説明

2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの精製方法

本発明は、(1)HFO-1234yf とHFを含む液状混合物を冷却して、HFの濃度の高い上部液相と2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの濃度の高い下部液相とに分液させる工程、及び(2)上記(1)工程で得られた下部液相を蒸留操作に供し、HFO-1234yf とHF を含む混合物を蒸留塔の塔頂部から抜き出し、塔底部から実質的にHFを含まないHFO-1234yf を得る工程、を含むHFO-1234yf の精製方法を提供するものである。本発明によれば、簡便かつ経済的に有利な条件でHFとHFO-1234yf を含む混合物からHFとHFO-1234yfを分離することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は, 2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとフッ化水素を含む混合物から2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学式:CF3CF=CH2で表される2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)は、地球温暖化係数(GWP)が低いことから、カーエアコン用などの冷媒として有望視されている。
【0003】
HFO-1234yfの製造方法としては、各種の方法が知られており、例えば、出発原料として、CCl3CF2CH3を用い、これに対して化学量論量を上回るフッ化水素(HF)を反応させる方法(特許文献1)、CF3CFHCFH2で表されるフルオロカーボンに脱フッ化水素処理を施す方法(特許文献2 )などが知られている。
【0004】
これらの方法では、反応器からの流出物は、目的生成物であるHFO-1234yfだけではなく、HFO-1234yfに対して当モル以上のHFを含む混合物となる。このため、HFO-1234yfを精製して製品とするためには、HFO-1234yfとHFを含む混合物からHFを取り除くことが必要である。その方法としては、HFO-1234yfとHFを含む混合物を水又はアルカリ水溶液で処理してHFを吸収させる方法が知られている。しかしながら、この方法は多量の水やアルカリが必要となり、多量の工業廃液の排出につながり、環境保全の観点からも製造コストの面からも好ましくない。
【0005】
また、HFを除去する他の方法として、HFO-1234yfとHFを含む混合物をH2SO4と反応させて、HFを弗硫酸として回収する方法がある。しかしながら、この方法は、生成する弗硫酸の腐食性が大きく、使用する機器類の材質が高耐食性であることが必要であり、、製造コストの増大につながる。
【0006】
しかも、上記したHFの除去方法では、除去したHFを再び反応に使用するには高い技術を要するため、HFを廃棄する場合だけではなく、回収したHFをリサイクルする場合でも製造コストの増大につながる。
【0007】
このような問題点を解消する方法として、例えば、特許文献3には、HFO-1234yfとの相互溶解性の高い成分を抽出剤として用いることによって、HFO-1234yfとHFとの混合物に含まれるHFとHFO-1234yfとを分離する方法が記載されている。しかしながら、この方法では、HFを除去した後、HFO-1234yfと抽出剤とを分離する工程が必要となり、製造コスト増大の要因となる。また、抽出剤を使用することで、プロセスには不要な不純物の混入の恐れが生じるため、工程管理・品質管理にかかる負担が大きくなる。
【0008】
また、例えば特許文献4には、HFO-1234yfとHFとの混合物を蒸留し、蒸留塔頂部からHFO-1234yfとHFの共沸様混合物を抜出して、蒸留塔底部からHFO-1234yfを得る方法が開示されている。しかしながら、この方法は、塔頂部からHFとともに多量のHFO-1234yfを抜き出すことが必要であり、蒸留塔のサイズが相対的に大きくなり、また、共沸混合物をリサイクルする方法を採用する場合でも、循環するHFO-1234yfとHFの混合物が多量となり、プロセスに使用する機器サイズが相対的に大きくなるため、機器コストやプロセスの運転コストが増大する要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第2996555号公報
【特許文献2】WO 2008/002499A1
【特許文献3】WO 2008/008519
【特許文献4】WO 2009/105512 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、簡便かつ経済的に有利な条件でHFとHFO-1234yf を含む混合物中に含まれるHFO-1234yfからHFを分離する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、HFとHFO-1234yfを主成分とする液状混合物を冷却することによって、HF濃度の高い上部液相とHFO-1234yf濃度の高い下部液相に分離するという従来知られていない現象を見出した。そして、この方法で液液分離して得られたHFO-1234yf濃度の高い下部液相を蒸留することによって、蒸留塔の塔頂部からHFO-1234yfとHFを含む混合物を抜出すことができ、これによって下部液相に含まれるHFを除去して、実質的にHFを含まないHFO-1234yfを塔底部から得ることが出来ることを見出した。