説明

2段ロータリ膨張機およびそれを用いた冷凍サイクル装置

【課題】軸受での摺動損失が低減された2段ロータリ膨張機を提供する。
【解決手段】2段ロータリ膨張機は、2つのシリンダ15および16を備えている。第1シリンダ15の第1溝には、第1ベーンが配置されている。第2シリンダ16には、第1溝の位置からシャフト13の回転方向と反対の回転方向に所定角度進んだ位置において第2溝16aが形成されている。第2溝16aに第2ベーン22が配置されている。シャフト13の周方向に関する第1ベーンの位置を第1基準位置、同じく第2ベーンの位置を第2基準位置、シャフト13の回転方向と反対の回転方向に沿った第1基準位置から第2基準位置までの所定角度をφと定義する(ただし、0°<φ<90°)。軸受17の軸受面には、第1基準位置から見てシャフト13の回転方向に90°〜(180°−φ)の範囲に凹部が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2段ロータリ膨張機およびそれを用いた冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒートポンプ給湯機・空調機を高効率化する技術として、容積式膨張機の採用が検討されている(特許文献1参照)。特に、2段ロータリ膨張機は、単段ロータリ膨張機で必要とされる吸入制御機構等が不要であり、騒音および振動の原因となる吸入脈動および吐出脈動を抑制できる。高効率な2段ロータリ膨張機によれば、ヒートポンプ給湯機・空調機の更なる高効率化が可能である。2段ロータリ膨張機の更なる高効率化には、軸受等の摺動部分の損失の低減が有効である。例えば、圧縮機の分野においては、「中抜き」と呼ばれる小径部をシャフトに設け、これによりシャフトと軸受との間の摺動損失の低減が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−106046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
2段ロータリ膨張機の機械損失は比較的大きいため、効率を高めるために機械損失を低減する余地が依然として残されている。本発明は、軸受での摺動損失が低減された2段ロータリ膨張機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、
第1シリンダと、
前記第1シリンダに対して同心円状に配置された第2シリンダと、
前記第1シリンダおよび前記第2シリンダを貫いているシャフトと、
前記第1シリンダ内で回転するように前記シャフトに取り付けられた円環状の第1ピストンと、
前記第2シリンダ内で回転するように前記シャフトに取り付けられた円環状の第2ピストンと、
前記第1シリンダに形成された第1溝と、
前記第1溝に配置され、前記第1シリンダと前記第1ピストンとの間の空間を第1吸入空間と第1吐出空間とに仕切る第1ベーンと、
前記第1溝の位置から前記シャフトの回転方向と反対の回転方向に所定角度進んだ位置において前記第2シリンダに形成された第2溝と、
前記第2溝に配置され、前記第2シリンダと前記第2ピストンとの間の空間を第2吸入空間と第2吐出空間とに仕切る第2ベーンと、
前記第1シリンダと前記第2シリンダとを隔てている中板と、
前記第1吐出空間と前記第2吸入空間とを連通して1つの膨張室を形成するように前記中板に設けられ、前記シャフトの軸方向から平面視したときに前記第1ベーンと前記第2ベーンとによって挟まれた扇形の領域に位置している連通孔と、
前記シャフトを支持する軸受と、
前記シャフトの周方向に関する前記第1溝の位置を第1基準位置、前記シャフトの周方向に関する前記第2溝の位置を第2基準位置、前記反対の回転方向に沿った前記第1基準位置から前記第2基準位置までの前記所定角度をφ(ただし、0°<φ<90°)と定義したとき、前記第1基準位置から見て前記シャフトの回転方向に90°〜(180°−φ)の範囲に位置しているとともに、他の範囲の部分よりも広い軸受すき間を形成するように前記軸受の軸受面に設けられた凹部と、
を備えた、2段ロータリ膨張機を提供する。
【0006】
他の側面において、本発明は、
作動流体を圧縮する圧縮機と、
前記圧縮機で圧縮された作動流体を放熱させる放熱器と、
前記放熱器で放熱した作動流体を膨張させる、上記本発明の2段ロータリ膨張機と、
前記2段ロータリ膨張機で膨張した作動流体を蒸発させる蒸発器と、
を備えた、冷凍サイクル装置を提供する。
【発明の効果】
【0007】
後述するように、軸受が発揮する支持力は、シャフトの周方向に関して均一でない。2段ロータリ膨張機の軸受には、理論上、シャフトの支持への寄与が大きい部分と、寄与が小さい部分とが存在する。本発明によれば、寄与が小さい部分に凹部を形成する。つまり、シャフトの支持への寄与が小さい部分とシャフトとの間の軸受すき間を、軸受の信頼性が損なわれない程度に広くする。これにより、従来その部分で生じていた摺動損失を削減できるので、2段ロータリ膨張機の効率が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態に係る2段ロータリ膨張機の縦断面図
【図2A】図1に示す2段ロータリ膨張機のX1-X1線に沿った横断面図
【図2B】図1に示す2段ロータリ膨張機のX2-X2線に沿った横断面図
【図3A】図1に示す2段ロータリ膨張機の第1ピストンに作用する力Fp1およびFc1ならびに第1偏心部に作用する力Fc1’を示す概略図
【図3B】図1に示す2段ロータリ膨張機の第2ピストンに作用する力Fp2およびFc2ならびに第2偏心部に作用する力Fc2’を示す概略図
【図4】図1に示す2段ロータリ膨張機の第1ピストンに対する荷重の作用方向とシャフトの回転角度との関係を示すグラフ
【図5】荷重の作用方向および軸受支持力の作用方向を示す概略図
【図6A】上軸受内でのシャフトの偏心方向を示す概略図
【図6B】下軸受内でのシャフトの偏心方向を示す概略図
【図7A】上軸受の展開図
【図7B】変形例に係る上軸受の展開図
【図7C】他の変形例に係る上軸受の展開図
【図8】下軸受の展開図
【図9】本発明の第2実施形態に係る2段ロータリ膨張機の縦断面図
【図10A】図9に示す2段ロータリ膨張機のX3-X3に沿った横断面図
【図10B】図9に示す2段ロータリ膨張機のX4-X4に沿った横断面図
【図11A】図9に示す2段ロータリ膨張機の第1ピストンに作用する力Fpe1およびFps1ならびに第1ベーンに作用する力Fv1を示す概略図
【図11B】第1吸入空間の内圧と第1吐出空間の内圧との差に基づいて第1ピストンに作用する力Fp1を示す概略図
【図11C】第1揺動ピストンに作用する力F1およびFc1ならびにシャフトの第1偏心部に作用する力Fc1’を示す概略図
【図11D】図9に示す2段ロータリ膨張機の第2ピストンに作用する力Fpe2およびFpd1ならびに第2ベーンに作用する力Fv2を示す概略図
【図11E】第2吸入空間の内圧と第2吐出空間の内圧との差に基づいて第2ピストンに作用する力Fp2を示す概略図
【図11F】第2揺動ピストンに作用する力F2およびFc2ならびにシャフトの第2偏心部に作用する力Fc2’を示す概略図
【図12】図9に示す2段ロータリ膨張機の第1ピストンに対する荷重の作用方向とシャフトの回転角度との関係を示すグラフ
【図13】本実施形態の2段ロータリ膨張機を適用した膨張機一体型圧縮機の概略図
【図14A】本実施形態の2段ロータリ膨張機を用いた冷凍サイクル装置の構成図
【図14B】図13に示す膨張機一体型圧縮機を用いた冷凍サイクル装置の構成図
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態のロータリ膨張機100は、密閉容器12、発電機11および膨張機構50を備えている。発電機11と膨張機構50とは、シャフト13によって互いに連結されている。密閉容器12内において、発電機11が上に位置し、膨張機構50が下に位置している。密閉容器12の底部には潤滑油が溜められており、膨張機構50が潤滑油に浸かっている。
【0010】
発電機11は、ステータ11aおよびロータ11bを含む。ステータ11aおよびロータ11bは、それぞれ、密閉容器12およびシャフト13に固定されている。
【0011】
