説明

2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩の製法

【課題】 簡便な方法にて、高収率で、工業的に好適な2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩の製法を提供する。
【解決手段】 1−ヨード−10−(4−ハロフェニル)デカンと、ジクロロ酢酸エステルとを塩基の存在下で反応させて、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸エステルを得る第1工程;次いで2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸エステルを、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩に変換する第2工程;を含むことを特徴とする、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩の製法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩の製法に関する。2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩は、医薬等の原料や合成中間体として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩の製法としては、例えば、リチウムジイソプロピルアミド(ブチルリチウムとジイソプロピルアミンから系内で調整)の存在下、1−ブロモ−10−(4−クロロフェニル)デカンとジクロロ酢酸とをテトラヒドロフラン中で反応させて、2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸を合成した後、これに、飽和炭酸水素ナトリウムと反応させることによって、収率30%で2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸ナトリウムを製造する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、反応系が繁雑である上に、目的物の収率が極めて低く、また低温での処理が必要であり、2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸塩の工業的な製法としては不利であった。
【特許文献1】特許第3012004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、即ち、上記問題点を解決し、簡便な方法にて、高収率で2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩を得ることができる、工業的に好適な2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩の製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、一般式(1)
【0005】
【化13】

【0006】
(式中、Xは、ハロゲン原子を示す。)で示される1−ヨード−10−(4−ハロフェニル)デカンと、一般式(2)
【0007】
【化14】

【0008】
(式中、Rは、炭化水素基を示す。)
で示されるジクロロ酢酸エステルとを塩基の存在下で反応させて、一般式(3)
【0009】
【化15】

【0010】
(式中、X及びRは、前記と同義である。)
で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸エステルを得る第1工程;
次いで2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸エステルを、一般式(4)
【0011】
【化16】

【0012】
(式中、Xは、前記と同義であり、Aは、アルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子を示し、nは、1/2又は1である。)
で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩に変換する第2工程;
を含むことを特徴とする、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩の製法に関する。
本発明は、また一般式(5)
【0013】
【化17】

【0014】
(式中、Xは、前記と同義であり、Yは、脱離基(ヨウ素原子を除く)を示す。)
で示される1−置換−10−(4−ハロフェニル)デカンとヨウ素化剤とを反応させて、出発化合物である一般式(1)
【0015】
【化18】

【0016】
(式中、Xは、前記と同義である。)
で示される1−ヨード−10−(4−ハロフェニル)デカンを得る第3工程を更に含む、上記の2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩の製法にも関する。
本発明は、また一般式(3)で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸エステルを一般式(4)で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩に変換する上記第2工程が、一般式(3)
【0017】
【化19】

【0018】
(式中、X及びRは、前記と同義である。)
で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸エステルを加水分解して、一般式(6)
【0019】
【化20】

【0020】
(式中、Xは、前記と同義である。)
で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸を得る第2′工程、及び第2′工程の後、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸とアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む化合物とを反応させて、一般式(4)
【0021】
【化21】

【0022】
(式中、X、A及びnは、前記と同義である。)
で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩を得る第2″工程を含む、上記の2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩の製法にも関する。
本発明は、更にまた一般式(1)の特定の化合物である、下記式(7)
【0023】
【化22】