特に、蒸留塔の塔頂部から抜き出すHFO-1234yfとHFを含む混合物が、HFO-1234yfとHFの共沸混合物又は共沸様混合物である場合には、少ない抜き出し量で下部液相に含まれるHFを分離することができ、実質的にHFを含まないHFO-1234yfを効率よく塔底部から得ることができることを見出した。一方、蒸留塔の塔頂部から抜き出すHFO-1234yfとHFを含む混合物が、非共沸混合物である場合には、この蒸留操作によって、下部液相に含まれるHFの分離と同時に、下部液相に含まれる不純物の内で、共沸混合物の沸点からHFO-1234yfの沸点の間の沸点を有する不純物を分離することができ、実質的にHFを含まず、且つ、不純物量も減少したHFO-1234yfを効率よく塔底部から得ることが出来ることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて更に研究を重ねた結果完成されたものである。
【0012】
即ち、本発明は下記の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとフッ化水素の混合物から2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを精製する方法を提供するものである。
1. 下記工程を含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの精製方法:
(1)2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとフッ化水素を含む液状混合物を冷却して、フッ化水素の濃度の高い上部液相と2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの濃度の高い下部液相とに分液させる工程、
(2) 上記(1)工程で得られた下部液相を蒸留操作に供し、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとフッ化水素を含む混合物を蒸留塔の塔頂部から抜き出し、塔底部から実質的にフッ化水素を含まない2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを得る工程。
2. (2)工程において蒸留塔の塔頂部から抜き出される2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとフッ化水素を含む混合物が、共沸混合物又は共沸様混合物である上記項1に記載の方法。
3. (2)工程において蒸留塔の塔頂部から抜き出される2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとフッ化水素を含む混合物が、非共沸混合物である上記項1に記載の方法。
4. (1)工程における2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとフッ化水素を含む液状混合物を冷却する温度が、−5℃以下である上記項1〜3のいずれかに記載の方法。
5. 蒸留塔の塔頂部から抜き出された2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとフッ化水素を含む混合物が加えられた2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとフッ化水素を含む液状混合物に対して、(1)工程の冷却操作を行う上記項1〜4のいずれかに記載の方法。
6. (1)工程において冷却される2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとフッ化水素を含む液状混合物が、更に、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含むものである上記項1〜5のいずれかに記載の方法。
7. (2)工程において得られた塔底成分を蒸留操作に供して、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを除去する工程を更に含む、上記項6に記載の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの精製方法。
【0013】
本発明の処理対象物
本発明の処理対象物は、化学式:CF3CF=CH2で表される2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)と化学式:HFで表されるフッ化水素を含む液状混合物である。この液状混合物の種類については特に限定はなく、例えば、フルオロカーボンの脱フッ化水素処理によって得られる生成物、クロロフルオロハイドロカーボンのフッ素化処理によって得られる生成物などを処理対象物の一例として挙げることができる。更に、これらの処理を組み合わせて得られる生成物も処理対象物とすることができ、これら生成物を蒸留したものも処理対象とすることができる。
【0014】
処理対象物におけるHFO-1234yfとHFの比率については特に限定はなく、どの様な比率の混合物を用いた場合であっても、後述する液液分離工程において、冷却温度を調整することによって、フッ化水素に富む上部液相とHFO-1234yfに富む下部液相に分離させることができる。
【0015】
また、HFO-1234yfとHFを含む混合物には、後述する液液分離工程と蒸留工程の作用を阻害しない限り、その他の成分が含まれていても良い。例えば、CF3CCl=CH2で表される2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)のフッ素化処理によってHFO-1234yfを製造する際に、生成物であるHFO-1234yfの他に、原料のHCFO-1233xfとHFを含む混合物が得られる。このようなHFO-1234yf、HCFO-1233xf及びHFを含む混合物についても、本発明の処理対象とすることができる。