図1および図2に示すように、膨張機構50は、上軸受17、第1シリンダ15、第2シリンダ16、下軸受18、第1ピストン19、第1ベーン21、第2ピストン20、第2ベーン22、中板30およびシャフト13を備えている。第2シリンダ16は、第1シリンダ15に対して同心円状に配置されており、中板30によって第1シリンダ15から隔てられている。シャフト13は、円形の第1シリンダ15および円形の第2シリンダ16を貫通しているとともに、第1シリンダ15の上側(第1側)に配置された上軸受17および第2シリンダ16の下側(第2側)に配置された下軸受18によって回転可能に支持されている。シャフト13の回転軸は、シリンダ15および16の中心に一致している。シャフト13は、それぞれ半径方向の外向きに突出している、第1偏心部13aおよび第2偏心部13bを有する。第1偏心部13aには、第1シリンダ15内で回転するように円環状の第1ピストン19が取り付けられている。第2偏心部13bには、第2シリンダ16内で回転するように円環状の第2ピストン20が取り付けられている。
【0012】
図2Aに示すように、第1シリンダ15には第1ベーン溝15aが形成されている。第1ベーン溝15aには、第1ベーン21が長手方向にスライド可能に配置されている。第1バネ31は、第1ベーン21の背面側に配置されている。第1バネ31の一端が第1シリンダ15に接触し、他端が第1ベーン21に接触しており、これにより第1ベーン21が第1ピストン19に向けて押されている。第1ベーン21は、円弧状の先端面を有し、その先端面において第1ピストン19と線接触している。
【0013】
図2Bに示すように、第2シリンダ16には第2ベーン溝16aが形成されている。第2ベーン溝16aには、第2ベーン22が長手方向にスライド可能に配置されている。第2バネ32は、第2ベーン22の背面側に配置されている。第2バネ32の一端が第2シリンダ16に接触し、他端が第2ベーン22に接触しており、これにより第2ベーン22が第2ピストン20に向けて押されている。第2ベーン22は、円弧状の先端面を有し、その先端面において第2ピストン20と線接触している。
【0014】
このように、本実施形態に示す膨張機構50は、ローリングピストン型の流体機械で構成されている。
【0015】
第1シリンダ15と第1ピストン19との間には三日月形状の空間が形成されている。この三日月状の空間は、第1ベーン21により、第1吸入空間25aと第1吐出空間25bとに仕切られている。また、第2シリンダ16と第2ピストン20との間にも三日月形状の空間が形成されている。この三日月状の空間は、第2ベーン22により、第2吸入空間26aと第2吐出空間26bとに仕切られている。中板30には連通孔30aが形成されている。連通孔30aは、第1シリンダ15から第2シリンダ16に向かって中板30を厚さ方向に貫いている。連通孔30aを介して、第1吐出空間25bと第2吸入空間26aとが連通し、これにより単一の膨張室が形成される。
【0016】
第1シリンダ15には、膨張させるべき作動流体を第1吸入空間25aに供給しうるように、吸入ポート15bが形成されている。第2シリンダ16には、膨張した作動流体を第2吐出空間26bから追い出せるように、吐出ポート16dが形成されている。2段ロータリ膨張機100の運転時において、吸入ポート15bおよび吐出ポート16dは、それぞれ、第1吸入空間25aおよび第2吐出空間26bに面する。また、吸入ポート15bおよび吐出ポート16dには、それぞれ、密閉容器12の内外を貫いている吸入管27および吐出管28が接続されている。
【0017】
なお、吸入ポート15bは、中板30の反対側で第1シリンダ15を閉塞している部材(本実施形態では上軸受17)に形成されていてもよい。同様に、吐出ポート16dは、中板30の反対側で第2シリンダ16を閉塞している部材(本実施形態では下軸受18)に形成されていてもよい。
【0018】
本実施形態では、第1シリンダ15の内径が第2シリンダ16の内径に等しく、かつ第1ピストン19の外径が第2ピストン20の外径に等しい。第1シリンダ15の高さは、第2シリンダ16の高さよりも小さい。したがって、第2吸入空間26aと第2吐出空間26bの合計体積は、第1吸入空間25aと第1吐出空間25bの合計体積よりも大きい。言い換えれば、第2シリンダ16側の押しのけ容積が、第1シリンダ15側の押しのけ容積よりも大きい。ただし、押しのけ容積の大小関係が本実施形態と同じである限り、シリンダの内径、シリンダの高さおよびピストンの外径の大小関係は不問である。
【0019】
図2Aに示すように、第1シリンダ15側において、連通孔30aの位置および吸入ポート15bの位置は、それぞれ、第1ベーン21の左右に振り分ける形で定められている。図2Bに示すように、第2シリンダ16側において、連通孔30aの位置および吐出ポート16dの位置は、それぞれ、第2ベーン22の左右に振り分ける形で定められている。このような構成によれば、第1シリンダ15および第2シリンダ16内のデッドスペース、すなわち膨張室として使えない空間を極力減らせる。その結果、膨張室の容積を十分に確保できる。
【0020】
第2ベーン溝16aは、第1ベーン溝15aの位置からシャフト13の回転方向と反対方向に所定角度回転した位置において第2シリンダ16に形成されている。つまり、シャフト13の周方向に関して、第1ベーン21は、第2ベーン22のそれとは異なる角度位置に配置されている。本明細書では、シャフト13の周方向に関する第1ベーン21の位置を第1基準位置、同じく第2ベーン22の位置を第2基準位置、シャフト13の回転方向と反対方向に沿った第1基準位置から第2基準位置までの所定角度をφと定義する。「第1ベーン21の位置」とは、第1ベーン溝15aの中心線の位置を意味する。「第1ベーン溝15aの中心線」とは、平面視で第1ベーン溝15aを二等分し、かつシャフト13の回転軸と交差する直線を意味する。同様に、「第2ベーン22の位置」とは、第2ベーン溝16aの中心線の位置を意味する。「第2ベーン溝16aの中心線」とは、平面視で第2ベーン溝16aを二等分し、かつシャフト13の回転軸と交差する直線を意味する。つまり、シャフト13の周方向に関して、第1ベーン21の位置は、第1ベーン溝15aの位置に等しい。同様に、第2ベーン22の位置は、第2ベーン溝16aの位置に等しい。
【0021】
シャフト13の周方向に関して、第1ベーン21の位置が第2ベーン22の位置と相違している場合、シャフト13の軸方向に関して、第1吐出空間25bの一部が第2吸入空間26aの一部に重なる。そのため、第1吐出空間25bと第2吸入空間26aとを最短距離で連通するように、中板30に連通孔30aを形成できる。つまり、連通孔30aは、シャフト13の軸方向から平面視したときに、第1ベーン21と第2ベーン22とによって挟まれた扇形の領域に位置している。この構成によれば、連通孔30aの体積を最小にできるため、連通孔30aの中での作動流体の脈動を防止できる。このことは、2段ロータリ膨張機100の振動および騒音の低減にとって有利である。また、中板30の加工性の観点で、連通孔30aを軸方向に真っ直ぐ形成することは好ましい。
【0022】
角度φは、連通孔30aを形成するのに必要十分な値に設定されうる。具体的には、0°<φ<90°の範囲内の任意の角度を角度φとして定めることができる。本実施形態では、30°<φ<90°を満たすように第1シリンダ15と第2シリンダ16との相対的な位置関係が定められている。角度φのより好ましい範囲は、例えば30°<φ<45°である。
【0023】
また、シャフト13の周方向に関して、第1偏心部13aの突出方向(偏心方向)は、第2偏心部13bのそれと相違している。本実施形態において、第1偏心部13aの突出方向と第2偏心部13bの突出方向との角度差は、角度φに一致している。この構成によると、第1ピストン19の上死点のタイミングが、第2ピストン20の上死点のタイミングに一致する。上死点のタイミングが一致していると、第1吐出空間25bおよび第2吸入空間26aによって形成された膨張室の体積を円滑に増加させることができる。その結果、2段ロータリ膨張機100の効率(動力回収効率)が向上する。なお、「上死点」とは、ベーンがベーン溝に最も押し込まれた状態を意味する。
【0024】
シャフト13と上軸受17との間には、例えば5〜20μmの範囲の径方向の広さを有するすき間(いわゆる軸受すき間)が形成されている。シャフト13と下軸受18との間にも、同様の軸受すき間が形成されている。これらの軸受すき間は非圧縮性の潤滑油で満たされており、シャフト13が、上軸受17および下軸受18で支持されながら円滑に回転することを可能にしている。図1に示すように、上軸受17の軸受面および下軸受18の軸受面には、それぞれ、凹部130および131が形成されている。
【0025】
