説明

2光子吸収組成物とそれに用いる色素前駆体化合物

【課題】比較的低パワーのレーザーを用いて2光子吸収を惹起できるような高感度の2光子吸収組成物を提供する。
【解決手段】2光子吸収断面積が10GM(ただし1GM=1×10-50cm s molecule-1 photon-1)以上である2光子吸収化合物と、2光子吸収化合物の励起状態によって酸化もしくは還元され、あるいはエネルギー移動を受けて変化する機能化合物とからなる組成物であって、該2光子吸収化合物上の基と該機能化合物上の基とが、互いに水素結合を形成し得るが互いに異なる構造である2光子吸収組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は強い光のみによって励起される大きな2光子吸収断面積を有する化合物を含有する2光子吸収組成物に関する。3次元的な光の検出あるいは画像形成に用いられる光感応性の組成物に関する。また前記の2光子吸収組成物に用いられる色素前駆体化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、物質は励起エネルギーに相当するエネルギーの1光子を吸収して励起され、このエネルギーに満たないエネルギーの光子は吸収されない。しかし光の強度が非常に強い場合には、光子エネルギーの和が励起エネルギーに相当する2光子が同時に吸収されることがある。この性質を利用すると光をレンズで絞り込んだ焦点付近のみで光反応を起すことができ、空間の任意の位置を選択して励起状態を作って利用することができる。しかし2光子吸収は通常非常に起こりにくいので、2光子励起効率が高い物質が求められていた。2光子吸収の起こり易さを示す2光子吸収断面積は通常非常に小さく1GM(ただし1GM=1×10-50cm s molecule-1 photon-1)程度であるが、近年数百ないし数千GM程度の比較的大きな2光子吸収断面積を示す物質も見出されている。
2光子吸収断面積の比較的大きい化合物の例は、例えば以下の非特許文献に記載または引用されている。
しかし、その励起エネルギーを目的に応じて利用しやすくするために、種々の機能性物質を組み合わせる工夫が必要であった。
【非特許文献1】Reinhardtほか、Chemistry of Materials誌,1998年発行,10巻,1863頁.
【非特許文献2】M. Albotaほか、Science誌、1998年発行、281巻、1653頁.
【非特許文献3】M. Rumiほか、Journal of the American Chemical Society誌、2000年発行、122巻、9500頁.
【非特許文献4】J. D. Bhawalkarほか、Optics Communications誌、1996年発行、124巻、33頁.
【非特許文献5】S.G.Heほか、Appllied Physics Letters誌、1995年発行、67巻、2433頁.
【非特許文献6】P. N. Prasadほか、Nonlinear Optics誌、1999年発行、21巻、39頁.
【非特許文献7】G. S. Heほか、Journal of Applied Physics誌、1997年発行、81巻、2529頁.
【非特許文献8】S. -J. Chungほか、Journal of Physical Chemistry B 誌、1999年発行、103巻、10741頁.
【非特許文献9】S . G. Heほか、Optics Letters誌、1995年発行、20巻、435頁.
【非特許文献10】J. W. Perryほか、Nonlinear Optics誌、1999年、21巻、225頁.
【非特許文献11】稲垣由夫および秋葉雅温、レーザー研究、2003年発行、第31巻、392−396頁.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題は、比較的低パワーのレーザーを用いて2光子吸収を惹起できるような高感度の2光子吸収組成物を提供することであり、2光子吸収の結果生じる励起状態のエネルギーを発色反応などの化学反応の開始に利用しやすくするための2光子吸収組成物とそれに用いる色素前駆体化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは鋭意検討の結果、効率よく2光子吸収が起きる化合物と、その励起エネルギーを有効に利用するための機能を有する化合物を近接させて併用することが重要であることに着目し、上記の課題が下記の(1)ないし(9)によって解決されることを見出した。
【0005】
(1)2光子吸収断面積が10GM(ただし1GM=1×10-50cm s molecule-1 photon-1)以上である2光子吸収化合物と、2光子吸収化合物の励起状態によって酸化もしくは還元され、あるいはエネルギー移動を受けて変化する機能化合物とからなる組成物であって、該2光子吸収化合物上の基と該機能化合物上の基とが、互いに水素結合を形成し得るが互いに異なる構造である2光子吸収組成物。
(2)前記2光子吸収化合物と前記機能化合物がそれぞれ下記一般式(I)および一般式(II)で表わされる(I)記載の2光子吸収組成物。
一般式(I)
A−G
式中、Aは2光子吸収化合物残基を表わし、Gは一般式(II)のTと水素結合し得る基を表わし、mは1ないし4の整数を表わす。
一般式(II)
D−T
式中、Dは酸化もしくは還元を受ける、あるいは励起エネルギーを受容する機能化合物残基を表わし、Tは一般式(I)のGと水素結合を形成し得る基を表わし、nは1ないし4の整数を表わす。
(3)GとTの一方がカルボキシラート基であり、他方が−NH−(C=O)−NH−の部分構造を有する基である上記(1)または(2)に記載の2光子吸収組成物。
(4)GとTの一方が、−(C=O)−NH−(C=O)−、−(−N=C)−NH−(C=O)−、または−(−N=C)−NH−(C=N−)−なる部分構造を有する基であり、他方が−(−HN)C=NC(NH−)−、−(−HN)C=NC(OH)−、または−(HO)C=NC(OH)−で表わされる部分構造を有する基である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の2光子吸収組成物。
(5)GとTの一方が、−N=C−N=C−N=C−なる部分構造を有する基であり、他方が−(−HN)C−NH−C(NH−)−、−(−HN)C−NH−C(OH)−、または−(HO)C−NH−C(OH)−で表わされる部分構造を有する基である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の2光子吸収組成物。
(6)GとTの一方が、−NH−(C=O)−NH−の部分構造を有する基であり、他方が=N−C−N=で表わされる部分構造を有する基である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の2光子吸収組成物。
(7)GとTの一方が、−(−HN)C−NH−(C=O)−の部分構造を有する基であり、他方が−(O=C)−N=C−NH−、−N=C−N=C−NH−で表わされる部分構造を有する基である(1)〜(3)のいずれかに記載の2光子吸収組成物。
(8)GとTの一方が、−HN−(C=O)−の部分構造を有する基であり、他方が−N=C−NH−、−C=N−C−C−NH−、または前述とは異なる構造の−HN−(C=O)−で表わされる部分構造を有する基である(1)〜(3)のいずれかに記載の2光子吸収組成物。
(9)下記一般式(III)で表わされる色素前駆体化合物。
一般式(III)
D−T
式中、Dは酸化もしくは還元を受ける、あるいは励起エネルギーを受容する機能化合物残基を表わし、Tは水素結合を形成し得る基を表わし、nは1ないし4の整数を表わす。
(10)Tが、−HN−(C=O)−、−N=C−NH−、−C=N−C−C−NH−、−(−HN)C−NH−(C=O)−、−(O=C)−N=C−NH−、または−N=C−N=C−NH−で表わされる部分構造を有する基である(9)に記載の色素前駆体化合物。
(11)Dが下記一般式(IV)で表わされる化合物の残基であり、R、R、R、R、R、R、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q10、Q11、Q12の少なくとも一つとTが結合している(9)または(10)に記載の色素前駆体化合物。
一般式(IV)
【0006】
【化1】