【0016】
その他の本発明の処理対象物の例としては、CH2ClCCl=CCl2で表される1,1,2,3-テトラクロロプロペン(HCFO-1230xa),CCl2FCCl=CH2で表される2,3,3-トリクロロ-3-フルオロプロペン(HCFO-1231xf),CH2ClCCl=CClFで表される1,2,3-トリクロロ-1-フルオロプロペン(E,Z-HCFO-1231xb),CH2FCCl=CCl2で表される1,1,2-トリクロロ-3-フルオロプロペン(HCFO-1231xa),CCl2FCH=CHClで表される1,3,3-トリクロロ-3-フルオロプロペン(E,Z-HCFO-1231zd),CClF2CCl=CH2で表される2,3-ジロロ-3,3-ジフルオロプロペン(HCFO-1232xf),CH2ClCCl=CF2で表される2,3-ジクロロ-1,1-ジフルオロプロペン(HCFO-1232xc),CCl3CHClCH2Clで表される1,1,1,2,3-ペンタクロロプロパン(HCC-240db),CCl2FCHClCH2Clで表される1,1,2,3-テトラクロロ-1-フルオロプロパン(HCFC-241db),CClF2CHClCH2Clで表される1,2,3-トリクロロ-1,1-ジフルオロプロパン(HCFC-242dc),CF3CHClCH2Clで表される1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロパン(HCFC-243db),CF3CClFCH3で表される2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパン(HCFC−244bb),CF3CHFCH2Fで表される1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245eb),CF3CF2CH3で表される1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン(HFC−245cb),CF3CH3で表されるトリフルオロエタン,3,3,3-トリフルオロプロピン,CF3CF=CHFで表される1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(E,Z-HFO-1225ye),CF3CH=CF2で表される1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225zc),CF3CH=CHFで表される1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(E,Z-HFO-1234ze),CF3CH=CH2で表される3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1243ze),CHF2CF3で表される1,1,2,2,2-ペンタフルオロエタン(HFC-125),CF2H2で表されるジフルオロメタン(HFC-32),CHClF2で表されるクロロジフルオロメタン(HCFC-23)等を含む混合物を挙げることができる。
【0017】
2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとフッ化水素の分離方法
以下、HFO-1234yfとHFを含む混合物を処理対象とする場合の処理工程のフロー図を示す図1に基づいて本発明方法を具体的に説明する。
【0018】
(1)液液分離工程
図1に示す方法では、まず、HFO-1234yfとHFを含む混合物を分液槽Aに供給し、該混合物を冷却して、HF濃度の高い上部液相とHFO-1234yf濃度の高い下部液相とに分離させる。
【0019】
冷却温度については特に限定的ではなく、冷却温度を低くすることによって、下部液相に含まれるHF濃度を低くすることができる。
【0020】
図2に、HFO-1234yfとHFからなる混合物の液液平衡曲線を示す。図2では、実測値をプロットで示し、実線は、実測値をもとにNRTL式を用いて近似した結果を示す。図2から明らかなように、HFO-1234yf濃度の高い下部液相を分離させるためには、冷却温度ができるだけ低いことが好ましく、通常はHFO-1234yfとHFの相分離が認められる−5℃程度以下とすることが好ましく、−20℃以下程度とすることがより好ましい。また,冷却温度が低いほど相分離の緩和時間も短くなる傾向にあるため、冷却温度が低い方が効率的に液液分離を行うことができる。但し、過度に冷却温度を低くすると、冷却に要するエネルギーが多くなるので、経済性を考慮すると、−60℃程度までの冷却温度とすることが好ましい。 この様な温度範囲に冷却することによって、HFのモル分率が0.09〜0.25程度の範囲のHFO-1234yfとHFからなる混合液相(下部液相)を得ることができる。
【0021】
この工程で得られるHFに富む上部液相は、分液槽Aから抜き出して、例えば、HCFO-1233xfをフッ素化処理してHFO-1234yfを製造する工程における原料として再利用することができる。
【0022】
(2)蒸留工程