次に、2段ロータリ膨張機100の運転について説明する。高圧の作動流体は、吸入管27および吸入ポート15bを経て第1吸入空間25aに吸入される。シャフト13の回転に伴って第1吸入空間25aの容積が拡大する。シャフト13がさらに回転すると、第1吸入空間25aが第1吐出空間25bへと移行し、吸入行程が終了する。高圧の作動流体は、連通孔30aを通じて第1吐出空間25bから第2吸入空間26aへと移動する。その後、第1吐出空間25b、連通孔30aおよび第2吸入空間26aで構成された膨張室の容積が増加する方向、すなわち、第1吐出空間25bの容積が減少し、かつ第2吸入空間26aの容積が増加する方向にシャフト13が回転する。これにより、発電機11が駆動される。シャフト13の回転に伴って、第1吐出空間25bは消滅し、第2吸入空間26aが第2吐出作動室26bへと移行し、これにより膨張行程が終了する。膨張した作動流体は、吐出ポート16dを通じて吐出管28へと導かれる。
【0026】
第1吸入空間25aには高圧の作動流体が存在し、第1吐出空間25bには膨張中の作動流体が閉じ込められている。そのため、第1吸入空間25a内の圧力は、第1吐出空間25b内の圧力よりも常に高い。すなわち、第1吸入空間25aと第1吐出空間25bとの間には常に差圧が存在する。また、第2吸入空間26aには、膨張中の作動流体が閉じ込められ、第2吐出空間26bには膨張後の低圧の作動流体が存在している。そのため、第2吸入空間26a内の圧力は、第2吐出空間26b内の圧力よりも常に高い。すなわち、第2吸入空間26aと第2吐出空間26bとの間にも常に差圧が存在する。これらの差圧より、第1ピストン19、第2ピストン20およびシャフト13を回転させるためのトルクが生みされ、これにより発電機11が駆動される。図2Aおよび図2Bの断面図において、シャフト13の回転方向は反時計回りに一致している。
【0027】
図3Aは、第1ピストンおよび第1偏心部のそれぞれに作用する力を示す概略図である。図3Aにおいて、第1シリンダ15の中心を原点Oc1、原点Oc1を通り第1ベーン21の長手方向に平行な軸をx1軸、原点Oc1を通りx1軸に直交する軸をy1軸と定義する。第1ベーン21の位置(第1基準位置)は、x1軸に一致している。x1軸は、シャフト13の周方向において0°の回転角度を有する。さらに、シャフト13の回転方向(反時計回り方向)を正の回転方向と定義する。
【0028】
また、第1ピストン19の中心をOp1、第1ベーン21の先端面を構成している円弧の中心をOv1、第1ピストン19と第1シリンダ15との接点をA1、第1ベーン21と第1ピストン19との接点をB1で表す。また、線分Oc1Ov1と線分Ov1Op1とのなす角度をξ1で表す。
【0029】
同様に、図3Bに示すように、第2シリンダ16の中心をOc2と定義する。第2シリンダ16は、第1シリンダ15と同心円状に配置されているので、シャフト13の軸方向に関して原点Oc1は原点Oc2に一致している。原点Oc2を通り、第2ベーン22の長手方向に平行な軸をx2軸、原点Oc2を通りx2軸に直交する軸をy2軸と定義する。さらに、シャフト13の回転方向(反時計回り方向)を正の回転方向と定義する。
【0030】
また、第2ピストン20の中心をOp2、第2ベーン22の先端面を構成している円弧の中心をOv2、第2ピストン20と第2シリンダ16との接点をA2、第2ベーン22と第2ピストン20との接点をB2、線分Oc2Ov2と線分Ov2Op2とのなす角度をξ2で表す。
【0031】
1軸からの接点A1の進み角度、およびx2軸からの接点A2の進み角度は、それぞれ、x1軸からのシャフト13の回転角度およびx2軸からのシャフト13の回転角度に等しい。したがって、これらの進み角度をθ(単位:度)で表す。
【0032】
図3Aに示すように、第1吸入空間25aの内圧Psと第1吐出空間25bの内圧Peとの差に基づいて第1ピストン19に作用する荷重をFp1、x11座標における荷重Fp1の作用方向をθfp1(単位:度)で表す。荷重Fp1は、第1ピストン19全体でみると、線分A1Ov1に垂直な方向に作用する。第1ピストン19の半径をRp1とすると、線分A11の長さは2Rp1cos((θ−ξ1)/2)で表される。したがって、荷重Fp1および作用方向θfp1は、それぞれ、下記式1および式2で表される。式1において、H1は、第1ピストン19の高さを表している。
【0033】
(式1)
Fp1=2×H1×Rp1×cos((θ−ξ1)/2)×(Ps−Pe)
【0034】
(式2)
θfp1=180°+(θ+ξ1)/2
【0035】
図3Bに示すように、第2吸入空間26aの内圧Peと第2吐出空間26bの内圧Pdとの差に基づいて第2ピストン20に作用する荷重をFp2、x22座標における荷重Fp2の作用方向をθfp2’(単位:度)で表す。荷重Fp1および作用方向θfp1と同様、荷重Fp2および作用方向θfp2’は、それぞれ、下記式3および式4で表される。式3において、H2は、第2ピストン20の高さを表している。
【0036】
(式3)
Fp2=2×H2×Rp2×cos((θ−ξ2)/2)×(Ps−Pe)
【0037】
(式4)
θfp2’=180°+(θ+ξ2)/2
【0038】
ここで、第2ベーン22は、第1ベーン21の位置からシャフト13の回転方向と反対の回転方向にφ°進んだ位置に配置されている。すなわち、x1軸からシャフト13の回転方向と反対の方向にφ°回転した位置にx2軸が存在する。したがって、x11座標における荷重Fp2の作用角度θfp2を下記式5で表せる。
【0039】
(式5)
θfp2=180°+((θ+ξ2)/2)−φ
【0040】
一方で、θとξ1との間、およびθとξ2との間には、それぞれ、下記式6および式7の幾何的関係がある。式6において、Rv1は、第1ベーン21の先端面を構成している円弧の半径、Rc1は、第1シリンダ15の内径を表している。式7において、Rv2は、第2ベーン22の先端面を構成している円弧の半径、Rc2は、第2シリンダ16の内径を表している。
【0041】
(式6)
(Rv1+Rp1)sinξ1=(Rc1−Rp1)cosθ
【0042】
(式7)
(Rv2+Rp2)sinξ2=(Rc2−Rp2)cosθ
【0043】
任意のθに対するξ1を式6で求め、求めたξ1を式2に代入すると、シャフト13が1回転する期間における荷重Fp1の作用方向θfp1の変化を特定できる。図4に示すように、シャフト13が1回転する間に、作用方向θfp1は180°〜360°の間で変化する。同じ方法で、荷重Fp2の作用方向θfp2の変化を特定できる。作用方向θfp2は(180°−φ)〜(360°−φ)の間で変化する。
【0044】
第1ピストン19には、荷重Fp1だけでなく、第1バネ31の力、および、その力により発生する摩擦力も働く。しかし、第1バネ31の力に比べて荷重Fp1は十分に大きいので、荷重Fp1以外の力は無視できる。また、第1ピストン19は、シャフト13の第1偏心部13aからも荷重Fc1を受ける。荷重Fc1は荷重Fp1とほぼ同じ大きさで、荷重Fp1と180°反対の作用方向を持っている。つまり、第1ピストン19は、荷重Fc1と荷重Fp1とが釣り合った状態で偏心回転する。
【0045】
第2ピストン20には、荷重Fp2だけでなく、第2バネ32の力、および、その力により発生する摩擦力も働く。しかし、第2バネ32の力に比べて荷重Fp2は十分に大きいので、荷重Fp2以外の力は無視できる。また、第2ピストン20は、シャフト13の第2偏心部13bからも荷重Fc2を受ける。荷重Fc2は荷重Fp2とほぼ同じ大きさで、荷重Fp2と180°反対の作用方向を持っている。つまり、第2ピストン20は、荷重Fc2と荷重Fp2とが釣り合った状態で偏心回転する。
【0046】
第1偏心部13aは、作用・反作用の法則に基づき、第1ピストン19から荷重Fc1と同じ大きさで、かつ、荷重Fc1と180°反対の作用方向を持つ荷重Fc1’を受ける。同様に、第2偏心部13bは、第2ピストン20から荷重Fc2と同じ大きさで、かつ、荷重Fc2と180°反対の作用方向を持つ荷重Fc2’を受ける。したがって、荷重Fc1’と荷重Fc2’との和の大きさ(スカラー)は、荷重Fp1と荷重Fp2との和の大きさ(スカラー)に等しい。荷重Fc1’と荷重Fc2’との合力(ベクトル和)をFc’(=Fc1’+Fc2’)で表す。
【0047】
荷重Fc1’の作用方向は、荷重Fp1の作用方向θfp1に略一致する。また、荷重Fc2’の作用方向は、荷重Fp2の作用方向θfp2に略一致する。したがって、荷重Fc’の作用方向をθfcとすると、作用方向θfcは、x11座標において、シャフト13が1回転する間に(180°−φ)〜360°の間で変化する。
【0048】