【0007】
式中、R、R、R、R、R、Rは炭素原子数1ないし18のアルキル基を表わし、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q10、Q11、Q12はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数1ないし18のアルキル基、炭素原子数1ないし18のアルコキシ基、炭素原子数1ないし18のアシル基、炭素原子数1ないし18のアシルアミノ基、炭素原子数1ないし18のカルバモイル基、炭素原子数1ないし18のスルホンアミド基、炭素原子数1ないし18のスルファモイル基、アミノ基、炭素原子数1ないし18のアルキルアミノ基、炭素原子数6ないし18のアリールアミノ基、またはヒドロキシル基を表わし、これらの基は互いに連結して環を形成していてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の組成物および色素前駆体化合物により、2光子吸収化合物と機能化合物とを近接して配置することができ、その結果相互作用を強めることができ、2光子吸収化合物の励起状態との電子授受あるいはエネルギー移動を効率よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の2光子吸収組成物の態様を以下に詳しく述べる。
本発明の2光子吸収組成物に用いられる強い光のみに感応して機能を発揮する組成物の作動原理について説明する。物質に光が当たると通常1光子分に相当するエネルギーが吸収される。この1光子吸収が起こらない波長の光であっても、強度が非常に強い場合には光子エネルギーの和が励起エネルギーに相当する2光子が同時に吸収されることがある。2光子吸収の起こり易さを示す2光子吸収断面積は通常非常に小さく1GM(ただし1GM=1×10-50cm s molecule-1 photon-1)程度であるが、近年数百ないし数千GM程度の比較的大きな2光子吸収断面積を示す物質も見出されている。このような物質を用いると、光吸収帯が無い波長域の光でも、高パワーレーザーのように非常に強度が強い光源を用いれば2光子分のエネルギーを吸収する。例えば400nmに1光子の吸収極大波長を示し、800nmには吸収帯が無い化合物に800nmの波長の高パワーレーザーを照射することにより、400nmの光を照射した場合に生じる励起状態に近い励起状態を作ることができる。もしこの化合物を400nmの光で励起した場合に例えば430nmの蛍光を発するなら、800nmの光を吸収した場合にも430nmの蛍光を発する。さらに430nmの光を吸収して460nmの蛍光を発する化合物が共存すれば、800nmの高パワーレーザーの照射により460nmの蛍光を発する。レーザービームをレンズで絞って照射すれば、光路全体が発光するのではなく、光子密度の高い焦点付近でのみ蛍光を発するという、三次元的な位置選択制を付与できるという特徴がある。蛍光を発する化合物の代わりに重合開始剤と重合性モノマーもしくは重合性オリゴマーを混合して用いれば、焦点付近でのみ重合を起こすことができるので、任意の形状の固形重合体を作ることができる。また絞ったレーザービームの強度はビームの中心から離れるにしたがって低下するので、2光子励起を起こすに足る光強度を有する部分はビーム径よりも小さく、およそ1/√2倍、すなわち約0.7倍になる。したがって光の波長で決まるビーム径の最小値よりも微細な領域のみを励起することができるという利点を有する。本発明の組成物はこのように機能を発揮する。
【0010】
しかし本発明の目的に適合し得るほどに、しかもバインダーや支持体などの共存物の2光子吸収よりも効率よく2光子吸収が起きるためには2光子吸収断面積は、便宜上GM(Goeppert−Mayers単位すなわち、1×10-50cm s molecule-1 photon-1)を単位として表すと、100GM以上あることが望ましく、さらに好ましくは1,000GM以上、特に好ましくは100,000GMないし1,000,000,000GMである。
【0011】
本発明に用いられる2光子吸収化合物残基Aが導かれる2光子吸収化合物の例としては上記従来の技術に引用した文献に記載されたものの他、下記一般式(V)ないし(VI)で表される化合物が挙げられる。
一般式(V)
【0012】
【化2】

