説明

2板撮像装置

【課題】内視鏡先端部への実装可能なサイズと品質を確保しつつ、簡素なプリズム構成を維持したままで、環境耐性と組立性が良い2板撮像装置を提供する。
【解決手段】第1プリズム4、第2プリズム5、第1中間面14に配置した緑色光を反射する色分解コーティング、第1封止ガラス板8を介して第1プリズム4の第1出射面15に接合された第1固体撮像素子2、第2封止ガラス板9を介して第2プリズム5の第2出射面17に接合された第2固体撮像素子3を備え、第1プリズム4と第2プリズム5は屈折率1.76以下、アッベ数52以上の同一硝材Gpからなり、第1封止ガラス板8、第2封止ガラス板9は硝材Gpよりも紫外線透過率の低い同一硝材Giからなり、硝材Gpとの屈折率差が0.15以下の紫外線硬化性を有する光学接着剤を用いて、第1プリズム4と第2プリズム5と第1固体撮像素子2と第2固体撮像素子3とを接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2板撮像装置に関し、特に、医療用内視鏡先端部への搭載を主な用途とする2板撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
挿入部先端に固体撮像素子を配置した内視鏡、いわゆるビデオスコープの画質は固体撮像素子に強く依存しており、これまでは固体撮像素子のユニットセル縮小による画素数向上で高画質化を図ってきた。しかし、ユニットセルサイズが略物理的限界まで到達した現状では、別観点での高画質化技術が要求されている。その一案として固体撮像素子を複数用いた多板撮像装置の採用が考えられるが、多板撮像装置は単板式に比べてサイズが非常に大きいため、ビデオスコープへの採用は困難とみなされていた。しかし、多板式として3板式のビデオスコープ搭載は不可能に近いが、3板式よりも小型化できる2板式ならば工夫の余地がある。
【0003】
2板撮像装置の従来技術として以下の特許文献1〜9のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−127492号公報
【特許文献2】特開平2005−210359号公報
【特許文献3】特開平5−122710号公報
【特許文献4】特許第2,929,655号公報
【特許文献5】特開2004−258497号公報
【特許文献6】特公昭57−5537号公報
【特許文献7】特開平10−304388号公報
【特許文献8】特開平10−341449号公報
【特許文献9】特開平8−68904号公報
【特許文献10】特開平5−244610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
すなわち、主に撮像論理構成に関しては特許文献1〜2が、色シェーディング関連では特許文献3〜4が、また、プリズム形状・サイズでは特許文献5〜9が知られている。
【0006】
特許文献3には、薄板からなるダイクロイックミラーを用いることで、入射角変動による分光特性変動に配慮した構成が開示されている。しかし、斜めに配した薄板型ミラーは透過光路側で偏心収差を生じる問題がある。また、薄板型ミラーはプリズムと比較して信頼性の高い枠構造の採用が難しく、温度変化等による変形や位置ずれを生じやすいため、2板間の相対位置精度を長期的に維持することが困難である。加えて、様々な場面で湿気に曝される内視鏡においては、固体撮像素子前側の空間に湿気が侵入しやすく、品質劣化を生じやすい。
【0007】
特許文献4には、色シェーディング低減を目的としたフィルタ配置の工夫が開示されており、いわゆるトリミング機能を有する干渉膜を所定の条件で配置する構成である。この構成では、傾斜した干渉膜を配置する関係でプリズム構成が複雑化し、小型実装が困難である。
【0008】
特許文献5には、プリズム形状を小型化する工夫が開示されている。ただし、その構成のプリズム形状は、内視鏡用としては径方向に大きすぎる問題がある。
【0009】
特許文献6には、内視鏡用として径方向サイズの小さいプリズム構成が開示されている。その構成のプリズムは光軸方向に長いため、先端湾曲機構を有する内視鏡の先端硬質長増大を招く欠点がある。
【0010】
特許文献7〜8には、2個の3角プリズムを立方体状に貼り合わせたプリズム構成、特許文献9には、ゴースト対策を目的とした3角プリズム型の変形例が示されている。特許文献9の構成はプリズムの構成が複雑であり、特許文献7〜8のプリズム構成は最もシンプルかつ小型であるが、各種品質確保の面での工夫がない。
【0011】
