させることによって得られることが報告されている(特許文献1)。しかし、160℃に加熱することは、工業的には常圧での温水での加熱では不可能で、例えば高圧水蒸気または電気ヒーター等による熱媒の加熱等の装置が必要となり、さらには反応器もその条件に耐える設計をしなけらばならず、コスト高の要因となる。また、この反応は、有害物質であり、環境汚染物質でもある1−クロロ−2,2,2−トリフルオロエタンの発生を伴い、これを捕集する必要があり、工業的に実施する上で対応を迫られることとなる。
【特許文献1】特開平9−255695号公報
【発明の開示】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、室温に近い温度で反応することができ、1−クロロ−2,2,2−トリフルオロエタンの発生もなく、収率良く目的物である2−[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホニルメトキシ]エチルハライドを得る方法を見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の要旨は、以下に示すとおりである。
(1)ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスファイトと2−ハロゲノエチルクロロメチルエーテルを、塩基の存在下反応させて、2−[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホニルメトキシ]エチルハライドを製造する方法。
(2)2−[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホニルメトキシ]エチルハライドが、2−[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホニルメトキシ]エチルクロライドである前記(1)記載の方法。
(3)ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスファイトと2−クロロエチルクロロメチルエーテルを、塩基の存在下反応させて、2−[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホニルメトキシ]エチルクロライドを製造する工程を含む、2−アミノ−6−(4−メトキシフェニルチオ)−9−[2−(ホスホノメトキシ)エチル]プリン ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エステルを製造する方法。
(4)塩基が、水素化ナトリウム及び水素化カリウムから選ばれる前記(1)から(3)のいずれかに記載の方法。
(5)塩基が水素化ナトリウムである前記(1)から(3)のいずれかに記載の方法。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスファイトと2−ハロゲノエチルクロロメチルエーテルを、塩基の存在下反応させて、2−[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホニルメトキシ]エチルハライドを製造する方法は、下記に示すとおりである。

(ただし、Mは塩基を、Xは塩素、臭素、ヨウ素等ハロゲン原子を表す)
即ち、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスファイトを適当な溶媒中、塩基と反応させ、その塩とした後、そのまま2−ハロゲノエチルクロロメチルエーテルと反応させて、2−[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホニルメトキシ]エチルハライドを得る方法である。
上記塩基としては、金属ナトリウム、金属カリウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)等の金属類や、トリエチルアミン等のトリアルキルアミン、DBN、DBU等の有機塩基等が挙げられるが、水素化ナトリウム、水素化カリウム等が好ましく、特に水素化ナトリウムが好ましい。
反応は特に制限はされないが、−50℃〜100℃で反応することができ、特に−20℃〜50℃程度で反応するのが好ましい。
使用できる溶媒は、特に制限はないが、エチルエーテル、プロピルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、キシレン、アセトニトリル、DMF、ジクロロメタン、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
得られた目的物は、通常の分離精製方法、例えば蒸留、吸着クロマトグラム、抽出等を適宜選択して分離精製できるが、粗生成物をそのまま使用に供することもできる。
上記で得られた2−[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホニルメトキシ]エチルハライドは、特開平9−255695号に記載の抗HBV剤として有効な化合物2−アミノ−6−(4−メトキシフェニルチオ)−9−[2−(ホスホノメトキシ)エチル]プリン ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エステルの製造に利用することが可能である。2−[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホニルメトキシ]エチルハライドを製造した後の製造工程は、特開平9−255695号公報に記載の方法に準じて実施可能である。
【実施例】
以下本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその趣旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
窒素雰囲気下、水素化ナトリウム6.08g(純度換算量)(253mmol)、トルエン465mlに攪拌しながら、室温(24〜26℃)でビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスファイト59.17g(純度換算量)(240mmol)を滴下した。滴下終了後、36〜40℃で30分反応させた。その後反応液を冷却し、2℃〜5℃で2−クロロエチルクロロメチルエーテル31.04g(241mmol)を滴下した。滴下終了後、0℃〜5℃で4時間30分攪拌反応を行った。反応終了後、反応液を室温に戻し水44mlと飽和食塩水38mlを添加した。分液ロート中で混合攪拌静置しトルエン層と水層を分離した後、トルエン層を回収しエバポレーターで60mlまで濃縮した。トルエン溶液にアセトニトリル145mlとn−ヘプタン73mlを添加し分液ロート中で混合攪拌静置しアセトニトリル層とn−ヘプタン層を分離した。アセトニトリル層を回収しエバポレーターで濃縮し、純度90.13%の2−[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホニルメトキシ]エチルクロライド72.32g(純度換算収率80.0%)を取得した。
上記のようにして得られた2−[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホニルメトキシ]エチルクロライドを用いて、特開平9−255695号に記載の方法で2−アミノ−6−(4−メトキシフェニルチオ)−9−[2−(ホスホノメトキシ)エチル]プリン ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エステルを製造することができる。
産業上の利用分野
本発明によれば、医薬品の合成中間体として有用な2−[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホニルメトキシ]エチルハライドの効率の良い新規な製造方法が提供可能である。
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。
なお本出願は、2002年11月15日付で出願された日本特許出願(特願2002−332163号)に基づいており、その全体が引用により援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスファイトと2−ハロゲノエチルクロロメチルエーテルを、塩基の存在下反応させて、2−[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホニルメトキシ]エチルハライドを製造する方法。
【請求項2】
2−[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホニルメトキシ]エチルハライドが、2−[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホニルメトキシ]エチルクロライドである請求項1記載の方法。
【請求項3】
ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスファイトと2−クロロエチルクロロメチルエーテルを、塩基の存在下反応させて、2−[ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)ホスホニルメトキシ]エチルクロライドを製造する工程を含む、2−アミノ−6−(4−メトキシフェニルチオ)−9−[2−(ホスホノメトキシ)エチル]プリン ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エステルを製造する方法。
【請求項4】
塩基が、水素化ナトリウム及び水素化カリウムから選ばれる請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
塩基が水素化ナトリウムである請求項1から3のいずれかに記載の方法。

【国際公開番号】WO2004/046157
【国際公開日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【発行日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−553168(P2004−553168)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014503
【国際出願日】平成15年11月14日(2003.11.14)
【出願人】(000006725)三菱ウェルファーマ株式会社 (92)
【Fターム(参考)】