【0013】
式中、Lはメチン基またはハロゲン原子、炭素原子数1ないし18のアルキル基、炭素原子数1ないし18のアルコキシ基、炭素原子数6ないし18のアリール基で置換されていてもよいメチン基、メチレン基またはハロゲン原子、炭素原子数1ないし18のアルキル基、炭素原子数1ないし18のアルコキシ基、炭素原子数6ないし18のアリール基で置換されていてもよいメチレン基を表わし、iは1ないし4の整数を表わし、Rk1、Rk2はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1ないし18のアルキル基、または炭素原子数6ないし18のアリール基を表わし、Rk3、Rk4、Rk5はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1ないし18のアルキル基、または炭素原子数6ないし18のアリール基を表わし、jは0ないし3の整数を表わし、Rk6、Rk7はそれぞれ独立に炭素原子数1ないし18のアルキル基または炭素原子数6ないし18のアリール基を表わし、これらの基はさらに置換基(カルボキシル基等)を有していてもよく、Rk6、Rk7は互いにまたはRk8等他の基と連結して環を形成してもよい。
k8、Rk9、Rk10、Rk11はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数1ないし18のアルキル基、炭素原子数1ないし18のアルコキシ基、炭素原子数1ないし18のアシル基、炭素原子数1ないし18のアシルアミノ基、炭素原子数1ないし18のカルバモイル基、炭素原子数1ないし18のスルホンアミド基、炭素原子数1ないし18のスルファモイル基、アミノ基、炭素原子数1ないし18のアルキルアミノ基、炭素原子数6ないし18のアリールアミノ基、ヒドロキシル基を表わし、これらの基は互いに連結して環を形成していてもよい。
一般式(VI)
【0014】
【化3】

【0015】
式中、L、i、j、Rk3、Rk4、Rk5、Rk6、Rk7、Rk8、Rk9、Rk10、Rk11は一般式(V)における定義と同義の基を表わす。
【0016】
以下に一般式(V)で表わされる2光子吸化合物の具体例を挙げるが、本発明の範囲はこれらのみにて限定されるものではない。
【0017】
【化4】

【0018】
【化5】

【0019】
以下に一般式(VI)で表わされる2光子吸化合物の具体例を挙げるが、本発明の範囲はこれらのみにて限定されるものではない。
【0020】
【化6】

【0021】
【化7】

【0022】
上記(1)の組成物において、2光子吸収化合物と機能化合物の組み合わせとして好ましい態様においては、該2光子吸収化合物と該機能化合物はそれぞれ下記一般式(I)および一般式(II)で表わされる。
一般式(I)
A−G
式中、Aは2光子吸収化合物残基を表わし、Gは一般式(II)のTと水素結合し得る基を表わし、mは1ないし4の整数を表わす。
一般式(II)
D−T
式中、Dは酸化もしくは還元を受ける、あるいは励起エネルギーを受容する機能化合物残基を表わし、Tは一般式(I)のGと水素結合を形成し得る基を表わし、nは1ないし4の整数を表わす。
【0023】
2光子吸収断面積の大きい化合物は2光子励起状態になりやすいが、その励起エネルギーを目的に応じて利用しやすくする工夫が必要である。例えば2光子励起により発色反応を開始しようとする場合に、2光子吸収断面積の大きな化合物が励起されてできる励起状態が発色反応の開始に有効に結び付けられなければ、発色効率が低くなってしまう。そこで2光子吸収断面積の大きな化合物と発色化合物を近接させることが有効であろうと考えられる。しかし、2光子吸収化合物と発色化合物とを共有結合で連結することは、合成工程および精製工程が複雑となり、産業上の応用には経済的に好ましくない。したがって本発明の組成物の好ましい態様において、種々の変色化合物を2光子吸収断面積の大きな化合物と組み合わせて用いるに際し、互いに強固な水素結合を形成するように置換基GおよびTを選択することにより、両者を混合しただけで近接させることが可能である。
【0024】
このような目的に適合したGとTの組み合わせとしては種々のものが可能であり、いわゆる相補的水素結合を形成する基の組み合わせや多重の水素結合が並行して形成されるような構造の基の組み合わせが好ましい。強固な水素結合を形成しうる基の組み合わせの例としては、DNAの2本鎖形成の原動力となる核酸塩基同士の水素結合や、それと類似した構造のヘテロ環化合物同士の水素結合のほか、例えばSteven C. Zimmerman and Perry S. Corbin, Structure and Bonding, Vol. 96, 63-94 (2000), Springer Verlag, Berlin and Heidelberg,などに記載された基の組み合わせが知られている。水素結合を形成しているか否かは後記実施例に記載のようにNMRスペクトルの変化から確認できる。
【0025】
GとTの好ましい組み合わせとしては、以下のものが挙げられる。
(1)GとTの一方がカルボキシラート基(−R−COOで表され、Rはアルキレン基等を表す)であり、他方が−NH−(C=O)−NH−の部分構造を有する基である組み合わせ。
(2)GとTの一方が、−(C=O)−NH−(C=O)−、−(−N=C)−NH−(C=O)−、または−(−N=C)−NH−(C=N−)−なる部分構造を有する基であり、他方が−(−HN)C=NC(NH−)−、−(−HN)C=NC(OH)−、または−(HO)C=NC(OH)−で表わされる部分構造を有する基である組み合わせ。
(3)GとTの一方が、−N=C−N=C−N=C−なる部分構造を有する基であり、他方が−(−HN)C−NH−C(NH−)−、−(−HN)C−NH−C(OH)−、または−(HO)C−NH−C(OH)−で表わされる部分構造を有する基である組み合わせ。
(4)GとTの一方が、−NH−(C=O)−NH−の部分構造を有する基であり、他方が=N−C−N=で表わされる部分構造を有する基である組み合わせ。
(5)GとTの一方が、−(−HN)C−NH−(C=O)−の部分構造を有する基であり、他方が−(O=C)−N=C−NH−、−N=C−N=C−NH−で表わされる部分構造を有する基である組み合わせ。この中には一般式(VII)のRh21、Rh22、Rh23もしくはRh24でDまたはAと連結しているグアニンが含まれるが、なかでもRh21で連結しているものが望ましい。また、この中には一般式(VIII)のRh31、Rh32、もしくはRh33でDまたはAと連結しているグアニンが含まれるが、なかでもRh31で連結しているものが望ましい。また、これらはDまたはA上の置換基上に置換していても良い。
【0026】
【化8】