内視鏡では、サイズ・耐性面での要求に応えるために簡素な構成のプリズムとした上で、色シェーディング対策や組立性確保を行わねばならないが、以上の特許文献群に示される2板撮像装置構成では、それらの技術課題に対する考慮が足りない。さらに、2板固有の課題として、固体撮像素子開発に要する投資が大きいことがあげられる。最も画質を高められる緑色光とマゼンタ色光を分離する構成の場合、通常は専用設計の固体撮像素子2種が必要となるため、単板式や3板式撮像装置に比べて開発費用と期間が増大する。
【0012】
本発明は上記の従来技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、内視鏡先端部への実装可能なサイズと品質を、複雑な構造や特殊な素子を用いずに実現できる2板撮像装置構成であって、以下の課題を解決可能な構成を提供することである。
【0013】
課題1:色シェーディングを抑制できる分光設計。
【0014】
課題2:環境変化に強く、組立性の良い構成。
【0015】
課題3:固体撮像素子に対する投資効率を改善するために必要な構成。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の課題1に対応した2板撮像装置は、緑色光を反射する色分解コーティングを有するプリズム群、前記色分解コーティング反射光を撮像する第1固体撮像素子、赤色透過と青色透過のオンチップフィルタを有し前記色分解コーティング透過光を撮像する第2固体撮像素子を備え、下記条件式を満足することを特徴とする。
【0017】
(1) 5nm≦λiR−λcR≦35nm
(2) −20nm≦λcB−λiB≦20nm
(3) λiR−λcR>λcB−λiB
ただし、各記号の定義は、
λcB:前記色分解コーティングの光軸入射に対する分光透過率特性において、青色境界側で平均透過率が50%となる波長、
λcR:前記色分解コーティングの光軸入射に対する分光透過率特性において、赤色境界側で平均透過率が50%となる波長、
λiB:前記第2固体撮像素子の青色透過オンチップフィルタを有する画素の分光感度特性において、緑色との境界波長付近での分光感度が450nm比で50%となる波長、
λiR:前記第2固体撮像素子の赤色透過オンチップフィルタを有する画素の分光感度特性において、緑色との境界波長付近での分光感度が600nm比で50%となる波長、
である。
【0018】
以下では、説明を簡潔にするため、RGB3原色の各色バンドを単にR、G、Bと表記
する。また、第2固体撮像素子のオンチップフィルタでは、赤色透過をRフィルタ、青色透過をBフィルタと表記する。
【0019】
本発明の2板撮像装置では、輝度情報への寄与度の高いGバンドを1枚の固体撮像素子で撮像する。この際、色分解コーティングとしてはG反射型とG透過型の2種類が考えられるが、本発明では、干渉膜設計の自由度の高いG反射型を用いる。また、色分解コーティングを透過したマゼンタ光をRとBに分離するために、もう一方の固体撮像素子には、原色のRフィルタ、Bフィルタを用いる。一般に、Rフィルタ、Bフィルタは原色ベイヤー配列を有するデジタルスチルカメラ用固体撮像素子に広く採用されているが、有機顔料の光吸収特性を利用するため分光特性選択の自由度が光学多層膜程高くない。しかし、吸収型であることにより、干渉型で生じやすいフレア・ゴーストのリスクが低いというメリットがある。よって、本発明では、一般的に実現容易なRフィルタ、Bフィルタ自身がトリミング機能を果たせるような分光特性を色分解コーティングに持たせることで、フレアゴーストの発生しやすい干渉型トリミングフィルタや光学ユニット形状・サイズを複雑化させる固体撮像素子外部の吸収型トリミングフィルタを用いずに、色シェーディングを実用可能なレベルに低減させる。
【0020】
図1は、本発明の後記の第1実施例の2板撮像装置を斜め方向から見た図である。本発明の2板撮像装置1の主要構成要素は、第1固体撮像素子2、第2固体撮像素子3、第1プリズム4、第2プリズム5である。第1プリズム4、第2プリズム5はそれらが結合(接合)される面の何れか一方に緑色光を反射する色分解コーティングを配置し、第1固体撮像素子2がGバンド画像を撮像する構成とする。第2固体撮像素子3はオンチップフィルタを有し、色分解コーティングを透過したマゼンタ光をRバンドとBバンドに分離して撮像できるようにする。例えば、図2に示すように、RB2色を垂直ストライプ状に交互に配列したものである。
【0021】
図3は、第1実施例の構成要素の分光特性を示す図であり、これを用いて本発明の色シェーディング回避策について説明する。図3には、Rフィルタ画素分光感度51、Bフィルタ画素分光感度52、色分解コーティングの光軸入射に対する分光透過率53、吸収型赤外カットフィルタ分光透過率54を表示してある。なお、本発明では、色分解コーティングの分光透過率53としてP偏光・S偏光の平均値を用いる。