次に、潤滑油が軸受すき間で生成するべき力の方向を説明する。図5に示すように、膨張機構50は、上軸受17および下軸受18を有し、いわゆる両持ちに構成されている。上軸受17および下軸受18は、偏心部13aおよび13bを挟むように、それぞれ、第1シリンダ15の上と、第2シリンダ16の下に配置されている。上軸受17内の潤滑油が生み出す支持力をFu、下軸受18内の潤滑油が生み出す支持力をFlで表す。支持力Fuの作用点Puを高さ方向に関する上軸受17の中点、支持力Flの作用点Plを高さ方向に関する下軸受18の中点と仮定する。また、荷重Fc’(=Fc1’+Fc2’)の作用点をPcで表す。軸受17および18は、偏心部13aおよび13bを挟むように配置されているので、荷重Fc’の作用点Pcは、高さ方向に関して、下軸受18の中点と上軸受17の中点との間に位置する。ここで、「高さ方向」は、シャフト13の回転軸に平行な方向である。
【0049】
高さ方向に関して、作用点Plから作用点Puまでの距離をL、作用点Plから作用点Pcまでの距離をLcで表す。荷重Fc’の作用点Pcは、高さ方向に関して、軸受18の中点と上軸受17の中点との間に位置するため、Lc<Lである。シャフト13における力とモーメントの釣り合いの式は、それぞれ、下記式8および式9で表される。
【0050】
(式8)
Fu+Fl=Fc’
【0051】
(式9)
Fl×Lc−Fu×(L−Lc)=0
【0052】
式8および式9から、支持力Fuが支持力Flと同一符号(同一方向)を有し、支持力FuおよびFlの向きが、それぞれ、荷重Fc’の方向と対向していることが分かる。すなわち、上軸受17および下軸受18のそれぞれの中の潤滑油が協調して荷重Fc’を受け止めている。
【0053】
図6Aおよび6Bを参照して、上軸受17および下軸受18のそれぞれにおけるシャフト13の挙動を説明する。一般に、シャフトに荷重が加わったとき、その荷重と対向する支持力をシャフトと軸受との間の潤滑油が生み出すために、シャフトは荷重の作用方向から当該シャフトの回転方向に90°進んだ方向に偏心することが知られている(山本雄二、兼田▲貞▼宏著「トライボロジー」理工学社、1998年、P.84)。本実施形態によると、上軸受17における支持力Fuの作用方向が、下軸受18における支持力Flの作用方向に一致している。そのため、図6Aおよび6Bに示すように、上軸受17におけるシャフト13の偏心方向は、下軸受18におけるそれに一致する。具体的に、シャフト13は、荷重Fc’の作用方向から当該シャフト13の回転方向(図6Aおよび6Bでは反時計周り方向)に90°進んだ方向に偏心する。
【0054】
ある方向にシャフト13が偏心すると、その偏心方向から見て、シャフト13の回転方向と反対側の領域では、軸受すき間の狭まる方向に非圧縮性の潤滑油が巻き込まれる。そのため、当該領域において潤滑油は相対的に高い圧力を有する。潤滑油の圧力が高い領域(以下、「高圧領域」という)は、シャフト13の偏心方向を基準として、シャフト13の回転方向と反対方向に軸受の円周長さの約1/4の範囲に発生する。他方、偏心方向から見て、シャフト13の回転方向と同じ側の領域では、軸受すき間の広がる方向に非圧縮性の潤滑油が放出される。そのため、当該領域において潤滑油は相対的に低い圧力を有する。潤滑油の圧力が低い領域(以下、「低圧領域」という)は、シャフト13の偏心方向を基準として、シャフト13の回転方向と同一方向に軸受の円周長さの約1/4の範囲に発生する。
【0055】
図6Aに示すように、上軸受17の高圧領域における潤滑油の圧力の総和が正圧力Fupを形成する。正圧力Fupは、シャフト13と上軸受17との間のすき間を広げる方向に作用する。また、低圧領域における潤滑油の圧力の総和が負圧力Fumを形成する。負圧力Fumは、シャフト13と上軸受17との間のすき間を狭める方向に作用する。正圧力Fupと負圧力Fumとの合力が、上軸受17における支持力Fuとなる。
【0056】
図6Bに示すように、下軸受18の高圧領域における潤滑油の圧力の総和が正圧力Flpを形成する。正圧力Flpは、シャフト13と下軸受18との間のすき間を広げる方向に作用する。また、低圧領域における潤滑油の圧力の総和が負圧力Flmを形成する。負圧力Flmは、シャフト13と下軸受18との間のすき間を狭める方向に作用する。正圧力Flpと負圧力Flmとの合力が、下軸受18における支持力Flとなる。
【0057】
このように、支持力FuおよびFlは、軸受17および18でシャフト13が偏心することに基づいて発生する。この現象は、しばしば「くさび効果」と呼ばれる。正圧力FupおよびFlpは、ともに軸受すき間を広げる方向に作用するので、支持力FuおよびFlの発生に重要な成分である。これに対し、負圧力FumおよびFlmは、ともに軸受すき間を狭める方向に作用するので、支持力を減少させる成分である。
【0058】
そして、荷重Fc’の作用方向の変化と、荷重Fc’の作用方向に応じたシャフト13の偏心方向とから、シャフト13が1回転する期間における正圧力Fupの作用方向の変化を特定できる。同様に、シャフト13が1回転する期間における正圧力Flpの作用方向の変化を特定できる。言い換えれば、軸受17および18のそれぞれについて、高圧領域の発生範囲を特定できる。
【0059】
先に説明したように、x11座標において、荷重Fc’の作用方向θfcは、シャフト13が1回転する間に(180°−φ)〜360°の範囲で変化する。シャフト13は、荷重Fc’の作用方向θfcからシャフト13の回転方向に90°進んだ方向に偏心するので、シャフト13の偏心方向は、(270°−φ)〜360°および0°〜90°の範囲で変化する。また、高圧領域は、偏心方向からシャフト13の回転方向と反対方向に約90°までの範囲に現れる。つまり、高圧領域は(180°−φ)〜360°および0°〜90°の範囲に出現しうる。逆に、90°〜(180°−φ)の領域で潤滑油は高圧にならず、当該領域は正圧力FupおよびFlpの発生に殆ど寄与しない。
【0060】
図1および図6Aに示すように、本実施形態では、上軸受17の凹部130が、基準位置(x1軸)から見てシャフト13の回転方向に90°〜(180°−φ)の範囲に位置している。図1および図6Bに示すように、下軸受18の凹部131が、基準位置(x1軸)から見てシャフト13の回転方向に90°〜(180°−φ)の範囲に位置している。このような位置に凹部130および131を設けることにより、支持力FuおよびFlを落とすことなく摺動損失を削減できるので、2段ロータリ膨張機100の効率が高まる。凹部130および131は、それぞれ、これらが形成されていない部分よりも広い軸受すき間を形成する。本実施形態では、上軸受17および下軸受18に、それぞれ、凹部130および131が設けられている。これにより、上軸受17および下軸受18の両方で摺動損失を削減できる。
【0061】
凹部130および131の深さは特に限定されず、摺動損失を十分に低減できるように適宜調節すればよい。一般に、すべり軸受の損失は、軸受すき間の広さに反比例する。凹部130および131の深さ(最大深さ)を例えば100〜1000μmに調節すれば、凹部130および131における摺動損失は、これらが形成されていない部分における摺動損失に対して、単位面積当たり約1/100以下になる。つまり、凹部130および131における摺動損失を実質的に無視できる程度まで小さくできる。
【0062】
図7Aに上軸受の展開図を示す。この展開図は、x1軸方向を基準としてシャフト13の回転方向に展開した上軸受17を示している。横軸はシャフト13の回転方向に沿ったx1軸からの角度、縦軸は上軸受17の高さである。図7Aの例では、凹部130が、基準位置(x1軸)から見てシャフト130の回転方向に90°〜(180°−φ)の範囲にのみ設けられている。そして、90°〜(180°−φ)の範囲外では、一定の広さの軸受すき間が形成されていることが好ましい。このようにすれば、支持力Fuを落とすことなく摺動損失のみを削減できる。なお、本発明は、次の理由により、90°〜(180°−φ)の範囲外に凹部130に類似する他の凹部が設けられた態様を排除しない。90°〜(180°−φ)の範囲外に凹部が設けられていた場合、軸受の支持力が減少するかもしれない。しかし、90°〜(180°−φ)の範囲に凹部が設けられている限りにおいて、摺動損失を減らす効果は得られる。
【0063】