【0024】
で示される1−ヨード−10−(4−クロロフェニル)デカン、及びその製法にも関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の方法により、簡便な方法にて、高収率で2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩を工業的に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(A)第1工程
本発明の製法の第1工程は、一般式(1)で示される1−ヨード−10−(4−ハロフェニル)デカンと、一般式(2)で示されるジクロロ酢酸エステルとを塩基の存在下で反応させて、一般式(3)で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸エステルを得る工程である。
本発明の第1工程において使用する1−ヨード−10−(4−ハロフェニル)デカンは、前記の一般式(1)で示される。その一般式(1)において、Xは、ハロゲン原子であり、具体的にはフッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、好ましくは塩素原子である。
【0027】
本発明の第1工程において使用するジクロロ酢酸エステルは、前記の一般式(2)で示される。その一般式(2)において、Rは、炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基等のアリール基が挙げられるが、好ましくはアルキル基、更に好ましくはメチル基、エチル基、t−ブチル基、特に好ましくはメチル基、t−ブチル基である。なお、これらの基は、各種異性体も含む。
【0028】
前記ジクロロ酢酸エステルの使用量は、1−ヨード−10−(4−ハロフェニル)デカン1モルに対して、好ましくは0.5〜10モル、更に好ましくは0.8〜5.0モルである。
【0029】
本発明の第1工程において使用する塩基としては、例えば、水素化ナトリウム、水素化カリウム等のアルカリ金属水素化物;リチウムジイソプロピルアミド、リチウムヘキサメチルジシラジド等のリチウムアミド化合物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムt−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩が挙げられるが、好ましくはアルカリ金属水素化物、リチウムアミド化合物、更に好ましくは水素化ナトリウム、リチウムヘキサメチルジシラジドが使用される。なお、これらの塩基は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0030】
前記塩基の使用量は、1−ヨード−10−(4−ハロフェニル)デカン1モルに対して、好ましくは0.5〜10モル、更に好ましくは0.8〜5.0モルである。
【0031】
本発明の反応は、溶媒の存在下で行うのが望ましく、使用する溶媒としては、反応を阻害しないものならば特に限定されず、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;N,N′−ジメチルイミダゾリジノン等の尿素類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;スルホラン等のスルホン類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が挙げられるが、好ましくはアミド類、芳香族炭化水素類が使用される。なお、これらの溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0032】
前記溶媒の使用量は、反応液の均一性や攪拌性により適宜調節するが、1−ヨード−10−(4−ハロフェニル)デカン1gに対して、好ましくは0.1〜100g、更に好ましくは0.5〜50gである。
【0033】
本発明の第1工程は、例えば、1−ヨード−10−(4−ハロフェニル)デカン、ジクロロ酢酸エステル、塩基及び溶媒を混合して、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは−100〜100℃、更に好ましくは−80〜80℃、特に好ましくは−15〜80℃であり、反応圧力は特に制限されない。
【0034】
本発明の第1工程により、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸エステルが得られ、反応終了後、単離・精製することなく、次の第2工程で使用することができるが、例えば、濾過、中和、抽出、濃縮、蒸留、再結晶、晶析、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって単離・精製した後、第2工程で使用しても良い。
【0035】
(B)第2工程
本発明の製法における第2工程は、第1工程で得られた一般式(3)で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸エステルを、一般式(4)で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属との塩に変換する工程であり、該ドデカン酸エステルをアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩に変換するための任意の方法を用いることができる。例えば、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸エステルを加水分解して遊離酸としてから、アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩に変換する方法、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸エステルを直接アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩に変換する方法などを用いることができる。なかでも、反応収率の高さ、反応の容易さなどの点から、触媒の存在下、一般式(3)で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸エステルを加水分解して、遊離酸である一般式(6)で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸を得る工程(第2′工程)、及び第2′工程の後、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸とアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む化合物とを反応させて、一般式(4)で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩を得る工程(第2″工程)を含む方法を好ましく用いることができる。
【0036】
上記第2′工程(加水分解反応)は、触媒の存在下、一般式(3)で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸エステルを加水分解して、一般式(6)で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸を得る工程であり、触媒の存在下、水中で行う。使用される触媒としては酸や塩基が望ましく、酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等の鉱酸類;ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機カルボン酸類;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸類が挙げられ、塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;水素化ナトリウム、水素化カリウム等のアルカリ金属水素化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩等が挙げられるが、好ましくは鉱酸類、有機カルボン酸類、アルカリ金属水酸化物、更に好ましくは塩酸、硫酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが使用される。なお、これらの触媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い(しかし、酸と塩基の混合を除く)。
【0037】
前記触媒の使用量は、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸エステル1モルに対して、好ましくは0.01〜20モル、更に好ましくは0.1〜10モルである。
【0038】
