説明

2つの遺伝子の発現の観察による乳癌患者の予後診断

本発明は、乳癌を有する個体における予後と相関する2つの遺伝子、サイクリンG2及びSharp1の発現に関する。具体的には、本発明は、乳癌患者からの試料を、原発腫瘍の除去後数年における高再発リスク又は低再発リスクに層別化する方法を提供する。この分類は、2つの同定遺伝子に関するタンパク質又はmRNA発現レベルの分析によって達成できる。本発明はまた、サイクリンG2及びSharp1を、乳腺癌細胞株において同定し及びヒト患者の大規模コホートにおいて、効果的な転移予測因子として検証する方法を示す。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、核酸又はタンパク質レベルに基づく分子的方法によって、乳癌(breast cancer)の再発に有用な情報を提供する最小遺伝子シグネチャー(gene signature)に関する。
【0002】
[背景技術]
乳癌は女性において最も多く見られる癌である。米国では、8人に1人の女性が、85才までに何らかのタイプの乳癌を発症すると推測される。
【0003】
大部分の乳癌腫(breast carcinoma)の腫瘍発生メカニズムはほとんど不明であるが、一部の女性に乳癌を発症しやすくする可能性のある遺伝因子がある(Mikiら、1994年)。最近になって、BRCA1及びBRCA2の発見及び特性決定により、家族性乳癌の一因となり得る遺伝因子に関する我々の知識は広がったが、BRCA1及びBRCA2と関連するのは乳癌のわずか約5〜10%である。BRCA1は、ゲノム安定性の維持に重要であるDNA修復及び細胞周期制御に関与する腫瘍抑制遺伝子である。BRCA1と同様に、BRCA2も乳癌の発症に関与し、DNA修復の一翼を担うが、BRCA1とは異なり、卵巣癌には関与しない。他の遺伝子、例えば、c−erb−2(HER2)及びp53も乳癌と関連づけられた(Beenkenら、2001年)。c−erb−2(HER2)及びp53の過剰発現は予後不良と相関性があった。
【0004】
しかし、今日まで、乳癌と一貫して関連する臨床的に有用な他のマーカーはいずれも、散発性腫瘍、即ち、乳癌の大半を占める、既知の生殖細胞系列変異と現在のところ関連づけられていない腫瘍については確認されていない。
【0005】
臨床診療では、治療の選択肢、予後診断及び治療反応の可能性は全て、診断によって広く変わってくるので、乳癌の種々のサブタイプの正確な診断が重要である。乳癌の罹患率及び死亡率は、癌の進行の早期に検出されない場合には著しく増加するため、乳癌においては、早期診断及びリスク層別化が極めて重要である。無遠隔転移生存率の正確な診断又は判定がなされれば、腫瘍学者は補助化学療法の適用を個人に合わせてすることができ、予後のより不良な女性に最も積極的な治療を施すことができるであろう。更に、研究対象となりそうな患者を予後診断に従って層別化することができるので、予後不良の正確な予測は新しい乳癌療法の臨床試験に大きな影響を及ぼすであろう。
【0006】
典型的には、乳癌の診断には、腫瘍の存在の組織病理学的証拠が必要である。診断に加えて、組織病理学検査も、予後及び治療計画の選択に関する情報を提供する。腫瘍サイズ、腫瘍グレード、患者の年齢、及び腫瘍細胞によるリンパ節コロニー形成などの臨床パラメーターに基づいて、予後を確立する場合もある。
【0007】
診断及び/又は予後診断は、有効性の程度の差はあるが、乳房の外側の直接検査によって又はマンモグラフィー若しくは他のX線撮影方法を通して確定できる。しかし、後者のアプローチには、社会的費用及び個人的費用がかなり伴う。
【0008】
最近になって、FDAは、van’t Veerの発表された研究(van’t Veerら、2002年)に基づいて新鮮又は凍結乳癌生検材料において測定された70個超の遺伝子のcDNAのマイクロアレイ分析による、乳癌予後診断のための遺伝子発現プロファイリング検査システム、マンマプリント(MammaPrint)(登録商標)を承認した。
【0009】
この検査は医師専用であるが、やはり、DNAバイオアナライザー/マイクロアレイスキャナーなどの特殊な計測手段で実施する必要がある。結果は大病院又はこのような複雑な分析を実施する手段及び標準手順を開発した会社しか提供できないので、これは大きな欠点である。
【0010】
前記から、わずか2つの遺伝子の発現分析の予測予後値に基づく本発明の利点は、容易に理解できる。
【0011】
10個の遺伝子の同時分析は実のところアレイ技術を必要とするが、サイクリン(Cyclin)G2(CCNG2)及びSharp1(BHLHB3、BHLHE41)の発現の単純な評価にはアレイ技術は必要ない。他の側面から見ると、原発性塊(primary mass)の評価、リンパ節転移及び癌の病期診断のような、標準的な乳癌予後診断法は、現在では疾患の進行の予測に不十分である。従来の組織学的方法とこの最小シグネチャーによる腫瘍の分子的特性決定とを結びつけることにより、カノニカル基準(canonical criteria)によって中等度の侵襲(medium−aggressive)と定義される癌の場合に特に、疾患経過及び再発リスクを予測する、精巧で費用のかからない方法が可能になるであろう。
【0012】
[発明の概要]
本発明は、試料中のサイクリンG2(遺伝子ID(Gene ID)=901)遺伝子発現レベルを単独で又はSharp1(遺伝子ID=79365)遺伝子発現レベルと組み合わせて検出するステップを含む、乳癌患者の再発リスクの評価方法に関する。この検出は、前記試料中の(1つ又は複数の)遺伝子の発現に直接関与するシグナルを測定するステップと、前記シグナルを取得するステップと、乳癌患者の癌再発リスクを評価するステップとを含み、乳癌患者の癌再発リスクを評価する前記ステップを、未知試料中のサイクリンG2遺伝子発現値単独のシグネチャースコア又は好ましくはサイクリンG2及びSharp1の両遺伝子発現値のシグネチャースコアを計算することによって行い、前記シグネチャースコアは
【数1】