具体的に、凹部130は、上軸受17の高さ方向、すなわちシャフト13の回転軸に対して傾斜した方向、かつシャフト13の回転軸と平行な方向に関する軸受面の下端から上端に向かって延びている溝の形状を有する。凹部130は、いわば、シャフト13の回転軸と平行な方向に延びる螺旋を描くように形成されている。そして、溝状の凹部130が、上軸受17の軸受面の下端から上端にわたって形成されている。つまり、凹部130は、シャフト13と上軸受17との間のすき間に潤滑油を供給する給油路として機能しうる。このような凹部130によれば、摺動損失を低減できるだけでなく、上軸受17の軸受面の下端から上端に至る全面に安定して潤滑油を供給できる。また、凹部130の上端から余分な潤滑油を密閉容器12内に排出できる。密閉容器12の底部に溜められた潤滑油の油面が上軸受17の上面よりも下に位置していたとしても、上軸受17の上端まで確実に給油できる。
【0064】
また、溝状の凹部130は、シャフト13の回転方向と同じ方向に傾斜していることが望ましい。言い換えれば、上軸受17の軸受面の下端から上端に進むにつれて、凹部130の位置がシャフト13の回転方向に移動するように、凹部130の傾斜方向が設定されている。溝状の凹部130がこのような方向に傾斜していると、シャフト13の回転による遠心力を利用して潤滑油を上に送ることが可能である。
【0065】
また、本実施形態の2段ロータリ膨張機100は、比較的小容積のロータリ膨張機が必要になる用途、例えば、家庭用ヒートポンプに好適である。一般に、家庭用ヒートポンプへの適用が想定される2段ロータリ膨張機は、その吸入容積が例えば1cc以下と小さいものである。軸受での摺動損失を極力小さくするべく、シャフトの直径も10mm程度と小さく設計する。このような小容積の2段ロータリ膨張機では、軸受側にのみ給油溝を設けることが望ましい。シャフトに給油溝を設けることも可能であるが、小径のシャフトの加工は難しく、また、加工できたとしても剛性の低下が懸念されるからである。
【0066】
ただし、凹部130を給油路として利用することは必須でないし、凹部130が螺旋状に延びていることも必須でない。図7Bの変形例に示すように、シャフト13の回転軸と平行な方向に関する軸受面の上端から下端または下端から上端に向かって延び、かつ軸受面の下端と上端との間で途切れている凹部133が上軸受17の軸受面に設けられていてもよい。凹部133は、上軸受17の軸受面を上端から下端(または下端から上端)に向かって削り取った浅い座繰りの形状を有している。このような凹部133は、容易に形成できるという軸受の加工上の利点がある。
【0067】
さらに、図7Aに示す例と図7Bに示す例とを組み合わせることも可能である。すなわち、図7Cに示すように、上軸受17の軸受面に設けられた凹部140は、(i)シャフト13の回転軸に対して傾斜した方向、かつシャフト13の回転軸と平行な方向に関する上軸受17の軸受面の下端から上端に向かって延びている溝の形状を有するとともに、上軸受17の軸受面の下端から上端にわたって形成された第1セグメント130と、(ii)シャフト13の回転軸と平行な方向に関する上軸受17の軸受面の上端から下端または下端から上端に向かって延び、かつ上軸受17の軸受面の下端と上端との間で途切れている第2セグメント133とを含む。第2セグメント133は、第1セグメント130よりも上側の領域と第1セグメント130よりも下側の領域とのそれぞれに設けられている。この凹部140によれば、図7Aおよび7Bを参照して説明した効果が重畳的に得られる。
【0068】
次に、図8に下軸受の展開図を示す。上軸受17の場合と同様に、この展開図は、x1軸方向を基準としてシャフト13の回転方向に展開した下軸受18を示している。横軸はシャフト13の回転方向に沿ったx1軸からの進み角度、縦軸は下軸受18の高さである。本実施形態において、下軸受18は密閉容器12の底部に溜められた潤滑油に浸かっており、下軸受18への潤滑油の供給は比較的容易に行える。そのため、凹部131に給油路の機能を持たせる意義は小さい。図8に示す例では、凹部131が平面視で矩形の形状を有している。つまり、凹部131は、90°〜(180°−φ)の範囲かつ下軸受18の下端と上端との間の領域の全体に形成されている。このような凹部131によれば、下軸受18での摺動損失を最大限に削減できる。
【0069】
また、図6Bに示すように、シャフト13の回転軸に直交する断面において、凹部131は円弧状の表面プロファイルを有している。このような構成によると、摺動損失の低減に一層の効果がある。なお、下軸受18の凹部131が上軸受17の凹部130(または133)と同じ構成を有していてもよい。
【0070】
(第2実施形態)
本実施形態の2段ロータリ膨張機は、揺動ピストン型(スイング型)の流体機械で構成された膨張機構を有する。第1実施形態と同一または対応する構成要素には同一の参照符号を付し、説明を省略する。
【0071】
図9、10Aおよび10Bに示すように、膨張機構70は、第1実施形態と異なる部分として、第1揺動ピストン57、第1ブッシュ64、第2揺動ピストン58および第2ブッシュ65を有する。第1揺動ピストン57は、第1ピストン60および第1ベーン62で構成されている。第1ピストン60および第1ベーン62は、互いに一体に形成されている。第1シリンダ15内で回転するように第1偏心部13aに第1ピストン60が取り付けられている。同様に、第2揺動ピストン58は、第2ピストン61および第2ベーン63で構成されている。第2ピストン61および第2ベーン63は、互いに一体に形成されている。第2シリンダ16内で回転するように第2偏心部13bに第2ピストン61が取り付けられている。
【0072】
図10Aに示すように、第1シリンダ15には第1ブッシュ溝15fが形成されている。第1ブッシュ溝15fに一対の第1ブッシュ64が摺動可能に配置されている。第1ブッシュ64は、略半円柱の形状を有する部材であり、その外周面は、平面と円弧面とで構成されている。第1ブッシュ64の平面が第1ベーン62の側面に向かい合い、第1ブッシュ64の円弧面が第1ブッシュ溝15fの円弧面に向かい合っている。すなわち、一対の第1ブッシュ64で第1ベーン62を摺動可能に挟んでいるとともに、第1ブッシュ64自身も第1シリンダ15に対して摺動できる。第1シリンダ15内で第1ピストン60が回転すると、第1ベーン62は、少しずつ姿勢を変えながら第1ブッシュ溝15fの中を前後に動く。このように、第1ベーン62は、第1ブッシュ64を介して、第1シリンダ15の第1ブッシュ溝15fに揺動可能に配置されている。第1ブッシュ64も第1ブッシュ溝15fの中で回転(揺動)できる。
【0073】
図10Bに示すように、第1シリンダ15と同じように、第2シリンダ16には第2ブッシュ溝16fが形成されている。第2ブッシュ溝16fに一対の第2ブッシュ65が摺動可能に配置されている。第2ブッシュ65の構造および働きは、第1ブッシュ64のそれと同じである。
【0074】
第1実施形態と同様に、第2ブッシュ溝16fは、第1ブッシュ溝15fの位置からシャフト13の回転方向と反対方向に所定角度回転した位置において第2シリンダ16に形成されている。つまり、シャフト13の周方向に関して、第1ベーン62は、第2ベーン63のそれとは異なる角度位置に配置されている。第1実施形態と同様に、シャフト13の周方向に関する第1ベーン62の位置を第1基準位置、同じくシャフト13の周方向に関する第2ベーン63の位置を第2基準位置、シャフト13の回転方向と反対方向に沿った第1基準位置から第2基準位置までの所定角度をφと定義する。「第1ベーン62の位置」とは、第1ブッシュ溝15fの中心線の位置を意味する。「第1ブッシュ溝15fの中心線」とは、平面視で第1ブッシュ溝15fを二等分し、かつシャフト13の回転軸と交差する直線を意味する。同様に、「第2ベーン63の位置」とは、第2ブッシュ溝16fの中心線の位置を意味する。「第2ブッシュ溝16fの中心線」とは、平面視で第2ブッシュ溝16fを二等分し、かつシャフト13の回転軸と交差する直線を意味する。シャフト13の周方向に関して、第1ベーン62の位置は、第1ブッシュ溝15fの位置に等しい。同様に、第2ベーン63の位置は、第2ブッシュ溝16fの位置に等しい。
【0075】
本実施形態においても、30°<φ<90°(または30°<φ<45°)を満たすように第1シリンダ15と第2シリンダ16との相対的な位置関係が定められている。また、第1ピストン19の上死点のタイミングが、第2ピストン20の上死点のタイミングに一致するように、第1偏心部13aの突出方向と第2偏心部13bの突出方向との角度差が角度φに一致している。
【0076】
図11Aは、第1ピストンおよび第1偏心部のそれぞれに作用する力を示す概略図であって、第1シリンダの内部を拡大して示している。図11Aにおいて、第1シリンダ15の中心を原点Oc1、一対の第1ブッシュ64の回転運動の中心点をOb1、原点Oc1および中心点Ob1を通る軸をx1軸、原点Oc1を通り、x1軸と直行する軸をy1軸と定義する。x1軸は、シャフト13の周方向において0°の回転角度を有する。さらに、シャフト13の回転方向(図11Aでは反時計回り方向)を正の回転方向と定義する。