第2′工程は、水以外の溶媒を水と混合して使用することもでき、使用する溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール等のアルコール類;ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機カルボン酸類(触媒が塩基の場合を除く);アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;N,N′−ジメチルイミダゾリジノン等の尿素類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;スルホラン等のスルホン類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が挙げられるが、好ましくはアルコール類、カルボン酸類(触媒が塩基の場合を除く)、更に好ましくはメタノール、エタノール、酢酸(触媒が塩基の場合を除く)が使用される。なお、これらの溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
第2′工程においては、触媒として酸を用いる場合、反応系内に存在させる水の量は、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸エステル1gに対して、好ましくは0.001〜100g、更に好ましくは0.01〜50gである。ただし、酸を用いる場合であって、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸エステルがt−ブチルエステルである場合は、水の非存在下でも加水分解反応が進行する場合がある(例えば、実験化学講座第5版、16巻、11頁(日本化学会編))。また、触媒として塩基を用いる場合、反応系内に存在させる水の量は、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸エステル1gに対して、好ましくは0.1〜100g、更に好ましくは0.5〜50gである。
【0039】
前記溶媒の使用量は、反応液の均一性や攪拌性により適宜調節するが、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸エステル1gに対して、好ましくは0.1〜100g、更に好ましくは0.5〜50gである。
【0040】
第2′工程は、例えば、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸エステル、水及び触媒(必要ならば溶媒も使用する)を混合して、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは−10〜200℃、更に好ましくは0〜150℃であり、反応圧力は特に制限されない。
【0041】
第2′工程により、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸が得られ、反応終了後、単離・精製することなく、次の第2″工程で使用することができるが、例えば、濾過、中和、抽出、濃縮、蒸留、再結晶、晶析、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって単離・精製した後、第2″工程で使用しても良い。
【0042】
次に行う第2″工程は、一般式(6)で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸とアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む化合物とを反応させて、一般式(4)で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩を製造する工程である。
【0043】
第2″工程で使用するアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む化合物としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;炭酸水素カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸水素塩;ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;カルシウムメトキシド、カルシウムエトキシド等のアルカリ土類金属アルコキシド;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物が挙げられるが、好ましくはアルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属炭酸水素塩、更に好ましくは炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウムが使用される。なお、これらのアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む化合物は、含有する金属が同じであれば二種以上を混合して使用しても良い。
【0044】
前記アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む化合物の使用量は、それに含まれるアルカリ金属又はアルカリ土類金属の原子価によって異なる。アルカリ金属又はアルカリ土類金属の原子価が2価の場合、その使用量は、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸1モルに対して、好ましくは0.25〜10モル、更に好ましくは0.4〜5モルである。アルカリ金属又はアルカリ土類金属の原子価が1価の場合、その使用量は、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸1モルに対して、好ましくは0.5〜20モル、更に好ましくは0.8〜10モルである。
【0045】
本反応は、溶媒の存在下で行うのが望ましく、使用する溶媒としては、反応を阻害しないものならば特に限定されず、例えば、水;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のカルボン酸エステル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;N,N′−ジメチルイミダゾリジノン等の尿素類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;スルホラン等のスルホン類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が挙げられるが、好ましくはアルコール類、カルボン酸エステル類、ニトリル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、更に好ましくはカルボン酸エステル類が使用される。なお、これらの溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0046】
前記溶媒の使用量は、反応液の均一性や攪拌性により適宜調節するが、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸1gに対して、好ましくは0.1〜100g、更に好ましくは0.5〜50gである。
【0047】
第2″工程は、例えば、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む化合物及び溶媒を混合して、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは−20〜200℃、更に好ましくは0〜150℃であり、反応圧力は特に制限されない。
【0048】
第2″工程により、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩が得られるが、反応終了後、例えば、濾過、抽出、濃縮、蒸留、再結晶、晶析、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって単離・精製される。
【0049】
なお、本発明の方法によって得られる2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩は、前記の一般式(4)で示される。その一般式(4)において、Aは、ナトリウム原子、カリウム原子等のアルカリ金属原子;又はカルシウム原子等のアルカリ土類金属原子を示し、nは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の原子価に応じて1/2又は1である。
【0050】
(C)第3工程
第3工程は、一般式(5)で示される1−置換−10−(4−ハロフェニル)デカンとヨウ素化剤とを反応させて、上記第1工程で使用する、第1工程の出発化合物である一般式(1)で示される1−ヨード−10−(4−ハロフェニル)デカンを製造する工程である。
【0051】
第3工程において使用する1−置換−10−(4−ハロフェニル)デカンは、前記の一般式(5)で示される。その一般式(5)において、Xは、上述したとおりである。また、Yは、脱離基であり、例えば、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子(ヨウ素原子を除く);メタンスルホニルオキシ基、エタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、p−トルエンスルホニルオキシ基等の有機スルホニルオキシ基であり、好ましくはハロゲン原子(ヨウ素原子を除く)、更に好ましくは塩素原子、臭素原子である。
【0052】
一般式(5)の1−置換−10−(4−ハロフェニル)デカンは、例えば、化学反応式(1)
【0053】
【化23】

