説明

2次元フォトニック結晶及びそれを用いた光デバイス

【課題】 TE偏波とTM偏波の双方に対する条件を容易に満たすことができる2次元フォトニック結晶を提供する。
【解決手段】 本体20に、第1領域21には円形の空孔23を三角格子状に、第2領域22には正三角形の空孔24を三角格子状に、それぞれ配置する。これにより、第1領域21にはTE偏波に対するフォトニックバンドギャップ(PBG)であるTE-PBGが、第2領域22にはTM偏波に対するPBGであるTM-PBGが、それぞれ形成される。第1領域21と第2領域22では空孔の周期や大きさ等のパラメータを独立に設定することができるため、TE-PBGとTM-PBGに共通するエネルギー領域(完全PBG)を大きく、且つ容易に形成することができる。この完全PBG内のエネルギーに対応する導波路25や共振器26、27等を形成することにより、偏波分合波器や、偏波に依存しない周波数(波長)分合波器などを形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光分合波器等の光デバイスに用いられる2次元フォトニック結晶に関する。なお、本願において用いる「光」には、可視光以外の電磁波も含むものとする。
【背景技術】
【0002】
光通信は今後のブロードバンド通信の中心的役割を担う通信方式であることから、その普及のために、光通信システムに使用される光部品類に対して更なる高性能化、小型化、低価格化が求められている。このような要求を満たす次世代光通信部品の有力候補のひとつとして、フォトニック結晶を利用した光通信用デバイスがある。これは既に一部で実用段階に入っており、偏波分散補償用フォトニック結晶ファイバーなどが実用に供されている。現在では更に、波長分割多重通信(Wavelength Division Multiplexing:WDM)に使用される光分合波器等の開発が実用化に向けて進められている。
【0003】
フォトニック結晶は、誘電体に周期構造を形成したものである。この周期構造は一般に、誘電体本体とは屈折率が異なる領域(異屈折率領域)を誘電体本体内に周期的に配置することにより形成される。その周期構造により、結晶中に光のエネルギーに関するバンド構造が形成され、光の伝播が不可能となるエネルギー領域が形成される。このようなエネルギー領域は「フォトニックバンドギャップ」(Photonic Band Gap:PBG)と呼ばれる。
【0004】
このフォトニック結晶中に適切な欠陥を設けることにより、PBG中にエネルギー準位(欠陥準位)が形成され、その欠陥準位に対応する波長の光のみがその欠陥の近傍に存在できるようになる。点状に形成された欠陥はその波長の光の光共振器として使用することができ、線状に形成された欠陥は導波路として使用することができる。
【0005】
上記技術の一例として、特許文献1には、本体(スラブ)に異屈折率領域を周期的に配置し、その周期的配置に欠陥を線状に設けることにより導波路を形成するとともに、その導波路に隣接して点状欠陥を形成した2次元フォトニック結晶が記載されている。この2次元フォトニック結晶は、導波路内を伝播する様々な波長の光のうち共振器の共振波長に一致する波長の光を外部へ取り出す分波器として機能すると共に、外部から導波路に導入する合波器としても機能する。
【0006】
特許文献1に記載のものを含め、多くの2次元フォトニック結晶では、電場が本体に平行に振動するTE偏波又は磁場が本体に平行に振動するTM偏波のいずれか一方の偏波に対してPBGが形成されるように設計される。この場合、他方の偏波に対してはPBGが形成されない場合や、形成されたとしてもそれが該一方の偏波のPBGとは異なるエネルギー領域に形成される場合には、同一の周波数(波長、エネルギー)のTE偏波とTM偏波を一緒に用いることはできない。
【0007】
例えば、WDMにおいて同一の周波数に対して更にTE偏波とTM偏波を独立に用いることができれば、それを行わない場合よりも多重数を2倍に増やすことができる(偏波多重)。しかし、上記のように、従来の2次元フォトニック結晶を用いた光合分波器では、同一周波数のTE偏波とTM偏波の双方を独立に使用することができないため、偏波多重を行うことが困難である。
【0008】
そこで、TE偏波及びTM偏波の両方に対してPBGを形成し、その両PBGが共通域を持つようにした2次元フォトニック結晶を作製することが検討されている。以下、この共通域を「完全フォトニックバンドギャップ(完全PBG)」と呼ぶ。例えば、特許文献2には、スラブ状の本体に三角形(三角柱状)の空孔を三角格子状に周期的に配置することにより完全PBGが形成される2次元フォトニック結晶が記載されている。この特許文献2に記載の2次元フォトニック結晶では、完全PBG内の周波数の光は、TE偏波及びTM偏波をそれぞれ独立に用いることができる。