[式中、
サイクリンG2を単独で用いる場合にはK=1であり、サイクリンG2及びSharp1の両方を用いる場合にはK=2であり、
【数2】


は未知試料i中のサイクリンG2又はSharp1の発現レベルであり、
【数3】


はそれぞれ、病歴が知られている母集団におけるサイクリンG2及び/又はSharp1の発現レベルの推定平均値及び推定標準偏差値を表す]
と定義され、0未満のシグネチャースコアは乳癌再発リスクの増大を示す。
【0013】
検出は、分子的手段及び/又は免疫学的手段によって実施できる。この場合、分子的手段とは、PCR、マイクロアレイ分析又はノーザンブロットなどの、核酸に基づくアッセイを意味する。
【0014】
この方法は、
取得シグナルを品質管理するステップと、
シグナルを正規化するステップと、
任意選択で、取得シグナルを再スケーリングするステップと
による、シグナルの統計分析を更に含み、好ましくは、コンピューターで実行されるソフトウェアによって実施する。
【0015】
本発明は、乳癌患者からの試料においてサイクリンG2発現を単独で又はSharp1発現と組み合わせて評価し、乳癌再発リスクを測定するためのキットであって、好ましくは
サイクリンG2特異的試薬、好ましくは配列番号1に由来する13−merオリゴヌクレオチド又はその相補配列を少なくとも含むオリゴヌクレオチドに存するオリゴヌクレオチド、
Sharp1特異的試薬、好ましくは配列番号2に由来する13−merオリゴヌクレオチド又はその相補配列を少なくとも含むオリゴヌクレオチドに存するオリゴヌクレオチド、
前記方法に関して定義された計算に従って、未知試料のシグネチャースコアを計算し、未知試料を、シグネチャースコアが負の場合には最小シグネチャー低群に又はシグネチャースコアが正である場合には最小シグネチャー高群に分類するための使用説明書
を含み、最小シグネチャー低群への分類が乳癌患者の高い癌再発リスクを示すキットを更に提供する。
【0016】
好ましい一実施形態によれば、前記使用説明書はソフトウェアによって実施される。任意選択で、キットは、参照標準として、サイクリンG2及びSharp1標準発現対照高及び低を発現値又は核酸試料として更に含むことができる。前記発現値又は核酸試料は好ましくはそれぞれ、非転移性乳癌細胞株及び/又は高転移性細胞株に由来する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】変異型p53発現がTGFβプロ遊走性(pro−migratory)応答を促進することを示す図である。 (A)H1299細胞溶解物−親の、即ち、p53欠損発現(欠損)又は変異型p53(p53 R175H)のウェスタンブロット。Smad3リン酸化(P−Smad3)によって観察されるように、TGFβシグナル伝達カスケード(signaling cascade)は、いずれの細胞株においても同様に活性である。ラミンB(Lamin−B)は、添加対照(loading control)である。 (B)H1299細胞の形態に対するTGFβ(TGFβ 5ng/ml、24時間)の作用。 (C)TGFβ駆動性遊走に対する変異型p53の作用を示す、H1299細胞の創傷治癒アッセイ。写真は、培養物スクラッチの30時間後に撮影した。 (D)H1299細胞をトランスウェルメンブレン(transwell membrane)上に播種した。TGFβと示されている場合、細胞はTGFβ(4ng/ml)で処理された。グラフは、16時間後にトランスウェルを通って遊走した細胞の数を示している。p53R175Hによって再構成されたH1299細胞のみが、TGFβに応答して遊走できる能力を獲得している。
【図2】乳癌mda−mb−231細胞において、TGFβ駆動性浸潤及び転移に変異型p53が必要であることを示す図である。 (A)p53を標的とするshRNAを発現するMDA−MB−231(MDA−shp53)におけるp53タンパク質欠乏を示すウェスタンブロット。MDA shGFPは対照細胞株である。 (B)MDA−MB−231細胞株のTGFβ依存性遊走のトランスウェルアッセイ。遊走の遮断に続いて起こるSmad4欠乏によって証明されるように、この応答は、カノニカルなSmadシグナル伝達に依存する。これらの細胞においてその固有遺伝座(natural locus)から発現される内因性変異型p53が、この作用には必要である。 (C)1滴のマトリゲル中に埋め込まれたMDA−MB−231細胞の浸潤活性のアッセイ。パネルは、同一視野の異なる時点での写真を示す。点線は、マトリゲル液滴の縁端部を強調している。対照細胞のみが、マトリゲル(Matrigel)(登録商標)を回避する能力を有する(矢印)。このプロセスは、TGFβR1阻害剤SB431542(5μM)での処理によって遮断されるので、TGFβシグナル伝達に依存する。MDA shp53細胞は、基質分解及び回避についての機能が損なわれている。 (D)MDA−MB−231細胞は、マトリゲル(登録商標)中にひとたび埋め込まれると、3D培養条件において紡錘形を呈する(上部パネル)。矢頭は葉状仮足の突起を示している。逆に、MDA shp53は、接着性敷石状細胞のクラスターを形成した(下部パネル)。TGFβシグナル伝達の阻害は、変異型p53欠損の表現型効果と一致する(データは示さず)。 (E及びF)SCIDマウスの脂肪体にMDA shGFP又はMDA shp53細胞を注射した。(E)原発腫瘍の増殖速度は、2つの細胞集団間で同様であった。(F)リンパ節転移のスコアが陽性であったマウスの数。 (G、H及びI)MDA−MB−231細胞株を尾静脈に注射後の肺コロニー形成アッセイ(各細胞株のマウスのn=10、1×10細胞/マウス)。パネルは、MDA shGFP(G)又はMDA shp53(H)を注射されたマウスからの肺切片における、ヒトサイトケラチンに代表的な免疫組織化学染色を示している。(I)グラフは、対照(shGFP)及び2つの独立したMDA shp53クローン細胞株による肺実質の浸潤を数値化している。
【図3】転移性乳癌細胞における、TGFβ/変異株−p53の下流の新種の候補転移抑制因子の同定を示す図である。 (A)MDA−MB−231細胞のマイクロアレイ分析からのTGFβ標的遺伝子の概略。グラフは、MDA shGFP細胞株及びMDA shp53細胞株の両者における、TGFβによって制御される遺伝子の機能分類を示す。多くの遺伝子は、細胞浸潤、遊走及び転移(「浸潤プログラム」)に関与するタンパク質をコードする。 (B)TGFβ及び変異型p53によって同時制御される、MDA−MB−231細胞の遺伝子。表は、マイクロアレイ発現データからの、示された遺伝子に関するTGFβ誘導レベルを示している。MDA shGFP試料とMDA shp53試料との誘導倍率の差は、q値によって示されるように、統計的に有意である。 (C)MDA−MB−231におけるTGFβの変異型p53依存性標的としてのADAMTS9、Sharp1、サイクリンG2、フォリスタチン及びGPR87のノーザンブロットによる検証。(+)と示されている場合、細胞はTGFβ1で2時間処理された。GAPDHは添加対照である。 (D)MDA−MB−231細胞におけるTGFβ及び変異型p53によるSharp1及びサイクリンG2発現の制御。TGFβ1で2時間処理された又は処理されなかったMDA shGFP細胞及びMDA shp53細胞のノーザンブロット分析。GAPDHは添加対照である。いずれの遺伝子も、対照細胞ではTGFβによって下方制御されるが、変異型p53ノックダウン後は下方制御されない。 (E)Sharp1及びサイクリンG2は、遊走制御におけるTGFβ/変異型p53の重要なエフェクターである。示されたsiRNAによって一過性に形質転換されたMDA−MB−231細胞のトランスウェル遊走アッセイ。変異型p53欠損細胞中における、TGFβ駆動性遊走の障害は、Sharp1又はサイクリンG2の同時欠損によってレスキューされることができる。β−アクチンは添加対照である。
【図4】乳癌再発の有力な予測因子としての最小シグネチャーの臨床的検証を示す図である。 940個を超える腫瘍をまとめる5つの独立したデータセットのパネル上での最小シグネチャー(Sharp1+サイクリンG2)の予測力の検証(これらのデータの完全記述については表3を参照のこと)。NKIデータセット(図6を参照のこと)を別に分析した。これらの分析は、ボックスプロットグラフによって視覚化された両遺伝子の一貫した低い又は高い発現によって、腫瘍試料を2つの群に分ける。「低」(青)及び「高」(赤)はそれぞれ、最小シグネチャー低群及び最小シグネチャー高群の呼称である。 左側のKaplan−Meierグラフは、分析された乳癌データセットにおいて、最小シグネチャーに従って層別化された患者に転移がないままである、再発がないままである又は疾患がないままである可能性を示している。ログランク検定のp値は、最小シグネチャー高とより長期の生存率との有意な関連を示している。最小シグネチャー低群及び最小シグネチャー高群を生じる教師なしのクラスタリング法(unsupervised clustering method)を用いても、同様な結果が得られた(データは示さず)。 右側は、比較のための、70遺伝子シグネチャー(van’t Veerら、2002年)に従って層別化された同一腫瘍データからのKaplan−Meier生存率グラフ。
【図5】最小シグネチャーが、骨及び肺の遠隔転移リスクのいずれにも関連することを示す図である。 Kaplan−Meier曲線は、最小シグネチャーに従って層別化されたMSK試料(Minnら、2005年)の肺(左側)及び骨(右側)への転移がないままである可能性を示している。最小シグネチャーは、両器官に特異的な転移事象に関する統計的に有意な予測力を有する。
【図6】サイクリンG2発現の分析が、NKIデータセットにおける無転移生存率の予測に十分であることを示す図である。 NKIデータセット(試料数295)においては、わずか1つのサイクリンG2の発現データを用いて転移傾向に従って腫瘍を分類することができる。Sharp1発現データはNKIデータセットからは入手できないので、本発明者らは、予後良好患者の比率に基づいてサイクリンG2発現の閾値を設定した(詳細については、「実験手順」を参照のこと)。サイクリンG2に関するボックスプロット及びKaplan−Meierの無転移生存率曲線は、この閾値を用いて得られる。
【図7】最小シグネチャーが、グレード2の腫瘍を、異なる転帰を有する2つの群に分割することを示す図である。 Nottingham組織学的スケールに従って層別化されたStockholm、Uppsala及びNKIデータセットからの患者について、再発がないままである、疾患がないままである又は転移がないままである可能性を示すKaplan−Meier曲線(グレード1 点線、グレード2 バイオレット色ライン、グレード3 破線)。最小シグネチャーを適用することよって、グレード2の腫瘍(実線)を更に2つの群に分けた(赤色ライン−グレード2及び最小シグネチャー高、青色ライン−グレード2及び最小シグネチャー低)。特筆すべきは、高群及び低群がそれぞれ、グレード1又はグレード3の患者と同様な無再発生存率を示したことである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
定義及び略語
CCNG2とも称するサイクリンG2は、遺伝子ID=901(配列番号1)によって同定される。DEC2、BHLHB3、BHLHE41とも称するSharp1(塩基性ヘリックスループヘリックスドメインを含む)は、遺伝子ID=79365(配列番号2)によって同定される。
【0019】
テンプレート
最小シグネチャーのテンプレートは、病歴が知られている患者からの腫瘍試料の母集団においてサイクリンG2の単独の又は好ましくはSharp1と組み合わせた発現レベルを測定することによって得られる。
【0020】
テンプレートは、サイクリンG2及びSharp1発現基準(expression measure)の決定に使用されるそれぞれの異なるアッセイに関して計算する。
【0021】
いずれの遺伝子発現レベルを測定する場合にも、テンプレートは、
【数4】


即ち、母集団又はデータセットにおけるサイクリンG2発現レベル及び好ましくはSharp1発現レベルの平均値及び標準偏差によって表す。
【0022】
非浸潤性及び転移性乳癌を代表する2つの細胞株、BT20(ATCC#HTB−19)及びMDA−MB−436(ATCC#HTB−130)におけるサイクリンG2及びSharp1、又は他の代表的な高標準発現対照及び低標準発現対照の発現レベルを好ましくは、テンプレートの母集団値に加える。
【0023】
標準発現対照
標準発現対照とは、非浸潤性及び転移性乳癌試料又は細胞株、例えば、BT20(ATCC#HTB−19)及びMDA−MB−436(ATCC#HTB−130)におけるサイクリンG2の単独の又はSharp1と組み合わせた発現値、又は他の代表的な高い及び低いサイクリンG2の単独の又はSharp1と組み合わせた発現標準の発現値を意味する。
【0024】
シグネチャースコア(又は発現スコア)
シグネチャースコアは、テンプレートと比較した未知試料中のサイクリンG2発現値及び好ましくは更にSharp1発現値間の差を数値化する。
【0025】
シグネチャースコアは一般に、
【数5】


[式中、
サイクリンG2を単独で用いる場合にはK=1であり、サイクリンG2及びSharp1の両方を用いる場合にはK=2であり、
【数6】


は未知試料i中のサイクリンG2又はSharp1の発現レベルであり、
【数7】


はそれぞれ、病歴が知られている母集団におけるサイクリンG2及び/又はSharp1の発現レベルの推定平均値及び推定標準偏差値を表す]
と定義される。
【0026】
組み合わせて測定されるサイクリンG2及びSharp1発現については、
【数8】


=サイクリンG2及びSharp1の組合せのシグネチャースコア
[式中、
【数9】


は未知試料i中のSharp1及びサイクリンG2の発現レベルであり、
【数10】


はそのテンプレートを定義する]。
【0027】
最小シグネチャーテンプレートが、サイクリンG2単独の発現レベルを測定することによって得られる場合には、シグネチャースコアは、
【数11】


[式中、
【数12】


は未知試料i中のサイクリンG2の発現レベルであり、
【数13】


はそのテンプレートを定義する]
として計算される。
【0028】
最小シグネチャー
最小シグネチャー高は、0より高いシグネチャー(発現)スコアと定義する。
最小シグネチャー低は、0より低いシグネチャー(発現)スコアと定義する。
【0029】
再発
再発は、乳癌に関連する転移(より一般的には肺又は骨への転移)の発症又は原発性腫瘍手術から12年以内の乳癌再発と定義する。
【0030】
対照
アッセイ対照−当業者に知られている「アッセイ対照」は、アッセイが一貫した結果を生じると信頼できる根拠となる、シグナルの基準及び取得の信頼性を評価する。例えば、PCRに関する陽性「アッセイ対照」は、プライマーを使用するPCRが、期待される長さのDNA断片(fragment)の増幅をもたらすと予想される既知の核酸混合物である。
内部発現対照−この用語は一般に、ハウスキーピング遺伝子発現対照を示すのに用いる。
【0031】
[詳細な説明]
本発明は、p53の変異対立遺伝子がTGFβと協同して、そのプロ浸潤応答及び悪性腫瘍応答を持続するという実験的証拠に基づく。実際に、変異型p53発現はインビトロの浸潤及びインビボの転移拡散に必要であり、このことは、乳癌の進行におけるこれらの2つの経路間の、これまで確認されていない関連性を明らかにしている。
【0032】
変異型p53の方法でTGFβによって活性化されるプロ浸潤経路は、サイクリンG2及びSharp1遺伝子のダウンレギュレーションを伴う。これらの遺伝子のより低い発現レベルは乳癌のプロ浸潤挙動と、ひいてはより高い癌再発リスクと相関する。
【0033】
本発明は、サイクリンG2が単独で又はサイクリンG2がSharp1と一緒になって(サイクリンG2及びSharp1を以下で最小シグネチャー(MS)と称する)、より複雑な遺伝子セット予測因子に匹敵する予測力を有することを示す。この評価に関与する遺伝子は少数であるため、本発明は、一般に使用される技術及び単純なPCR装置によって実施できる。
【0034】
最小シグネチャーと乳癌再発又は転移拡散との相関が、これら2つの遺伝子の発現レベルを用いたいくつかの乳癌データセットに関する統計分析によって確認されたが、1つのデータベースでは、サイクリンG2が単独で癌再発を予測することを示した。
【0035】
この方法は、複数の、好ましくは少なくとも50〜100名の、臨床経過観察が知られている腫瘍患者又は入手可能な乳癌患者データセットから、サイクリンG2(遺伝子ID=901)の発現レベルを好ましくはSharp1(遺伝子ID=79365)の発現レベルと組み合わせて用いた、大量の最小シグネチャーテンプレートに基づく。
【0036】
本発明は、未知試料中のサイクリンG2(遺伝子ID=901)遺伝子発現レベルを単独で又はSharp1(遺伝子ID=79365)遺伝子発現レベルと組み合わせて検出するステップを含む、乳癌患者の再発リスクを評価する方法を開示する。
【0037】
本発明は好ましくは、
(a)乳癌患者からの試料中のサイクリンG2(遺伝子ID=901)の遺伝子発現レベルを、好ましくは(1つ又は複数の)Sharp1(遺伝子ID=79365)の遺伝子発現レベルと組み合わせて検出する(即ち、マーカー遺伝子発現に関するシグナルを測定及び取得する)ステップと
(b)未知試料中のサイクリンG2単独のシグネチャースコア又は好ましくはサイクリンG2及びSharp1の両方のシグネチャースコア(前記シグネチャースコアは、
【数14】