【0054】
(式中、X及びX′は、同一又は異なっていても良く、それぞれハロゲン原子を示し、Y及びYは、同一又は異なっても良く、それぞれ脱離基を示し、Yは、前記と同義であり、Y又はYのいずれかである。)
で示されるように、1,9−ジ置換ノナンと4−ハロベンジルマグネシウムハライドを反応させることによって、容易に得られる化合物である(参考例1に記載)。
【0055】
第3工程において使用するヨウ素化剤としては、例えば、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム等のアルカリ金属ヨウ素化物;ヨウ化カルシウム、ヨウ化バリウム等のアルカリ土類金属ヨウ素化物;ヨウ化銅(I)、ヨウ化銅(II)、ヨウ化銀(I)等の第IB属金属ヨウ素化物;ヨウ化テトラブチルアンモニウム等の四級アンモニウム塩;ヨウ化テトラフェニルホスホニウム等の四級ホスホニウム塩が挙げられるが、好ましくはアルカリ金属ヨウ素化物、アルカリ土類金属ヨウ素化物、更に好ましくはヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムが使用される。なお、これらのヨウ素化剤は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0056】
前記ヨウ素化剤の使用量は、ヨウ素化剤に含まれるヨウ素原子の数に応じて異なるが、ヨウ素化剤1分子にヨウ素原子2個が含まれる場合、ヨウ素化剤の使用量は、1−置換−10−(4−ハロフェニル)デカン1モルに対して、好ましくは0.25〜10モル、更に好ましくは0.4〜5モルである。また、ヨウ素化剤1分子にヨウ素原子1個が含まれる場合、ヨウ素化剤の使用量は、1−置換−10−(4−ハロフェニル)デカン1モルに対して、好ましくは0.5〜20モル、更に好ましくは0.8〜10モルである。
【0057】
本反応は、溶媒の存在下で行うのが望ましく、使用する溶媒としては、反応を阻害しないものならば特に限定されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピル、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール等のアルコール類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;N,N′−ジメチルイミダゾリジノン等の尿素類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;スルホラン等のスルホン類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類が挙げられるが、好ましくはケトン類、アルコール類、アミド類、尿素類、スルホキシド類、ニトリル類、更に好ましくはケトン類が使用される。なお、これらの溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0058】
前記溶媒の使用量は、反応液の均一性や攪拌性により適宜調節するが、1−置換−10−(4−ハロフェニル)デカン1gに対して、好ましくは0.1〜100g、更に好ましくは0.5〜50gである。
【0059】
第3工程は、例えば、1−置換−10−(4−ハロフェニル)デカン、ヨウ素化剤及び溶媒を混合して、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは−20〜200℃、更に好ましくは0〜150℃であり、反応圧力は特に制限されない。
【0060】
第3工程により、1−ヨード−10−(4−ハロフェニル)デカンが得られ、反応終了後、単離・精製することなく、次の第1工程で出発化合物として使用することができるが、例えば、濾過、中和、抽出、濃縮、蒸留、再結晶、晶析、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって単離・精製した後、第1工程で使用しても良い。
【0061】
なお、第3工程で得られる一般式(1)の化合物のうちXが塩素原子である化合物である1−ヨード−10−(4−クロロフェニル)デカンは、新規な化合物である。この化合物は、一般式(8)
【0062】
【化24】