【0009】
【特許文献1】特開2001-272555号公報([0023]〜[0027]、[0032]、図1、図5〜6)
【特許文献2】特開2004-294517号公報([0021]〜[0022]、[0041]〜[0043]、図1、図14〜17)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
偏波多重光合分波器を作製するためには、TE偏波を導波路から取り出し/導波路へ導入するための点状欠陥(共振器)と、TM偏波を導波路から取り出し/導波路へ導入するための点状欠陥をそれぞれ導波路の近傍に設け、両者の共振周波数を一致させる必要がある。そのためには、異屈折率領域の周期(格子定数)・大きさ及び形状、本体の厚さ、本体及び異屈折率領域の屈折率等のパラメータを適切に設定する必要がある。しかし、一方の偏波に対する条件が最適になるようにパラメータを設定すると、他方の偏波に対する条件も変化してしまう。そのため、両方の偏波に対する条件を共に満たすように設計することは難しい。
【0011】
例えば、特許文献2に記載の2次元フォトニック結晶では完全PBGは形成されるが、図1に示すようにTE偏波に対するPBG(TE-PBG11)とTM偏波に対するPBG(TM-PBG12)に共通するエネルギー領域(共通エネルギー領域13)は、双方のPBGのうちのごく一部のエネルギー領域にしか形成されない。仮に、矢印14で示すようにTE-PBG又はTM-PBGのいずれかのエネルギー領域を移動させることができれば共通エネルギー領域13のエネルギー幅を大きくすることができるが、実際にはいずれか一方のPBGのエネルギー領域を移動させるために上記パラメータを変更すると、他方のPBGのエネルギー領域も移動してしまう。
【0012】
このような問題は、上記偏波多重光合分波器に限らず、偏光分離素子や偏波分散補償器等の、TE偏波とTM偏波の違いを利用するフォトニック結晶を用いた光デバイスに共通して生じる。また、TE偏波とTM偏波の違いを利用する場合以外にも、例えば、偏波の違いに関わらず特定の波長の光を合分波する場合には、上記と同様の問題が生じる。
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、TE偏波とTM偏波の双方に対する条件を容易に満たすことができる2次元フォトニック結晶及びそれを用いた光デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために成された本発明に係る2次元フォトニック結晶は、スラブ状の本体に周期的に屈折率分布を設けて成るものであって、
a) TE偏波に対するフォトニックバンドギャップを有する第1領域と、
b) 第1領域に隣接して設けられ、少なくとも一部のエネルギー領域が前記TE偏波フォトニックバンドギャップと共通する、TM偏波に対するフォトニックバンドギャップを有する第2領域と、
を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の2次元フォトニック結晶は、第1領域の屈折率分布を、円形の異屈折率領域を三角格子状に配置したものとし、第2領域の屈折率分布を、正三角形の異屈折率領域を三角格子状に配置したものとすることができる。
【0016】
本発明の2次元フォトニック結晶は更に、第1領域と第2領域の双方を通る導波路を備えることができる。
【0017】
前記導波路を備えた本発明の2次元フォトニック結晶は更に、第1領域及び第2領域の導波路の近傍にそれぞれ、その領域に対応する偏波、即ちその領域においてフォトニックバンドギャップが形成される偏波が共振する共振器を備えることができる。
【0018】
前記導波路及び共振器を備えた本発明の2次元フォトニック結晶は更に、前記第1領域又は前記第2領域のいずれか一方を通り、前記導波路と共に該一方の領域の共振器を挟むように形成される第2導波路を備えることができる。
【0019】
前記導波路及び共振器を備えた本発明の2次元フォトニック結晶は更に、前記第1領域及び前記第2領域の双方を通り、前記導波路と共に双方の領域の共振器を挟むように形成される第2導波路を備えることができる。
【0020】