[式中、
サイクリンG2を単独で用いる場合にはK=1であり、サイクリンG2及びSharp1の両方を用いる場合にはK=2であり、
【数15】


は未知試料i中のサイクリンG2又はSharp1の発現レベルであり、
【数16】


はそれぞれ、病歴が知られている母集団におけるサイクリンG2及び/又はSharp1の発現レベルの推定平均値及び推定標準偏差値を表す]
と定義される)を計算するステップと
(c)未知試料を、当該シグネチャースコアが0より低い場合には最小シグネチャー低群に又は当該シグネチャースコアが0より高い場合には最小シグネチャー高群に分類する(低群への割り付けは高い再発リスクと相関する)ステップと
を含む、乳癌患者の「癌再発」リスクを評価するための方法を含む。
【0038】
試料は、乳癌生検材料又はリンパ節及び組織切片又は核酸、好ましくはこのような試料から単離されるmRNA若しくはcDNAであることができる。
【0039】
サイクリンG2(遺伝子ID=901)を単独で又は好ましくはSharp1と組み合わせて測定する本発明の方法の高い予測力は、これがTGFβによって制御される400個を超える遺伝子より優れたわずか2つの遺伝子のシグネチャーであること及び既に提示されているシグネチャーは全て、本発明による2つの遺伝子をいずれも含まず、乳癌再発に関するその予後診断的使用は本明細書中に初めて記載されることから、特に驚くべきことである。
【0040】
最小シグネチャーテンプレートは、臨床データ及び5〜12年の生存可能期間が知られている患者の母集団から遺伝子発現データ(即ち、サイクリンG2及び好ましくはSharp1も)を収集することよって用意する。
【0041】
未知試料中の1つ又は好ましくは2つのマーカー遺伝子の検出を好ましくは、各遺伝子の高発現レベル標準のための対照(対照高 サイクリンG2及び対照高 Sharp1)及び低発現レベル標準のための対照(対照低 サイクリンG2及び対照低 Sharp1)において、同時に同一試薬を用いて行う。
【0042】
標準発現対照高及び低はそれぞれ、既知の患者から又は非浸潤性若しくは転移性乳癌を代表する細胞株(例えば、それぞれ、BT20又はMDA−MB−436)から得ることができる。BT20(ATCC#HTB−19)及びMDA−MB−436(ATCC#HTB−130)はそれぞれ、非浸潤性及び転移性乳癌を代表する2つの異なる乳癌細胞株である。BT20は高レベルの両遺伝子を発現し、逆に、MDA−MB−436においてはSharp1及びサイクリンG2がダウンレギュレーションされる。したがって、これら2つの細胞株は、入手しやすい高(BT20)及び低(MDA−MB−436)標準発現対照を提案されている方法に提供することができる。
【0043】
更に、正規化のための少なくとも1つの内部発現対照を、同じ反応で測定する。
【0044】
内部発現対照の選択は、発現レベルの観察に使用される実験技術に左右される。発現データの正規化は、マイクロアレイを用いる場合は計算的方法(全ての遺伝子の平均発現レベルへのスケーリング又はクオンタイル正規化(quantile normalization)として)に又は核酸に基づく分子技法、即ち、PCR若しくはノーザンブロットの場合は内部対照の発現レベルに基づくことができる。この目的で、例えばPCRに一般に使用されるハウスキーピング遺伝子は、構成的に発現されるGAPDH、β−アクチンなどの中から選択される。免疫検出に基づく方法の場合には、内部対照は好ましくは、ラミンB又はGAPDH免疫活性の中から選択する。また、当業者によって知られている更なるアッセイ対照を好ましくは、ステップa)及びb)の信頼性を評価するために前記方法に含めて、アッセイが一貫した結果を生じると信頼できる根拠となる対照を提供する。例えば、PCRに関する陽性アッセイ対照は、プライマーを使用するPCRが、期待される長さのDNA断片の増幅をもたらすと予想される既知の核酸混合物である。
【0045】
サイクリンG2及び/又はSharp1遺伝子発現レベルの測定は、任意の既知の最新の方法によって、例えば、分子選択(即ち、選択的増幅又はハイブリダイゼーション)に基づく分子的手段によって及び/又は免疫学的手段によって評価する。
【0046】
分子選択(即ち、サイクリンG2及び/又はSharp1に関する配列特異的プローブ又はプライマーとの配列特異的ハイブリダイゼーションによる選択)の後、通常は、分子量に基づく、標的化及び/又は増幅されたポリヌクレオチド分子の分離ステップ、続いて数値化(例えば、デンシトメトリー又は目視検査による)、次いで任意の最新の計算法を用いるデータ正規化(例えば、線形スケーリング又は非線形正規化、及び好ましくは標準発現対照との比較による)を行う。
【0047】
好ましくは、試料値と最小シグネチャーテンプレートとの比較は、シグネチャースコアの計算によって実施する。
【0048】
しかし、より一般的には、本発明は、試料中のサイクリンG2遺伝子の発現レベルが単独で又は好ましくはSharp1遺伝子の発現レベルと組み合わさって、0より低いシグネチャースコアを明示する場合には、これが、(乳)癌再発リスクが増大した徴候を示すという定義に基づく。
【0049】
好ましくは、1つの表現型を有する個体(例えば、未知試料)を、第2の表現型を有する他の個体(例えば、最小シグネチャーテンプレート)と比較及び/又は区別するための統計分析を用いる。好ましくは、これはソフトウェアによって実施する。
【0050】
したがって、好ましい一実施形態によれば、本発明の方法は、記憶されたテンプレートを検索し、(1種又は複数の)マーカーの(1つ又は複数の)発現レベルシグナルによって試料のシグネチャースコアを数値化し、及び未知試料を高又は低最小シグネチャー群(前記のステップc)において明示された通り)に割り付ける、コンピューター上で実行されるソフトウェアによって実施されるステップb)とを含む。
【0051】
より好ましくは、取得された(前記のステップa)に従って)シグナル(発現データ)の分析は、以下の追加ステップ
アッセイ対照に基づくデータ品質管理、
遺伝子発現レベルの数値化に使用される技術による、技術によって異なるデータの正規化、
好ましくは、例えば、線形又は非線形スケーリングによる、標準発現対照に基づくデータの再スケーリング
によって実施する。
【0052】
シグナルを好適に分析後、テンプレートを検索し、試料のシグネチャースコアを計算し、未知試料を前記の最小シグネチャー高群又は低群(ステップc)で定義された通り)に割り付ける。
【0053】
シグネチャーテンプレートをコンピューター又はコンピューター可読媒体に記憶させ及びソフトウェアを予後相関シグネチャーに使用する場合には、シグネチャーテンプレートと、試料からのシグネチャースコアとを比較する。これは、言い換えれば、好適に及び好ましく分析される、試料中の2つのマーカー遺伝子のうち1つ又は両方の発現レベルを、患者からの試料又は代わりに若しくは更に、非浸潤性及び転移性乳癌を代表する細胞株からの試料を含む、予後が知られている患者からの試料のプール(即ち、通常は少なくとも50〜100個の試料から構成される、数的に好適な試料のプール)から測定された、最小シグネチャー中の同じ遺伝子の発現レベルの分布と比較することを意味する。
【0054】
次に、2つのマーカー遺伝子のうち1つ又は両方の発現レベルが0より高いシグネチャースコアを決定する場合には、未知試料を、癌再発に関して予後良好と分類する。逆に、シグネチャースコアが0より低い未知試料は、ソフトウェアによって、予後不良の患者からの試料と分類される。
【0055】
この方法は好ましくはソフトウェアによって実施するが、この実施形態に限定するものではない。実際には、高及び低発現群への割り付けは、試料の絶対的な発現シグナルを、当業者に知られた対照の存在下で目視検査することによって、並びにこれと高及び低シグネチャーテンプレート(又は前記で定義した標準発現対照)とを目視によって又は数的に比較することによっても実施できる。
【0056】
好ましくは、比較の感度を増加させるために、発現レベルに関連するシグナルを、例えば、1組の対照遺伝子の平均発現レベルなどの種々の技術を用いることによって、正規化することができる。
【0057】
種々の実施形態において、マーカー発現レベルは、1組の対照マーカーの発現レベルの平均値又は中央値によって正規化する(内部発現対照は、核酸に基づくアッセイの場合にはGAPDH又はβ−アクチン、免疫学に基づくアッセイの場合にはGAPDH及びラミンBである)。
【0058】
別の具体的な実施形態において、正規化は、マーカーレベルの標準化によって行う。発現レベルデータは任意の簡便な方法で変換できるが、好ましくは正規化及び比較の実施前に、発現シグナルを対数変換する。次いで、正規化値を、最小シグネチャーテンプレートと比較する。最小シグネチャーテンプレートは、臨床経過観察が知られている腫瘍患者の好適なプールから並びに非浸潤性及び移転性乳癌を代表する種々の乳癌細胞株(例えば、それぞれBT20及びMDA−MB−436)から同じ実験技術及びプロトコールを用いて収集された同じマーカー遺伝子の正規化及び/又は変換発現レベルからなる。
【0059】
一例として、マーカーがマイクロアレイのプローブによって表される場合には、各マーカーの発現レベルは、任意の非マーカー(即ち、非サイクリンG2及び非Sharp1)遺伝子を含むマイクロアレイ上に表される遺伝子全てにわたる発現レベルの平均値又は中央値によって正規化することができる。
【0060】
前述のように、発現レベルの測定は、任意の既知の方法によって実施でき、分子的手段は、例えば、PCR(スタンダードPCR又はリアルタイムPCR)、ノーザンブロット又はマイクロアレイ分析を含む。
【0061】
ノーザンブロットによれば、全RNA試料が、電気泳動によってサイズに応じて分離され、サイクリンG2及び/又はSharp1に特異的な標識プローブとのハイブリダイゼーションが行われる。
【0062】
PCR又はRT−PCRは、予備段階として、RNA試料からcDNAへの逆転写を含み、既知の入手可能なソフトウェアを用いる標準的な配列分析によって、例えば、Primer3(http://primer3.sourceforge.net)によって、公開されているサイクリンG2及びSharp1の配列から同定されたPCRプライマーを用いることによって実施できる。
【0063】
本発明の、PCRに基づく分子的方法に好ましいサイクリンG2及びSharp1フォワード及びリバースプライマーを、好ましい内部対照遺伝子の増幅のためのPCRプライマーも含めて、下記表に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
定量的PCR(Q−PCR)の場合には、以下の好ましいプライマーを用いる。
【表2】