【0063】
(式中、Yは、脱離基(ヨウ素原子を除く)を示す。)
で示される1−置換−10−(4−クロロフェニル)デカンとヨウ素化剤とを反応させることにより得ることができる。
【実施例】
【0064】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0065】
参考例1(1−ブロモ−10−(4−クロロフェニル)デカンの合成)
攪拌装置、温度計、滴下漏斗及び還流冷却器を備えた内容積10Lのガラス製フラスコに、マグネシウム122g(5.0mol)、ヨウ素0.5g、トルエン1000ml及びテトラヒドロフラン500mlを加えた後、4−クロロベンジルクロリド403g(2.5mol)をトルエン1000mlとテトラヒドロフラン250mlに溶解させた混合液(以下、混合液Aと称する)のうちの75mlを滴下、次いで、1,2−ジブロモエタン4.7g(25mmol)を加え、25℃で5分間攪拌した。反応液のヨウ素による着色が消失した後、トルエン1000mlを加え、液温を15〜25℃に保ちながら、混合液Aの残りをゆるやかに滴下した。その後、同温度で1時間攪拌させた後、テトラヒドロフラン1250mlを加え、4−クロロベンジルマグネシウムクロリド389g(2.1mol)を含む溶液を得た。なお、4−クロロベンジルマグネシウムクロリドは、加水分解後、4−クロロトルエンとしてガスクロマトグラフィーで分析した(内部標準法)。
攪拌装置、温度計、滴下漏斗及び還流冷却器を備えた内容積10Lのガラス製フラスコに、1,9−ジブロモノナン1156g(4.0mol)及びテトラヒドロフラン750mlを加えた後、臭化銅(I)17.9g(125mmol)を加えた。次いで、液温を15〜20℃に保ちながら、該4−クロロベンジルマグネシウムクロリド389g(2.1mol)を含む溶液をゆるやかに滴下し、攪拌しながら18〜19℃で1時間反応させた。反応終了後、反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液1000ml及び水1250mlを加えた後、有機層を分液し、水層をトルエン500mlで抽出した。次いで、有機層とトルエン抽出液を合わせて、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、濾液を減圧下で濃縮した後、濃縮物を減圧蒸留(180〜183℃、133Pa)し、淡黄色液体として、純度88%(ガスクロマトグラフィーによる分析値)の1−ブロモ−10−(4−クロロフェニル)デカン284gを得た(4−クロロベンジルクロリド基準の単離収率:30%)。
1−ブロモ−10−(4−クロロフェニル)デカンの物性値は、以下の通りであった。
【0066】
CI-MS(m/e);330(M+), 332(M+2)
1H-NMR(CDCl3,δ(ppm));1.17〜1.89(16H,m)、2.51〜2.58(2H,m)、3.40(2H,t,J=7.1Hz)、7.01〜7.25(4H,m)
【0067】
実施例1(第3工程;1−ヨード−10−(4−クロロフェニル)デカンの合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積25mlのガラス製フラスコに、参考例1と同様な方法で合成した、純度95%の1−ブロモ−10−(4−クロロフェニル)デカン0.35g(1mmol)、ヨウ化ナトリウム0.23g(1.5mmol)及びアセトン1.05mlを加え、攪拌しながら室温で4時間反応させた。反応終了後、反応液にトルエン5mlを加えた後に水2mlで2回洗浄し、減圧下で濃縮した。濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン)で精製し、淡黄色液体として、純度99%(ガスクロマトグラフィーによる分析値)の1−ヨード−10−(4−クロロフェニル)デカン0.36gを得た(1−ブロモ−10−(4−クロロフェニル)デカン基準の単離収率;94%)。
1−ヨード−10−(4−クロロフェニル)デカンは、以下の物性値で示される新規な化合物である。
【0068】
CI-MS(m/e);378(M+)
1H-NMR(CDCl3,δ(ppm));1.22〜1.86(16H,m)、2.53〜2.59(2H,m)、3.18(2H,t,J=7.1Hz)、7.07〜7.26(4H,m)
【0069】
実施例2(第1工程;2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸t−ブチル[R=t−ブチル基]の合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積25mlのガラス製フラスコに、実施例1と同様な方法で合成した純度90%の1−ヨード−10−(4−クロロフェニル)デカン420mg(1mmol)、トルエン0.75ml及びN,N−ジメチルホルムアミド0.75mlを加えた後、60質量%水素化ナトリウム60mg(1.5mmol)を加えた。次いで、液温を20〜30℃に保ちながら、ジクロロ酢酸t−ブチル278mg(1.5mmol)をゆるやかに滴下し、攪拌しながら同温度で2時間反応させた。反応終了後、反応液にトルエン5ml及び2mol/l塩酸2mlを加え、有機層を分液した。得られた有機層を水2mlで洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を減圧下で濃縮し、淡黄色液体として、純度95%(高速液体クロマトグラフィーによる分析値)の2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸t−ブチル442mgを得た(1−ヨード−10−(4−クロロフェニル)デカン基準の単離収率;96%)。
【0070】