次いで、上記した方法で得られる下部液相を蒸留塔Bに送って蒸留処理を行う。HFO-1234yfとHFは、最低共沸混合物を形成する。また,本発明を実施する際には,通常,液液分離工程では、下部液相が、最低共沸混合物と比較して、HFO-1234yfを多く含むよう操作する。このため、蒸留工程では、HFO-1234yfとHFからなる混合物は、HFO-1234yfより沸点の低い混合物となり、蒸留条件によって、HFO-1234yfとHFからなる共沸又は共沸様混合物、或いは、HFO-1234yfとHFからなる非共沸混合物として、塔頂部から連続的に抜き出すことができる。
【0023】
上記した蒸留操作によって、HFO-1234yfとHFからなる共沸又は共沸様混合物、或いはHFO-1234yfとHFからなる非共沸混合物を塔頂部から連続的に抜き出すことにより、塔頂部から塔底部に向かってHF濃度が徐々に減少し、塔底部において実質的にHFを含まない混合物が得られる。
【0024】
ここで、共沸混合物とは、混合液体と平衡にある蒸気が混合液体と同一の組成を示す混合物を意味し、共沸様混合物とは、混合液体と平衡にある蒸気が混合液体と類似の組成を示す混合物であって、共沸混合物と実質的に同じ物性を有する混合物を意味する。
【0025】
図3は15℃におけるHFO-1234yfとHFの混合物の気液平衡曲線(xy線図)を示すグラフであり、HFO-1234yfとHFからなる混合物の共沸組成、共沸様組成、及び非共沸組成の一例を示すものである。このグラフは、実測値を測定しWilson式を用いてシミュレーションした結果を示すものである。HFO-1234yfとHFは、大気圧下では、HFO-1234yf:HF=95.4:4.6(重量比)で共沸混合物となり、HFO-1234yf:HF=92.2:7.8 〜 99.3 : 0.7(重量比)で共沸様混合物となる。本発明方法では、HFO-1234yfとHFとの混合物が共沸組成の場合と共沸様組成の場合において、実質的に同じ効果を得ることができる。
【0026】
上記した蒸留工程において、塔頂部から共沸又は共沸様混合物を抜き出す場合には、非共沸様混合物を塔頂部より抜き出す場合と比較すると、同量のHFを分離するために、より少量のHFO-1234yfを抜き出せばよく、これにより実質的にHFを含まないHFO-1234yfを効率よく塔底部から得ることができる。
【0027】
本発明方法によれば、HFO-1234yfとHFを含む混合物に、HFO-1234yfとHF以外の成分(以下、「不純物」ということがある)が含まれる場合にも、上記した方法と同様の方法でHFO-1234yfとHFを分離して、HFO-1234yfを精製することができる。この場合、不純物は、濃度や蒸留処理の条件によって、蒸留塔の塔頂成分又は塔底成分に含まれることになる。
【0028】
HFO-1234yfとHFを含む混合物に不純物が含まれる場合の内で、特に、HFO-1234yfとHFの共沸混合物の沸点とHFO-1234yfの沸点との間の沸点を有する不純物が含まれる場合には、蒸留工程において塔頂部からHFO-1234yfとHFを含む非共沸混合物を抜き出すことによって、該非共沸混合物の抜き出しと同時に、この不純物を抜き出すことができ、純度の高いHFO-1234yfを容易に得ることができる。この様な共沸混合物の沸点とHFO-1234yfの沸点との間の沸点を有する不純物としては、トリフルオロエタン、3,3,3-トリフルオロプロピンなどを例示できる。
【0029】
本発明方法では、塔底部から得られたHFO-1234yfを主成分とする混合物は、例えば、蒸留、分液、抽出、抽出蒸留等の通常の処理を行うことによって精製して製品とすることができる。
【0030】
図4は、処理対象とするHFO-1234yfとHFの混合物にHCFO-1233xfが含まれる場合の処理工程を示すフロー図である。この場合には、分液槽Aにおいて、液液分離して得られたHFO-1234yfに富む下部液相には、HCFO-1233xfが含まれる。
【0031】
この下部液相を蒸留塔Bに送って蒸留処理を行うことによって、HFO-1234yfとHFを含む混合物が塔頂から連続的に除去される。HCFO-1233xfについては、混合液中の濃度や蒸留塔の運転条件によって、塔頂成分及び塔底成分のいずれか一方又は両方に含まれることがある。図4は、HCFO-1233xfが塔頂成分と塔底成分の両方に含まれる場合のフロー図である。
【0032】
塔底成分として得られたHFO-1234yfとHCFO-1233xfを含む混合物については、一般的な蒸留や抽出蒸留などを行うことによって、HCFO-1233xfを分離して、HFO-1234yfを精製することができる。この工程で得られるHCFO-1233xfについては、例えば、HCFO-1233xfのフッ素化反応における原料として再利用することができる。
【0033】
本発明方法によれば、上記したいずれの場合にも、液液分離工程で得られるHFの含有量が少ない混合物を蒸留工程の処理対象とするために、除去すべきHF量が少なく、蒸留塔の運転負荷を低減し、処理装置の規模を相対的に小さくすることができる。
【0034】
また、塔頂部から得られるHFO-1234yfとHFを含む混合物は、例えば、分液槽Aに再度送って、液液分離処理の原料の一部とすることによって、本発明の処理対象物として再度利用することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の方法によれば、簡便かつ経済的に有利な条件でHFとHFO-1234yf を含む混合物からHFとHFO-1234yfを分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、HFO-1234yfとHFからなる混合物を処理対象とする場合の本発明方法の一例を示すフロー図である。
【図2】図2は、HFO-1234yfとHFからなる混合物の液液平衡曲線である。