【0066】
遺伝子発現分析の最も広く用いられている方法の1つは、(マイクロ)アレイによる。他の種類の発現データ測定の場合と同様に、未知試料の統計分析は、臨床経過観察が知られている乳癌患者からの好適な数(少なくとも50〜100個)の測定値を収集することによる、サイクリンG2(遺伝子ID=901)の単独の又は好ましくはSharp1(遺伝子ID=79365)と組み合わせた最小シグネチャーテンプレートの予備的評価を含む。これらのデータ、即ち、前述の最小シグネチャーテンプレートを予め定義し、関連情報を次の試料分析のためにコンピューターに記憶させることができる。
【0067】
本発明の方法を、以下の乳癌マイクロアレイデータセットにおいて検証した。
【表3】

【0068】
Sharp1及びサイクリンG2の同時発現スコアが高い又は低い値の2つの群のうち1つへの分類は、好ましくは、Sharp1及びサイクリンG2の標準化発現レベルを集計して平均値0の合計スコアを出すことによって実施する。
【0069】
腫瘍は、合計スコアが負である場合には最小シグネチャー低に分類し、合計スコアが正である場合には最小シグネチャー高に分類する。
【数17】


【数18】


前記式中、
【数19】


は、試料i中のSharp1及びサイクリンG2の発現レベルであり、
【数20】


は、データセット全体にわたって計算されたSharp1及びサイクリンG2の推定平均値及び推定標準偏差値であり、最小シグネチャーテンプレートを表す。
【0070】
NKIデータセットの場合には、試料は、方法の予後診断妥当性の最小必要要件に相当するサイクリンG2データのみに基づいて、高群及び低群に分類しなければならなかった。このデータセット(腫瘍295個)においては、わずか1つのサイクリンG2に基づく層別化が、依然として転移を予測する。
【0071】
実際に、サイクリンG2単独の発現レベルを、最小シグネチャーテンプレートの定義に用いる場合、腫瘍は、以下の計算:
【数21】


【数22】


[式中、
【数23】


は、未知試料i中のサイクリンG2の発現レベルであり、
【数24】


は、テンプレートを定義する]
に従って、サイクリンG2スコアが負の場合には最小シグネチャー低に、サイクリンG2スコアが正の場合には最小シグネチャー高に分類する。
【0072】
したがって、癌再発リスクは、最小シグネチャー低発現群について「高い」と評価される。
【0073】
前記に簡単に記載し及び2つのマーカーの検証のための実験パートでより詳細に記載する同一の分析は、任意の新しい又は異なるデータセットについて実施することができる。したがって、更なる実施形態によれば、本発明は、サイクリンG2の単独の又はSharp1と組み合わせた発現値を用いて、乳癌マイクロアレイデータセットを分析する方法に関する。
【0074】
前記方法を前記データセット全てに適用することによって、特筆すべきことに、本発明の予後診断方法が、単変量のKaplan−Meier生存率分析を用いて検定を行った場合に、「高」群に比較して再発をきたす有意に高い可能性を示す(p値は、データセットに応じて、0.02〜3E−05の範囲であった)、低レベルの最小シグネチャーを発現する群において、乳癌再発の有力な予測因子であることが証明された。
【0075】
興味深いことに、サイクリンG2及びSharp1の両発現レベルに基づく最小シグネチャーは、臨床転帰による患者の層別化において、van’t Veerらの2002年の文献に記載された70遺伝子プロファイルに遜色なく機能した。
【0076】
70個の遺伝子の代わりにわずか2つの遺伝子に基づく最小シグネチャーを用いる利点は、明らかに明白である。
【0077】
本発明の方法の更なる利点は、サイクリンG2及びSharp1の発現が、骨及び肺への遠隔転移リスクのいずれにも統計的に相関し、したがって、続発性腫瘍形成部位とは独立していることである。
【0078】
更に、この方法を実施できる最も簡単な方法は、PCRサーモサイクラー及びゲル電気泳動によるDNA分離用タンクなどの最小の装置のみを必要とするPCRであるが、本発明はこの実施形態には限定するものではなく、乳癌再発リスクの予後マーカーとしての、サイクリンG2の単独の又はSharp1と組み合わせた発現レベルの検出に適用される場合に、遺伝子発現レベルの測定に一般に使用される、全ての利用可能な方法に関係する。
【0079】
したがって、本発明の方法は、
標準的PCR技術、
リアルタイムPCR(又はTaq man若しくはSybr Green技術を用いるQ−PCR)、
他の遺伝子に特異的な配列と場合によって組み合わされるマイクロアレイ、
他の遺伝子に特異的な配列と場合によって組み合わされるディープシーケンシング(deep sequencing)(t Hoenら、2008)、
ノーザンブロット、
サイクリンG2及び/又はSharp1に対する入手可能な抗体を用いる免疫組織化学染色、
免疫ブロット
などの、遺伝子発現分析技術のうち任意の1つに基づいて、特異的mRNA又はタンパク質産物について遺伝子発現レベルを測定することができる。
【0080】
発現レベルの好ましい測定技術、定量的PCR又は逆転写mRNA PCRによれば、サイクリンG2検出試薬は、配列番号1に由来する13−merオリゴヌクレオチド又はその相補配列を少なくとも含むオリゴヌクレオチドに存するサイクリンG2特異的オリゴヌクレオチドである。
【0081】
免疫検出の場合は、好ましくは、抗サイクリンG2特異抗体を単独で又は抗Sharp1特異抗体と組み合わせて使用する。
【0082】
したがって、要約すると、Sharp1発現レベルの検出も含むこの方法の好ましい実施形態によれば、特異的検出試薬は、配列番号2に由来する13−merオリゴヌクレオチド若しくはその相補配列を少なくとも含むオリゴヌクレオチドに存するSharp1特異的オリゴヌクレオチド、又は抗Sharp1特異抗体からなる群から選択される。
【0083】
本発明の更なる実施形態は、サイクリンG2及び好ましくは更にSharp1遺伝子発現特異的検出手段、即ち、配列番号1に由来する13−merオリゴヌクレオチド又はその相補配列を少なくとも含むポリ又はオリゴヌクレオチドに存するサイクリンG2特異的オリゴヌクレオチド又はプローブ、及び好ましくは配列番号2に由来する13−merオリゴヌクレオチド又はその相補配列を少なくとも含むポリ又はオリゴヌクレオチドに存するSharp1特異的オリゴヌクレオチドを含む、乳癌患者の乳癌再発リスクの評価用キットである。
【0084】
本発明の更なる実施形態として、本発明は、乳癌患者からの試料中のサイクリンG2の単独の又はSharp1と組み合わせた発現を評価するためのキットであって、少なくともサイクリンG2特異的試薬、好ましくは配列番号1に由来する13−mer又はその相補配列を少なくとも含むオリゴヌクレオチド;好ましくは更にSharp1特異的試薬、好ましくは配列番号2に由来する13−mer又はその相補配列を少なくとも含むオリゴヌクレオチド;前記で定義された最小シグネチャー高群又は低群に未知試料測定値を割り付けるため基準を特定する、未知試料を分析するための使用説明書を含むキットに関する。好ましい一実施形態によれば、統計分析並びに発現データ(試料のシグネチャースコア)と、前記で定義された最小シグネチャーテンプレートとの比較のためのソフトウェア(最小シグネチャー低群への割り付けは乳癌患者の癌再発リスクの増大と相関する)。
【0085】
このキットは、標準発現対照としての、サイクリンG2及びSharp1発現対照高及び低(即ち、細胞株BT20及びMDA−MB−436中においてそれぞれ測定されるサイクリンG2及びSharp1発現値)及び希釈緩衝液又はアッセイ緩衝液を更に含むことができる。
【0086】
使用される遺伝子発現検出方法のそれぞれに有用な特異的試薬は、サイクリンG2及び/又はSharp1に対して特異的であれば、市販試薬であっても、オーダーメイドされてもよい。
【0087】
抗体、好ましくは精製されたポリクローナル抗体若しくはモノクローナル抗体、又はオリゴヌクレオチドは、好ましくは蛍光色素、化学発光標識又は色原体で標識でき、ポリヌクレオチドは、例えば32Pでの標識後にノーザンブロットに使用できる。
【0088】
特異抗体は、直接標識することもできるし、又は二次標識抗体を用いることによって検出することもできる。
【0089】
キットは、各試料測定値を高い若しくは低い最小シグネチャー(低い最小シグネチャーが乳癌患者の癌再発リスクの増大と相関する)に割り付けるための基準の報告に使用される使用説明書を更に含み、又は好ましくは含む。好ましくは、前記で指定した計算は、ソフトウェアで実施する。
【0090】
キットは、陰性試料及び陽性試料に存するアッセイ対照、又は内部発現対照を検出するための試薬、並びに任意選択で核酸抽出試薬を含むことができる。
【0091】
好ましい一実施形態によれば、サイクリンG2発現レベル検出のためのPCRプライマー対は、サイクリンG2(フォワード)が5’CCTCCCAGTGATCAAGAGTGC3’、サイクリンG2(リバース)が5’TCCCTCCTCCCCAAAGTAGC3’であり、Sharp1(フォワード)が5’GCATGAAACGAGACGACACC3’であり、Sharp1(リバース)が5’TCCCTCCTCCCCAAAGTAGC3’である。
【0092】
比較を行うプライマーは、既知の技術によって同定できる。
【0093】
半定量的PCR(RT−PCR)は典型的には、当業界で知られているように、内部発現対照としてGAPDH配列を用いて、試料から抽出された全RNAから精製されたポリARNAをレトロ転写する(retrotranscribing)ことによって実施する。
各遺伝子の発現レベルは、デンシトメトリー分析又は目視検査によって得られ、標準発現対照との比較を実施して、サイクリンG2単独について又はサイクリンG2とSharp1との組合せについて低発現群を定義する。
【0094】
別の実施形態によれば、キットは、特異抗体及び関連対照などの、サイクリンG2及びSharp1発現の免疫学的検出のための手段を含む。
【0095】
本発明の方法によって得られる結果は、乳癌患者の再発リスクの第1の層別化を提示する。
【0096】
前述のように、サイクリンG2及びSharp1の予後徴候は、医師にとって最も重要な指標の1つとなるが、医師は、年齢、腫瘍サイズ、腋窩リンパ節の状態、腫瘍の組織型、病理学的グレード及びホルモン受容体の状態などの、乳癌の他の既知の予後因子及び予測因子と合わせて予後評価を行わなければならない。
【0097】
実際に、実験パート、実施例6により詳細に報告するように、モデル2において、National Cancer Institute(Sotiriouら、2006年)からの腫瘍187個のデータセットについて行った、腫瘍直径、エストロゲン受容体の状態(ER 陽性対陰性)、リンパ節の状態(陽性対陰性)、腫瘍グレード(グレード2対グレード1及びグレード3対グレード1)及び治療状況(タモキシフェン有対無)を含む、臨床診療に一般に使用される他の予測因子の多変量Cox比例ハザード分析は、最小シグネチャーに関して非常に有意である(p=0.0054)(表4)。
【0098】
したがって、最小シグネチャーは、標準的な臨床的予測因子によってもたらされる以上の新しい予後情報を加える、無再発生存率の有意な予測因子となる。また、最小シグネチャーは、多変量モデルだけでなく、任意の単一の臨床的予測因子を用いて計算される任意のモデルにも、予後値を加える。実際に、単一の臨床的変数+最小シグネチャー(例えば、リンパ節の状態+最小シグネチャー)を用いて得られたモデルの残差逸脱度と、1つの臨床変数のみを用いて得られたモデルの残差逸脱度との間には、各臨床予測因子について有意差がある。
【0099】
更に、本発明の方法は、従来の予後マーカーによって、明白に不良な転帰又は明確に良好な転帰と秘密で割り付けられた、乳癌患者の50%超に相当する患者に関して、予後徴候を得るのに特に有用である。
【0100】
本方法の特に妥当な点は、この方法が、腫瘍の大部分に相当する、Nottinghamスケールによって中等度(グレード2)に分類される、予後の不確かな腫瘍(Ivshinaら、2006年)に有効に適用されることである。複数の独立したデータセットのグレード2の腫瘍に適用された場合、最小シグネチャーはグレード2の試料を、それぞれグレード1及びグレード3に相当する転帰を有する2つの群に層別化した。
【0101】
したがって、行われる分割は、Nottinghamスケールに従ってグレード2に分類される乳房腫瘍患者を、より正確に分類し及び場合によっては異なる治療カテゴリー又は臨床試験に割り付けるための層別化に適用される、本発明の方法の好ましい一実施形態である。
【実施例】
【0102】
実験パート
材料及び方法
細胞培養及びトランスフェクション
H1299、及び変異型p53 R175Hを発現するその派生細胞株は、G.Blandinoから寄贈されたものである(Stranoら、J.Biol Chem 2002年)。
【0103】
H1299非小細胞肺癌細胞は、DMEM、10%血清、1mMグルタミン中で維持した。TGFβ処理は、DMEM 0.2%血清中で行った(TGFβは、Peprotechから提供された)。p53R175H H1299細胞は、変異型p53R175H対立遺伝子に対するポナステロン誘導cDNAをコードする、安定にトランスフェクトされたプラスミドを発現する。p53発現は、細胞をポナステロン−A(Ponasterone−A)(Alexis、3mM)と共に16時間インキュベートしてから処理することによって誘導した。
【0104】
MDA−MB−231(ATCC#HTB−26)は、10%血清、2mMグルタミンを添加したDMEMとF12との1:1混合物(DMEM/F12)中で維持した。
【0105】
TGFβ処理に関しては、細胞を24時間、血清欠乏にし、次いで血清を含まないDMEM/F12中TGFβ1(5ng/ml)で処理した。
【0106】
siRNA(siは低分子干渉RNA(small interfering RNA))のトランスフェクションについては、RNAi Max試薬(Invitrogen)を用いて、dsRNAオリゴ(10ピコモル/cm)をトランスフェクトした。siRNA及びshRNA(shは、低分子ヘアピン型RNA(small hairpin RNA)又はshort hairpin RNA)の標的とされる配列のリストを、表1に示す。
【0107】
【表4】