前記導波路を備えた本発明の2次元フォトニック結晶を1つの構成単位として、該構成単位を複数個接続して形成され、全構成単位の導波路が連続しいる2次元フォトニック結晶を構成することができる。
【0021】
本発明の2次元フォトニック結晶は、本体の厚さが全ての領域で等しいことが望ましい。
【0022】
本発明の2次元フォトニック結晶を用いて、波長合分波器、偏光分離素子、偏波分散補償器等の光機能素子を構成することができる。
【発明の実施の形態及び効果】
【0023】
本発明に係る2次元フォトニック結晶は、1個の2次元フォトニック結晶内に形成された、TE-PBGを有する第1領域と、TM-PBGを有する第2領域から成る。第1領域には従来のTE-PBGを有する2次元フォトニック結晶と同様のものを、第2領域には従来のTM-PBGを有する2次元フォトニック結晶と同様のものを、それぞれ用いることができる。
【0024】
この2次元フォトニック結晶において同一の周波数のTE偏波とTM偏波を共に利用できるようにするために、第1領域のPBGと第2領域のPBGが共通のエネルギー領域(周波数領域、波長領域)を持つように第1領域及び第2領域の異屈折率領域の周期・大きさ及び形状、本体の厚さ、本体及び異屈折率領域の屈折率等のパラメータを設定する。本発明では第1領域と第2領域のパラメータを独立に設定することができるため、共通エネルギー領域を容易に且つ従来よりも広く形成することができる。
【0025】
例えば図2に示すように、一方のPBG(この図では第2領域のPBG)が他方のPBGのエネルギー領域に完全に含まれるようにすることができる。この場合、当該一方のPBGのエネルギー領域の全体が共通エネルギー領域13となる。
【0026】
なお、第1領域にはTE-PBGが形成されさえすれば更にTM-PBGが形成されてもよく、同様に、第2領域にはTM-PBGが形成されさえすれば更にTE-PBGが形成されてもよい。しかし、一方の領域にTE-PBGとTM-PBGが形成されたとしても、その領域でTE-PBGとTM-PBGの両方を利用するよりも、第1領域ではTE-PBGを、第2領域ではTM-PBGを、それぞれ利用する方が、共通エネルギー領域を大きく取ることができ、また、各偏波に対して最適な条件を設定することが容易である、という利点があるため望ましい。
【0027】
第1領域は、例えば特許文献1に記載のように、本体に円形の異屈折率領域を三角格子状に設けることにより形成することができる。第2領域は、例えば特許文献2に記載のように、本体に三角形の異屈折率領域を三角格子状に設けることにより形成することができる。もちろん、その他の構成により第1領域及び第2領域を形成することもできる。
【0028】
一般的には、1枚のスラブ状の本体に第1領域及び第2領域を形成するのが製造面等で有利であるため、上記のパラメータのうち本体の厚さ及び屈折率は第1領域及び第2領域で同一とすることが望ましい。この場合、第1領域及び第2領域は、異屈折率領域の周期・大きさ及び形状を適宜設定することにより形成する。
【0029】
異屈折率領域は、本体とは屈折率の異なる物質を本体に埋め込むことにより形成することも可能ではあるが、本体に空孔を設けて形成する方が、製造が容易であり、本体との屈折率差を大きくすることができるため望ましい。
【0030】
このように第1領域と第2領域が形成された2次元フォトニック結晶は、例えば、共通エネルギー領域に対応する周波数領域内の周波数を有するTE偏波、TM偏波を共に反射するフォトニック結晶ミラーに用いることができる。更に、本発明の2次元フォトニックを様々な光機能素子に適用するために、以下に述べるように、2次元フォトニック結晶内に導波路や共振器を設けることができる。
【0031】
第1領域と第2領域が形成された2次元フォトニック結晶に、第1領域と第2領域を通る導波路を設けることができる。この導波路は従来の2次元フォトニック結晶と同様に、周期屈折率分布の欠陥を線状に設けることにより形成することができる。また、導波路の幅や異屈折率領域のパラメータ等を調整することにより、導波路を通過することのできる光の周波数帯域(通過周波数帯域)を適宜設定することができる。この場合にも、第1領域と第2領域では独立にパラメータを設定することができるため、所定の通過周波数帯域を有する導波路を容易に形成することができる。
【0032】