【0077】
また、第1ピストン60の中心をOp1、第1ピストン60と第1シリンダ15との接点をA1で表す。線分Oc1Ob1と線分Ob1Op1とのなす角度をξ1(単位:度)で表す。第1ベーン62と第1ピストン60との節点をBs1およびBd1で表す。詳細には、第1吸入空間25aに面した節点をBs1で、第1吐出空間25bに面した節点をBd1で表す。また、第1ピストン60の外周面によって規定された仮想円と線分Ob1Op1との交点をB1で表す。第1吸入空間25aに近い側に配置された第1ブッシュ64の円弧面と平面とで形成された2つの節点のうち、第1ピストン60に近い側の節点をCs1で表す。第1吐出空間25bに近い側に配置された第1ブッシュ64の円弧面と平面とで形成された2つの節点のうち、第1ピストン60に近い側の節点をCd1で表す。線分Cs1Cd1と線分Ob1Op1との交点をC1で表す。
【0078】
図11Dは、第2ピストンおよび第2偏心部のそれぞれに作用する力を示す概略図であって、第2シリンダの内部を拡大して示している。図11Dにおいて、第2シリンダ16の中心を原点Oc2、一対の第2ブッシュ65の回転運動の中心点をOb2、原点Oc2および中心点Ob2を通る軸をx2軸、原点Oc2を通り、x2軸と直行する軸をy2軸と定義する。x2軸は、シャフト13の周方向において(0°−φ)の回転角度を有する。
【0079】
また、第2ピストン61の中心をOp2、第2ピストン61と第2シリンダ16との接点をA2で表す。線分Oc2Ob2と線分Ob2Op2とのなす角度をξ2(単位:度)で表す。第2ベーン63と第2ピストン61との節点をBs1およびBd1で表す。詳細には、第2吸入空間26aに面した節点をBs2で、第2吐出空間26bに面した節点をBd2で表す。また、第2ピストン61の外周面によって規定された仮想円と線分Ob2Op2との交点をB2で表す。第2吸入空間26aに近い側に配置された第2ブッシュ65の円弧面と平面とで形成された2つの節点のうち、第2ピストン61に近い側の節点をCs2で表す。第2吐出空間26bに近い側に配置された第2ブッシュ65の円弧面と平面とで形成された2つの節点のうち、第2ピストン61に近い側の節点をCd2で表す。線分Cs2Cd2と線分Ob2Op2との交点をC2で表す。
【0080】
第1シリンダ15と第2シリンダ16は同心円状に配置されているので、シャフト13の軸方向に関して原点Oc1は原点Oc2に一致している。また、x1軸からの接点A1の進み角度、およびx2軸からの接点A2の進み角度は、それぞれ、x1軸からのシャフト13の回転角度およびx2軸からのシャフト13の回転角度に等しい。したがって、これらの進み角度をθ(単位:度)で表す。
【0081】
次に、第1ピストン60および第1ベーン62のそれぞれに作用する荷重を考える。図11Aに示すように、第1吸入空間25aの内圧Psに基づいて第1ピストン60に作用する荷重をFps1、第1吐出空間25bの内圧Peに基づいて第1ピストン60に作用する荷重をFpe1とする。また、x11座標において、荷重Fps1の作用方向をθfps1(単位:度)で、荷重Fpe1の作用方向をθfpe1(単位:度)で表す。
【0082】
荷重Fps1は、第1ピストン60全体でみると、線分A1Bs1に垂直な方向に作用する。第1ピストン60の半径をRp1、線分Op11と線分Op1Bs1とのなす角度をγ1とすると、線分A1Bs1の長さは2Rp1sin((θ+ξ1−γ1)/2)で表される。したがって、荷重Fps1は下記式10で表される。また、荷重Fps1の作用方向θfps1は下記式11で表される。式10において、H1は、第1ピストン60の高さを表している。第1ベーン62の中心線(線分Ob1Op1に一致)から第1ベーン62の側面までの幅をWv1とすると、角度γ1は、sin(γ1)=Wv1/Rp1を満たす。幅Wv1は、第1ベーン62の幅の半分に相当する。
【0083】
(式10)
Fps1=2×H1×Rp1×sin((θ+ξ1−γ1)/2)×Ps
【0084】
(式11)
θfps1=((θ−ξ1+γ1)/2)+180°
【0085】
荷重Fpe1は、第1ピストン60全体でみると、線分A1Bd1に垂直な方向に作用する。線分A1Bd1の長さは2Rp1sin((θ+ξ1+γ1)/2)で表される。したがって、荷重Fpe1は下記式12で表される。また、荷重Fpe1の作用方向θfpe1は下記式13で表される。
【0086】
(式12)
Fpe1=2×H1×Rp1×sin((θ+ξ1+γ1)/2)×Pe
【0087】
(式13)
θfpe1=((θ−ξ1−γ1)/2)
【0088】
ここで、第1ピストン60の半径Rp1は、幅Wv1よりも十分大きいため、Wv1/Rp1≒0となり、sin(γ1)≒0と考えられる。したがって、上記式10〜式13は、それぞれ、次のように近似できる。
【0089】
Fps1=2×H1×Rp1×sin((θ+ξ1)/2)×Ps
Fpe1=2×H1×Rp1×sin((θ+ξ1)/2)×Pe
θfps1=((θ−ξ1)/2)+180°
θfpe1=((θ−ξ1)/2)
【0090】
よって、第1吸入空間25aの内圧Psと第1吐出空間25bの内圧Peとの差に基づいて第1ピストン60に作用する荷重をFp1、荷重Fp1の作用方向をθfp1(単位:度)で表すと、荷重Fp1および作用方向θfp1は、それぞれ、下記式14および式15で表される。図11Bに示すように、荷重Fp1は第1ピストン60全体で見ると、線分A11に垂直な方向に作用する。
【0091】
(式14)
Fp1=2×H1×Rp1×sin((θ+ξ1)/2)×(Ps−Pe)
【0092】
(式15)
θfp1=((θ−ξ1)/2)+180°
【0093】
また、第1吸入空間25aの内圧Psと第1吐出空間25bの内圧Peとの差に基づいて第1ベーン62に作用する荷重をFv1、x11軸における荷重Fv1の作用方向をθfv1(単位:度)で表す。荷重Fv1は線分B11に垂直な方向に作用する。第1ピストン60の偏心量をe1(原点Oc1から第1ピストン60の中心点Op1までの距離)、第1ブッシュ64の半径をRk1(中心点Ob1から第1ブッシュ64の円弧面までの距離)とすると、線分B11の長さは、下記式16で表される。したがって、荷重Fv1および作用方向θfv1は、それぞれ、下記式17および式18で表される。
【0094】
(式16)
(線分B11の長さ)=e1(sin(θ)/sin(ξ1))−Rp1−(Rk12−Wv121/2
【0095】
(式17)
Fv1=(e1×(sin(θ)/sin(ξ1))−Rp1−(Rk12−Wv121/2)×H1×(Ps−Pe)
【0096】
(式18)
θfv1=(90°−ξ1)+180°
【0097】
本実施形態において、第1ピストン60および第1ベーン62は互いに一体に形成されている。第1吸入空間25aの内圧Psと第1吐出空間25bの内圧Peとの差に基づいて各部に作用する力、すなわち、図11Cに示すように、荷重Fp1と荷重Fv1との合力が、第1ピストン60および第1ベーン62によって構成された部材(第1揺動ピストン57)に作用する荷重F1となる。したがって、荷重F1およびその作用方向θf1は、それぞれ、下記式19および式20で表される。
【0098】
(式19)
1=((Fp1cos(θfp1)+Fv1cos(θfv1))2+(Fp1sin(θfp1)+Fv1sin(θfv1))21/2
【0099】
(式20)
θf1=tan-1((Fp1sin(θfp1)+Fv1sin(θfv1))/(Fp1cos(θfp1)+Fv1cos(θfv1)))
【0100】
次に、第2ピストン61および第2ベーン63のそれぞれに作用する荷重を考える。図11Dに示すように、第2吸入空間26aの内圧Peに基づいて第2ピストン61に作用する荷重をFpe2、第2吐出空間26bの内圧Pdに基づいて第2ピストン61に作用する荷重をFpd2とする。また、x22座標において、荷重Fpd2の作用方向をθfpd2(単位:度)で、荷重Fpe2の作用方向をθfpe2(単位:度)で表す。
【0101】