【0108】
安定発現細胞株の作製
低分子ヘアピン型RNA(shRNA)発現コンストラクトは、アニールしたDNAオリゴヌクレオチドをpSUPER−retro−puro(OligoEngine)中でクローン化することによって作製した。プラスミドは全て、シーケンシングによって制御した。
【0109】
安定なノックダウンのために、リン酸カルシウムを用いて293gp(M.Tripodiから寄贈されたもの)中にshRNA(pSuperRetro)及びVSVエンベロープを発現させるプラスミドをトランスフェクトすることによって、レトロウイルス粒子を得た。トランスフェクションの2日後に、上精を収集し、濾過し、MDA−MB−231の感染に用いた。ピューロマイシン耐性に関して選別後、形質導入細胞を、標的タンパク質のダウンレギュレーションについて検証した。
【0110】
遊走及び浸潤アッセイ
創傷閉鎖実験(wound−closure experiments)のために、H1299細胞を6ウェルプレートに蒔き、コンフルエントまで培養した。細胞をp200チップでスクラッチし(時間0)、低血清に移し、前述のようにして処理した。
【0111】
遊走アッセイについては、トランスウェル遊走アッセイを、24ウェルPETインサート(Falcon ポアサイズ8.0mm)中で行った。MDA−MB−231に関しては、細胞を10cmのディッシュ中に蒔き、siRNAをトランスフェクトし、8時間後に、一晩、血清欠乏にした。次いで、50000又は100000個の細胞をトランスウェルインサート中に蒔き(各試料について少なくとも3つのレプリカ)、未処理のままにしておくか又はTGFβ1(5ng/ml)で処理した。H1299に関しては、細胞をトランスウェル中の10%血清中に蒔いたが、次に0.2%血清に変えた。いずれの細胞株についても、トランスウェルの上部の細胞を綿棒で除去し、遊走細胞をPFA4%中で固定し、クリスタルバイオレット(Crystal Violet)0.5%で染色した。フィルターを写真撮影し、細胞総数をカウントした。いずれの実験も、独立して少なくとも3回繰り返した。
【0112】
図2Cに示されるマトリゲル浸潤アッセイについては、MDA−MB−231及び派生細胞株を、DMEM/F12中で1:2に希釈されたマトリゲルグロースファクターレデュースト(Matrigel Growth Factor Reduced)(BD Biosciences)の液滴(100ml)中に再懸濁させた。
【0113】
インビボ転移アッセイ
マウスは、特定病原体除去(Specific Pathogen Free)(SPF)動物施設中に収容し、承認された施設内基準(University of Padova)に準拠して処理した。乳癌転移の異種移植研究については、shGFP−又はshp53−MDA−MB−231細胞(細胞数1×10/マウス)を、週齢を5〜7週に適合させたSCID雌マウスの乳腺脂肪体に一側的に注射した。6週間後、マウスを屠殺し、リンパ節転移の存在について調べた。他の器官(肝臓、肺、腹膜)への肉眼で見える転移はまれであった。注射部位における腫瘍増殖を、反復キャリパー測定によって観察した。肺コロニー形成アッセイに関しては、細胞をPBS 100ml中に再懸濁させ、SCIDマウスの尾静脈に接種した。4週間後、動物を屠殺し、その後の組織学的分析のために肺を摘出した。
【0114】
組織学及び免疫組織化学
組織学的検査のための組織を、標準的な方法によって、4%緩衝ホルマリン中で固定し、脱水し、パラフィン包埋した。
【0115】
図2G〜Iに示した実験については、肺の連続切片を、互いに150mmの間隔で切断し、最初にヘマトキシリン(Hematoxylin)及びエオシン(Eosin)(H&E)で染色し、次いでヒトサイトケラチン発現のために、抗ヒトサイトケラチン(Cytokeratin)マウスモノクローナル抗体(クローンMNF116)(Dako)で処理した。免疫組織化学染色は、間接免疫ペルオキシダーゼ染色技術(Bond Polymer Refine Detection、Vision BioSystems、UK)を用いて行った。
【0116】
本発明者らは、肺当たり5つの連続切片においてサイトケラチン陽性領域を数値化した。腫瘍細胞で覆われた領域を、切片当たり4つのオーバーラップしない視野(各切片の50〜80%をカバーする)からImageJソフトウェア(NIH)を用いて測定した。
【0117】
抗体及びウェスタンブロット法
ウェスタンブロット分析を、前述のようにして行った(Piccoloら、1999年)。簡潔に言えば、タンパク質を、10% NuPage(登録商標)ゲル(Invitrogen)中で分離し、イモビロン(Immobilon)P(登録商標)メンブレン(Millipore)に転写した。スーパーシグナルウェストピコ(Supersignal West−pico)(登録商標)及び−duraHRP基質(Pierce)を用いて、化学発光を可視化させた。抗ヒトp53 DO−1モノクローナル抗体及び抗ラミンポリクローナル抗体は、Santa Cruz Biotechnologyから購入した。抗ホスホSmad3ポリクローナル抗体はCell Signalingから購入した。
【0118】
ノーザンブロット法
6cmディッシュ中に蒔いた細胞から、トリゾール(Trizol)(Invitrogen)によって全RNAを抽出した。試料当たり10mgの全RNAを、6%ホルムアルデヒド/1%アガロースゲル中に添加して分離させ、ジーンスクリーンプラス(GeneScreenPlus)(PerkinElmer)上に上向き毛細管転写(upward capillary transfer)によってブロットし、紫外線架橋させた。メンブレンを、ULTRAhyb−Oligo溶液(Ambion)を用いて42℃において5時間プレハイブリダイズさせ、42℃において,一晩32P−標識DNAプローブとハイブリダイズさせた。メンブレンを68℃において2×SSC/0.5%SDS溶液で洗浄し、オートラジオグラフィーに暴露した。全プローブを、ランダムプライマー増幅によって得た。Sharp1、サイクリンG2及びフォリスタチンプローブテンプレートは、RZPD ESTから入手した(それぞれ、HU3_p983B0120D、HU3_p983D0140D2及びRZPD EST HU3_p983D0113D2)。GPR87及びADAMTS9プローブは、RT−PCR産物のクローニングによって得た。全てのプローブを、シーケンシングによって検証した。
【0119】
RT−PCR
ポリ(A)−RNAは、トリゾール(Invitrogen)による全RNA精製後に、M−MLV逆転写酵素(M−MLV Reverse Transcriptase)(Invitrogen)及びオリゴ−d(T)プライマーでレトロ転写した。標準的なRT−PCRの場合には、各cDNA試料2μlをPCRチューブに等分し、次いでEXTaq用マスターPCRミックス(Finnzymes)を加える。サイクル条件は、94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で60秒である(Cordenonsiら、2003年)。全てのPCRプライマーのリストを、表2に示す。
【0120】
【表5】