【0022】
Rフィルタ画素分光感度51は原色ベイヤー型固体撮像素子用としては標準的なものであり、Gバンド境界側に上記で定義済みのλiRを有する。Bフィルタ画素分光感度52も原色ベイヤー型固体撮像素子用として標準的なものであり、Gバンド境界側に上記で定義済みのλiBを有する。色分解コーティングのG光を反射させるため分光透過率53はマゼンタ光透過型となり、Rバンド境界側に上記で定義済みのλcRを有し、Bバンド境界側に上記で定義済みのλcBを有する。
【0023】
以下、説明のため、RGB各バンド毎の光エネルギーをER 、EG 、EB と表記する。色分解コーティングへの入射角変動により生じる波長シフトは、概念的には分光透過率53が図3の左右方向に平行移動することに相当する。よって、Gバンドに関しては、波長シフトによる波長幅の変動が少ない。撮像装置に一般的に用いられる吸収型赤外カットフィルタの分光透過率54によりGバンド波長帯の長波長側からの透過率低下傾向は軽微であり、EG の変化は小さい。これに対し、Rバンドでは、分光感度51のG側有感度波長域に分光透過率53の低透過率波長域が重なるとER が低下し、Bバンドでは、分光感度52の有感度波長域に分光透過率53の低透過率波長域が重なるとEB が低下する。このようなER 、EB の変化は各バンド間の光エネルギー比率を変動させ、画像の色調変化を生じる。光軸上を入射する光に対し入射角が減少した場合は、長波長シフトにより赤み(ER /EG )が低下し、青み(EB /EG )が増加する。逆に、入射角が増加した場合は
、短波長シフトにより赤み(ER /EG )が増加し、青み(EB /EG )が減少する。このように傾けて配置した色分解コーティング面で分光された光には、色シェーディングを誘発する分光特性のムラが生じやすい。
【0024】
以上を踏まえ、本発明では、(1)〜(3)式を満足させることで、主目的である色シェーディングを複雑な構成を用いずに抑制し、同時に、暗黙として要求される明るさ確保に配慮したものである。
【0025】
(1)式は、色分解コーティングのR側半値波長をRフィルタよりも所定量短波長側に設定することで、色分解コーティングが長波長側にシフトした際のR側色差変動を減らすためのものである。一般に、Rフィルタ画素の分光感度51はG側端で急峻であるため、波長シフトで重なりが生じた場合の変化が大きい。λiR−λcRはRバンドとGバンド境界の低感度波長帯とみなせるため、λiR−λcRを正の所定量にして適度な低感度波長帯を確保してやることで、ER 変動を抑制する。なお、医療用内視鏡の主機能である生体観察では、λcR〜λiRの波長帯に特異な分光特性を有する被写体がないため、この帯域を低感度波長帯とすることに問題はない。ただし、EG をできるだけ大きくして明るさを低下させないためには、λiR−λcRが大きすぎないことが望ましい。(1)式は以上の観点で範囲を定めたものであり、下限の5nmを下回ると、ER 変動が大きくなり、上限の35nmを上回ると、EG が不足して明るさが低下するため望ましくない。なお、下記条件式を満足すると、より一層望ましい。
【0026】
(4) 10nm≦λiR−λcR≦25nm
(2)式は、BバンドとGバンド境界に関する条件式であるが、(1)式の場合とは多少事情が異なる。一般に、Bフィルタ画素の分光感度52はG側端でさほど急峻ではないため、波長シフトで重なりが生じた場合の変化は比較的小さい。このため、λcBとλiBを近い波長にしてやることで、色シェーディング抑制とEG 確保のバランスが取れる。また、この波長帯はヘモグロビンの吸光度が高く生体観察時の血管コントラスト強調に必要な波長域であり、(1)式のように低感度波長帯を積極的に設けるのは望ましくない。(2)式は以上の観点で範囲を定めたものであり、(2)式の下限の−20nmを下回ると、EB 変動が大きくなり、上限の20nmを上回ると、EG が不足して明るさが低下するため望ましくない。
【0027】
(3)式は、(1)式、(2)式の説明で示した、低感度波長帯についての重み付けを不等式で示したものである。(3)式を満足しないと、色シェーディング抑制とEG 確保による明るさ確保のバランスが取れなくなり望ましくない。さらに、下記条件式を満足すると、より一層望ましい。
【0028】
(5) λiR−λcR>λcB−λiB+10nm
本発明の前記課題2に対応した2板撮像装置は、光経路順に第1入射面、第1中間面、第1出射面を有し、前記第1中間面が前記第1入射面に対し40°から50°の範囲内で傾斜している第1プリズム、