【図3】図3は、HFO-1234yfとHFからなる混合物の15℃における気液平衡曲線(xy線図)である。
【図4】図4は、HFO-1234yf、HCFO-1233xf及び HFからなる混合物を処理対象とする場合の本発明方法の一例を示すフロー図である。
【図5】図5は、実施例1におけるHFO-1234yf及びHFからなる混合物の処理工程を示すフロー図である。
【図6】図6は、実施例2におけるHFO-1234yf及びHFからなる混合物の処理工程を示すフロー図である。
【図7】図7は、実施例3におけるHCFO-1233xf、HFO-1234yf及びHFを含む混合物の処理工程を示すフロー図である。
【図8】図8は、実施例4におけるHCFO-1233xf、HFO-1234yf及びHFを含む混合物の処理工程を示すフロー図である。
【図9】図9は、比較例1におけるHCFO-1233xf、HFO-1234yf及びHFを含む混合物の処理工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0038】
実施例1
下記の方法でHFO-1234yf及びHFを含む混合物からHFを分離した。この方法を図5に示すフロー図に基づいて説明する。
【0039】
下記表1に示すHFO-1234yf及びHFの混合ガス(S1)を凝縮した後、分液槽に導入した。分液槽では、該液状混合物を-40℃に冷却して、HFを主成分とする第1フラクション(F1)と、HFO-1234yfを主成分とする第2フラクション(F2)に分液させた。
【0040】
第2フラクション(F2)は、蒸留塔に送って、蒸留操作を行い(塔頂温度:28℃,圧力:0.7MPaG)、残留するHFを除去した。塔頂部からは、HF及びHFO-1234yfからなる混合物を抜き出して第3フラクション(F3)として分液槽にリサイクルし、実質的にHFを含まない第4フラクション(F4)を塔底から抜きだして次工程に送った。
【0041】
上記各工程における成分の組成を表1に示す。
【0042】
このプロセスにより、従来技術で用いられるような腐食性の高い硫酸を用いた方法を使用することなく、HFO−1234yfとHFを分離することが可能である。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例2
下記の方法でHFO-1234yf及びHFを含む混合物からHFを分離した。この方法を図6に示すフロー図に基づいて説明する。
【0045】
下記表2に示すHFO-1234yf及びHFの混合ガス(S2)を凝縮した後、分液槽に導き、-40℃に冷却して、HFを主成分とする第5フラクション(F5)と、HFO-1234yfを主成分とする第6フラクション(F6)とに分液させた。
【0046】
第6フラクション(F6)は、蒸留塔に送って蒸留操作を行い(塔頂温度:28℃,圧力:0.7MPaG)、残留するHFを除去した。蒸留工程では、HF及びHFO-1234yfからなる混合物を共沸様組成で塔頂から抜き出して第7フラクションとして分液槽にリサイクルし、実質的にHFを含まない第8フラクション(F8)を塔底から抜きだして、次工程に送った。
【0047】
このプロセスにより、従来技術で用いられるような腐食性の高い硫酸を用いた方法を使用することなく、1234yfとHFを分離することが可能である。
【0048】
【表2】

【0049】
実施例3
下記の方法でHCFO-1233xf、HFO-1234yf及びHFを含む混合物からHFを分離した。この方法を、図7に示すフロー図に基づいて説明する。
【0050】
まず、下記表3に示すHCFO-1233xf、HFO-1234yf及びHFの混合ガス(S3)を凝縮して液状混合物とし、これを分液槽に導入した。分液槽では、該液状混合物を−40℃に冷却することによって、HFを主成分とする上部液相(F9)と、HCFO-1233xf及びHFO-1234yfを主成分とする下部液相(F10)の二相に分液させた。
【0051】
下部液相(F10)については、蒸留塔に送って蒸留操作を行い(塔頂温度:28℃,圧力:0.7MPaG)、HFO-1234yf及びHFを含む塔頂成分を抜き出して分液槽にリサイクルし、実質的にHFを含まない塔底成分を塔底から抜きだし、次工程に送った。
【0052】
上記各工程における成分の組成を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
実施例4
下記の方法でHCFO-1233xf、HFO-1234yf及びHFを含む混合物からHFを分離した。この方法を図8に示すフロー図に基づいて説明する。
【0055】
まず、下記表4に示すHFCO-1233xf、HFO-1234yf及びHFの混合ガスを凝縮した後、分液槽に導き(S4)、-40℃に冷却して、HFを主成分とする第13フラクション(F13)と、HFCO-1233xf及びHFO-1234yfを主成分とする第14フラクション(F14)とに分液させた。
【0056】
第14フラクション(F14)については、蒸留塔に送って蒸留操作を行い(塔頂温度:28℃,圧力:0.7MPaG)、残留するHFを除去した。蒸留工程では、HFとHFO-1234yfからなる混合物を共沸様組成で塔頂部から抜き出して第15フラクション(F15)として分液槽にリサイクルし、実質的にHFを含まない第16フラクション(F16)を塔底から抜きだし、次工程に送った。
【0057】
上記各工程における成分の組成を表4に示す。
【0058】
このプロセスにより、従来技術で用いられるような腐食性の高い硫酸を用いた方法を使用することなく、1234yf及び1233xfとHFとを分離することが可能である。