実施例3(第2′工程;2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸の合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積25mlのガラス製フラスコに、実施例2と同様な方法で合成した純度95%の2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸t−ブチル422mg(0.92mmol)、水酸化ナトリウム100mg(2.5mmol)、水0.4ml及びエタノール4mlを加え、室温で1時間反応させた。反応終了後、反応液に2mol/l塩酸1mlを加えた後、トルエン5mlで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を減圧下で濃縮し、無色液体として、純度95%(高速液体クロマトグラフィーによる分析値)の2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸368mgを得た(2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸t−ブチル基準の単離収率;100%)。
【0071】
実施例4(第2″工程:2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸ナトリウム[A=ナトリウム原子、n=1]の合成)
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積50mlのガラス製フラスコに、実施例3と同様な方法で合成した純度95%の2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸1.60g(4.0mmol)、炭酸ナトリウム0.9g(8.5mmol)及び酢酸エチル5mlを加え、攪拌しながら50℃で1時間反応させた。反応終了後、反応液をセライトで濾過した後、酢酸エチル5mlを流し、濾液にアセトニトリル10mlをゆるやかに加え、5〜10℃で1時間攪拌した。析出した結晶を濾過し、アセトニトリル5mlで洗浄した後に減圧下で乾燥させ、白色固体として、純度99%(高速液体クロマトグラフィーによる分析値)の2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸ナトリウム1.49gを得た(2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸基準の単離収率;92%)。
なお、2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸ナトリウムの物性値は以下の通りであった。
【0072】
1H-NMR(DMSO-d6,δ(ppm));1.24〜1.56(16H,m)、2.24〜2.29(2H,m)、2.50〜2.57(2H,m)、7.18〜7.22(2H,m)、7.28〜7.32(2H,m)
【0073】
実施例5(第3、1、2′、2″工程(連続);2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸ナトリウム[A=ナトリウム原子、n=1]の合成)
攪拌装置、温度計、滴下漏斗及び還流冷却器を備えた内容積300mlのガラス製フラスコに、参考例1と同様な方法で合成した、純度88%の1−ブロモ−10−(4−クロロフェニル)デカン37.78g(0.1mol)、ヨウ化ナトリウム22.50g(0.15mol)及びアセトン150mlを加え、攪拌しながら室温で4時間反応させた。反応終了後、反応液にトルエン155mlを加えた後に水60mlで2回洗浄し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を濃縮して、1−ヨード−10−(4−クロロフェニル)デカンを含む濃縮物を得た。
攪拌装置、温度計、滴下漏斗及び還流冷却器を備えた内容積500mlのジャケット付きセパラブルフラスコに、1−ヨード−10−(4−クロロフェニル)デカンを含む濃縮物及びN,N−ジメチルホルムアミド150mlを加えた後、液温を15℃に保ちながら、60質量%水素化ナトリウム6.00g(0.15mol)をゆるやかに加えた。次いで、液温を15〜19℃に保ちながら、ジクロロ酢酸t−ブチル27.75g(0.15mol)を加え、攪拌しながら18℃で3時間反応させた。反応終了後、反応液にトルエン200mlを加え、別途用意した2mol/l塩酸100ml中に、液温を10℃以下に保ちながら、ゆるやかに加えた。有機層を分液し、水100mlで洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を濃縮して、2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸t−ブチルを含む濃縮物を得た。
攪拌装置及び温度計を備えた内容積500mlのガラス製フラスコに、2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸t−ブチルを含む濃縮物、エタノール100ml及び20質量%水酸化ナトリウム水溶液33.00g(0.165mol)を加え、攪拌しながら室温で2時間反応させた。反応終了後、反応液をヘプタン100mlで洗浄した後、液温を5〜10℃に保ちながら、濃塩酸30g(0.3mol)を加えた。水層をトルエン60mlで2回抽出し、抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を濃縮して、2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸を含む濃縮物を得た。
攪拌装置、温度計及び還流冷却器を備えた内容積500mlのガラス製フラスコに、2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸を含む濃縮物、酢酸エチル300ml及び炭酸ナトリウム21.2g(0.20mol)を加え、攪拌しながら40℃で1時間反応させた。反応終了後、反応液をセライトで濾過した後、酢酸エチル30mlを流し、濾液にアセトニトリル300mlをゆるやかに加え、5〜10℃で1時間攪拌した。析出した結晶を濾過し、減圧下で乾燥させ、白色結晶として、純度98%(高速液体クロマトグラフィーによる定量値)の2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸ナトリウム32.7gを得た(1−ブロモ−10−(4−クロロフェニル)デカン基準の単離収率;80%)。
【0074】