第2入射面、第2出射面を有し、前記第2入射面を前記第1プリズムの前記第1中間面に接合する第2プリズム、
前記第1中間面に配置した緑色光を反射する色分解コーティング、
第1封止ガラス板を介して前記第1出射面に接合し前記色分解コーティング反射光を撮像する第1固体撮像素子、
第2封止ガラス板を介して前記第2出射面に接合し前記色分解コーティング透過光を撮像する赤色透過と青色透過のオンチップフィルタを有する第2固体撮像素子を備え、
前記第1プリズムと前記第2プリズムは屈折率1.76以下、アッベ数52以上の同一硝材Gp からなり、前記第1封止ガラス板、前記第2封止ガラス板は前記硝材Gp よりも
紫外線透過率の低い同一硝材Gi からなり、前記硝材Gp との屈折率差が0.15以下の紫外線硬化性を有する光学接着剤を用いて、前記第1プリズムと前記第2プリズム、前記第1プリズムと前記第1固体撮像素子、前記第2プリズムと前記第2固体撮像素子とを接合したことを特徴とする。
【0029】
なお、本発明で説明に用いる屈折率、アッベ数は全てd線での値である。
【0030】
上記構成は、図1に示す概略構造を有し、側面図では図4の構造となるが、詳細な説明は後記の第1実施例の説明に譲る。本構成では、2個のプリズムと2個の固体撮像素子が空気間隔を挟まずに一体化される。内視鏡では、消毒・滅菌耐性を確保することが不可欠であり、挿入部内にも湿気や高温の負荷がかかる。特に、オートクレーブ滅菌では、約135℃の高圧水蒸気に挿入部を介して曝されることになる。複雑な形状となる2板撮像装置は、これを受ける枠構造で十分に封止することができないため、2板撮像装置自身に湿気や高温に対する十分な耐性を持たせねばならない。湿気による光学面への結露とガラス表面劣化を防止するためには、2板撮像装置内には空気間隔を設けないようにする必要がある。また、空気層を設けた場合、プリズム・固体撮像素子間の相対位置を枠経由で保証することになるが、3.5mm以下のプリズムを保持する枠構造でオートクレーブの135℃から輸送環境等の極低温までの温度範囲に対し、値μm単位のレジストレーションずれを品質保証することは事実上不可能である。よって、プリズム・固体撮像素子間に空気層を設ける構造は、内視鏡用の2板撮像装置では採用できない。
【0031】
プリズムと固体撮像素子を全て光学接着剤で貼り合わせる本構成では、接着硬化工程でのレジストレーションずれに対する考慮も重要である。硬化前にレジストレーション調整を行い、その状態を維持しながら短時間で接着硬化するためには、紫外線硬化性を有する接着剤を用いる必要がある。しかし、固体撮像素子への過度の紫外線照射は固体撮像素子内部のマイクロレンズやオンチップフィルタ等の有機素材に損傷を与え、紫外線照射不足は接着剤の硬化不備を招くというトレードオフの関係にあり、設計上の配慮なしで製造工程設定できる保証がない。
【0032】
よって、本構成では、紫外線硬化に配慮した2板撮像装置の設計を明らかにしている。プリズムの硝材Gp を屈折率が1.76以下でアッベ数52以上に限定することで、300nmまでの紫外線透過率を高く確保している。これにより、プリズム同士、及び、プリズムと固体撮像素子とを紫外線硬化するに際し、プリズム内を透過させる照射光路が使用可能となり、紫外線照射装置の照射方向と工程設定の自由度が大きくなる。また、アッベ数の高い低分散ガラスを用いることで、プリズムの軸上色収差により発生する色バンド毎のピントずれを軽減できる効果もある。さらに、封止ガラス板の硝材Gi の紫外線透過率をプリズムの硝材Gp よりも低くすることにより、固体撮像素子の紫外線損傷防止と接着剤完全硬化を両立させることができる紫外線照射条件を設定可能となる。硝材Gp の透過率が高く硝材Gi の透過率が低い紫外線波長帯は、プリズムを透過し封止ガラス板で吸収される波長帯となるため、この波長帯を紫外線照射の主波長帯とすることにより、照射エネルギー・時間を高めても固体撮像素子の損傷なしに接着剤の完全硬化を行うことが可能となる。接着剤と硝材Gp の屈折率差を小さくすることは、40°から50°の傾斜した接着剤層を光が透過する際に発生する偏心収差の低減に寄与する。
【0033】
本発明の前記課題3に対応した2板撮像装置は、緑色光を反射する色分解コーティングを有するプリズム群、前記色分解コーティング反射光を撮像する第1固体撮像素子、赤色透過と青色透過のオンチップフィルタを有し前記色分解コーティング透過光を撮像する第2固体撮像素子を備え、前記第2固体撮像素子のオンチップフィルタ配列を垂直ストライプ型とし、かつ、前記第1固体撮像素子、前記第2固体撮像素子を同画素数、同画素寸法、かつ、垂直2画素混合でフィールド読み出し可能としたことを特徴とする。