上記のように所定の通過周波数帯域を有する導波路を容易に形成することができるため、例えば、以下のように光機能素子を作製することができる。第1領域ではTE偏波に対して、第2領域ではTM偏波に対して、同一周波数の欠陥準位がPBG内に設定されるように導波路を形成する。そして、第1領域では、TM偏波の導波帯域であるTM-フォトニックバンド(PBGではない)内にこの周波数が入るようにパラメータを設定する。一方、第2領域では、この周波数がTE-PBG内に入るようにする(三角形の異屈折率領域を三角格子状に設けた場合には、TM偏波のみならずTE偏波に対してもPBGを形成することができる)。この構成によれば、第1領域の導波路に上記周波数のTE偏波とTM偏波を導入した時、第1領域の導波路ではTE偏波、TM偏波の双方が伝播することができるのに対して、第2領域の導波路では上記周波数がTE-PBG内にあるためTE偏波が伝播することができず、TM偏波のみ伝播可能である。従って、上記周波数のTE偏波は第1領域と第2領域の境界において反射され、それに対して、同じ周波数を有するTM偏波はこの境界を通過することができるため、同一周波数のTE偏波とTM偏波を分離することができる。
【0033】
本発明の2次元フォトニック結晶に更に共振器を設けることができる。この共振器は、異屈折率領域の欠陥を点状に設けて成る点状欠陥により形成することができる。点状欠陥は、それを設けようとする位置の異屈折率領域の径や形状を変化させたり、異屈折率領域を埋めたりする(異屈折率領域を設けない)ことにより形成することができる。点状欠陥には、1個の異屈折率領域のみから成る単純な点欠陥や、隣接する複数の異屈折率領域から成るクラスタ型欠陥がある。このような点状欠陥を形成することにより、PBG内に欠陥準位が形成され、その欠陥準位に対応する周波数の光がその点状欠陥において共振する。欠陥準位のエネルギー値、即ち共振周波数は、点状欠陥の位置・形状・大きさや異屈折率領域の周期等のパラメータにより定まる。これらのパラメータを適切に設定することにより、第1領域には所望の周波数のTE偏波が共振する共振器を、第2領域には所望の周波数のTM偏波が共振する共振器を、それぞれ形成することができる。このような共振器の詳細は特許文献1及び2に記載されている。本発明の2次元フォトニック結晶では、1個の2次元フォトニック結晶内の第1領域及び第2領域において、互いに影響を及ぼすことなく独立に共振器を設計することができる。
【0034】
このように共振器を設けた本発明の2次元フォトニック結晶は種々の光デバイスに用いることができる。
例えば、偏光面の違いにより光を分波し、及び/又は偏光面の異なる光を合波する偏波多重合分波器として用いることができる。この偏波多重合分波器においては、第1領域には所定の周波数のTE偏波に共振する共振器を設け、第2領域には同じ共振周波数のTM偏波に共振する共振器を設ける。導波路は、(i)第1領域では上記周波数のTE偏波とTM偏波の双方が通過できるように形成し、第2領域では上記周波数のTM偏波のみが通過できるように形成するか、(ii)第2領域では上記周波数のTE偏波とTM偏波の双方が通過できるように形成し、第1領域では上記周波数のTE偏波のみが通過できるように形成する。
このように構成される偏波多重合分波器では、導波路を伝播する上記周波数のTE偏波及びTM偏波のうち、TE偏波を第1領域の共振器から、TM偏波を第2領域の共振器から、それぞれ分波する。同様に、上記周波数のTE偏波を第1領域の共振器から、TM偏波を第2領域の共振器から、導波路へ合波する。この偏波多重合分波器では、同一の周波数を有するTE偏波とTM偏波を独立に使用することができる。
【0035】
第1領域及び/又は第2領域の共振器から光を取り出す(光分波器の場合)ため又は第1領域及び/又は第2領域の共振器に光を導入する(光合波器の場合)ため、本発明の2次元フォトニック結晶に、上記導波路(ここでは「第1導波路」と呼ぶ)に加えて更に第2の導波路を設けてもよい。第2導波路は、第1領域又は第2領域のいずれか一方を通り、第1導波路と共にその領域にある共振器を挟むように形成する。これにより、その領域において、その共振器に共振する波長及び偏波の光を第2導波路に取り出すことができる。同様に、その共振器に共振する波長及び偏波の光を第2導波路からその共振器を通して第1導波路に合波することができる。この第2導波路は、第1領域及び第2領域の双方にそれぞれ1本ずつ設けてもよい。
【0036】
また、第2導波路は、第1領域及び前記第2領域の双方を通るようにし、双方の領域において第1導波路と共に共振器を挟むように形成してもよい。この2次元フォトニック結晶は、所定の周波数の光を偏波に依らずに分波及び合波する偏波無依存型周波数(波長)合分波器として用いることができる。