【0027】
(6)GとTの一方が、−HN−(C=O)−の部分構造を有する基であり、他方が−N=C−NH−、−C=N−C−C−NH−、または前述とは異なる構造の−HN−(C=O)−で表わされる部分構造を有する基である組み合わせ。この中には一般式(IX)のRh41、Rh42、もしくはRh43でDまたはAと連結しているウラシルが含まれるが、なかでもRh41で連結しているものが望ましい。また、この中には一般式(X)のRh51、Rh52、もしくはRh53でDまたはAと連結しているチミンが含まれるが、なかでもRh51で連結しているものが望ましい。また、この中には一般式(XI)のRh61、Rh62、Rh63もしくはRh64でDまたはAと連結しているアデニンが含まれるが、なかでもRh61で連結しているものが望ましい。また、これらはDまたはA上の置換基上に置換していても良い。
【0028】
【化9】

【0029】
以下にGとTの組み合わせの例を挙げるが、本発明の範囲はこれらのみに限定されるものではない。
【0030】
【化10】

【0031】
【化11】

【0032】
【化12】

【0033】
【化13】

【0034】
次に本発明の2光子吸収化合物の励起状態によって酸化もしくは還元され、あるいはエネルギー移動を受けて変化する機能化合物について説明する。このような機能化合物の例としては、例えば、特開2000−352770号公報に記載されている。この他、下記一般式(XII)で表わされる化合物も有用である。
一般式(XII)
【0035】
【化14】

【0036】
式中、R、R、R、R、R、Rは炭素原子数1ないし18のアルキル基を表わし、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q10、Q11、Q12はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数1ないし18のアルキル基、炭素原子数1ないし18のアルコキシ基、炭素原子数1ないし18のアシル基、炭素原子数1ないし18のアシルアミノ基、炭素原子数1ないし18のカルバモイル基、炭素原子数1ないし18のスルホンアミド基、炭素原子数1ないし18のスルファモイル基、アミノ基、炭素原子数1ないし18のアルキルアミノ基、炭素原子数6ないし18のアリールアミノ基、ヒドロキシル基を表わし、これらの基は互いに連結して環を形成していてもよい。
【0037】
一般式(XII)で表わされる化合物のうち好ましいものにおいては、R、R、R、R、R、Rは炭素原子数1ないし4のアルキル基であり、さらに置換基を有していてもよく、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q10、Q11、Q12はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1ないし8のアルキル基、炭素原子数1ないし8のアルコキシ基、炭素原子数1ないし8のアシル基、炭素原子数1ないし8のアシルアミノ基、炭素原子数1ないし8のスルホンアミド基を表わし、RとR、RとR、RとR、RとQ、RとQ、RとQ、RとQ、RとQ、RとQ12、QとQ、QとQ、QとQ、QとQ、QとQ10、Q11とQ12は互いに連結して環を形成してもよい。
【0038】
以下に一般式(XII)で表わされる化合物等の機能化合物の具体例を示すが、本発明の範囲はこれらのみにて限定されるものではない。
【0039】
【化15】

【0040】
【化16】

【0041】
次に、2光子吸収化合物の励起状態によって酸化もしくは還元され、あるいはエネルギー移動を受けて変化する機能化合物であって、該2光子吸収化合物上の基と該機能化合物上の基とが、互いに水素結合を形成し得るが互いに異なる構造であることを特徴とする2光子吸収組成物を形成する色素前駆体化合物について説明する。その構造は
一般式(III)
D−T
で表されるが、式中、Dは酸化もしくは還元を受ける、あるいは励起エネルギーを受容する機能化合物残基を表わし、Tは水素結合を形成し得る基を表わし、nは1ないし4の整数を表わす。
【0042】
一般式(III)中のDを形成する化合物の例としては、例えば、特開2000−352770号公報に記載されている。この他の好ましいものとして、下記一般式(IV)で表わされる化合物が挙げられる。
一般式(III)で表わされる化合物の好ましい例においては、Dが下記一般式(IV)で表わされる化合物の残基であり、R、R、R、R、R、R、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q10、Q11、Q12の少なくとも一つとTが結合している。
一般式(IV)
【0043】
【化17】