【0034】
上記構成は、2板撮像装置に採用する固体撮像素子を単板カラー固体撮像素子に容易に転用可能とすることにより、固体撮像素子に対する投資効率を改善するものである。補色単板カラー型の固体撮像素子は画質よりもサイズ、コスト、明るさを優先する普及型内視鏡においては現在の主流であり、今後も使用されていくと思われる。補色単板カラー型の固体撮像素子は垂直2画素混合しフィールド読み出しを行う方式(例えば特許文献10)が主流であるため、2板撮像装置の2種の固体撮像素子を同様の読み出し構成にした上で、画素数、画素寸法の共通化を図れば、光電変換部前側の光学構造物を除いた半導体ウェファ構造を共通化できる。なお、オンチップフィルタ配列を有する第2固体撮像素子で垂直2画素混合を行うためには、垂直方向に同色のフィルタが配列される垂直ストライプ型である必要がある。
【0035】
以上の構成を採用すれば、普及型内視鏡向けに開発した単板カラー固体撮像素子の小変更(オンチップマイクロレンズとフィルタ、平坦化層等に限定された変更)による2板撮像装置への転用、若しくは、高画質内視鏡向けに開発した2板撮像装置用固体撮像素子の小変更による単板カラー固体撮像素子開発が可能となり、投資額削減と開発期間短縮が図れる。このような構成を採用しない場合は、前述のような転用が投資効率低下と開発期間増大の障害により困難となる。
【発明の効果】
【0036】
以上の本発明の2板撮像装置によると、内視鏡先端部への実装可能なサイズと品質を確保しつつ、簡素なプリズム構成を維持したままで、色シェーディングを抑制できる分光設計を有し、環境耐性と組立性が良く、固体撮像素子に対する投資効率の良い2板撮像装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1実施例の2板撮像装置1を斜め方向から見た図である。
【図2】第2固体撮像素子のオンチップフィルタの配置を示す図である。
【図3】本発明の第1実施例の構成要素の分光特性を示す図である。
【図4】本発明の第1実施例の側面図である。
【図5】本発明の第1実施例の分光エネルギー分布を示す図である。
【図6】本発明の第2実施例の側面図である。
【図7】本発明の第3実施例の側面図である。
【図8】本発明の第4実施例の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の2板撮像装置を実施例に基づいて説明する。
【0039】
図1は、第1実施例の2板撮像装置1を斜め方向から見た図である。ビデオフォーマットの固体撮像素子の撮像面は、通常4:3若しくは16:9等のアスペクト比を有しており、横長である。2板撮像装置1に撮像面が横長の固体撮像素子を用いる場合は、図1の側面図の固体撮像素子2の左右方向が垂直方向、固体撮像素子3の上下方向が垂直方向になるようにする。
【0040】
図4は、第1実施例の側面図である。2板撮像装置1は対物レンズ6と組み合わせて使用する。通常の可視光カラー観察の場合は、赤外カットフィルタ7を対物レンズ6に含める。なお、内視鏡の場合、深部血管観察のための赤外観察や、粘膜表面の毛細血管を強調する観察機能を撮像系の分光特性操作を含めて実装する場合がある。このような特殊光観察の場合、2板撮像装置1内に観察形態に依存するフィルタを配置することは2板撮像装置1の汎用性を下げるため、対物レンズ6内のフィルタ配置で対応する。対物レンズ6と
2板撮像装置(図1)の間にはフレア絞り18を配置する。
【0041】
2板撮像装置1の主要構成要素は、第1固体撮像素子2、第2固体撮像素子3、第1プリズム4、第2プリズム5である。第1固体撮像素子2、第2固体撮像素子3にはCCDやCMOS構造を有する2次元イメージャを用い、それぞれ第1封止ガラス板8、第2封止ガラス板9により撮像面を保護したものを使用する。第1プリズム4は、第1入射面13、第1中間面14、第1出射面15の3つの光学鏡面を有し、第1中間面14は第1入射面13に対し45°傾斜し、第1中間面14は緑色光を反射する色分解コーティングを有する。第2プリズム5は、第2入射面16、第2出射面17の2つの光学鏡面を有する。第1プリズム4、第2プリズム5は、中程度以下の屈折率で低分散の同一ガラスを用いる。例えばオハラ(株)のS−BSL7(屈折率1.516、アッベ数64.1)を使用する。以上の4つの主要構成要素は、屈折率1.51で紫外線硬化性を有する同一の接着剤10、11、12により一体に結合する。第1固体撮像素子2、第2固体撮像素子3は1/6インチサイズで画素ピッチ2μm程度であり、レジストレーションずれ許容値は1μm以下となる。また、第1プリズム4と第2プリズム5を合わせたサイズは一辺2mm〜3.5mm程度であり、民生用の多板撮像装置に用いられるプリズムと比べて格段に小さい。色分解コーティングはY23 (屈折率1.86)とTa25 (屈折率2.21)を交互に積層したものからなり、24層以上のものを用いる。