従来の2次元フォトニック結晶周波数(波長)合分波器では、周期構造、導波路、共振器はTE偏波又はTM偏波の一方にのみ適した構成であったため、導波路を伝播する他方の偏波の光の一部は分波されずに損失となっていた。それに対してこの偏波無依存型周波数(波長)合分波器では、所定周波数のTE偏波は第1領域の共振器により、該周波数のTM偏波は第2領域の共振器により、それぞれ第2導波路に分波されるため、このような損失が生じることがない。
【0037】
第1領域と第2領域を1つの構成単位として、それを複数個接続し、全ての構成単位の導波路を接続した2次元フォトニック結晶を形成することができる。この2次元フォトニック結晶において、例えば、構成単位毎に共振周波数の異なる共振器を設けることにより、複数の周波数についてそれぞれTE偏波とTM偏波を独立に用いることができる光デバイスを形成することができる。また、それら複数の周波数についてそれぞれTE偏波とTM偏波を独立に合波・分波することができ、それにより、偏波を区別しない場合と比較して多重数が2倍になる光合分波器を得ることができる。
【実施例】
【0038】
本発明の2次元フォトニック結晶の実施例を、図3〜図11を用いて説明する。
図3に、本発明の2次元フォトニック結晶の基本的な構造の一例を示す。本体20は、SiやInGaAsP等、空気よりも屈折率が十分に高い材料を用いて板状(スラブ状)に形成される。本体20は第1領域21と第2領域22から成る。第1領域21には円形の空孔23(異屈折率領域)が、第2領域22には正三角形の空孔24が、それぞれ三角格子状に配置される。後に詳述するように、この構成により第1領域にはTE-PBGが、第2領域にはTM-PBGが形成される。以下、このようなTE-PBGが形成される領域とTM-PBGが形成される領域が接続された構造を「偏波ヘテロ構造」と呼ぶ。
【0039】
本実施例の2次元フォトニック結晶(図3)と、比較例として従来の2次元フォトニック結晶(図4)について、フォトニックバンドを計算した結果について述べる。
まず、比較例の2次元フォトニック結晶について説明する。この2次元フォトニック結晶は、正三角形の空孔が三角格子状に配置されたものであり、本実施例(図3)の第2領域22と同様の構成を有する。この構成は1つの2次元フォトニック結晶においてTE-PBGとTM-PBGが形成されるものであることが知られている(特許文献2)。
【0040】
計算に用いたパラメータについて述べる。本実施例及び比較例共に空孔の周期をaとし、本体の厚さを0.6a、本実施例の第1領域における円形空孔の半径を0.35a、第2領域及び比較例における正三角形空孔の1辺の長さを0.95aとした。また、本体の屈折率を3.4(Siの屈折率)とした。
【0041】
比較例の2次元フォトニック結晶のバンド図を図5(a)及び(c)に、本実施例の2次元フォトニック結晶のバンド図を図5(b)及び(d)に、それぞれ示す。ここで、(c)及び(d)は、それぞれ(a)及び(b)の拡大図である。図5(a), (c)にはTE偏波に関するバンド図とTM偏波に関するバンド図を並べて記載し、(b), (d)には第1領域におけるTE偏波に関するバンド図と第2領域におけるTM偏波に関するバンド図を並べて記載した。縦軸は周波数をc/a(cは光速)で除した規格化周波数で示した。比較例ではTE-PBGとTM-PBGが一部のみ重複するのに対して、本実施例では第2領域のTM-PBGのエネルギー(周波数)領域が全て第1領域のTE-PBG内に収まる。そのため、TE-PBGとTM-PBGが重複するエネルギー領域である完全PBG31は、比較例よりも本実施例の方が大きい。このように完全PBG31を大きくすることができることにより、光合分波器の設計の自由度を高めることができる。
【0042】
なお、実際には、第2領域のTM-PBGの領域の全体が完全PBG31になるように上記のパラメータを定めた。このようにパラメータを定めることができるのは、本発明によりTE-PBGとTM-PBGを独立に調整できるためである。
【0043】
図6に、導波路と共振器を形成した偏波ヘテロ構造2次元フォトニック結晶の一実施例を示す。第1領域21に空孔23による周期構造を設けない線状の空間である線状欠陥を形成し、この第1領域21の線状欠陥と接続されるように、第2領域22に同様の線状欠陥を形成する。これにより、第1領域21と第2領域の22の双方を通る導波路25を形成する。第1領域21中において、導波路25から3列の空孔23を介した位置に、直線状に並んだ空孔23の3個分の点状欠陥を設けることにより共振器26を形成する。同様に、第2領域22中に共振器27を形成する。