【0059】
【表4】

【0060】
上記表3及び表4から明らかなように、実施例3及び4の方法によれば、HCFO-1233xf、HFO-1234yf及びHFを含む混合液に対して、液液分離処理と蒸留処理を施すことによって、蒸留塔の塔底から実質的にHFを含まない、HCFO-1233xfとHFO-1234yfの混合物を得ることができた。この方法で得られたHFCO-1233xfとHFO-1234yfを含む混合物は、蒸留などの方法によって、容易にHCFO-1233xfとHFO-1234yfとに分離することができる。
【0061】
この方法によれば、従来技術で用いられるような腐食性の高い硫酸を用いることなく、1234yf、HCFO-1233xf及びHFを含む混合物から、各成分を分離することが可能である。
【0062】
比較例1
図9に示すフロー図に従って、HCFO-1233xf、HFO-1234yf及びHFを含む液状混合物(S1’)に対して、液液分離操作を行うことなく、蒸留処理(塔頂温度:28℃,圧力:0.7MPaG)を行い、塔頂成分(F1’)と塔底成分(F2’)とに分離した。上記工程における成分の組成を表5に示す。
【0063】
【表5】

【0064】
表5から明らかなように、HCFO-1233xf、HFO-1234yf及びHFを含む液状混合物について、直接蒸留操作を行うだけでは、完全にはHFをHFO-1234yfから分離することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を含む2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの精製方法:
(1)2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとフッ化水素を含む液状混合物を冷却して、フッ化水素の濃度の高い上部液相と2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの濃度の高い下部液相とに分液させる工程、
(2) 上記(1)工程で得られた下部液相を蒸留操作に供し、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとフッ化水素を含む混合物を蒸留塔の塔頂部から抜き出し、塔底部から実質的にフッ化水素を含まない2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを得る工程。
【請求項2】
(2)工程において蒸留塔の塔頂部から抜き出される2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとフッ化水素を含む混合物が、共沸混合物又は共沸様混合物である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(2)工程において蒸留塔の塔頂部から抜き出される2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとフッ化水素を含む混合物が、非共沸混合物である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(1)工程における2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとフッ化水素を含む液状混合物を冷却する温度が、−5℃以下である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
蒸留塔の塔頂部から抜き出された2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとフッ化水素を含む混合物が加えられた2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとフッ化水素を含む液状混合物に対して、(1)工程の冷却操作を行う請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
(1)工程において冷却される2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとフッ化水素を含む液状混合物が、更に、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを含むものである請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
(2)工程において得られる塔底成分を蒸留操作に供して、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンを除去する工程を更に含む、請求項6に記載の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの精製方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2013−510075(P2013−510075A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521902(P2012−521902)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【国際出願番号】PCT/JP2010/070258
【国際公開番号】WO2011/059078
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】