【0042】
第1固体撮像素子2は、対物レンズ6側から入射し第1中間面14上の色分解コーティングで反射された緑色光(図のG光路)を撮像し、Gバンド画像を撮像する。第1固体撮像素子2は、特にオンチップフィルタを有さない所謂白黒タイプの固体撮像素子を用いる。ただし、G光以外の迷光混入を厳しく防止する場合は、緑色を透過するオンチップフィルタを第1固体撮像素子に設置してもよい。
【0043】
第2固体撮像素子3は、第1中間面14上の色分解コーティングを透過したマゼンタ光(図のR/B光路)を撮像する。
【0044】
第1固体撮像素子2と第2固体撮像素子3は垂直2画素混合によるフィールド読み出しを行う。これに伴い、第2固体撮像素子3は、図2にオンチップフィルタの配置を示すように、RB2色の垂直ストライプ型配列として垂直2画素混合を可能とするものである。RB各バンド画像をフレームメモリーに生成する際にはB画素アドレスへのR補間、R画素アドレスへのB補間が必要となるが、その際は、フレームメモリー上の左右隣接2画素の平均値を用いる。垂直2画素混合のフィールド読み出しは、全画素読み出しと比較して、垂直解像力と静止画画質が劣るが、内視鏡では先に述べた単板補色型との構造共通化、2画素混合による感度向上、及び、固体撮像素子の駆動周波数低減を優先してフィールド読み出しとするのが望ましい。なお、汎用の2板撮像装置としては単板補色型との構造共通化が不要な場合もあり、その場合は、画質・感度・駆動周波数のバランスを考慮してフィールド読み出しとするか全画素読み出しとするか決め、第2固体撮像素子3のフィルタ配列を決めればよい。
【0045】
本発明の全実施例では、耐性品質確保のために、多板撮像装置1のプリズム群と固体撮像素子を空気間隔なしで一体化している。なお、円形のレンズやフィルタからなる対物レンズ6は、枠構造の工夫による封止性確保で湿気対策可能であり、また、熱膨張・収縮に対しても比較的寛容であるため、空気間隔があることに問題はない。
【0046】
第1実施例のプリズム形状は、小型化のために45°斜面を有する三角プリズム2個をベースに構成している。この形状が径・長さ両方向の小型化に最も有利であり、かつ、最も簡素である。
【0047】
第1実施例の2板撮像装置1の組立では、以下の工程設定が可能である。
工程(1):第1プリズム4と第1固体撮像素子2をG画像心出し調整後、接合する。
工程(2):第1プリズム4に対し、第2プリズム5を2板間の光路差調整後、接合する。
工程(3):第2プリズム5と第2固体撮像素子をレジストレーション調整後、接合する。
【0048】
第1実施例では、色分解コーティングが第1中間面14にあるため、第1プリズム4と第1固体撮像素子2の結像位置が第2プリズム5に依存せず、工程(1)完了時点でG画像側の像位置と光路長が確定する。このため、工程(2)以降により工程(1)の結果がずれることがない。なお、色分解コーティングを第2プリズム5の第1入射面6に配置することも可能であるが、この場合、接着剤10の厚みに応じて像位置と光路長がシフトするため、工程(2)により工程(1)の結果がずれ、また、工程(2)の作業が複雑化する。このため、色分解コーティングは第1中間面14に配置するのが望ましい。工程(2)では工程(1)で確定したG画像を基準とした調整が可能であり、2板間の光路差調整は、第2プリズム5を45°傾斜方向にスライドさせることで行える。なお、工程(2)では、光路差調整時に封止ガラス板8、9の厚み誤差に関する配慮が必要であり、第2固体撮像素子3を第2プリズム近傍に仮固定して2つの固体撮像素子を撮像状態とし、画像処理による調整ずれ検出を行うのが望ましい。また、工程(3)でも、画像処理によるレジストレーションずれ検出が有効である。これら3つの接合工程全てにおいて、固体撮像素子が紫外線に曝されるため、本発明の課題2の構成を満足させることは、製造工程設定のためにも非常に重要である。
【0049】
従来から知られるこのタイプの課題は、45°斜面に配置した色分解コーティングの角度・偏光特性に起因する色シェーディングであるが、本発明では、課題1に対応する構成を採用することで不具合を回避できる。図3に示す第1実施例構成物の分光特性においてて、(1)〜(5)式に関連する数値データは以下の通りである。