【0044】
図6の偏波ヘテロ構造2次元フォトニック結晶について、図7のバンド図を用いて説明する。第1領域21にはTE-PBG41が形成され、第2領域22にはTE-PBG42が形成される。第1領域21の導波路25にはTE-PBG41内にTE偏波の通過周波数帯域(TE-WG43)が形成され、第2領域22の導波路25には、TM-PBG41内にTM偏波の通過周波数帯域(TM-WG44)が形成される。TE-WG43とTM-WG44はいずれもPBG内に欠陥準位が形成されて成るものである。一方、第1領域21の導波路25では、TM導波路モードが図7中の曲線45として得られ、入射したTM偏波光は本体20と空孔23及び外部との屈折率差により導波路25内に閉じ込められ、その中を伝播することができる。これにより、周波数ω0の光は、TE偏波が第1領域21の導波路25を、TM偏波が第1領域21及び第2領域22の双方の導波路25を伝播することができる。この周波数ω0のTE偏波に共振するように共振器26のパラメータ(形状、大きさ等)を、周波数ω0のTM偏波に共振するように共振器27のパラメータを、それぞれ設定する。これにより、この偏波ヘテロ構造2次元フォトニック結晶は、導波路25内を伝播する光のうち周波数ω0のTE偏波を共振器26を介して、周波数ω0のTM偏波を共振器27を介して、それぞれ結晶外部へ分波する偏波分波器となる。同様に、この2次元フォトニック結晶は、周波数ω0のTE偏波を結晶外部から共振器26を介して、周波数ω0のTM偏波を結晶外部から共振器27を介して、導波路25に合波する偏波合波器となる。
【0045】
図8に、偏波ヘテロ構造2次元フォトニック結晶に更に、第1領域21に共振器26の近傍を通る導波路28を、第2領域22に共振器27の近傍を通る導波路29を、それぞれ形成した2次元フォトニック結晶を示す。共振器26は導波路25と導波路28に、共振器27は導波路25と導波路29に、それぞれ挟まれるように形成する。この構成により、導波路25から導波路28及び導波路29にそれぞれ周波数ω0のTE偏波及びTM偏波が分波され、導波路28及び導波路29からそれぞれ周波数ω0のTE偏波及びTM偏波が導波路25に合波される。
【0046】
図9に、偏波ヘテロ構造2次元フォトニック結晶に更に、第1領域21と第2領域22の双方を通る導波路30を形成した2次元フォトニック結晶を示す。共振器26及び27は共に、導波路25と導波路30に挟まれるように形成する。この構成により、導波路25を伝播する様々な波長及び偏波の光のうち、周波数ω0のTE偏波は共振器26を介して導波路30に分波され、同様に導波路25を伝播する周波数ω0のTM偏波は共振器27を介して導波路30に分波される。これにより、導波路25を伝播する周波数ω0の光をその偏波に依らずに導波路30に分波することができる。合波器としての作用も同様である。
【0047】
図9に示した構成では、導波路25を伝播するTM偏波の一部は共振器27を通過する。そこで、図10に示すように、第1領域21とは反対側の第2領域22の端部に、導波路25を伝播する光を反射する反射部50を設けることが望ましい。これにより、共振器27を通過した光は反射部50により反射され、共振器27に導入される確率が高くなり、分波効率が向上する。この反射面は、例えば導波路25を伝播する光の偏波及び周波数がPBGに含まれるような2次元フォトニック結晶を該端部に接続することにより形成することができる。
【0048】
図11に、第1領域21とは反対側の第2領域22の端部に、第1領域21及び第2領域と相似形の第3領域51及び第4領域52を接続した偏波ヘテロ構造2次元フォトニック結晶を示す。第3領域51及び第4領域52はそれぞれ、同一の割合で第1領域21及び第2領域を縮小したものである。第1領域21から第4領域52にかけて導波路53を形成し、導波路53から空孔3列分を隔てて各領域に共振器54、55、56、57を形成する。また、第1領域21と第2領域22のみを通過する導波路58を、導波路53と導波路58が共振器54と共振器55を挟むように形成する。同様に、第3領域51と第4領域52のみを通過する導波路59を、導波路53と導波路59が共振器56と共振器57を挟むように形成する。この2次元フォトニック結晶では、TE偏波は共振器54と共振器56において、TM偏波は共振器55と共振器57において、それぞれ異なる周波数ω1及びω2で共振する。これにより、第1領域21及び第2領域22から周波数ω1の光を偏波に依らずに導波路58に分波し、第3領域51及び第4領域52から周波数ω2の光を偏波に依らずに導波路59に分波することができる。合波の場合も同様である。更に3組以上の相似形の偏波ヘテロ構造2次元フォトニック結晶を接続してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】従来の2次元フォトニック結晶におけるPBGの模式図。