【0044】
式中、R、R、R、R、R、Rは炭素原子数1ないし18のアルキル基を表わし、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q10、Q11、Q12はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数1ないし18のアルキル基、炭素原子数1ないし18のアルコキシ基、炭素原子数1ないし18のアシル基、炭素原子数1ないし18のアシルアミノ基、炭素原子数1ないし18のカルバモイル基、炭素原子数1ないし18のスルホンアミド基、炭素原子数1ないし18のスルファモイル基、アミノ基、炭素原子数1ないし18のアルキルアミノ基、炭素原子数6ないし18のアリールアミノ基、ヒドロキシル基を表わし、これらの基は互いに連結して環を形成していてもよい。
【0045】
一般式(IV)で表わされる化合物のうち好ましいものにおいては、R、R、R、R、R、Rは炭素原子数1ないし4のアルキル基であり、さらに置換基を有していてもよく、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q10、Q11、Q12はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1ないし8のアルキル基、炭素原子数1ないし8のアルコキシ基、炭素原子数1ないし8のアシル基、炭素原子数1ないし8のアシルアミノ基、炭素原子数1ないし8のスルホンアミド基を表わし、RとR、RとR、RとR 、RとQ、RとQ、RとQ、RとQ、RとQ、RとQ12、QとQ、QとQ、QとQ、QとQ、QとQ10、Q11とQ12は互いに連結して環を形成してもよい。
【0046】
としては種々のものが可能であり、いわゆる相補的水素結合を形成する基の組み合わせや多重の水素結合が並行して形成されるような構造の基の組み合わせが好ましい。強固な水素結合を形成しうる基の組み合わせの例としては、DNAの2本鎖形成の原動力となる核酸塩基同士の水素結合や、それと類似した構造のヘテロ環化合物同士の水素結合のほか、例えばSte ven C. Zimmerman and Perry S. Corbin, Structure and Bonding, Vol. 96, 63-94 (2000), Springer Verlag, Berlin and Heidelberg,などに記載された基の組み合わせが知られている。水素結合を形成しているか否かは後記実施例に記載のようにNMRスペクトルの変化から確認できる。
【0047】
以下に一般式(III)で表わされる化合物等の機能化合物の具体例を示すが、本発明の範囲はこれらのみにて限定されるものではない。
【0048】
【化18】

【0049】
【化19】

【0050】
以下に本発明の組成物における2光子吸収化合物と機能化合物の組み合わせの例を示すが、本発明の範囲はこれらのみにて限定されるものではない。
【0051】
【化20】

【0052】
【化21】

【0053】
【化22】

【0054】
【化23】

【0055】
【化24】

【0056】
【化25】

【0057】
【化26】

【0058】
以下に本発明の水素結合基を有する2光子吸収化合物と機能化合物の合成法について具体例を挙げて説明する。
【0059】
トリフェニルメタン系発色化合物の合成例
化合物M1−Aの合成
【0060】
【化27】

【0061】
アミン[1]830mg(2mmol)をTHF4mlに溶かした溶液にPhNCO 360mg(3mmol)をTHF8mlに溶かした溶液を加え、CaCl管を取り付けて5時間室温で攪拌した。MeOH10ml添加後に溶媒を減圧留去し、得られた混合物をカラムクロマトグラフィー(NHシリカ、EtOAc:Hex=1:1)で精製したところ、尿素部位を持つロイコ色素M1−Aが淡青色固体として1.10g(2.05mmol、quant.)得られた。
M1−A:H NMR (300 MHz, CDCl) d 1.08 (t, J = 7 Hz, 3H), 2.90 (s, 12H), 3.32 (q, J = 7 Hz, 2H), 3.39-3.41 (m, 4H), 4.89 (br, 1H), 5.26 (s, 1H), 6.38 (brs, 1H), 6.64 (d, J = 9 Hz, 2H), 6.65 (d, J = 9 Hz, 4H), 6.97(d, J = 9 Hz, 2H), 6.99 (d, J = 9 Hz, 4H), 7.02-7.08 (m, 1H), 7.16-7.28(m, 4H)。 MALDI-TOFMS (pos) m/z 534 ([M- H])。
(2)化合物M2−A、M3−A、M4−A、M8−A、M9−A、M10−Aの合成。
上記M1―Aとほぼ同様にして、化合物M2−A、M3−A、M4−A、M8−A、M9−A、M10−Aを合成した。
M2−A:H NMR (300 MHz, CDCl) d 1.12 (t, J = 7 Hz, 12H), 1.70-1.79 (m, 2H), 2.80 (s, 3H), 3.26-3.33 (m, 12H), 4.93 (br, 1H), 5.23 (s, 1H), 6.32 (brs, 1H), 6.58 (d, J = 9 Hz, 4H), 6.59 (d, J = 9 Hz, 2H), 6.96 (d, J = 9 Hz, 4H), 6.99 (d, J = 9 Hz, 2H), 7.01-7.10 (m, 1H), 7.18-7.36 (m, 4H)。 MALDI-TOFMS (pos) m/z 590 ([M- H])。
M3−A:H NMR (400 MHz, CDCl) d 1.09 (t, J = 7 Hz, 3H), 2.90 (s, 12H), 3.32 (q, J = 7 Hz, 2H), 3.38-3.42 (m, 4H), 4.81 (br, 1H), 5.26 (s, 1H), 6.06 (brs, 1H), 6.63 (d, J = 9 Hz, 2H), 6.65 (d, J = 9 Hz, 4H), 6.96(d, J = 9 Hz, 2H), 6.98 (d, J = 9 Hz, 4H), 7.34 (s, 2H)。 MALDI-TOFMS (pos) m/z 636 ([M- H])。
M4−A:H NMR (400 MHz, CDCl) d 1.06 (t, J = 7 Hz, 3H), 2.88 (s, 12H), 3.27 (q, J = 7 Hz, 2H), 3.27-3.30 (m, 4H), 5.18 (br, 1H), 5.24 (s, 1H), 6.62 (d, J = 9 Hz, 2H), 6.63 (d, J = 9 Hz, 4H), 6.91 (dd, J = 9, 3 Hz, 1H), 6.97 (d, J = 9 Hz, 4H), 6.98 (d, J = 9 Hz, 2H), 7.12 (brs, 1H), 7.17 (d, J = 9 Hz, 1H), 7.37 (d, J = 3 Hz, 1H)。 MALDI-TOFMS (pos) m/z 602 ([M- H])。
M8−A:H NMR (400 MHz, CDCl) d 1.08 (t, J = 7 Hz, 3H), 2.89 (s, 12H), 3.30 (q, J = 7 Hz, 2H), 3.32-3.36 (m, 4H), 5.00 (br, 1H), 5.25 (s, 1H), 6.64 (d, J = 9 Hz, 2H), 6.65 (d, J = 9 Hz, 4H), 6.74 (brs, 1H), 6.98(d+d, J = 9 Hz, 4+2H), 7.09 (d, J = 9 Hz, 2H), 7.15 (d, J = 9 Hz, 2H)。 MALDI-TOFMS (pos) m/z 568 ([M- H])。
M9−A:H NMR (400 MHz, CDCl) d 1.12 (t, J = 7 Hz, 3H), 2.90 (s, 12H), 3.35 (q, J = 7 Hz, 2H), 3.43-3.47 (m, 4H), 4.96 (br, 1H), 5.26 (s, 1H), 6.63 (brs, 1H), 6.65 (d, J = 9 Hz, 4H), 6.67 (d, J = 8 Hz, 2H), 6.98(d+d, J = 9 Hz, 4+2H), 7.40 (s, 1H), 8.40 (s, 1H)。 MALDI-TOFMS (pos) m/z 636 ([M- H])。
M10−A:H NMR (300 MHz, CDCl) d 1.13 (t, J = 7 Hz, 12H), 1.80-1.89 (m, 2H), 2.60 (s, 3H), 3.23 (t, J = 6 Hz, 2H), 3.30 (q, J = 7 Hz, 8H),3.74-3.80 (m, 2H), 5.23 (s, 1H), 6.49 (d, J = 9 Hz, 2H), 6.60 (d, J = 9Hz, 4H), 6.76 (brt, J = 5 Hz, 1H), 6.95 (d+d, J = 9 Hz, 4+2H), 7.03-7.06 (m, 1H), 7.13-7.23 (m, 4H), 7.56 (brs, 1H)。 MALDI-TOFMS (pos) m/z 606([M- H])。
M7−Aの合成
【0062】
【化28】