【0050】
λcB=500nm, λcR=562nm
λiB=500nm, λiR=577nm
λiR−λcR=15nm
λcB−λiB=0nm
図5に本発明の第1実施例の分光エネルギー分布を示す。Rバンドの分光感度特性55は、図3のRフィルタ画素分光感度51、色分解コーティングの光軸入射に対する分光透過率53、吸収型赤外カットフィルタ分光透過率54を掛け合わせたものである。Bバンドの分光感度特性57は、図3のBフィルタ画素分光感度52、色分解コーティングの光軸入射に対する分光透過率53、吸収型赤外カットフィルタ分光透過率54を掛け合わせたものである。Gバンドの分光感度特性56は、色分解コーティングの光軸入射に対する分光透過率53を分光反射率に変換し、吸収型赤外カットフィルタ分光透過率54を掛け合わせたものである。なお、本来であればGバンドの分光感度特性56には第1固体撮像素子2の分光感度特性を掛け合わせるべきだが、白黒固体撮像素子の分光感度はGバンド波長域で比較的フラットであるため、ここでは考慮に含めない。
【0051】
先に定義したRGB各バンド毎の光エネルギーER 、EG 、EB は図5の分光感度曲線の積分値として算出できるため、色シェーディングを反映するデータとして、第1実施例のER /EG 、EB /EG を以下に示す。
【0052】
波長シフト EB /EG R /EG
−15nm 1.07(−12%) 0.62(±0%)
設計 1.21 0.62
+15nm 1.34(+11%) 0.60(−3%)
なお、上記の()内は、設計値に対する変動率を示す。第1実施例では、λiR−λcRを正の値に大きくとっているため、ER /EG 設計値変動率が非常に小さく、色シェーディングはEB /EG の変動として現れることになる。ただし、色シェーディングの許容値はEB /EG 設計値変動率とER /EG 設計値変動率の絶対値単純和で15%程度である。第1実施例の場合、波長シフト−15nmでの絶対値単純和が12%、波長シフト+15nmでの絶対値単純和が14%であり、15%以内に入るため、第1実施例では±15nm程度の波長シフトを許容できる。
【0053】
続いて、本発明の(1)〜(3)式を同時に満足しない場合の例として、λcB、λcRを第1実施例に対して+20nmシフトした設計例をあげる。
【0054】
λcB=520nm, λcR=582nm
λiR−λcR=−5nm
λcB−λiB=20nm

波長シフト EB /EG R /EG
−15nm 1.26(−9%) 0.62(+5%)
設計 1.38 0.59
+15nm 1.51(+9%) 0.53(−10%)
この場合は、第1実施例に比較して、ER /EG 設計値変動率が大きく、EB /EG 設計値変動率が小さい。ただし、波長シフト−15nmでの絶対値単純和が14%、波長シフト+15nmでの絶対値単純和が19%であり、第1実施例よりも色シェーディングの発生量が大きい。このため、第1実施例で許容できる波長シフト+15nmが許容できなくなり、望ましくない。
【0055】
図6に本発明の第2実施例の側面図を示す。第2実施例は、2板撮像装置1内にプリズム保持ガラス19を有する点が特徴である。プリズム保持ガラス19は、第1プリズム4の第1入射面13に接着剤20で固定する。接着剤20は接着剤10〜12と同じものであり、第1実施例の2板撮像装置1の全接合が終了した後に接合する。第1実施例のプリズム群は何らかの枠で保持する必要があるが、プリズムを直接保持する枠形状は一般に複雑となる。これに対し、第2実施例の構造は、プリズム保持ガラス19を枠で受ける構造とすれば、プリズムを枠で保持する必要がない。このため、枠構造を簡略化できる。さらには、主に金属部材からなる枠とプリズム間に発生する熱応力を気にかけずにプリズム形状を決められるメリットがある。この場合も、本発明の課題2に対応した構成をとることで、固体撮像素子への紫外線による損傷を回避できる。フレア絞り18は、プリズム保持ガラス19上の第1プリズム4側の面にクロム蒸着で形成する。この構造により、空気間隔なしで2板撮像装置1を維持した上で、2板撮像装置1内にフレア絞り18を実装でき、第1入射面13端部でのバリ等に起因するフレアを回避することができる。
【0056】
図7に本発明の第3実施例の側面図を示す。第1入射面13に対する第1中間面14の角度が第1実施例と異なり42°である。第1実施例と比べて、色分解コーティング面への光入射角がわずかながら垂直に近づくため、角度変動に強く、また、偏光特性もP偏光・S偏光成分の差が縮まり改善される。
【0057】