【0121】
DyNAmo HS SYBR Green(Finnzymes)を用いる7500Real−Time PCR System(Applied Biosystems)を使用することによって、サイクリンG2及びGAPDHに関するQ−PCRを行った。
【0122】
マイクロアレイ分析
MDA shGFP及びshp53細胞を24時間、血清欠乏にし、血清を含まないDMEM/F12中において、未処理のままにしておくか又はTGFβ1(5ng/ml、3時間)で処理した。4つの条件(非処理shGFP、TGFβ処理shGFP、非処理shp53、TGFβ処理shp53)のそれぞれについて、4つのレプリカを作製した(試料計16個)。全RNAを、メーカーの使用説明書に従ってトリゾール(Invitrogen)で抽出した。マイクロアレイハイブリダイゼーションのための試料調製は、Affymetrixジーンチップ(登録商標)発現分析技術マニュアルに記載されたようにして実施した。簡潔に言えば、全RNA15μgを用いて、二本鎖cDNA(Invitrogen)を作製した。ビオチン標識cRNAの合成は、バイオアレイTM高収量TM RNA転写標識キット(ENZO Biochem、New York、NY)を用いて行った。cRNA断片化の長さは、Agilent 2100バイオアナライザー(Bioanalyzer)(Agilent Technologies)を用いて確認した。各群について4つの生物学的mRNA複製物を、Affymetrix ジーンチップ(登録商標)ヒトゲノムHG−U133 Plus 2.0アレイ上でハイブリダイズした。
【0123】
データ分析は全て、Bioconductorライブラリー及びR統計パッケージを用いてRで行った(http://www.r−project.org./、R Development Core Team、2008年)。具体的には、BioConductorパッケージAffyQCReport及びAffyPLMを、標準Affymetrix品質管理手順に用いた。プローブレベルシグナルは、ロバストなマルチアレイ平均手順rma(Irizarryら、2003年)を用いて、発現値に変換した。RMAにおいて、PM値をバックグラウンド補正し、クオンタイル正規化を用いて正規化し、発現基準を、中央値ポリッシュ集計を用いて計算した。全アレイ中の全対数シグナルの平均標準偏差より低い標準偏差(例えば、0.2)を有するRMAデータをフィルター処理によって除去した。フィルター処理されたデータセットは、更なる分析に使用される22644個のプローブセットをもたらした。異なって発現された遺伝子を、マイクロアレイの有意性分析samr(Tusherら、2001年)を用いて同定した。SAMは、誤発見率(False Discovery Rate)(FDR)を制御しながら、マイクロアレイにおいて有意な遺伝子を検出するための統計的手法である。SAMは、データの重複順列を用いて、任意の遺伝子の発現レベルが生理的状態に有意に関連するかどうかを判定し、有意差はq値、即ち、遺伝子が「異なって発現された」とみなされる最も低い誤発見率によって数値化する(Storey、2002年)。
【0124】
TGFβ標的遺伝子の同定
発現がTGFβで改善されている遺伝子を同定するために、本発明者らはTGFβ処理MDA−MB−231細胞(shGFP又はshp53)の発現プロファイルを、それらの非処理対照と比較し、q値が≦0.1であるそれらの転写物を選択した。この選択は、TGFβ誘導倍率の下限(又は減少)を1.5に設定することによって、更に精密化した。この組合せフィルターを用いて、本発明者らは、非処理MDA−MB−231試料とTGFβ処理MDA−MB−231試料との間で異なって制御された447個の遺伝子を同定することが可能であった。異なって発現された遺伝子は、DAVID(http://david.abcc.ncifcrf.gov/)、京都遺伝子ゲノム百科事典(KEGG、http://www.genome.jp/kegg/)及びNCBI遺伝子データベース(NCBI、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=gene)に従って機能的に分類した。既知の機能と関連する292個の遺伝子のうち、147個の遺伝子が、細胞運動、浸潤プロセス及び転移に関与することが報告された。変異型p53依存的にTGFβ1によって制御される遺伝子は、shGFP中ではTGFβによる有意な制御を示すと確認されたが、p53欠乏細胞では確認されなかった(q値≦0.1、図3B参照)。得られた5個の遺伝子を、ノーザンブロット分析によって検証した。
【0125】
実施例1
TGFβへの細胞応答に対する変異型p53の作用。
本発明者らは、TGFβへの細胞応答に対する変異型p53の作用を精査しようと努めた。この目的を達成するために、本発明者らは、ホットスポットp53R175H変異対立遺伝子をコードする誘導発現ベクターによって安定的に再構成されたp53欠損H1299細胞を用いた。P−Smad3の活性化によって判断されるように、この細胞株は、親のH1299に比較して、TGFβに対して同様な応答性を保有していた(図1A)。
【0126】
p53R175Hを有するH1299細胞のTGFβ処理により、細胞はその立方上皮形状を捨て、糸状仮足突起及び葉状仮足などの多数の動的突起(dynamic protrusion)を特徴とするより間葉性の表現型を獲得するので、著しい形態変化を引き起こした(図1B)。これらは、親細胞にも野生型p53で再構成された細胞にも存在しなかった(図1B及び図示していないデータ)。変異型p53の発現が、TGFβを受容する細胞に更に遊走性を与えるかどうかを調べるために、本発明者らは創傷アッセイを用いた。創傷アッセイにおいて、細胞は、細胞間接触を破壊し、分極し、ピペット先端部でコンフルエントな培養物をスクラッチすることによって作られた傷に遊走するように誘導される。30時間のTGFβ処理後、親(p53欠損)H1299細胞は十分に遊走しなかったが、p53R175H発現細胞はほとんど完全に傷に浸潤した(図1C)。この作用を増殖のバイアスではなく細胞遊走に帰するために、本発明者らは、BrdUの取り込みを観察し、TGFβ処理対照又は変異型p53発現細胞間に差がないことを見出した(データは示さず)。独立した、細胞運動性の測定手段として、本発明者らは、トランスウェル−遊走アッセイにおいて、親世代のH1299細胞、野生型又は変異型p53再構成H1299細胞の挙動を調べた。図1Dは、変異型p53の発現はTGFβプロ遊走性応答の獲得と一致するが、野生型p53は一致しないことを示している。
【0127】
これらのデータは、変異型p53の獲得を、TGFβ誘導上皮可塑性及び遊走、発現がTGFβ浸潤性に重要な表現型に関連づけている(Gupta及びMassague、2006年)。
【0128】
実施例2
インビトロにおいて、変異型p53とTGFβとは共同で乳癌細胞の細胞形状及び浸潤性を制御する。
内在性変異型p53を有する転移癌細胞中における上皮可塑性及び遊走の増大の実際要件を明らかにするために、本発明者らは、浸潤性乳癌の確立されたモデル、MDA−MB−231細胞中で、内在性変異型p53(p53R280K)を安定的にノックダウンした(Arteagaら、1993年;Bandyopadhyayら、1999年;Deckersら、2006年;Paduaら、2008年)。細胞に、shGFP(対照)又はp53を標的とするshRNA(shp53)を発現するレトロウイルスベクターを形質導入し(表1参照)、次いで薬剤選択を行って、陽性のトランスフェクタントを集積した。免疫ブロット法によれば、shp53の発現は、変異型p53タンパク質の内在レベルを>90%減少させた(図2A)。トランスウェル−遊走アッセイにおいて、TGFβは、対照MDA−MB−231細胞において強力なプロ遊走性応答のトリガーとなった。注目すべきことに、この応答は、変異型p53欠乏細胞中では失われていた(図2B)。2つの独立した抗p53 siRNA配列を用いたp53の一過性欠乏時にも、同様な結果が得られた(データは示さず)。1滴のマトリゲル中に埋め込まれると、MDA−MB−231細胞は、TGFβ依存性の分散、細胞外基質分解及び遊走を示し(図2C及び2D)、これはインビボ浸潤性を再現している(Albini、1998年)。本発明者らは、これらの活性には変異型p53の発現が必要であることを見出した。これらのデータは、少なくともインビトロにおいて、変異型p53とTGFβとが協力して、乳癌細胞の細胞形状及び浸潤性を制御することを示唆している。
【0129】
実施例3
変異型p53発現は、インビボにおいてTGFβ応答性を効率的な転移拡散の方向に導くのに極めて重要な役割を果たす。
複数の証拠が、インビボにおけるMDA−MB−231細胞の転移拡散が、自己分泌TGFβの制御を受けていることを示している(Arteagaら、1993年;Bandyopadhyayら、1999年;Deckersら、2006年;Paduaら、2008年)。変異型p53がインビボにおいて、TGFβによって促進される悪性挙動に関連した重要性を持つかどうかを試験するために、本発明者らは、免疫不全マウスの乳腺脂肪体にshGFP−又はshp53−MDA−MB−231細胞を注射した。2つの細胞集団は、インビトロでは同様な速度で増殖し(データは示さず)、インビボでは同様な速度及びサイズで原発性腫瘍を形成した(図2E)。これは、MDA−MB−231細胞中の高レベルの変異型p53が、増殖にも原発性腫瘍形成にも必須でないことを示している。移植の6週間後に、マウスを屠殺し、転移性病変の有無を調べた。
【0130】
同所注射を行ったMDA−MB−231は、肺転移が非常に少ないが、リンパ節には効率的に転移する。転移拡散を数値化するために、本発明者らは、ヒト乳癌における全身性疾患の読み出し情報である、対側リンパ節のコロニー形成を観察した(Singletaryら、2006年)。特筆すべきことに、shGFP細胞を注射したマウスでは、リンパ節転移に関して陰性のスコアを示したのは22匹のうち1匹のみであったのに対して、shp53欠乏腫瘍を保有しているマウスでは、22匹のうち10匹において転移がないままであった(図2F)ことから、変異型p53発現の抑制は、対照細胞と比較した場合に、リンパ節転移の数を大幅に減少させた。
【0131】
変異型p53を浸潤性に関連づけるこれらの結果をインビボで裏付けるために、本発明者らは、ヌードマウスに対照及びshp53−MDA−MB−231を静脈注射した。独立した2つのクローンを用いて、本発明者らは、変異型p53の欠乏が、肺へのコロニー形成に対して顕著な影響を及ぼし、転移小結節を数及びサイズにおいて明白に減少させる(図2G〜2I)ことを見出した。このように、変異型p53発現は、TGFβ応答性を効率的な転移拡散の方向に導くのに極めて重要な役割を果たしている。
【0132】
実施例4
変異型p53及びTGFβによって同時制御される遺伝子セットの同定。
次に、本発明者らは、変異型p35及びTGFβが浸潤及び転移を制御する特異遺伝子発現プログラムを精査しようと努めた。この遺伝子セットを同定するために、本発明者らは、対照及び変異型p53欠乏MDA−MB−231細胞のTGFβトランスクリプトームプロファイルを比較した。本発明者らは、TGFβが400個を超える遺伝子を制御する可能性があることを見出した。それらの大多数は、変異型p53の存在には依存せずに発現された。
【0133】
変異型p53非依存性標的の中のいくつかは、PAI1/SERPINE1、JunB及びSmad7などの直接的なSmad標的として既に文献記載されていた(Massague及びGomis、2006年)。更に、肺又は骨特異的転移に関連する遺伝子(ANGPTL4、NEDD9、IL11及びCTGF)(Paduaら、2008年)を含めて、一般的な上皮性「TGFβ応答分類指標(response classifier)」に既に関連づけられている多くの遺伝子も発見された。これらの標的の同定の成功は、TGFβ誘導悪性腫瘍において重要な役割を果たす可能性がある新規遺伝子を同定する本発明者らの手法を検証した。興味深いことに、本発明者らは、細胞の運動、浸潤又は転移に関与していると既にみなされている147個の遺伝子に注目した(図3A及び示していないデータ)。
【0134】
しかし、TGFβは、その前転移機能(pro−metastatic function)の発揮に、変異型p53の存在を必要とする。したがって、本発明者らは、変異型p35及びTGFβによって同時制御されるはるかに小さい遺伝子セットに限定して着目した。特筆すべきことに、これに必要だったのはわずか5個の遺伝子、Sharp1/DEC2/BHLHB3/BHLHE41、サイクリンG2/CCNG2、ADAMTS9、フォリスタチン及びGPR87である(図3B及び3C参照)。特に、本発明者らは、変異型p53を介してTGFβによって負に制御される2つの候補転移抑制因子、Sharp1及びCylinG2に着目した(図3D)。Sharp1は、ID−タンパク質に類似した(即ち、MyoD阻害アッセイにおいて)阻害性の塩基性ヘリックスループヘリックスである(Liら、2003年)が、その生物学的役割はその他の点ではほとんど不明である。サイクリンG2は、非定型「阻害性」サイクリンとみなされるが、微小管細胞骨格の動態に影響を与える可能性もある。興味深いことに、サイクリンG2は、細胞分裂の間に、母中心小体(centriole)を取り囲む中心体(centrosome)との会合によって、非対称的に受け継がれる(Arachchige Donら、2006年)。
【0135】
実施例5
同定された遺伝子セットのインビトロにおける生物学的検証。
これらの遺伝子を変異型p53/TGFβ経路のエフェクターとして機能的に検証するために、本発明者らは、エピスタシス実験を行い、Sharp1又はサイクリンG2の欠乏が、p53欠乏細胞においてTGFβ誘導遊走をレスキューできるかどうかを試験した。図3Eに示されるように、Sharp1又はサイクリンG2のsiRNA媒介ノックダウンは、shp53 MDA−MB−231においてTGFβ依存性プロ遊走活性を回復させる(図3Eのレーン3及び4とレーン2とを比較)。したがって、これらの分子は、TGFβ前浸潤性応答に拮抗して、転移抑制因子として作用する。インビトロにおいて浸潤挙動に拮抗するのに必須の遺伝子を同定した後、本発明者らは、転移抑制因子としてのそれらの臨床的関連性を解明しようと努めた。ヒトの原発性腫瘍の最近のトランスクリプトームプロファイリングは、高い転移リスク及び低い無病生存率を予測する遺伝子一式又は「シグネチャー」を同定した(Fanら、2006年;van’t Veerら、2002年)。原発性腫瘍におけるSharp1及びサイクリンG2の検出が生物学的に有意義であるならば、これらの遺伝子の発現減少は臨床転帰不良と関連づけられることが予想される可能性がある。意外なことに、Sharp1及びサイクリンG2は、乳癌転移の既知のシグネチャー、即ち70遺伝子シグネチャー、再発スコアなどには含まれない(Fanら、2006年)。
【0136】
実施例6
統計分析及び他の遺伝子セットとの比較による、同定された遺伝子セットの予後値の検証。
乳癌データセット
Sharp1及びサイクリンG2の予後値を評価するために、本発明者らは6つの異なるデータセットを収集した(表3)。各データセットについて、本発明者らは、生存率分析を行い、最小シグネチャーが臨床的に異なる群に患者を分類できるかどうかを試験した。各データセットを、互いに独立して処理して、種々の研究間の最初の差(例えば、患者コホート、マイクロアレイタイプ、試料処理プロトコール)を維持した。
【0137】
Sharp1及びサイクリンG2(最小シグネチャー、MS)の予後値を評価するために、本発明者らは、利用可能な遺伝子発現データセットを利用して、900個までの原発乳癌を、生存率及び遠隔再発を含む関連臨床データと共にまとめた。
【0138】
【表6】