荷重Fpe2は、第2ピストン61全体でみると、線分A2Bs2に垂直な方向に作用する。第2ピストン61の半径をRp2、線分Op22と線分Op2Bs2とのなす角度をγ2とすると、線分A2Bs2の長さは2Rp2sin((θ+ξ2−γ2)/2)で表される。したがって、荷重Fpe2は下記式21で表される。また、荷重Fpe2の作用方向θfpe2は下記式22で表される。式21において、H2は、第2ピストン61の高さを表している。第2ベーン63の中心線(線分Ob2Op2に一致)から第2ベーン63の側面までの幅をWv2とすると、角度γ2は、sin(γ2)=Wv2/Rp2を満たす。幅Wv2は、第2ベーン63の幅の半分に相当する。
【0102】
(式21)
Fpe2=2×H2×Rp2×sin((θ+ξ2−γ2)/2)×Pe
【0103】
(式22)
θfpe2=((θ−ξ2+γ2)/2)+180°
【0104】
荷重Fpd2は、第2ピストン61全体でみると、線分A2Bd2に垂直な方向に作用する。線分A2Bd2の長さは2Rp2sin((θ+ξ2+γ2)/2)で表される。したがって、荷重Fpd2は下記式23で表される。また、荷重Fpd2の作用方向θfpd2は下記式24で表される。
【0105】
(式23)
Fpd2=2×H2×Rp2×sin((θ+ξ2+γ2)/2)×Pd
【0106】
(式24)
θfpd2=((θ−ξ2−γ2)/2)
【0107】
ここで、第2ピストン61の半径Rp2は、幅Wv2よりも十分大きいため、Wv2/Rp2≒0となり、sin(γ2)≒0と考えられる。したがって、上記式21〜24は、それぞれ、次のように近似できる。
【0108】
Fpe2=2×H2×Rp2×sin((θ+ξ2)/2)×Pe
Fpd2=2×H2×Rp2×sin((θ+ξ2)/2)×Pd
θfpe2=((θ−ξ2)/2)+180°
θfpd2=((θ−ξ2)/2)
【0109】
よって、第2吸入空間26aの内圧Peと第2吐出空間26bの内圧Pdとの差に基づいて第2ピストン61に作用する荷重をFp2、x22座標における荷重Fp2の作用方向をθfp2(単位:度)で表すと、荷重Fp2および作用方向θfp2は、それぞれ、下記式25および式26で表される。図11Eに示すように、荷重Fp2は第2ピストン61全体で見ると、線分A22に垂直な方向に作用する。
【0110】
(式25)
Fp2=2×H2×Rp2×sin((θ+ξ2)/2)×(Pe−Pd)
【0111】
(式26)
θfp2=((θ−ξ2)/2)+180°
【0112】
また、第2吸入空間26aの内圧Peと第2吐出空間26bの内圧Pdとの差に基づいて第2ベーン63に作用する荷重をFv2、x22軸における荷重Fv2の作用方向をθfv2(単位:度)で表す。荷重Fv2は線分B22に垂直な方向に作用する。第2ピストン61の偏心量をe2(原点Oc2から第2ピストン61の中心点Op2までの距離)、第2ブッシュ65の半径をRk2(中心点Ob2から第2ブッシュ65の円弧面までの距離)とすると、線分B22の長さは、下記式27で表される。したがって、荷重Fv2および作用方向θfv2は、それぞれ、下記式28および式29で表される。
【0113】
(式27)
(線分B22の長さ)=e2(sin(θ)/sin(ξ2))−Rp2−(Rk22−Wv221/2
【0114】
(式28)
Fv2=(e2×(sin(θ)/sin(ξ2))−Rp2−(Rk22−Wv221/2)×H2×(Pe−Pd)
【0115】
(式29)
θfv2=(90°−ξ2)+180°
【0116】
本実施形態において、第2ピストン61および第2ベーン63は互いに一体に形成されている。第2吸入空間26aの内圧Peと第2吐出空間26bの内圧Pdとの差に基づいて各部に作用する力、すなわち、図11Fに示すように、荷重Fp2と荷重Fv2との合力が、第2ピストン61および第2ベーン63によって構成された部材(第2揺動ピストン58)に作用する荷重F2となる。したがって、荷重F2およびx22軸における荷重F2の作用方向θf2’は、それぞれ、下記式30および式31で表される。
【0117】
(式30)
2=((Fp2cos(θfp2)+Fv2cos(θfv2))2+(Fp2sin(θfp2)+Fv2sin(θfv2))21/2
【0118】
(式31)
θf2’=tan-1((Fp2sin(θfp2)+Fv2sin(θfv2))/(Fp2cos(θfp2)+Fv2cos(θfv2)))
【0119】
1軸とx2軸とのなす角度は、角度φに等しい。したがって、x11座標での荷重F2の作用方向θf2は、下記式32で表される。
【0120】
(式32)
θf2=θf2’−φ
【0121】
一方で、θとξ1との間、θとξ2との間には、それぞれ、下記式33および式34の幾何的関係がある。式33において、Xk1は線分Oc1Ob1の長さに一致している。式34において、Xk2は線分Oc2Ob2の長さに一致している。
【0122】
(式33)
1×sin(180°−(θ+ξ1))=Xk1×sin(ξ1
【0123】
(式34)
2×sin(180°−(θ+ξ2))=Xk2×sin(ξ2
【0124】
任意のθに対するξ1を式33で求め、求めたξ1を式15および式18にそれぞれ代入する。これにより、任意のθに対する作用方向θfp1およびθfv1が求まる。作用方向θfp1およびθfv1を式20に代入すると、シャフト13が1回転する期間における荷重Fp1の作用方向θfp1の変化を特定できる。図12に示すように、シャフト13が1回転する間に、作用方向θfp1は、概ね180°〜360°の間で変化する。同様の方法で、x11座標における荷重Fp2の作用方向θfp2の変化を特定できる。作用方向θfp2は(180°−φ)〜(360°−φ)の間で変化する。
【0125】
第1実施形態で説明したように、第1偏心部13aは、作用・反作用の法則に基づき、第1ピストン60から荷重Fc1と同じ大きさ、かつ荷重Fc1と180°反対の作用方向を持つ荷重Fc1’を受ける。同様に、第2偏心部13bは、第2ピストン61から荷重Fc2と同じ大きさ、かつ荷重Fc2と180°反対の作用方向を持つ荷重Fc2’を受ける。したがって、荷重Fc1’と荷重Fc2’との和の大きさは、荷重Fp1と荷重Fp2との和の大きさに等しい。荷重Fc1’と荷重Fc2’との合力をFc’(=Fc1’+Fc2’)で表す。
【0126】
荷重Fc1’の作用方向は、荷重Fp1の作用方向θfp1に略一致する。また、荷重Fc2’の作用方向は、荷重Fp2の作用方向θfp2に略一致する。したがって、荷重Fc’の作用方向をθfcとすると、作用方向θfcは、x11座標において、シャフト13が1回転する間に、(180°−φ)〜360°の間で変化する。
【0127】
また、第1実施形態で図5を参照して説明したように、支持力FuおよびFlの向きは、それぞれ、荷重Fc’と対向する。
【0128】
第1実施形態で説明した理論によれば、シャフト13は、荷重Fc’の作用方向θfcからシャフト13の回転方向に90°進んだ方向に偏心する。そのため、シャフト13の偏心方向は、(270°−φ)〜360°および0°〜90°の範囲で変化する。潤滑油が高圧になる領域(高圧領域)は、偏心方向からシャフト13の回転方向と反対方向に約90°までの範囲に現れる。つまり、高圧領域は(180°−φ)〜360°および0°〜90°の範囲に出現しうる。逆に、90°〜(180°−φ)の領域で潤滑油は高圧にならず、当該領域は正圧力FupおよびFlpの発生に殆ど寄与しない。こうした事実は、図6Aおよび6Bを参照して第1実施形態で説明した通りである。
【0129】
ゆえに、本実施形態においても、第1実施形態で説明したのと同じ理論に基づき、図7A〜7Cを参照して説明したように、上軸受17に凹部130を設けることができる。上軸受17には、凹部133を設けてもよいし、凹部140を設けてもよい。また、図8を参照して説明したように、下軸受18に凹部131を設けることができる。これにより、信頼性を損なうことなく軸受17および18の摺動損失を削減でき、ひいてはロータリ膨張機200の効率を高めることができる。
【0130】
(膨張機一体型圧縮機への適用)
図13に示すように、第1実施形態で説明した2段ロータリ膨張機100を膨張機一体型圧縮機400に適用できる。すなわち、膨張機一体型圧縮機400は、圧縮機構80、電動機11、膨張機構50およびシャフト13を備えている。圧縮機構80、電動機11および膨張機構50は、密閉容器12の上からこの順番またはこれと逆の順番で配置されているとともに、動力伝達可能となるようにシャフト13で互いに連結されている。膨張機構50が作動流体から回収した動力は、シャフト13を介して圧縮機構80に直接伝達される。これにより、圧縮機構80を駆動するために電動機11で消費される電力を低減できる。膨張機構50に代えて、第2実施形態で説明した2段ロータリ膨張機200の膨張機構70も使用できる。
【0131】
(冷凍サイクル装置への適用)