図8に本発明の第4実施例の側面図を示す。第1入射面13に対する第1中間面14の角度が第1・第2実施例と異なり48°である。第1入射面13の有効径を他の実施例に比べて大きくとれるメリットがある。
【0058】
このように、第1入射面13に対する第1中間面14の角度は45°を中心として多少
の変更が許される。ただし、40°未満若しくは50°以上になると、第1固体撮像素子2の傾きが大きくなり、それに伴って径方向の寸法が増大するため好ましくない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上の本発明の2板撮像装置によると、内視鏡先端部への実装可能なサイズと品質を確保しつつ、簡素なプリズム構成を維持したままで、色シェーディングを抑制できる分光設計を有し、環境耐性と組立性が良く、固体撮像素子に対する投資効率の良い2板撮像装置を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0060】
1…2板撮像装置
2…第1固体撮像素子
3…第2固体撮像素子
4…第1プリズム
5…第2プリズム
6…対物レンズ
7…赤外カットフィルタ
8…第1封止ガラス板
9…第2封止ガラス板
10、11、12…接着剤
13…第1入射面
14…第1中間面
15…第1出射面
16…第2入射面
17…第2出射面
18…フレア絞り
19…プリズム保持ガラス
20…接着剤
51…Rフィルタ画素分光感度
52…Bフィルタ画素分光感度
53…色分解コーティングの光軸入射に対する分光透過率
54…吸収型赤外カットフィルタ分光透過率
55…Rバンドの分光感度特性
56…Gバンドの分光感度特性
57…Bバンドの分光感度特性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光経路順に第1入射面、第1中間面、第1出射面を有し、前記第1中間面が前記第1入射面に対し40°から50°の範囲内で傾斜している第1プリズム、
第2入射面、第2出射面を有し、前記第2入射面を前記第1プリズムの前記第1中間面に接合する第2プリズム、
前記第1中間面に配置した緑色光を反射する色分解コーティング、
第1封止ガラス板を介して前記第1出射面に接合し前記色分解コーティング反射光を撮像する第1固体撮像素子、
第2封止ガラス板を介して前記第2出射面に接合し前記色分解コーティング透過光を撮像する赤色透過と青色透過のオンチップフィルタを有する第2固体撮像素子を備え、
前記第1プリズムと前記第2プリズムは屈折率1.76以下、アッベ数52以上の同一硝材Gp からなり、前記第1封止ガラス板、前記第2封止ガラス板は前記硝材Gp よりも紫外線透過率の低い同一硝材Gi からなり、前記硝材Gp との屈折率差が0.15以下の紫外線硬化性を有する光学接着剤を用いて、前記第1プリズムと前記第2プリズム、前記第1プリズムと前記第1固体撮像素子、前記第2プリズムと前記第2固体撮像素子とを接合したことを特徴とする2板撮像装置。
【請求項2】
緑色光を反射する色分解コーティングを有するプリズム群、前記色分解コーティング反射光を撮像する第1固体撮像素子、赤色透過と青色透過のオンチップフィルタを有し前記色分解コーティング透過光を撮像する第2固体撮像素子を備え、前記第2固体撮像素子のオンチップフィルタ配列を垂直ストライプ型とし、かつ、前記第1固体撮像素子、前記第2固体撮像素子を同画素数、同画素寸法、かつ、垂直2画素混合でフィールド読み出し可能としたことを特徴とする2板撮像装置。
【請求項3】
請求項1記載の2板撮像装置の製造方法であって、第1の接合工程として前記第1プリズムと前記第1固体撮像素子を心出し調整して接合し、第2の接合工程として前記第1プリズムに対し前記第2プリズムを2板間の光路差調整して接合し、第3の接合工程として前記第2プリズムと前記第2固体撮像素子をレジストレーション調整して接合することを特徴とする2板撮像装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−235109(P2011−235109A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127387(P2011−127387)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【分割の表示】特願2005−335251(P2005−335251)の分割
【原出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(304050923)オリンパスメディカルシステムズ株式会社 (1,905)
【Fターム(参考)】