実施例6(第1工程;2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸t−ブチル[R=t−ブチル基]の合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積25mlのガラス製フラスコに、実施例1と同様な方法で合成した純度98%の1−ヨード−10−(4−クロロフェニル)デカン388mg(1mmol)、ジクロロ酢酸t−ブチル278mg(1.5mmol)、トルエン1.5ml及びN,N−ジメチルホルムアミド0.5mlを加えた後、液温を−10℃に保ちながら、1mol/lリチウムヘキサメチルジシラジドのテトラヒドロフラン溶液1.2ml(1.2mmol)をゆるやかに滴下し、攪拌しながら同温度で1時間反応させた。反応終了後、反応液にトルエン10ml及び2mol/l塩酸4mlを加え、有機層を分液した。得られた有機層を水5mlで洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を減圧下で濃縮し、無色液体として、純度93%(高速液体クロマトグラフィーによる分析値)の2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸t−ブチル462mgを得た(1−ヨード−10−(4−クロロフェニル)デカン基準の単離収率;99%)。
【0075】
実施例7(第2′及び2″工程;2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸ナトリウム[A=ナトリウム原子、n=1]の合成)
実施例6で得られた2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸t−ブチルを用いて、実施例3及び4と同様な方法で反応を行うと、2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸ナトリウムが高収率で得られる。
【0076】
実施例8(第1工程;2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸メチル[R=メチル基]の合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積25mlのガラス製フラスコに、実施例1と同様な方法で合成した純度99%の1−ヨード−10−(4−クロロフェニル)デカン757mg(2.0mmol)及びN,N−ジメチルホルムアミド3mlを加えた後、60質量%水素化ナトリウム120mg(3.0mmol)を加えた。次いで、液温を15〜25℃に保ちながら、ジクロロ酢酸メチル429mg(3.0mmol)をゆるやかに滴下し、攪拌しながら同温度で1時間反応させた。反応終了後、反応液にトルエン10ml及び2mol/l塩酸5mlを加え、有機層を分液した。得られた有機層を水5mlで洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を減圧下で濃縮し、無色液体として、純度74%(高速液体クロマトグラフィーによる分析値)の2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸メチル1.04gを得た(1−ヨード−10−(4−クロロフェニル)デカン基準の単離収率;98%)。
【0077】
実施例9(第2′及び2″工程;2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸ナトリウム[A=ナトリウム原子、n=1]の合成)
実施例8で得られた2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸メチルを用いて、実施例3及び4と同様な方法で反応を行うと、2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸ナトリウムが高収率で得られる。
【0078】
実施例10(第2′工程;2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸の合成)
攪拌装置及び温度計を備えた内容積25mlのガラス製フラスコに、実施例2と同様な方法で合成した純度95%の2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸t−ブチル453mg(0.99mmol)、酢酸1.2ml及び95質量%硫酸211mg(2mmol)を加え、攪拌しながら60℃で4時間反応させた。反応終了後、反応液を高速液体クロマトグラフィー(絶対定量法)で分析したところ、2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸が372mg生成していた(2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸t−ブチル基準の反応収率;99%)。
【0079】
実施例11(第2″工程;2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸ナトリウム[A=ナトリウム原子、n=1]の合成)
実施例10で得られた反応液を実施例3と同様な方法で処理した後、実施例4と同様な方法で反応を行うと、2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸ナトリウムが高収率で得られる。
【0080】
実施例12(第2′工程;2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸の合成)
実施例10において、酢酸及び硫酸を、塩化メチレン及びトリフルオロ酢酸に変えて、実施例10と同様な反応を行うと、2,2−ジクロロ−12−(4−クロロフェニル)ドデカン酸が高収率で得られる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の方法により、医薬等の原料や合成中間体として有用な化合物である2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩を、簡便な方法にて、高収率で工業的に得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】