【0139】
本発明者らは、乳癌遺伝子発現データセットを臨床情報と共にGene Expression Omnibus(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/GEO/)、スタンフォードマイクロアレイデータベース(http://genome−www5.stanford.edu/)、又は著者の個人的ウェブページ(http://microarray−pubs.stanford.edu/wound_NKI/explore.html)からダウンロードした。
【0140】
表3は、データセット及びそれらのソースの完全なリストを表している。EMC、MSK及びNKIの研究を除き、全ての試料について生データ(例えば、CELファイル)を入手できた。全ての分析試料について詳細な臨床情報を獲得できた。データセットは、Affymetrix及びデュアルチャンネルcDNAマイクロアレイプラットフォームの両者を含んでいた。全てのAffymetrixデータは、同じHG−U133Aプラットフォームに由来するので、Affymetrixジーンチップアレイの種々の作製にわたってプローブセットをマッピングする方法は必要なかった。CELファイルを入手できる場合には、RMAアルゴリズムを用いて強度シグナルから発現値を生成し、値をバックグラウンド補正し、クオンタイル正規化を用いて正規化し、中央値ポリッシュ集計を用いて発現基準を計算した。EMC、MSK及びNKIの研究の場合は、データはダウンロードしたまま用いた。具体的には、EMC及びMSKデータセットにおいては、発現値は、Affymetrix MAS 5.0アルゴリズムを用いて計算した。Affymetrix HG−U133Aアレイにおいて、サイクリンG2は3つのプローブセット(202769_at、202770_s_at及び211559_s_at)によって表され、Sharp1はプローブセット221530_s_atのみによって表される。
【0141】
NKIデータセットに用いるAgilent、Rosetta Inpharmaticsアレイは、サイクリンG2に対しては単一のプローブを有するが、Sharp1に対してはプローブを含まない。
【0142】
最小シグネチャー分類
Sharp1及びサイクリンG2の高い又は低い同時発現スコアによって2つの試料群を同定するために、本発明者らは、Sharp1及びサイクリンG2の標準化発現レベルを集計して平均値0の合計スコアを出すことによって、分類規則を定義した。
【0143】
次に、腫瘍を、合計スコアが負である場合には最小シグネチャー低に分類し、合計スコアが正である場合には最小シグネチャー高に分類した。
【数25】


【数26】


前記式中、
【数27】


は、試料i中のSharp1及びサイクリンG2の発現レベルであり、
【数28】


は、データセット全体にわたって計算されたSharp1及びサイクリンG2の推定平均値及び推定標準偏差値である。
【0144】
Stockholm、NCI及びUppsalaの研究については、RMAから得られた発現値に基づくこの分類を適用した。一方、EMC及びMSKについては、発現値はダウンロードしたまま使用している。EMCデータセットについては、発現データは対数変換(log2−transform)してある。
【0145】
NKIデータセットについては、試料は、サイクリンG2データのみに基づいて、高群及び低群に分類しなければならなかった。
【0146】
サイクリンG2発現レベルの適切な閾値を決定するために、本発明者らは臨床パラメーターを用いて、臨床転帰良好な患者、即ち、少なくとも5年の追跡後に転移のないままであるリンパ節陰性の患者の割合を数値化した(van’t Veerら、2002年)。試料の約31%(295個の腫瘍のうち92個)がこれらの基準を満たしたので、サイクリンG2発現値の69番目のパーセンタイル(即ち、0.078)を、高群又は低群への腫瘍分類にカットオフとして用いた。所与の試料のサイクリンG2発現レベルがサイクリンG2値の69番目のパーセンタイルよりも高い場合には試料を最小シグネチャー高と称し、そうでない場合には、最小シグネチャー低と称した。この選択の背後にある論理的根拠は、患者の約31%が最小シグネチャー高に分類されると予想されたことである。
【0147】
試料はまた、目的変数なしのクラスタリング法(Pollard、2005年)を用いてSharp1及びサイクリンG2の発現レベルに基づいて、最小シグネチャー高群及び最小シグネチャー低群に分類した。
【0148】
特に、MSK及びEMCデータセットの分類にはそれぞれ、ユークリッド距離及び完全又はWard連結基準を用いる凝集型クラスタリングを用い、NCI試料にはユークリッド距離を用いる分割型クラスタリング(diana)を適用し、Stockholm及びUppsalaデータセットにk平均パーティショニングアルゴニズム(k−means partitioning algorithm)を用いた。NKI試料には、サイクリンG2についての遺伝子発現データしか入手できないので、クラスタリング法は適用しなかった。
【0149】
本発明者らは、分析するデータセット全てについて最小シグネチャー及び70遺伝子シグネチャーの成績(performance)を比較した。NKI以外の全てのデータセットはAffymetrixアレイに由来するので、本発明者らはまず、70遺伝子シグネチャーをAffymetrixプローブセットにマッピングし、次いで、48個の固有のEntrezGene IDに相当する、Affymetrix U133Aプラットフォーム中の75プローブセットへのNKIの70遺伝子予後不良シグネチャーマップを得た。シグネチャーを構成する遺伝子数のこのような減少を考慮し及び本発明者らが異なる患者分類モデルを用いた事実を踏まえて、本発明者らは、数の減少した遺伝子リストに基づいて作成された異なるモデル(即ち、目的変数なしのクラスタリング)の予後成績が、全シグネチャーに基づくvan’t Veerのモデルの予後成績と同様であるかどうかを検証した。したがって、本発明者らは、Affymetrix及びRosettaプラットフォームの両者に存在する48個の固有の遺伝子と、目的変数なしのクラスタリングに基づく分類モデルとを用いて、NKI試料を分類した。2002年にvan’t Veerらによって及び2005年にMinnらによって既に報告された成績に一致して、本発明者らは、数の減少したシグネチャーへの目的変数なしのクラスタリングの使用が、分類指標の成績にほとんど影響を与えていないことを見出した。したがって、他の全てのデータセット中の試料を、この数の減少した70遺伝子シグネチャー及び目的変数なしのクラスタリングを用いて2つの群に分類した。特に、Stockholmの研究には、Wardアルゴリズム(Ward、1963年)に基づく凝集型階層モデルを用い、Uppsala及びECMの研究はPAMアルゴニズム(Kaufman及びRousseeuw、1990年)を用いて分類した。最後に、MSKの研究に関しては、本発明者らは、Minnら(2005年)によって示された分類を用いた。
【0150】
生存率分析
最小シグネチャーの予後値を評価するために、本発明者らは、Kaplan−Meier法(Prentice、1978年)を用いて、患者が高群又は低群のいずれに属するかに従って、患者に転移がないままである(MSK及びNKI)、腫瘍再発がないままである(Stockholm及びNCI)及び癌の疾患がないままである(Uppsala)可能性を推定した。これらの研究成果を確認するために、生存率曲線を、ログランク検定又はマンテル−ヘンツェル(Mantel−Haenszel)検定(Harrington及びFleming、1982年)を用いて、即ち、最小シグネチャー高の生存率を裏付ける片側対立仮説に対比して、差のない帰無仮説を検定して、比較した。P値は、標準漸近正規分布(standard normal asymptotic distribution)に従って計算し、ボンフェローニ−ホルム(Bonferroni−Holm)の逐次多重検定法(Dudoit、2003年)に従って補正を行って、族当たりの過誤率(family−wise error rate)を制御した。合計スコアを用いて定義される最小シグネチャー高群と最小シグネチャー低群とを比較した場合、補正p値は全て、有意水準α=0.05で有意であった。クラスタリング法を用いて定義される最小シグネチャー高群及び最小シグネチャー低群について繰り返した同じ生存率分析でも同様な結果が得られ、p値は、Stockholmでは0.00026、NCIでは0.00083、EMCでは0.0251、Uppsalaでは0.0025、MSKでは0.00887であった。
【0151】
最後に、生存率分析を、高群及び低群に割り付けられた試料のサブセットに適用し、Nottinghamスケールによって中等度(グレード2)に分類した。この場合も、族当たりの過誤率をα=0.05に制御することによって、全ての帰無仮説は棄却された。NCIデータセットについては、グレード2の腫瘍の無再発生存率曲線は低分化のグレード3の腫瘍の曲線と統計的に有意差がなかったので、この分析は実施できなかった。Nottinghamスケールによる腫瘍の分類に関する情報は、MSK及びEMCデータセットにおいては有効でない。
【0152】
結論
各データセットにおいてSharp1及びCylcinG2の発現がそれぞれ高レベル及び低レベルの2つの腫瘍群を定義した(図4)後に、単変量のKaplan−Meier生存率分析を用いて検定を行った場合、特筆すべきことに、低レベルの最小シグネチャーを発現する群は、「高」群に比較して再発をきたす確率が有意に高かったことが発見された(p値は、データセットに応じて、0.02〜3E−05の範囲であった)。
【0153】
興味深いことに、臨床転帰による患者の層別化において、MSは70遺伝子プロファイルに遜色ない機能を示した(図4)。
【0154】
Sharp1及びサイクリンG2の発現は、これらのアッセイにおける最小シグネチャーの予測力に対して相乗的であり、骨及び肺への遠隔転移リスクのいずれにも関連する(図5)。それでも、Sharp1発現データが有効でない、NKIデータセット(295個の腫瘍)(Fanら、2006年)などの患者のデータセットにおいては、サイクリンG2のみに基づく層別化が、依然として転移を予測する(図6参照)。
【0155】
Cox比例ハザードモデルを用いた多変量分析
最小シグネチャーの予後値を更に評価するために、本発明者らは、National Cancer Institute(Sotiriouら、2006年)からの187個の腫瘍のデータセットについて多変量のCox比例ハザード分析を行った。特に、NCIの研究からの187個の腫瘍に関する再発リスクを、Cox比例ハザード回帰モデリング(Cox、1972年)によって調べた。
【0156】
生存率と、最小シグネチャー予測因子及び臨床診療に一般に使用される他の予測因子(腫瘍直径、エストロゲン受容体の状態(ER 陽性対陰性)、リンパ節の状態(陽性耐陰性)、腫瘍グレード(グレード2対グレード1及びグレード3対グレード1)及び治療状況(タモキシフェン有対無)を含む)との相関を具体的に調べた。
【0157】
本発明者らは、最初に臨床的変数のみを用いることによって(モデル1)、次いで最小シグネチャー予測因子を加えることによって(モデル2)、Cox比例ハザード回帰モデルに当てはめた。結果を表4及び5に示す。これらの表から、最小シグネチャーが依然として無転移生存率の有意な予測因子であり、したがって、標準的な臨床的予測因子によってもたらされる以上の新しい予後情報を加えたことが示される。
【0158】
表4 Cox比例ハザードモデルを用いた、NCIデータセットに関する再発リスクの多変量分析
モデル1において、腫瘍サイズ及びグレード2(対グレード1)の共変量は、α=0.05において統計的に有意な係数を有する。しかし、最小シグネチャーを組み込んだ場合(モデル2)、全ての他の共変量を一定に保ちながら、「低」群に割り当てると、再発ハザードが平均してe0.706=2.026倍、有意に増加し、即ち、新しい予後情報を加える。
【0159】
モデル1 臨床的変数のみを用いた多変量分析
モデル1は、n=159の観察結果を用いて得た。その残差逸脱度(即ち、−部分対数尤度×2)はRD1=492.8774に等しい。
【0160】
【表7】