【0063】
ビス(4−ジメチルアミノフェニル)メタノール[2]、4.06g(15mmol)、尿素誘導体[3]4.25g(15mmol)、p−トルエンスルホン酸1水和物 0.29g(1.5mmol)をトルエン25mlに溶かし、Dean−Starkトラップを接続して7時間加熱還流した。冷却後に溶媒を減圧留去し、得られた混合物をカラムクロマトグラフィー(NHシリカ、EtOAc:Hex=1:1)で精製したところ、尿素部位を持つロイコ色素M7−Aが淡青色固体として6.28g(11.7mmol、78%)得られた。
M7−A: H NMR (400 MHz, CDCl) d 1.73-1.78 (m, 2H), 2.80 (s, 3H), 2.89 (s, 12H), 3.25-3.31 (m, 4H), 3.39-3.41 (m, 4H), 4.91 (br, 1H), 5.27 (s, 1H), 6.30 (brs, 1H), 6.59 (d, J = 8 Hz, 2H), 6.65 (d, J = 9 Hz, 4H), 6.96 (d, J = 8 Hz, 2H), 6.98 (d, J = 9 Hz, 4H), 7.02-7.06 (m, 1H), 7.18-7.24 (m, 4H)。 MALDI-TOFMS (pos) m/z 534 ([M- H])。
(4)化合物M11−Aの合成。
【0064】
【化29】

【0065】
60%NaH 100mg(2.5mmol)、シトシン220mg(2mmol)とDMF5mlの混合物を室温で30分間攪拌した後、トリフェニルメタン誘導体[4]960mg(2mmol)をDMF5mlに溶かした溶液を加え、室温で1日攪拌した。メタノール添加後に溶媒を減圧留去し、得られた混合物をカラムクロマトグラフィー(NHシリカ,EtOAc:MeOH=10:1→5:1)で精製したところ、シトシン部位を持つ化合物M11−Aが淡青色固体として490mg(0.959mmol、48%)得られた。
M11−A: H NMR (400 MHz, DMSO-d) d 1.03 (t, J = 7 Hz, 3H), 2.83 (s, 12H), 3.26 (t, J = 7 Hz, 2H), 3.40 (t, J = 7 Hz, 2H), 3.74 (t, J = 7 Hz, 2H), 5.15 (s, 1H), 5.58 (d, J = 7 Hz, 1H), 6.64 (d, J = 9 Hz, 4H), 6.68 (d, J = 9 Hz, 2H), 6.84 (d, J = 9 Hz, 2H), 6.89 (d, J = 9 Hz, 4H), 6.98 (br, 2H), 7.47 (d, J = 7 Hz, 1H), 7.02-7.06 (m, 1H)。 MALDI-TOFMS (pos) m/z 509 ([M- H])。
(5)化合物M12−Aの合成。
【0066】
【化30】