(式中、Xは、ハロゲン原子を示す。)で示される1−ヨード−10−(4−ハロフェニル)デカンと、一般式(2)
【化2】


(式中、Rは、炭化水素基を示す。)
で示されるジクロロ酢酸エステルとを塩基の存在下で反応させて、一般式(3)
【化3】


(式中、X及びRは、前記と同義である。)
で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸エステルを得る第1工程;
次いで2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸エステルを、一般式(4)
【化4】


(式中、Xは、前記と同義であり、Aは、アルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子を示し、nは、1/2又は1である。)
で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩に変換する第2工程;
を含むことを特徴とする、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩の製法。
【請求項2】
一般式(5)
【化5】


(式中、Xは、前記と同義であり、Yは、脱離基(ヨウ素原子を除く)を示す。)
で示される1−置換−10−(4−ハロフェニル)デカンとヨウ素化剤とを反応させて、出発化合物である一般式(1)
【化6】


(式中、Xは、前記と同義である。)
で示される1−ヨード−10−(4−ハロフェニル)デカンを得る第3工程を更に含む、請求項1記載の2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩の製法。
【請求項3】
一般式(3)で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸エステルを一般式(4)で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩に変換する第2工程が、一般式(3)
【化7】


(式中、X及びRは、前記と同義である。)
で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸エステルを加水分解して、一般式(6)
【化8】


(式中、Xは、前記と同義である。)
で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸を得る第2′工程、及び第2′工程の後、2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸とアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む化合物とを反応させて、一般式(4)
【化9】


(式中、X、A及びnは、前記と同義である。)
で示される2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩を得る第2″工程を含む、請求項1又は2記載の2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩の製法。
【請求項4】
ヨウ素化剤が、アルカリ金属ヨウ素化物及びアルカリ土類金属ヨウ素化物からなる群より選ばれる少なくともひとつのヨウ素化剤である、請求項2又は3記載の2,2−ジクロロ−12−(4−ハロフェニル)ドデカン酸塩の製法。
【請求項5】
一般式(7)
【化10】


で示される1−ヨード−10−(4−クロロフェニル)デカン。
【請求項6】
一般式(8)
【化11】


(式中、Yは、脱離基(ヨウ素原子を除く)を示す。)
で示される1−置換−10−(4−クロロフェニル)デカンとヨウ素化剤とを反応させることを特徴とする、一般式(7)
【化12】


で示される1−ヨード−10−(4−クロロフェニル)デカンの製法。

【公開番号】特開2008−174452(P2008−174452A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132117(P2005−132117)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】