【0161】
モデル2 臨床的変数及び最小シグネチャーを用いた多変量分析
モデル2は、n=159の観察結果を用いて得た。その残差逸脱度(即ち、−部分対数尤度×2)はRD2=486.8369に等しい。
【0162】
【表8】

【0163】
モデル1とモデル2とを比較して、最小シグネチャーが臨床的変数以上の追加の予後情報を加えるかどうかを評価できる。特に、これは、モデル2(RD2=486.8369)の残差逸脱度からモデル1(RD1=492.8774)の残差逸脱度を差し引き、この差(RD1−RD2=6.04043)を自由度1のχ二乗分布に対比して検定することによって、得られる。この差は自由度1のχ二乗分布の0.95クオンタイルを超える(p値=0.01398)ので、最小シグネチャーは無再発生存率の有意な予測因子であり、標準的な臨床的予測因子以上の新しい予後情報を加える。
【0164】
【表9】

【0165】
更に、最小シグネチャーは、多変量モデルだけでなく、任意の単一の臨床的予測因子を用いて作成された任意のモデルにも予後値を加える。実際、単一の臨床的変数及び最小シグネチャー(例えば、腫瘍直径+最小シグネチャー)を用いて得られたモデルの残差逸脱度と、1つの臨床的変数のみを用いて得られたモデルの残差逸脱度との差は、いずれの臨床的予測因子の場合も有意である。
【0166】
前記データから、本発明が、転移リスクを評価するための追加的な予後診断ツールを提供し、したがって、補助療法が有効な患者を特定することが確認された。
【0167】
更に、好適例は、腫瘍の大部分に相当し、予後が不確かな、Nottinghamスケールによって中程度(グレード2)に分類される腫瘍(Ivshinaら、2006年)である。複数の独立したデータセットのグレード2の腫瘍に適用する場合、最小シグネチャーはこれらの患者を、それぞれグレード1及びグレード3に相当する転帰を有する2つ群に分割した(図7)。この結果は、全ての他の、更に複雑な分子的方法によっては得られなかったものであり、したがって本発明に特有である。
【0168】
参考文献
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のサイクリンG2(遺伝子ID=901)の遺伝子発現レベルを単独で又はSharp1(遺伝子ID=79365)の遺伝子発現レベルと組み合わせて検出するステップを含む、乳癌患者の再発リスクの評価方法。
【請求項2】
前記検出が、シグナルを測定するステップと、それを取得するステップとを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
未知試料中のサイクリンG2単独のシグネチャースコア又は好ましくはサイクリンG2及びSharp1の両方のシグネチャースコアを計算するステップを更に含み、前記シグネチャースコアが
【数1】


[式中、
サイクリンG2を単独で用いる場合にはK=1であり、サイクリンG2及びSharp1の両方を用いる場合にはK=2であり、
【数2】


は未知試料i中のサイクリンG2又はSharp1の発現レベルであり、
【数3】


はそれぞれ、病歴が知られている乳癌患者母集団における、サイクリンG2発現レベルの単独の又はSharp1発現レベルと組み合わされた推定平均値及び推定標準偏差値を表す]
と定義され、0以下のシグネチャースコアが乳癌再発リスクの増大を示す、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記検出が、分子的手段及び/又は免疫学的手段によって実施される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記分子的手段が、PCR、マイクロアレイ分析、ディープシーケンシング、ノーザンブロットからなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記PCRが、リアルタイムPCR又は定量的PCRである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記試料が、乳癌生検材料又は前記乳癌生検材料から単離された核酸である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
取得シグナルを品質管理するステップと、
シグナルを正規化するステップと、
任意選択で、シグナルを再スケーリングするステップと
を更に含む、請求項2〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
i)病歴が知られている試料の母集団におけるSharp1及びサイクリンG2発現値の平均及び標準偏差
【数4】


に存する最小シグネチャーテンプレートを定義するステップと、
ii)未知試料中のサイクリンG2遺伝子発現又はサイクリンG2及びSharp1遺伝子発現に関する、請求項3に記載のシグネチャースコアを計算するステップと、
iii)計算
【数5】


【数6】


[式中、
【数7】


は未知試料中のSharp1及びサイクリンG2の発現レベルであり、
【数8】


は、病歴が知られている試料から構成されるデータセット全体にわたって計算されたSharp1及びサイクリンG2の推定平均値及び推定標準偏差値である]
に従って、未知試料を、そのシグネチャースコアが負である場合には最小シグネチャー低群に又はそのシグネチャースコアが正である場合には最小シグネチャー高群に分類するステップと
を更に含み、最小シグネチャー低群への分類が乳癌患者の高い癌再発リスクを示す、請求項3〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも
シグナルを取得するステップと、
取得シグナルを品質管理するステップと、
取得シグナルを正規化するステップと
を、コンピューターで実行されるソフトウェアによって実施する、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
請求項9に記載のステップi)〜iii)も、コンピューターで実行されるソフトウェアによって実施される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
サイクリンG2及び好ましくは更にSharp1の遺伝子発現データに関する、請求項9に記載のi)の最小シグネチャーテンプレートを計算するステップを含む、サイクリンG2及び/又はSharp1の遺伝子発現データを含む乳癌データセットの分析方法。
【請求項13】
乳癌患者の癌再発リスクの評価へのサイクリンG2(遺伝子ID=901)遺伝子発現の使用。
【請求項14】
Sharp1遺伝子発現(遺伝子ID=79365)の評価を更に含む、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
Nottinghamスケールに従って中等度(グレード2)に分類された乳房腫瘍の更なる分割のための、請求項13又は14に記載の使用。
【請求項16】
前記サイクリンG2遺伝子発現が、
i)配列番号1に由来する13−merオリゴヌクレオチド又はその相補配列を少なくとも含むオリゴヌクレオチドに存するサイクリンG2特異的オリゴヌクレオチド、
ii)抗サイクリンG2特異抗体
からなる群から選択される検出試薬によって測定される、請求項13〜15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
前記Sharp1遺伝子発現が、
i)配列番号2に由来する13−merオリゴヌクレオチド又はその相補配列を少なくとも含むオリゴヌクレオチドに存するSharp1特異的オリゴヌクレオチド、
ii)抗Sharp1特異抗体
からなる群から選択される検出試薬によって測定される、請求項14〜16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項18】
乳癌患者からの試料においてサイクリンG2発現を単独で又はSharp1発現と組み合わせて評価し、癌再発リスクを測定するためのキットであって、
サイクリンG2特異的試薬、好ましくは配列番号1に由来する13−merオリゴヌクレオチド又はその相補配列を少なくとも含むオリゴヌクレオチドに存するオリゴヌクレオチド、
Sharp1特異的試薬、好ましくは配列番号2に由来する13−merオリゴヌクレオチド又はその相補配列を少なくとも含むオリゴヌクレオチドに存するオリゴヌクレオチド、
請求項9に記載のi)〜iii)の計算に従って、未知試料のシグネチャースコアを計算し、未知試料を、シグネチャースコアが負の場合には最小シグネチャー低群に又はシグネチャースコアが正である場合には最小シグネチャー高群に分類するための使用説明書
を含み、最小シグネチャー低群への分類が、乳癌患者の高い癌再発リスクを示すキット。
【請求項19】
前記使用説明書がソフトウェアに含まれている、請求項18に記載のキット。
【請求項20】
参照標準として、サイクリンG2及びSharp1標準発現対照高及び低、発現値又は核酸試料を更に含む、請求項18又は19に記載のキット。
【請求項21】
前記発現値又は核酸試料が、非転移性乳癌細胞株及び/又は高転移性細胞株に由来する、請求項20に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−515538(P2012−515538A)
【公表日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546618(P2011−546618)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【国際出願番号】PCT/EP2009/050643
【国際公開番号】WO2010/083880
【国際公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(502035128)ユニヴァーシタ デグリ ステューディ ディ パドヴァ (2)
【Fターム(参考)】