【0067】
トリフェニルメタン誘導体[5]970mg(1.70mmol)と水5mlの混合物に、1M塩酸2.5mlを加えて1日加熱還流した。1MNaOH水溶液で中和後、溶媒を減圧留去し、得られた混合物をカラムクロマトグラフィー(NHシリカ,EtOAc:MeOH=10:1→5:1→1:1)で精製したところ、グアニン部位を持つ化合物M12−Aが淡青色固体として470mg(0.853mmol、50%)得られた。
M12−A: H NMR (400 MHz, DMSO-d) d 0.98 (t, J = 7 Hz, 3H), 2.84 (s, 12H), 3.22 (t, J = 7 Hz, 2H), 3.56 (t, J = 7 Hz, 2H), 4.06 (t, J = 7 Hz, 2H), 5.16 (s, 1H), 6.60 (br, 2H), 6.64 (d, J = 9 Hz, 4H), 6.65 (d, J = 9 Hz, 2H), 6.88-6.90 (m, 6H), 7.60 (s, 1H), 10.93 (br, 1H)。 MALDI-TOFMS (pos) m/z 549 ([M- H])。
【0068】
メロシアニン系2光子吸収化合物の合成例
化合物M1−B(酸)の合成
2,2−ジメチルシクロヘキサノン1.35g(12mmol)と4−[N−メチル−N−(3−カルボキシプロピル)]ベンズアルデヒドアルデヒド1.33g(6mmol)をMeOH 15mlに溶かした溶液に、KOH 3.37g(60mmol)をMeOH 15mlに溶かした溶液を加え、10時間加熱還流した。1M塩酸で中和後、EtOAcで抽出し、有機層を無水MgSOで乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られた混合物をカラムクロマトグラフィー(SiO,EtOAc)で精製したところ、メロシアニンM2−B(カルボン酸)が淡黄色固体として1.77g(5.61mmol、93%)得られた。
M1−B(カルボン酸): H NMR (400 MHz, CDCl) d 1.12 (s, 6H), 1.84 (t, J = 7 Hz, 2H), 1.93 (tt, J = 8, 7 Hz, 2H), 2.36 (t, J = 7 Hz, 2H), 2.86 (td, J = 8, 2 Hz, 2H), 3.43 (t, J = 7 Hz, 2H), 3.67 (s, 3H), 6.71 (d, J = 9 Hz, 2H), 7.36 (t, J = 2 Hz, 1H), 7.47 (d, J = 9 Hz, 2H)。 MALDI-TOFMS (pos) m/z 316 ([M + H])。
化合物M2−B(酸)の合成
2,2−ジメチルシクロヘキサノン900mg(8mmol)と4−(N−メチル−N−カルボキシメチル)ベンズアルデヒド390mg(2mmol)をMeOH10mlに溶かした溶液に、KOH1.12g(20mmol)をMeOH10mlに溶かした溶液を加え、10時間加熱還流した。1M塩酸で中和後、EtOAcで抽出し、有機層を無水MgSOで乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られた混合物をカラムクロマトグラフィー(SiO,EtOAc:MeOH=10:1)で精製し、CHCl−Hexaneから再結晶したところ、メロシアニンM2−Bのカルボン酸が淡黄色固体として480mg(1.67mmol、84%)得られた。
M2−B(酸):H NMR (400 MHz, CDOD) d 1.06 (s, 6H), 1.86 (t, J = 7 Hz, 2H), 2.87-2.90 (m, 2H), 3.11 (s, 3H), 4.18 (s, 2H), 6.76 (d, J = 9 Hz, 2H), 7.31 (t, J = 3 Hz, 1H), 7.50 (d, J = 9 Hz, 2H)。 MALDI-TOFMS (pos) m/z 288 ([M+ H])。
(3)化合物M8−B(酸)の合成
2−[4−(N,N−ジエチルアミノ)フェニルメチリデン]480mg(2mmol)と4−(N−メチル−N−カルボキシメチル)ベンズアルデヒド430mg(2.2mmol)をMeOH 10mlに溶かした溶液に、KOH 560mg(10mmol)をMeOH 10mlに溶かした溶液を加え、6時間室温で攪拌した。0.5Mメタノール塩酸で中和後、溶媒を減圧留去した。得られた混合物をカラムクロマトグラフィー(SiO,EtOAc:MeOH=10:1,3:1,1:1)で精製し、CHCl−EtOAcから再沈殿したところ、メロシアニンM8−B(酸)が赤色固体として240mg(0.57mmol、29%)得られた。
M8−B(酸): H NMR (400 MHz, DMSO-d) d 1.12 (t, J = 7 Hz, 6H), 2.99-2.30 (m, 6H), 3.61 (s, 2H), 6.63 (d, J = 9 Hz, 2H), 6.74 (d, J = 9 Hz, 2H), 7.26 (s, 1H), 7.27 (s, 1H), 7.43 (d. J = 9 Hz, 2H), 7.49 (d, J = 9 Hz, 2H)。 MALDI-TOFMS (pos) m/z 419 ([ M + H])。
【0069】
本発明の組成物は、更に所望により結合剤、溶剤を含有していても良い。溶剤の例としては、酢酸ブチル、乳酸エチル、セロソルブアセテートなどのエステル類;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;ジクロルメタン、1,2一ジクロルエタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類;ジメチススルホキシドなどのスルホキシド類、スルホランなどのスルホン類、シクロヘキサン、トルエンなどの炭化水素類;テトラヒドロフラン、エチルエーテル、ジオキサン、などのエーテル類;エタノール、n一ブロパノール、イソプロパノール、n一ブタノール・ジアセトンアルコールなどのアルコール類;2,2,3,3−テトラフロロブロパノールなどのフツ素系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレンングリコールモノエチルエーテル、ブロピレンングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類などを挙げることができる。上記溶剤は使用する化合物の溶解性を考慮して単独または二種以上組み合わせて用いることができる。本発明の組成物中にはさらに酸化防止剤、UV吸収剤、可塑剤、潤滑財などの各種の添加剤を目的に応じて添加してもよい。
【0070】
高分子結合剤の例としては、例えばゼラチン、セルロース誘導体、デキストラン、ロジン、ゴムなどの天然有機高分子物質;およびポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ボリイソブチレン等の炭化水素系樹脂;ボリ塩化ビニル、ボリ塩化ビニリデン、ボリ塩化ビニル・ポリ酢酸ビニル共重合体等のビニル系樹脂;ポリアクリル酸メチル、ボリメタクリル酸メチルなどのアクリル樹脂;ボリビニルアルコール、塩素化ポリエチレン、エポキシ樹脂、ブチラール樹脂、ゴム誘導体、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂等の熱硬化性樹脂の初期縮合物などの合成有機高分子を挙げることができる。記録層の材料として結合剤を併用する場合に、結合剤の使用量は、2光子吸収化合物に対して一般に0.01〜50倍量(質量比)の範囲にあり、好ましくは0.1〜5倍量(質量比)の範囲にある。このようにして調製される組成物中の2光子吸収化合物の濃度は一般に0.01〜10質量%の範囲にあり、好ましくは0.1〜5質量%の範囲にある。
【0071】
[実施例]
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明する。ここに示す成分、割合、操作順序等は本発明の精神から逸脱しない範囲において変更しうるものであることは本業界に携わるものにとつては容易に理解されることである。従って、本発明は、下記の実施例にて制限されるべきではない。なお、実施例中の部は質量部を表す。
【実施例1】
【0072】
表1に示す組成の、本発明の組成物および本発明外の組成物を調製した。
組成物のNMRスペクトルおよび、組成物を構成する2光子吸収化合物と機能化合物それぞれ単独の溶液のNMRスペクトルを測定し、組成物を構成したことによるスペクトルの変化の有無を観測し、表1に示した。本発明の組成物の場合にのみNMRの変化が認められ、本発明の組成物において2光子吸収化合物と機能化合物とが顕著に相互作用していることがわかる。
【0073】
【表1】