【図2】本発明に係る2次元フォトニック結晶におけるPBGの模式図。
【図3】本発明に係る2次元フォトニック結晶の一実施例の平面図。
【図4】比較例の2次元フォトニック結晶の平面図。
【図5】比較例及び本実施例の2次元フォトニック結晶のフォトニックバンド図。
【図6】導波路及び共振器を形成した本実施例の2次元フォトニック結晶の平面図。
【図7】図6の2次元フォトニック結晶のフォトニックバンド図。
【図8】各共振器の近傍にそれぞれ更に導波路を形成した2次元フォトニック結晶の平面図。
【図9】第1領域と第2領域の双方を通る更に導波路を形成した2次元フォトニック結晶の平面図。
【図10】第2領域の端部に反射面を形成した2次元フォトニック結晶の平面図。
【図11】相似形である2組の偏波ヘテロ構造2次元フォトニック結晶を接続した構造を有する2次元フォトニック結晶の平面図。
【符号の説明】
【0050】
11、41…TE-PBG
12、42…TM-PBG
13…共通エネルギー領域
20…本体
21…第1領域
22…第2領域
23…円形の空孔
24…正三角形の空孔
25、28、29、30、53、58、59…導波路
26、27、54、55、56、57…共振器
31…完全PBG
43…TE-WG
44…TM-WG
50…反射部
51…第3領域
52…第4領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラブ状の本体に周期的に屈折率分布を設けて成る2次元フォトニック結晶であって、
a) TE偏波に対するフォトニックバンドギャップを有する第1領域と、
b) 第1領域に隣接して設けられ、少なくとも一部のエネルギー領域が前記TE偏波フォトニックバンドギャップと共通する、TM偏波に対するフォトニックバンドギャップを有する第2領域と、
を備えることを特徴とする2次元フォトニック結晶。
【請求項2】
第1領域の屈折率分布が、円形の異屈折率領域を三角格子状に配置したものであり、第2領域の屈折率分布が、正三角形の異屈折率領域を三角格子状に配置したものであることを特徴とする請求項1に記載の2次元フォトニック結晶。
【請求項3】
第1領域と第2領域の双方を通る導波路を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の2次元フォトニック結晶。
【請求項4】
第1領域及び第2領域の導波路の近傍にそれぞれ、その領域に対応する偏波が共振する共振器を備えることを特徴とする請求項3に記載の2次元フォトニック結晶。
【請求項5】
前記第1領域又は前記第2領域のいずれか一方を通り、前記導波路と共に該一方の領域の共振器を挟むように形成される第2導波路を備えることを特徴とする請求項4に記載の2次元フォトニック結晶。
【請求項6】
前記第1領域及び前記第2領域の双方を通り、前記導波路と共に双方の領域の共振器を挟むように形成される第2導波路を備えることを特徴とする請求項4に記載の2次元フォトニック結晶。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれかに記載の2次元フォトニック結晶を1つの構成単位として、該構成単位を複数個接続して形成され、全構成単位の導波路が連続していることを特徴とする2次元フォトニック結晶。
【請求項8】
本体の厚さが全ての領域で等しいことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の2次元フォトニック結晶。
【請求項9】
請求項3〜8のいずれかに記載の2次元フォトニック結晶を用いた光機能素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−184617(P2006−184617A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−378706(P2004−378706)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】