説明

2,3−ジクロロピリジンの製造方法

【課題】選択性に優れる2,3−ジクロロピリジンの新たな製造方法の提供。
【解決手段】3−クロロピリジン−N−オキシドと、RCOCl(酸クロライド)又はR(CO)O(CO)R(カーボネート)で表されるアシル化剤(式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を表す。)とを反応させる工程(1)と、前記工程(1)で得られた式(2)で示される化合物と、塩素化剤とを反応させる工程(2)とを有することを特徴とする、2,3−ジクロロピリジンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬の製造中間体として有用な2,3−ジクロロピリジンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3−クロロピリジン−N−オキサイドから2,3−ジクロロピリジンを製造する方法については、例えば、非特許文献1に記載されている。その方法は、3−クロロピリジン−N−オキサイドに塩素化剤として塩化ホスホリルを反応させるものであるが、第2245頁の表1から明らかなように、所望の2,3−ジクロロピリジンとその位置異性体である3,4−置換体と3,6−置換体とが47:38:15の比で生成している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Chem. Pharm. Bull., Vol. 36, p.2244-2247 (1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記方法では、2,3−ジクロロピリジンの生成比は満足できるものではなく、また高純度の2,3−ジクロロピリジンに精製することも容易ではない。そこで、選択性に優れる2,3−ジクロロピリジンの新たな製造方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、2,3−ジクロロピリジンの製法について鋭意検討した結果、本発明を見出すに至った。本発明は、以下の通りである。
【0006】
[1] 3−クロロピリジン−N−オキシドと、式(1−1)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を表す。)
又は式(1−2)
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、Rは上記と同義である。)
で表されるアシル化剤とを反応させる工程(1)と、
前記工程(1)で得られた式(2)
【0011】
【化3】

【0012】
(式中、Rは上記と同義である。)
で示される化合物と、塩素化剤とを反応させる工程(2)と
を有することを特徴とする、2,3−ジクロロピリジンの製造方法。
【0013】
[2] Rが、炭素数1〜6のアルキル基である、[1]記載の製造方法。
[3] 式(2)
【0014】
【化4】

【0015】
(式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を表す。)
で示される化合物と、塩素化剤とを反応させる工程
を有することを特徴とする、2,3−ジクロロピリジンの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって、選択性に優れる2,3−ジクロロピリジンの新たな製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の製造方法は、3−クロロピリジン−N−オキシドと、式(1−1)又は式(1−2)で表されるアシル化剤とを反応させる工程(1)と、前記工程(1)で得られた式(2)で示される化合物と、塩素化剤とを反応させる工程(2)とを有することを特徴とする、2,3−ジクロロピリジンの製造方法である。また、本発明の製造方法は、式(2)で示される化合物と、塩素化剤とを反応させる工程とを有することを特徴とする、2,3−ジクロロピリジンの製造方法である。以下、式(2)で示される化合物と、塩素化剤とを反応させる工程を、工程(2)と記す。以下に、それぞれの工程に分けて、本発明を詳述する。
【0018】
<工程(1)>
工程(1)は、3−クロロピリジン−N−オキシドと、式(1−1)又は式(1−2)で表されるアシル化剤とを反応させて、式(2)で示される化合物を製造する工程である。
【0019】
式(1−1)又は式(1−2)におけるRは、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基である。この炭素数1〜12のアルキル基としては、例えば直鎖又は分枝鎖のアルキルが挙げられ、具体的にはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、sec-ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル等が挙げられる。好ましいアルキルとしては炭素数1〜6のアルキルが挙げられ、さらに好ましくは炭素数1〜3のアルキルが挙げられ、特に好ましくはメチルが挙げられる。炭素数6〜20のアリール基としては、フェニル、ナフチル、アントラセニル、フェナントレニル等が挙げられる。好ましいアリール基としてはフェニルが挙げられる。なお、アリールはハロゲン、アルキル等で置換されていても良い。
【0020】
式(1−1)又は式(1−2)のアシル化剤の使用量としては、3−クロロピリジン−N−オキシド1モルに対して、1モル以上を用いることができ、好ましくは、1.2モル〜3モルが用いられる。アシル化剤が液体である場合は、溶媒を兼ねて多量に使用することもできる。
【0021】
反応溶媒としては、反応に影響を与えない溶媒であればいずれでも使用することができる。例えば、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、ベンゼン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒、エーテル、イソブチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホン系溶媒等が挙げられる。アシル化剤が液体である場合は、それを溶媒とすることもできる。溶媒の量としては、3−クロロピリジン−N−オキシドに対して3〜15重量倍の量が挙げられ、好ましくは5〜10重量倍の量が挙げられる。
【0022】
反応温度としては、例えば80℃〜200℃が挙げられ、好ましくは120℃〜170℃が挙げられる。反応の経過を確認して、反応を終了することができる。
【0023】
反応が終了した後、反応液を濃縮して、そのまま次の工程に使用することができる。特に、酸無水物から副生する酸が揮発性である場合は、反応液を濃縮して、揮発性の酸を除去できるため、好ましい。また、反応液を水で洗浄して、有機溶媒で抽出することもできる。有機溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、ベンゼン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル系溶媒、エーテル、イソブチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒等が挙げられる。
【0024】
本工程では、アシルオキシ基が6位よりも2位に選択的に導入される。この6位異性体の分離については、式(2)の化合物を精製して分離することができるが、続く工程(2)の後に精製することで分離することもできる。
【0025】
<工程(2)>
工程(2)は、式(2)で示される化合物と塩素化剤とを反応させて、2,3−ジクロロピリジンを製造する工程である。
【0026】
塩素化剤としては、五塩化リン、塩化チオニル、塩化ホスホリル、三塩化リン、塩化スルフリル、塩素等が挙げられる。好ましいものとしては塩化ホスホリル、三塩化リンが挙げられ、特に好ましいものとしては塩化ホスホリルが挙げられる。これら塩素化剤の使用量としては、例えば式(2)で示される化合物の重量に対して2倍〜15倍の量が挙げられ、好ましくは4倍〜10倍の量が挙げられる。
【0027】
本製造方法において、溶媒を用いることもできる。溶媒としては、反応に影響を与えない溶媒であればいずれも使用しうるが、高沸点の溶媒が好ましい。具体的には、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒等が挙げられ、好ましい例としてはジクロロベンゼン、スルホラン等が挙げられ、特に好ましいものとしてスルホランが挙げられる。溶媒の使用量としては、例えば、式(2)で示される化合物の重量に対して1倍〜15倍の量、好ましくは3倍〜12倍の量が挙げられる。スルホン系溶媒を用いる場合は、後の後処理の抽出効率を上げるために、スルホン系溶媒の使用量は少量に留めるほうが好ましい。
【0028】
本製造方法の反応温度としては、例えば70℃〜200℃が挙げられ、好ましくは80℃〜160℃が挙げられ、より好ましくは90℃〜130℃が挙げられる。反応時間としては、反応の進行及び副生物の量を確認して適宜選択することができるが、例えば、2時間〜15時間、好ましくは3時間〜10時間で選択することができる。
【0029】
上記の反応終了後、2,3−ジクロロピリジンを単離する方法としては、例えば、以下の方法を用いることができる。まず、過剰の塩素化剤を分解させるために、反応混合物をゆっくりと塩基性の水溶液に添加する。その後、水層から2,3−ジクロロピリジンを有機溶媒で抽出する。有機溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、ベンゼン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル系溶媒、エーテル、イソブチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒等が挙げられる。なお、反応液に存在する原料及びその他の副生物を分離するために、水層のpH及び抽出有機溶媒の種類を適宜選択することもできる。常法に従い、乾燥、濃縮を行う。その後、2,3−ジクロロピリジンは、必要に応じて、蒸留することで精製することができる。また、塩酸塩等にして結晶化することで精製することもできる。
【実施例】
【0030】
以下の各反応の実験において、一定量の反応液を高速液体クロマトグラムを用いて下記条件で測定し、その2,3−ジクロロピリジンの面百値を2,3−ジクロロピリジンの生成率として記載した。
[HPLC条件]
カラム:SUMIPAX ODS A−212
流速: 1.0mL/分
検出波長:UV 254nm
移動相:
A液:アセトニトリル
B液:0.1%トリフルオロ酢酸/水
グラジエント条件:
0〜10分間:5%A液/B液
10〜50分間:45%A液/B液までグラジエント
合成例 3−クロロピリジン−N−オキサイドの合成
【0031】
【化5】