【0074】
比較化合物C1
【0075】
【化31】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2光子吸収断面積が10GM(ただし1GM=1×10-50cm s molecule-1 photon-1)以上である2光子吸収化合物と、2光子吸収化合物の励起状態によって酸化もしくは還元され、あるいはエネルギー移動を受けて変化する機能化合物とからなる組成物であって、該2光子吸収化合物上の基と該機能化合物上の基とが、互いに水素結合を形成し得るが互いに異なる構造である2光子吸収組成物。
【請求項2】
前記2光子吸収化合物と前記機能化合物がそれぞれ下記一般式(I)および一般式(II)で表わされる請求項1記載の2光子吸収組成物。
一般式(I)
A−G
式中、Aは2光子吸収化合物残基を表わし、Gは一般式(II)のTと水素結合し得る基を表わし、mは1ないし4の整数を表わす。
一般式(II)
D−T
式中、Dは酸化もしくは還元を受ける、あるいは励起エネルギーを受容する機能化合物残基を表わし、Tは一般式(I)のGと水素結合を形成し得る基を表わし、nは1ないし4の整数を表わす。
【請求項3】
GとTの一方がカルボキシラート基であり、他方が−NH−(C=O)−NH−の部分構造を有する基である請求項1または2に記載の2光子吸収組成物。
【請求項4】
GとTの一方が、−(C=O)−NH−(C=O)−、−(−N=C)−NH−(C=O)−、または−(−N=C)−NH−(C=N−)−なる部分構造を有する基であり、他方が−(−HN)C=NC(NH−)−、−(−HN)C=NC(OH)−、または−(HO)C=NC(OH)−で表わされる部分構造を有する基である請求項1〜3のいずれかに記載の2光子吸収組成物。
【請求項5】
GとTの一方が、−N=C−N=C−N=C−なる部分構造を有する基であり、他方が−(−HN)C−NH−C(NH−)−、−(−HN)C−NH−C(OH)−、または−(HO)C−NH−C(OH)−で表わされる部分構造を有する基である請求項1〜3のいずれかに記載の2光子吸収組成物。
【請求項6】
GとTの一方が、−NH−(C=O)−NH−の部分構造を有する基であり、他方が=N−C−N=で表わされる部分構造を有する基である請求項1〜3のいずれかに記載の2光子吸収組成物。
【請求項7】
GとTの一方が、−(−HN)C−NH−(C=O)−の部分構造を有する基であり、他方が−(O=C)−N=C−NH−、−N=C−N=C−NH−で表わされる部分構造を有する基である請求項1〜3のいずれかに記載の2光子吸収組成物。
【請求項8】
GとTの一方が、−HN−(C=O)−の部分構造を有する基であり、他方が−N=C−NH−、−C=N−C−C−NH−、または前述とは異なる構造の−HN−(C=O)−で表わされる部分構造を有する基である請求項1〜3のいずれかに記載の2光子吸収組成物。
【請求項9】
下記一般式(III)で表わされる色素前駆体化合物。
一般式(III)
D−T
式中、Dは酸化もしくは還元を受ける、あるいは励起エネルギーを受容する機能化合物残基を表わし、Tは水素結合を形成し得る基を表わし、nは1ないし4の整数を表わす。
【請求項10】
が、−HN−(C=O)−、−N=C−NH−、−C=N−C−C−NH−、−(−HN)C−NH−(C=O)−、−(O=C)−N=C−NH−、または−N=C−N=C−NH−で表わされる部分構造を有する基である請求項9に記載の色素前駆体化合物。
【請求項11】
Dが下記一般式(IV)で表わされる化合物の残基であり、R、R、R、R、R、R、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q10、Q11、Q12の少なくとも一つとTが結合している請求項9ないし10に記載の色素前駆体化合物。
一般式(IV)
【化1】

@0034
式中、R、R、R、R、R、Rは炭素原子数1ないし18のアルキル基を表わし、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q、Q10、Q11、Q12はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数1ないし18のアルキル基、炭素原子数1ないし18のアルコキシ基、炭素原子数1ないし18のアシル基、炭素原子数1ないし18のアシルアミノ基、炭素原子数1ないし18のカルバモイル基、炭素原子数1ないし18のスルホンアミド基、炭素原子数1ないし18のスルファモイル基、アミノ基、炭素原子数1ないし18のアルキルアミノ基、炭素原子数6ないし18のアリールアミノ基、またはヒドロキシル基を表わし、これらの基は互いに連結して環を形成していてもよい。

【公開番号】特開2006−335794(P2006−335794A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159190(P2005−159190)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】