図14Aに示すように、2段ロータリ膨張機100を用いて冷凍サイクル装置を構成できる。冷凍サイクル装置500は、圧縮機501、放熱器502、2段ロータリ膨張機100および蒸発器503を備えている。また、図14Bに示す他の冷凍サイクル装置600は、図13に示す膨張機一体型圧縮機400と、膨張機一体型圧縮機400の圧縮機構80で圧縮された冷媒(作動流体)を冷却するための放熱器502と、膨張機一体型圧縮機400の膨張機構50で膨張した冷媒を蒸発させるための蒸発器503とを備えている。
【0132】
図14Aに示す冷凍サイクル装置500では、冷媒から回収された動力が回生電力に変換されるのに対し、図14Bに示す冷凍サイクル装置600では、膨張機構50が冷媒から回収した動力がシャフト13を介して圧縮機構80に直接伝達される。これらの冷凍サイクル装置500および600は、給湯機や空調機等の機器に好適に使用できる。例えば、二酸化炭素のように比較的高い圧力(例えばサイクルの高圧側で10MPa前後)で運転が行われる冷媒を使用する場合、膨張機構50の軸受にも比較的大きい荷重が懸かり、摺動損失も大きくなりがちである。そのような場面に本発明の適用が特に推奨される。
【符号の説明】
【0133】
11 電動機
12 密閉容器
13 シャフト
13a 第1偏心部
13b 第2偏心部
15 第1シリンダ
15b 吸入ポート
15a 第1ベーン溝
16 第2シリンダ
16d 吐出ポート
16a 第2ベーン溝
17 上軸受
18 下軸受
19,60 第1ピストン
20,61 第2ピストン
21,62 第1ベーン
22,63 第2ベーン
25a 第1吸入空間
25b 第1吐出空間
26a 第2吸入空間
26b 第2吐出空間
27 吸入管
28 吐出管
30 中板
30a 連通孔
31 第1バネ
32 第2バネ
50,70 膨張機構
80 圧縮機構
100,200 ロータリ膨張機
130,131,133,140 凹部
400 膨張機一体型圧縮機
500,600 冷凍サイクル装置
501 圧縮機
502 放熱器
503 蒸発器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1シリンダと、
前記第1シリンダに対して同心円状に配置された第2シリンダと、
前記第1シリンダおよび前記第2シリンダを貫いているシャフトと、
前記第1シリンダ内で回転するように前記シャフトに取り付けられた円環状の第1ピストンと、
前記第2シリンダ内で回転するように前記シャフトに取り付けられた円環状の第2ピストンと、
前記第1シリンダに形成された第1溝と、
前記第1溝に配置され、前記第1シリンダと前記第1ピストンとの間の空間を第1吸入空間と第1吐出空間とに仕切る第1ベーンと、
前記第1溝の位置から前記シャフトの回転方向と反対の回転方向に所定角度進んだ位置において前記第2シリンダに形成された第2溝と、
前記第2溝に配置され、前記第2シリンダと前記第2ピストンとの間の空間を第2吸入空間と第2吐出空間とに仕切る第2ベーンと、
前記第1シリンダと前記第2シリンダとを隔てている中板と、
前記第1吐出空間と前記第2吸入空間とを連通して1つの膨張室を形成するように前記中板に設けられ、前記シャフトの軸方向から平面視したときに前記第1ベーンと前記第2ベーンとによって挟まれた扇形の領域に位置している連通孔と、
前記シャフトを支持する軸受と、
前記シャフトの周方向に関する前記第1ベーンの位置を第1基準位置、前記シャフトの周方向に関する前記第2ベーンの位置を第2基準位置、前記反対の回転方向に沿った前記第1基準位置から前記第2基準位置までの前記所定角度をφ(ただし、0°<φ<90°)と定義したとき、前記第1基準位置から見て前記シャフトの回転方向に90°〜(180°−φ)の範囲に位置しているとともに、他の範囲の部分よりも広い軸受すき間を形成するように前記軸受の軸受面に設けられた凹部と、
を備えた、2段ロータリ膨張機。
【請求項2】
30°<φ<90°を満たすように前記第1シリンダと前記第2シリンダとの相対的な位置関係が定められている、請求項1に記載の2段ロータリ膨張機。
【請求項3】
前記第1ピストンと前記第1ベーンとが互いに一体に形成され、
前記第2ピストンと前記第2ベーンとが互いに一体に形成されている、請求項1または2に記載の2段ロータリ膨張機。
【請求項4】
前記凹部が、前記第1基準位置から見て前記シャフトの回転方向に90°〜(180°−φ)の範囲にのみ設けられている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の2段ロータリ膨張機。
【請求項5】
前記凹部が、前記シャフトの回転軸に対して傾斜した方向、かつ前記シャフトの回転軸と平行な方向に関する前記軸受面の下端から上端に向かって延びている溝の形状を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の2段ロータリ膨張機。
【請求項6】
前記溝状の凹部が、前記シャフトと前記軸受との間のすき間に潤滑油を供給する給油路として機能するように、前記軸受面の下端から上端にわたって形成されている、請求項5に記載の2段ロータリ膨張機。
【請求項7】
前記凹部が、前記シャフトの回転軸と平行な方向に関する前記軸受面の上端から下端または下端から上端に向かって延び、かつ前記軸受面の下端と上端との間で途切れている座繰りの形状を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の2段ロータリ膨張機。
【請求項8】
前記凹部が、(i)前記シャフトの回転軸に対して傾斜した方向、かつ前記シャフトの回転軸と平行な方向に関する前記軸受面の下端から上端に向かって延びている溝の形状を有するとともに、前記軸受面の下端から上端にわたって形成された第1セグメントと、(ii)前記シャフトの回転軸と平行な方向に関する前記軸受面の上端から下端または下端から上端に向かって延び、かつ前記軸受面の下端と上端との間で途切れている座繰りの形状を有する第2セグメントとを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の2段ロータリ膨張機。
【請求項9】
前記第1シリンダの上側に配置された上軸受と、前記第2シリンダの下側に配置された下軸受とが、複数の前記軸受として設けられ、
前記上軸受および前記下軸受に、それぞれ、前記凹部が設けられている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の2段ロータリ膨張機。
【請求項10】
前記上軸受の前記凹部が、(i)前記シャフトの回転軸に対して傾斜した方向、かつ前記シャフトの回転軸と平行な方向に関する前記上軸受の軸受面の下端から上端に向かって延びている溝の形状を有するとともに、前記上軸受の軸受面の下端から上端にわたって形成された第1セグメントと、(ii)前記シャフトの回転軸と平行な方向に関する前記上軸受の軸受面の上端から下端または下端から上端に向かって延び、かつ前記上軸受の軸受面の下端と上端との間で途切れている座繰りの形状を有する第2セグメントとの少なくとも一方を含み、
前記下軸受の前記凹部が、前記第1基準位置から見て前記シャフトの回転方向に90°〜(180°−φ)の範囲かつ当該下軸受の下端と上端との間の領域の全体に形成されている、請求項9に記載の2段ロータリ膨張機。
【請求項11】
作動流体を圧縮する圧縮機と、
前記圧縮機で圧縮された作動流体を放熱させる放熱器と、
前記放熱器で放熱した作動流体を膨張させる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の2段ロータリ膨張機と、
前記2段ロータリ膨張機で膨張した作動流体を蒸発させる蒸発器と、
を備えた、冷凍サイクル装置。
【請求項12】
前記作動流体が二酸化炭素である、請求項11に記載の冷凍サイクル装置。


【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図11E】
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【図11F】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【公開番号】特開2011−163189(P2011−163189A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25982(P2010−25982)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)