【0032】
3−クロロピリジン3.00g(26mmol)をクロロホルム60gに加え、これに75%mクロロ過安息香酸6.69g(29mmol)を加えた。これを室温で終夜攪拌した後に水60mLを加えで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィーで精製することで標記化合物2.6g(収率76%)を得た。
【0033】
実施例1
【0034】
【化6】

【0035】
3−クロロピリジン−N−オキサイド2.00g(15mmol)を無水酢酸20gに加え、還流条件で30時間加熱攪拌した。反応混合物を留去して、得られた残渣をカラムクロマトグラフィーで精製することで標記化合物1.1g(収率43%)を得た。副生成物として2−アセチルオキシ−5−クロロピリジン0.2gを得た。4−アセチルオキシ−5−クロロピリジンの生成は確認できなかった。
【0036】
実施例2−1
高耐圧のガラス容器に2−アセチルオキシ−3−クロロピリジン50mg、塩化ホスホリル500mgを加え、100℃で6時間加熱・攪拌した。放冷後、蒸留水2.5mLおよびアセトニトリル2.5mLを加えて、その溶液を高速液体クロマトグラフィーにて分析することで2,3−ジクロロピリジンの生成率を確認した。
面百値:73%。
【0037】
実施例2−2〜2−3
高耐圧のガラス容器に2−アセチルオキシ−3−クロロピリジン50mg、表1に示す塩素化剤を加え、実施例2−1と同様な操作により反応を行った。放冷後、実施例2−1と同様な操作により2,3−ジクロロピリジンの生成率を確認した。
【0038】
結果を表1に記載する。
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によって、選択性に優れる2,3−ジクロロピリジンの新たな製造方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−クロロピリジン−N−オキシドと、式(1−1)
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を表す。)
又は式(1−2)
【化2】

(式中、Rは上記と同義である。)
で表されるアシル化剤とを反応させる工程(1)と、
前記工程(1)で得られた式(2)
【化3】

(式中、Rは上記と同義である。)
で示される化合物と、塩素化剤とを反応させる工程(2)と
を有することを特徴とする、2,3−ジクロロピリジンの製造方法。
【請求項2】
Rが、炭素数1〜6のアルキル基である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
式(2)
【化4】

(式中、Rは炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を表す。)
で示される化合物と、塩素化剤とを反応させる工程
を有することを特徴とする、2,3−ジクロロピリジンの製造方法。

【公開番号】特開2012−193125(P2012−193125A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56310(P2011−56310)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】